セルフポートレート

SCENE1 ロッカー

音楽が鳴り幕が開くと、舞台上に机と椅子が3つずつある。背後には積み重なったロッカーがある。一つだけやや離れたところにロッカーがある。そこだけ   明るくなっている。

SCENE2 教室

   音楽が消え、明るくなる。Aが入ってきて座る。Aは何か不審なことがあるの、立ち上がって椅子を眺めている。そこへBが入ってくる。

B オハヨー。

A あ、オハヨー。

B どうかしたの?

A えっ?

B なんで椅子なんて見てるの?

A 変な気がしたの。

B 変って?

A 自分の椅子じゃないみたい。

B     じゃ、誰かのといれかわったんじゃない?

A でも、あたしの椅子なの。

B なんで?

A (椅子を指さして)このドラえもん、あたしが描いたんだもん。

B ホントだ、すごいヘタクソ。

A うそ、結構似てるじゃん。

B これじゃ、耳のない猫みたいじゃん。

A ドラえもんって耳のない猫じゃないの?

B じゃ猫の耳取ったらドラえもんになる?

A ?

B     ならないでしょ?

A …………うん。

B     ましてドラミちゃんなんて………

A (遮って)ねえ、そんなことはいいの。これ、あたしの椅子に思えないの。

B 何が違うの?

A     微妙な点なの、『六甲のおいしい水』と『南アルプスの天然水』ぐらいの違いなの。

B 全然違うじゃん。『六甲のおいしい水』と『南アルプスの天然水』じゃ水の硬度からして…………

A (遮って)だからあたしが言ってるのはそんな事じゃないの。

B じゃどういうこと?

A 椅子が違うの。

B だからどういうことなの?椅子が違うって。

A 自分の椅子なんだけど、座り心地良くないの。

B 学校の椅子なんてみんなそうじゃない?

A そういうことじゃなくて、そこに座っていいのかなって感じなの。

B いってることわかんないよ。

A なんかパラレルワールドに落ち込んじゃったみたい。

B パラレルワールド?

A あり得たかもしれない別の世界のこと。

B     別の世界って?

A     例えばこんな話があるの。ある陸上選手が交通事故にあった。一命は取り留めたけど、右足を失ったの。その選手はオリンピックを目指してた。      で、それからは、もし右足があったら自分はオリンピックに行けただろ      うかって、そればかり考えてた。

B なんか悲しいね。

A ところがある朝起きてみると、右足があるの。彼は喜んで、それから一生懸命練習した。でも結局オリンピックへは行けなかった。そして最終      選考のレースが終わった瞬間思った。どうせ行けないなら、右足がない      方が自分は幸せだったかも知れない。

B 何で?

A 自分の夢を信じていられたから。右足があればオリンピックへ行けたんだ、そう思っていられたから。

B 何か変だよ、そんな考え方。

A ところが、そう思った瞬間、彼は自分がたった一人で陸上競技場にいることに気づいた。そして彼の右足はやっぱりなかった。

B ねえどういうこと?

A 彼は別の世界で走ってたの。

B えっ?

A 別の世界で走って、またもとの世界に戻ってきた。

B 夢を見てたってこと?

A 夢じゃなかった。

B 何で?

A 競技場には真昼の日差しが強く照りつけていたし、それに……

B それに?

A 彼の右足はひどく疲れてた。

B えっ?

A ないはずの右足が、ひどく疲れてたの。

B ねえ、その話ホントなの?

A うそ。

B えっ?

A 冗談。

B 冗談?

A 結構マジに信じてたよね。

B 全部嘘なの?

A 当たり前じゃん。

B なんだ、本気にしちゃった。

A あんま真剣に聞いてるから、途中で笑いそうになっちゃったよ。

   A立ち上がり、一個だけおいてあるロッカーのところに座る。

B    (おおげさに)あっ!!

A えっ?!どうかした?

B     お前どこ座ってんだよ。

A どこって?

B そのロッカー。

   A立ち上がる。

A     ロッカーがどうかしたの?

B お前知らないの?それ、開かずのロッカーなんだよ。

A 開かずのロッカー?

B 誰のロッカーかわからない。でもしっかり鍵はかかってる。

A ねえ、あたしにダマされたからダマし返そうとしてんの?

B 違うよ、じゃ、これ誰のロッカー?

A ……………………。

B わからないでしょ?

A 気持ち悪いね。

B そう、だから誰もさわろうとしないんだ。

   A、ロッカーを眺める。

A ホントだ。鍵かかってる。

B ナンバー式の鍵だから、ふざけて誰かが開けようとしたんだって、そしたら

  その時Cが現れる。照明が微妙だがはっきりと変わる。

C     俺のロッカーがどうかした?

A えっ?

C     何で俺のロッカー見てるの?

B カキゾノ君久しぶりですね。

C ああ、久しぶり。

A     (二人を見比べて、Bに)ねえ、誰。

B     誰って、カキゾノ君じゃないですか。

C ひどいなワタナベさん、一週間来なかったからって忘れないでよ。

B そうですよね、ワタナベさん、どうかしてますよね。

A ねえ、ちょっとどういうことなの、これ。大体なに?その「ワタナベさん」って呼び方。何で急に敬語とか使い出すの?

