ミッキー風船は耳からしぼむ


プロローグ

   幕があがると、シルエットである。ビルの隙間に立つ女子高生がいる。下手側にもう二人女子高生がいて、ビルの隙間に立つ女子高生に手をふって立ち去る。

1.風船

   照明がつく。Aが現れ、背中に風船をつけて通り掛かる。

D     ねえ。

   A立ち止まる。

D     あなた、どうして風船をつけて歩いてるの。

A     みんながつけてくれたんだ。

D     どうして?

A     僕が僕だってことがすぐにわかるようにさ。

D     つけてないとわからないの?

A     わからないよ、だって自分でも自分だってことがよく解らないんだから。

D     じゃあ風船とったらどうなる?

A     わからない。

D     どうして?

A     わからないよ、だって自分でつけた訳じゃないんだから。

D     じゃ、その風船、あたしにくれない?

A     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいよ。

D     あたし前から、なりたかったの、風船に。

A     いいかもしれないね。

D     じゃ、あたしにくれる?その風船。

A     いいよ。

   A、Dに背中を向ける。D背中の風船を取る。

D     ありがとう。

   D、嬉しそうに立ち去る。入れ替わりにB、Cがはいってくる。

B     おい、どうしたんだよ、お前の風船。

C     せっかくつけてやったのに。

A     ああ。

B     ああじゃねえんだよ、どうしたんだよ、風船は。

A     ・・・・飛んで行ったよ。

C     飛んで行った?

A     ああ、飛んで行ったよ。ビルとビルの隙間から見上げる空は、人が横向きでやっと通れるぐらいしかなかったんだ。でも、そこを通り抜けて風船は飛んで行った。ずっと、ずっと、ずっと高いところに。

C     お前、何詩人になってんだよ。なくしたならなくしたって言えばいいだろ。

A     風船は飛んで行ったんだ、ビルの隙間から、ずっと、ずっと、ずっと高いところに。

B     いい加減にしろよ、どこやったのかって聞いてんだろ。

A     飛んでいったんだ、飛んでいったんだ、飛んでいったんだ、飛んでいったんだ・・・・・

   上の台詞が繰り返されるうちに、音楽がかかり、暗転。

2.シロヤギとクロヤギ

   EとFが話をしている。

E     ねえ、知ってる?

F     あれでしょ?

E     あれあれ。

F     「おいおい」って感じよねえ。

E     でしょ?

F     かなりきてるよねえ。

E     もう最悪。

F     でもあれじゃなかったの?

E     まあそれはそうなんだけど。

F     じゃ、いいじゃん。

E     全然良くないよ。

F     え、何で?

E     たとえばこういうのってどう思う。

F     むかつく。

E     でしょ?もう超むかつくよ。
 
   上の会話の途中でDがはいってくる。

D     ねえ、何の話。

   短い間がある。

F     え?ああ、ちょっとね。

D     ねえ、何話してたの?

E     うん、ちょっと。

D     教えてよ。

F     別にたいしたことじゃないよ。

D     教えてよ。

F     え、ホントにたいしたことじゃないよ、・・・ほら、知ってる?マスオさん、愛人いたんだって。

E     そうそう、あの人がって感じよね。

D     うそだあ、なんか違うこと話してなかった?

F     ホントだよ、(Eに)ほら、何だっけ?愛人の名前。

E     キノコ。

F     そうキノコキノコ。

E     やっぱ周りがみんな海のものばっかじゃイヤになっちゃうよねえ。

D     うそ、何か違うこと話してたよ。

F     ホントだって、あと、あのこと話してたんだよね。

E     水戸黄門がボケちゃった話。

F     そうそう。

E     印篭出したら「助さん、これはなんじゃ」

F     かなり、あぶないよねえ。

D     (さえぎるように)ねえ。

F     何?

D     あたし何か悪いことした?

F     えっ何で?

D     だって・・・・・

E     何いじけてんのよ。

D     別にいじけてないけどさ。

F     何か言いたいことでもあるの?

D     あのさ。

E     なに?

D     今朝、メールいれてくれた?

E     あたしいれたよ。

D     はいらなかったよ。

E     うそ、いれたんだけどな。

F     おまえ、きっと忘れたんだよ。

E     そんなことないよ。

F     だいたいさあ、おまえ、誰にでもメール入れすぎなんだよ。

E     そうかなあ。

F     おまえ何人にメールいれてんの?

E     十五人。

F     それだけ入れてりゃ何人か忘れるよ。

E     ねえ、ちゃんと電源いれてた?

D     入れてたよ。

E     じゃ、番号間違えたのかなあ。

F     登録してあるんだから間違えるわけないでしょ?忘れたんだよ。(Dに)こいつ、しょっちゅう忘れんだから、あたしだって何回も忘れられてるよ。

E     うそだあ、話作ってんでしょ。

F     あたしのは入ったでしょ?

D     はいらなかったよ。

E     ほら、自分だって忘れてんじゃん。

F     うそ、絶対いれたよ、あたし。

E     こいつの絶対とか言って、あてになんないよね。こないだも絶対遅刻しないとか言って30分も遅刻してんの。

F     だから言ったじゃん、あれは自転車がパンクしたの。

E     お前しょっちゅう自転車パンクしてないか?

