第26話
〜式典の準備(後)〜
〜前回のあらすじ〜
式典の準備に追われていた俺達の前に現れたのは、闇界の王に改造されロボットになった瑠璃だった!!
瑠璃は口から緑のガスを吐き出して俺達に襲い掛かった!!

   

「・・・って、真面目にしろぉぉぉ!!!!」
何処から出したのか、翡翠はマイクを持って解説する琥珀の後頭部にスパァァン!!とハリセンをヒットさせた。
「いったぁぁ!!ごっつ綺麗にヒットしたで!!」
涙目で後ろにいた翡翠にそう言うと、翡翠は怒りながら琥珀にハリセンを突き出した。
「目ぇ覚ませ!!あれは瑠璃じゃなくて、瑪瑙さんが作った瑠璃に似たロボットだ!!」
「わかっとるわ、そんな事。ただこれはボケなあかんと・・」
「この状況でボケようとするお前の神経を疑うぞ」
すると、ロボ瑠璃はグルリと方向を変えて王宮の一番奥・・ダーツのいる玉座へと向かっていった。
足は戦車のようになっていて、ギギギギと機械音が響いた。
「あかん!!瑠璃は天王様を狙ってんねん!!」
「てか、あれマジで何なんだよ!!」
琥珀と翡翠は羽を広げてロボ瑠璃を追った。
残された紅瑪は他に生存者がいないか探してみる事にした。
紅瑪は杏花達がいた会場へと向かった。
会場の中に入り紅瑪は目を見開き驚いた。
もう緑色のガスは薄く残る程度だったが、そこにいてガスに包まれた天使達が白い彫刻像のように固まっていたのだった。
「これは・・・あ!天麗!!」
口元を押さえながら紅瑪の視界に入ったものはガスを浴びて彫刻のように固まった天麗だった。
紅瑪にこのガスを解除できる方法は見つからず、無念だが天麗の固まった身体をそっと床に横にさせた。
その時、紅瑪は後ろに気配を感じて振り返った。
「いたたた・・・あれ?紅瑪・・?」
「杏花様!!無事だったんだね!!」
後ろで頭を押さえながら起き上がったのは杏花だった。
紅瑪はすぐに杏花に怪我がないか駆け寄ると、幸い無傷だった。
「一体何が・・・天麗!?」
辺りを見回した杏花は彫刻のように固まった天麗を発見した。
それだけでない。
先程まで笑い合っていた天使達も皆、彫刻になりピクリとも動かなくなっていた。
「そんな・・何で・・」
杏花は気を失う前、身を挺して庇ってくれた天麗の目の前にいた黒い影を思い出した。
それは、誰かによく似ていて・・・。
「あれは・・瑠璃さんに似てたわ・・」
紅瑪はコクンと頷き杏花に状況を説明した。
杏花はそれを理解して、今そのロボ瑠璃がダーツの元に行こうとしている事、それを琥珀と翡翠が追っている事を知った。
「あれは翡翠達に任せて杏花様は安全な場所に避難を・・」
「そんな・・私だけ逃げるなんて出来ないよ!!」
杏花は少し強い口調で紅瑪に言った。
紅瑪は杏花の強い想いに口を閉じた。
杏花は少し考えて、はっとしたように顔を上げた。
「・・そうだ・・瑪瑙さんは!?瑪瑙さんが作ったんなら、止める方法を知ってるはずだよ!!」
「兄さん・・そうだね!!兄さんならきっと!!」
二人は目を合わせて頷くと、瑪瑙の研究所へと向かった。
杏花は荒れ果て、半壊になった会場を出る時後ろを振り返った。
無造作に散りばめられた芸術品のように横たわる天使達と天麗を見て胸を痛めた。