B わたし、いつもこうですけど。

A 何言ってんの、いっつも「お前」って言ってんじゃん。

C いつもこうだよね、イマイズミさんって。

B はい。

A ねえ、ちょっとやめてよ。みんなで寄ってたかってあたしをダマそうって訳?ねえ、この人誰なの?ホントに。

C ワタナベさん、マジで俺のこと忘れちゃったの?ねえ、大丈夫?さっきだって俺のロッカーじっと見つめたりしてるし。

A ねえ、あれ、あなたのロッカーなの?

C そうだよ。

A やっぱダマしてんじゃん。あれ、「開かずのロッカー」でしょ?

   短い沈黙。

B 何ですか?その開かずのロッカーって。

A えっ?

C ねえ、ホント大丈夫?なんか悪い夢でも見てんじゃないの?

A 悪い夢?

C だってさ、いくら一週間学校来なかったからって、隣の席に誰が座ってるか忘れるか?普通。

A 隣って?

C 俺だよ俺、カキゾノだよ。

   A呆然としてふらふらと自分の椅子に座る。しかしまた立ち上がり椅子を眺める。

B どうかしたんですか?

A 椅子が違うの。

C えっ?

A これ、さっきの椅子とも違う。あたしの椅子じゃない。

B どういうことですか?

   A答えない。

C お前、ホント大丈夫?それ、絶対お前の椅子だよ。だってほら、お前が描いたドラえもん、ちゃんとあるじゃん。それ、お前が俺の教科書に落      書きしたドラえもんと同じだよ。

   C、教科書を取り出し、Aに見せる。

C ほら。

   A、教科書を見る。確かにドラえもんが描いてある。

A ねえ、これ、ホントにあたしが描いたの?

C 他にいないだろ?こんな耳のない猫みたいなドラえもん描く奴。

A でもあたし人の教科書にドラえもん描いたりしないよ。

B あたしも描かれました。

   B 教科書を取り出す。

C 俺が知ってるだけで5人は描かれてるよ。

A ウソ。

B あたし6人知ってます。

A あたし、こんなことしたの?

C ねえ、マジで覚えてないの?これひょっとして記憶喪失って奴?

A ………………たぶん違うと思う。

C じゃ、どうしたの?

A ……椅子が違うの。

   微妙な間。

C     そうだ、写真見たら思い出すかもよ。前に撮った写真、確か机に入れっぱなしだった。

   C、机の中を見る。

C これこれ。

   C、写真を取りだし、Aと一緒に見る。

A あ、なんかなつかしい。

C なんかみんな若いよな。

A これ、いつのだっけ?

C 4月の遠足。

A なんか楽しそうだね。

C 楽しそうだねって、お前が一番笑ってんじゃん。

A そっか。

C キムラって、ちょっと変わった顔だよな。

A でも、カッコいいよ。変なのはクサナギ君。

C 確かにあいつは変だよな。

A ねえ、カトリ君、どうして髪の毛あんな色にしちゃったの?

C なんかだんだん黄ばんで来てるしな。

A モリ君転校しちゃったね。

C どうしてるんだろ、あいつ。

A 転校して絶対後悔してるよね。

   以上の会話の間にBはいなくなっている。

A ねえ、誰だっけ?このヒョロっとして、やせた感じの男の子。

C …………わからない。

A でも、カキゾノ君とツーショットで写ってんじゃん。

C わからない。

A すっごく仲良さそうじゃん、肩なんか組んじゃって。

C (強く)わからないよ。

A そんな怒らないでよ、聞いてるだけなんだから。

   この時、AはBがいないことに気がつく。

A あれ、イマイズミは?

C さあ。

A あいつ、どこ行ったんだろ。

C あいついっつもそうじゃん。

A     えっ?

C     話とかしてるといつの間にかいなくなってる。

A そうなの?

C     あれでも小学校の頃に比べると明るくなったんだぜ。

A 彼女といっしょだったの?小学校。

C 3年の時からずっと同じクラスだった。

A 彼女どんなだったの?小学校の時。

C やっぱちょっと変わってたかな、いつも一人で座ってた。

A どう変わってたの?

C まず、笑わなかった。小学校の時、あいつが笑ったの一度も見たことない。

A 今は結構、笑ってるのにね。

C でも、月に一度くらいじゃない?

A そうなの?

C そうなのって友達だろ?

A ……うん。

C まあ、でもあれだよな。友達って言っても、弁当いっしょに食べたりするだけみたいだしね。

A ……うん。

C     あんま話とかしてないよね。

A そうなんだ。

C そうなんだって何だよひとごとのように。なんか変だよな、今日のワタナベさん。なんかあったの?

A なんかって言うか…………

   その時、Dが現れる。C、Dに気がつき、やや沈黙が流れる。A、Cの視線に気がつき、Dの方を見る。

C ……カワカミ。

A さっきの写真の人?

D 久しぶりだな。

C カワカミ、お前には会いたくないって、言ったよな。

D 俺と話したくないのか?

C 何回も言ったはずだ。

D ああ。

C だったら何で俺の前に現れるんだ。

D わかって欲しい。

C ……………

D 俺は恨んでない。

C 帰れ。

D 本当に恨んでない。

C もう一度言う。帰れ。

   イヤな沈黙。

A (Cに)ねえ、誰なの?

