第54話
奪還



意識を取り戻した砂良が見たのは、綺麗な天井とカーテンから漏れる優しい光だった。
そして姉である砂金が自分の顔を覗きこんで手を握っている。
お姉さま……?と聞くと、砂金はゆっくりと頷いた。
梅花がやって来て、心拍数や血圧を計り異常はないか検査する。
ボーッとする視界に見えたのは石になったはずの大理と黒曜だった。
   

「大理さん……?黒曜さん……?」

「砂良、大丈夫?俺が解る?」

「はい……でもなんで?ここは……」

「ここは天界の王宮の中だ。ゆっくり話すから……もう大丈夫。ここは安全だ」

「はい……」

   
砂良はまた目を閉じて眠りについた。
砂金が梅花に砂良の状態を尋ねると、梅花は苦笑しながら「問題ない。安心して寝てしまっただけだ」と言った。
大理と黒曜は勿論ゾークが再生させた。
砂良が意識を取り戻す前に、ゾークが回復して石に戻された部下を再生したのである。
勿論、紫水も。
紫水はやたらと白銀に文句を言われ、すまないと謝った。
白銀は再生した紫水がいつもの紫水で安心したのか、涙目になりながら馬鹿だののろまだの散々な事を言う。
だがそれも心配していてくれたからだと紫水は解っているので黙って聞き流した。
そしてやっと戦場以外で話すことになった翡翠と紫水は対峙している。
何を話そうか迷う弟と、弟の言葉を待っている兄のせいで硬直状態は十分ほど続いた。
ちょっと離れたところで白銀と紅瑪が見守るなか、やっと翡翠が顔をあげる。
   
「……無事で良かった、あ、兄貴……」
   

「お前も無事でなによりだ。翡翠」

   
やっと出た言葉はそれしかなかったが、二人にはそれだけで充分だった。
もう争うことなどしなくていいのか?と翡翠が聞くと、紫水は未だに信じられないと目を疑うさっきの出来事に言葉を濁した。
石から再生させられ、事態を聞き、天界と協定を結んだと言うのは心底驚いたものだ。
そしてなにより、傍らにダーツがいても何とも思っていないゾークを見たときの衝撃が忘れられない。
今はダーツと争っている場合ではない!とゾークは言っていたが、これからまた争うことがあるのだろうか?
   
「ゾーク様は……変わられた」
   
クスッ、と笑う紫水は翡翠と向き直る。
翡翠は心配そうな顔をしたが紫水から頭を撫でられて顔を赤くする。
   
「きっともう争うことはない。やっとお前の兄として話せるときがきて私も嬉しく思う」
「……俺もだ、兄貴!!」
   
ぱぁっ!と解りやすく表情を明るくする翡翠に紫水も自然と微笑んでしまう。
すると、それが面白くない白銀が掌から氷の刃を出して氷柱のように翡翠に降り注がせた。
いきなりのことに翡翠は驚き、咄嗟に影に潜り込み紫水の影に移動する。
紫水は糸で氷柱を粉々にして兄弟ともに無事である。
   
「何すんだよ!!白銀!!」
「うざったい。暑苦しいんだよ、兄弟愛がさ。僕は暑苦しいのが嫌いなんだ。僕の氷で冷たくしてやるよ。身も心もね」
「はぁ!?いきなりなんだよ……」
「うるさい!僕はまだ君を認めてないから!!君みたいな弱い奴が弟だから紫水がまぬけにも殺されたんだ!」
「俺が弱いだぁ!?お前よりはマシだね!!」
「なにを!?やるってのか!?」
「受けて立つ!男女野郎!!」
   
ぐぬぬ、と歯を食い縛り喧嘩をするように睨み合う二人を紅瑪が止めようとするが、紫水はそれを「じゃれてるだけだ。放っておけ」と止めた。
それにしても、いつの間に我が弟と白銀は仲良しになったんだ?と紫水は首を傾げる。
紅瑪も「あれ?翡翠……女の人と普通に話せてる……?」と首を傾げた。
どうやら、翡翠は白銀を女と思って接しておらず平気のようである。
面白いからこのまま観察しよう、と紫水は椅子に座りその光景を眺めていた。
   
「あの、紫水さん…本当は翡翠はもっと貴方と話したいと思ってます。全部終わったらまた会いに来てくれますか?」
「……会いに来るだけじゃ物足りない。いっそ、共に暮らしたい」
「え?…それって…」
「四人で家族になるのも悪くないな」
   
