16歳、僕隠れてます オリジナル3人バージョン

  舞台中央に、小屋のような、囲いのようなものがあり、そこに少年1が座っている。女が何かに追いかけられるように走ってくる。女立ち止まり後ろを振り向き、安心したように座り込む。女の服は現実的でなくどこかに不自然さを感じさせる。

少年1 こんにちは。

  女驚きの叫びをあげる。

少年1  大丈夫です。僕何もしませんから。

女   ホントに?

少年1  ホントです。 

女   じゃ、証拠見せて。

少年1  証拠?

女   あなたが何もしないって証拠。

少年1  証拠はありません。でも僕何もしません。

女   あたしには?

少年1  誰に対しても。  

  女、少年1をもう一度じっくりと見る。

少年1  信じてもらえないですか?

女   あなた何でここにいるの?

少年1  隠れてるんです。

女   隠れてる?

少年1  そうです。隠れてるんです。

女   誰かが探してるの?

少年1  鬼です。

女   えっ?

少年1  鬼が探してるんです。

女   かくれんぼ?

少年1  冗談です。

女   えっ?

少年1  ちょっと冗談言ってみました。面白くないですか?

女   全然。

少年1  みんなそう言います。

女   そりゃそうでしょ。

少年1  僕が冗談言っても、誰も笑ったことがありません。

女   ねえ、あなた友達いないでしょ?

少年1  いません。

女   一人も?

少年1  ウィリアムスがいます。

女 ウィリアムス?

少年1  紹介しましょうか?

女   別にいいよ。

少年1  ちょうど今来てるんです。

   少年1、後ろに置いてある物の覆いを取る。中から石膏像が出てくる。

少年1  紹介します、ウィリアムスです。

女、しばらく石膏像を眺めている。

少年1  ウィリアムスは気のいい奴なんです。どんな話でも黙って最後まで聞いてくれます。ウィリアムス、紹介するよ。こちらは………そうだ名前を聞いてなかった。ねえ、名前なんて言うんですか?

女   …………ねえ、これも冗談?

少年1  冗談って?

女   だからさ、この石膏像が友達ってのも冗談なの?

少年1  石膏像じゃなくてウィリアムスです。友達なんです。

女   じゃ話したりするの?

少年1  毎日話してます。

女   信じらんない。

少年1  だって友達ですから。

女   じゃ話しかけてみてよ。

少年1 ウィリアムス。僕のことどう思う?

  少年1石膏像をじっと見つめる。 

少年1  僕って「小学校の同級生に忘れられる男」かな?それとも「一緒に牛タンゲームをやりたくない男」かな?…………そうでなかったら「ポケットティッシュを常に絶やさない男」かな?…………そっかやっぱりそんなこと自分で考えなきゃダメだよね。……わかったそうするよ。…………(女に)まあこんな感じです。

女   ねえ、空しくならない?

少年1  何で?ウィリアムスに話聞いてもらうとすごくすっきりするんですよ。試しに話しかけてみたらどうですか?

女   遠慮しとく。

少年1  別に遠慮しなくてもいいのに。

女   じゃ遠慮はしないけど、話しかけない。

少年1  そうですか。また気が向いたらいつでも話して下さい。

女   気が向いたらね

少年1 そうだ。1つ聞いていいですか?

女   何?

少年1  さっき何で走ってたんですか?

女   ああ。

少年1 なんか追いかけられているように見えました。

女   気のせいだよ。

少年1  でも何度も後ろを振り返ってました。

女   気のせいだって。うるさいな。

少年1  すいません。

女   別にあやまらなくていいよ。

少年1  じゃあ、あやまりません。 

女   ねえ。

少年1  何ですか?

女   よくわからないけどおもしろいね、あんたって。

少年1  どういたしまして。

女   じゃ、あたし行くよ。

少年1  また来て下さい。

女   またってずっとここにいるの?

少年1  見つからなければ。

女   そっか隠れてるんだっけ。

少年1  はい、隠れてます。

女   じゃ、気が向いたらまた来るよ。

少年1  はい、待ってます。

女   待たなくていいよ。

少年1  じゃあ待ちません。

女   じゃあね。

少年1  どういたしまして。

   女立ち去る。入れ替わって少年2現れる。 

少年2  誰か来たの?

少年1  来た。

少年2  どんな人?

少年1  女の子。

少年2  どんな?

少年1  服を着てた。

少年2  どんな服?

少年1  変な服。

少年2  年齢は?

少年1  子供でもないし大人でもない。

少年2  怪しまれることはなかった?

少年1  僕のことおもしろいって。

少年2  おもしろい?

少年1  また来るって言ってた。

少年2  またっていつ?

