ここは



  幕が開くと、手書きの看板がある。そこには「ここは」という文字が手書きで書かれている。

女1が現れる。

女1    なんだ、ここにいたんだ。

  音楽が鳴り、看板を残し暗転していく。
  音楽が消え、明るくなると男1,2,3が現れる。 

男1 大丈夫かな?

男2 気にすんなよ。

男1 俺怒られたりすんの嫌いなんだ。

男2 いいじゃん、どうでも。

男1 でもなあ。

男3 じゃ、お前だけ戻る?

男1 やだよ。

男2 だろ?

男3 何か息が苦しいんだよな、あそこにいると。

男2 なんか空気が薄い気がするよな。

男1 何でみんな我慢できるんだろ。

男2 結構みんな何とも思ってないんじゃない?

男3 そうかな?

男2 そうじゃないの?

男1 きっとみんな我慢してるんだよ。

男2 なんのために?

男1 さあ。

男2 何か理由があるから我慢してんだろ。

男1 理由なんてないんじゃない。

男2 なんで?

男1 いや、何となく。

男3 まあいいじゃん、そんなこと。それよりどうする?これから。

男1 泳ぐ。

男2 バカ。

男3 どうやって泳ぐんだよ、こんな川。

男1 犬かき。

男2 お前、もう少しましな冗談言えねえの?

男1 冗談じゃないよ。

男3 お前、ホントに本気なの?

男1 だって暑いし、気持ちよさそうじゃん。

男2 泳げる訳ないだろ、こんな汚い水。なんか緑色してんじゃん。はいったとたん即死だよ。

男1 でもボラとか泳いでるよ。

男2 ボラはしょうがないだろ、陸に上がれないんだから。

男3 やってみよっか。

男2 えっ?

男3 泳いでみよっか、試しに。

男2 お前まで何言ってんだよ。

男3 結構楽しそうじゃん。

男2 だって見ろよ、何かドロドロしてるし、ゴミとかいっぱい浮かんでるし。

男1 いやならいいよ、俺1人でも泳ぐから。

男3 俺も泳ぐ。

男2 おい、どうしたんだよ、みんな。

男1 俺、思ったんだ。

男2 何を?

男1 最近、やりたいと思ったこと全然やってないなって。

男3 俺もそう思う。

男2 でも何もこんな川で泳がなくてもいいじゃん。

男3 じゃお前何したいんだ?

男2 まあ、そう言われて急に思いつかねえけどさ。

男3 だろ?

男1 結局そうやって何にもできないんだよ。

男3 タマには馬鹿やんなきゃ。

男2 わかったよ、泳ぎゃいいんだろ。

男3 そうこなくちゃな。

男2 よっしゃ、泳ぐか。

  三人服を脱ぎ始める。男1は異様に派手なパンツをはいている。二人それに気がつく。

男2 お前何それ。

男1 かわいい?

男3 ちょっと派手じゃないか。

男1 似合わない?

男3 ……まあ、結構似合ってるんじゃない。

男1 ホント?

男2 なかなかいいよ。

男1 よかった。1500円もしたんだ、このパンツ。

男2 さ、しょうがない、泳ぐか。

男3 よっしゃ。

  三人、土手に並んで立つ。

男2 じゃ、行くぞ。せーの

  三人が飛び上がった瞬間暗転。水の音。

照明がつくと、二人の刑事が立っている。

刑事1 高校生が3人行方不明になりました。

刑事2 状況は?

刑事1 川に飛び込みました。

刑事2 川?

刑事1 あの川です。

刑事2 あんな川に何で飛び込んだんだ?

刑事1 泳ぐつもりだったようです。

刑事2 泳ぐ?あの川で?

刑事1 確かに汚い川ですが、水はあるんだし、泳げないことはないと思います。

刑事2 そりゃそうだろうけど、泳ぐか?普通。ふざけてて落っこったんじゃないのか?

刑事1 服も靴も脱いでました。

刑事2 じゃ、自殺か?

刑事1 自殺するのに服を脱ぎますか?

刑事2 今時の高校生だ、何やってもおかしくはないさ。

刑事1 でも自殺とは考えられません。

刑事2 なんで?

刑事1 3人とも泳ぎは得意だったんです。だから溺れたとは考えにくいんです。

刑事2 じゃ、どうしたんだ。

刑事1 わかりません。服も、靴も、財布も全ておいたまま、もう一週間行方がわかりません。

刑事2 一週間?……捜索願はいつ出たんだ?

刑事1 昨日です。

刑事2 家族はそれまで何してたんだ。

刑事1 気がつかなかったんです。

刑事2 気がつかなかった?

刑事1 はい、家族だけじゃありません、クラスの生徒も担任も、誰一人彼らがいなくなったことに気がついてなかったんです。

刑事2 そんなに目立たなかったのか。

刑事1 担任は普通の子だといってました。普通に勉強して、普通に悪いことをして、 普通にキレやすい。

刑事2 いくら普通でも、3日もいなけりゃ気がつくだろ。

刑事1 でも気がつかなかったんです。

刑事2 何か手がかりはないのか?

刑事1 行方不明になった日に同じクラスのある生徒にメールが入ったそうです。

刑事2 どんなメールだ。

刑事1 「ここは」

刑事2 えっ?