F     ホントだって、じゃウチの近くのカメヤ自転車店に聞いてみてよ。
      
E     おたくで売ってる自転車って、すぐパンクするんですかって?

F     買ったのはダイクマだよん。

E     お前、ダイクマで買った自転車、近所の自転車屋で修理してもらってんの?

F     うん。

E     ちょっとずうずうしくないか?

F     そうかなあ。

E     当たり前じゃん。

D     ねえ。

F     何?

D     明日はいれてくれる?

F     えっ?

D     明日はいれてくれる?メール。

E     何だ、まだそんなこと言ってたの?

F     結構根に持つタイプだったりして。

E     きっと死んでもゾンビとかなって襲って来んだよ、こいつ。

F     こわーい。

D     何もそこまで言わなくてもいいじゃん。

F     あっ傷ついた?

E     冗談に決まってんじゃん。すぐ真にうけるんだから。

F     明日は絶対いれるからさ。

E     もう十回くらい入れちゃうよ。

D     お願いね。

E     そんな目うるませて「お願いね」とか言わないでよ。

D     うるませてなんかないよ。

F     暗いんだよな。

D     えっあたし?

E     うん、なんかジメッとしてんだよね。

D     そうかなあ。

F     ねえ、気になってることでもあんの。

D     別に・・・・・

F     いいよ、何でもいってくれて。

D     (ややためらった後)この間、怖い話を聞いたの。

E     どんな話?

D     白ヤギが黒ヤギに手紙を書いた話。

E     それで?

D     黒ヤギは手紙を食べてしまったの、それで仕方なしに今度は自分が白ヤギに手紙を書いた。「さっきの手紙、用件何だったの?」

F     馬鹿みたい。

D     ところが今度は白ヤギもまたその手紙を食べてしまったの。

E     いっちゃってるね。

D     そして白ヤギは手紙を書いた「さっきの手紙、用件何だったの?」

F     それで?

D     ところが今度は黒ヤギがまた手紙を食べちゃったの、それで黒ヤギは手紙を書いた「さっきの手紙用件なんだったの?」そして次に白ヤギが・・・

E     (さえぎるように)ねえ。

D     なに?

E     いったい何が怖いのよ?

D     怖いでしょ?この二匹のやりとりは永久に繰り返されるのよ。永久に手紙を書き続け、永久に食べ続けるのよ。

E     (Fに)永久とかって考えたことある?

F     あるわけないじゃん。

E     ないよね、普通。

D     あたしが言ってるのはそんなことじゃないの。怖いのよ、こういう繰り返しってのが。繰り返しって何のために繰り返されるの?

E     ねえ、何この人。何者?

F     繰り返しとかいってるし。

E     勘弁して欲しいよね。

F     ねえ、やめな、そういう訳の解らないこと考えるの。人生楽しく生きなきゃ。

D     ねえ、人生って楽しい?

F     だから止めてよ、そういうの。

E     はっきり言って疲れるよね。

D     ごめん。

E     あやまんないでよ、何か悪いことしたような気分になるじゃない。

D     ごめん。

E     だからあやまるなっつうの。

D     ごめん。

E     (怒って)あんた、おちょくってんの?

F     まあ、いいじゃない。こいつ、こういう奴なんだからさ。

E     でもむかつくんだもん。

D     ごめんね。

E     まだあやまってるよ。

F     もうほっときなよ。

E     あっ!!

F     何?

E     忘れてた、一時間目体育じゃん。早く着替えなきゃ。

F     やばい、あたしも。

E     じゃあね。

F     またね。

   Dがひとり取り残される。

3.見つけられるもの

   一人残されたDの上に風船がおりてくる。Dは何度もそれに飛びつこうとするが、届かない。やがて風船は再び飛んで行ってしまう。そこにAが現れる。

A     風船になりたかったの?

D     そう、でも、もう終わったの。

A     本当に終わったの?

D     えっ?

A     本当に終わったのかな?

D     終わってないの?

A     何かすることはないの?。

D     あるかもしれない。

A     僕もそんな気がするんだ。

   短い間

A     ・・・・・・・やらなきゃいけないね。

D     ・・・・うん。

A     そうしなきゃ終わらないから。

   D、うなずく。

          
4.パチンコ

   A、B、Cの三人がやって来る。Aは紙袋に景品をいっぱい詰めて、持っている。

B     全くやってらんねえよなあ。

C     教えてやった俺たちが出なくて、どうしてお前だけ大当りな訳?

B     しかも7連チャン。

A     パチンコって面白いね。

C     おい、「面白いね」と来たぜ。

B     やったことねえから、外で待ってるっつったの誰だっけ?

A     ま、最初は誰でもそうなんだよ。

C     で、お前何と交換したの?

A     プラモデル。

B     なに?

A     プラモデルだよ。

C     お前弟かなんかいたんだっけ?

A     いないよ。

B     じゃ、プラモデルって・・・

A     趣味で集めてるんだ、俺。

C     (あきれて)結構いい趣味してんだな。

A     (うれしそうに)えっ初めてだよ、そんなこと言われたの。

B     多分、最初で最後だよ。

C     で、お前、全部プラモと交換しちゃったの?

A     うん。

B     タバコ頼まなかったっけ?俺たち。

A     ちゃんと言ったんだよ、でも「高校生だろ」って言われて。

C     そういうときゃ「父親の誕生日のプレゼントです」とか言っときゃいいんだよ。

A     だって親父の誕生日6月だよ。

B     お前って生まれながらの正直者だな。

C     きっと金の斧が貰えんぞ。

A     銀の斧は?