C ……………………。

A ねえ、誰なの?カキゾノ君。

C カキゾノ?

A (えっ?)

C カキゾノは行っちまったよ。

A えっ?!

C カキゾノは俺を見捨ててどっか行っちまったんだよ。

D モモゾノ、カキゾノはお前を見捨ててない。

C カキゾノは俺を見捨てたんだ。

D モモゾノ・・

C (さえぎって)うるさい、俺を気安く呼ぶな。

   再びイヤな沈黙。

A ねえ、どういうことなの?カキゾノ君。

C     (怒った調子で)俺はカキゾノじゃない。

   短い沈黙。

D  彼は今モモゾノなんだ。

A モモゾノ?

D カキゾノは今ここにいない。ここにいるのはモモゾノだ。

A どういうこと?

D 今、それを説明することはできない。悪いけど、向こうへ行っててくれないか。

A …………わかった。

   A立ち去る。

D モモゾノ、カキゾノと話がしたい。

C カキゾノはどっか行っちまったんだ。

D でも、お前が呼べば戻ってくる。

C 来るもんか。あいつはそういう奴だ。

D 妹は恨んでないよ。

C じゃ、傷ついてないっていうのか?

D でも、あいつ恨んでない。

C ……………。

D だからカキゾノに伝えてくれよ。

C    あいつには会いたくない。

D でも会わなきゃダメだ。

C 何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ。

D 俺、カキゾノの友達だから。

C じゃあ直接言えばいいだろ。

D 直接言う。だから呼んで欲しい。

C 俺はイヤだ。

D カキゾノを呼べるのはお前しかいない。

C 俺はイヤだ。

   C、逃げるようにいなくなる。それを追いかけてDも立ち去る。それと入れ替わるようにBが入ってくる。その後すぐAがはいって来る。

A ねえ、どこ行ってたの?

B 別に。

A 何で行っちゃったの?

B はい。

A ねえ、いつもそうなの?

B いつもって、毎日会ってるじゃないですか。

A それはそうなんだけど、いつものイマイズミじゃないんだもん。

B いつもと違うのはワタナベさんの方だと思いますよ。

A いつものあたしってどういう感じ。

B 明るいです。

A 今日は?

B 明るいです。

A じゃ同じじゃん。

B そうですね。

A あたしの知ってるイマイズミ、結構明るいよ。

B えっ?

A 毎日つまらない冗談言って笑ってる。

B やっぱり変です、ワタナベさん。

A どこが?

B あたしの知ってるイマイズミってどういうことですか?

A ああ。

B あたしはあたしですよね。

A それはそうなんだけど、そうじゃないの。

B     ……よくわかりません。

A そうだよね、わからないよね。

B やっぱり変です、ワタナベさん。

   短い沈黙。

A     ねえ、パラレルワールドってあると思う?

B どうしたんですか?急に。

A ねえ、あると思う?

B あったらいいと思います。

A それって多分ないだろうってこと?

B わかりません。

A ……………あたしね、パラレルワールドからきたの。

B えっ?

A 信じられないかもしれないけど、多分そうなの。

B 信じられません。

A そうだよね、信じられないよね。

B でも……

A なに?

B     そうだったら、わかるような気がします。

A なにが?

B 今日のワタナベさんが、何で変なのか。

A そんなに変?

B いつもと違います。

A そっか。

B でもやっぱりワタナベさんです。

A えっ?

B ワタナベさんはワタナベさんですよね。

A イマイズミもイマイズミだよね。

B ワタナベさんの知ってるあたしってどんな感じですか?

A 結構おもしろい奴だよ。

B     どう面白いんですか?

A     突然変なこと聞くの、「アンパンマンってこしあんかな、つぶあんかな」とか。

B あたし、前から疑問だったんです。

A そうなの?

B 誰にも聞けなかったんです。

A でさ、「そんなのどっちでもいいじゃん」っていったら、急に怒り出すの。

B もしこしあんだったら、アンパンマンのこと嫌いになります。

A そう。そう言って怒ったの。

   B、思わず笑う。

A あ、初めて笑った。

B はい、時々笑います。

A あたしの知ってるイマイズミはいっつも笑ってるよ。

B そうなんですか?

A うん。いっつも笑ってる。

   この時Cが入ってくる。

C おう、久しぶり。

A さっきあったじゃん。

C そうだね。

B カキゾノ君っていっつもそうですよね。

A 今はカキゾノ君なの?

C 今はって何だよ。俺が偽名でも使って別人になったりするって訳?

A だってさっきはモモゾノ君だったじゃない。

C モモゾノ?

   B、ヤバイという表情。

B ワタナベさんちょっと変なんです。

A ちょっと、人を変人にしないでよ。さっき言ってたじゃない、「俺はカキゾノじゃない」って。

C 俺が?

   短い沈黙。

B ワタナベさん、別の世界から来たんです。だから色々変なこと言うんです。

A 変って何が変なのよ。

B ワタナベさん、よくこの世界のことわかってないんです。

   Bはこのことには触れないようにAに目で訴えかける。Aはそれを理解する。

C ちょっと待ってくれよ。わからないのはこっちの方だよ。何?別の世界とかこの世界とか。

A あたし、パラレルワールドから来たの。

C えっ?