刑事1 「ここは」それだけです。

刑事2 なんなんだ?そのメールは。

刑事1 わかりません。

刑事2 とりあえず、クラスの生徒にもう少し聞き込みをして見よう。それで少し様子を見るしかないだろ。

刑事1 わかりました。

  刑事1、2、退場。入れ替わって女1、女2が入ってくる。

女1 ねえ、新聞見た?

女2 見た。

女1 あの子たち、写真まで出てたじゃん。

女2 学校の写真も。

女1 ワイドショーにも出たんだって?

女2 「高校生謎の行方不明」

女1 そうそう、家帰ったらウチの母親興奮しちゃっててさ、あたしが帰ったら台所から走ってきて、「ねえ、あなたの学校テレビに出てたわよ」って、包丁振り回しながら30分ぐらい話してた。

女2 ウチもそう。

女1 なんかびっくりだよねえ、別に変わったこととかなかったのに。

女2 でもそんなにあの子達のこと知ってたわけじゃないでしょ?

女1 三回ぐらい話したことあるよ。

女2 三回じゃ何にも分からないでしょ?

女1 誰が一番親しかっただろ?あの子達と。

女2 さあ。

女1 そういえば、テレビで言ってたけど、クラスの誰かに変なメール送ってたんでしょ?

女2 「ここは」

女1 そうそう、ねえ誰だろ?メールもらったのって。

女2  あたし。

女1 えっ?

女2 あたしだよ。

女1 うそ!

女2 ホント。

女1 番号教えてたの?

女2 うん、一回電車で一緒になってさ。その時、教え合ったんだ。

女1 でも何で、おまえのとこにメール送ったんだろ?

女2 間違えたんじゃない?番号教えたけど、一回もかかってきたことなかったし、メールだって来たことなかったよ。

女1 そっか。じゃ、誰に送ろうとしたんだろ?

女2 わからない。

女1 返事返したの?その時。

女2 返さない。だって間違いだと思ったんだもん。

女1 そっか。

女2 今から思えば返しときゃよかったね。

女1 もう、返せなくなっちゃったもんね。

女2 どこいっちゃったんだろ。

女1 ねえ。

女2 なに?

女1 番号知ってるんだよね。

女2 うん。

女1 試しに掛けてみない?

女2 掛かる訳ないじゃん。

女1 そうかな。

女2 掛かるんだったら家族とかがとっくに掛けてるよ。

女1 ダメもとでやってみようよ。

女2 いいよ。

  女1、携帯を出して掛ける。

女2 あれ?鳴ってる。

女1 ホント?

女2 うん。

  女2、しばらく携帯に耳を当てているが、離す。

女2 ダメだ。「留守番電話サービスにつなぎます」だって。

女1 でも電源入ってるってことだよね。じゃ、どっかで生きてるってこと?

女2 携帯だけどっかに置きっぱなしになってるのかもよ。

女1 置きっぱなしだったら、とっくに充電切れてるよ。

女2 充電器の上に置きっぱなしになってるとか。

女1 ねえ、試しにメール送ってみない?

女2 なんか、ちょっと怖くない?そういうの。

女1 なんで?

女2 ホント返事返ってきたらどうする?

女1 返ってくると思う?

女2 わからない。

女1 やって見ようよ。

女2 なんて送るの?

女1 なんでもいいよ「元気?」とか。

女2 元気だといいよね。

  女2メールを打ち込む。

女2 じゃ、送るよ。…………………………………………「送信しました」

女1 後は返事待ちだね。

女2 返ってこないよね。

女1 わかんない。

女2 何か怖いなあ、ねえ、離れて待ってようよ。

  女2、携帯を下に置き女1の腕を引っぱって、携帯から離れる。しばらくしてメール  着信の音。

女1   来た。

  女1、携帯のところへ行こうとする。女2腕を引っぱって止める。

女2 ねえ、怖いよ、やめようよ。

女1 だいじょうぶだよ、見てみようよ。

女2 だって、「このメールを見たものは七日以内に死ぬ」とか出てたらどうするの?

女1 そんな、『リング』じゃあるまいし。見てみようよ。

  女1、女2に引っぱられて携帯のところへ行く。

女2 じゃあさ、あたし見るのイヤだから、代わりに見てくれる?

女1 いいよ。

女2 行くよ。

  女2、携帯のボタンを押す。

女1 「ここは」

女2 えっ?

女1 また「ここは」だ。

  女2も見る。

女2 ホントだ。

女1 ねえ、あの子達生きてるんだよ。

女2 どうしよう、警察に届けた方がいいよね。

女1 うん。

女2 行こうか?

女1 行こう。

  女1、2退場。入れ替わって女3、4が入ってくる。

女3 またさぼっちゃったね。

女4 時々あそこにいるのがたまらなくなっちゃうんだよね。

女3 あたしもそう、なんか急にめまいとかしてきて、心臓がドキドキして止まんなくなっちゃうの。

女4 それ、病気なんじゃない。

女3 だってあそこ以外でなったことないよ。

女4 だからそういう病気なんだよ。

女3 そんなのあるか?

女4 さあ。

女3 そういえばさ、あの行方不明の子たちもサボって出てったままいなくなっちゃったんだよね。

女4 そうそう。

女3 どこいったんだろ、あの子達。

女4 メールの返事だけは来るんだって?

女3 「ここは」でしょ?

女4 なんなんだろ?「ここは」って。

女3 あたし、それ聞いて思い出したことあるの。

女4 なに?

女3 前にね、妙な看板を見かけたことあるの。

女4 どんな看板?