少年1  わからない。

少年2  そうか。

少年1  来たら一緒に牛タンゲームやってもいいかな。

少年2  いいよ、牛タンゲームでも、山手線ゲームでも好きなことやれば。

少年1  二人で山手線ゲームはむなしい。

少年2  牛タンゲームだってむなしいよ。

少年1  ねえ。

少年2  なに?

少年1  いつまでここにいればいいんだろ?

少年2  当分いたほうがいいよ。

少年1  当分って?

少年2  しばらく。

少年1  ひょっとしてもう家には戻れないの?

少年2  いつか戻れるよ。だからしばらくここで我慢してくれよ。

少年1  わかった。

少年2  そうだ、いい物もってきたんだ。

  少年2、カバンから瓶を2本取り出す。

少年1  なにそれ?

少年2  これを飲むとどこにいても幸せになれるんだ。

少年1 幸せって?

少年2  イヤなことがあってもすぐに忘れられるんだ。

少年1  僕イヤなことなんてないよ。

少年2  ムカついてイライラしてても落ち着くんだ。

少年1  ムカついたことだってないよ。だいたい「ムカつく」ってよく言うけど、どういうことなの?

少年2  お前幸せだよな。

少年1  でも幸せだって思ったことなんてないよ。

少年2  でも幸せだよ。

少年1  じゃあどうしてここにいなきゃいけないの?

少年2  そうだよな。こんな所にいたくないよな。

少年1  ねえ、家に帰ろうよ。

少年2  家に帰ったら不幸になる。

少年1  なんで?でもここにいたら幸せじゃないよ。

少年2  でも戻ったらもっと不幸になるんだよ。

少年1  …………よくわからないよ。

少年2  …………(瓶をもって)これ、飲んでみようよ。

少年1  うん。

  少年2、少年1に瓶を渡す。

少年2  じゃあ1、2の3で飲むよ。

少年1  うん。

少年2  行くよ、1、2の3。

  二人、瓶の中身を飲み干す。

少年1  ねえ、幸せにならないよ。

少年2  そんなにすぐにはならないさ。

少年1  どれぐらいしたら幸せになるの?
  
少年2  すぐになるよ。

少年1  じゃあ、幸せになるまでさ、やりたいことがあるんだけど。

少年2  なに?

少年1  牛タンゲーム。

少年2  また?

少年1  だって好きなんだよ。

少年2  わかったよ。

少年1  じゃあ僕から行くよ。

少年2  いいよ。

少年1  牛

少年2  タン

少年1  サーロイン

少年2  レバー

少年1  ランプ

少年2  砂肝

少年1  負け。

少年2  えっ?

少年1  牛に砂肝はないよ。

少年2  そっか。

少年1  牛の肉以外はだめだよ。

少年2  でも牛タンゲームってホントにこういうゲームなの?

少年1  そうだよ。

少年2  これって山手線ゲーム「牛の肉の種類」じゃないの?

少年1  似てるかもしれない。

少年2  そのものだよ
 
少年1  まあいいよ、面白ければ。

少年2  面白くないって。

少年1  ……まだ幸せにならないね。

少年2  もうすぐなるよ。

少年1  どうなったら幸せなの?

少年2  音楽が聞こえてくる。

少年1  それから?

少年2  その音楽がやがて色と香りを持ち始める。

少年1  それから?

少年2  そうするとだんだん幸せな気分になって来るんだ。

少年1  それが幸せなの?

少年2  もしそれを現実にできるなら。

少年1  できないの?

少年2  長く続かないんだ。

少年1 何で?

少年2  身体が邪魔なんだ。

少年1  あっ。

少年2  どうした。

少年1  音楽が聞こえてきた。

   遠くから音楽が聞こえてくる。その音楽はどこが苦しげな感じがする。

少年2  それが幸せになる兆候だよ。

少年1 でも、本当にこれ音楽なのかな?

少年2  音楽だよ。

少年1  でも誰かの叫び声のようにも聞こえる。

少年2  それが音楽なんだよ。そしてそれがやがて色や香りに変わるんだ。

  当たりは次第に薄暗くなってくる。音楽はやや大きくなったように思える。

少年1 ねえ、これが幸せなの?

少年2  ベストじゃないかもしれないけど、これも幸せのひとつなんだよ。

少年1  なんだか幸せって言うよりも苦しいよ。

少年2  苦しいと思うからだよ。苦しいと思ってたら幸せになれないよ。

  音楽が更に高まったように思える。次第に暗くなって行く。

少年1  ねえ苦しいよ。助けてよ。

少年2  もう少しだ。もう少しで幸せになれるよ。

  二人の声は音楽にかき消されて行く。溶暗。

  舞台が明るくなると、少年1の周りにはかなりの数のビンが並んでいる。女がまた走って来る。立ち止まって後ろを確認する。

女   こんにちは。

少年1  誰ですか?