B     銀も銅ももらえるよ。

A     銅はいいや、良かったらあげるよ。

C     いや遠慮しとく。

A     遠慮なんていらないよ、お前らのおかげでこんなにたくさんプラモ手にはいったし・・・・あ、ひょっとしてプラモ分けてほしいの?

B     気持ちだけ貰っとくよ。

C     俺たち、ちょっと趣味が違うんだ。

A     そっか、じゃあしょうがないね。ま、そう気を落とすなよ、きっと今度はお前らも出るよ。

C     おいおいちょっと待てよ。

B     出る台教えてやったの俺たちだよ。

A     じゃどうして俺しか出なかったの?

   B、C一瞬言葉につまる。

C     ま、そう言う時もあるんだよ。

B     (気を取り直して)さて、じゃあ飯でも食いに行くか。

C     一人大もうけした奴がいるから、今日は豪勢に行こうぜ。

A     俺、帰らなきゃ。

B     おい、ちょっと待てよ。

C     勝ち逃げはねえだろ、勝ち逃げは。

A     でも、用があるんだよ。

B     用って何の用だよ。

A     塾があるんだ。

C     お前、塾と俺たちとどっちが大事なんだよ。

A     塾。

B     お前、殺されたい?

A     うそだよ、うそ。でもこの頃いっつもお前らとつきあってて休んでばっかだろ。こないだ、家に電話されちゃってさ、親父本気で怒ってんの。

C     親なんて怒らしときゃいいんだよ。

A     今度さぼったら塾クビだってさ。

B     こっちからやめちまえ、そんなとこ。

C     お勉強ぐらい俺たちが教えてやっからよ。

A     でもやっぱやばいよ。

B     そうか、お前ってそういう奴だったんだ。

C     所詮その程度だよな、俺たちの友情なんて。

A     ねえ、頼むよ、今日だけは勘弁してよ。

C     そうか、そんなにお父様が大切なら、その大切なお父様に教えて差し上げ
      なきゃな。おたくの息子さんは僕たちと一緒にタバコを吸ってます。

B     一緒に近くの中学生をカツアゲしたこともあります。

C     最近、シンナーやめて覚醒剤に入れ込んでます。

A     おい、ちょっと待てよ、俺、タバコは一口吸っただけだし、カツアゲなんてやったことないし、ましてシンナーとか覚醒剤なんて・・・・

C     そう、確かにそうかも知れない。でも、俺こないだお前にラーメンおごってやったよなあ。

A     ああ。

B     あの金、俺たちがどうやってかせいだか、知ってるか。

A     見当はついてる。

C     そういうのを世間は共犯者っていうんだよ。

A     そんな。

B     お前のおとっつぁん悲しむだろうなあ、息子がぐれて不良の仲間入り。

A     わかったよ、塾休むよ。

B     よっしゃ。

C     最初から素直にそういやあいいんだよ。

B     これじゃ、俺たちおどしてるみたいにみえちゃうよなあ。

A     十分おどしてるよ。

C     何かいった?

A     いや、何でもない。

C     さて、行くか。

A     でも、あんま金持ってないんだ。

B     お前全部プラモに替えちゃうからだよ。

C     家に帰りゃいくらかあんだろ?

A     ひょっとして取って来いってこと?

B     ピンポーン。

A     わかったよ、行ってくりゃいいんだろ。

B     じゃ、俺たちは先行ってるぞ。

C     いつもんとこな。

   Aが一人取り残される。
5.風船の種類

   Aが一人でいるところに、Dが入ってくる。

D     あなた、いつもそうなの?

A     ああ、いつもそうだよ、俺、アドバルーンだから。

D     アドバルーン?

A     みんなから好きな宣伝文句をかいて貰って、それをつけてるんだ。

D     でもいいじゃない、風船なんだから。

A     よくないよ。

D     いいじゃない、あたしなんか風船にもなれなかったのよ。

A     でも、飛べないんだよ。

D     えっ?

A     俺、飛べない風船なんだ。

D     飛べない風船?

A     そこがいやでも、ずっとそこにいなきゃいけないんだ。

D     似てるのかな?

A     えっ?

D     似てるのかな、私たち?

A     ・・・・・・わからない。

D     私、わかったの。

A     何が?

D     私がどうすればいいか。

A     ・・・・俺もわかったよ。

D     できるかな?

A     わからない。

D     でも、やらなきゃいけないんだよね。

   Aうなずく。A立ち去る。

                                  
6.バブル

   E、Fが話しながらやってくる、Dに気が付かない様子。

D     (小さな声で)おはよう。

   E、Fは聞こえない様子。

D     (やや大きな声で)おはよう。

   やはり聞こえない様子、というよりも聞こえないふりをしている様子。

D     (もう少し大きな声で)おはよう。

   二人、初めて気付いた様子。

E     あっおはよう。

F     おはよう。何よ、音もなく忍び寄って来て。

E     びっくりさせないでよ。

D     え、別に普通に来たつもりなんだけど。

E     これで普通なの?

F     時々ホントに生きてんのかって疑っちゃうよね。

D     あのね・・・

E     何?