女3 トタン板を張り付けてあるだけの簡単な看板で、手書きで字が書いてあるの。 「ここは」。………で、その後は何も書いてない。

女4 おんなじだ。

女3 同じでしょ?すっかり忘れてたんだけど、メールの話聞いて思い出したの。

女4 そのあとは消えちゃったのかな。

女3 確かに「ここは」の後に空白があったの。でも何か書いてあった感じじゃなかった。

女4 そうなんだ。

女3 いったい何を言いたかったんだろ?ここは何だって言いたかったんだろ。

女4 「ここは駐車禁止」とかじゃない?

女3 違うよ。

女4 なんで?

女3 「ここは」の後には8文字分のスペースがあったんだもん。

女4 数えたんだ。

女3 だって気になるじゃん。

女4 何となく後を知りたくなるよね。

女3 そう、その時すごく気になったんだ。でも忘れてたんだけど、メールの話聞いてから、また気になってしょうがないの

女4 8文字か。…………ここは鶴見区平安町です。8文字だ。

女3 でも何でそんなこと手書きでわざわざ書くの?

女4 親切なんだよ。道に迷った人とかはうれしいんじゃない?

女3 その看板は川のそばにあったんだよ。

女4 川ってあそこの川?

女3 そう。道に迷うとかそんな感じじゃない。

女4 そっか。

女3 それに何か感じたんだ。

女4 何か?

女3 そう、何か。

女4 何かって何?

女3 わからない。

  短い間。
  
女4 …………ねえ、探しに行こっか。

女3 えっ?

女4 探しに行こうよ、看板。

女3 探してどうするの?

女4 何か見つかるかも知れないじゃない。

女3 見つかるかな。

女4 見つかりそうな気がするんだ。

女3 そっか。

女4 ね、探しに行こ。

女3 行ってみようか。

  女3、4退場。入れ替わりに刑事たちが出てくる。

刑事2 全くどうなってるんだ。

刑事1 今度は女の子二人、しかも前の三人の男の子とと同じクラスです。

刑事2 そんな偶然ってあるのか?

刑事1 状況もよく似ています。学校を途中で抜け出し、そのまま行方不明、自殺する動機もなく、手がかりは全くありません。そして捜索願は行方不明になって一週間後、それまで誰も気がつかなかった。

刑事2 女の子が家を空けて、親は何とも思わなかったのか?

刑事1 いると思ったそうです。

刑事2 いると思った?

刑事1 家族と一緒に夕食は食べないし、バイトで帰りも遅い、両親とも働いていて朝が早い、普段からすれ違いの生活だったようです。

刑事2 それにしても一週間だろ?

刑事1 もともと一ヶ月口をきいてなかったそうです。

刑事2 ケンカでもしてたのか?

刑事1 違います。お互い話すことがなかったからだそうです。

刑事2 二人ともそうだったのか?

刑事1 二人ともです。

刑事2 なんだかクラクラしてきた。いったい何がどうなってるんだ。

刑事1 違いといえば、誰にもメールを送ってなかったことでしょうか。

刑事2 ますます手がかりがない。

刑事1 とりあえず聞き込みでも始めましょうか?

刑事2 ああ、そうするか。

  刑事1、2退場。入れ替わって女1、2が現れる。

女2 また行方不明だね。

女1 今度は来てないの?メール。

女2 うん。

女1 あたしも番号知ってたから掛けてみたんだけど、ダメだった。

女2 ねえ、気がついてた?あの子たちがいないの。

女1 言われるまで気がつかなかった。

女2 あたしたち、結構毎日話してたよね、あの子たちと。

女1 うん、話してた。

女2 それなのに何で気がつかなかったんだろ。

女1 ねえ、あたしたち何話してたっけ。あの子達と。

女2 思い出そうとすると思い出せないよね。

女1 なんか覚えてるはずだよね。

女2 そうだ。

女1 なに?

女2 においの話しなかった?

女1 におい?

女2 ほら、暑くなるとよく匂ってくるじゃん。

女1 あの匂い?

女2 そう、あの日もずいぶんにおいが強かった。で、においの話したんだよ。

女1 そんなことあったっけ。

女2 あった、絶対あったよ。

  女3、4がいつの間にか現れて、回想のごとくに会話が始まる。

女3 ねえ、におわない?

女4 におう。

女1 まただね。

女2 いつもそうだよね、この季節になるとにおってくる。

女3 暑くなり始めた頃だよね。

女4 なま暖かい風が吹いて来て、それと一緒に流れてくる。

女2 何のにおいだろ?

女1 わからない。

女4 なんか気分が悪くなってくるよね、このにおいかいでると。

女3 みんなそう言ってるよね。

女2 平気なのかな、みんな。

女4 平気なんじゃない?

女1 我慢強いのかもね。

女2 こんなこと我慢強くてもしょうがないよね。

女3 でもさ。

女4 なに?

女3 何もにおわないのとどっちがいいんだろ?

女1 えっ?

女3 あたし一ヶ月何もにおわなかったことがあるんだ。

女4 何かの病気だったの?

女3 原因は分からない。でもとにかく一ヶ月何もにおわなかった。においがしないから味もしない。

女2 辛そうだね。

女3 楽だった。

女1 楽?