A あたし、もともとこの世界にいたんじゃないの。別の世界からこの世界に来ちゃったの。

C ………………マジで?

A マジで。

C そんなことあるの?ホントに。

A あるみたい。

C でもさ、じゃ今までこの世界にいたワタナベさんはどうなっちゃったの?

A わからない。

C わからないって自分のことだろ?

A でも、正確にいうと自分じゃない。

B さっき別の世界のあたしのこと聞いてたんです。

C 別の世界のイマイズミ?

A そう、話してたんだよね。

C 別の世界のイマイズミってどんな感じなの?

B     ちょっと変わってるんです。

C 同じじゃん。

A そう、基本的には同じなんだけどね。

B 微妙に違うんです。

C じゃ俺は?

A えっ?

C 別の世界の俺ってどんな感じ?

A …………………………。

C     やっぱおんなじような感じなの?

A …………いなかった。

C えっ?

A 別の世界にはいなかった。

C …………そうなんだ。

   短い沈黙。

B きっと転校とか、しちゃったんじゃないですか?

C 転校か。

B カキゾノ君ってどこへ行っても、冗談とか言ってそうですよね。

A そんな感じだよね。

C ねえ、別の世界の教室ってやっぱこんな感じ?

A そう、ほとんど同じ。こうやって机があって後ろにロッカーがあって。

C でも俺のロッカーはないんだ。

   C自分のロッカーを見る。

A (ロッカーの所までいって)ここには「開かずのロッカー」があった。

C 「開かずのロッカー」?

A 誰のロッカーかわからないの。鍵がかかってて、番号もわからない。

B 不気味ですね。

A そう、なんかちょっと怖い感じ。

C そういえば、俺のロッカーも、今「開かずのロッカー」だよ。

A どういうこと?

C 番号忘れちゃってさ、開けられないの。

B ずっと使ってましたよね。

C そう、でもなんだか思い出せなくなった。

B 変ですね。

A でもそういうことあるよね、番号ってなんかに結びつけて覚えないと忘れちゃう。

C (Aに)ねえ、そういえば、ロッカー開けてみた?

A えっ?

C こっちの世界で自分のロッカーあけてみた?

A 開けてない。

C 開けてみない?

B でも、番号同じなんですか。

A 同じって?

B だって世界が違うわけでしょ?

A そっか。

C とにかくやってみない?

A うん。

C     ねえ、ロッカーの中、何入れてた?

A ノートとか、教科書とか、あと写真。

C 写真?

A イマイズミとツーショットで撮ったの。焼き増ししたのを渡そうと思って忘れてた。

B じゃ、別の世界のあたしが写ってるんですか?

A たぶん。

B 見てみたいです。

C 開けてみようよ。

   三人、Aのロッカーの方へ行く。

A あたし、カギ買うとき、絶対忘れない番号にしたんだ。

C 何番?

A 6214

B なんか意味があるんですか?

A ハトヤの電話番号の反対。

C ……なるほどね。

A ねえ、こっちの世界にもハトヤってあるの?

C あるよ。

A 大漁苑も?

C あるよ。

A 海底温泉も?

C あるよ。

A コマーシャルも同じかな?

C (歌い出す)♪♪伊東に行くならハトヤ、電話は良い風呂……

   以下、Aも一緒に歌い出す。

A、C ♪♪伊東にハトヤとサンハトヤ、電話は良い風呂、4、1、2、6

B (さえぎって)ねえ。

   二人、歌をやめる。

B     そんなことより早く開けませんか?

C そうだ、こんなことしてる場合じゃないよな。

   A、ロッカーを開け始める。

A 開いた!!

C 番号同じなんだ。

B なんかドキドキしますね。

   A、ロッカーの扉を開ける。

A     あった。

   A、写真の入った袋を取り出す。

A この中に入れたの。

B 早く開けて下さいよ。

   A、二人の注目する中、袋から写真を取り出す。

A あれ?どうして?

   二人、写真をのぞき込むが、写真を見てCは立ち去る。

B 四人写ってますね。

A 二人で撮ったはずなのに。

B 別の写真ってことはないですか?

A 同じ写真、だって後ろの風景とか同じだもん。

B でも二人で撮った写真なら、どうして四枚もあるんですか?

A あたし、一度焼き増ししてなくしちゃったの。で、また焼き増ししたら前のが出てきて、四枚一緒にロッカーに入れといたの。

B そうなんですか。

A 確かに二人で撮ったはずなのに、二人増えてる。

B 不思議ですね。

A 何でだろ?何でカキゾノ君とあのやせた男の子が写ってるんだろ?ねえカキゾノ君、一緒に撮った覚えある?

   見回すがカキゾノはいない。

A あれ、カキゾノ君は?

B いないですね。

A 何で?

B     よくわかりません。

A どうして何も言わずに行っちゃうんだろ?

B でも、たぶん写真のせいだと思います。

A 写真のせい?

B カワカミ君が写ってるから。

A このやせた男の子?

B はい。

A なんで?カキゾノ君カワカミ君のこと嫌いなの?

B 嫌いじゃないと思います。

A じゃ、何で?

