Wonder Closet

登場人物

 サチコ

 マユ

 アサミ

 ユイ

 サエ

 ユリカ

 タシロ

 山下

 川上

 サド先生

 エムラ先生

 プルルン星人1〜3
 
 父

 母

「トイレを舞台にしたパフォーマンス」が終わるとトイレ掃除人が二人残る。

川上  ちょっと山下さん、見てよ。

山下  何?川上さん。

川上  ほら、こんなところにサルの写真。

山下  川上さん、これ女子高生。

川上  え?

山下  なんでこう、どこにでも貼っちゃうのかしらね、プリクラ。

川上  あら、人間?それにしちゃ黒すぎない?

山下  焼いてるのよ。日サロとか行って。

川上  何のために?

山下  その方がもてるんじゃないの?

川上  あら、いいわね。

山下  でもひどい顔。

川上  もともとこういう顔なのかしら?

山下  違うでしょ。写真撮るとき、わざわざ変な顔するのよ、女子高生って。

川上  何のために?

山下  隣の子がかわいいから、やけになってるのよ。

川上  あら、かわいそう。

山下  若いんだから、頑張れば何とかなるのにねえ。

川上  字もまちがえてるし。

山下  何て、書いてある?

川上 (読む)「ずっとなかよちゅ」

山下  なに夢みたいなこと書いてるのかしらね。

川上  そういえば、最近よくトイレが詰まるじゃない。あれ、何でか分かったの。

山下  なんで?

川上  女子高生ってトイレに色々なもの流すらしいの。

山下  色々なものって?

川上  写真とか、手紙とか、思い出とか、恋とか、皮下脂肪とか。

山下  皮下脂肪?

川上  ま、それはあたしが流したいだけなんだけど。

山下  あら、川上さんったらお茶目なんだから。

   その時ユイがトイレに入ってくる。

ユイ  あ、いいですか?

山下  いいわよ。もう掃除終わったから。

川上  流さないでね、皮下脂肪。

ユイ  皮下脂肪?

山下  気にしないで。冗談よ、冗談。さ、行きましょ、川上さん。

川上  ね、山下さん、帰りにプリクラ撮ってみない?

山下  あら、いいわね。

   川上、山下話しながら立ち去る。
   ユイがトイレにはいるとしばらくしてサチコがトイレに入って来る。やがてユイは紙がないことに気づく。隣の個室をノックする。

ユイ  ちょっとごめん。

サチコ はい?

ユイ  そっち紙ある?

サチコ ありますよ。

ユイ  少し切って上から渡してくれない?

サチコ どれくらいがいいですか?

ユイ  うーん、いい感じで。

サチコ じゃ、六〇センチくらいでどうですか?

ユイ  あー、いい感じ。

   サチコ、手で計って七〇センチくらい切って上から渡す。

サチコ じゃあ、行きますよ。ちょっと長めにしておきました。

ユイ  ありがとう。助かった。

サチコ 次からは紙があること確認してから入った方がいいですよ。学校のトイレって、紙がないこと多いから。

ユイ  そうなんだよね、いや、紙がないのは知ってたんだけど。

サチコ え?知ってたんですか?

ユイ  うん。そういうつもりじゃなかったし。

サチコ じゃ、何で入ったんですか?

ユイ  なんか、朝って一人になりたいんだよね。

サチコ ああ、わかります。

ユイ  ホントに?

サチコ あたしもそうだから。

ユイ  え、そうなの?

サチコ なんか教室にいると疲れちゃう時があって。

ユイ  そっか。

サチコ あなたは?

ユイ  うち?なんて言えばいいんだろ。朝早くから教室にいるとなんか真面目そうじゃない?そういうガラじゃないし。

サチコ でも早く来てるんでしょ?

ユイ  うん。でもさ、うちの場合仕方なく来てるって言うか。…ま、家にいたくないんだよね。

サチコ ああ、そうなんだ。

ユイ  もう最近家には寝に帰るだけって感じでさ。…ていうか何でこんなこと話してんだろ。朝から聞きたくないよね、こんな話。

サチコ いや、あたし嫌いじゃないですよ、話聞くのとか、トイレの紙を隣に渡すのとか。

ユイ  ありがと。また、紙がなかったらよろしく。

サチコ はい。(笑顔)

短い沈黙

サチコ なんか不思議な感じですね、こうやって話すの。

ユイ  たぶん、初めてだよね?話すの。

サチコ たぶん。

ユイ  もし紙があったら、ずっと話さなかったのかな。

サチコ そうかも知れないですね。

  チャイムが鳴る。

サチコ あ、行かなきゃ。

ユイ  あ、そう。うち、もう少しいるよ。朝のホームとか、めんどくさいし。

サチコ それじゃ。

ユイ  また、もし話すことがあったらよろしく。

サチコ こちらこそ。

  サチコ立ち去る。ややあってサエ,ユリカがトイレに入ってくる。

ユリカ ちょっと聞いてよ。

サエ  何?

ユリカ この前、例の彼とデート行ったんだけど…。

サエ  それで?

ユリカ 連れて行かれたのが駅前の「ラブリーにゃんにゃん」だったわけ。

サエ  うわっ、マジで?そこってメイド喫茶じゃん。

ユリカ しかも、「モモちゃん萌え萌えだよね」とか言ってんの。

サエ  キモーイ。ヤバイよ、そいつ。

ユイ  (声を変えて)我々はプルルン星人だ。地球を征服に来た。

ユリカ,サエ驚く。

サエ  びっくりした。

ユリカ 誰?

