のぞく・はいる・ほる

登場人物

A(女)

C(女)

D(男)

E(男) 

音楽とともに、幕が開く。階段にEが座っている。Eが次の詩(?)を読み始める。


  かさぶた

  かさぶたをはがした

  痛かった

  血が出た

  でも後悔はしていない

  だって

  かさぶたは

  
また、できるから

  何回はがしても、またできるから

  でも

  何十回かはがすと

  もうかさぶたはできなくなる

  それは、傷が治ったから?


  そう思いたい

   音楽がたかまり、ゆっくりと消えていく。
   階段にEが座ってかさぶたをはがしている。Cが現れる。Eを見て表情が変わる。

C (いきなり大声で)やめなよ。

   E、ビクッとして手を止める。

C びっくりした?

E いや。

C うそ、びっくりしてたじゃん。

E ちょっとはな。

C また、はがしてたの?

E ああ。

C やめなよ、かさぶたはがすの。

E なんで?

C (ちょっと返事に困って)血出ちゃうよ。

E 好きなんだ。

C 好きでも良くないよ。

E 好きなんだ。

   微妙な間がある。

C久しぶりじゃない?

E うん。

C みんな来るよ。

E みんなって?

C みんなだよ。いつものメンツ。

E そっか。

C ねえ、ホント久しぶりじゃない?

E 一ヶ月。

C そっか、それでも一ヶ月か。なんかあれ以来時間の流れが遅いって言うか、なんか変だよね。

E ・・・・・・・・・・・

C ねえ、どこ行ってたの?

E 井戸探し。

C 人探し?

E いや、井戸だよ、井戸。

C 井戸?

E そう、井戸を探してたんだ。

C井戸探してどうするの?

Eのぞく、水をくむ、飲む。

C 水、おいしかった?

E なかった。

C えっ?

E 水がなかったんだ。

C そうなんだ。

E で、はいったんだ。

C 井戸の中に?

E そう、はいったんだ。

C で、どうしたの?

E 出た。

C それで?

E また入った。

C 温泉かなんかと間違えてない?

E それで考えたんだ。

C 井戸の中で?

E 結構落ち着くんだ。

C で、何が解ったの?

E 入らなければ良かったってこと。

C ねえ、あたしのこと馬鹿にしてる?

E 馬鹿にしてないよ。

   その時Aがはいってくる。A、Eがいるのに気がつく。

A あれ。

E (無言でちょっと照れている)

A久しぶりじゃん、生きてたんだ。

E ああ。

A何してたの?

C井戸探してたんだって。

A 井戸?

E そう、井戸探し。

A さがしてどうするの?

E のぞく、水を汲む、入る。

A 入る?

E そう、入る。

A 溺れちゃうじゃん。

E 水がなかったんだ。

C それで考えたんだって。

A 井戸の中で?

C そう、で、結論は「井戸は入らない方が良い。」そうだよね?

E そう、そもそも井戸はのぞかない方がいいんだ。

C のぞくのもダメなの?

E 底が見えないだろ?

C うん。

E 真っ暗だろ?

C うん。

E 時々吸い込まれるんだ。

A ちょっとやめてよ、そう言う話。

E そのまま出られなくなったりするんだ。

A ねえ、やめてってば。嫌いなんだ、そういう話。

E でも、ホントなんだ。
  
A ねえ、そんな話やめてさ、そろそろ始めようよ。

C 始めよっか。

E 相変わらずやってんだ。

A  やってるよ。

C あれ以来回数増えちゃってさ。

A 週イチだったのが、今は週2、3回。

C 家にいてもしょうがないじゃん。

A やっぱ、ここが一番落ち着くよね。

E そっか、相変わらずやってんだ。

A ね、始めよ。

E 始めるか。

C ねえ。

A なに?

C 誰が見つけたんだっけ?ここ。

E えっ?

C 誰が見つけたんだっけ?ここ。

E 俺じゃないよ。

A あたしじゃないよ。

C じゃ、あいつかな?

A あいつじゃないんじゃない。

C でも、誰かが見つけたんだよね。

A 誰だっけ?

C なんかこんなこと分からないなんて不思議じゃない?

E 誰でもないんじゃない。

C えっ?

E 誰でもないんじゃないの。

A 何言ってんの、そんなはずないよ。

C  ねえ、じゃ最初来たのっていつ?

A 結構前だよね。

C でもいつだっけ?

E いつでもないんじゃない。

A またそういうことをいう。

C どうして分かんないんだろ、こんなこと。

A 何で?なんか気になるの?