女   ひどい、忘れちゃったの?

  少年1、女をじっと見る。

少年1  思い出しました。

女   良かった、思い出して。ねえ、ウィリアムスは元気?

少年1  元気です。ロドリゲスも元気です。

女   ロドリゲス?

  少年1、覆いを取ると石膏像は二つに増えている。

女   友達が増えたんだ。

少年1  はい増えました。ちょっと切れやすいけど根はいい奴なんです。

女   (石膏像に向かって)おはよう、ロドリゲス。

少年1  そっちはウィリアムスです。忘れたんですか?

女   だって似てるんだもん。

少年1  じゃあ、簡単な区別のしかたを教えます。

女   教えて。

少年1  右利きがウィリアムスで左利きがロドリゲス。

女   ありがとう。これでもう間違えないとおもうよ。

少年1  今日も走って来ましたね。

女   趣味なの。

少年1  えっ?

女 趣味なの、走るのが。

少年1  走って逃げるのが?

女   別に逃げるなんて言ってないよ。

少年1  でも逃げてるように見えました。

女   気のせいでしょ。

少年1  僕と同じですね。

女   なにが?

少年1  僕も逃げてるんだと思います。

女   だから逃げてないって言ってるでしょ?

少年1  僕逃げて隠れてるんだと思います。

女   何で逃げたの?

少年1  僕が暴れたからだと思います。

女   暴れたりするんだ。

少年1  暴れたくなるんです。時々。

女   どうして暴れたくなるの?

少年1  そうしないと僕が壊れちゃうんです。

女   壊れちゃう? 

少年1  僕もともと壊れかかってるから。

女   壊れかかってる?

少年1  みんなそう言うんです。

女   よくわかんないけどさ、別に壊れかかってなんかないと思うよ。

少年1  でもみんなそう言うんです。

女   そんなことないよ。だっていい奴じゃん。

少年1  僕が?

女   そう、いい奴だよ。

  少年2が現れる。

少年2  (女に)あんた誰?

女   あんたこそ誰よ。

少年2  俺はこいつの弟。

少年1  僕が兄です。

女   兄弟なんだ。

少年1  似てないでしょ?

女   似てない。

少年1  弟は普通なんです。

女   普通って?

少年1  毎日起きて、歯を磨いて、学校に行って、学校から帰って、歯を磨いて、寝る。

少年2  兄さんは学校に行ってないんだ。

女   そうなんだ。

少年1  歯は磨いてます。

  少年1、女に歯を見せようとする。

女   別に見せなくていいよ。

少年1  見せたかったのに。

少年2  毎日俺が見てやってるだろ?

女   でさ、なんでこんなところにいるの?

少年1  隠れてるんです。

女   それって冗談じゃないの?

少年1  本当です。

少年2  ここにいれば見つからないって思ったんだ。

女   なんで隠れなきゃいけなかったの?

少年2  それは言えない。

少年1  僕が暴れたからです。

少年2  言えないって言ってんのに、どうして簡単に言っちゃうんだよ。

女   前にも聞いたわよ。

少年2  前にも言ったのか。

少年1  だってこの人こんな服装してるけど、いい人です。

女   こんな服装は余計だと思うけど。

少年2  でも確かに変な服だよな。

少年1  変な服です。

女   いいでしょ?好きで着てるんだから。で、暴れたってどう言うことなの?

少年2  それは言えない。

少年1  僕、金属バット持って立ってました。

少年2  だから言わなくていいって。

少年1  僕良く覚えてません。僕気がついたら金属バット持って涙流してました。

少年2  それ以上思い出さなくていいって。

  やや沈黙が流れる。

女   これ以上聞かない方がいいみたいね。………あたし行くね。

少年1  また来てくれるんですか?

女   なんで?

少年1  一緒に牛タンゲームやりたいんです。

女   (少年2に)また来てもいいの。

少年2  この場所のことを他の人に話さないならば。

女   わかった。

  女立ち去る。

少年1  いい人です。

少年2  なんでそう思う?

少年1  僕の話し聞いてくれた。

少年2  何を話したんだ?

少年1  ウィリアムスとロドリゲスのこと。

少年2  なんて言ってた?            

少年1  ウィリアムスとロドリゲスが似てるって。全然似てないよね。

少年2  ああ。

少年1  だからいい人です。

少年2  でも気をつけろ。ここは人に知られたくない場所なんだ。

少年1  わかってるよ。

少年2  見つからないようにしないと。

少年1  どうすれば見つからないの?