くすっ、と妖しく微笑む紫水に思わず紅瑪は赤面する。
それだけを見てしまった翡翠と白銀は紫水へ怒りの抗議を見せた。
   
「兄貴!!紅瑪に変な微笑み向けるなよ!かっこいいから紅瑪がびっくりするだろ!」

「おいこらそこの天然たらし!!若い娘にちょっかい出してんじゃねーよバーーーーーカーーー!!」

   
「嫉妬か?お前ら」
   
「「違う!!」」
   
兄弟より息がぴったりの翡翠と白銀に紫水は目を細めて微笑を浮かべ、紅瑪はクスクスと笑った。
   
   
   
   
一方、ゾークとダーツはまた少しの対立を起こしていた。
王宮奪還作戦に杏花が加わることを不服とするダーツと、そんなダーツを説得しようとするが短気な性格が災いして喧嘩腰なのである。
今日も作戦開始の直前までダーツは渋い顔をする。
まぁ、天界の天使たちもそれは同様で、出来ることなら杏花を王宮に残したいが杏花がこの作戦の要になるのだ。
ゾークの話した秘策に、杏花は絶対に必要だと強く柘榴とゾークは話した。
そして、その本人である杏花がこの作戦に賛成したので文句も言えない。
   
「ダーツ、明日にここを発ち、闇界の王宮に奇襲を仕掛ける。いい加減にしろ」
「…駄目だ、彼女は我々のように戦えない。危険すぎる」
「…貴様が王でなかったら、しばき倒したのだがな」
   
イライラが表に出すぎているゾークは、腕組みして片足をもう片足の膝に乗せてふんぞり返っていた。
まだ完治とまではいかないが、弱い所を見せられないと強がっているのかも知れない。
その横暴な態度に気をかけるほど冷静さが足りていない今のダーツは頭を抱えて苦悶の表情を浮かべていた。
頭のなかに浮かぶのは、ただ一人だけこの作戦に賛成した杏花の事だ。
   
『私…やります。私しか出来ない事なら………ううん、私にやらせてください!』
   
何故、あんな躊躇った言葉を言い換えて最後は同意したのだろう。
これが彼女に無理強いした事なら心に悔やみが出る。
天使たちも戸惑いながら、杏花が頭を下げたので慌ててそれに従った。
   
「…杏花の気持ちが解らぬ…どうして…」
「そんなもの二の次でいいだろう。とにかく明日は予定通り作戦を実行するぞ」
   
空気を読まずに発言するゾークにダーツはジロリと睨み付けた。
すると、会議室で話していたダーツの視界に杏花が映る。
丁度向かっているのは中庭の奥にある庭園だ。
色んな種類の薔薇が迷路となっている趣味の庭園である。
よくそこで女子メンバーがお茶会を開いていてお招きを受けたこともあった。
ダーツは杏花を追うように席を外した。
だが、ゾークはダーツが席を外したことに気づかずに話し始める。
   
「貴様が心配する気持ちは解らなくはない。我だってユナだったら反対するだろう。だからって別にお前の嫁になる小娘だからいいってわけじゃない。その、なんだ…我もあの小娘は根性があると思うし不可能を可能にしそうな予感がするのだ。…だからお前もあの小娘を信じて」
   
力説しながら目を開きダーツの方に振り向くがダーツは居らず代わりにお茶とお菓子を持ってきた柘榴が目をキョトンとさせていた。
一瞬の沈黙の後、柘榴は「何かの演説の練習ですか?」と言うとゾークは「違う!」と顔を赤くした。
   
   
   
   
その頃…ダーツは杏花を追いかけて、二人きりで話すことにした。
杏花もダーツの隣に座り、ダーツの言葉に耳を傾ける。
杏花もまた、明日の事を気にかけて一人で当てもなく散歩をしていたのだ。
そこにいきなりダーツが現れてびっくりしたが、ダーツの憂いた表情に何も言えなくてダーツの言われるままに庭園の椅子に腰かけた。
   
「杏花、正直に答えて欲しい。君が戦場に出る事がないとしても…君は行くと言うのかい?」
「……私が戦場に出る意味がないわけないと思うの。だからその質問はおかしいよ。でも…例えそうだとしても私は行きたい。ネクロちゃんを助けたい」
「友の為…か」
「でもそれだけじゃないよ。この戦争を終わらせたいの。ダーツさんとゾークさんの戦いも、この戦いも…何もかも」
   