C いや、そういう訳じゃないんだけど。

A じゃいいじゃん。

C そうだね。

A ねえ、そろそろ始めようよ。

C でも、ヤツがまだ来てないよ。

A どうせ、30分は遅れてくるよ。

E 早くて30分

C 来た時、必ずつまらないシャレ言うんだよね。

A 何だっけ?こないだの。

C 道が混んでて混んでてコンデンスミルク。

A そうそう。

E あいつ、相変わらずそんなこといってんだ。。

A どうする?始める?

C 一応、待ってやろうよ。

A ま、他に行くとこもないしね。

E あれ、そういやあ、お前、塾は?

A (言葉につまる)えっ?

E おまえ、塾行くっていっつも先帰ってたじゃん。

C こいつ、最近さぼってばっかなんだよ。

E  マジで?

A (Cに)お前チクんなよ

E いやなら、やめちまえばいいのに。

A ま、年賀状みたいなもんかな。

E えっ?

A つきあいとかなくなっても、なかなかやめる決心がつかない。

E 俺なんかすぐやめちゃうけどな。

C でも、返事ぐらい書いてよね。

E そのうちな。

C あたし、毎年書いてんのに、一回も返事くれないんだよ、こいつ。

E 色々、忙しくてさ。

C そう、忙しそうだよね、井戸探しとか、かさぶたはがしとか。

A かさぶた?

C (Eに)さっき、はがしてたんだよね。

E そうだっけ?

A かさぶたって言えば、お前どうした?

C えっ、ああ。

E 何だよ?かさぶたって。

A こいつも作ってたんだ、かさぶた。

E (Cに)ホントに?
   
   C、小さくうなずく。

E お前、またやったの?

C ・・・・・・うん。

   微妙な間。

E 何でだよ?「もうやらない」って言ってたろ。

C あの時はそう思ってた。

E じゃ何でだよ?

C 地震ですべてが壊れたじゃない?

A 何にもなくなっちゃったよね。

C そしたら、いろんなことが変わって、うまく行きそうな気がしたの。

E でもそうじゃなかった。

A わかる気がする。

C 結局何にも変わってないんだよね。

E 校舎も壊れて、教科書も燃えて、クラスメイトも何人かいなくなったのにな。

C 久しぶりに学校が再開されたじゃない?最初の授業で、コピーした教科書が配られて先生がこう言ったの。「だいぶ間があいたけど覚えてるかな?この前は18ページの3行目までやりました。」

A あたしの学校なんて今でも校門とこで服装チェックやってんだよ。

C うそ。

A 制服焼けちゃった子は「異装届」出さなきゃいけないの。

C たまんないよね。

E でも、行ってんだろ?学校。

A 時々休んでる。

C あたし、時々行ってる。

E 俺も、こないだ1ヶ月ぶりに行ったんだ。そしたら席がねえの。

C あらあら。

E 担任に言ったら俺の名前忘れててさ、怒って帰って来ちゃった。

C そんなもんだよね。

E ま、いいよな。学校なんて。

   その時、Dがあたふたと、やってくる。

D いやあ、ゴメンゴメン、道が混んでて混んでて、コンデンスミルク。

全員、一瞬黙り込む。

A また、凍っちゃったね。

C 何回言われても毎回凍っちゃうよね。

D みんな待たせたな。

A 待ってないよ。

C そう、言ってたんだよね、あんなヤツ待たないで始めちゃおうって。

D あ、ひっっっっでえ。

E オス。

D 久しぶりじゃん。お前何してたんだよ。

C 井戸探してたんだって

D 探してどうすんだよ。

E のぞく、入る、掘る。

A 掘る?

D なんか出てきたか?

E 土。

A 土?

E どこまで掘っても土だった。

D で、あきらめて帰って来たのか。

E そんなとこだ。

D 俺はてっきりお前がくたばっちまったのかと思ったぜ

E お前殺さねえうちは死ねねえよ。

D 上等じゃねえか、返り討ちにしてやるよ。

E よく言うよ、ゴキブリも殺せねえくせに。

A えっ、ゴキブリ怖いの?

D 怖くねえよ、あんなもん。

A うそ、怖いんだ。

D 怖くねえっつってんだろ。

E そういやあお前ゴキブリに似てるよな、茶色くて、油ぎってて、夜になると活動して。

D お前、ホント殺すよ。

C ねえ。

A 何?

C ゴキブリも死んだのかな?

A お前、いきなり何言ってんの?

C あの時さ、一万人くらい死んだんでしょ?

A うん。

C きっとゴキブリもいっぱい死んだんだよね。

A でも、ゴキブリって柱とか好きだから、意外と助かってるかもよ。

E 狭いトコとか好きだしな。

C なんか見ないよね?死んでるの。

E そう言われりゃそうだよな。

D おい、いい加減ゴキブリの話やめねえか。

A あっ!!