D     ・・・あのね、藁が落ちていたの。

E     何よ突然。

D     こないだ聞いた話なの。

F     あんた何か前置ってものがないの?

D     ごめんなさい。

E     またあやまる。

F     で、その藁がどうしたの?

D     「わらしべ長者」って知ってる?

F     なんか、どんどん金持ちになっちゃう話でしょ?

E     あ、知ってる、あたし絵本持ってた。

D     あれと似た話なの。ある女子高生が藁を拾ったの。そしてその藁にミヤマクワガタつないでたら、五千円で売れたの。

E     うっそ、マジで?

F     ちょっと、あたしたちも探さない?その「ミヤマクワガタ」っていうの。

D     で、今度はその五千円でブランドものの下着買ったら、一回はいただけで、
      三倍の値段で売れたの。

E     三倍?!

F     きっと顔写真つきじゃない、それって。

E     あんたヤケにくわしいじゃん、実はやってたりして。

F     え?バレた?

E     マジで?

F     冗談に決まってんじゃん。

E     そうだよね、あんたの顔写真ついてたら誰も買わないよね。

F     それ、どういう意味。

D     でね、その子がね・・・・。

F     なに?まだ続きがあんの?

E     話すならさっさと話してよ。

D     ・・・・・・ねえ、あたしの話つまらない?

E     死ぬほど。

D     ・・・・・・・・・。

E     冗談だって、いちいち落込まないでよ。

F     で、その子がどうしたの?

D     その子、今度はモデルやらないかって誘われたの。

E     やばくない?それって。

D     でも、体操服ぐらいならまあいっかと思ってやったら、3万円くれたの。

E     それってブルマってこと?

F     あるんだよね、そういう撮影会。ハゲ親父がじろじろ見て写真撮んのよね。

E     やだ、想像させないでよ。

F     鳥肌たっちゃうよね。

D     で、今度は撮影会に来てた人から援助交際の話が持ちかけられたの。

F     あるある、そういう話。

E     やっぱ相手はハゲ親父?

D     それがプロダクションの社長で、ちょっとキムタク系。

F     ウソ、マジで。

E     ジーンズが似合っちゃったりするんだ。

D     それからその社長の紹介で週一ぐらいのわりで、援助交際つづけたの。相場は一回10万で一年で500万たまった。

F     ねえ、その子全部お金貯めてたの?全然使わなかったの?

D     そう、その子は使わなかった。そしてある日、全てが学校にバレて退学になり、あとには手つかずの500万が残った。

F     結構いるんだよね、そういうの。

E     いるいる、あたしの友達の知ってる子の彼氏の知合いの同級生が、やっぱ退学になっちゃったんだって。

F     で、その500万は?

D     そのまま。

E     使ってないの?

D     うん。

F     ねえ、何でその子お金使わないの?

D     どう使っていいか解らなかったの。

F     なんで?あたしにくれたらいくらでも使っちゃう。

E     使っちゃうよね。

D     でもさ。

F     なに?

D     お金ってなんなの?

E     またそういうこと言う。

F     そういうとこが暗いっていってんのよね。

D     でも、考えない?

F     何を?

D     だからお金のこと。

F     考えないよね、普通。

E     絶対考えない。

D     そうかなあ。

F     あんたいったい何を考えるわけ?

D     あたし、お金のこと考えると風船思いだすの。

E     風船?

D     そうね、例えばディズニーランドのミッキーマウス風船。

F     お姉さんが束で売ってる奴?

E     あの数すごいよね。

D     あれ、あっと言う間に売れちゃうんだよね。で、次のお姉さんが来て、またあっと言う間に売れちゃうの。あれ、なんか、お金に似てない?

E     どこが?

D     似てるよ。割れちゃうのもあるし、飛んでっちゃうのもあるし、持って帰って長く持っても一週間、だんだんしぼんでいつの間にか捨てられて。

E     ねえ、ミッキー風船って耳からしぼんでくんだよね。

F     そうそう、時々耳だけ縮んでクマ風船になってたりしない?

E     するする。

F     あれ、ちょっと空しいよね。

E     でも、行くとまた欲しくなるんだよね。

D     ね、お金に似てるでしょ。

E     全然わかんない、その感覚。

F     やっぱ暗いよ、あんたって。

E     真っ暗よね。

D     そうなのかなあ。

F     で、何が言いたいの?要するに空しいってこと?

D     それもあるけど、それだけじゃないの。ミッキー風船買ったとき、すごく嬉しくて幸せな気分だった。だから耳が縮んでクマになっちゃったとしてもそれはそれでいいの。

E     じゃ何がいけないの?

D     別にいけなくないんだけど、ただ・・・・

E     ただ、なんなのよ。

D     時々怖いの。

F     ねえ。

D     なに?

F     あんた、生きてて疲れない?

D     疲れてた。

E     でしょ、当たり前だよ、そんなことばっか考えてたら。

F     (Dに)ねえ、今なんて言った?

D     え?

F     今、過去形で言わなかった?

D     そうだった?

E     なに?どういうこと?

F     「生きてて疲れない?」って聞いて、「疲れてた」って返事すんの変じゃない?

D     あたしそう言ってた?

E     自分が言ったことも覚えてないの?