(あの時・・天麗が庇ってくれたから私は彫刻にならずにすんだんだわ・・)
「待ってて・・必ず私が元に戻すから・・!!」
杏花はそう言って、会場を後にした。
会場を出て、階段を上り王宮の展望台へとたどり着いた。
そこは天使達の休憩場所でもあり天界が見渡せる場所でもあった。
「研究所は・・・あった!!」
杏花は空と地上の全てを見回して王宮から離れた瑪瑙の研究所を見つけた。
確かにあのロボは瑪瑙の研究所で作られたものだった。
何故ならば、ロボの足跡は研究所から王宮まで直線に繋がっていたからだった。
しかし、研究所もまた半壊状態にあった。
「兄さんは一体・・行こう。杏花様」
「うん」
羽を広げた紅瑪は、杏花の後ろに回り腰に腕を回した。
杏花もしっかりと紅瑪の腕にしがみついた。
そして空中を二人で飛んでいると、王宮の端からもの凄い爆発音が聞こえた。
「なっ・・!?」
「え!?何!?」
二人が爆発音のする方を見ると、地上から天に向かうように煙りの中から現れたのは琥珀の技の一つ『青龍』だった。
青龍はロボ瑠璃に巻きつき首元に噛み付いていた。
どうやら琥珀達がロボ瑠璃を足止めしているようだ。
「・・琥珀さん達が頑張っている内に、私達も急ごう」
「そうだね・・急ごう」
紅瑪は再び羽を動かして研究所の方へと向かった。
鳥のように飛べば、遠くはなれた研究所でも着くのに五分もかからなかった。
研究所は、きっとロボが壊したんだろう。
ぽっかりと半分穴が空いていた。
杏花と紅瑪は中に入ってみたが穴が開いた部分だけは外の光で明るく、奥は停電しているのか真っ暗だった。
「兄さん!!兄さん返事して!!」
紅瑪は大声で瑪瑙を呼び、探した。
杏花は辺りのコードや機械をかきわけて奥へとすすんだ。
すると、研究資料の中に埋もれた何かを発見した。
杏花は何の迷いもなくそれを手にとった。
「・・これ・・ハリセン?」
杏花が取り出したのは杏花には少し大きなハリセンだった。
しかし紙で出来ているものではなく、鉄製で凄く重かった。
ハリセンには『非常用強制停止ハリセン・なんでやねん君』と書かれてあった。
「紅瑪!!もしかしてこれであのロボを停止させられないかな!?」
「何てネーミングセンスなの兄さん・・でも、これであれを止めれるかも!!」
そう二人が話していると、奥から誰かの声がした。
紅瑪はとっさに杏花を自分の後ろに回し、警戒した。
「いててて・・効いたなぁ、あのパンチは・・」
そういって奥から現れたのは何故か無傷な瑪瑙だった。
瑪瑙は紅瑪と杏花に気が付き二人に歩み寄った。
「あれ?どうしたの?もうおやつ時間?」
この事件の張本人は何とも素っ頓狂な質問をしてくるものだ。
杏花は苦笑し、紅瑪は肩を震わせながら兄である瑪瑙に詰め寄った。
「兄さん!!あのロボは何!?何で皆を石にしたの!?」
「あれは本当は真面目な瑠璃くんみたいにサボる誰かさんを見張るよう作ったロボットさ」
多分、琥珀だろう。
「じゃぁ何で真面目に働いている人も巻き込んじゃうの!?」
「ん〜・・暴走?」
てへっと笑う瑪瑙に紅瑪の怒りは爆発した。
「いい加減にしなさぁぁぁぁい!!!」と紅瑪の声が木霊したのはそれからすぐの事だった。