C 何?

A あたし見た、そういえば見たよ、ゴキブリ。

C 死んでたの?

A うん。

D だからやめようぜ、そう言う話。

C ねえ、どんな風に死んでたの?

A あおむけになってた。

C それで?

A 羽、ひろげてて、柱と柱の間に倒れてた。

C ゴキブリが「倒れてる」っていうか?

A なんか倒れてるって感じだったんだよ。

C 倒れてるってどんな感じ?

A 何か目が空間見つめてて、手足とか硬直した感じで・・・・・

E (強くさえぎって)やめろよ。

A (Eの勢いにややびっくりして)え?

E やめろよ、そんな話。

D お前も嫌いなの?ゴキブリ。

E 違うよ。

D やっぱ嫌いなんだ。

E 違うっていってんだろ。

D 正直にいってみろよ。

E お前ってホントおめでたいな。

D (ややむっとして)なんだと。

E 幸せだよな、そう言う風に何も考えずに生きられたら。

D おい、どういう意味だよ。

E 悩みとかないやつは幸せだっつってんだよ。

D なんだと、もう一回言って見ろ。

   D、Eにつかみかかって倒す。AとCはDとEを引き離す。

C やめようよ、せっかく久しぶりに会ったんだよ。

D こいつマジで殺してえよ。

E マジで殺されてえよ。

C やめなって。

A だいたいさ、何で急に怒るの?

   E答えない。

C ねえ、言ってよ、何で急に怒りだしたの?

   間。E立ち上がる。

E 俺、行くよ

C 何で?

A 久しぶりなのに。

C ゆっくり話しようよ。

E いや、俺行くよ。

A なんで?一ヶ月ぶりのフルメンバーじゃない。

C ね、一緒にやろう?

   Eちょっと考えている。

E ごめん、でもやっぱ行くよ。

D おい、それじゃ俺が悪者になっちまうだろ。

E お前は悪くない。

D でも、原因は俺なんだろ?

E お前のせいじゃない。

D じゃ、誰のせいなんだよ。

E 誰のせいでもないよ。

D じゃ、何でだよ。何で行っちまうんだよ。

E ・・・・・うまく言えない。でも行かなくちゃいけないんだよ。

D おい、俺、あやまるからさ、行くなよ。

E そうじゃない。本当にそうじゃないんだ。これは俺自身の問題なんだ。

A 行っちゃうの?

E ああ。

C ねえ、どこに行くの?

E 旅。

C  旅?

E  ああ、旅にでるよ。

D また、井戸探すのか?

E そうするかもしれないな。

C 帰ってきてね。

E ああ。

C ここにいるから。

E わかってる。

D いい井戸見つけろよ。

E わかってるよ。

   E立ち去る。しばらく沈黙がある。

A いっちゃったね。

C せっかくみんなそろったのにね。

D 俺、何か、悪いこといったかな?

C たぶんそう言う事じゃないよ。

D なんで?

C よくわかんないけど、そんな気がするの。

A そっか。

   間

D 何かおかしいよな。

C えっ?

D あの地震のあと何か変わっちまった気がするんだ。

A どういうこと?

D 地震のずっと前から、俺達ここに集まってたよな。なんか、居心地が良くて、いっつもくつろいでた。

C 落ち着くよね、この階段。

D で、地震があって、ここに来る回数も増えた。相変わらず居心地もいい。でも、どっか変わっちまったんだ。

A どこが?

D いや、わからない、でもどっか変わっちまったんだよ。

A わかんない。

C あたし、少しわかるような気もする。

D え?

C あたしがさっき来たとき、・・・あいつ、かさぶたはがしてたんだ。

D あいつが?

C さっきだって変でしょ?いきなり怒りだしたり。

A うん、変だった。

C なんか変わっちゃったんだよ。あいつも、それからこの場所も。

D なんでだろ。

C やっぱ地震のせいだよね、きっと。

A でもさ、地震で何があった?

D 何がって色々あったじゃん。

A たとえば?

D いろんなモノが壊れてやけて、それで人が死んで……。

A それから?

D それからって、それだけでもすごいことだろ。

A うん。

D 知ってるヤツとか何人か死んだし。

C そう言えば、あたしの高校ではあの子が死んだんだ。

A あの子って?

C ほら、中学の時いたじゃん、いつも壁さわりながら歩いてた男の子。

A あ、なんかいたよね。

D いたいた。あいつ、歩くとき必ずからだが傾くんだよな、こんな感じだっけ。(真似をする)

C そう。

D 俺、あいつと一回だけ話したことあるんだ。

A うそ。

D 購買にジュースの自販機2台あったじゃん、あいつ、あの隙間に立ってたんだ。

C あんな狭いトコに?