B ……よくわかりません。

A そっか。

B はい。

A それにしても不思議だね、これ確かにイマイズミと二人で撮った写真なんだよ。なのにまるで合成写真みたいに二人増えてる。

B あっ!!

A どうしたの?

B でも、まさか……

A ね、どうしたの?

B ……でも信じられない。

A ねえ、何なの?教えてよ。

B 聞いたことあるんです。……二人写ってる写真を四枚ロッカーに入れておくと……

A どうなるの?

B 写真の二人は増えて四人になる。つまり……

A つまり?

B 二人の人間が増えた別の世界があらわれる。

A じゃ、あたしがパラレルワールドに来たのは……

B でも、信じられません。

A でも、現に起こってる。

B はい。

A 増えた二人がカキゾノ君とカワカミ君。

B やっぱり信じられません。

   その時、Dが駆け込んでくる。

D ここにカキゾノ来なかった?

A さっきまでいたけど、いなくなっちゃった。

D そっか。

B どうしたんですか?

D さっきカキゾノの家が燃えた。

A えっ?!

D 犯人はカキゾノじゃないかと思うんだ。

B カキゾノ君そんなことしない。

D そう、カキゾノはしない。でも、モモゾノはやる。

B ………………………。

D モモゾノは攻撃的な人格だ。そしてどんどん攻撃的になっている。

A ねえ、あたしよくわからない。カキゾノとかモモゾノとかいったい何なの?

D ………………………。

A ねえ、教えてよ。

B ……彼は多重人格なの。

A 多重人格?

D あるひどい事件があった。あいつはその苦しみに耐えられなかった。そしてその事件の記憶からのがれるため、モモゾノが生まれた。

B だからカキゾノ君は事件のこと覚えてないの。事件のこと覚えてるのはモモゾノだけ。

D そしてカキゾノはモモゾノの存在を知らない。

A 彼の中に二人の人間がいるってこと?

B そうなんです。

D モモゾノは事件に関するすべての記憶と感情を背負った。そして激しい怒りに包まれて攻撃的な人格となった。

A ねえ、ひどい事件ってどんな事件なの?

D …………俺の妹が乱暴された。

A (えっ!!!?)

D カキゾノの目の前で…………何人もの男が次々と妹を乱暴した。…………カキゾノは縛られ、横たわったまま、……何もできず……それを見て      いた。

A ……ごめん、聞くんじゃなかった。

D いや、いいんだ。…………やった奴らは、カキゾノを恨んでた。それも、いわゆる逆恨みだった。

A 妹さんは?

D 病院にいる。自分では食べることも、着替えることもできない。……俺のこともわからない。

A ……………………。

D でも、あいつ、カキゾノのこと恨んでない。俺、カキゾノの写真を見せたんだ。……あいつ見てた。……いつまでも、じっと……サトミは、今      でも好きなんだ。

A     サトミ?

B 妹さんの名前なの。

D ……サトミは今でも好きなんだ。すべての感情を失った今でも。なのに、カキゾノはもう、消えかかってる。

A 消えかかってる?

D モモゾノはカキゾノを支配しようとしている。

A そんなことってあるの?

D じゃあ、カキゾノが火を付けたりするか?

B それってホントなんですか?

D たぶん。

B そんな。信じられない。

D だから早く元に戻さないと。

A 元に戻す?

D 二つの人格を統一して、一つの人格に戻すんだ。

B できるんですか?そんなこと。

D でも、やらなきゃいけないんだ。……だけど…………

A だけど?

D 俺はカキゾノと話ができない。

A さっき話してたじゃん。

D あれはモモゾノだ。

B カワカミ君の前にはモモゾノしか現れないの。

A 何で?

B カワカミ君を見ると、カキゾノ君はサトミさんのことを思い出しちゃうの。

   沈黙。

A ねえ、捜そうよ。

D えっ?

A みんなでカキゾノ君を捜そうよ。

B はい。

A もうあまり時間がないんでしょ?

D たぶん。

A じゃ急がなきゃ。

D よし、手分けして捜そう。じゃ、一時間後にここ。いい?

A わかった。

   A、D退場。Bも行きかけるが再び戻ってくる。そしてさっきの写真のうち二枚をワタナベのロッカーに入れ、鍵をかける。そして今度は自分のロッカーの   鍵を開け、ふたを開けて残りの二枚の写真を眺めている。その時Cが現れる。

C なにしてるの?

B (驚いて)カキゾノ君!!

C わかってる。その写真、自分のロッカーに入れようかどうか、迷ってるんだろ?

B ……………………。

C イマイズミも行きたいんだろ?別の世界に。

B ……はい。

C やっぱりな。

B ……どうしてわかったんですか?

C 俺、隣の教室で話聞いてたんだ………ワタナベさんが元の世界に戻るには、来たときと逆のことをすればいい。つまり、四人写ってる写真を二      枚だけロッカーに入れる。

B はい。

C そして、後の二枚を自分のロッカーに入れれば、イマイズミもワタナベさんと同じ別の世界へ行ける。

B ごめんなさい。あたし、別にカキゾノ君がいない世界がいい訳じゃなくて………

C (さえぎって)わかってる。

B ……………………。

C わかってるよ。さっきワタナベさんが別の世界のイマイズミの話したとき、あれっと思ったんだ。

B どう思ったんですか?