   

   

   

一方、琥珀と翡翠は巨大なロボに苦戦せていた。
二人は羽を広げて空中で構えていた。
「くそっ・・!何やねん、あれ!!瑠璃の岩砕拳も使えるんかいな!!」
「ちくしょう・・!!強ぇ・・あんなふざけた顔してるくせに・・」
「ちょ・・ふざけた顔とは何や!!あのるーちゃんかて愛嬌ある顔やんか!!」
「そこ怒るポイントか!!てかあれは瑠璃じゃねぇっつってんだろうが!!」

   

   

瑠璃を馬鹿にされて怒る琥珀に翡翠は「面倒くせぇ・・」と呟いた。
だが、琥珀はロボをみて苦しそうに顔を歪めた。
たとえ、瑪瑙が作った瑠璃に似せたロボットだとしても・・瑠璃と戦う事に琥珀は苦渋の想いをしていたからだ。
(どうせ本物の瑠璃もまた王宮へ襲撃してくる・・そしたらまた俺は・・瑠璃と戦わなあかんねん・・!!だけど・・!!)
「琥珀!!避けろ!!」
考えていた思考が、翡翠の声で我へと返る。
その琥珀の目の前には口を開けてレーザーを発射させようとするロボがいた。
この距離では、避ける事は出来ないだろう。
どんどん火力を増すレーザーは、勢いよく口から放たれた。
「琥珀!!!!」
(あかん・・!!!やられる!!)
琥珀は目を見開いたまま、そう直感した。
その時、琥珀の脳裏に瑠璃の顔が浮かんだ。
苦痛でも悲哀でもない。
いつも見ていた・・あの笑顔だった。

   

『兄者』

   

瑠璃が自分を呼んだ気がした。
それだけで、涙が溢れそうだった。
自分の分身のような・・半身のような存在の弟の残像が、よけいに琥珀の決意を揺らがせていたのだった。
「瑠璃・・・」
琥珀がそう呟いた刹那・・琥珀の身体をレーザーが包みこんだ。
それを目の辺りにした翡翠は顔を強張らせ、叫んだ。
「琥珀!!!!!」
しかし、レーザーで消えたと思っていた身体はまだそこにあって、琥珀はゆっくりと目を開けた。
そして自分の前に立つ人物がいる事に気がついた。
瑠璃よりももっと深い青い髪に他者を見下すような鋭い瞳。
真っ白な服を纏い片手に本を持っていた。
左目の泣き黒子が長い前髪からチラリと見えた。

   

「・・何ぼうっとしている?番人・琥珀」

   

「碧海さん・・・」
いつの間にか琥珀の目の前にいたのは碧海だった。
琥珀がレーザーに包まれる瞬間、間に割り込み自分と琥珀を結界で守ったのだ。
しかし、それを瞬時に出来る者はそうはいない。
彼は法律と魔術のスペシャリストだからこそ出来た事だった。
その力は神官や魔術師にも匹敵する程だ。
「だらしないな。もう怖気づいたか?」
「なっ・・!?誰がやねん!!」
「瑠璃を取り戻すって、啖呵切ったのはお前だろうが。」
碧海の言葉に琥珀は思い返した。
自分が瑠璃を闇から救い出すと決めた。
瑠璃を救えるのは自分しかいないと思ったのも事実だった。
「自分が言った約束を守らないのはルール違反だ」
そういって碧海は法律書をペラペラめくった。
法律書から光が放たれ、本から無数の鎖が出てそれがロボに巻きつき拘束した。
「建物の不法侵入及び破壊行為によりお前を処罰の対象とする。そして・・俺の仲間を傷つけた罪も加えて判決を言い渡す」
碧海が言った瞬間に、鎖はどんどんロボを締め付けた。
しかし、痛みなどないロボはどうにか鎖を解こうとジタバタしていた。
「今更逃亡しようなど見苦しいぞ!!この天界において法律の全ては俺の管轄だ!!最高裁判長・碧海がお前の罪を裁く!!」
碧海の本から煙とともにこの法律書の精霊・ランが現れた。

   

   

