さといも(里芋)

Satoimo   料亭で食べる洗練された一品であっても、里芋には土の香りが残っていて、 食物が大地の恵みである事を思い出させてくれます。 太古の昔に人々が豊穣を祝ったことに思いを馳せる・・・そんな力を秘めた食材です。 親芋から子芋、孫芋がどんどんできるので、子孫繁栄の象徴として縁起物あつかいされてきました。 秋の名月には団子を供えますが、これは昔里芋を供えていたなごりです。

品種 サトイモ科サトイモ属。山で採れる山芋に対して、里で採れるので里芋。芋は茎が太ったものです。 畑でも田んぼでも栽培され、アジアを中心に広い範囲で200種以上が作られて人々の食生活を支えています。 もともと熱帯性の植物なので、寒さには弱く、東北地方が栽培の北限です。 浅く植えると小さな子芋がたくさんでき、深く植えると子芋の数は少ないのですが、一個一個が大きくなります。
原産地 インドからマレーシアにかけての南アジアが原産地。 ミクロネシアなど南方に広がったタロイモはその野生種に近いと言われています。 タロイモは荒れた地でも簡単に栽培でき栄養も豊富なので、ミクロネシアでは重要な作物になっています。 サトイモのほうは、寒さに適応してアジア北部に広がった品種で、中国では紀元前から栽培の記録があります。 日本では稲作が始められたのと同時期かさらに古く、縄文中期から栽培されていたと考えられています。 つまり古代の日本では、サトイモ栽培と稲作が共存していましたが、やがてほとんどが稲作になっていったという事です。 連作ができないサトイモに対し、 一度田んぼを作るといくらでも連作ができる稲作の方が日本の国土にあっていたからでしょう。 しかし自然条件などで稲作が難しい地域(八丈島など)では、 つい最近まで食生活のかなりの部分をサトイモにたよっていました。
種類 植え付けた親芋を食べる種類、親芋からできる子芋を食べる種類、親芋・子芋の両方を食べる種類、 及び茎を食べる種類に大別されます。

●小芋を食べる種類
  • 土垂(どだれ)−葉の先端が長く伸び、地上に垂れ下がるので土垂と言われます。 ぬめりが多く美味しい。現在、関東地方では最も多く食べられています。
  • 石川早生(わせ)−大阪の羽曳野(はびきの)近辺の石川村で栽培されていました。直径3cmと小型で、 ヌメリが多く美味しいサトイモです。今では広く全国で栽培されています。衣被(きぬかつぎ)に最適。
●親芋・子芋の両方を食べる種類
  • セレベス−一部が赤みがかっています。インドネシアのセレベス島から移植されました。ヌメリが少なくしっかりした肉質で、 煮物にむきます。一時期、市場の人気品種でした。 Satoimo
  • 八頭(やつがしら)−(写真右)植え付けた親芋があまり成長せず、まわりにできた小芋の成長が早いので、 親芋を中心に小芋が合体した独特の形になります。くっついた小芋が八個の頭のように見えるので、 八頭。(ちなみに中国では九面芋と呼ばれます。)ホクホクした歯ごたえ。ヌメリが少なくアッサリした味わいで、 煮崩れしにくいので煮物にむきます。末広がりの八と、人の頭になるという名前の縁起をかついで、おせち料理に使われます。 12月中〜下旬に出回ります。
  • 海老芋(えびいも)−京料理で有名ですが、実は静岡の遠州地方の特産。もともとは唐芋という品種。 植えてから土寄せを工夫する事によって、海老の尾のように曲がった形に作ると言います。 京料理の芋棒はこの海老芋と棒鱈(ぼうだら、カチカチに乾したタラの干物)を炊き合わせた料理です。
Takenoko_imo ●親芋を食べる種類
  • たけのこ芋−(写真右)親芋が長く成長して地上まで顔を出します。 きめ細かくしっかりした肉質で美味ですがアクがあるので下ゆでをしてアク抜きを十分に。
  • 田いも−親芋を食べる種類。田んぼで栽培されます。
●茎を食べる種類
  • はすいも−青芋茎−(下記の”芋茎(ずいき)”をご覧ください。)
全体的には秋が旬ですが、品種によって異なります。最も早く出てくる石川早生は8月〜9月。 土垂は9月〜10月。セレベスと八頭は12月頃です。
調理法 石川早生を、ゆでただけで塩で食べる衣被(きぬかつぎ)がシンプルでおいしい。 (衣被とは、昔の女性が頭と顔を隠すために頭から肩にかけていた布の事です。 ゆでた里芋を押すと皮から中身がスルッと出てくる様子が、 女性の頭の布がスルッと取れて白い肌が現れる様子に似ているという所からつけられた名前)
芋煮−山形など東北の風物詩。秋に採れた里芋と牛肉(豚肉、または鶏肉)、 しらたきなどを入れた具たくさんの鍋を醤油・酒・砂糖少々で味付けして大勢で食べます。
サトイモのダンゴ−石川芋を軽くゆでて皮をむき、串に刺して火であぶると美味しい。ワサビ醤油が良く合います。
保存する時は、ぬらした新聞紙に包んで冷暗所におきます。乾燥に弱いので。

芋茎(ずいき) Zuiki 茎を食べる芋茎には、赤芋茎、青芋茎、白芋茎の3種類があります。青芋茎は茎を食べる専用品種で、 茎の切り口に”はす”のように穴がたくさん開いているので”はすいも”とも呼ばれます。 (と言っても、ハスの穴というよりはスポンジのようになっています。)肥後芋茎はこの青芋茎を干したものです。 赤芋茎は海老芋や八頭の茎です。白芋茎は、茎を食べるために日光に当てずに柔らかく栽培したものです。 生の芋茎は皮をむいて調理します。
芋茎の皮をむいて干したものが”芋がら”で、乾しいたけなどとの煮物によく使われます。


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制作日:2002年9月7日
更新日:2003年10月5日
上田 泰久