山葵(わさび)

Wasabi 日本原産の植物で古来から薬味として珍重されてきました。ツーンと鼻から頭に抜ける厳しい辛さに眼が覚めます。 さわやかな薄緑と深山を想わせる香りは、刺し身、そば、寿司など和食には無くてはならない物です。
良くも悪くも揮発性がワサビの特徴で、辛味と香りの本領を発揮するのはすり下ろしてからわずか10分。 そのかわり強烈な辛さも後をひかない。そのいさぎ良さが昔から人々に好かれたのかもしれません。
バブル期には値段が暴騰しましたが、現在は落ち着いています。安いうちに本ワサビをどんどん使いましょう。
最近では欧米でもワサビ・ブームがあり、進歩的な料理人が競ってワサビを料理に取り入れています。

品種 アブラナ科の多年生水生植物です。西洋わさびと区別するために”本わさび”と呼ばれます。 夏涼しく冬温暖な山地の沢に生え、水温が10度から17度の範囲でないと育ちません。 また水質(酸性かアルカリ性か、含まれているミネラルの割合など) などの条件が合わないと生育が悪くなったり病気になったりします。 収穫までに3〜4年かかる割に採れる量が極めて少ないので、どうしても貴重品になってします。
本わさびの中でも、品種改良によって畑でも栽培できる品種もあります。 実際には沢沿いの傾斜地や山林の木の下で栽培されている事が多いようです。 成長も早く、18ヶ月で出荷されます。これらは畑わさびと呼ばれています。 (それに対して沢で栽培されているものを沢わさびと呼びます。)
原産地 もともと日本の山に自生していた植物です。
栽培の歴史 1600年頃、静岡県の有東木(うとうぎ。安倍川の上流で現在は静岡市) で村の人が沢に生えていた野生のワサビを栽培してみたのが始まりと言われています。1607年に徳川家康が 駿府城に入場した際にワサビを献上した所、大変気に入って栽培を奨励し、また有東木から門外不出としたそうです。 「ワサビの葉(写真下)が徳川家の家紋の葵(あおい)に似ているために保護した」という話もあります。しかし1744年に伊豆天城山の住人である板垣勘四郎が有東木にシイタケの栽培を教えに来た時に、 お礼にと有東木の庄屋が弁当箱にワサビの苗を忍ばせて渡し、それが天城山のワサビ栽培の発端になったという話です。
部位 Wasabi_Ha 通常は根茎を利用しますが、などにも同じ辛味成分があります。 茎はわさび漬け、根から分かれて生えているヒゲ根は練ワサビの原料にされます。 3月〜4月にだけ出まわる花わさびはワサビの花茎で、天ぷら、お浸しにします。
産地と旬 本ワサビの有名な栽培地は長野県安曇野、伊豆天城山、山口県などです。 ワサビは一年中採れますが、地上部分の成長が止まる秋・冬の方が根の辛味は強くなります。
成分 辛味の成分は揮発性のアリル芥子油(がいしゆ)です。根や葉の細胞にシニグリンという物質が含まれていて、 すりおろして細胞が壊れるとミロシナーゼという酵素の働きで分解されてアリル芥子油になります。
調理 「ワサビをおろす時は目の細かいサメ肌のおろしで、頭(茎)の方から練るようにすりおろす。」と言います。 これは、きめ細かくおろして細胞に含まれているシニグリンがなるべくたくさんミロシナーゼに触れるようにするためです。 金気を嫌うので、金属のおろし金を使う時はすった後すぐに別の容器に移すようにしましょう。 頭(茎)の方からおろす理由は、茎に近い部分の方が辛みが強く香りも豊かだからです。
保存する時は、ぬらした新聞紙に包んだ上からラップして冷蔵庫に入れれば一ヶ月は保存できます。
寿司とワサビ 江戸前寿司にワサビは無くてはならない物ですが、逆にワサビは江戸前寿司の普及につられて普及しました。 相思相愛の関係なのです。
江戸前寿司の基礎を作り、元祖超高級寿司屋の双璧だった”松ケ鮓(まつがずし)”と”鮓屋与兵衛”は、 それぞれ”サバの生臭さをワサビで消す”(1800年頃)と”コハダの握りにワサビをはさむ(1820年頃)” という発明をしています。

粉わさび
練わさび
一昔前の粉ワサビや、チューブ入りの練ワサビは、ほとんどが西洋ワサビを原料としています。 (最近よく見かける”本ワサビ入りの生おろしワサビ”というのは、 西洋ワサビを原料とした練ワサビに本ワサビを加えたものです。) 西洋ワサビは本わさびと同じ辛さと香りの成分を持ち、本わさびの5分の1程度の価格なので、 粉わさびや練りわさびの原料として広く使われます。 現在の本物志向の世の中では、偽物として肩身の狭い思いをしていますが、 これが無ければ本わさびの値段が高騰して庶民は刺し身や寿司の薬味にもわさびを使えなかった事でしょう。 練ワサビには少量の辛子(からし)が混ぜられていますが、これは辛子の方が油分が多く、 この油が辛味成分の揮発性をおさえる役目をはたすからです。 また、西洋ワサビは白っぽいのでワサビのイメージに合わせるために緑色に着色されています。
西洋わさび ワサビ大根、蝦夷ワサビとも呼ばれます。欧米ではホース・ラディッシュと呼ばれ、 ローストビーフの薬味として定番です。原産地は東ヨーロッパ説が有力。 日本では主に北海道で栽培されています。 導入当初は需要が無く、植えた西洋わさびはそのまま野性化してしまったそうです。 見た目は本わさびと全く違うのですが、辛味と香りの成分が本ワサビと共通しています。


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制作日:2002年5月23日
更新日:2005年3月27日
上田 泰久