絶滅稀少ぼくら


登場人物


 飛鳥(あすか)

 環(たまき)

 数明(かずあき)

 悠太(ゆうた)

 唯(ゆい)

 染(せん)

 研究員

 所長

誰かの呼吸のような音楽が静かにしかししっかりと流れる中、幕が開き舞台上に六人の男女の若者がいる。

数明  その世界はすべてが未完成のまま取り残されていた。

環   建築中のビル

悠太  むき出しの鉄骨

唯   ガラスのない窓

飛鳥  掘りかけの穴

染   途切れた道

数明  わたれない橋

環   沈みかけた船

飛鳥  それを秩序と呼ぶのか、

染   それともカオスと呼ぶのか、

悠太  誰も答えを出せなかった。

環   右肩下がりの国から来た私たちは、

染   その場所の生ぬるい空気を吸ってみた。

飛鳥  その空気は…

数明  その島の空気は

  怒濤のように音楽がなだれ込み若者たちが踊り始める。
踊りが終わると研究員1が若者五人に説明をしている。

研究員1 この島にいる十日間、みなさんにはいくつかのアクティビティに参加してもらいます。そのアクティビティは何かの成果を競う性格のものではありません。しかし結果は計測し、参加者にフィードバックします。

数明  判定表みたいなものをもらえるってことですか?

研究員1 今は質問が許される時間ではありません。(数明を見て間をおく。)説明を続けます。食事は全員同時に取ります。ただし食べ終わったら全員が終了するまで待っている必要はありません。その他この島で守るべきルールは配られた冊子に書いてあります。ルールと言っても最低限のものです。どうかこの島で過ごす十日間を楽しんでください。説明は以上ですが何か質問はありますか?

飛鳥  とりあえず今これから何をすればいいんですか?

研究員1 特に何も。

飛鳥  何も?

研究員1 何も。

数明  参加者は全部で何人ですか?

研究員1 数えていません。

数明  数えてない?何で数えないの?

研究員1 他に質問はありますか?

数明  質問に答えてよ。

研究員1 他に、質問はありますか?

唯   すいません、ここ紫外線強くないですか?

研究員1 そうですか?

唯   感じるんです。強いです、ここ、紫外線。

環   環境破壊進んでるから。

唯   それだけじゃないんです。特に強いんです、この島。紫外線もあと他にも。

環   他にもって?

唯   他にも。

環   他にも環境破壊が進んでるってこと?

研究員1 他に質問がなければこれで終わります。

悠太  あ、すいません。この島ポケモンとかいますか?

研究員1 ポケモン?

悠太  ポケットモンスター。

研究員1 ……

悠太  いや、冗談です。

研究員1 ……

悠太  僕、緊張した空気が好きじゃないんです。つい冗談言いたくなるんです。

研究員1 冗談?

悠太  すいませんでした。

研究員1 ではこれで終わります。

  研究員立ち去る。若者たち残る。

飛鳥  なんかやな感じですね。

数明  質問に答えないし。

悠太  ギャグ言っても笑わないし。

飛鳥  それは多分仕方がないんじゃないですか?

環   私もそう思います。

悠太  そうかなあ。だってなんかやな雰囲気だったし。

数明  そう、その「なんか嫌だ」という雰囲気の原因ををさっきから考えてるんです。

飛鳥  で、結論は?

数明  いや、結論にいたるまでには色々と計測してみないと。

飛鳥  計測か。

環   (唯に)そう言えばさっき紫外線が強いって言ってましたよね。

唯   はい。強いです。

環   あと他にもって。

唯   他にも。

環   他にもって?

唯   たぶん電磁波のようなものだと思います。

数明  電磁波?

悠太  やっぱいるんじゃない?ポケモン。

一同悠太を見る。

悠太  ごめんなさい。

環   (唯に)電磁波のようなものってどんなもの?

唯   わかりません。

微妙な間

飛鳥  ねえ、とりあえず自己紹介とかしてみませんか?まあ、ずっと船で一緒だったから顔とかはわかるけど名前とかなぜここに来たとか…どうですか?(一同なんとなく反応する。)では私からいいですか?飛鳥といいます。学校で生徒会役員やってて先生からイベントがあるから参加してみないかって言われて来ました。よろしくお願いします。えっとじゃあいい?(環に自己紹介をうながす)

環   環といいます。環境問題について調べててもともとこの島に興味があったんですけど、イベントがあるっていうんでちょうどいい機会かなと思って来ました。

悠太  環境問題とどう関係あるの?