A あれ、20センチもないんじゃない?

D そう、でも立ってたんだ。で、俺聞いたんだ、「お前、何でそんなトコに立ってんだよ」

A なんだって?

D 人の役に立ちたかった。

A えっ?

D うん、あいつ、そう言ったんだ。こうやって隙間をうめて人の役に立ちたいって。

A 変な奴。

D そう言えばあいつ、よく変な物食ってなかった?

C 缶詰のアスパラガス。

D そうそう、缶詰のアスパラ。

A いっつも食ってたよね。

C 一日五缶。

A うそ、そんなに?

C 休み時間ごとに食べてたじゃん。

D あいつ、マイ缶切りまでケータイして、しょっちゅう食ってたよな。

A なんか草食動物って感じだったよね。

C 目もそうだった。

A えっ?

C 目も草食動物の目だったよね。

A 草食動物の目って、どんな目?

C なんか優しい感じっていうか……。

D 優しいって、俺みたいに?

C はあ?

D 俺も、結構優しい目してるだろ?

C お前のどこに優しさがあんの?

D 全身優しさのカタマリ。

C 1ミリもないよ。

D ひっでえ、こないだ70円のジュースおごってやったじゃん。

C そう言うのは優しさって言わないの。

D ちっ、おごんなきゃよかった。

C それはもっと優しくないよ。

D じゃ、どうすりゃいいんだよ。

A あたし、塾行こうかな。

C うそ、なんで?

A 今から行けば二時間目間に合うし。

C どうしたの?急に。

D 熱でもあんじゃねえの?

A いや、今日は行こうかなって、今ふっと思ったんだ。

D ふっと思っただけなら、やめとけよ。

C 三人で始めようよ。

A ごめん、でも今日は行くよ、なんかそう言う気分なんだ。

D そっか。

C そう思うなら、そうした方がいいかもね。

A ごめんね。

C ううん。

D そう気にすんなよ。

A うん。じゃバイバイ。

   A立ち去る。

D 二人だけになっちまったな。

C おそわないでね。

D 俺だって相手は選ぶよ。

C そう言う言い方が優しくないんだよ。

D じゃおそってやろっか。

C そういうことじゃないでしょ?

D そっか。

Cでも不思議だよね。

D 何が?

C 他の人に言われたら、絶対傷つくことでも、あんたに言われると不思議と傷つかないんだよね。

D やっぱ人徳かな。

C それはない。

D おい、断言すんなよ。

C ねえ。

D 何?

C ひとつ聞いていい?

D 何だよ、あらたまって。

C 何で、高校行かなかったの?

D 何だ、そんなことか。俺はまた「あたしのこと好き?」とか聞かれんのかと思って緊張しちまったよ。

C あんたって、ホント馬鹿だね。

D そんなに誉めんなよ。

C ね、ふざけてないで答えてよ、何で行かなかったの?高校。

D ………俺、座ってんのとか苦手なんだ。

C よく、コンビニの前とかで座ってんじゃん。

D そう、ただ座ってんならいいんだけど、前に机があって、みんな前向いて、何か先生が話しててっていう、あの空間がなんかイヤでさ、もういいやって思ったんだ。

C でも高校受けに行ったんでしょ。

D 行ったよ、親が行けっていうから。

C で、どうしたの?

D 答案が配られて、それ見た瞬間やっぱダメだと思ったんだ。俺にはむいてない。しょうがないから解答用紙にアンパンマンのキャラクター描いてひまつぶしてた。

C 試験中ずっと?

D うん。あれ、結構有るからね。5時間目の理科の時はさすがに鉄火のマキちゃんとか、さくらもちねえさんとかマイナーなキャラクターばっかになっちゃったけど。

C ザーマスボンドも描いた?

D 4時間目の社会の時間にね。

C で、怒らなかったの?親。

D 拳骨で思い切り三発。

C 痛かった?

D 一週間外に出なかった。

C あらら。

D でも、それで終わり。後は一切おとがめ無し。

C 理解有るんだ。

D 子どもを思いきり三発殴る親が理解有るっていうか?

C あたし、時々思うよ、親に思い切り殴られてみたかったって。

D そっか。

C そういうのって、何かちょっとうらやましい。

D でも、何でいきなりこんなこと聞くんだよ。

C なんか不安なんだ。

D なんで?

C あたし、よく分かってないんじゃないかって気がするの。

D 何が?