杏花の強い気持ちも解らなくはないが、やはり杏花は普通の女の子と同じように非力だ。
神であるダーツからすればガラス細工のように脆い存在だと思っている。
繊細で、愛おしい存在だからこそ自分の側において大事にしたいし壊れてほしくないと思う。
だが、それはガラス細工のお人形の話であり杏花は心のある人間なのだ。
ダーツが大切に大切にしても…杏花の気持ちを踏みつけてまで自分の我が儘を押し付けるべきではない。
頭では解っていても…不安なのだ。
杏花を失うかもしれない恐怖がダーツを小さな男にしてしまう。
   
「……君は戦えない。それでも行くのか?」
「うん。ゾークさんは他の誰にも出来ない、私しか出来ないって言ってくれたの。それって私のこと少しは信用してくれてるって事だよね」
   
杏花がニコッと笑った。
そこにダーツが思う恐怖はない。
一番怖いのは杏花のはずなのに、杏花は笑ってくれたのだ。
   
「何故、笑えるんだ?杏花…私には解らないよ」
「そう?私ね、ダーツさんもゾークさんも皆を信じてるから」
「信じる…」
「一人じゃないから…私も連れていって。皆がいれば私も頑張れるから」
   
ね?と杏花はダーツを安心させるように笑顔を向けた。
そっと繋がれた手のひらが温かくてダーツの不安が少しずつ消えていく。
   
(君は不思議な子だ…そう、昔から。君は変わらない)
   
古い記憶の中に、杏花だけれど杏花じゃない彼女を思い出したダーツは心にある棘の痛みを思い出す。
そっと目を開ければ、首を傾げてこちらを見ている杏花がいた。
ダーツは安堵したようなため息をついて杏花を抱き締める。
杏花は驚きながらも段々とダーツの温もりを感じて目を細めた。
しばらくお互いの鼓動を抱きしめあっていたダーツが囁いた。
   
「ありがとう、杏花。…側にいてくれ。君を失いたくないんだ」
「うん…私も同じ気持ちだよ。誰も失いたくない…ダーツさんも」
   
ダーツがゆっくりと杏花から離れて、その唇にキスをすると杏花は照れながらもそっと目を閉じた。
   
   
   
   
   
   
準備が整い、まず王宮に残るのは紅瑪と砂金と碧海とランと梅花と負傷した砂良だ。
そして水晶と犬獄丸も残ることに。
ゾーク率いる闇界の勢力とダーツ率いる天界の勢力が協力して闇界奪還を実行する。
二手に分かれて、ネクロ達を救出するメンバーと玉座を奪還するメンバーにわかれる。
ネクロを救出するリーダーは柘榴に任命された。
これはゾークの命令で、柘榴はゾークの命を守ることとネクロを救出することのどちらを優先にするか最後まで悩んでいたがゾークがわざとそう命じた。
柘榴もその気持ちを悟ったのか、何も言わずに頭を下げる。
ダーツの隣にはゾークが並び、目を合わせて頷いた。
   
「これより!闇界の王とともに玉座を奪還する!!我ら天界の天使らはゾークを援護せよ!!」
   
「我は天使らと共に闇界の玉座を奪還する!!天界の王の助力に敬意を表し反逆者であるデザイヤを討ち取るのだ!!!」
   
二人の王の掛け声に、兵士達の士気が上がる。
緊張する杏花には天麗が付き添った。
天麗は杏花の気持ちを察して、ぎゅっと手を繋いだ。
   
「大丈夫!!さっさと終わらせて今度はネクロお嬢様ともお茶会しよう、杏花様」
「天麗……。うん、皆で帰ろうね!」
   
杏花は天麗に抱えられ空に舞い上がる。
こちらの動きに合わせて、あちらも王宮から兵士らを差し向けてきた。
最初に攻撃を仕掛けるのは、柘榴と琥珀と瑠璃である。
邪魔や!どけ!と言いながらも琥珀は柘榴の背中から襲いかかる敵をなぎ倒した。
そんな琥珀の横から襲いかかる敵は瑠璃が拳で粉砕する。
あちらの兵士らはデザイヤの手先である亡霊に操られまるで人形だ。
鎧の隙間から邪悪な影が蠢きなんとも不気味である。
琥珀は素直に「きもい」と感想を述べる。
   