環   この島十年後には沈むから。

悠太  そうなの?

数明  地球温暖化の影響?

環   それに加えてリゾート開発で地下水くみ上げて地盤沈下。

悠太  そうなんだ。

環   結局リゾート開発は中断。ホテルもレジャー施設もすべて建設途中のまま。

飛鳥  なんかいやですよね、この島。すべてが中途半端で。    

数明  でも、これ以上の投資は赤字を増やすだけだから。

飛鳥  それはわかるんだけど、なんかそういうの多くないですか?最近。

数明  右肩下がりだから、国全体が。

悠太  俺よく左肩が下がってるって言われる。

微妙な間。

飛鳥  自己紹介続けましょうか。

数明  数明と言います。来た理由でしたっけ。恥ずかしい話なんですけど、出席が足りなくてこれに出たら単位になるって言われて参加しました。

環   これって単位になるんですか?

飛鳥  いや、マニュアルにはそう書いてないけど。

数明  うそ、じゃ俺だまされたのかな?

飛鳥  まあ、そうとも言えないんじゃないですか。そういう規則って学校によって違うし。

数明  そっか。でも本当に大丈夫かな。単位にならないんだったら俺参加しないんだけど。

飛鳥  確認は必要かも知れないですね。

数明  そうだよね。

数明携帯を取り出す。

唯   携帯は通じませんよ。

数明  えっ。

唯   ここは携帯の電波は届かないみたいです。

数明  (携帯を見る)ホントだ。圏外だ。

一同携帯を取り出し確認する。

環   圏外だね。

悠太  何で?ひどくない?

飛鳥  島だから?

唯   違うんです。

飛鳥  えっ?

唯   島に近づいたある瞬間から急に電波がなくなったんです。

環   どういうこと?

唯   島にかなり近づいたある瞬間、携帯の電波がなくなりました。

悠太  ずっと見てたの?携帯。

唯   いいえ、私携帯持ってません。でもわかるんです、ある瞬間に携帯の電波がなくなってそのかわりにこの電磁波のようなものが始まったんです。

数明  なんかあるよね、劇場とかで携帯通じなくする電波。そういうのかな。

唯   そうかもしれません。

環   でも何のために?

数明  目的はともかく人為的な妨害行為の可能性が高いと思う。

悠太  じゃ、どうすればいいの?

数明  とりあえずどうすることもできないね。

唯   私嫌いです。この電磁波のようなもの。

  沈黙が流れる。

飛鳥  ねえ、自己紹介してもらっていい?

唯   唯と言います。ここに来たのは環境を変えることを勧められたからです。ちょっと疲れてたんです。それで

飛鳥  そっか。

唯   でもどこもたいして変わらないですね。

飛鳥  変わらないって?

唯   自分は自分で守るしかない。

悠太  あ、なんかかっこいいな、それ。

環   何が?

悠太  俺も言ってみたいな。「自分は自分で守るしかない。」俺、昔から「守」って名前好きなんだよな。

環   言いたいことがわからないんだけど。

悠太  え、わからない?じゃ、自己紹介でもしちゃおうかな。いい?

飛鳥  はい、どうぞ。

悠太  悠太っていいます。ここに来たのは…

上の会話の間に研究員1と研究所長が出てくる。五人の会話はフェイドアウトしていく。

所長  盗聴装置気付かれてるんじゃない?

研究員1 大丈夫だと思います。

所長  だと思います?

研究員1 大丈夫です。

所長  根拠は?

研究員1 素人が見ても盗聴器だとはわかりません。

所長  本当に断言できる?

研究員1 断言できると思います。

所長  また「思います」?「思います」「たぶん」「ようです」あなたの言うことは推測ばかり。今回のウィルスのことだって推測に過ぎない。

研究員1 確かに推測です。でも仮説のないところに発見もありません。

所長  それはもちろんそう、仮説は大切よ。でもわたしが言ってるのはそういうことじゃないの。あなたが感情に流されてやしないかってことなの。

研究員1 個人的な思い入れはあります。でもそれは当然じゃないですか?弟は死んだんですから。大樹は何の罪もないのに殺されたんですから。そして犯人の体からはあのウィルスが発見された。

所長  大樹くんのことは気の毒だったと思う。でも、その憎しみが科学者としてのあなたの判断を鈍らせている。

研究員1 そんなことはありません。

所長  じゃあウィルスが原因だとする根拠は?