F     ちょっとしっかりしてよ。

E     ボケるには早いよ。

D     別にボケてる訳じゃないよ。

E     だってボケてるよねえ、3秒前に言ったこと覚えてないんだから。

F     大ボケだよ。

D     違うの、そうじゃなくて・・・

E     そうじゃなくて何よ。

D     ・・・そうじゃないの。

F     だから、何がそうじゃないの?

D     うん。

E     うんじゃなくて何なのよ。

F     なに?何が言いたいの?

D     ・・・・・・・・・・・。

E     ねえ、はっきりしてよ。

D     ・・・・・・・・・・・。

E     はっきり言えばいいでしょ。

D     ・・・・・・・・・・・。

F     (Eに)行こっか?

E     行く?

F     何か疲れちゃうよね、こんな会話してると。

E     行こ行こ。

   二人、立ち去ろうとする。

D     ・・・・・・・(思いきったように)ねえ。

   二人、足を止める。

E     何?

D     ねえ。

E     何よ?思い詰めたように。

D     来てほしいところがあるの。

F     何よ?突然。

D     来てほしいの。

E     どこに?

D     来てくれる?

F     だからどこに?

D     ビルがあって、その隣にもビルがあって、そこに隙間があるの。そこに来てほしいの。

E     こいつ、だいじょうぶ?

D     ねえ、お願い来て。案内するから。

F     そこに何があるの?

D     とにかく来てほしいの。

   Dのいつにない勢に二人は次第に圧倒される。

E     どうする?

F     別にいいけどさ。

D     じゃ来て、今。

E     今すぐに?

D     うん。

F     わかった、行くよ。

E     うん。

D     じゃ、着いて来て。

   三人立ち去る。
7.吊るしあげ

   A、B、Cの三人がはいってくる。

A     だから絶対にお前らの名前は言ってないって。

B     じゃ、どうして俺たちまで停学になったんだよ。

A     知らないよ。

C     いいか、あん時見つかったのはお前だけなんだ。お前が言わなきゃ俺たちまで呼ばれる訳ねえじゃねえか。

A     でも、本当に言ってないんだよ。

B     じゃ、どうして判ったんだよ。

A     知らないよ、本当に知らないんだよ。

C     いいか、別に俺たちゃお前をどうこうしようって訳じゃないんだ。ただ、知っときたいだけなんだ。なんで俺たちまでつかまったのかってことをな。

A     ・・・・・・でも本当に言った訳じゃないんだ。

B     言ったわけじゃない?

C     言った訳じゃなくてどうしたんだ?

A     ・・・・・・・・・・

B     正直に話してみろよ。

C     また金の斧がもらえんぞ。

A     銀と銅は?

B     お前、銅はいらないんじゃなかったの?

A     やっぱ欲しくなったんだ。

C     わかったわかった、銅もやるから話してみろよ、言った訳じゃなくてどうしたんだ?

A     ・・・・・・ほら、俺、いっつもお前らの分のタバコもってるじゃない、お前らがいつでも吸えるようにってさ。

B     それで?

A     俺、渡す時、間違えないように名前書いといたんだ、マジックで。

C     それを没収されました、そういう訳なんだな。

A     そういう訳なんだよ。

   二人、Aをしめあげる。

B     そりゃあ、ずいぶんなことしてくれたな。

A     いや、悪気はなかったんだよ。

B     当たり前だろ。

C     ずいぶんいい友達持ったよなあ、俺たち。

B     まったくだよ。

C     でも、タバコって普通三日間の停学じゃねえのか?

B     だよな、どうして俺たち一ケ月も停学になるんだよ。

   二人、Aの方を見る。

A     いや、悪気はなかったんだよ。

C     まだ何かやったのか。

A     ほら、この間の土曜の夜、バイクで学校に来て、グランドでバーベキューやったじゃない。

B     まさかしゃべったのか?

A     いや、そんなこと絶対にしないよ。

C     じゃ、どうしたんだよ。

A     ・・・・・俺、最近日記つけてるんだ。

B     それをカバンに入れといて見つかったとか言わねえよな?

A     そうかも知れないな。

C     じゃ、お前、職員玄関にクソしたことも書いたのか?

A     ああ。

B     校門、スプレーでショッキングピンクに塗っちゃったこともか?

A     多分。

C     そりゃ一ケ月でよくすんだよ。

A     俺、悪気はなかったんだよ。

B     悪気があったら今頃殺してるよ。

C     ホントいい友達持ったよなあ、俺たち。

A     ・・・・・・・

C     で、どうするつもりなんだ。

A     えっ?

C     何か詫びの仕方は考えてるんだろ?

B     そりゃ、当然だよなあ。

A     ・・・・・50円アイス2本でどうかなあ。

B     お前マジで言ってんの?

A     だって今200円しか持ってないんだ。

C     何も今とは言ってねえよ、待ってやるよ、俺たち結構気は長い方だからなあ。

B     そうそう。

A     じゃ、今度バイト代入ったらラーメンおごるよ。

C     おい、いくら気が長いっつっても、限度はあるんだからな。

B     俺そろそろキレかかってるよ。

A     じゃ、どうすりゃいいんだよ。

   C、Bに耳打ちする。

B     俺たち、新しいバイク欲しかったんだよな。

A     勘弁してくれよ、そんな金ないよ。

C     その気になりゃそれぐらいなんとかなるだろ。

A     そんなの絶対無理だよ。

B     男ならなんとかしてみろよ。

A     勘弁してくれよ。

   気まずい沈黙が流れる。

C     そうだなあ、お前とも長い付き合いだからな、一回だけチャンスをやろうじゃないか。

A     えっホント?