ユイ  サエ,ユリカ早くホームルームへ行け。我々プルルン星人はホームルームへ行かない地球人を許さない。

ユリカ あ、ユイじゃね。

ユイ  我々はプルルン星人。プルルン、プルルンプルプルルン。

サエ  (ユイの入っているドアをたたく)ユイ、つまんないこと言ってないで出てこいよ。

  ユイ出てくる。

ユリカ 何してんの?

ユイ  プルルン星人と、交信。

サエ  プルルン星人?

ユイ  知らない?2番目の個室を2回ノックしてから、自分の携帯に「プルルン、プルルンプルプルルン」ってメール送るとプルルン星人と交信できるんだって。

ユリカ ホントに?

サエ  絶対嘘。

ユリカ え、どんな感じ?プルルン星人って。

ユイ  なんか、いやし系宇宙人みたいよ。

ユリカ あ、いいな、それ。

サエ  何が?

ユリカ なんかよくない?いやし系宇宙人。

サエ  全く理解できないんだけど。       

ユリカ えー、なんで?だっていやし系アンド宇宙人だよ。

サエ  だから?

ユリカ しかもプルルン。

サエ  それで?

ユリカ なんかお風呂とかに浮かべたくならない?

サエ  宇宙人を?

ユリカ 宇宙人じゃなくてプルルン星人。

サエ  同じじゃん。

この間にユイはトイレットペーパーに何か書いている。

サエ  ユイ、何してるの?

ユイ、「プルルン星人専用」と書いたトイレットペーパーを扉の所に貼る。

ユリカ  「プルルン星人専用」

ユイ  なかなかいい感じじゃない?

サエ  ていうか、これ何?意味わかんないんだけど。

ユイ  いや、別に意味とかないし。

サエ  はあ?

ユリカ でも、なんかすっごく会いたい。プルルン星人。

ユイ  でしょ?

サエ  ちょっと二人ともなに?なんで、そんなところで気があっちゃってるの。

ユイ  あ、ごめん、ひょっとして、ちょっとハブられた気分?

サエ  いや、そうじゃないけど。

ユリカ ごめんね。

サエ  だから違うって。

サエ、「プルルン星人専用」の紙をはがす。

ユイ  あ。

その時チャイムが鳴る。

ユリカ これ本鈴だよね。

ユイ  行くか。

サエ  ああ、マジ行きたくない。

ユリカ でも、サエ、出席やばくない?

サエ  それ、結構痛い。

ユイ  ま、せっかく来たんだし、とりあえず出ようよ。

サエ  どうせ寝てるだけだし。

ユリカ でもサエ、いびきはやばいよ。

三人、退場していく。

サエ  え、うち、いびきかいてる?

ユイ  こないだすごかったよね、世界史の時間。

サエ  ウソ!

サエ、ユリカ、ユイ退場。
様々な授業の声。(いかにも物まね風)チャイム。昼休み。
サチコ、マユ、アサミがやってくる。

サチコ え、それでどうした?

マユ  映画見て、マックでお昼食べて、あとは公園のベンチでずっと話してた。

アサミ それで鼻の頭が日焼けしてんだ。

マユ  うそ、ちゃんと日焼け止め塗ったのに。

アサミ 嘘。ちょっとからかっただけ。

マユ  からかわないでよ。

  サチコとマユはトイレに入る。アサミは洗面所の所。

サチコ じゃ、結構うまく行ってるんだ。

マユ  うーん、微妙かな。

サチコ 微妙って?

マユ  うまく言えないから微妙なんだよ。

アサミ うわっ。

サチコ なに?

アサミ すっごい微妙なところににきび出来てる。

サチコ えっ微妙って、どこにできたの?

アサミ それがうまく言えないから微妙なんだよ。

マユ  えー何か気になる。後で見せて。

アサミ いや、もうつぶしちゃった。

サチコ だめじゃん、つぶしちゃ。痕のこるよ。

アサミ いや、冗談冗談。

マユ  なんだ、本当につぶしたかと思っちゃった。

アサミ いや、にきびが。

マユ  えっ?

アサミ 本当はにきびなんて、できてないの。

マユ  冗談の意図がわからない。

サチコ ホント。

アサミ えっ、微妙なウケねらいだったんだけど。

マユ  ごめん、全然受けなかった。

サチコ 右に同じ。

アサミ がびーん。

サチコ あ、そう言えば話途中だったよね。タシロ君の何が微妙なの。

マユ  なんとなく見えないんだよね。

サチコ 何が見えないの?

マユ  気持ち?

サチコ あーなんとなくわかる。

マユ  わかる?

サチコ うーん中学の時から知ってるし。

マユ  そっか、そういうタイプなのかな。

アサミ あ、いいことがあるよ。

サチコ ごめん、今マユと話してるから待って。

アサミ だから、いいことがあるんだって。マユの願いを叶える方法。

マユ  え?何?

  マユ、出てくる。サチコも続けて出てくる。

アサミ あのね、トイレットペーパーに願いを書いて、一番目のトイレに流すの。

サチコ それで?

アサミ で、うまく流れたら願いが叶う。

マユ  ホント?あたし、やってみる。

アサミ あたしも。

サチコ アサミは何をお願いするの?