C たぶんイマイズミは別の世界のイマイズミになりたいんじゃないかって

B …………あたりです。

C やっぱりね。

B 別の世界のあたし、いっつも笑ってるらしいんです。

C うん。

B あたし、いっつも笑ってられたらなって思います。

C そっか。

B そうだったら幸せかなって思うんです。

C     でもさ、俺、今のイマイズミ嫌いじゃないよ。

B (えっ?!)

C 結構いい奴だなって思う。

B …………そうですか?

C 今のままでいいんじゃないのかな。

B     今のあたし……

C そう、今のイマイズミ

B 信じられません。

C それに……

B それに?

C 今って大切だと思うんだ。

B 今?

C 誰だって大切なのは今の自分なんだ。

B     今の自分。

C     ……俺、最近変なんだ。

B 変って?

C 時々記憶が飛ぶんだ。

B …………そうなんですか?

C 今日もそうなんだ。いつの間にかポケットにこんなものが入ってた。

   C、ライターを取り出す。

C 何でライターなんてはいってるんだろ?

B     …………変ですね。

C さっきもそうだった。隣の教室で二人の話聞いてたら、誰かが走ってきて……でも、そのあとのこと覚えてないんだ。

B     ……………………。

C 俺、怖いよ。

B ……………………。

C 何だか最近一日がどんどん短くなってるんだ。なんかいつの間にか時間がたってる。

B ……………………。

C 俺、怖いよ。…………だから、この瞬間の自分が、とっても大切に思えるんだ。だって結局信じられるのって、今、ここで、俺が、イマイズミ      さんと話してるってことだけでしょ?そうじゃない?

B はい。

C 今、ここにいる俺が、俺なんだもん。

   B、持っていた二枚の写真を細かく破る。そして自分のロッカーを閉めカギをかける。

C いいの?

B はい、いいんです。

   その時、Aが入ってくる。

A カキゾノ君!

C やあ!

A 捜してたんだ、みんなで。

C みんなって?

A イマイズミとあたしと……

C あとは?

A ……それだけ。

C ふたりだけ?

A うん。

C 二人だけでみんなって言うか?

B ワタナベさんまだちょっとおかしいんです。

   その時、Aが破った写真に気がつく。

A あれ、どうしたの?この写真。

B     ……………………。

A 誰だろ、こんなひどいことするの?

B …………あたしです。

A うそ。

B ホントです。

A なんでこんなことしたの?

C ……イマイズミさんさ、この写真の自分の顔が気に入らなかったんだって。

A そうなの?

B はい。

A そんなに写り悪かった?

C さっき言ってたよ、あたしもっと美人だって。

B 美人なんて言ってません。

A でも破ることないのに。

B ごめんなさい。

  一瞬の沈黙。

C ねえ、写真撮らない?

A えっ?

C 俺、カメラ持ってるんだ。

B 何で持ってるんですか?

C 俺、いっつも持ってるよ。

A 林家ぺーみたい。

C でも、芸能人の誕生日は覚えてないよ。

A 松田聖子の誕生日は?

C 3月14日。

A 薬師丸ひろ子は?

C 6月9日。

A 覚えてるじゃん。

C でも、天童よしみの誕生日は知らないよ。

A なんか知りたくないって感じだよね。

C ねえ、写真とろうよ。

A とろっか?

B はい。

   C、机を動かして机の上にカメラを置く。

C じゃ、その辺に立って。うん、そこそこ。俺はどこにはいろっか?

A 真ん中開けとくね。

C 真ん中って死ぬんじゃないの?

B (椅子を持って)じゃ、このドラえもん間にいれとこう。

A それ、ドラえもんじゃなくて耳のない猫だけどいいの?

C OK、OK。……じゃ行くよ。

   C、急いで間にはいる。しばらくしてしてフラッシュが光る。

C よし、バッチリ。

A あたし、目つぶっちゃったかも。

B あたしもです。

C 何でそうかなあ。セルフタイマーなんだからわかるじゃん、大体いつ撮るか。

B でも、セルフタイマーってなんか緊張しませんか?

A するする。

C そうかなあ、俺なんか慣れてるから、いっつもバッチリだよ。

A なんで慣れてんの。

C 時々一人で自分の写真撮るんだ。

A うそ。

B ひょっとしてナルシストなんですか?

C まあね。

A なんかちょっと見る目変わっちゃいそう。

C ていうかさあ、なんか時々その時の自分を保存して置きたくならない?

B やっぱナルシストじゃないですか。

C ちょっと違うと思うなあ。たとえばさあ、一年前の今日の自分がどうだったかとか、結構忘れちゃうじゃん。だから写真撮ってコメントつけと      くの。

A どんな?

C     「今日ひからびたミミズを三匹見た。悲しかった。」とか。

A 変なの。

B でも、何となくわかります。

C なんか日記とか、めんどくさいじゃん、書くのも、読み返すのも。でも、写真って気軽にできるじゃん。

A そっか。

C だから俺、週に一回ぐらい自分の写真撮ってるよ。

A ねえ、その写真、見せてくれない?

C はずかしいよ。

B 見てみたいです。

C でも、ロッカーにしまってあるんだ。で、今、「開かずのロッカー」じゃない?