研究員1 ウィルス感染者の八一パーセントには特異な性癖や行動が見られます。

所長  それだけじゃ根拠に乏しいわよね。

研究員1 根拠に乏しい?じゃあ、所長は根拠を固める間にまた誰かがナイフで十三カ所刺されて殺されてもいいっていうんですか?

所長  そんなことは言ってない。それが感情的だって言ってるの。

研究員1 要するに、所長はこの研究に反対なんですか?

所長  反対とは言わない。上がこの実験を許可したのもそれなりに根拠はある。若者の特異な行動に対する社会不安は無視できない。たとえ一部でもその原因が特定できればそれなりの対策も考えられる。

研究員1 だったらなぜ?

所長  大樹くんのことは気の毒だったと思う。でも、あの若者たちが殺したわけではない。

研究員1 そんなことはわかっています。

所長  でもあなたはあの若者たちに嫌悪感をいだいている。

研究員1 そんなことありません。

所長  じゃあ薄気味悪いと思ってる。

研究員1 それはみんなそうじゃないんですか?

短い沈黙

所長  カミアワズって知ってるわよね。

研究員1 この島の特別天然記念物ですよね。

所長  あなた、あのカミアワズを好きになれる?

研究員1 えっ?

所長  好きになれないでしょ?

研究員1 …はい。

所長  私も好きになれない。外見で判断しちゃいけないのはわかってる、カミアワズは何も悪くない、でも可愛くない特別天然記念物はやっぱり好きになれない、人間ってそういうものなの。わかる?

研究員1 なんとなく。

所長  でも科学者はカミアワズを保護しなきゃいけないの。たとえそれがどんなに可愛くなくても、保護することが科学者の仕事なの。

研究員1 あの若者たちはカミアワズみたいなものだっていいたいんですか?

所長  そんなことはいってない。私は科学者の仕事について話してるの。科学者は感情に流されてはいけないの、それだけは忘れないで。

研究員1 ……

所長  化学物質の投与は夕食から?

研究員1 はい。

所長  必ずしも最初から全員に投与する必要はないと思う。誰に投与して誰にしないか、よく考えて。

研究員1 わかりました。

所長と研究員1の話の間に若者たちは飛鳥と環 の二人だけになっている。

環   この辺さかな釣れるんですかね。

飛鳥  釣れるんじゃないかな、周り海だし。

環   でもこの辺の海もだいぶ魚いなくなったみたいですよ。それに最近の魚って結構賢くなってるし。

飛鳥  さかなって賢くなるの?

環   人間以外の動物は大体賢くなるんじゃないですか?

飛鳥  人間以外?

環   人間は賢くならないから環境破壊が止まらないんですよ。

飛鳥  そっか。

環   どうして釣りに行かなかったんですか?

飛鳥  …釣り方わからないから。

環   やればわかりますよ。

飛鳥  それがだめなんだよね、私。マニュアルがないとダメなんだ。

環   釣りのマニュアル?

飛鳥  釣りだけじゃなくて何でもそう。私すべてのことにマニュアルがないと不安なの。

環   マニュアルって必要ですよね。

飛鳥  でも人生にはマニュアルはないんだよね。

環   それはそうですね。

飛鳥  あたし生徒会役員だっていったじゃない?

環   はい。

飛鳥  正確に言うと生徒会役員だったんだよね。

環   やめたんですか?

飛鳥  やめさせられたの。リコールされて。

環   リコール?