少年2  石を運ぶんだ。

少年1  石?

少年2  石を運んで積み上げるんだ。

少年1  やってみるよ。

少年2  今からやるか?

少年1  うん。

  少年1、2石を運び始める。石といってもそれは箱で、言葉がかかれている。それは例えば「今ここにいる」「とりあえず」「どこから来たの?」「個性的な」など意味のあるような無いような言葉である。それらの言葉は次々と積み上げられて城壁のようになっていく。石を積み上げながら以下の会話がなされる。

少年1  ねえ、こんなもので守れるの?

少年2  守れるよ。

少年1  何を?

少年2  えっ?

少年1  何を守るの?

少年2  とにかく積むんだ。

  しばらく無言のまま積みつづける。

少年1  こんなことしてさ。

少年2  うん。

少年1  むなしくならないかな。

少年2  なったらどうする?

少年1  …………むなしい。

少年2  でもいいんだよ。

少年1  なんで?

少年2  それでいいんだよ。  

少年1  そっか。

  しばらく積み続ける。やがてかすかに前の音楽が聞こえてくる。

少年1  また聞こえてきた。

少年2  うん。

少年1  最近よく聞こえてくるよ。

少年2  色は見える?

少年1 少し見える。

少年2  幸せになってきたね。

少年1  これが幸せなの?

少年2  感じるだろ?

少年1  たぶん。

少年2  苦しくなくなってきただろ?

少年1  よくわからない。

少年2  ここにいよう。

少年1  うん。

少年2  ずっとここにいよう。
 
  音楽が高まっていく。二人は石(箱)を積み続ける。その作業の続く中、次第に暗転していく。

  舞台が明るくなると、積み上げられた箱はかなり増えている。誰もいない。女が逃げるように走って入ってくるが、以前ほど切羽詰った感じはない。立ち止まり、辺りを見回しているが、誰もいないので石膏像に向かって話しかけ始める。

女   ねえ、あたしのことどう思う?あたしって「その場しのぎの女」?、「電車のつり革を触れない女」?、それとも「写真を撮るときにピースしてわざとらしく笑ったりする女」?、ねえ、教えて。お願いだから教えて。…………何で黙ってるの?何か言ってよ。無視されてるようで悲しくなるよ。ねえ。

  この語りかけの間に、少年2現れ、女の語りかけを聞いている。女、少年2に気がつく。

女   (あ)

少年2  こんにちは。

女   聞いてたの?

少年2  何を?

女   なんでもない。

少年2  …今、寝てるよ。

女   えっ?

少年2  兄さんに会いに来たんじゃないの?

女   うん。

少年2  もうそろそろ起きるかも知れない、16時間ぐらいたってるから。

女   16時間も寝るの?

少年2  必要なんだ。

女   寝ることが?

少年2  …寝ないとダメになっていくんだ。

女   ダメになっていくってどういうこと?

少年2  …………………………

女   ……聞いちゃいけなかった?

少年2  そうじゃない。説明しにくいんだ。 

女   毎日そんなに寝るの?

少年2  毎日じゃない。3日に一度ぐらいにしてる。

女   してるってどういうこと?薬でも飲んでるの?

少年2  ああ。

女   本人はわかってるの?

少年2  薬だとは言ってない。飲めば幸せになるって説明してる。

女   それで納得してるんだ。

少年2  嘘ついてるわけじゃないし。

女   本当に幸せになるの?

少年2  本人にとってはね。

女   その薬を飲んだらあたしも幸せになるの?

少年2  必要がなければ飲まない方がいい。効き目が出るまでちょっと苦しいし、依存性もある。飲み始めたら、多分ずっと飲み続けることになる。

女   飲むとどうなるの?

少年2  まず音楽が聞こえる。それからその音楽に色と香りがついてくる。そして飲み続けるとその状態が長く続くようになってくる。 

  上のセリフの間にかすかに聞こえていた音楽が急に高まり、カットアウト。

女   それが幸せなの?

少年2  飲まない状態よりはね。

女   ねえ。

少年2  なに?

女   何があったの?

少年2  えっ?

女   何かあったから薬飲んでるんでしょ?

少年2 …………うん。

女   何があったの?金属バットって関係あるの?

  一瞬悲鳴のような音楽が流れ、それに合わせて一瞬赤い色が通り過ぎる。

少年2  ……兄さんが悪い訳じゃない。どうしようもなかったんだ。

女 暴れたってそのことなの?

少年2  幸い命はとりとめた。でも母さんはまだ入院してる。

女   それで隠れてるの?

少年2 家にはいられない。家にいたらまた同じことが起こる。

女   なんで?