アサミ それは個人情報なので言えません。

サチコ あ、そう。

  マユはサチコにも紙を渡す。

マユ  サチコもなんか書きなよ。

サチコ え?

マユとアサミは願いを書き始める。サチコは紙を手に持って少し考えている。

マユ  書けた。

アサミ 見せて。

アサミ、マユの紙を奪い取る。

マユ  ちょっと見ないでよ。

アサミ 「タシロ君とずっとなかよしでいられますように」

マユ  やだ、恥ずかしいでしょ。じゃ、アサミのも見せてよ

マユ、アサミの紙を奪い取る。

マユ  「微妙なウケねらいがウケますように」

アサミ どう?よくない?

マユ、無言でアサミに紙を渡す

アサミ え?何?なんか反応ないの?

マユ  じゃ、流してみるね。

  一同注目する中、水の流れる音。

マユ  あ、流れた。

サチコ なんか、すうっときれいに流れたね。

マユ  願いがかないますように。

アサミ じゃ、次あたし。

  アサミ流す。中途半端な水の流れる音

アサミ あ。

マユ  半分だけ流れた。

アサミ 「微妙なウケねらい」だけ流された。

マユ  「ウケますように」が残ってる。

アサミ もう一回流してやる。

  再度水の音。

アサミ あ、流れた。流れた。

  水の音止まらない。

マユ  ていうか、流れすぎ?

サチコ あふれる!

  一同退く。水の音止まる。

サチコ よかった。

マユ  あぶなかったね。

アサミ 多分何か詰まってるんだよ。みんなが流すから。

マユ  それ、すごいね。

アサミ なんで?

マユ  だってみんなの願いが詰まってるってことでしょ?

アサミ あ、そっか。

マユ  ねえ、サチコは書かないの?…わかった。ひとりにしてあげるから、何か書きな。アサミ、購買行かない?

アサミ うん。

マユ  じゃ、購買行ってから教室戻るね。

サチコ わかった。

マユ,アサミ去る。サチコ一人残る。1番目の便器の所に行くが、紙をびりびりに破り、2番目の便器に捨てる。サチコがトイレから出て歩いていると、タシロが現れる。

タシロ サチコ。

サチコ あ、タシロくん。

タシロ あ、ちょっと今いいかな。

サチコ うん、いいよ。

タシロ あのさ、マユのことなんだけど。

サチコ あ、そう言えば言ってたよ、マユ。タシロ君の気持ちがみえないって。

タシロ 俺の気持ち?

サチコ マユってさ、好きって言って欲しいタイプなんだよ。

タシロ うん。

サチコ 照れくさい?そういうの。

タシロ ていうか…

サチコ ていうか?

タシロ うん。

サチコ 何?

タシロ 俺、気づいたんだ。俺が一番好きなのはサチコなんだ。

サチコ えっ?

タシロ 俺、前から好きだったんだ。

サチコ ダメだよ、そんなの。

タシロ なんで?

サチコ ダメだよ、だってマユは?

タシロ マユと別れようと思ってる。

サチコ ひどいよ、そんなの。

タシロ でも、俺の気持ちはそうなんだ。

短い沈黙

サチコ …マユを大切にしてあげて。

タシロ ………

サチコ あの子、いい子だよ。

タシロ でも、サチコ自身の気持ちは?

サチコ えっ?

タシロ サチコは俺のこと、どう思う?

サチコ …どうって友だちだよ。

タシロ そっか、やっぱそうだよね。

サチコ うん。

タシロ でも、俺気持ちだけは伝えたかったんだ。

  サチコかろうじてうなずく。

タシロ じゃ、俺、教室戻る。

サチコ うん。

タシロ去る。サチコやや呆然とした後、再びトイレへ。悩んでいる。そこへユイが入ってくる。ユイあらかじめ用意した「プルルン星人専用」の紙をトイレに貼る。そしてトイレに入る。
サチコため息をつく。ユイ、隣に誰かいることに気づく。

ユイ  ちょっとごめん。

サチコ はい?

ユイ  そっち紙ある?

サチコ (笑って)またですか?

ユイ  あ、やっぱそうだ。朝紙もらった人だよね。

サチコ また、会っちゃいましたね。

ユイ  会ったっていうのも変だけど。

  少し沈黙が流れる。   

ユイ  あのさ、勘違いだったら悪いんだけど、なんかあった?

サチコ ………いや、別に。

ユイ  なんか、あった?

サチコ ………。

ユイ  なんかため息とかついてるからさ。

サチコ ため息ついてました?あたし。

ユイ  うん。

サチコ そっか。

ユイ  うち多分、なんもできないかもしれないけど、よかったら、話聞くよ。

サチコ ありがとう。

ユイ  顔も知らない同士だしさ。うちが誰かに話す訳じゃないし。

サチコ ……今、好きな人っていますか?

ユイ  えっ、うちが聞かれるの?

サチコ あ、ごめんなさい。

ユイ  いや、いいよ、別に。今はいないな。…えっ、好きな人いるんだ?

サチコ あたし、ある人のこと、ずっと好きだったんです。多分今も。

ユイ  うん。

サチコ でも、好きだってこと、誰にも言いませんでした。もちろん本人にも。

ユイ  うん。

サチコ 時々彼の横顔をこっそり見て、時々話して、それでよかったんです。

ユイ  うん。

サチコ だから彼が、あたしの友だちとつきあい始めた時も思ったんです。ああ、よかったって。

ユイ  本当に?