女3 別に何かが出来なくなるわけじゃなくて、ただ何もにおわないの。そしてその時は何も嗅がなくてすむことが楽に思えたんだ。ずっとこんな風に生きていってもいいかも知れない、そんな風に思えた。ところがある日においは突然戻った。道を歩いているとクチナシの甘い香りがにおってきた。そして元に戻った。

  女3、女4去っていく。

女1 そんなことあったっけ。

女2 あった。たぶん2ヶ月ぐらい前だと思う。

女1 あたしいた?その時。

女2 いたんじゃない。

女1 じゃ何で覚えてないんだろ。

女2 なんか違うことでも考えてたんじゃない?

女1 そうかなあ。

女2 お前よくあるじゃんそう言うこと。

女1 普通の話なら、覚えてないのもわかるんだけど、一度聞いたら覚えてそうな話だよね、その話って。

女2 確かに。

女1 どうして覚えてないんだろ。

女2 あたし、何かで読んだことある。人間って忘れることができるから、生きていけるんだって。何でもすべて覚えてたら、その記憶に苦しめられて生きて行けなくなっちゃうんだって。

女1 それは何となく解るんだけどさ、今の話ってなんか忘れちゃいけないことのような気がするんだ。

女2 忘れちゃいけない?

女1 なんか変だよ、そんなこと忘れちゃうなんて。ねえ、あの子たちの写真とか持ってない?

女2 写真はないけどプリクラならあったかも。

女1 見せて。

女2 うん。

女1 写真みればなんか思い出せそうな気がするんだ。

  女2、プリクラを張った手帳を取り出す。

女2 あれ?

女1 どうしたの?

女2 見てこのプリクラ。

女1 あの子たちだ。

女2 そうじゃなくてこのフレーム。

女1 あ!

女2 書いてあるでしょ?

女1 「ここは」

  間

女2 どういうことだろ?

女1 これ、自分でフレームに字入れるやつだよね。

女2 なんでこんなの入れたんだろう。

女1 前からこんな字入ってたっけ。

女2 おぼえてない。

女1 でも、字が変わるはずないよね。

女2 うん。

  短い沈黙。

女1 ねえ。

女2 なに?

女1 探しに行かない?

女2 えっ?

女1 探しに行かない?あの子たち。

女2  あの二人?

女1  あの五人。

女2  あの五人?三人の男の子も。

女1  やだ?

女2 いやじゃないけど。

女1 けど?

女2 大丈夫かな?

女1 大丈夫って?

女2 たとえばさ、あの子たちが事件に巻き込まれたとするじゃない。

女1 うん。

女2 そしたら、それを探す私たちも危ないってことにならない?

女1 でも探したいんだ。

女2 どうしても?

女1 どうしても。

女2  何で?

女1 ……最近何も見つけてないなあって思ったの。

女2 えっ?

女1 最近何か見つけたものってある?

女2 …………

女1 このままどんどん時間が過ぎていって、忘れていってそれじゃいけないと思うんだ。

女2 それはそうだと思う。

女1 だったら探して見つけようよ。

女2 うん。

女1 一緒に見つけよ?

女2 ……わかった。行こう。

  女1、2立ち去る。入れ替わって刑事1、2が現れる。

刑事1 またですね。

刑事2 まただ。

刑事1 いったいどうなってるんでしょう?

刑事2 聞きたいのはこっちの方だ。

刑事1 今回行方不明になった女子2名も同じクラスです。そして前回の女子と親しくなくはない関係の友人でした。

刑事2 親しくなくはないってのは、どういうことだ。

刑事1 つまり弁当は一緒に食べないが、修学旅行では同じ部屋というような関係です。

刑事2 よくわからないがまあいいだろう。で、今回も周りは気がつかなかったのか?

刑事1 いいえ、今回はすぐに気がつきました。学級日誌に書き置きがあったんです。

刑事2 学級日誌?

刑事1  一人がその日日直だったんです。で、翌日の日直が気がつきました。

刑事2 担任は気がつかなかったのか?

刑事1 学級日誌は読まないそうです。印鑑だけは押すそうですが。

刑事2 で、なんて書き置きがあったんだ?

刑事1 「ここは」を探しに行きます。

刑事2 また「ここは」か。

刑事1 また「ここは」です。

刑事2 いい加減にしてほしいな。だいたい俺はそういう思わせぶりな中途半端な言い方が大嫌いなんだ。

刑事1 思わせぶりですか?

刑事2 言いたいことがあるならはっきりいえば、いいじゃないか。

刑事1 でも自分でも言いたいことがわからないのかも知れませんよ。

刑事2 えっ?

刑事1 「ここは」の後に続く言葉が見つからないんじゃないでしょうか。

刑事2 ずいぶんとわかったような言い方をするじゃないか。

刑事1 すいません、生意気でした。

刑事2 いや、そういう意味で言ったんじゃない。

刑事1 で、どうしますか。

刑事2 周囲の聞き込みもし尽くしたし、しばらく様子を見るしかないだろう。

刑事1 とりあえず静観ですか?

刑事2 新たな手がかりを待つしかないだろう。

  刑事たち退場。入れ替わりに女1、2が現れる。

女2 ねえ、どこに行くの?

女1 わからない。

女2 わからない?

女1 とりあえず適当に歩いてるだけ。

女2 そんなんで見つかるのかな。

女1 でもさ。

女2 あの子たちだって、何か目的があったわけじゃないと思うんだ。

女1 うん。だからこうして目的もなく歩いてる方が近道かも知れない。

女2 そっか。

  いつの間にか、「ここは」という看板が現れている。

女2 あれ、この看板。

女1 うん。

女2 「ここは」って書いてあるよ。

女1 うん。

  女1、2、座り込んでいる3人の若者を見つける。3人は男1、2、3によく似ているが別人である。

女2 あの子たちだ。

女1 そうかな?

