第47話
破壊



フードを被った男がネクロと杏花を拐ってから日が経たないある日、砂良の悲鳴から闇界には衝撃が走った。
柘榴が駆けつけたその時、砂良は倒れていて大理は殺され石に戻されていた。
片割れである黒曜も倒れていて…三人がいつもいる部屋は惨状となっていた。
医師である梅花が看たところ砂良は問題がないが黒曜は手傷を負っていたらしい。
大理が石になり、黒曜が負傷していた所から奇襲を受けたと判断された。
だが、それにネクロが言い返す。
   
「お父様、私の結界が侵入者に反応しなかったわ。天界の仕業じゃないかもしれない」
「では誰が侵入して二人をこんな姿にしたのだと言うのだ?」
「それは…」
   
解らないけど、と言う言葉を呑み込む。
この前出会った杏花達の顔が頭に浮かび、ネクロは目を伏せた。
ゾークは「城の警備を強化し、誰が侵入したのか明らかにせよ!」と命じる。
柘榴はバタバタと慌ただしくなる城の様子を冷静に見つめていた。
   
   
   
   
城の長い廊下にて、紅と朧が歩いていたら柘榴が話しかけてきた。
二人は立ち止まり、柘榴を見返す。
   
「どうした?執事くん。こんな事態だ。お嬢の側についてやれよ」
「勿論、そのつもりです。紅官長はこの事態をどう考えておいでですか?」
「そうだなぁ、お嬢の結界をすり抜けることが出来るのは…影に潜める暗殺者くんくらいかな、とは思ってるかな」
「僕もそれは思います。それとひとつ、元から結界に入れる城の人間だとしたら…また違ってきますね」
「おいおい、仲間が石にしたっていうのか??」
   
あはは、と笑い飛ばす紅に柘榴は「昨日はどちらに?」と質問した。
柘榴は紅を疑っている、と取られても仕方ない質問だ。
すると、朧が「紅は昨日、悲鳴を聞くまで私のところにいたよ」と話した。
柘榴はその言葉を聞き、そうですか、と一礼してその場を去る。
柘榴の姿が見えなくなってから、紅は朧を見た。
   
「何であんな嘘をついたんだ?」
「…仲間同士、疑わせるのは良くないだろ。仮にもお前はゾーク様を支える存在だ。疑わせるような真似はするなよ」
「へいへーい」
   
紅は面倒くさそうに返事を返した。
それでもまだ、柘榴には紅が疑わしいと感じてしまう。
どうしても、あの黒いフードを被った男が紅と重なるのだ。
確執的な証拠もないからこれ以上はただの予測だが、あの大理と黒曜が簡単にやられてしまうものだろうか?
もしも、顔見知りの者から奇襲を受けたとしたら…。
   
「柘榴!黒曜の意識が戻ったぞ!」
   
廊下から走ってきたのは大牙だった。
柘榴はすぐに黒曜の休む病室に行くと、黒曜は悔しそうに俯き拳を震わせていた。
ゾークが入ってきて、黒曜に「誰に殺られた」と問う。
すると、黒曜は涙を滲ませながら憎らしい声をあげる。
   
「天界の暗殺者…翡翠が兄上を殺した…!!」
   
その言葉に目を見開き誰よりも驚いたのはその場に居た紫水かもしれない。
ゾークは「皆、下がれ」と命じた。
それぞれが部屋を出ていき、紫水はなにも言わずに足早に外へ向かう。
その後を追う白銀だが、紫水は「来るな」と言った。
   
「何だよ!別に僕はお前が心配なんじゃないんだぞ!天界が動いたなら戦争だろ?だから」
「まだ決まった訳じゃない」
   
背中しか向けない紫水に白銀は頬を膨らませて「それしかないだろ!」と文句を言った。
   
   
   
   
柘榴はネクロと大牙と共に、ネクロの部屋へと戻り紅茶を淹れた。
大牙はテーブルに膝をつき、ネクロは自分の掌に結界を凝縮した立体キューブを出す。
それが透明なゾークの城の形になりネクロの意志で様々な部屋の様子へと変化する。
   

「おかしいわね、侵入者が来たら結界が反応するのに…それに大理と黒曜がすぐに殺られる訳ないわ。」

「僕もそう思います。砂良さんの悲鳴を聞き付けてそう経っていないのに…」
「でも黒曜は天界の暗殺者を見たんだろ?」
「……それは…」
   
柘榴は言いかけて言葉を止める。
まだ憶測でしかないのだ、言うわけにはいかない。
するとネクロが「そういえば…」と思い返したように話した。
   
「砂良の悲鳴を聞き付ける前に、ちょっと結界が歪んだ気がしたの。なんか…私の結界が何かに反応したような…」
   
その言葉を聞き、柘榴はネクロにその結界の能力のことを聞いた。
結界の中で、もうひとつ別空間のように遮断する結界を作れることは可能か、と。
ネクロは可能だと答える。
只し、それを出来るのは自分だけだと。
   
   
   
   
柘榴は闇界の記録保管庫に行き、能力者の記録を見る。
紅が今まで集めた能力も記載されており、それを指でなぞって見ていた。
   
(あった…他者に化ける能力。紅官長がもしもあのフードの男であったなら…)
   