サチコ だってその子いい子だし、あたし、その子のこと、好きだし。

ユイ  そうなんだ。

サチコ でも…

ユイ  でも?

サチコ さっき、その彼に告白されたんです。………ちょっと動揺しちゃいました。

ユイ  そりゃ動揺するよね。

サチコ でも断りました。

ユイ  ああ。

サチコ だってそうするしかないし。

ユイ  そうかもね。

サチコ そうですよ。

ユイ  …でも、本当にそれでいいの?

サチコ …いいんです。それが一番いいんです。

ユイ  でも、気持ちが動かなかった?本当に、それで先に進める?

サチコ でもそうするしかないですよ。

ユイ  …でもさ、本当に好きならしょうがないんじゃない。たとえそれで友だちなくしても。

サチコ でも、あたしにはできません。

ユイ  本当に好きでも?

サチコ あたし、できません。

ユイ  うちはそう思わないな。

サチコ なんでですか?

ユイ  気持ちってどうしようもないんだよ。

サチコ はい。

ユイ  本当に好きだったらどうしようもないんだよ。それはどうにもできないんだよ。

サチコ そうでしょうか。

ユイ  気持ちってどうしようもないんだよ。でなきゃ…

短い沈黙

サチコ …どうかしましたか?

ユイ  …うちの父親が、5年前家出てってさ。

サチコ そうなんですか?

ユイ  その時はやっぱショックだったんだ。

サチコ はい。

ユイ  でも、最近思うんだけど、多分そうするしかなかったんだよ。

サチコ はい。

ユイ  だから、パパが今、幸せに暮らしてるんだったら、いいかなって。

サチコ そうなんですか?

ユイ  たぶん母親とはあわなかったんだと思う。そういうのって仕方ないんだよ。

サチコ そうなんでしょうか。

ユイ  そう思うんだ。

サチコ はい。

ユイ  気持ちってどうしようもないんだよ。

短い沈黙

サチコ …ごめんなさい。

ユイ  何が?

サチコ 何か思い出させちゃったみたいで。

ユイ  ううん、いいんだ。別に今から思うとそんな悪いことじゃないし。

短い沈黙。チャイムが鳴る。

サチコ ありがとうございました。すこしすっきりしました。

ユイ  うちもだよ。

サチコ また、話したいですね。

ユイ  そうだね。

サチコ じゃ、あたし行きます。

ユイ  うん、じゃ、またそのうち。

  サチコ個室から出て、「プルルン星人専用」の紙に気がつく。

サチコ これ、何ですか?

ユイ  何が?

サチコ 「プルルン星人専用」って?

ユイ  ああ、それね。いやし系宇宙人。

サチコ いやし系宇宙人?

ユイ  いいでしょ?

サチコ いいですね

   一瞬物思いにふける二人。

サチコ じゃ、また。

ユイ  うん。

サチコ去る。ユイ考えている。やがてユイは立ち上がり、二番目のトイレのドアを二回ノックしてから、自分の携帯を取り出し、メールを送る。すると、しばらくしてどこからともなくプルルン星人たちが現れる。

ユイ  えっ?

プルルン星人は何か言いながら、自分たちが何者かジェスチャーで伝えている雰囲気。

ユイ  ひょっとしてプルルン星人?

プルルン星人よろこぶ。そして踊り出す。プルルン星人はユイにも踊るように薦める。ユイも踊り出す。プルルン星人は一仕事終えたようにして、帰って行く。見送るユイ。ユイ一人でトイレの中で踊っているとサエとユリカがやってくる。

サエ  なにしてんの?

ユリカ 大丈夫?

ユイ  プルルンダンス。

サエ  なにそれ?

ユイ  プルルン星人の踊り。

ユリカ 踊るんだ、プルルン星人。

ユイ  うん。

  ユリカ、ユイの真似して踊り出す。

ユリカ サエも踊ろうよ。

  ユリカ、サエの手を引っ張って無理矢理踊らせる。やがて踊りは盛り上がる。
そこへ見回りの先生1がやってくる。

先生1 こら、何してるんだ。

ユイ  あ、すいません。これプルルン星人の踊りなんです。

先生1 プルプル星人?

サエ  プルルン星人です。

先生1 プルルン星人?

ユリカ 先生も踊りますか?

先生1 今授業中だぞ

ユイ・ユリカ・サエ えー踊りましょうよ

先生1 じゃ一回だけだぞ。

四人踊り始める。先生1次第に踊りに夢中になる。その時先生2が入ってくる。

先生2 エムラ先生、授業中です。

先生1 あ。

先生2 全く何やってるんですか。さ、あなたたち早く行きなさい。

ユイ・サエ・ユリカ はーい。

三人、去っていく。

先生2 何を考えてるんだか。

  先生1、自分の踊りに納得が行かず、また踊っている。

先生2 エムラ先生!!

先生1 はい。

先生2 じゃ、行きますよ。次は4階のトイレです。

先生1 あ、そうだサド先生。

先生2 なんですか?

先生1 あのー、今度の日曜日なんですが

先生2 日曜日?日曜日がどうかしたの?

先生1 一緒に映画でも行きませんか?

先生2 はあ?