少年2  わからない。でもそうなってしまったんだ。

女   …………聞いてもよかったのかな?こんな話。

少年2  別にかまわないよ。でも秘密は守ってほしい。この場所のことは誰にも言わない。

女   わかった。…ねえ、また来てもいい?

少年2  いいよ。君のこと、兄さん気に入ってるみたいだし。

女   じゃ、また来るね。

少年2  うん。

  女、退場。入れ替わって少年1が出てくる。

少年1  ねえ。

少年2  起きた?

少年1  聞きたいことがあるんだけど。

少年2  なに?

少年1  朝起きた時ってなんて言うんだっけ。

少年2  おはよう。

少年1  そうだ。どうしても覚えられないんだよな。もう一回言って。

少年2  おはよう。

少年1  どういたしまして。

少年2  違うよ。

少年1  何が?

少年2  おはようって言われたら、自分もおはようって言うんだよ。

少年1  いつから?

少年2  ずっと前からそうなんだよ。

少年1  知らなかった。

少年2  練習してみようか。

少年1  うん。

少年2  おはよう。

少年1  うぜえんだよ、てめえ。

少年2  違う、それじゃ喧嘩になるよ。

少年1  喧嘩は痛い。

少年2  「おはよう」には「おはよう」って言うんだよ。

少年1  難しいね。

少年2  覚えれば簡単だよ。

少年1  もう一回やってみる。

少年2  じゃあ行くよ。……おはよう。

少年1  ……………………なんだっけ?

少年2  おはよう。

少年1  ああ、そうか。

少年2  同じ言葉を相手に言えばいいんだよ。

少年1  同じ言葉を相手に言えばいいんだよ。

少年2  だからそうじゃなくて。

少年1  だからそうじゃなくて。

少年2  違うんだよ。

少年1  違うんだよ。

少年2  だからさあ。

少年1  だからさあ。

少年2  もう疲れるなあ。

少年1  少し休んだ方がいいよ。

少年2  …ありがとう。

少年1  どういたしまして。
 
少年2  ……石でも運ぼうか。

少年1  また運ぶの?

少年2  今度は考えながら運ぼう。

少年1  考えながら運ぶ?

少年2  石に字が書いてあるだろう?

少年1  うん。

少年2  それを見て積む順番を考えるんだ。

少年1  順番?

少年2  たとえばこの「バリバリ」をここへ持ってくるとどうなる?

  少年1、「バリバリ」と書かれた箱を、「超ツルツル」の上に置く。

少年1  「バリバリ超ツルツル」

少年2  どうだ?

少年1  あってる。

少年2  じゃあこっちへ置くとどうだ?

  少年1、「バリバリ」の箱を「今ここにいる」の上に置く。

少年1  「バリバリ今ここにいる」  

少年2  どうだ?

少年1  たぶんあってる。

少年2  じゃあこうするとどうだ?

  少年2、「バリバリ」の箱を置き、その上に「とりあえず」の箱を置く。

少年1  「とりあえずバリバリ」

少年2  どうだ?

少年1  間違ってる。

少年2  なんで?

少年1  「バリバリ」は力が入ってるけど、「とりあえず」にははいっていない。

少年2 まちがってるよな。

少年1  うん。

少年2  こういうふうに考えながら積むんだ。

少年1  わかった。

  少年1、2再び箱を運んで積み始める。少年2は次々と箱を運ぶ。少年1は箱の文字を読んで考えながら、積んでいく。たとえば「悪すぎ」の上に「マジ頭」という箱を置き、次に「かも」という箱を持ってきて、それを一番上に置き、眺めた後、「かも」を一番下に積み直すといった具合に。そのようにして「イケてる」「フリーターです」「よろしく」、あるいは「あやしい」「メル友」「ゲットだぜ」あるいは「かかって来い」「みたいな」「厚底サンダル」といった不思議な文が次々と作られていく。その間に以下の会話が交わされる。

少年1  ねえ。

少年2  何?

少年1  どれぐらい積めばいいの?

少年2  とりあえずもう少し積もうよ

少年1  あと何個ぐらい?

少年2 量だけが問題じゃない。積み方によって、強さも違ってくるんだ。強ければ強いほど誰も入って来ない。

少年1  だから考えながら積むの?

少年2  そうなんだ。

少年1  でも、誰も入って来れなくったら、あの女の子も入って来れないよ。

少年2  そう言う時はこっちから話し掛ければいい。

少年1  そっか。

少年2  相手の姿を見て、よさそうな相手ならこっちから話し掛けて中に入れればいいんだよ。

少年1  こっちが選べばいいんだね。

少年2  そうすればもう傷つかないですむ。

少年1  僕、傷ついてなんかないよ。

少年2  じゃあ暴れなくてすむ。

少年1  暴れなくてすむ。

少年2  暴れなければ、いろんなことが上手く行くよ。

少年1  僕、暴れなくてすむ。

少年2  そうすれば幸せになる。

少年1  僕、幸せになる。

少年2  そう、幸せになる。

少年1  でも大丈夫かな?