C こうやって集まってても、実はお互いのこと何にも分かってないんじゃないかとか。

D  あんま考えすぎんなよ、そんなこと。

C 彼女、ホントはとっくの昔に塾やめてるの。

D えっ?

C ホントはもう塾なんて行ってないんだよ。

D それホントかよ。

C 彼女と同じ塾行ってる友達から聞いたんだ。

D 親は知ってんのかな?

C あたしたちにも言わないんだもん、親になんか言わないよ。

D じゃ、行くトコないから、ここに来てたのか?

C 家には帰れないしね。

D じゃ、どこに行ったんだよ。

C そう、だからちょっと心配なんだよ。

D 何で言わなかったんだろ、俺達に。

C 自分のイメージ崩したくなかったんじゃない。誰に対しても。

D いつ頃聞いたんだよ?その話。

C 2週間くらい前かな。

D なんで教えてくれなかったんだよ?

C 知らない方がいいと思ったんだ。

D なんで?

C だって、辛いでしょ。知ってるのに、知らないふりしなきゃいけないんだよ。

D そっか。

C 結構辛いよね、そういうの。

D そっか、そうだったんだ。

   Aが再びあらわれる。

A ただいま。

C あ、お帰り。

A 行って来ちゃった、塾。

C あ、そう。

A 久しぶりに行ったら、なんか緊張しちゃってさ。

D あ、「キンチョウ」ってぐるぐる回ってるヤツ?

A えっ?

C おまえ、ひょっとしてキンチョウ蚊取り線香って言いたいの?

D わかった?

C その、回りくどい上に、凍り付くようなギャグどうにかならない?

A やめて欲しいよね、人がせっかくさわやかな気分で帰って来たのに。

C 最低だよね。

D 最低まで言うか?

C あいつが居たらもっとひどいこと言ってるよね。

D 俺、マジで殺されかけたことあるよ。もう、二度とつまらないギャグ言えない体にしてやるって。

A お前何言ったの?

D 「まいったまいったマイルドセブン」

   沈黙。

C そりゃ殺されても仕方無いと思うよ。

D そうかな。

A あたしも多分殺してるな。

C あいつよく我慢したよね。

D そんなにひどいかな。

A 最悪。

C それにしてもあいつ、どこ行ったんだろ。

D 旅って言ってたよな。

C 旅ってどこへ?

A (ふと思い出したように)メキシコじゃない?

D メキシコ?

C 何でメキシコなの?

A 分かんない、でも一度聞いたことあるよ。メキシコ行って、キノコの研究とかしたいって。

D それ、やばいよ。

A えっ、なんで?

D キノコってシャーマンとかが使うやつだろ?

A シャーマン?

D 霊媒だよ。

C  つまりキノコってクスリのことなのよ。

A クスリ?

D いわゆるドラッグ、気持ちいいクスリ。

A (驚いて)ひょっとして、麻薬のこと?

D そう、だからトリップなんだよ。

A えっ?

D 旅ってのは、トリップなんだ。

C そっか、あいつ、そんなこと考えてたんだ。

A でも多分、違うよ。

C なんで?

A えっ?何となく違うんじゃないかなって・・・

D …でも、いいかもな。

A え?

D それで切り離せるんなら。

A 切り離す?

D それで本当にすべてちゃらにして、また違う自分になれるんなら。

A 違う自分?

D そう、新しい自分にさ。

A なれるかな。

D なれたらいいよな。

C (強い調子で)よくないよ。

D えっ?

C よくないよ、そんなの。

D なんだよ、いきなりマジになるなよ。

C だってさ、それじゃかさぶたって何なの?

D えっ?

C かさぶたってどんな意味があるの?

A 意味?

C どうしてみんなかさぶた作ってるの?かさぶた作って、はがして、血出して、また作って、またはがして、また血出して。……なんでそんなこと繰り返さなきゃいけないの?

D 落ち着けよ。まあ、ちょっと落ち着けよ。

C …………ごめん、ちょっと興奮しちゃったね。

D ああ、いいよ、気にすんなよ。

   短い間。

A ……あたし、探してくる。

C あいつのこと?

A うん。

C 当てはあるの?

A ないけど探してみるよ。

C ねえ

A 何?

C いや、何でもない。

A 何?言いかけてやめないでよ。

C うん。

A 何?何言おうとしたの?

C 本当にあいつを探しに行くのかなって。

A えっ?

C 何か、違う物を探しに行くんじゃないかなって。

A あたしが?

C ごめん、そんなことないよね。

A なんか、おまえちょっとおかしいよ。

C ごめん、気にしないで。

A うん。じゃ行って来るね。

D 気をつけて。

   A立ち去る。

D どういうことなんだ?

