いわし(鰯)

Maiwashi

近海の天然ものが現代でも豊富に獲れる魚です。鮮度落ちが早いのですが、 輸送技術の進歩で鮮度の高い鰯が店頭に並ぶようになりました。 昔から色々な調理法が工夫されてきた魚です。ぜひ色々な料理を試みましょう。 近代(江戸時代以後)の漁業を発展させる原動力となり、また肥料として木綿栽培の効率を上げて、 日本人の生活改善に貢献してきた点も記録されるべきでしょう。 (写真は真鰯)

品 種
  • 真鰯(まいわし)−ニシン科。1列か2列に黒斑が7個以上あるので、ナナツボシとも言われます。 最も漁獲量の多い鰯で全国的に広く分布していますが、特に太平洋側で多く採れます。 15cm程度のものを中羽、20cm程度は大羽と呼ばれます。旬になると脂がのっておいしい。      
  • 片口鰯(かたくちいわし)−カタクチイワシ科。口の上部より下部が小さいので片口鰯と言われています。 身に歯ごたえがあるので、刺し身にした時には3種の鰯の中で一番おいしい。中部日本でまんべんなく採れますが、 特に瀬戸内海での漁獲が多くなっています。      
  • Urume 潤目鰯(うるめいわし)−ニシン科。目が潤んでいるように見えるので潤目鰯と呼ばれます。 脂肪分が少ないので干物にむきます。日本海側で多く採れます。
産地 と旬 関東では九十九里浜の真鰯が有名です。真鰯の旬は5月から10月、当然最初は中羽、夏になると大羽になります。 片口鰯、潤目鰯の旬は5月から8月です。
調理方法 鰯の身は金気を嫌うので、包丁を使わないで指でさばきます。背骨を身から離す時に、 できるだけ小骨も一緒にとるようにします。真鰯、片口鰯とも、旬で鮮度がよければ刺し身。丸ごと塩焼きにしたり、 煮物にしてもおいしいです。酒蒸し、味噌を加えたツミイレもおいしいです。生姜、梅干、味噌、 酒などを使って生臭さを消すように調理するのがコツです。 目刺し、ミリン干し、しらす、などの干物にしたり、煮干や鰯節(特に潤目節) などのダシ用の乾燥加工品にしたりして、広く利用されます。 「鰯は7度洗うとタイの味」と言われますがウソです。洗いすぎると旨み成分が抜けてまずくなります。  
目利き 一般的な新鮮な魚の見分け方に加えて、丸々と太ったものを選びましょう。 また身が固いもの(死後硬直中)が新鮮です。(死後硬直前のものは産地でも手に入らないと思います。)  
歴史と市場 漁業が経済活動と言える規模になった(つまり網を使う大規模な漁業が全国に普及し、 都市部で魚の流通が可能になった)室町時代から、鰯は沿岸漁業の主軸でした。 江戸時代になると地引網が普及して大量に漁獲されるようになり、 干鰯が当時三河を中心に盛んになった木綿の栽培のための肥料に大量に使われるようになります。 (綿の肥料に干鰯が良いという事です。) この頃から食用よりも肥料に使われるほうが多い魚でした。
しかし真鰯は数十年単位で豊漁・不漁の差が激しいので、おおぜいの漁師の移住を強いたり、 鰯を肥料に使っていた換金作物(木綿を始め、藍、菜種、タバコ、サトウキビなど)の生産にも影響を与えました。 あてにしていた鰯の肥料が足りなくなって、北前船(きたまえぶね)でニシンを取り寄せたりと、 とにかく経済的に大きな影響を与えました。。

現在の漁獲高:
  • 真鰯−2000年に15万トン、これは88年の449万トンの97%減です。 現在は数十年単位の不漁期にあたっています。
  • 片口鰯−2000年に38万トン。年毎の増減が激しいのですが、長い目でみて横ばいです。
  • 潤目鰯−2000年に2万トン。1998年までは比較的安定していましたが、それ以後半減しています。
 
雑学 昔から多獲魚で、鮮度落ちが早く生臭みが出るので、下賎な魚として扱われてきたようです。 平安時代の貴族は鰯を食べなかったが、紫式部は鰯を好んだという事です。ある日、 夫の藤原宣孝に隠れて食べていたのを見つけれら、なじられた時に鰯はおいしい魚だという短歌を作っています。  


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制作日:2001年9月8日
更新日:2003年6月1日
上田 泰久