第3.5話
その頃、天使達は・・・
アナザー・ストーリー
杏花が目を覚ます少し前、王宮内のある大広間で大勢の天使達が作業をしていた。
それぞれの班にわけてあるのだろう。
あるグループは真新しい紅いカーテンを広げて天井に取り付けて大きな柱に端々をくくりつけている。
染み一つない天井と柱にはその赤は綺麗に映えていた。

また、あるグループは白いテーブルを次々に運び込み、そのテーブルにこれまたシルクのテーブルクロスを敷いていく。

その中央には天王・ダーツの愛でる『バラ園』から選りすぐられた何色ものバラを花瓶に美しく飾っている。

大広間の中心にある見事なまでのシャンデリアは羽で羽ばたいた天使達がその隅々まで磨き上げている。

厨房を覗けば、数多くのシェフ達が何品もの料理を特選された材料で腕をふるっている。

   

そう、まるで『宴』の準備のようだ。

   

その大広間で琥珀は満足そうに辺りを見回す。
「着々と進んでんなぁ♪杏花様の歓迎パーティー!」
すると、横でバラを飾っていた瑠璃が花瓶を置く。
「正式には『王妃様就任披露式』や」
「そないな固い名目、無視無視。歓迎パーティーでええやん」
頭の柔らかい琥珀と違って、頭の固い瑠璃はため息をもらした。
「大事な式典の名目をシカトしたらあかん!!」
琥珀はへらへらと顔を緩ます。
「頭固いなぁ・・・。ん、瑪瑙さんは?」
琥珀はキョロキョロと辺りを見回した。
「瑪瑙さんは・・そういえば朝から見ない・・」
「あ!きっとどっかでさぼっとるんとちゃう!?くっそ〜とっ捕まえたる!」
そういってダッシュしそうな琥珀の襟元を瑠璃が掴んだ。
「とかいってサボる気やろ?」
「・・・・なかなか鋭くなったやんけ・・。さすが俺の弟!!」
ポンポンと肩を叩く琥珀に瑠璃は肩を震わせる。
みえみえの行動やんけ・・・猿でもわかる・・。そう心で呟きながら。
すると、琥珀はまたなにか(よからぬ事を)思いついた。
「あ!なぁなぁ、幕に『ようこそ☆天界へ』って書く?」

「そんな幕つけたらあかん!!!」

「なら・・・『WELCOME☆杏花様』とかは?」

「一緒やんけ!!」

天使達が忙しそうに働いている最中に漫才のような雑談をする二人は他からみれば一番働いていないようにみえてしまう。
しかし、琥珀の相手をまともにすればきりがないと長年の経験から察している瑠璃は、ハッと我に返った。
「兄者がよけいな事言うから話が脱線してもうたやんか!!最終チェックいくで!!」
「ふぁぁ〜い・・・」
なんとも気の抜けた返事をしながら面倒くさそうに瑠璃の横を歩いていく。
今夜までにすべての準備を整えておかねばならないのだ。

   

   

   

大広間は琥珀と瑠璃がチェックを行い、紅瑪は杏花のドレス選びを任された。
王妃のために用意されたクローゼットだけの部屋に紅瑪は数人のお手伝い天使とともに選びにかかった。
シンプルなドレスからゴスロリのようなフリフリのドレス、または着物なども多種多様にクローゼットには詰まっていた。
装飾品も数個の化粧ダンスにびっしりと入っている。
「う〜〜〜〜ん・・・杏花様に似合うドレスを・・・ってなんでも似合いそうだ!」
いろいろとドレスを出してみては杏花に似合うベストなドレスを選んでいく。
本当は本人に見てもらい、実際に試着して頂いた方が手っ取り早いのだが杏花には内密に事を進めたいし、なにより紅瑪が杏花を着せ替えしたいのだ。
「杏花様の驚く顔と可愛い姿を見たいし、頑張らなきゃ!!」
「紅瑪・・間違った頑張りをしてねぇか?」
紅瑪が後ろを振り向くと翡翠が天井の窓から見下ろし、腰掛けていた。
「翡翠!そんな所にいないで手伝って・・・」
「俺はこれから仕事だ」
だから、下りないと言いたそうだが紅瑪はクスクスと笑った。
「下りられないの間違いでしょ?お手伝いさんがいるから・・」
「・・・うっせぇ。」
プイと顔を背けた。お手伝いとして後ろに控えているのは女性の天使だ。
入るに入れないし、下りたくないのが心境のようだ。
「なぁなぁ、こっちのドレスとこっちのドレスはどっちがいい?」
紅瑪は候補に上げている紅いドレスと淡いピンクのドレスを掲げた。
翡翠は少し考えてピンクのドレスを指差した。
「ん?こっち?ピンクがいいと思うの?」
「・・・お前が着るんだろう?」
「違うよ!杏花様のドレスを選んでいるんだ!私がこんな高価なドレス持っているわけないだろう!」
もう、真面目に考えてよとちょっとむくれて抗議した。
「紛らわしい!!知るか!!」
翡翠はくるりと半回転した。部屋を去る直前に翡翠は呟いた。
「・・・お前に似合うと思ったんだよ・・・!!」
その声に問いかける前に翡翠は姿を消した。紅瑪はぼう・・としている。
     『お前に似合うと思ったんだよ・・!!』

