第31話
〜それぞれの軍神〜
遥か昔・・・天界と闇界の戦争が最も激しかった頃、それぞれの軍を率いた者達がいた。
天使達を束ねていたのは真っ白な四枚の羽を持つ天使。
その者の持つ巨大な槍は一振りで竜巻のような風を呼び込んだ。
一方の者は、戦火のような長い赤髪・・錫状から織り成す炎は山さえも一瞬で飲み込み灰にした。
二人は【軍神】として、今も歴史にその名を残している。

   

天界の正義【軍神・瑪瑙】

   

闇界の破壊者【軍神・紅】

   

と・・・・。

   

   

   

   

   

   

地上は炎に包まれた中、空中では瑪瑙と紅が睨み合っていた。
琥珀を逃がした瑪瑙は、後ろから奇襲した紅と刃を交え合わせていた。
紅の錫杖と瑪瑙の槍・・刃先が当たっているにも関わらず、錫杖は斬れない。
「・・・あんたの顔・・随分昔に見た気がするぜ?」
「奇遇だね。僕もだよ」
ニッコリ笑う瑪瑙だが、目は笑っていない。
紅は、フッと笑って一旦瑪瑙から距離を離した。
瑪瑙も少し、槍を構えるのを止めた。
「・・・確か、軍神瑪瑙・・だったよな?」
「覚えていただけて光栄だよ。闇界軍部直属総司令指揮官長殿」
「よせよ、そんな長ったらしい名称。嫌いなんだよなぁ・・」
紅は頭をかきながら、苦笑してそう言った。
戦場の空の上でもマイペースな男である。
「じゃぁ、なんて呼べばいいかな?」
「あぁ、最近気に入っている呼び方があるんだよ」
「何?」
「番長」
「そっか。じゃぁ番長くんで」
なんともマイペースな二人は、のほほんと会話をしている。
くどいようだが・・ここは戦場だ。
「・・で、本題に戻るけど・・引き揚げてくれるかな?」
「それは出来ねぇな。こっちも任務なんでね」
「へぇ、番長くんでも任務は守るんだ」
「上司の手前上、仕方ねぇんだよ」
紅が東の空へ視線を移した。
瑪瑙もそちらを向くと、東の空にゾークが立っていた。
瑪瑙の顔色が変わると、紅はニヤリと口角を上げた。
そして紅の錫杖から炎が渦を巻いて出てきた。
瑪瑙は、はっとして槍を構えたが、一瞬の隙を紅は見逃さなかった。
「獄炎舞(ごくえんぶ)一の舞・鬼雪洞(おにぼんぼり)!!!!」
紅が錫杖を回転させると、炎の飛礫が霰(あられ)のように飛んできた。
瑪瑙は羽を空に舞い上がらせそれを回避していく。
しかし、その炎はまるで生きているように執拗に瑪瑙を追いかけていく。
瑪瑙は槍を地面に構え、振り上げた。
抉られた地面には土煙と固い土の塊が飛ぶ。
瑪瑙がもう一度槍を振り上げると、槍を中心に風が渦巻いた。
「神風(かみかぜ)・地天舞(ちてんまい)!!!」
風が地面から抉られた土の塊と土煙を天に舞い上がらせた。
それは炎と衝突して、相殺された。
それを見た紅はパンパンと拍手をしていた。
「へぇ、お見事!さすがは軍神様だなぁ」
「君こそ・・さすがは軍神様だね。一瞬の油断を奇襲のチャンスとした。まともな神経ならゲス野郎だけど、軍人ならば見事と褒めよう。」
「それは有難う。そのゲス野郎に自分の世界がぶっ壊される気分はどうだ?」
紅の錫杖からまた炎が灯る。
天界を火の海にしているにも関わらず、まだ余裕な紅に瑪瑙は眉をひそめた。
二人の間に激しく火花が散る。
刃が離れるのは刹那のみ・・けたたましい音と共に、またそれはぶつかり合った。
両者一歩も引かない状態が続き、さすがに息が荒くなる。
所々ではあるが、紅はわき腹と左腕、瑪瑙は肩と右足を斬りつけられていた。
「はぁ・・はぁ・・中々・・決着がつかねぇな」
「なら君が死ねばいい」
「はっ!お前、天使っぽくねぇって言われねぇか?」
「よく言われるよ」
まだ笑顔を絶やさない瑪瑙に、紅もまだ余裕の笑みを浮かべた。
「・・懐かしいなぁ。まさかお前とまた戦場で戦えるとはな・・」
「・・君がまだ戦場に居るのなら・・僕と君は戦わなければならない・・」
「どうしてそう思う?」
「君が壊す者を、僕が守るからだよ」
瑪瑙の言葉に紅が反応した。
瑪瑙は更に言葉を続けた。
「軍神紅。君は三千年前から何も変わってなんかいない。君は闇界の為に戦うなんて忠誠心は欠片もないよ」
「・・・知ったような口を聞きやがる・・」
「本当の事だよ。君にとっても僕にとっても・・戦場で勝敗が着けられなかった相手だ」