女2 そうだよ。

女1 確かに似てるけど。

女2 間違いないよ。

女1 でも何となく雰囲気違わないか?

女2 そう?

女1 違うよ。

女2  そういわれるとそんな気もする。

女1 とりあえず話しかけてみよっか。

女2 うん。

  女1、2男4、5、6に近づく。

女1 ねえ。

男5 何だよ。

女2 やっぱ違うよ。あの子たちあんな話し方しないじゃん。

女1 そうだね。

女2 似てるけど別人だったんだ。

男6 何ゴタゴタ言ってんだよ。

男4 早く用件言えよ。

女1 あたしたち、人を探してるの。

女2 あなた達に似た感じの子たちなの。

男6 俺たちに?

女2 そう、顔とかそっくりなの。

男6 マジで?

男4 見てみてえなそいつら。

男5 で、何でそいつら探してんの?

女1 その子たち行方不明なの?

女2 川に飛び込んで、それからどこ行ったかわかんないの。

男4 馬鹿じゃん。

男6 川ってあの川だろ?

女1 そう。

男6 そんなの死ぬに決まってんじゃんなあ。

男4 即死だよ即死。

男5 聞いたことあるな、その話。授業抜けてそのまま一週間誰も気がつかなかったんだろ。

女1 あたし達、おんなじクラスだったの。

男5 そうなんだ。

男6 今頃ボラに食われて骨になってんじゃない、そいつら。

男4 でなきゃブヨブヨの水死体。

女2 ねえ、そんなこと言わないでよ。

男6 冗談きつかった?

男4 ごめん、悪気ないんだ。

女1 ねえ、見なかったよね、あなた達に似た三人組。

男5 俺達に似たやつなら、どこにでもいるよ。

女1 えっ?

男5 よく言われんだよなあ、みんな似てるって。

男6 みんなおんなじかっこうしてるとか。

男4 個性がないとか。

女2 そういうことじゃないの。

女1 あたし達真剣なんだよ。

男5 わかってるけどさ、じゃあ何でそいつらがいなくなったのに、気づかなかったの?

女1、2 (えっ?)

男6 いなくなったのが、そいつらじゃなくても同じだったんだろ。

男4 俺達だってよかったってことだろ。

女2 そんなことない。

男5 そうなんだよ。

女1 ねえ、あなた達誰なの?

男6 俺達が知りたいよ。

男4 俺達名前さえないんだもんな。

女2 名前がないの?

男6 親が付けた名前ならあるよ。

男4 でも、それは俺達の本名じゃないんだ。

女1 ねえ、あなたたちここで何をしてるの?

男5 何も。

女2 何も?

男6 何もしない。

男4 ただマッタリしてるんだ。

男6 ここにこうしてただ座ってる。

男4 そうしていつの間にか時間が過ぎて行くんだ。

女2 退屈とかしないの?

男5 結構おもしろいよ。こうやって座ってると風景が変わるんだ。

女1 風景が変わる?

男5 今まで見えなかった世界が見えてくる。

男4 一緒に座ってみない?

女1 うん。(女2に)やってみよっか。

女2 うん。

  女1、2座る。

女1 ホントだ、世界が違って見える。

女2 なんか全然違うね。

男5 だろ?

女1 みんな急いで歩いてるね。

女2 みんな前見てる。

女1 あたし思い出した。

女2 なに?

女1 前にさ、ティッシュ配るバイトしたんだ。

女2 うん。

女1 その時気づいたんだけど、サラリーマンって10人のうち3人は眉間にしわ寄せて歩いてんの。

女2 柳葉敏郎だけじゃないんだ。

女1 本数も色々。2本が基本なんだけど、1本とか4本とか、最高で8本って人がいた。

女2 うそ。

女1 思わず笑っちゃってさ、ムッとされちゃった。

女2 そりゃ怒るよね、人の顔見て笑ったら。

女1 ところが怒ったらしわが10本になって、また笑っちゃってさ。

女2 うける。

女1 あれ、絶対自分では気がついてないよね。

男5 こうやって座ってると、そういうのいっぱい見えてくるよ。

女2 ずうっとこうやって座ってるの。

男5 ずっと座ってる。

女2 歩いてる人から変な目で見られることない?

男5 ないよ。

女1 全然?

男5 全然。

男6 たぶん無視してるんじゃない。

男4 って言うより、見えてないんじゃない?

男5 そうかもな。

女2 あんなに前見て歩いてるんだもんね。

女1 前ばっか見てるよね。

男5 前に何があるんだろ?

女2 えっ?

男5 前に何かあるから見てるんだろ?

女2 何もなかったら悲しすぎるじゃん。

男5 そうだよな。

男4 俺達も前見て歩くのかな?そのうち。

男6 俺はいやだ。

男4 じゃどうするんだ?

男6 ここにいる。

男4 ずっと?

男6 たぶん。

男5 でも、できると思うか?

男6 たぶん。

男5 本当にそう思ってるのか。

男6 思ってる。

男5 お前わかってるのか?ここは忘れ去られた場所なんだ。

男6 わかってる。

男5 そして俺達も。

男6 わかってるよ。

男4 やめようぜ、そんな話。

  短い沈黙が流れる。

女1 (女2に)行こうか。

女2 うん。

女1 じゃ、行くね。

男5 ああ。

女2 じゃあね。

  女1、2立ち上がって行きかける。

男5 何か置いてかないの?