少年2  何が?

少年1  この石壊れない?

少年2  壊れないよ。

少年1  でもこの石軽いよ。

少年2  ……軽い石なんだ。

少年1  軽くても壊れないの?

少年2  軽くて丈夫な石なんだ。

少年1  そんな石あるの?

少年2  あるんだよ。

  その時、女がやってくる。今度は走っていない。しかし後ろが気になる様子。服装は結構地味なものになってきている。

少年1  また逃げてきましたね。

女   だから逃げてないって。だって走ってないでしょ?

少年1  でも後ろを見てました。

女   見たかったの。

少年1  何か見えるんですか?

女   何も。

少年1  (笑って)変な人です。

女   変なのはあんたでしょ?

少年1  どういたしまして。

女   こちらこそ。

少年1  でも良かった。

女   何が?

少年1  顔が恐くなくなってきました。

女   誰の?

少年1  あなたの。

女   あたしの?

少年1  はい。

女   あたし、恐い顔してた?

少年1  はい、とても恐かった。
 
女   …そんなことないよ。

少年1  恐い顔するのも趣味ですか?

女   だからそんなことないって。

少年2  でも兄さんはそう言うことには敏感なんだ。

女   ………………

少年1  なんで恐い顔してたんですか? 

女 ……………………

少年1  それに最近変な服も着なくなりましたね。

女   ……あたしの勝手でしょ。

少年1  でもその方が変な人に見えなくていいですよ。

女   よけいなお世話。

  ちょっと沈黙が続く。

女   (少年2に)ねえ、ちょっと彼と二人で話してもいい?

少年2  何で? 

女   理由は言えないけど。

少年2 ……わかった、いいよ。…(少年1に)じゃ、また後で。

少年1  この人と牛タンゲームやってもいい?

少年2  ああ、いいよ。

少年1  ありがとう。

少年2  じゃ。

  少年2立ち去る。 

少年1  牛タンゲームやりましょう。

女   その前に話ししてもいい?

少年1  難しい話はわかりません。

女   あたしの話を聞いて欲しいの。

少年1  だったらウィリアムスかロドリゲスに話すといいです。親身になって聞いてくれます。

女   あたしは石膏像じゃなくてあなたに聞いてもらいたいの。

少年1  石膏像じゃありません。僕の友達のウィリアムスとロドリゲスです。

女   そうだったよね。でもあたしが話しを聞いてもらいたいのは、ウィリアムスやロドリゲスじゃなくて、あなたなの。

少年1  僕、聞いても答えがわかりません。

女   それでもいいの。とにかく聞いてくれる。

少年1  わかりました。僕、一生懸命聞きます。

女   あのね、あたし逃げてないって言ったでしょ?

少年1  逃げてるのは僕でした。

女   でもね、本当はあたし逃げてたの、嘘ついてたの。

少年1  嘘つきは始まりの泥棒です。

女   あたし逃げてたの。あたし、何だかとっても怖かったの。

少年1  何が怖かったんですか。

女   最初は電車に乗るのが怖くなった。地下鉄が脱線して人が死んだでしょ?

少年1  脱線すると事故です。

女   それから自分の乗ってる電車も事故を起こすんじゃないかって、心配で仕方が無くなった。…それから人ごみが怖くなった。

少年1  人が大勢いると、僕はぶたれます。

女   なんで?

少年1  わかりません。僕は何も悪いことしてません。

女   それなのにぶたれるの?

少年1  あと蹴られたりします。

女   そうだったんだ。

少年1  はい。

女   あたしはいじめられたりしたわけじゃないの。この間駅の近くで、人が刺されたでしょ?

少年1  包丁は野菜を切るものです。使い方が違ってます。

女   刺された女の子とは小学校が一緒だった。クラスは違ったけど顔は知ってたの。刺されなきゃいけない理由なんて何もないのにあの子は刺された。その時思ったの。ある種の人たちにとって人を刺すのに理由なんていらないんだって。そう思ったらたくさんの人の中にいるのが恐くなった。この中の誰かが底知れぬ悪意を持ってるって思ったら、恐くてたまらなくなった。

少年1  悪い人は悪いことをするから恐いです。

女   そう思い始めたら何だか全てが恐くなった。だって誰が悪意を持っていて、誰が持っていないかなんてわからないでしょ?