C     ただし、一回だけだぜ。

A     で、チャンスって?

C     ちょっとした度胸だめしをやろうじゃないか。

A     度胸だめし?

C     ちょっとしたな。

A     わかった。

C     よし、じゃ、一時間後に駅で待ってるからな。

A     駅で?

C     ああ、一時間後に駅だ。

A     ・・・・解った、行くよ。

   B、C立ち去る。Aが残る。

8.風船の中身

   Aが一人いるところにDが現れる。

D     あたし、みつけてもらうことにしたの。

A     そうなんだ。

D     みつけてもらわなきゃいけないってわかったんだ。

A     そうすれば終わりにできるから?

D     終わりにできるかな?

A     できるといいね。

D     あなたは?

A     えっ?

D     あなたはわかったの?どうすればいいか。

A     俺言うことにしたよ。

D     そうなの?

A     言うことにしたよ、あいつらに。

D     そうすれば終わりにできるから?

A     終わりにできるかな?

D     できるといいね。

   短い間

A     ねえ。

D     なに?

A     風船って何がはいってるんだろう?

D     え?

A     風船の中って何がはいってるんだろう?

D     わからない。

A     誰に聞けばわかるかな?

D     わからない。多分、誰に聞いてもわからないよ。

A     だから、みんな飛んでいるの?

D     そうかも知れないね。

   短い間。

A     俺、言わなきゃな。

D     言えるといいね。

A     俺、言うよ、あいつらに。

   D立ち去る。
9.度胸だめし

   B、Cが入ってくる。駅のホームである。

C     さて、じゃ次はお前の番だ。

A     俺、いいよ、俺の負けでいいからさ。

B     お前、今更何言ってんだよ。

C     逃げようったてそうはいかねえぞ。(Bに)さあ、行くか。

   B、CがAをつかんで首をホームから出させる。

A     やめてくれよ。

B     じゃ、自分でやるか?

A     ・・・・・・・・

B     ほらみろ、できねえんだろ。だから手伝ってやってんじゃねえか。

C     だいたい汚ねえんだよ、俺たちがやったのに、どうしてお前だけやらねえんだよ。

A     俺は最初から・・・・・

C     あっ、そう来るか。お前って、そういう奴だったんだ。

A     そうじゃないよ、だから言ってるだろ、俺の負けでいいって。

C     そういう問題じゃねえんだよ。

   踏切の警報機の音が聞こえる。

B     おっ来た来た。

A     おい、勘弁してくれよ。

C     だいじょぶだって。貨物列車の先頭が五本めの柱の所まで来たら、手は離してやるよ。

A     本当に離してくれるんだろうな?

B     忘れなければな。

A     (あわてて)忘れなければ?

B     冗談だよ、冗談。絶対離してやるよ、心配すんなよ。

A     でも離してもらった時に、俺が金縛りになっちゃったらどうすんだよ。

C     ま、その時は貨物列車とお前の頭の一騎討ちだな。

A     勝てる訳ないだろ。

   C、拳で軽くAの頭をたたく。

C     大丈夫だ、結構固いよ。

   一瞬、警報機の音が大きく聞こえる。三人下手の方を見る

B     そろそろ来んぞ。

A     おい、頼むよ、もういいだろ。

B     何言ってんだよ、まだあんな遠くだぜ。

C     勝負は列車がホームに差し掛かってからだ。(Bを顎で示して)こいつは8本めの柱まで我慢した。俺は11本目だった。お前がそれを上回れば、お前の勝ち、そこまで我慢できなければお前の負けだ。

A     だから負けでいいよ。

B     お前も往生際悪いな。

C     これは俺たちの友情の証なんだよ。

   また、一瞬警報機の音が大きく聞こえる。

B     さあ、来たぞ。

C     いいか、俺たちは列車が五本めの柱の所まで来たら手を離す。そこからはお前次第だ。いいな。

A     (うなだれている)・・・・・・・・

B     おい、返事しろよ。

A     (うなだれている)・・・・・・・・

C     さあ、来たぞ、しっかり列車の方を見てろよ。

B     列車がホームにかかった。

B、C   (一緒に数える)1、2、3、4、5

   二人同時に手を離しAから離れる。しかしAは下を向いたまま動かない。

B     おい、どうしたんだよ。

C     おい、どうした。おい、おい、おい・・・・・

   Aは動かない。警笛と列車の通過する轟音にCとBの叫びがかき消される。BとCは目をそむける。

10.去るもの、残るもの

   照明が付くとBとCがそれぞれ花とプラモデルを持って立っている。そしてそれをビルのところへ供える。その後BとCが振り返ると、Aが立っている。B、C驚く。

C     おい、お前・・・

A     言っとくけど幽霊じゃないからな。

B     だってお前・・・・・

A     死んだはずだ、そう言いたいんだろ?

B     ああ。

A     俺は列車にわざとぶつかって死んだはずだ、そう言いたいんだろ?

C     お前、生きてたのか?