女2 えっ?

男4 何かここに置いってったら?

男6 置いてけば楽になるよ。

女1 …………あたし置いてかない。

女2 あたしも。

男5 (女1に)じゃ、あれも持って行くの?

女1 えっ?

男5 あれを持って先へ進むの?

女1 …………うん。

男5 わかった。

女2  あれって何?

女1 なんでもない。

女2 そう。

女1 さあ、いこっか。

女2 うん。

男5 じゃあな。

女1 じゃあね。

女2 バイバイ。

男5 じゃあな。

女1 じゃあね。

女2 バイバイ。

  女1、2歩き出す。少し行ったところで女1立ち止まる。

女2 どうしたの?

女1 思い出したの。

女2 何を?

女1 子供の頃、隣に空き地があったの。

女2 うん。

女1 周りに高い塀があって、外からは見えなかった。

女2 空き地なのに?

女1 そう。で、一カ所だけ扉がついてて、南京錠が掛かってた。

女2 入れないんだ。

女1 でもね、あたしの家の二階の出窓から、その空き地が見えるの。

女2 うん。

女1 何にもないんだけど、いすが置いてあった。

女2 いくつ?

女1 ひとつ。で、そのいすにおじいさんが座ってるの。

女2 おじいさん?

女1 毎日やってきて、南京錠をあけて、そこに座ってるの。

女2 何してるんだろ?

女1 あたしも不思議に思って、思い切って聞いてみたの。「そこで何してるの?」って。

女2 そしたら?

女1 「ここは、忘れ去られた場所なんだ。」って。

女2 えっ?

女1 「そして私も」

女2 ……さっきとおんなじだ。

女1 おじいさん、ニコニコ笑ってた。そしておじいさんは言ったの。「人間はにおいを忘れて、味だけを覚えている。痛みを忘れて、ぬくもりを覚えている。 じゃあ忘れたにおいと痛みはどこへ行ったと思う?」

女2 おじいさん、何だって?

女1 「ここにあるんだよ。」

女2 ここ?

女1 そう、「ここにあるんだ」って。

女2 ここってその空き地のこと?

女1 わからない。

女2 わからない?

女1 おじいさん、言ったの。「でも、ここがどこだかわからないんだ。」

女2 そうなんだ。

女1 おじいさん、そう言って、またニコニコ笑ってた。

女2 それからどうした?そのおじいさん。

女1 わからない。

女2 来なくなったの?

女1 わからない。それからあたしは二度と隣を見なかった。

女2 なんで?

女1 怖くなったの。だってある日おじいさんが来なくなったらって思うとたまらなかった。

女2 うん。

女1 なんかとっても怖かった。…………それからまもなく今のうちに引っ越した。だからあそこが今どうなってるかわからない。

女2 ねえ。

女1 なに?

女2 さっきのところにも、もう行かないのかな?

女1 たぶん。

女2 そっか。

女1 戻りたいの?

女2 そうじゃない。

  短い沈黙。

女1 川に行こうよ。

女2 うん。

  女1、2立ち去る。(男4、5、6はいつの間にかいなくなっている。)入れ替わって刑事1、2が現れる。

刑事2 その後何か情報は?

刑事1 特にありません。

刑事2 進展なしか。

刑事1 念のため新興宗教の道場もあたってみました。

刑事2 どうだった?

刑事1 私の祖先のカルマが私を苦しめているそうです。

刑事2 勧誘されたのか?

刑事1 みんな誤解しているようですが、あそこは健全なヨガの道場だそうです。信者達は自分のカルマから解放されるため、師の教えを守り、日々修行に励んでいます。財産を惜しむことは人間の最大の業であり、それを全て捨て去って初めて千年王国は訪れる、つまり………………

  刑事2、しゃべり続ける刑事1の後頭部を思い切りたたく。刑事1ハッとする。

刑事1 私何かしゃべってましたか?

刑事2 マインドコントロールされてた。危ないところだった。これからは危険な聞き込みはするな。

刑事1 わかりました。

刑事2 学校はどんな様子だ?

刑事1 行方不明者が次々と出た時は浮き足立ってましたが、もう落ち着いてます。というよりもう事件のことは忘れかけていると言った感じです。

刑事2 そんなもんだよな、マスコミももう忘れてるし。

刑事1 取材にも来なくなりましたね。

刑事2 こんなことは毎日どこかで起こってるんだ。いつまでも一つの事件を追ってはいられないさ。

刑事1 でも事件はあったんですよね?

刑事2 えっ?

刑事1 何だか最近不安になってきたんです。本当にこの事件はあったのかなって。

刑事2 何を馬鹿なこと言ってるんだ。

刑事1 こないだ思ったんです。ひょっとしたら彼らはどこにも行ってないんじゃないかって。

刑事2 どこにも行ってない?

刑事1 今もこの町にいるんです。

刑事2 どこかに隠れてるっていうのか?

刑事1 隠れてさえもいないんじゃないかと思うんです。

刑事2 どう言うことだ。

刑事1 彼らはいるんです。でもわれわれには見えない。

刑事2 見えない?