少年1  悪い人のにおいは僕もわかりません。

女   だんだんと誰も信じられなくなった。たとえ親でも友達でもひょっとしたら悪意を持ってるんじゃないかと思ったら、信じられなくなった。恐くて恐くてたまらなくなった。

少年1  逃げていた理由の説明をしています。

女   恐いから精一杯虚勢を張ることにした。弱そうに見えるとねらわれると思ってわざと派手な格好をした。強い自分を演じて一生懸命アピールした。

少年1  派手な服装の理由を説明しています。

女   でも、やっぱり恐かった。誰かが後ろから襲って来るんじゃないかと思うと恐くなって走って逃げた。必死になって走って走って走り続けた。でもいくら走っても恐くて仕方がなかった。

少年1  つらいです。とてもつらい話です。

女   でもそんな時あなたに会った。

少年1  僕ここにいました。

女   そして私思ったの。この人なら安心だ。この人は絶対に私に悪意を持ってないって。

少年1  悪意ってなんですか?

女   わざと人を傷つけようとしたりすること。

少年1  僕、悪意をもってる。僕、暴れました。

女   でも、それはたぶんあなたのせいじゃない。

少年1  僕、時々暴れます。僕、金属バットで僕のお母さん殴りました。

女   それはあなたたのせいじゃない。周りのいろんなものがあなたにそうさせちゃうんだと思う。

少年1  僕、家に帰ったらまた暴れるかも知れません。だから弟が僕をここに連れてきました。僕、ここでだんだんと幸せになっていくんです。

女   それは幸せなんかじゃないよ。ここにいたら本当の幸せになんかなれないよ。

少年1  僕、幸せになって行きます。音楽も聞こえます。色も見えます。香りもします。僕、ここで幸せになるために石を積んでいます。

女   石?石なんてどこにあるの?

少年1  ここにたくさん積んであります。これからもっとたくさん積みます。そうすればこの石が守ってくれます。

女   これ、石なんかじゃないよ。

少年1  えっ?

女   これは石じゃない。ただの箱だよ。

少年1  箱じゃありません。軽くて丈夫な石です。そしてここに書いてある言葉を考えて組み合わせればもっと強くなります。

女   ねえ、誰が言ったの?そんなこと。

少年1  弟です。僕に教えてくれました。

女   でも、間違ってる。

少年1  どうして?

女   これは箱じゃないし、ここに書いてある言葉も軽すぎる。こんな薄っぺらな言葉が守ってくれるなんてそんなの嘘だよ。

少年1  弟は嘘をつきません。

女   でも弟さんは本当のことがわかってないんだよ。 

  少年2現れる。

少年2  僕が何をわかってないって言うの?

女   この人をこんな場所に閉じこめておくなんて間違ってる。

少年2  君は何もわかってない。

女   何がわかってないの?

少年2  兄さんが外の世界でどれだけ傷つけられたかわかってないんだ。

女   でもここに閉じこもったら幸せじゃない。

少年2  でも、兄さんは外の世界で生きられない。だからここで幸せになるしかないんだよ。

女   そんなことない。こんな薄っぺらな言葉を身にまとって自分を守るなんて、寂しすぎるよ。

少年2  うすっぺらな言葉でも本当の自分を隠すことはできる。この場所だけで通用する名前を自分に付けることだってできる。寂しいかも知れないけど、それで救われるんだ。

少年1  音楽が聞こえます。

女   えっ?

少年1  音楽が聞こえてきました。  

女   音楽なんて聞こえないよ。

少年2  幸せに近づいてるんだよ。

少年1  音楽が僕に命令します。

少年2  えっ?

  少年1、積んであった箱を崩して裏返し始める。箱の裏には「ざけんじゃねえ」「うぜえんだよ」「逝ってよし」「殺すぞ」などの攻撃的なことばが書かれている。

少年2  おい、どうしたんだよ。

少年1  音楽が僕にこうしろと命令します。

少年2  だめだ、そんなことしたら幸せになれない。

少年1  僕は幸せになれない。僕は復讐する。

少年2  おいやめろよ。

女   ことばが暴走し始めた。

少年2  えっ?

女   石膏像の言葉が暴走し始めたの。

少年2  どういうこと?

女   わからないの?石膏像に話すことを教えたのはあなたでしょ?

