第32話
〜衝動〜
戦場に変わる天界を見下ろすように、塔の天辺に立つダーツの髪が風で揺れた。
神として・・全ての頂点に立つダーツは何を思うのか?
この戦いの悪とは何か?
何故、本質の変わらない生物達が互いを憎み、傷つけあうのか?
その答えは、闇の中。

   

「随分と高みの見物だな、ダーツよ」

   

ダーツの後ろにいたのは、ゾークだった。
ダーツが振り向くより早く・・ゾークの剣がダーツの首に向かう。
空中を切り裂くような音速で、闇色の剣が一線を描いた。
ガキィィィン!!!と剣と剣がぶつかり合う。
ゾークの剣をダーツの剣が受け止めたのだ。
後ろを振り向かずに、その攻撃が読めていたかダーツはゾークの剣を受け止め弾き返した。
水色の瞳と黒色の瞳がにらみ合う。

   

「・・後ろから攻撃するなら、もう少し殺気を隠せ。ゾーク」
「・・生憎、消せるほど生ぬるい殺気ではなくてね。ダーツ」

   

対を成すかのようなダーツとゾークの剣は、世界を表している。
天の光のように純白な剣と、地の闇のように漆黒な剣。
まさしく、世界の覇王が持つに相応しい宝刀である。
「何故、わざわざ憎しみを生み出すような戦いを望むのだ?」
「我が望んでなどいない。世界が望んでいるのだ」
ゾークはグッと剣を構える。
ダーツはそれに答えないのか、剣を構えなかった。
その余裕な態度が、ゾークの癪に触るようだ。
「お前の失脚を!!!お前の死を!!新たな理想郷を!!世界は望んでいる!!」

   

   

ゾークの刃が空を裂く。
ダーツはそれを受け止めきれずに後ろに押された。
体制を崩したダーツに、ゾークはすかさず攻撃をする。
ゾークの刃がダーツの肩に触れ、空に真っ赤な血飛沫が飛んだ。
ニヤリと笑うゾークだが、肩を斬られても反撃しないダーツにピクリとこめかみを動かした。
いくら体制を崩されたからといって、小手調べ程度の攻撃は避けられたはずだ。
それさえもしないダーツに、ゾークは機嫌を損ねるばかりだった。
「どうした、ダーツ。戦う前から死にたがる腰抜けにでもなったか?」
「・・・解せぬ」
「何がだ?」
「お前と戦う理由が無い」
「・・・・なんだと?」
呟くように言い、目を閉じるダーツにゾークは怒りを滲ませた。
天使を略奪し、襲撃をしたゾークにまるで敵意が感じられないのだ。
ゾークからしてみれば、それは明らかなる屈辱である。
「貴様は馬鹿か!?我はお前に宣戦布告を叩きつけたのだ!!己の領分を侵す者は敵と判断せざるを得ない!!それが定めであり掟だ!!」
「・・・・」
「忘れたとは言わせぬぞ!!ユナの惨劇を・・・!!」
ゾークの叫びに、ダーツは目を見開いた。
やっと、ダーツがゾークを見つめた瞬間でもある。
「お前が世界の神など我は認めぬ!!貴様に神である資格は無い!!」
ゾークの言葉が酷く胸に突き刺さる。
ダーツは心のどこかで・・・自分は神に相応しくないと思っていたのだ。
だが、それは絶対に誰にも知られてはいけない。
誰も、知ってはいけない。
神は、罪を犯してはならないからだ。

   

ダーツの心に、まるでノイズのような映像が流れる。
殺めるつもりのなかった者の死。
守れなかった者が、己を守り死に行く姿。
そして、羽の無い杏花の後ろ姿。
儚く、脆く、愛しい。

   

「天王様!!」

   

「!?」

   

ダーツとゾークの間に割り込み、琥珀がゾークの剣を受け止めた。
ゾークはチッと舌打ちをして、後ろに引いた。
琥珀は後ろにいるダーツに声をかける。
「天王様!怪我ありまへんか!?」
「大事ない」
「めっちゃ血ぃ流してますやん!!!」
琥珀が心配そうに言うが、ダーツはさほど気にしていないようだ。
琥珀はすぐにゾークと向き直ると、激しい殺気を飛ばした。
弟を奪われた憎しみ。
世界を破壊した怒り。
大事な友を傷つけるゾークを許すほど、出来た天使ではないと本人も自覚している。
「ゾーク!!さっさとここから出て行ってもらうで!!」
「ほう・・随分と威勢のいい天使だな」
「あんたはここに喧嘩売りに来たんやろ?だったら無傷で帰れるなんて思ったらあかんでぇぇぇ!!!」
琥珀の翼が音速で飛び立ち、ゾークめがけて剣を振るった。
ゾークは琥珀を眼中にないのか剣を構えない。
このまま首を取る勢いで突っ込んだ琥珀だが・・琥珀に立ちはだかる壁のように、瑠璃がそれを遮り現れた。
「なっ・・・・!!?」
「甘い」
瑠璃の腕は鋼のような硬度で琥珀の剣を受け止め、もう片方で琥珀の右頬を狙う。
琥珀は頭を下げ、身体をねじって瑠璃の顔面を蹴り上げようとしたが、体術では瑠璃が上だ。
瑠璃はそれを避け、琥珀は一定の距離を保った。
「瑠璃・・・!!」
「よぅ、兄者。久しぶりやな」
瑠璃の瞳はアイス・ブルーのようで、昔の面影はない。
琥珀はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「場所変えるで。ここじゃゆっくり話も出来ひんやろ?」
瑠璃が挑発するように、指を曲げ手招く。
琥珀と瑠璃は翼を広げてダーツ達の前から姿を消した。
真っ白な羽が空を舞い、ダーツとゾークがそれを見つめた。
「・・・邪魔者は居なくなったようだな。ダーツ」
ゾークが再度、ダーツに剣を向けるとその剣に鎖が巻きついた。
「何だ・・これは!!?」
ゾークが巻きついた鎖を見た時、ある一方から別の鎖がゾークの周りを取り囲み、光の球体の中にゾークを閉じ込めた。
誰の捕縛か解ったゾークは、二人の元にやってきた碧海を睨み返した。
「悪いが大人しくしてもらうぜ。あんたは立派な法律違反者だ」
「やれやれ・・裁判長自らのお出ましか」
「黙れよ。あんたにでかい借りがあるのは琥珀だけじゃ無ぇんだ。本当なら、この場で処罰してぇくらいだ」
冷たく言い放つ碧海は、ダーツの元に駆け寄った。
「天王様、怪我の治療を・・」
「必要ない」
ダーツの肩口をみると、服は斬られていたが傷口は塞がっていた。
自己再生能力だろう・・碧海はホッと安堵する。
光の球体に閉じ込められたゾークは、ふっと笑った。
本来ならこんな鎖と結界などすぐに破られるが・・ゾークはそれをしなかった。
(ゆっくり眺めてやろう・・愛しい者が死にいく様を見て絶望するお前をな・・・ダーツ・・・)

   

   

   

それと同時に、杏花のいる部屋の扉が開いた。
杏花の目の前には、いつか見た赤髪の天使が・・・微笑んでいた。

   

   

続く