先生1 ほら、今流行ってる映画あるじゃないですか?「二人の山田さん」でしたっけ?山田という名前以外何の共通点もない二人がどうしようもなく引かれ合っていき、やがて一つの山田になっていく

先生2 何であたしがあなたと映画に行くの?

先生1 それは僕があなたを愛しているから。

先生2 今、何言った?

先生1 愛してます。サド先生。

先生2 まさか告白?

先生1 ま、とりあえず気軽に友だちからってことで。

先生2 お断りします。

先生1 確かに、職場の目は気になるかも知れませんが、

先生2 いいえ、それ以前の問題です。

先生1 それ以前の問題?

先生2 私の眼中にあなたがいないからです。

  先生1、腹を押さえる。

先生1 あいたたたた

先生2 どうしました?

先生1 僕、心が傷つくとすぐお腹に来る体質なんです。

先生2 それはお気の毒。

先生1 ですから、僕と付き合ってください。

先生2 無理。

先生1 お願いします。

先生2 不可能。

先生1 あいたたたた

  先生2は無視しているが、あまりに苦しそうなので近づく。

先生2 大丈夫ですか?

反応がない。

先生2 大丈夫ですか?

先生1 サド先生!

  先生1、先生2の手を取ろうとする。

先生2 何するの!

  先生2、先生1を蹴り飛ばす。

先生1 すいません。

  先生2、足早に立ち去る。取り残される先生1

先生1 (力なく)サド先生…あいたたた、いたた、いたいた

先生1、腹を押さえつつ周りを見る。誰もいないのを見極めて、プルルン星人専用のトイレに入る。腹が痛くて出られない。やがてチャイムが鳴る。トイレにサチコ,マユ,アサミが入ってくる。

アサミ …でさ、そこで、初めて山田さんは靴下をはくの。そしてジャージの裾をまくり上げる。

サチコ へえー  
  
アサミ 二回、三回と山田さんは裾をまくりあげる、そして…(プルルン星人専用の張り紙に気がつく)あれ?何これ?

マユ  「プルルン星人専用」

アサミ 何?プルルン星人って

サチコ 何だろ?

アサミ えー何で?あたし、いっつもここ使ってるのに。

サチコ 使えばいいじゃん。

アサミ だって「プルルン星人専用」って。

マユ  それ素直に守るわけ?

  その時先生1、くしゃみ。一瞬全員固まる。アサミあわててトイレから出る。三人は小声で話し合う。   
アサミ ねえ、今のくしゃみ聞いた?

マユ  うん。

サチコ 何か男の人っぽくなかった?

マユ  あたしもそんな気がした。

アサミ あたし、ノックしてみる。

マユ  うそ、やめなよ。怖いよ。

アサミ、ノックをする。返事が返ってこない。

アサミ  ねえ、返事が返ってこないんだけど。花子さんとかじゃないよね。

あわててノックを返す先生1。

アサミ  あ、今頃かえってきた。やっぱ誰かはいってるんだ。……すいません。誰か入ってますか?

ノックの音

アサミ あのー、ここプルルン星人専用なんですけど。

返事がない。

アサミ ひょっとしてプルルン星人ですか?

先生1 (声を変えて)私の名はプルルン星人

アサミ (サチコとマユに)ねえ、怪しくない?

マユ  あやしい。

サチコ 先生呼んでこない?

アサミ あたし、行ってくる。

マユ  うん。

アサミ、先生を呼びに行く。

サチコ 何だろ、盗撮とか、そういうのかな?

マユ  うわっ、やだ、気持ち悪い。

サチコ なんか持ってたほうがいいかな。

マユ  そうだね。

  二人、デッキブラシと水切りを持ってくる。アサミが先生2を連れて戻ってくる。先生2は過剰な完全武装。

アサミ 先生、ここです。

  先生2、個室のドアをたたく。

先生2 さあ、変態出てきなさい。

サチコ 先生、その言い方じゃ出てきにくくないですか。

先生2 そうかな。

マユ  あたしもそう思います。

先生2 さあ、性癖異常者出てきなさい。

マユ  同じだと思いますけど。

先生2 個人的な性的妄想は捨てて早く出てきなさい。

サチコ だから、そんな言い方じゃ

先生2 出てこないわね。じゃ、水攻めで行きましょう。ホース持ってきて。

アサミ はい。

アサミ、ホースを持ってくる。

先生2 放水開始!

水からなんとか逃げようとする先生1

先生2 なかなかしぶといわね。…じゃ、水圧を上げて。………ほら、いくわよ変態男。

先生1、たまらず訳のわからない声を挙げながら走り去る。

先生2 待ちなさい。

先生2追いかける。アサミも一緒に追いかける。

サチコ 何?今の。

マユ  エムラ先生に似てなかった?

サチコ やっぱそう思った?

マユ  そうだよね?あれ、エムラ先生だったよね?

サチコ いったい何があったんだろ?

マユ  何があったにしても、もう学校にいられないよね。

サチコ 相手がサド先生じゃね。

マユ  今頃大変なことになってそう。

サチコ 噂だと、エムラ先生って、サド先生のこと好きらしいけど。

マユ  うわっ、悲惨。職と恋を両方一緒に失うってこと?

サチコ 恋はともかく、職はつらいよね。

マユ  え、恋の方がつらいよ。

サチコ そうかな?

マユ  あたしなら恋だな。…あ、そうだ。

サチコ 何?

