第11話
〜それぞれの世界で生きる兄弟〜
天界の王宮の玉座で皆を集め、ダーツはすべてを語った。
ダーツがずっと隠していた闇界との抗争の全貌と事実。

そして哀しき天使の物語。

かつての仲間である天使が今は敵の手により対立する者として生まれ変わった事を。

その事実に皆、驚きを隠せない。

「・・・その柘榴って男が奪われてから俺たちが生まれた・・」

瑠璃はぼそりと確認するように言った。

やはり、あの男がいったことは事実だったのか・・そんな想いが頭を過ぎる。

琥珀もまた、重い口を開いた。

「リストに載ってたあと2人の天使は・・・?」

「2人!?あと2人もいんのかよ!」

翡翠が琥珀の持っているリストに目をやった。

確かにあと二人分の空白がある。

「・・・一人は言えぬが・・・もう一人は翡翠、お前に深く関わっている人物だ」

「・・・俺に・・?」

翡翠はダーツを見上げる。

緑色の瞳がかすかに揺れた。

「・・柘榴を失ってしばらくした後、私は新たな石で新たな能力者を生んだ。名を『紫水(しすい)』と名づけた。」

「紫水・・そいつと俺が一体何の関係があるっていうんですか?」

「その者の石とお前の石は同じ土地で発掘され磨き上げられた。いわば、兄弟にもあたる者だ」

「・・きょう・・だい・・・?」

翡翠の瞳が驚きの色に染まった。その瞳にはダーツが映し出されている。

「・・・お前の兄だ。翡翠・・・」

ダーツはゆっくりと打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

一方、闇界の王宮内。

闇夜を身に纏い、静かに広い廊下を抜けていく男がいた。

足の向く先はゾークのいる玉座である。

男はゾークの正面に歩み寄り、一礼をして重い口を開いた。

「仰せつかりました任務、何事もなく完了致しました。」

淡々という男にゾークはこくりと頷く。

「うむ、ご苦労だったな。紫水」

「はい。ゾーク様」

長い紫色の髪を頭の上部で一つに束ね、その髪は地を向き揺れている。

鋭い瞳は妖艶な紫で冷ややかな空気を漂わせている。

左目に大きな二本の爪あとのような傷が刻まれている。

 

 