C えっ?

D どういうことなんだよ?かさぶたって。

C ……………………。

D あいつのことか?

C …………うん。

D やっぱ、そうか。

C 見て。

   C,Dに自分の手に出来たかさぶたを見せる。

C 自分でやっちゃった。

D 何でそんなことしたんだよ。

C こうすればわかるかなあと思って。

D えっ?

C おんなじようにかさぶた作れば分かるかなあって。

D あいつと?

C うん、同じ場所に作ったんだ。

D なんかわかった?

C わからない。

D そっか。

C でも、なんか気持ちはわかるの。かさぶた剥がし続けるってどんな気持ちなのか。……何かあったんだよ、地震の時に。……何かあったんだよ、絶対。

D 何かって?

C あたし、あいつに助けられたんだ、地震の時。

D えっ?

C 知らなかったでしょ?あいつが言うなっていうから、誰にも言ってなかったんだ。

D そうだったんだ。

C あたし、倒れてきたロッカーの下敷きになってたの。逃げようとしたけど、身動きがとれなかった。火がだんだん近づいてきてあたし、もうだめだって思ったの。

D その時、あいつに助けられたのか?

C そう、でもあれからなんだ、あいつがおかしくなっちゃったの。

D だから、あの時何かがあったはずだ、そう言う訳か。

C うん、あたしそれを知りたいの。

   Eがあらわれる。

E 知らない方がいいんだよ。

D (おどろく)お前帰ってきたのか?

E 知らない方がいいんだ。その方が絶対にいいんだ。

C あたし、でも知りたいの。どうしても知りたいの。

E 知らない方がいい。ずっとかさぶたはがしつづけるのなんて俺だけで十分なんだよ。

C 違う、それは違う。

E 違わない。

C 違うよ、あたしだって、あれから剥がし続けてんだよ。

E 意味がないよ、そんなこと。

C 意味がない?何で意味がないの?

E 俺のかさぶたとお前のかさぶたは違う。

C でもかさぶたなんだよ。

E お前のかさぶたはお前のものだ。

C そう、確かにあたし前にも、かさぶた作ってたよ。でも、あたしやめたの。………………あんたに会ってから。……それから、あたし一回もかさぶた作ってなかったんだよ。

E ……………………。

C それがどうして意味がないの?言ってよ、どうしてそれが意味がないなんて言えるの?

E ………………ごめん。

C ね、だから教えてよ、あの時何があったの?

E …………俺、あいつを助けることができたんだ。

C えっ?

D あいつって誰だよ?

E あいつだよ、いつも缶詰のアスパラガス食ってたあいつだよ。

D えっ?

E いつも壁さわりながら歩いてた、あいつだよ。

C そうなの?

E 俺、お前が助けを求める声聞いて走ってた。その時あいつが、やっぱ逃げられずにはさまれてたんだ。でも、お前を先に助けようと思って…………。

C そうだったんだ。

E お前を助けたときは、もう火の手が回っていた。もう間に合わなかったんだ。

   沈黙が流れる。

D でも、しょうがねえよ。あいつを助けたらこいつを助けられなかったんだろ?

E ああ。

D 誰かが死ななきゃならなかったんだよ。あいつが貧乏くじ引いちまったんだよ。

E でも、最初にいたのは、あいつだったんだ。

D でも、先に助けを求めてたのは、こいつだった。

E そりゃそうだけど。

D 仕方がねえよ、俺だって多分お前と同じようにしたよ。

E そうかな。

D お前のせいじゃねえよ。

C ねえ、ちゃんと話してよ。

E えっ?

C ねえ、ちゃんと全部話してよ。

E 思い出したくないんだ。

D そうだよ、もう忘れた方がいいよ。

C 忘れたいんなら、ちゃんと決着をつけなきゃ。

E 決着?

C ちゃんと全部話してよ。あの子、最後にどうしてたの?その時、あんたはどう思ったの?

E ………………。

C一度ちゃんと全部思い出して決着つけようよ。

E でも……。

C (Eをさえぎって)そうしなきゃ先に進めないじゃない。

E ………………。

C ねえ、話して。

E あいつ、仰向けに倒れてた。

C うん。

E 柱と柱にはさまって、こっちを見てた。

C どんなふうに?

E 優しい目をしてたんだ。そして、その目が、俺にはこう言ってるように思えた。…………僕はいいんだよ。

Cえっ?

E僕はいいんだよ、だから他の人を助けて。…………僕、 死んでもいいんだ。それで人の役に立てるなら。

  Eは何かに取り付かれたように前を見つめている  

E でも、本当によかったのか?

