くわい(慈姑)

戦前までは"くわゐ"と書きました。一年に一度、おせち料理でお目にかかる不思議な食材。 日本古来の伝統食材というイメージがありますが、室町時代までクワイと呼ばれていた物は、 実は現在おせち料理に入っているクワイとは全く別種のクログワイ(烏芋)だったと考えられます。 時代とともに同じ名前が別種の食材を指すようになった例です。 Kuwai

品種 クログワイ−"Eleocharis kuroguwai"カヤツリグサ科ハリイ属。 烏芋(からすいも)、田唐芋(たがらいも)とも呼ばれます。 日本では関東、北陸から九州の池・沼の岸辺に自生しているストロー状の草。芋の方は中身は白いのですが表面は黒っぽい。 生食もされたようです。
中国料理でよく炒め物に使われるシャリシャリした歯ごたえの"クワイ"は、近縁のイヌクログワイ "Eleocharis dulcis"(オオクログワイ、シログワイとも呼ばれるので混乱します)です。

クワイ−"Sagittaria trifolia"オモダカ科オモダカ属の多年生の水生植物。 オモダカ(面高)は全国の水田で普通に見られた雑草です。
世界中の温帯・熱帯に広く分布していますが、食用として改良を加えたのは中国です。 麦畑の雑草だった大根を食用に改良したのも中国。この知恵と努力には本当に頭が下がります。 白クワイ、青クワイ、吹田クワイの3種があります。

クワイが別種の植物の名前になった経緯 Kuwai_Kurokuwai 平安時代に書かれた"和名抄"(倭名類聚抄923〜930)、 室町時代の"庭訓往来"(1350頃)などに「烏芋−久和井」などと併記されているように、 室町時代まではクワイは烏芋(クログワイ−"Eleocharis Kuroguwai"の事を指していたようです。 やがて"料理物語"(1643(江戸時代))、"毛吹草"(1645)などで「クワイにクロとシロの2種類がある」 と書かれる時代を経て、"和漢三才図会"(1712)で、「烏芋−クロクワイ」「慈姑−シロクワイ」と整理されるに至ります。 (右図)やがて、この慈姑が単にクワイと呼ばれるようになっていきます。
クワイ"Sagittaria trifolia"は奈良時代には中国から渡来していた(慈仙と呼ばれていた)ようですが、 食用として普及したのは江戸時代になってから(1600年)です。
名前の由来 葉っぱが大きな矢の形で、鍬(クワ)に似ている所から、鍬芋(クワイモ)がなまってクワイとなったという説もありますが、 室町時代までのクワイは葉っぱがストロー状の烏芋でしたのでこの説では説明がつきません。
烏芋は藺草(ゐぐさ)に似ているので"食える藺"という意味でクワイになったという説の方が正しそうです。 かなで"くわゐ"と書くのはこの名残なのでしょう。名前の由来から考えても昔のクワイは烏芋だったと考える 方が自然です。
漢字の"慈姑"は種球のまわりの地下茎の先端に芋のついた状態が、 慈悲深い姑が子供に乳をあげている姿に似ていることから来ていると言われます。(本当かな???)
大きな芽が出る。必ず芽が出るというところが縁起物の理由。
旬と産地 12月〜2月。おせち料理のために12月に需要が集中します。青クワイは埼玉、 白クワイは広島が主な産地。
成分 豆類を除くとクワイは野菜の中で最もタンパク質の多い野菜の一つです。(100g中6.3g)でも、そんなに大量に食べるものではないので・・・あんまり関係ありませんよね。
調理法 含め煮が一般的。アクが強いので、最初に米のとぎ汁で5〜6分下ゆでしてから使います。 こうする事で煮上がった時に色が悪くなるのを防げます。煮ると自然に黄色くなりますが、 さらに黄色くしたい時にはクチナシで着色します。芽は縁起物なので切り落とさずに調理しましょう。
クワイチップスを作る時は、薄く切った後で4〜5時間水にさらしてアクを抜いてから揚げましょう。
目利き 小ぶりの物の方が美味。縁起物としては芽が真っ直ぐに伸びている物がありがたがられる。(なんとなく理解できますね。)
市場 青クワイは主に埼玉で、白クワイは主に広島で栽培されています。


食材事典のホームへもどる



制作日:2005年1月9日
更新日:2006年3月12日
上田 泰久