番外編
〜優しいキスをして〜



龍涎が去った日の夜、琥珀は砂金の家で過ごすことにした。
砂金も琥珀に謝らなければいけないこと、伝えたい言葉があるので初めて「側にいてほしい」と言ったのだ。
琥珀も聞きたいこと、知りたいこと、伝えたい言葉があったので二つ返事でOKを出した。
   
「どうぞ」
   
「おおきに」
   
砂金の食後の珈琲が出てきて、琥珀はそれを飲む。
さっきまでとは打って変わったような静けさが日常へと溶け込んでいった。
琥珀は砂金に、最初から最後まで事情を説明してもらう。
砂金も琥珀に、どういった経緯でそうなったのかを説明した。

黙って聞いていた琥珀だが、黙って見過ごせない事実に思わず声を出す。

「…つまり、あのキザ野郎に二度もキスされたんか!?」
「え?あ、そうなりますわね…」
「っかー!ほんまにキザ野郎やな!口移しとかどんだけやねん!」
あかん、それは許せへん!と頭を抱え込む琥珀に砂金は苦笑する。
それと同時に、いつもの琥珀だと安心した。
「私、もう琥珀さんは会ってくれないと思っていました。私は貴方にあんな酷いことをしてしまったのですから…」
「そんなん、気にしてへんて。俺は砂金から嫌われた訳やないって解っただけでも楽になったわ」
「琥珀さん…」
「まぁ、二度も他の男にキスされたんは根に持つけどな」
あはは!と笑う琥珀は器が小さいのか大きいのか解らない。
すると、砂金の手を取ってひょいっと持ち上げると砂金の寝室へと向かう。
琥珀は砂金をお姫様抱っこして「今日は疲れたやろ?子守唄歌ったるわ♪」と笑顔を見せた。
そっとベッドに横にさせると、ふわりと布団をかける。
そして、ベッドの脇に座ったら手だけ握りしめた。

サイドテーブルの灯りが、琥珀の綺麗な髪の色を淡く見せている。

「あの、琥珀さん?」
「ん?なんや?なんか子守唄のリクエストある?」
「いえ、そうではなくて…貴方は隣で一緒に寝てくれないんですか?」
「んー…そうしたいんは山々やけどな、なんか怖いねん」
琥珀は少し遠慮ぎみに、ぽつりと呟いた。
どうやら、砂金に拒否されたことが相当堪えているようである。
しょんぼりとしたような、落ち込む肩が琥珀の複雑な男心を見せている。
「ほら、あれや。あのキザ野郎の言うことも信じられへんしな。呪いを解いた言うても実は解いてへんとか…」
「…私は琥珀さんにキスしてほしいですよ?」
「え?」
砂金の言葉に振り向いた琥珀に不意打ちのキスがやって来る。
いつも求めてばかり、甘えてばかりの遠慮とか知らない琥珀からのキスは沢山あったが砂金からのキスはなかなか無いのだ。
ちゅっ、と離れた唇と間近にあるお互いの顔を見つめる。
砂金はそっと握りしめていた手に指を絡める。
「私、いつも貴方に遠慮していました。貴方に迷惑をかけないように、自分は大丈夫だと言い聞かせて…でも私は貴方を傷付けただけでした」
「砂金、そんなん平気やって…」
「私が平気ではないのです。愛する貴方を傷付けた私が許せません」
はっとしたように目を見開く琥珀に砂金は微笑む。
もう、遠慮はしません…私も我が儘を言います、と。
お互いの心の距離が、ぐっと近付いた気がした。
「側にいてください、離さないでください、龍涎さんにキスをされた事をもっと怒っていいんです」
「砂金…」
「貴方はいつも言っていたでしょう?私は琥珀さんのものだって。今からずっと、堂々と言っていいんですよ。私も、貴方は私のものだと思いますから」
「…ほんまはな、めっちゃムカついとんねん。でもな、砂金が傷付けいたり苦しかったりするんやないかなって。俺、瑠璃みたいに優しい奴やないもん」
「貴方は優しい人ですよ、琥珀さん」
にこりと微笑む砂金に、琥珀は遠慮しないと言わんばかりのキスをして二人でベッドに沈む。
琥珀はいつもの調子で本音を話した。
時には冗談まじりに、時には説教じみた言葉で。
砂金はクスクス笑いながらまるで子供を宥めるように琥珀の頭を撫でてぎゅっと抱き締めた。
   
   
   
(あとな、これだけは言わせて!)
   
   
   
   
   
   
(君を誰よりも愛してる)
   
   
   
   
   
   
続く