刑事1 そうなんです。

刑事2 言ってる事がわからない。

刑事1 いるけどわからない。だから行方不明だと思う。でも本当は目の前にいるんです。

刑事2 何を言いたいんだ。

刑事1 彼らは町のあちこちに潜んでいる。そして時折現れてはナイフを突きつけたり、売春したり、引ったくりをやったりするんです。

刑事2 お前大丈夫か?

刑事1 ずっと捜査をしてきたらなんかそんな風に思えてきたんです。

  短い沈黙が流れる。

刑事2 この事件の捜査はいったん打ち切ろう。

刑事1 えっ?

刑事2 我々は忙しいんだ。一つの事件にいつも関わり合ってはいられない。

刑事1 でも……

刑事2 次の事件が待ってるんだ。

刑事 ………………………………

刑事2 最近市内の高校でまたパ−券が出回ってるらしい。元締めは暴力団らしいが手がかりがない。ちょっと探ってくれないか?

刑事1   …………わかりました。

  刑事1、2退場。替わって女1、2が現れる。

女2 川ってこっちでいいの?

女1 たぶん。

女2 あっ!

女1 どうしたの?

女2 (女1に指し示す)あれ。

  「ここは」という看板が立っている。

女2 「ここは」だ。

女1 うん。

女2 川が近いのかな?

女1 そうかもしれない。

女2 あれ?あの子達。

  女3、女4によく似た二人がいる。しかし別人である。

女2 似てるね。

女1 似てる。

女2 あの子達かな?

女1 話しかけてみよっか?

女2 うん。

  女1、2二人に近づく。

女1 ねえ。

女5 なに?なんか用?

女2 (女1に)やっぱ違うよ。

女1 うん。

女5 なんか用って聞いてんじゃん。

女1 ここにあなた達に似た女の子達が来なかった?

女5 (女6に)そんなの来た?

女6 来てないんじゃない?

女5 (女1に)来なかったと思うよ。あたし達ずっと歌ってたから、よくわかんないけど。

女1 歌ってた?

女5 ずっと前からここで歌ってるの。

女2 なんで?

女6 だって道がないんだもん。

女2 えっ?

女5 ここまで来たら道がなかったの。

女2 道がなかった?

女6 だから仕方なしにずっと歌うたってるの。

女1 「歌」って?

女6 いろんな歌。

女5 歌詞は似ているの。

女6 メロディーが微妙に違うの。

女5 とりあえずの彼氏と行く海の歌。

女6 高いサンダルはいて駅の階段で捻挫する歌。

女5 遊びと本気が7・3の彼氏との3回目のデートの歌。

女6 街角で携帯の呼び出し待ってると親が愛人と歩いてる歌。

女5 ダイエットした後で振られてリバウンドの歌。

女6 ルーズソックス好きの彼氏の歌。

女5 危ないバイトに誘われてちょっと心が揺らぐ歌。

女6 どれも心地良くて、

女5 時間の過ぎるのが、苦しくなくなるの。

女2 ねえ、ずっとここにいるの?

女5 あそこを抜け出してからはね。

女2 あそこって?

女5 あなた達もそうでしょ?

女2 えっ?

女5 あなたたちもあそこから来たんでしょ?

女6 あそこがイヤになって、何かを探しに来た。そうでしょ?

女1 うん。

女6 たぶん何も見つからないよ。

女1 えっ?

女5 あたしたちがそうだったもん。

女6 歩いていたら行き止まり。

女5 道がなかった。

女6 ここは全ての行き止まり。

女5 だからあたし達歌ってるの。

女6 ねえ、一緒に歌おうよ。

女1 …………やめとくよ。

女5 なんで?

女1 もう少し探してみるよ。

女6 無駄だって。

女5 ここまで来たら歌うしかないじゃない。

女2 あたしたち川に行くの。

女5 川?

女1 川に行って探すの。

女6 何を?

女1 何でもいい。

女5 何でもいい?

女1 あたし、あそこで何も見つけられなかった。

女6 あそこだけじゃない、どこへ行ったっておなじだよ。

女1 そうかも知れない。

女5 だったら行くことないじゃない。

女1 でも、あの子達にもう一度会いたいの。

女5 あの子達って、あたし達に似てるって子達?

女1 そう。

女6 会ってどうするの?

女1 あたし、あの子たちに何もしてあげられなかった。

女5 しょうがないじゃない、そんなこと。

女1 でも話すことは出来たはずだよ。

女5 話すこと?

女1 話すこといっぱいあったはずなんだよ。何もしてあげられなくても話ぐらいできたはずなんだよ。

女6 話してたら、あの子達はいなくならなかったと思う?

女1 ……いなくなってたかも知れない。

女5 でしょ?

女6  何したって、結局何も変わらないんだよ

女2 (強く)そんなことないよ。

女5 えっ?

女2 変わらないなんて、そんなことないよ。

女5 じゃ、どう変わるって言うの?

女2 わからない。

女6 あなたはあの子たちのこと、わかってあげられたとでも言うの?

女2 たぶんわからなかったと思う。

女5 じゃ結局同じじゃない。

女2 でも同じじゃないよ。

女5 何が違うっていうの?

女2 確かにあの子達のいなくなった理由はわからない。でも多分あの子達自身だってわからないと思う。だからあたし話したかった。

女6 話してどうするの?

女2 どうもしない。

女5 えっ?

女2 ただ話すの。

女5 ただ話す?

女2  誰かと誰かが話するのと、話をしないのじゃ違うでしょ?そうじゃない?誰かについて何かを知るのは意味のあることでしょ?