A     ・・・・・・・・

B     あの時お前は病院に運ばれた。

A     ああ、その通りだ。

C     お前はほとんど即死状態だった。

A     そう、ひどい状態だった。

C     手のほどこしようもなく、お前は死んだ。

A     違う。

B     えっ?

A     違うんだ。

B     じゃ、死ななかったのか?

A     違う。

C     おい、いったいどう言うことなんだよ。

A     俺にもよくわからない。でも、ひとつだけお前らに黙ってたことがあるんだ。実は俺・・・・

   Aのせりふをさえぎるように、E、F、Dが駆込んでくる。以下、A、B、CとD、E、Fはそれぞれ会話を続けるが、その会話は奇妙に響き合う。

D     ここなの、来てほしかったのはこの場所なの。

F     で、ここに何があるの?

D     ビルとビルがあって、その隙間は人がやっと通れるぐらいだったの。

E     見ればわかるよ、そんなこと。

F     ねえ、いったい何がここにあるの?

D     よく見て。

E     えっ?

D     よく見てよ。そして見つけてよ。

F     見つけるって何を?

D     ビルとビルの隙間、そこをよく見て見つけてよ。

E     よく見ろって言われても・・・

F     あっ!!

E     えっ?なに?

F     あそこ、ほらあそこに何か・・・・・

E     え?あっ本当だ。何かある、あそこに。

F     あれ?ひょっとして・・・・

E     まさか・・・・

F     間違い無いわ、あれは人間よ。

D     そう、あれは確かに人間なの。そしてあれは・・・

   前のDのせりふをさえぎるように、Aが言葉を発する。

A     実は・・・俺、ずっと前から死んでたんだ。

D     あれは・・・あれはあたしの死体なの。

B     何だって?

C     お前、何言ってんだよ。

A     もう一度言うよ。俺、ずっと前から死んでんだよ。

E     何?どういうこと?

F     死体?死体ってどういうこと?

D     そうなの。あれはあたしの死体なの。あたし本当はずっと前から死んでるの。

E     死んでる?何なの?それ。

F     ねえ、あんた本気で言ってるの?

D     自分でもよくわからない、だけど、あたし確かにもう死んでるの。でも正確に言えばちゃんとは死ねなかったの。

B     よくわかんねえよ。

A     俺だってわからないんだ。俺、確かに死んだはずなんだ。でも、どうしてだかわからないけど、ちゃんとは死ねなかったみたいなんだ。

C     ちゃんと死ねなかった?ちゃんと死ねなかったって、どういうことなんだよ。

A     成仏もできないし、幽霊にさえもなれなかったんだ。俺は死のうと思ったけど、死ぬことさえできなかったんだよ。

   沈黙が流れる。

D     なんで死ねないの。ビルとビルの隙間に横たわったまま。どうしてこんな狭い空を見つめなきゃいけないの。死んでまでどうしてこんな中途半端でなきゃいけないの。そう思った。

F     ねえ。

D     なに?

F     これってあたしたちへのあてつけなの。

B     うらんでんのか?俺たちのこと。

C     だったら、やめてくれよ。いったい俺たちが何したっていうんだよ。

E     あたしたち、そんなに冷たかった?でもあたしたちに何ができた?言ってよ、どうすればよかったっていうの?

   短い間。

A     たぶんこれで良かったんだよ。

B     え?

A     これで良かったんだよ。というより他にどうしようもなかった。

D     あたし、うらんでないし、あてつけなんて全然考えてもない。あんたたち、結構優しかったよ。

F     本当にうらんでないの?

C     じゃ何が言いたいんだ。俺たちに何が言いたいんだよ。

   短い間

A     お礼かな。

B     お礼?

D     あたしうらんでない。むしろありがとうって言いたいくらいなの。

A     俺、確かにつらかったよ。お前らの存在って俺にとってすごいプレッシャーだった。でもやっぱりお前らは必要だった。

D     あたし、あなたたちがいなかったら、もっとダメになってた気がする。もっと孤独でどうしようもなかった気がする。

A     だから、俺、うらんでなんかいないよ。

C     だったらなんで死んじまったんだよ。

F     じゃ、なんで死んじゃったのよ。

   短い間。

D     あたし風船になりたかったの。

E     風船?

D     その場の風に合わせて、自由にうまく、この世の流れに乗ってみたかった。

A     俺、飛べなかったから。

B     飛べなかった?

A     飛びたいけど飛べない、アドバルーンだったから。

C     お前を飛ばせなかったのは、俺たちか?

F     風船になれなかった原因って、あたしたち?

D     原因はあたし。そう、飛べなかったのは自分のせい。でもわかる?風船になれないこと、飛べないことがどんなに苦しいか。

A     俺が悪いのはわかってる。でも、俺苦しかったよ。

B     それで死んだのか?

E     だから死んだの?

D     あたし、どうしても風船になりたかった。だからなろうとしてやってみたの。でも、気がついたらビルの隙間に落っこってたの。

A     俺が、俺が本当はどこで死んでたか知ってるか?・・・・・・学校のトイレだよ。ほら、お前らがよくタバコ吸っていた洋式トイレのとこだよ。でもクビつった時、気がついた。俺、トイレにカギかけてたんだ。

C     お前らしいな。

B     何でずっとカギかかってんだろうって思ってた。気付かなかったよ、お前が死んでるなんて。

D     そう、そして誰も気付かなかった、あたしが死んだことに。外の通りを何人もの人が行きかうのが見える。誰もあたしに気付かずに。あたしはそしていつまでも横たわっていた。

F     たぶん、あたしも通ってたんだね。何にも知らずに。

A     俺、聞いていたよ。お前らが隣のトイレでタバコ吸いながら話してんの。俺の話なんか全然出なかったけどね。でも、俺、本当にうらんでないよ。

C     じゃあ何で、今さら俺たちに言う気になったんだよ。

A     ちゃんと死にたかったからな。

B     ちゃんと死ぬ?