「我の兵士に…!!あのクソ親父!!」
   
ゾークも剣をとり向かってくる兵士に剣を振り下ろした。
急所を刺された亡霊は悲鳴に似た奇声をあげて煙となって消えていく。
取り憑かれた兵士はそのまま気を失い、倒れこんだ。
兵士自体に怪我はないようでゾークはホッとする。
ゾークとダーツの側に瑪瑙がやって来て槍をくるりと回した。
そこから突風が生まれ刃となり兵士達をまとめて一掃する。
   
「雑魚はお任せください、ここは我々に!」
「あぁ、頼む。行くぞ、ゾーク」
「我が紅と対峙する。貴様は先にデザイヤを討て」
   
ダーツとゾークは玉座を目指し、瑪瑙が道を開ける。
その瑪瑙と共に残ったのは大理と黒曜だ。
大理と黒曜も兵士達を蹴散らして王達の道を切り開いた。
   
「ゾーク様!天王様!御気を付けて!」
   
「御武運を!!」
   
大理と黒曜がゾークとダーツに向けてそう言って瑪瑙と共に群れて襲いかかる亡霊憑きの兵士を蹴り飛ばした。
三人の援護のお陰で、二人は作戦通りに王宮内部へと侵入に成功する。
ダーツとゾークの側にいるのは紫水と白銀と天麗だ。
天麗は侵入する前までは杏花を守っていたが、誰も気づかぬうちに翡翠に託していたのだ。
今はダーツとゾークの援護へと回り、紫水と白銀に協力している。
だが、翡翠と杏花の姿はどこにも無かった。
   
   
   
一方、柘榴と琥珀と瑠璃は窓を蹴破り無理矢理に王宮に侵入した。
王宮を警備していた兵士がガラスが割れる音を聞きつけ廊下の奥からやって来る。
   
「お嬢様の部屋はこの廊下の先です。僕の援護をしてください」
「俺に命令すんなや!でもまぁ聞いてやらんこともないがな!!」
「どっちやねん。兄者、仲良うせいや」
「嫌や!俺はやっぱりいけ好かん!」
   
…とか文句を言いつつもしっかりと柘榴の行く手を阻む敵を斬り捨てていく。
琥珀の後ろを取った兵士だが、琥珀が兵士の剣をかわした瞬間に柘榴が琥珀の肩に手をかけて見事な回転蹴りをお見舞いする。
俺を土台にすんなや!と言いながら、琥珀は柘榴の後ろから襲いかかる敵に刃を向けた。
柘榴の頬をかすめた琥珀の刀は敵の額に突き刺さり、取り憑いていた亡霊が兵士の体から追い出され霧となり消えていく。
   
「なんや、仕留めそこなったわ」
「…いいえ、敵は仕留めましたよ。お見事です」
   
琥珀の皮肉も柘榴はニヤリと笑って返した。
瑠璃は残った兵士と兵士のおでこを思い切りぶつけさせ、気絶させた。
素直じゃない二人に呆れながら、早く行くでと二人の横を通りすぎた。
すると、廊下の奥…ネクロの部屋から悲鳴が上がる。
柘榴はハッとしてすぐに廊下を走り抜けた。
   
「いやぁぁぁ!!なにこれきもっ!!」
   
ネクロと大牙と硫化の前で、兵士らはいきなり融合を始めていく。
それは段々と大きくなり、やがて巨大な塊となった。
いくつもの肉の塊の中に蠢く骸骨があって動きは鈍いが確実に三人を部屋の隅に追いやっていた。
硫化と大牙はネクロを後ろに下がらせているがこのままでは捕まってしまう。
無数の手が三人に迫るとき、扉を開けて柘榴が部屋に飛び込んできた。
   
「お嬢様!伏せてください!!」
   
柘榴は月夜刀を振りかざしその塊に三日月の衝撃波が肉を引き裂く。
だがそれだけでは倒しきれず亡霊と亡霊が繋ぎ合わさり元の姿になった。
そこへ琥珀と瑠璃が一斉に攻撃を仕掛ける。
   