C えっ?

E じゃあ俺を恨まないか?

D お前誰に話し掛けてんだよ?

E 本当に恨まないか?

D おい、どうしたんだよ?

E じゃ、どうして俺の前にあらわれるんだ。 ……………………どうして俺を苦しめるんだ。……………………おい、言えよ。どうしてなんだ。どうして、いつまでも俺を苦しめるんだ。……………………おい、待てよ、どうしてそうやって優しい目で俺を見て、そのまま行っちまうんだよ。…………おい待てよ、おい、おい。

D おい、しっかりしろよ。おい、おい。

C ねえ、大丈夫?

D おい、大丈夫か?しっかりしろよ。

E ………………ああ。

C どうしたの?

E 俺、叫んでたか?

D ああ、叫んでた。

E …………そうか。

D お前いったいどうしたんだ。

E ……あいつが出て来るんだ。

C えっ?

E あいつが出てきて、俺のこと優しい目で見るんだ。

D 毎日出てくるのか?

E 出ない日もある。でも一日に何回も出てくる日もある。ひどい時は一日中ずっと俺のことを見ている時もあるんだ。

D ……辛いな。

E ひどい気分だ。

D でも、もういいよ。お前もう充分苦しんだよ。

E ああ。

D もう、いいよ、早く忘れろよ。

E 忘れられない。

D それでも忘れろよ、そう、例えば…………酒でもパーッと飲んでさ。

E そんなんで忘れられるわけないだろ。酒も飲んだし、クスリもやったよ。あちこち旅したりとかもした。……でも全然忘れられないんだよ。

   微妙な間。

C 続けようよ。

E えっ?

C 続けようよ、まだちゃんと全部思い出してないよ。

D お前何言ってんだよ。もういいじゃないか、充分だよ。

C だめだよ、ちゃんと全部思い出さなきゃ。……そうしなきゃいつまでも苦しいだけだよ。

E これ以上何を話せばいいんだよ。

D そうだよ、もう話すことなんてないよ。

C あんた、あの子のことどう思ってた?

E えっ?

C あの子のこと、どう思ってた?

E ……………………。

C ねえ、答えてよ。あの子のことどう思ってた?

E ……俺、あいつのこと嫌いだった。

C どこが嫌いだったの?

E あいつの優しさが嫌いだった。

C 優しさが嫌いだった?

E あいつの優しさは俺を傷つけるんだ。俺はあいつからいつも責められてるような気がした。だから……。

C だから?

E だから、俺、あいつにいなくなって欲しかったんだ。

D お前、じゃわざと見捨てたのか?

E それは違う、さっきも言っただろ?こいつを助けたら、もうあいつは助けられなかった。どうしようもなかったんだ。

D じゃ、しょうがねえよ。

E でも、俺はあいつを助けることもできたんだ。少なくとも俺は、あいつじゃなく、こいつを選んだってことにはなるだろ?

D そりゃそうだけど……。

C (Dのせりふをさえぎって)あたし、うれしいよ。

E えっ?

C あたし、うれしいよ。だってあたしを選んでくれたんでしょ?

E ああ。

C あたし、うれしいよ。

E じゃ、これで良かったのか?

C 良くはないよ。

E えっ?

C 良くはないよ、あの子は死んだんだから。でも、これ以上かさぶたはがす必要はないよ。

E …………そうなのかな。

C はがさなくていいんだよ。

E 本当にそうなのか?

C ね、もうはがすのやめようよ。

E ……ああ、そうするよ。

C 前に進もうよ。

E ああ。

C ねえ、これ以上かさぶたはがすのやめて、前に進もうよ。

E ……………………。

   E、何かに誘われるように立ち上がり、出ていこうとする。

C ねえ、どこへ行くの?

E ……………………。

C ねえ、一緒に前へ進もうよ。

E、出ていく。

C ねえ、どうして行っちゃうの?なんか言ってよ、どうしてなの?どうして黙って行っちゃうの?……ねえ、一緒に進もうよ、…………ねえ、ねえ、 ……行かないで、ねえ、行かないでよ。(泣き崩れる)

D もう認めろよ。

C えっ?

D もう認めろよ。あいつはもういないんだ。

C いない?

D しょうがないだろ。事故だったんだ。

C 事故?

D そう、運が悪かったんだ。

C 事故?どうしてあれが事故なの?150キロで一般道をバイクで走って対向車にぶつかった、あれが事故だっていうの?

D ああ、事故だよ。

C ねえ、そんな事故ってあるの?