無表情な顔からはまったく感情の色が見えない。

彼は闇界のアサシンとして暗殺や敵戦地への潜伏や密偵などの任務をこなすせいか、人とも馴れ合いを避けてめったに表情を変えないのだ。

「・・お前も一人での任務は重荷ではないか?」

「いえ、これも修行です。孤独に打ち勝ち任務を忠実に完了させる事に自分の意義があると思っています」

「あいかわらず、頭が固いな。」

ゾークは苦笑するが、本人はいたって真面目に答えたのだ。

そこへ、柘榴が入ってきた。

「ゾーク様、この書類に印を・・・あ、任務ご苦労様です。紫水。」

柘榴はいつもの紳士スマイルで話しかけたが紫水はギロリと睨むだけだ。

「相変わらず、素っ気無い人だ。友達出来ないタイプですね。」

「・・貴様に言われたくはない。お前の心がまったくこもっていない社交辞令に返す必要がないだけだ」

「心がこもったほうがよろしいですか?」

「そうやって皮肉で返すお前の方が友の居ない証拠だ。」

柘榴もその言い方が勘にさわったのか、かすかに殺気を匂わせる。

「お互いの感情は同じようだな。・・・表で勝負するか?」

紫水も紫の瞳に冷徹さを纏わせて柘榴を挑発する。

紫水の裾から細い銀糸が宙の空気を切るように周りを囲んでいる。

それはまるで朝露のかかった蜘蛛の糸のように綺麗だ。

だけれどその糸で貫けられないものはないほどの殺傷力を持っている。

柘榴も武器である『月夜刀(つくよとう)』を紫水に向けた。

「いつでもお相手、してあげますよ。」

だがそれを遮るように金色に光る錫杖が二人の間に割って入った。

紅の武器だ。

「ここは玉座だぜ。やめな」

「そうだ、紫水、柘榴。武器を下ろせ」

紫水と柘榴はゾークの言うことに素直に聞いた。

「それと、赤髪君。」

紅が柘榴の傍に寄った。

柘榴は嫌そうな目をしている。

立場は紅が上だが、柘榴はあまり従いたくない上司なのだ。

「赤髪君ではなく、柘榴ですよ。司令指揮官長殿」

「いいじゃねぇか、かわらねぇよ。さっきお嬢が呼んでたけど?」

「・・・解りました。失礼します」

柘榴は踵を返して去っていった。

紅は紫水の方を向きなおした。

紫水は一礼する。
「これからは、紫水にパートナーを付けさせるから二人で任務をこなしてもらうぜ」

「・・・・不本意です。私の力が不足なのですか?」

「そいつはちょっと頑固者で我が儘だから任務で鍛えて欲しいんだよ。決して紫水の実力を疑っているわけじゃない。」

紫水は紅の顔をじっとみたがふうと息を吐くと

「わかりました。して、その相手とは?」

「こっちだ。来な」

紅は紫水をつれて地下に下りた。

薄暗い階段を螺旋状に下りていく。

下りた地下は冷ややかに空気が凍っている。
よくみれば奥に進むにつれて床も天井も凍りついていた。
紫水は不可思議な部屋に警戒した。
奥は全てが凍っていてまるで氷が繭のように一点を包んでいる。
「こいつがあんたのパートナーになる『白銀(しろがね)』だ」
紅は繭に近づいた。
紫水も傍によって確かめる。
繭の中には黒いスーツに赤い蝶々リボンの若い青年が眠っていた。

肩までばっさり切りそろえられた髪は、紫水の銀糸のように綺麗な銀だ。

「・・・封印されている仲間を見たのは初めてだろう?こいつの能力は氷だから氷の中で眠っているんだぜ」
こんこんと紅は氷を軽く叩いた。
「・・・封印しているならば目覚めさせないと話しになりません」
「もうすぐ目覚めるって聞いたぜ。・・・ほぅら、割れてきた。」
パキパキと氷の先端が割れ始めた。
真ん中の亀裂が大きく割れて、白銀の青い瞳が開いた。

 

 

そしてその大きな瞳は紫水を捕らえた。
「・・・・紅、こいつ誰?」
「紫水だ。今日からお前のパートナーになってもらう」
「・・・はぁ!!?」
白銀は目を丸くして叫んだ声は地下に響き渡った。

 

 

 

それから数日・・・緑の多い中庭で紫水はすたすた歩いている。
「ちょ・・ちょっと待ってってば!!」
その後ろから早歩きで白銀は紫水に追いかけている。
「君さぁ!僕と君の足の長さから考えればわかるでしょ?歩幅を合わせてよね!!」
「・・・・・短足」
「なっ・・・!!なんだって!この木偶の棒!!」
「お前よりマシだ。さっさと行くぞ。」
そういってスタスタと任務先に行った。
白銀はもう・・と息をついて後を追いかけた。
紫水の後を追いかけていた白銀の目にうっすらと天使の羽が見えた。
「・・・君は天使なの?」
ふいに白銀が聞いた。
紫水は少し間を空けて頷いた。
「ふぅん・・・綺麗だね」
そう言った白銀の瞳は真っ直ぐに紫水を見つめていた。
紫水は、元天使。
今は天界と抗争中だ。
そのせいか、闇界では天使をよく思わない者は少なくはない。

王宮から離れて小国で任務をする事が多い紫水が任務先で過酷な差別を受けてきてもおかしくはない。

そんな紫水に、白銀は真っ直ぐな瞳で対等に向かってくる。

哀れみの瞳でも、怯えた瞳でもない。

「・・・お前は不思議な奴だ・・・。」

「・・・君もね。紫水。」

紫水はふっと笑い、白銀の頭を撫でた。

「・・・行くぞ。白銀」

「あ、やっと名前言ったね!偉いぞ!新人君♪」

「短足のくせに先輩面か?」

「うるさい!!僕のほうが強いんだからね!」

そんなじゃれ合いのような言い合いをしている二人は王宮の門をくぐって歩き出した。

少しアンバランスな二人だが、上手くやっていけそうだ。

 

 

 

 

 

 

闇界にいる兄と天界にいる弟・・二人が対峙する日は近い。

   

   

続く