A     ああ、俺、度胸だめしやろうって言われた時、これでちゃんと死ねるかと思ったんだ。

D     あたしちゃんと死にたかった、誰にも知られずいつのまにか死んでるなんていやだった。

F     だから見つけて欲しかった。

E     あたしたちに。

C     俺たちの目の前で、お前は列車にぶつかって、もう一度死のうと思った。

B     列車にぶちあたれば、ちゃんと死ねると思った、そういうことなのか?

A     ああ、でも、列車が目の前に迫って、これじゃダメだと思ったんだ。これじゃ、やっぱりちゃんと死ねない。俺はちゃんと言わなきゃだめなんだ、俺が死んだことを。言わなきゃダメなんだ、お前たちに。

D     そう、ちゃんと見つけて欲しかったの、あたしが死んだってことを。あたしの死体を見つけて欲しかったの、あなたたちに。

   やや間がある。

   ビルとビルの隙間から空が見える。

D     空だ。

A     え?

D     空が見える。

A     本当だ空が見える。

D     あたし、ちゃんと死ねたの?

A     ああ、ちゃんと死んだんだよ。

D     もう、中途半端じゃないの?

A     ああ、中途半端じゃないんだよ。

D     もう終わったの?

A     ああ、終わったんだよ、これでちゃんと終わったはずだよ。

   やや間がある。

A     (Dに)さあ、行こうか。

D     うん。

B     行くのか?

A     ああ、行くよ。

C     おい。

A     何だい?

C     飛べるといいな。

A     ああ、俺飛ぶよ。

E     ねえ、行くの?

D     うん、行くよ。

F     ねえ、どうすればいい?私たち。

D     何もしなくていいよ。

E     何も?

D     何もしなくていい、今のままでいいんだよ、だってあんたたち風船なんだから。

E     でも、風船ってなんなの?

F     そう、教えてよ。あたしたち確かに風船かも知れない。でもあたしたちだっていつも風にうまく乗ってる訳じゃないんだよ。

D     それでもいいんだよ。

E     あたしたち、多分少ししぼんでるよ。耳がしぼんでクマにしか見えないミッキー風船かも知れないんだよ。

D     それでもいいんだよ、とにかく風船なんだから。

   短い間がある。音楽が鳴る。

D     あたし、行かなきゃ。

E     うん。

D     じゃ、バイバイ。

A     (B、Cに)じゃあな。

   静かで荘厳な音楽が鳴る中、ビルの隙間が開き二人はその中へ消えて行く。やがてビルは閉じ、その隙間から風船がひとつゆっくりと飛んで行く。それを見送ってEとFは立ち去り、BとCだけが残る。

C     どうする?

B     え?

C     これからどうするんだよ?俺たち。

   Aの声がする。

A     何もしなくても良かったんだよ。

   Aが、花とプラモデルを持って、いつの間にか現れている。

B     お前・・・・

A     ああ、飛べなかったよ。

C     ダメだったのか。

A     ああ、ダメだった。俺やっぱりちゃんと死ねなかったよ。

B     なぜなんだ、なぜちゃんと死ねないんだ。

A     お前らのせいだよ。

B     えっ?

A     お前らがいけないんだよ、花供えたり、プラモデル供えたりするから。

C     何でいけないだよ。

A     そんなことしたら、何もかも分からなくなっちゃうじゃないか。お前らは花供えたりプラモ供えたりしちゃいけなかったんだよ。

B     じゃどうすりゃいいんだよ。

A     俺をパシリに使ってくれよ。

B     えっ?

A     俺からタカってくれよ、俺にメシおごらせてくれよ、俺に携帯電話買わせてくれよ。

C     何言ってんだよ、お前にそんなことやらせねえよ。

A     じゃ、誰にやらせるんだ?

C     誰にもやらせねえよ。

A     だったらどうして花なんか供えたんだ?

B、C   ・・・・・・・

A     どうしてプラモ供えたんだ?

B     じゃ、他にどうすりゃいいんだよ。

A     だから俺をパシリに使ってくれよ、俺うらまないから。

C     できる訳ねえだろ。

A     でも、やらなきゃいけないんだよ。そして、自分が何をして、何をしなかったのかちゃんと覚えていてくれよ。そうしなきゃ、俺、いつまでもちゃんと死ねないよ。

C     俺たちがちゃんとしなきゃいけねえのか?

A     お前らだけじゃない、みんながだ。

B     みんな?

A     ああ、みんながちゃんとしなきゃいけないんだよ。そうしなきゃ終わらないだろ?だから俺をパシリに使ってくれよ。俺、ここにいるから。この場所に。全てが終わるまでずっと。

   音楽が鳴り、Aが張り付けられたポーズをとると、キャストやスタッフを含む高校生たちが、Aに次々と風船を付けて去って行く。