女5、6 ……………………

女1 だからあたしたち川へ行くの。

女5 わかった。

女1 川へ行って探してくるよ。

女6 わかった、もう止めないよ。

  短い沈黙。

女1 じゃあ行くね。

女5 うん。

女2 じゃあね。

  女1、2行こうとする。

女6 ねえ。

  女1、2立ち止まる。

女2 何?

女6 歌わずにいられないの。

女2 えっ?

女6 歌ってなければ不安で仕方がない。それだけなの。

女1 わかってる。

女5 それだけは知って置いてほしい。

女2 わかってるよ。

女6 じゃあね。

女1 それじゃ。

女2 じゃあね。

  女1、2退場。

女5 (女6に)ねえ。

女6 なに?

女5 あたしたちどこにいるんだっけ?

  流れてくる音楽は明るいがどこか悲しげに響く。溶暗。
音楽が消えると、「ここは」の看板が浮かび上がり、そして明るくなる。女1、2が  歩いている。二人看板に気がつく。

女2 「ここは」だ。

女1 うん。

女2 川も流れてる。

女1 あたしたち、川までやってきたね。

女2 あの子達もここに来たのかな。

女1 たぶん。

女2 もし、ここに来たとしたらさ。

女1 うん。

女2 あの子達ここで何考えただろ?

女1 うん。

女2 誰かのこと考えたかな?

女1 多分考えたと思う。

女2 なんで?

女1 あたしここに来た時、話しかけられた気がしたの。

女2 なんて?

男3(声) やあ

女1 「やあ」

男2 ここに来たんだね。

女1 「ここに来たんだね。」そう話しかけられたんだ。…………で、思ったんだ。 なんだここにいたんだって。

女2 誰が?

女1 みんな。

女2 みんな?

  他の登場人物がせりふとともに現れる。しかし女1、女2は気がつかない。

女4 あたし、ここにいるよ。

男1 俺、ここだよ。

男3 俺も。

女5 あたし、ここだってば。

男2 みんないるよ。

女1 そう、みんないた。

女2 うん。

女1 みんな元気そうだった。

女2 うん。

女1 あと、あいつもいた。

女2 え!?

女1 久しぶりだった。あいつに会ったの。

女2 そうなんだ。

女1 あいつ、こんなところにいたんだ。

女2 ……………………忘れられないの?

女1 忘れられる訳ないじゃん。

女2 そうだよね。

女1 …………ねえ。

女2 何?

女1 一緒にいてくれる?

女2 うん。

女1 一緒にいてほしいの。

女2 うん。

女1 必要なの。誰かがここにいるって思えることが。

女2 わかってる。

女1 ありがとう。

  短い沈黙。

女2 海の匂いがしない?

女1 さっきからそう思ってた。

女2 海に続いてるのかな?この川。

女1 川はみんな海に続いてるんじゃないの?

女2 本当にそうなのかな?

女1 えっ?

女2 どこかとんでもないところに続いている。そうは思えない?

女1 何が言いたいの?

女2 わからない。

男1 続いている。

女3 続いていない。

女4 続いている。

男3 続いていない。

男2 続いている。

女1 川は海に続いてる、間違いないよ。

女2 ねえ、本当にそうなの?信じていいの?

女1 信じようよ。

女2 なんで?

女1 だってあたし達探しに来たんだもん。

女2 うん。

女1 探しに行かないんなら、あそこで歌ってたってよかったんだもん。

女2 うん。

女1 だから行こ?

女2 でも川は曲がってるよ。

女1 うん。

女2 本当に海があるの?

女4 海は見えない。

男3 先は見えない。

女3 過去のにおいもわからない。

男2 過去の痛みもわからない。

男1 あそこはどこだったのだのか。

女4 そして

男2 「ここは」のあとに何が続くのか。

女1 見えないだけだよ。この先には間違いなく海がある。

女2 じゃ何で川は曲がってるの?

女1 わからない。

女2 ねえ、本当に海につながってるの?

女1 つながってるよ。

女2 何でそう言えるの?

女1 だってこんなに海の匂いがするじゃない。

女2 うん。

女1 海はあるよ。海の匂いがするのは、そこに海があるからだよ。ねえ、信じようよ。

  短い沈黙の後、メール着信の音。

女1 メールだ。

  もう一度メール着信の音。

女2 あたしも。

  二人メールを見る。

女1 あれ?

女2 あれ?

女1 どういうことだろ?

女2 どうしたの?

女1 自分からメールが来てる。

女2 あたしも。

女1 えっ?

女2 あたしも来てる。自分からのメール。

女1 メッセージは?

女2 ここは

女1 おんなじだ。

女2 どういうことだろ?

女1 わからない。

  短い沈黙。

女1 でもさ。

女2 何?

女1 自分から来たメールには、自分で返事するしかないんだよね。

女2 うん。

女1 行こっか?

女2 行こっか?

女1 一緒に探そ。

女2 うん。

  二人歩き始める。

女4 まっすぐ進まなかったのは。

女3 まっすぐ進めなかったから?

男1 まっすぐ進まなかったのは。

男3 まっすぐ進みたくなかったから?

男2 でも進んでいる。

女4 ゆっくりと。

女1 探している。

全員 ここは。

  他の登場人物も歩き始める。彼らの足取りは、どこか不安げにも思えるが、しっかりしているようにも思える。海の音が聞こえてくる。次第に暗くなり、「ここは」の看板だけが残る。