その言葉をもう一度頭でリピートして、耳まで赤くなる。

「・・・もうっ・・びっくりするだろ・・・!!」

翡翠にしては、少々甘い言葉だった。

   

   

   

場所を戻して、また大広間・・・・・。

「・・まぁ、異常なしやな。兄者、外の中庭のライトの配置・点検抜かりないんか?」

「ばっちりやで!!ほらほら噴水なんかピンクのライトでかなりエロチィックに・・・・」

琥珀自作の中庭にピンクのライトアップ・・・まるでホテルを思わせる配置と独特な雰囲気だ。
瑠璃はピシッと石化する。
「・・・・っ由緒正しき式典になにさらしとんのじゃぁぁぁ!!!」
「ぐはぁ!!!」
バキィ!!!と瑠璃の回し蹴りが琥珀の腹部に炸裂した。数m吹っ飛ぶ琥珀・・。
琥珀の胸倉を掴み、目元を暗くしながら
「・・・元に、戻しぃや・・・(怒)」
「瑠璃・・目がやばいで。式典なんやから、多めに見て・・・」
「俺は常日ごろから兄者には寛大やけど、これは眼を瞑るわけにはいかんのじゃ!!戻しぃ!!」
「ちぇ・・」
しぶしぶとライトを白にした。
瑠璃はこれだから兄者を野放しには出来ないと再度、拳を握り締めた。
「俺が、しっかりせんとあかんのや・・・!!」
瑠璃が真面目なのは、ある意味兄の性格のお陰かもしれない。

   

   

こうして、すべての準備は整った。・・・・が、事件はここからだ。
皆が準備に心を傾かせていたため誰も杏花の気配が天界から遠くなったことに気がつかなかった。
最初に気付いたのはダーツ。
玉座で書類に目を通していた時、いつも感じられていた杏花の気配がふっと薄くなった。
まるで先程まで傍にいた杏花が突然後ろを振り替えながら闇に消えていくような・・・。
     『ダーツさん・・・・』
昨日聞いた声が最後だったかのように激しく脳内を駆け巡り、刺激する。
ダーツの顔に余裕がなくなり、不安と喪失感が襲い掛かってくる。
それを察したのが番兵の二人だった。玉座にいるダーツの元へ駆け寄った。
「・・杏花を・・杏花を探せ・・・・!!」

「「はっ!」」

すぐに二人は翼と共に空に舞い上がった。

ダーツは自分の震える肩を強く握り締めた。

情けない。

杏花の気配が感じ取れないだけで膝に力が入らない。

こんなにも自分は情けない王だったのか・・・・。

自分が、すぐにでも杏花を探しに行きたかった・・・。

だが、王という立場が自分を鎖に縛りつける。

王失くして王宮は成り立たない。

悔しい。自分の立場も精神も。

やはり杏花が居なくては・・・支えがなければいけないのだと感じたのだった。

   

   

   

杏花はなんの傷もなく無事に我が身に帰ってきた。
杏花の姿をみるなり、ダーツに力が入る。
屈していた膝を前に進ませて、震えていた腕を杏花に伸ばした。
無事でよかったと、心の底から想う。
愛らしい頬を撫でて、安心した。
そして、キョトンとする彼女に問い詰める。
あぁ、こんな事を聞きたいんじゃない・・・。
もっと君に言いたい事が山ほどあって・・・だけど上手く言葉が喉を通らない。

   

心配していた・・。
もうどこにも行かないでくれ・・。
君に何かあってからでは遅いのだよ・・・。

   

もどかしい。どうして言葉が出てこないのか・・・。

   

そして杏花は自分も寂しかったと告げた。
それがダーツには何よりも嬉しかった。
自分を求めてくれた。そんな我が儘ならばいくらでも聞こう。
君が私を必要とするもっと前から、私は君を必要としているのだから・・。

   

ダーツは杏花にその想いを告げることなく、ただ安心感を温かいお湯に例えてゆっくりと全身に浸っていった。

   

   

   

その夜に杏花は紅瑪の選んでくれたドレスを渡された。
純白のドレスにピンクと黄色のバラのコサージュが胸元にあり、腰元から左斜め下にむかってフリルが入っている。
髪にもバラをつけて、軽く口紅も引いた。

杏花は選んでくれた御礼がしたいと、着替えを手伝っていてくれた紅瑪に言った。

すると紅瑪は少し顔を紅くして、そばにかけてあった淡いピンク色のドレスを貸してほしいとのことだった。

杏花はその意図はわからなかったが頷いてそのドレスを箱にしまい、渡した。

もうすぐ、宴が開かれる・・・。闇の鼓動と共にゆっくりと・・・

今宵、招かれざる客は空を舞い、華を深紅に染めあげるだろう。

闇は、もう、すぐ傍だ。

   

   

続く