マユ  あたしもう一度やってみようと思ってたんだ。

サチコ 何を?

マユ  もう一度書いて流してみようかなって。

サチコ 何で?効果なかった?

マユ  うん。昼休みにあったんだけど、何か冷たい感じだった。

サチコ 気のせいじゃないの?

マユ  ねえ、どうしよう?あたし、タシロくんに嫌われちゃったのかな。

サチコ そんなことないって

マユ  なんで、わかるの?

サチコ タシロくんてそうなんだよ、あまり表面に気持ちを見せないっていうか。

マユ  そうなの?

サチコ うん。そういう奴なんだよ。

マユ  …なんかくやしいな。

サチコ 何が?

マユ  だって、なんかサチコの方がタシロくんのこと、よくわかってるみたいで。

サチコ そんなことないよ。

マユ  ちょっとうらやましい。

サチコ そんなことないって。

マユ  よし、じゃ、もう一回書いて流してみようかな。

サチコ うん。

マユ  ちゃんと流れるよう、一緒に祈ってて。

サチコ わかった。

  マユ紙に書いて流す。水の音。

マユ  (嬉しそう)あ、流れた。

  その時、マユの携帯の着信音。マユ携帯を取り出す。

マユ  あ。

サチコ どうした?

マユ  メールが来た。

  マユ、メールを見る。

マユ  あれー、なんか効果があったかも。タシロくんからメールが来た。3階の音楽室の前に来て、だって

サチコ よかったじゃん。

マユ  ごめん、ちょっと行ってくるね。

サチコ うん。がんばって。

  マユ立ち去る。サチコ、トイレに入り、考えている。
  タシロが出てくる。マユが走って現れる。

マユ  ごめん、待った?

タシロ ううん。

マユ  何?あたしに会いたくなった?

タシロ ていうか。

マユ  ていうか何?

タシロ 別れてほしい。

マユ  え?

タシロ ごめん、別れてほしい。

マユ  なんで?あたしのこと嫌いになった?

タシロ 俺、マユのこと好きだよ。

マユ  え、言ってることがわからないよ。じゃなんで別れるの?

タシロ 俺、好きな子がいるんだ。

マユ  そうなの?

タシロ マユとつきあってわかったんだ。俺が本当に好きなのはその子だったんだ。

マユ  そんなのひどいよ。

タシロ ごめん。

マユ  ひどいよ、ひどすぎるよ。

タシロ ごめん。

マユ  ね、誰なの?タシロの好きな人って。

タシロ ………

マユ  ね、誰なの?あたしの知ってる人?

タシロ ……

マユ  あたしの知ってる人なんだ。

タシロ ………

マユ  じゃ、その人とつきあうの?

タシロ ………

マユ  あたし、タシロがその人と一緒にいるの毎日見てなきゃいけないの?

タシロ ………

マユ  やだ、そんなの絶対やだ。

  マユ走り去る。タシロ追いかけようとするが、やめて去る。
  場面はトイレに戻る。サチコがいる。そこにユイが入ってくる。

サチコ 紙あります?

ユイ  あるよ。そっちは?

サチコ あります。

  短い沈黙

ユイ  また、なんかあった?

サチコ はい、ちょっと。

ユイ  どうした?

サチコ …気持ちってやっぱり簡単に整理できるものじゃないですね。

ユイ  うん。

サチコ あたし、長女なんです。だから、いつも母親から言われてました。「お姉ちゃんでしょ。」って。

ユイ  うん。

サチコ 何かを分けるとき、いつも先に取るのは妹たち。一回だけ本当にほしいものがあって、譲らなかったんです。そしたら妹が大泣きして結局……

ユイ  「お姉ちゃんでしょ。譲ってあげなさい。」

サチコ わかりますか?

ユイ  なんとなく。

サチコ だから今でも、何かにつけて母親の声が聞こえてくるんです。「サチコ、お姉ちゃんでしょ」

ユイ  そっか。

サチコ そうするとあたしは我慢するしかないんです。そうすれば全てうまく行くし、自分も楽だから。

ユイ  うん。

サチコ それでよかったんです。

ユイ  うん。

サチコ それで満足でした。

ユイ  でも、本当に満足だったの?

サチコ たぶん違うんですよね。

ユイ  そう思う。

サチコ がまんできてるつもりで、本当はすごく無理してるんですよね、きっと。

ユイ  気持ちってそんなに簡単に何とかできるものじゃないと思う。

サチコ そうですよね。

ユイ  うち、最近思うんだ。うちの父親もきっと我慢してたんだろうって。

サチコ そうなんですか?

ユイ  きっと、うちのためにずっと我慢してたんだろうって。

サチコ はい。

ユイ  だって、うち、パパのこと好きだったし、パパだってうちのこと好きだったはずだもん。だからパパは我慢できるところまで、我慢できる限界まで絶対我慢してたんだよ。

  ユイの父と母が出てくる。回想シーン。

父   ごめん。

母   もういい。

父   俺…

母   いいから早く出てって。

父   ……

母   出てって。もう、二度とあたしの前に姿を見せないで。

  母、父を避けるように退場。ユイ立ち上がってその様子を見ている。

ユイ  パパ、何でなの?