   

   

瑪瑙は遥か昔の事を思い返した。

天界と闇界は終わる事のない戦いを繰り返している。
それはもう意味のない戦い・・・理由のない殺戮と同じだった。
瑪瑙は天界を守る為・・天王ダーツを守る為に戦い、紅と刃を交えた。
同じ軍を纏め指揮をする二人は激しく刃を交えさせる。
境遇が似た二人だが・・瑪瑙は紅の瞳に違和感を感じた。
守る対象が違えど・・同じ立場の紅には全く忠誠心が見られなかったのだ。

   

   

「・・・でもね、今なら僕は君の意志が理解出来るよ」
「・・なんだと?」
瑪瑙はかけていた眼鏡を外した。
その瞳は血のように赤く美しく・・残忍に思える。
紅は警戒するように眉を吊り上げ身構えた。
「僕も君のように守りたい者は天界でもダーツ様でもない・・・」
「なんだと・・?じゃぁてめぇは一体何の為に・・!!」
「君と互角に戦い・・重傷を負わされた僕は一人の医師に助けられた・・」

   

   

瑪瑙の記憶には・・まだ少し幼い梅花の姿が蘇る。
瀕死だった瑪瑙を助けた梅花は、瑪瑙にこう言ったのだ。
『お前が天使だろうが神だろうか関係ない。医者はどんな者でも助ける義務があるんだ』
梅花の言葉に・・行動に救われた瑪瑙は軍神の肩書きを捨てて医師になった。
意味のない戦争に戦って勝利を得るよりも、医師として患者を救う事にずっと意味があるものだと解ったのだ。

   

   

「僕はあの戦いで死んだ・・だけど今度は医師として生きていく。悲劇は繰り返さない!!」
「だがお前は俺とこうして戦っている!!ご丁寧にあの戦場で身に着けていた軍服まで着てなぁ!!それでも殺戮者じゃねぇっていうのか!!?」
紅の指先が示す方向に居たのは、真っ白な長いコートのような軍服を肩にかけている瑪瑙だ。
遥か昔に戦場で見かけた軍神・瑪瑙は眼前にいる。
紅は錫杖を振り上げた。
瑪瑙も槍を振り上げる。
「僕の理想を実現させる為に・・ここは退いてもらう!!」
「はっ!!寝言は死んでから言え!!!」
ガキィィィン!!!と刃が混じりあい、風と炎が大地と空を焦がしていく。
そして、二人の位置を中心に・・大爆発が起きた。
ドォォォォン!!!!!!
大地に半円状の爆発が起こり、辺りにあった建物は全て塵に化した。
その爆風は、王宮を揺るがし中に居た天使達は小さな悲鳴を上げた。
「っ・・!!何や・・!?」
王宮の救護室に居た琥珀は、外の景色を見た。
大地は黒く、空は赤い・・地平線から赤と黒に分けられているようで・・そこはまるで地獄の入り口のようにも見えた。
「瑪瑙さん・・・」
琥珀はそう呟き、ベッドに横にされている砂金を見つめた。
羽根の損傷は激しく・・・もうその機能を果たす事は不可能だろう。
琥珀は砂金の手を握りしめた。
「・・頑張ってな・・砂金。俺がオトシマエつけたるさかい・・死んだらあかんで・・・!」
琥珀はそう言って砂金の手を離した。
そしてカーテンを開けて王宮を飛び出した。
「こ・・く・・さん・・・」
砂金が薄く瞳を開けて、途切れ途切れに琥珀の名前を呼んだ。