A あそっか。

C だから見せられないんだ。

A ねえ、番号思い出せないの?

C なんか、そこだけポカっと穴が開いたみたいに記憶ないんだ。

A そっか。

B ちょっと残念です。

C でも、ちょっとタイムカプセルみたいだよな。

B タイムカプセル?

C 百年ぐらいたってだれかがこのロッカーを見つける。そして、さびてボロボロになったロッカーを開ける。すると……

A     中からカキゾノ君の色あせた写真が出てくる。

C 色あせない。サクラカラーの百年プリントだから。

B でも話としては色あせた方が面白いじゃないですか。

C でも、百年プリントだよ。

B それはわかるんですけど……

C でも、たしかにさ、百年プリントって何のために百年も色あせないんだろ?

B     えっ?

C 百年たったら普通みんな死んでるよな。

B そうですね。

C なんか意味ないよな。

A …………でも、色あせたらやっぱ悲しいよ。

C えっ?

A プリクラとか結構すぐ色あせちゃうじゃん。あれ、時々悲しくならない?

C そっか。

A    みんな死んじゃって、写真も色あせちゃって、そしたら何が残るの?

B 何か残らなくちゃいけないんですか?

C えっ?

B 「大切なのは今の自分」。ある人が教えてくれました。

A ある人って?

B 秘密です。

A なんで?

B ちょっと恥ずかしいです。

A そっか。

B あたし、今までイヤなこと、いっぱいありました。色々なもの、なくしてきました。

A うん。

B     あたしいつも違う自分にあこがれてました。あの時こうだったらとか、もし、あたしがこうだったらとか、そんなことばっか考えてました。

A そういうことってあるよね。

B でもあたしその人に教わりました。大切なのはのは今の自分なんだって。

A うん。

B その時とてもうれしかったんです。私、忘れません、そのときのこと。

C そいつは嘘つきだ。

B えっ?

C そいつはとんでもない嘘つきだ。

   Cの様子は明らかに変である。

C      「大切なのは今の自分」? ふざけるな!

B だってカキゾノ君さっき……

C (さえぎって)カキゾノ?やっぱあいつか。あいつは大嘘つきだ。
「大切なのは今の自分」だと?じゃサトミはどうなるんだ。

B ……………………。

C サトミにとって今の自分って何なんだ。

B     ……………………。

C おい、黙ってねえでいってみろよ。男どもにボロボロにされたサトミにとって大切な今の自分って何なんだよ。

B ……………………。

C ほらみろ、答えられねえだろ?

B ……………………。

C 大切なもの?……今の俺にとって大切なものを教えてやろうか?……それは怒りだ。

A 怒り?

C サトミが何をした?俺が何をした?俺たちがこんな目に遭う理由っていったい何だ?

A     ……………………。

C     答えられないだろ?答えがなけりゃ俺は怒るしかない、そうだろ?

A でも……

C 俺はすべてを失った。希望も喜びも、そして悲しみすらもすべてを失った。そんな俺に何がある?

A     ……………………。

C     そんな俺はどう生きたらいいんだ?

A     ……………………。

C     俺を突き動かすエネルギーがあるとしたら、それは怒りだ。……だから俺は怒り続ける。自分を傷つけた悪に対して。俺は怒り続ける。サトミ      を傷つけた理不尽な悪に対して。

   C、ポケットからナイフを取り出し、その刃をじっとみつめる。

A 何するつもり?

C 言っただろ?俺は怒り続けるしかない。社会が理不尽な悪を罰しないなら、俺自身が制裁をくわえるしかない。

A ダメだよ、そんなこと。

C ダメ?何でダメなんだ?

A そんなことしたってしょうがないよ。

C じゃどうすればいい?

A どうするって…………

C あいつらのアリバイは完璧だった。周りの奴らは口裏合わせてあいつらは別の場所にいたと証言した。あいつらの仲間だけじゃない。親たちも      あいつらかばって嘘をついた。……そしてサトミは口すらきけない。あ      れ以来一言もしゃべれないんだ。俺はどうすればいい?

A ……………………。

C なあ、教えてくれよ、俺はどうすればいい?

B でも、ナイフでは何も解決しないと思います。

C 解決?もちろん解決なんてしないさ。だってそうだろう?あいつらには完璧なアリバイが有るんだ。解決なんてするはずない。……ただ、俺は      終わらせたいだけだ。

B 終わらせるってどういうことですか?

C あいつらを殺しておれも死ぬ。わかりやすい終わり方だろ?

D やめろ!

   Dあらわれる。

D やめてくれ。サトミはそんなこと望んでない。

C またお前か。

D サトミはそんな終わり方を望んでないよ。

C じゃ、何を望んでるんだ。

D ……………………。

C あいつが何を望めるんだ?口さえきけないあいつが、いったい何を望めるんだ?

D でも、あいつ生きてる。

C 生きてる?あれが生きてるって言えるのか?今のサトミに何が残ってる?あれを生きてるって言うのか?