D 事故なんだよ。事故だっていってるだろ。

C 嘘つかないでよ、あんなの事故じゃないよ。

D とにかくあいつはもういない。それはどうしようもないことなんだ。

C あいつ、言ってたんだよ、もうかさぶたはがさないって。

D あの時はそう思ったんだよ。

C だったら何で?

D 俺、解るよ。あいつ、あの時はもうはがさないつもりだったんだよ。

C ねえ、教えてよ。だったら何でなの?

D ……井戸をのぞいちまったからかも知れないな。

C えっ?

D あいつ、井戸をのぞいちまったから、そのせいかも知れないな。

   その時、Aがツボを、持ってあらわれる。C、それに気がつく。

C 帰ってきたの?

A  ……………………。

C ねえ、どうしたの?こっちへおいでよ。

A (ツボから目を離さない)いいえ、私はそこへ行きません。

C なんで?

A 私は神だけを見ていることにしたんです。

C 神?

A そう、神です。

C 神ってどこにいるの?

A ここです。

C どこ?

A ここはここです。信じていない人には見えません。

C ねえ、せめてこっちを見て話してよ。

A それはできません。

C なんで?

A 私はあちこち見る度に違う顔をしていて、疲れてしまったのです。

C 違う顔?

A 私は全部で36種類の顔を使いわけていました。でも、神だけを見ていれば、一つの顔でいいんです。

D 彼女は階段を降りて、神を信じることにしたんだ。

C なんか変だよ、そんなの。

D でも、彼女は今、幸せなんだ。

C (Aに)ねえ、こっちへ来てよ。

A いいえ私は行きません。

C ねえ、お願いだからこっちへ来てよ。

D ムダだよ。

C ねえ、こっちへ来て、始めようよ。

D 始める?

C 前みたいに、この階段に集まって始めようよ。

D 始める?何を?

C 何をって、いつも集まってやってたじゃん。週に2回も3回も。

D だから何を始めるんだよ。

C いつものことだよ。ずっとやってたじゃない?この階段で。

D ……教えてやるよ。本当は何も始まらなかったんだ。

C えっ?

D 本当は何一つ始まらなかったんだよ。

C そんなことないよ。

D じゃ、ここで何をやった?

C 何をって色々やったじゃない。

D 色々?そう、色々やった。でも何一つ始まった訳じゃない。

C 嘘だよ。そんなの嘘だよ。

D 嘘じゃないよ。この階段は確かに居心地は良かった。でも、ここでは何も始まらなかったんだ。

   間

D 多分、みんな、あの地震のあと、気づいたんだ。ここでは何も始まらないってことに。集まる回数だけが多くなって、本当は何も始まらないんだってことに。

C ……………………。

D 登ろうよ。

C えっ?

D 登ろうよ、この階段。

C 登ってどうするの?

D 俺、働くよ。

C それで?

D 金、貯めるよ。

C それで?

D たぶん、結婚して、子供作って……

C (さえぎって)それでいいの?

D だって、そうするしかないだろ?

C そうなの?本当にそれしかないの?

D じゃ、あいつらみたいに、階段、降りるのか?

C ……………………。

   短い間。

D 登ろうよ。

C ……………………。

D もう、登ろうよ。

   Cは腕のかさぶたを見て、考えている。

C ……あたし、登らない。

D えっ?

C あたし、ここに残る。

D なんで?

C あたし、ここに残って井戸を掘る。

D そんなことしていったい何になるんだよ。

C あたしの掘った井戸がどこにつながるか確かめたいの。

D あいつの掘った井戸はどこにもつながらなかった、だから…………

C わかってる。

D だったらなんで?

C わかってるよ。あいつの掘った井戸から水は出なかった。そんなことわかってるよ。でも水は出る。水はいつか必ず出るはずなんだよ。

D もし出なかったら?

C 出るまで掘るよ。

D それでも出なかったら?

C それでも掘るよ。井戸は必ずどこかにつながるよ。水は必ず出るはずだよ。

D ……………………。

C あたし、ここに残る。この階段に。

D …………わかったよ、そうしたいなら、そうすればいいよ。

C ありがとう。

   微妙な間。

D ……俺、行くよ。

C うん。

D 俺、登るよ。

C ……ありがとう、色々。

D じゃあな。

音楽が鳴り、Dが階段をゆっくり登りはじめる。Eが詩を朗読しながら現れる。

E  かさぶた

  かさぶたをはがした

  何回
もはがした

  何回も何回もはがした

  何十回かはがした時

  もうかさぶたはできなかった

  それは、傷が治ったから?

  そう、傷は治る

   この詩の間にDは階段の一番上の段の所まで来ている。詩が終わると同時にDが振り返り、音楽が高まる。4人はシルエットになっていく。