ランは両腕を鎌のように鋭くして無表情のままロボめがけて天を駆けた。
「判決は有罪!!死刑執行とする!!その罪、天に許しを請いて自分の愚かさを悔いるがいい!!」
その言葉とともにランの鎌が鎖もろともロボの左肩から腰まで一気に切り裂いた。
その鎌の破壊力は、超合金で作られたロボの内部が見える程食い込んでいた。
ランはロボから離れて碧海の元へ駆け寄った。
「よくやった。ラン」
褒められたランだが、まだ警戒を解いていなかった。
構えたままロボを見つめている。
「まだです。碧海様」
「何・・!?」
するとロボの腕が伸びて碧海達に襲いかかった。
碧海はそれをなんとか回避したが、目の前には鎌で切られた跡から火花を散らすロボがいた。
あんな傷を負っていてもまだそれは活動を停止しなかった。
「俺の判決で執行されないだと・・!!?」
「碧海様・・私は一つ気がかりな事があります」
「何だ!!この完璧な判決に何の狂いがあったというんだ!!」
碧海はランに自信満々でそう言うと、ランはため息をつきながら眼鏡をかけなおした。
「法律に、命なきロボットが裁けるのでしょうか・・」
それを聞いた碧海はピタリと止まった。
法律とは、天使が天使であるためにあるもので命なき作られた鉄機械に通用するものではない。
例えるならば、交通事故を起した運転手を裁くのではなく車を裁判にかけたも同じ事だった。
碧海の最大の能力を引き出す鍵は『法律の執行能力』である。
つまり、いくら執行されようともそれが裁判として成り立っていないのならば執行者・ランの力を最大に引き出す事は出来ないのである。
「・・・・・・そ、それは・・・・」
さっきまでの勢いは何処にいったのか・・碧海は冷や汗を流しながら言葉を詰まれせた。
そんなアイタタタ・・な碧海を呆れた顔で琥珀と翡翠は見つめた。
しかし、ランの一撃が効いたのかロボは動きが鈍くなっていた。
そこにやっと研究所から杏花と紅瑪と瑪瑙がやってきた。
「琥珀さん!!これがあのロボの緊急停止用ハリセンよ!!」
杏花は持ってきたハリセンを琥珀に渡した。
琥珀はそのハリセンを手にとった。
「何やこれ!重っ!でかっ!センス悪っ!!」
「そう!そんな感じであのロボにこのハリセンでつっこんで!」
「マジで!?」
「それしかあのロボを止める方法はないわ!」
琥珀はそう杏花に言われ、コクンと頷くとまた空に羽ばたきロボの前に出た。
ロボはその小さなガラスの瞳で琥珀を見つめた。
「・・俺は、こんな事で立ち止まっていられんのや・・!!必ず瑠璃を取り返すって皆に約束したんや!!」
その言葉と共にハリセンを持つ手が強くなった。
下を向いていた琥珀が、顔を上げてキッとロボを睨んだ。
「ツッコミ役のお前がツッコまれるような事すんなボケェェェ!!!!」
スパァァァァン!!!!
そのハリセンは見事にロボの頬にヒットしてロボはスローモーションのように地上へ倒れていった。
ズゥゥン・・と土煙をだして地面を揺らしながらそれは光を失った。
琥珀は肩で息を吐きながら鉄の塊となった瑠璃ロボを見つめた。
「瑠璃・・俺、お前が居いひん間にえろぅツッコミ上手なったで・・・」
早く帰ってこんかい・・・そう呟いた琥珀の背中は少し哀しかった気がした。

   

   

   

   

   

   

その後、彫刻になった皆も元に戻り瑪瑙は一日天井に吊るされる『みのむしの刑』を碧海から言い渡されランが執行した。
破壊された王宮はダーツが直し、会場も元通りになった。

   

   

「そういえばダーツさん、騒ぎに気付かなかったの?」
「いや、気付いてはいたが琥珀達が始末すると思っていたんだよ。」
そういってダーツは杏花にニッコリ微笑んだ。
だが杏花はそれを信じなかった。
何故なら、いつもサラサラなダーツの髪が妙にはねていたからである。
(・・・寝てたのね。ダーツさん)
それに気付いたのは、杏花だけだった。

   

   

続く