D あいつ、たしかに色んなものを失った。でも、サトミはちゃんと生きてるよ。

C お前はそうやって自分をなぐさめてるだけだ。

D 違う。それは違うんだ。

C なにがどう違うって言うんだ。

D     これを見てくれ。

   D写真を取りだし、Cに渡す。C写真を見る。

C     …………サトミ……

D 今日のサトミだ。

   C、写真をめくる。

D 昨日のサトミだ。

   C、写真をめくる。
   
D おとといのサトミだ。

C、写真をめくる。

D 3日前のサトミだ。

   C、次々と写真をめくる。

D 俺、毎日サトミを撮ってるんだ。

C サトミ…………。

D あいつ、毎日違うだろ?

C ……ああ。

D あいつ、生きてるんだ。

C ああ。

D あいつ、一日一日ちゃんと生きてるんだ。

C 生きてる。

D そう、生きてるんだ。………………だからやめてくれ。

C ……………………。

D もう、やめてくれ。

   C、Dに写真を返し、黙ってゆっくりと立ち去ろうとする。

D モモゾノ。

   C、立ち止まる。

D カキゾノに会いたい。

C ……………………。

D カキゾノと話がしたい。

C …………カキゾノに伝えておくよ。

   C、立ち去る。心をいやすような音楽がなる。D、その場に座り込み、写真をみつめる。A、B、Dに近付き、写真を見つめているDをみつめる。音楽が高   まり、溶暗。

SCENE3

   SCENE2の最初と同じ照明がつく。Aがあらわれ、一度自分の椅子に座るが立ち上がって椅子を眺める。

B オハヨー。

A あ、オハヨー。

B どうかしたの?

A うん。

B また、椅子が違うとか言うんじゃないの?

A あたり。

B だから言ったじゃん。そんなさあ……

A (さえぎって)耳のない猫みたいなドラえもん描くのはあたししかいない。

B わかってんじゃん。

A そう、わかってる。これ、たしかにあたしの椅子だよね。

B 間違いないよ。

A ちょっと座り心地悪くても、やっぱあたしの椅子なんだよね。

B 朝から何しみじみしてんのよ。

A 色々あってさ。

B 色々って?

A 色々。

B そっか。

A ねえ

B     なに?

A     こないださ、「開かずのロッカー」の話してたじゃん。

B     うん。

A あの話の続き聞きたい。

B どこまで話したっけ?

A     「ロッカーを開けようとしたら」ってところまで。

B そうだったよね。

A ねえ、開けようとしたらどうなったの?

B ロッカーから声がしたの。

A なんて?

B 「俺は生きている」

A えっ?

B 「俺は生きている」

A ふーん。

B ちょっと怖いでしょ?

A 不思議だね。

B 不思議って言うより怖いよ。

A ねえ、やってみよっか。

B やるって?

A 開けてみようよ、ロッカー。

B マジで?

A マジで。

B でも、怖いじゃん。

A 大丈夫だよ。

B そうかなあ。

A 絶対大丈夫だよ。

B でも番号分かんないじゃん。

A 分かると思う。

B えっ?

A 多分だけど。

B 何番?

A 3103。

B それってなんか意味があるの?

A サ・ト・ミ。

B サトミ?

A サトミ。3103。でね、このロッカーには多分ある人の写真が入ってるはずなの。

B 写真?

A その人自分で自分の写真撮って入れてたの。

B 何でそんなことしたの?

A その一瞬の大切な自分をとっておきたかったんだって。

B そうなんだ。

A ね、開けてみよ。

   A、開かずのロッカーの所へ行き、カギを開け始める。

B ホントに大丈夫かな。

   ロッカーのカギが開く。

B あっ、開いた。

   A、ロッカーの扉を開ける。

B ホントだ。写真がはいってる。

   A、写真をを取り出す。二人でそれをみる。

B あれ、なんで?

A     何でだろ?

B     これ、あたしたちの写真じゃん。

A うん。

B ねえ、なんで?何であたしたちの写真が入ってるの?

A わかんない。

B なんか、気味悪くない?

A     不思議だね。

B 不思議って言うより気味悪いよ。

A でもさ。

B なに?

A たぶん、このロッカーってタイムカプセルなんじゃない?

B タイムカプセル?

A そこに生きてる人間のその一瞬を閉じこめるの。

B よくわかんない。

A だからさ、これ証拠なんだよ、あたしたち、生きてますっていう。

B これがなきゃ、あたしたち生きてないの?

A 生きてるよ。

B じゃなんなの?証拠って。

A 写真ってさ、そこでその人が生きてるって証拠でしょ?

B よくわかんないよ。

A だからさ、写真って、自分たちのために撮るものでしょ?

B 何言いたいの?

A わからないかなあ。

B 全然わかんない。

   微妙な間。

A ねえ、写真撮らない?

B なに?急に。

A 開かずのロッカーと記念写真。

B いいけどさ。

A じゃ、そこ立ってて。自然な感じで。

   B、自分では自然なポーズをとったつもりだが、ひどく不自然なポーズをとる。

A すっっごく不自然。

B そう?じゃこんな感じ?

   B、さらに不自然なポーズ。Aちょっとあきれる。

A     ……うん、いいいんじゃない。そんな感じで。じゃ行くよ。

   二人、ポーズをとる。シャッターのおりるタイミングで暗転。音楽が流れ、出演者たちの日常を映しだしたスライドが上演される。しばらくして幕。