「朱雀!!業火演舞(ごうかえんぶ)!!」
   
「岩砕拳!!蜂腺(ほうせん)!!」
   
琥珀の刀が紅に染まりそこから炎の鳥が舞い上がる。
炎の鳥が敵を包み込むように舞い降りて、瑠璃のドリル状に形成された羽衣蝶が鋼鉄のような強度になって敵を蹴散らした。
跡形もなくなり、残ったのは気絶する兵士達だ。
柘榴はすぐにネクロの側に歩み寄ると、ポカンとして呆けていたネクロを抱き締めた。
   
「ネクロフィーネ様…ご無事で良かった…」
   
「柘榴……うぅっ…ざくろぉ!」
   
今まで緊張と不安のなかにいたネクロが柘榴に抱き締められ助けられたことでやっと安心できたのかその瞳からポロポロと涙を流した。
柘榴は慰めるように、よしよしと頭を撫でるとネクロはもっと撫でなさいと言わんばかりにぐりぐりと頬を寄せる。
どこも怪我がないことに柘榴はやっと落ち着いたと心の中で微笑んだ。
   
「お父様は!?皆は無事なの?」
「はい、石になった者もゾーク様の手によって復活しました。ゾーク様もご無事です」
「…って、あんたら天界の番人じゃない!なんで一緒に!?」
「今は協定を組んで王宮を奪還しているんですよ。とにかくネクロフィーネ様らは天界に避難してください。大牙、お前なら天界まで行けますよね?」
   

柘榴は大牙に目を向けると、大牙は「任せろ!」と胸を張った。

硫化も元は天界の天使だ、問題ないだろう。
硫化は瑠璃に声をかけたいような顔をすると、瑠璃は「また後で。天界で会おう」と微笑んだ。
ホッとした硫化はネクロに頭を下げる。
   
「お嬢様、天界に参りましょう」
「えぇ、解ったわ……柘榴」
「はい、ネクロフィーネ様」
   
じっと見つめるネクロは柘榴の頬にキスをした。
柘榴は驚いたが、それはネクロが自分の無事を祈るためのキスだと察して顔を赤くする。
そして、ネクロを安心させるようにネクロの手の甲にキスを返した。
   
「必ず帰ります…あなたの元へ」
   
「必ずよ…柘榴」
   
ネクロは名残惜しそうに柘榴から離れて虎の姿になった大牙の背中に乗る。
硫化もその後に続き、三人は窓の外から飛び出した。
残った柘榴と琥珀と瑠璃だが、琥珀がムスッとしたように眉を潜める。
   
「どないしたんや?兄者」
「人様のラブストーリーをなんで見つめなアカンねん」
「茶々いれんなや。ええところやろ」
   
二人の会話に、一気に現実に引き戻された柘榴は琥珀に対してだけ殺意を覚えた。
   
   
   
   
王宮に侵入したダーツとゾークを最初に迎え入れたのは紅だった。
紅の猛火が王らを襲うが、白銀が紅に向かって氷の刃を向けた。
それを避けると紫水が紅の首に糸をかけ引き裂こうとするも紅は炎で紫水の糸を焼ききった。
なんて威力だと驚く紫水に紅は蹴りをいれて吹き飛ばす。
やはり実力は闇界一と言えるだろう…ダーツが剣を構えたがそれを制したのはゾークだった。
   
「先に行け、ダーツ。お前はデザイヤの元へ…!ファリスを助けてくれ!」
   
「…解った。必ず来い」
   
ダーツは紅の横を通りすぎようと走るが紅がそうはさせないと炎を繰り出した。
八つの竜のような炎の柱はダーツらを襲おうとする。
だが、それを剣で全て払いのけたのはゾークだった。
そのままゾークは紅に突っ込み剣を振り下ろした。
   
「行けぇぇ!!!」
   
ゾークの言葉にダーツ達は二人の横を通りすぎて奥の玉座の間へと向かう。
紅を足止めすることが出来たゾークは紅から離れて間合いを取った。
向かい合うゾークと紅…ゾークは紅の炎がいつもと違うことに気がついた。
らしくない…それが今の紅を見た感想である。
   
「今度はダーツと仲良しごっこか?どうしちまったんだよ、ゾーク…お前にとっての復讐はそんなもんかよ」
「復讐なんぞいつでも出来る。だが、今は王としてやらねばならんことがあるのだ」
「なんだよ、俺を殺すことか?」
「違う。お前を取り戻すんだ」
   
我の言葉がお前に届くまで…何度でも。
そういってゾークは紅に剣を向けた。
   
   
続く