父   ……

ユイ  パパ勝手だよ。

父   ごめん。

ユイ  あたし、許さないから。

父   ……

ユイ  あたしパパのこと絶対許さない。パパのこと一生許さないから。

  ユイ、父に背を向ける。父、ユイのところへ近づこうとするがやめる。そして立ち去る。
  ユイ元の場所に戻り、ユイの回想が終わる。

サチコ つらかったですね。

ユイ  仕方ないよ。

サチコ うまく行かないですね、色々。

ユイ  うん。

  その時、トイレにマユが駆け込んでくる。マユは泣き出す。サチコは何が起こったか大体想像がつき、声を掛けられない。

  ユイ、隣の個室をたたく。

ユイ  どうかした?

マユ  なんでもありません。

ユイ  何でもなくないんじゃない。

マユ  ……はい。

ユイ  顔も知らないけどさ、うち、話だったら聞けるよ。

マユ  ……はい。

ユイ  どうした?

マユ  ………

ユイ  話して。

マユ  あたし、好きな人がいるんです。

ユイ  うん。

マユ  つきあってました。…さっきまで。

ユイ  さっきまで?

マユ  さっき言われました。「別れてほしい」って。

ユイ  うん。

マユ  彼、他に好きな子がいるらしいんです。

サチコ、トイレをそっと出て立ち去る。

ユイ  そうなんだ。

マユ  あたしとつき合って、その人のことが好きだってわかった、そう言うんです。

ユイ  うん。

マユ  そんなのひどすぎませんか?

ユイ  つらいね。

マユ  しかもその人あたしの知ってる人みたいなんです。

ユイ  そうなんだ。

マユ  あたし、どうすればいいんですか?

ユイ  ……

マユ  あたし、わかりません。

ユイ  あなたはどうしたい?

マユ  できるなら元に戻りたい。でも、たぶん彼は戻ってこないと思います。

ユイ  何で?

マユ  彼はきっと自分の中で決めちゃってると思います。自分の中で考えて、考え抜いた結果でなきゃ、彼は言わないと思います。

ユイ  どういう人なの?彼って。

マユ  やさしい人です…あたしがどんなわがまま言っても、ずっと笑ってる。あたし、彼の前ではいつもと違う自分になれる気がしました。

ユイ  ケンカとかする?

マユ  ケンカにならないんです。彼、笑ってるだけで。

ユイ  やさしいんだね。

マユ  やさしい人です。

ユイ  きっと、本当にやさしいから言ったんだよね。「別れてほしい」って。

マユ  本当にやさしいから?

ユイ  彼、我慢することもできたと思うんだ。

マユ  がまん?

ユイ  我慢して、表面だけやさしくするなんて誰でもできるんだよ、そうすれば相手も傷つかないし。

マユ  そうかもしれないですね。

ユイ  きっと彼はあんたのことが好きなんだよ。

マユ  それは違うと思います。

ユイ  いや、好きだと思う。好きだから、嘘つくのイヤだったんじゃないの?

マユ  彼はもともと嘘つかない人なんです

ユイ  でも、嘘つけば相手は傷つかずにすむ。だったら、嘘ついて、やさしいふりして、がまんして、それでもよかったんじゃないの?彼はそうすることだってできたはずだよ。でも、そうしたくなかったんだよ。あんたが好きだから。

マユ  ……

ユイ  彼はやさしくて、あんたのこと好きだったんだよ。

短い沈黙。

ユイ  ねえ、プルルン星人って知ってる?

マユ  いいえ、知りません。

ユイ  プルルン星から来た癒し系の宇宙人なんだ…うち、何かつらいことがあると、プルルン星人に会いに行くんだ。

マユ  そうなんですか?

ユイ  プルルン星人の頭はすごく都合よくできてるんだ。いやなことは忘れて、楽しいことだけ覚えてる。

マユ  それいいですね。

ユイ  だってイヤな事なんて、毎日のようにあることだし、しょうがないじゃん。そんなのって、ちょっとその時、運が悪かっただけなんだよ。

マユ  ……

ユイ  だから、今日のちょっとした哀しみは、きっと明日の喜びに変わる。プルルン星人はそう考えるんだ。

マユ  ……

ユイ  で、プルルン星人は毎日踊ってるんだ。毎日笑って毎日踊ってるんだ。

マユ  ……

ユイ  ねえ、会いに行こうか?プルルン星人に。

マユ  えっ?

ユイ  会いに行こうよ。

マユ  …はい。

  どこからともなくプルルン星人たちが現れる。プルルン星人たちはマユを連れだし、なぐさめる。そして踊る。ユイも一緒に踊る。マユに笑顔が戻る。プルルン星人は一緒に喜ぶ。そしてプルルン星人が手でユイの目をふさぐ。そしてふさいだ手をどけると、別のプルルン星人がユイの父を連れてきている。プルルン星人とマユはそっと退場する。

ユイ  パパ

父   …ユイ

ユイ  パパ、ごめんなさい。

父   なんであやまるんだ。

ユイ  パパ、ごめんなさい。あたし、パパのこと恨んでないから。

父   うん。

ユイ  一生許さないなんて、嘘だから。あたし、パパのこと好きだから、大好きだから。

父   ユイ

音楽が高まり、次第に暗くなる。
明るくなると、トイレ掃除人が掃除をしている。

川上  ちょっと山下さん、見てよ。

山下  何?川上さん。

川上  なんか変な動物の写真。

  山下見る。

山下  川上さん。これあたしたち。

川上  えっ?