「よぉ、何見てんだ?」
   
「!?」
   
はっとして後ろを見ると、紅がいた。
いつもと変わらないヘラヘラした笑みを見せる。
「それ、俺の記録だろ?」とわざと質問した。
   
「僕はあなたを一番疑わしいと思っています。本気でね」
「おいおい、まさか俺が大理たちを襲ったってのか?根拠はなんだ?動機は?」
「動機は解りません。ですが、貴方がもしもネクロお嬢様を襲ったフードの男なら…可能です」
「へぇ…」
「フードの男が貴方で、あの時お嬢様から能力をコピーしたのなら…お嬢様の結界に別空間の結界を作り、わざと翡翠の姿に化けて襲った…それを出来るのはこの王宮で貴方だけです」
   
柘榴がそう言うと、紅はパチパチと拍手を贈る。
   
「そうだな、俺ならそれを出来る。だが身内からまず疑うってのはどうかな?なんで単純に翡翠が襲ったと思わない?ダーツがゾークを許さない理由は沢山あるし、ダーツが先に奇襲をかけてきてもおかしくはないだろ?」
「…僕は天王が奇襲をかけて戦争の引き金にしようとしていると素直に思えません。それならとっくの昔に戦争はまた繰り返されているはずです」
「…お前がそう信じたいだけじゃねぇのか?」
   
ニヤリ、と笑う紅に柘榴は眉をしかめた。
だが、紅は柘榴の目の前に立ち…まるで見透かすように問い質す。
   
「それに、俺が出来るならお前だって出来るじゃねぇか…変身と幻覚、だろ?」
「何を馬鹿な!僕が犯人だと言うんですか!?」
「あくまでお互い確信のない予測だろ?自分が犯人だと疑われたくないから俺を犯人に仕立てあげようとする…お前ならやりそうなことだ」
「僕を愚弄するって言うんですか…!!」
「なら、お前は俺を愚弄してもいいって言うのか?身の程を知れ、執事」
   
声が低くなり、威圧を感じて柘榴は目を見開く。
そこにはいつもの紅ではなく、軍の最高責任者としての顔をした紅がいた。
   
「総司令指揮官長たる俺に、たかがお嬢のお気にいりで護衛の執事が言えたことか?分を弁えろ」
「……、申し訳…ありません」

「いずれ戦争になるだろう。お前の役目はお嬢を守ることだ。それだけ考えておけ」

「…はい」
   
紅はそう言い残してその場を去る。
悔しいと唇を噛み締める柘榴だが、やはり柘榴は紅の疑いを拭いきれなかった。
   
   
   
   
   
   
その頃、黒曜は夢の中で魘されていた。
いつものように三人で居たらいきなり空気が変わり、別空間に閉じ込められた。
大理はすぐに砂良を庇うように背中で守り、黒曜も辺りを警戒する。
すると、影から【あいつ】が出てきた。
緑色の髪、黒い服、二刀流の出で立ちの暗殺者が…。
   
「兄上!!!」
   
がばっ!!と起き上がった黒曜は息を切らしている。
隣には眠る砂良がいて、辺りを見回しても大理はいない。
そうだ、兄上は、自分の目の前で敵に胸を貫かれ…石に戻されたのだ。
   
「っ、うっ…!うっ…!あに、うえぇ…!」
   

涙が溢れて視界が滲む。

ぐしぐしとそれを乱暴に拭ったら膝を抱える体をぎゅっと抱き締めた。
瞳には憎しみの色しか見えていない。
   
「…ろ、してやる…!!殺してやる…、翡翠!!!」
   
黒曜はベッドから起き上がり、いつもの黒い服に着替えたら梅花の病室を後にしようとした。
出ていく間際、砂良に振り返る。
砂良は無傷のようで…黒曜はまた踵を返して眠る砂良に近づいた。
   
「馬鹿女、お前のためじゃないからな。兄上の仇を取るんだ…あの暗殺者の石を粉々に砕いてやる…!」
   
「………じゃぁな、ブス。さっさと目覚めろよこのノロマ」
   
そう言って、黒曜は窓から抜け出し夜の空に消えていく。
砂良はゆっくりと目を開けて、窓を見つめた。
   
「大理さん…黒曜さん…待って、行かないで…私も…」
   
一緒に連れてって。
砂良は無理矢理体を起こして、窓から月を眺める。
その月に手を伸ばすように羽を広げて飛び立った。
   
   
   
   
   
   
天界の夜に、翡翠は見張りとして道を歩いていた。
すると後ろから紅瑪が追いかけてきたので目を丸くして振り返る。
 
「待って!翡翠!忘れ物だよ!」
「忘れ物?何だよ」
「夜食のお弁当!」
「ピクニックかよ!!」
   
有り難くもらうけど!と素直に受け取る翡翠に紅瑪はニコニコと笑う。
その様子を、闇界から来た紫水が木の上から気配を殺して見ていた。
紫水はあれからずっと翡翠を見張っている。
本当に翡翠が襲ったのか…自分の目で確かめるためだ。
だが、そんな素振りも見られない…本当に、翡翠が…?疑問は紫水の心を鈍らせた。
   
すると、風が突風のように舞い上がり翡翠と紅瑪は目を覆う。
風と共に、黒曜が目の前に現れて翡翠は影から武器を取り出し構えた。
   
「お前…!闇界の…!!」
   
「翡翠…兄上の仇だ!!お前を殺す!!」
   
尋常でない殺気が黒曜の周りを取り巻いた。
翡翠は「何の話だ!」と問いかけるも黒曜の耳には届いていない。
紫水も一瞬体が動こうとしたが、止まった。
どちらの味方をするべきか、と。
   
   
「死ねぇぇぇ!!!翡翠!!!」
   
   
黒曜の悲痛な叫び声が翡翠に襲いかかり、翡翠は黒曜を睨み付けながら刀を構えた。
   
   
続く