   

   

   

一方、大爆発に巻き込まれた紅と瑪瑙は、土煙にまかれながらも生還していた。
さすがの紅も、同士討ちはかなり力を削られた。
舌打ちしながら、その場を離れて瑪瑙から距離を置いた。
「はぁ・・はぁ・・・やるじゃねぇか・・!!」
ぺっと血の塊を吐き出して、瑪瑙を探した。
気配があるので、くたばってはいないと感じた紅は周りに神経を張り巡らせた。
「奴はどこに・・・」
その時だ。
紅の表情に多大な変化が起きた。
目を見開き、明らかに動揺していた。
紅の正面・・数百メートル離れた場所に瑪瑙は立っていた。
瑪瑙が立っているのは、自分の研究所の屋上だった。
そして、瑪瑙の腕の中にいたのは・・・気を失っている朧だった。
「馬鹿なっ・・・!!朧は王宮に・・!!」
「君との戦闘でだいぶ時間が稼げたよ。亜空間転送装置を事前にセットして、彼女をここに転送したんだ」
「てめぇ・・・朧に触るな!!!今すぐその手を離せ!!」
これまでに感情の起伏を示さなかった紅が、朧を見た瞬間に殺気を放った。
瑪瑙の予想通り・・彼女が彼のアキレス腱だと確信した。
「君は彼女の為に世界を壊そうとしている・・。だって人間と精霊の混血児は僕らのように不老不死ではないからね・・」
「・・・よほど俺に殺されたいようだな・・!!!」
感情の色を表すように、紅の炎は真っ赤に染まり燃え盛っている。
だが、瑪瑙は言葉を続けた。
「君の本当の能力は炎なんかじゃない・・・【吸収】だろう?」
「・・・だったらどうだって言うんだ・・・」
「君が最強と呼ばれるのは、他人の能力を吸収して取り込む事・・しかも一個や二個どころじゃない。この子も、君の能力で死なないようにされているんだね」
瑪瑙は腕に抱えた朧を見た。
彼女を最後に見たのはもう数千年も前だった。
混血児ならばとっくに死んでいる年齢だ。
「君は・・・この子の為にずっと戦ってきたんだ・・その執着心は感服するよ」
「・・そりゃどうも・・さぁ、遺言はそれでお終いか?」
「僕も、君と同じくらいに想う人がいる。その人の為なら・・・手段は選ばないだろうね」
「・・・矛盾してるし、天使失格だぜ?」
「うん、それは自覚してるよ。だって・・・」
瑪瑙はわざと紅に見せるように朧を前に差し出した。
紅が歯を食いしばり、錫杖を構えた。
すると、瑪瑙は朧を離した。
朧は地面に真っ逆さまに堕ちていく。
「朧!!!!!!」
紅は風のごとく走り抜け、朧を空中で抱きとめた。
朧はただ眠らされているだけで、どこも異常は見られない。
紅は安堵の表情を浮かべた。
すると、着地した地面からいきなり真っ黒な穴が開き二人を飲み込んだ。
紅が上を見上げると、瑪瑙が静かに口を開いた。

   

「僕自身・・僕を天使だなんて思っていないからね」

   

紅と朧はそのまま地面にのまれるように真っ黒な穴に堕ちて見えなくなった。
そして地面が何事も無かったように閉じてしまう。
瑪瑙は持っていた小さなパソコンで二人が堕ちる場所を特定した。
そこは闇界の王宮。
瑪瑙は二人を闇界に強制送還させたのだ。
「バリア、開始・・と」
瑪瑙がパソコンのキーを打つと、天界のすべての空間にバリアが張られた。
これで闇界の援軍も、紅が再度奇襲にくることは無い。
瑪瑙はいつもと変わらない笑顔で「任務完了」と微笑んだ。

   

   

   

   

   

   

残るは・・ゾークと柘榴、そして・・・・瑠璃だけになった。

   

   

続く