山下  こないだ、プリクラ撮って、貼ったじゃない。

川上  あら、そうだったかしら。

山下  もう、忘れちゃったの?

  川上、プリクラをじっと見る。

川上  え、でも、これあたしじゃない。ていうか、人間界の生き物じゃないわよ。

山下  川上さん、現実を見つめなさい。

川上  (落ち込んで)これが、あたし…

山下  でも、川上さん、最近ちょっとスリムになったんじゃない?

川上  あら、わかる?

山下  だって毎日見てるもん。

川上  あのね、トイレに流したの。皮下脂肪。

山下  トイレに皮下脂肪?どういうこと?

川上  トイレットペーパーに願い事書いて、ここのトイレに流すと願いが叶うんだって。女子高生から聞いてやってみたの。

山下  あら、川上さんたら相変わらずお茶目なんだから。

川上  でも、それが効果抜群。

山下  ホントに?

川上  なんかいらないものを全て流しさった感じ。

山下  流すと言えば最近トイレつまらないわね。

川上  あら、そういえばそうね。

山下  ま、大切なことよね、流れるべきものが流れるって。

川上  そうね、いいことよね。

山下  さ、行きましょうか。

川上、山下退場。入れ替わって、先生1,2入ってくる。

先生1 でも、ラストシーン感動しませんでした?五十人の山田さんのうち生き残ったのはたった三人ですよ。前作の「二人の山田さん」もよかったけど、僕は今回の方が好きだな。

先生2 ま、最後に残るのは山田だと思ったけど。

先生1 ああ、このトイレに来ると思い出すな。

先生2 いくらせっぱ詰まっても女子トイレに入るのはまずいでしょ。

先生1 サド先生が校長先生に言ってくれなかったら、僕この学校にいられなかったですよ。

先生2 感謝しなさい。

先生1 あれって、やっぱり僕のこと好きだったからですよね。

先生2 はあ?勘違いしないで。ちょっと可愛そうになっただけよ。

先生1 そうなんですか。

先生2 それに、エムラ先生がいなくなるとストレス発散できないし。

先生1 僕ってそういうキャラですか?

先生2 他に何があるの?

先生1 やっぱそうですか。

先生2 あたりまえでしょ?

先生1 そういえば、あのとき、ここで踊ってた生徒たち、最近見ないですね。

先生2 ひとりは学校やめたしね。

先生1 そうなんですか?

先生2 聞いてなかったの?職員会議。あの子、引っ越して、転校したの。 なんか複雑な家庭の事情とかあるみたい。

先生1 へえ、楽しそうに踊ってたけどな。

  先生1、ちょっと踊ろうとして、先生2の視線を感じてやめる。

先生2 ま、色々あるでしょ、高校生にも。

先生1 僕たち二人にも、これから色々ありますかね。

先生2 ない。

先生1 いたたたたた。

先生2 さ、じゃ、次行きましょ。

  先生2、行ってしまう。

先生1 少しは心配してくださいよ。

サチコ、マユが入ってくる。

サチコマユ (先生12に)おはようございます

先生12 おはよう。

サチコは個室へ、マユは洗面所のところ。
 
マユ  日曜日、タシロくんと映画行ったんだよ。

サチコ そうなの?

マユ  で、その後、話したんだ。

サチコ うん。

マユ  タシロくんもふられたんだって。告白したけど断られたんだって。

サチコ そうなんだ。

マユ  なんか、やっと最近、タシロくんのことがわかるようになってきた気がする。不思議だよね、ただの友だちとして会うようになって、その方がよっぽどわかるんだもん。

サチコ そっか。

マユ  結構楽しかった。ふられた同士で、気楽に話せて。

サチコ よかったね。

マユ  でも、タシロくんが告白した相手って、誰なのかな?いくら聞いても教えてくれないんだ。

サチコ そうなの?

マユ  でも、話聞くと、なんか変わった人みたい。

サチコ どう変わってるの?

マユ  だって、タシロくんをふった後にわざわざタシロくんを呼び出して、その人言ったんだって「タシロくんのことがずっと好きだった」って。そんなのおかしくない?

サチコ ちょっと変わってるね。

マユ  だったらつきあえばいいと思わない?

サチコ うん。

マユ  でも、付き合うことはできないんだって。わかんなくない?

サチコ わかんないね。

マユ  タシロくんにもそういったんだ。そしたら「あいつはそういうやつなんだ」って。

サチコ そういうやつって?

マユ  わかんない。それ以上聞いても答えてくれなかった。

サチコ ふーん。

マユ  でも、やっぱちょっと悔しいな。

サチコ 何が?

マユ  「あいつはそういうやつなんだ」って言ったときのタシロ君、今まで見たことない顔だった。タシロ君にあんな表情させる人って、どんな人なんだろ?…ちょっとうらやましい。

サチコ …そっか。

その時アサミがあわてて入ってくる。

アサミ ごめん、マユ、宿題やってきた?

マユ  あたりまえじゃん。

アサミ 写させてくれない?

マユ  えー、また。

アサミ ごめん、これからやってくるから。今日だけはお願い。

マユ  わかった。じゃ、サチコ先教室行ってるね。

サチコ  わかった。

マユ,アサミ立ち去る。

サチコ、個室から出る。「プルルン星人専用」の紙を見る。サチコは「プルルン星人専用」の紙を丁寧にはがし、たたんでしまう。そして立ち去っていく。