少年2  兄さんには友達が必要だ。

女   でもあれは友達なんかじゃない。

少年1  ウィリアムスとロドリゲスは友達です。

女   何も答えない友達なんて友達じゃない。あたし、ロドリゲスに話しかけた。その時わかったの。これは本当の言葉じゃない、こんなのはうわべだけの言葉だって。

少年2  それでいいんだよ。うわべだけの方が人を傷つけることは無いんだから。

女   そんなの間違ってる。

少年2  あんたにはわからないんだよ。兄さんに向かって言われた言葉で兄さんがどれだけ傷ついたか。

女   わかるよ。

少年2  いやわからないよ。僕は一緒にいてずっと兄さんを見てきた。兄さんに向かって言われた言葉で、僕も一緒に傷ついてきたんだよ。

女   そしてそんな傷ついた心を石膏像にぶつけた。

少年2  えっ?

女   人に向かって言えない思いを石膏像にぶつけたんでしょ。

少年2  ………………………

女   でも言葉は人に向かって言わなきゃいけないのよ。

少年2  でも……………

女   まだ解らないの?相手を持たないあなたの言葉が感情だけを膨らませて、暴走し始めたのよ。

  少年2、周りを見るといつの間にか少年1がいなくなっている。(舞台上に少年1はいるのだが少年2の目には見えない。)

少年2  あれ、兄さんは?

女   兄さん?

少年2  兄さんはどこ行ったの?

女   兄さんなんていない。

少年2  えっ?

女   兄さんなんて最初からいない。あなただって本当は気づいていたんじゃないの?

少年2  どういうこと?

女   最初からあなたしかいなかった。ウィリアムスだって、本当はあなたのハンドルネームにすぎない。

少年2  ハンドルネーム?

女   まだ思い出せないの?あなたがネットの中でウィリアムスという名を使ったときからこの世界は始まったんでしょ?

少年2  じゃあ、兄さんは?

女   あなた自身。

少年2  僕自身?

女   あなたはあなたの純粋な内面が傷つくのをおそれてネットの中へ逃げ込んだ。それがあなたの兄さんでしょ?そしてあなたはウィリアムスというハンドルネームで自分の内面を語り始めた。

少年1  弟は僕のことかばってくれました。僕、もう傷つくことありません。

少年2  じゃ、ロドリゲスは?

女   あなたが使い始めたもう一つのハンドルネーム。

少年2  もう一つのハンドルネーム?

女   内面を語るあなたの言葉は、いつしか独りよがりで攻撃的なものになってきた。そしてその攻撃的な感情がもう一つのハンドルネーム生み出した。

少年2  それがロドリゲス。

女   そしてロドリゲスの言葉が暴走を始めた。相手の見えない言葉が一方的に感情だけをぶつけ始めたの。 

少年1  僕は君たちは復讐する。なぜなら君たちは何もしない僕を殴ったからだ。僕は君たちを殺す。なぜならそれが君たちにふさわしいからだ。

少年2  ぼくはあいつらを許せないと思っていた。でも何も出来なかった。僕は弱かったから。

女   だからそんな弱い自分を封じ込めようとした。それは自分の兄さんだとおもう事にした。  

少年1  僕隠れました。誰にも見つからないように隠れました。

女   そして内に封じ込めた感情は行き場を失った。

少年1  僕、母さんを金属バットで殴りました。

少年2  母さん、僕そんなつもりじゃなかったんだ。母さんを殴りたかったんじゃない。殴りたかったのは他のやつらだったんだ。

女   お母さんはわかってるよ。そんなこときっとわかってるよ。だからもう他の人を傷つけようとしないで。

少年1  僕、本当は人を傷つけたくありません。金属バットなんて要りません。  

少年2  でも怖いんだ。

少年1  僕、色んな事させられました。色んな事言われました。

少年2  外の世界へ戻ったら、たぶんまた傷つくことになる。

女   だから一緒に行こうよ。

少年2  えっ?

女   あたしも怖かった。だから逃げてきた。そしてこのネットの世界であなたに出会った。

少年1  あなた逃げてきました。怖い顔してました。

女   あたし、あなたに会って救われた。あなたの純粋で傷ついた心に触れて、もう一度人を信じることが出来るかもしれないと思いはじめた。

少年1  顔、怖くなくなりました。服装も変わりました。

女   だからもう一度試してみたいの、現実の世界で。

少年1  僕、音楽も聞きました。色も見ました。香りもかぎました。でも、やっぱりそれは現実じゃなかった。ここにいたら本当の幸福にはなれません。

女   ね、行こうよ。

少年2  うん。

女   戻ろうよ。現実の世界へ。

少年2  ……わかった。行こう。

  少年2、女、歩き始める。そして客席に降りてすわり、観客の一員となる。一人残った少年1が語り始める。

少年1  僕、外に出ちゃ行けないって言われてました。僕、隠れてました。僕、我慢してました。でも僕、見つけてもらいました。僕のかくれんぼは終わりです。

  少年1手を振る。手を振りつづける。 

   幕