飛鳥  私学校の中をマニュアルで埋め尽くしたかった。だから学校生活の隅々までマニュアルを作ったの。一人で作って生徒会長の権限でクラスに配付して。マニュアルって校則とか規約じゃないから、作りたい放題。何でもできたんだよね。そしたらうざがられてさ。そりゃそうだよね。各クラスのカラーボックスが私の作ったマニュアルでいっぱいになって、それでも作り続けたからね。

環   でも悪いことしてた訳じゃないですよね。

飛鳥  ある日、自分のクラスのカラーボックスが空になってたの。私の作ったマニュアルが一冊もなくなってた。探したら古紙回収の箱に入れられてた。私の作った古紙回収のマニュアル通りにきちんと2重に縛ってあった。誰がやったのか今でもわからない。でも逆に言うと誰がやってもおかしくはなかった。だってその直後に私は圧倒的多数でリコールされたんだから。

環   そうなんですか。

飛鳥  それでここに来たの。自分の中のマニュアルを一度リセットしたくて。でも来て良かったかも知れない。人間ってこんなに中途半端にすべてを投げ出してもいいんだね。何もかも中途半端でやりっぱなしで。

環   飛鳥さんって私に似てるかも知れません。

飛鳥  似てる?

環   私リサイクルマニアなんです。

飛鳥  リサイクルマニア?

環   きっかけは学校のボランティアでリサイクル運動をやったことでした。ペットボトルの蓋とか、プルタブとか一生懸命集めて、どんどんたまっていくのがうれしくて。でもだんだんリサイクルがやめられなくなったんです。つまり何も捨てられなくなったんです。家の中にはどんどんものがたまっていきました。部屋がいっぱいになっても何も捨てられなくて、これじゃもうダメだって自分で思ってここに来たんです。

飛鳥  そうなんだ。

環   今ここに来て思いました。私がリサイクルしたかったものって何だろうって。

飛鳥  リサイクルしたかったもの?

環   私がリサイクルしたかったものって、プルタブとかじゃなく他の何かだったんじゃないかと思うんです。それをリサイクルすることがたぶん私には必要だったんです。

飛鳥  何か他のものって?

環   わかりません。

数明、悠太が入ってくる。大きなかごに何か生き物が入っている。

悠太  いやあ、大変だった。

飛鳥  何か釣れたの?

悠太  一匹も。

環   一匹も?

数明  何か生態系が変わってるんだよ、この島。魚類だけじゃなくて甲殻類、棘皮動物、腔腸動物なども極端に減少している。

悠太  その代わりにこれ捕まえた。

飛鳥  何それ。

悠太  さあ。哺乳類みたいだけど。

環   これカミアワズ。

悠太  カミアワズ?

数明  ホントだ。歯が噛み合ってない。

飛鳥  うわっ、口から黄色いものたらしてる。

環   よだれです。

数明  カミアワズは一日2リットルよだれをたらすと言われているんだ。

飛鳥  なにこの鼻の穴の微妙なうごき。イソギンチャクみたい。

数明  鼻の穴の中に十万本の繊毛がはえてるんだ。

悠太  きもい。きもすぎる。  

環   ちなみに、これ特別天然記念物です。

悠太  嘘!

環   この島にしかいない特別天然記念物。

悠太  でも全然可愛くないじゃん。

飛鳥  特別天然記念物って可愛いものなの?

悠太  いやそんな感じするじゃない。

数明  それは極めて論理的じゃないですね。絶滅が危惧され希少価値があるから特別天然記念物なのであって外見は関係ない。詳しくは文化財保護法の一〇九条を見るといいよ。

悠太  そりゃ理屈としてはそうかも知れないけど俺の中では天然記念物=ギザかわゆすハートって感じなんだよ。ねえ、そう思わない?

  誰も反応しない。

悠太  ねえ、どうして俺をそうやって孤独にするの?

環   これ捕まえるとき攻撃されませんでした?

悠太  攻撃っていうか、なんか汁飛ばされたけど。

環   しびれませんでした?

悠太  しびれてるしびれてる。これ、あの汁のせい?

環   カミアワズは身の危険を感じると毒液を発射するんです。すぐに洗い流しましたよね。

悠太  いや、まだ。

環   早く洗った方がいいですよ。

数明  統計によるとカミアワズの毒液を浴びて六〇分以内に洗わなかった場合約八十パーセントの確率で…

悠太  洗ってくる。

悠太立ち去る。

飛鳥  ホントなの?毒液の話。

環   ホントです。まあ死ぬことはないと思いますが。

唯が入ってくる。

飛鳥  あ、どこ行ってたの?

唯   泳いでました。

飛鳥  海で?

唯   いや、水槽で。

飛鳥  水槽?

唯   建築中の水族館があって、そこの回遊水槽で泳いでたんです。気持ちよかった。

環   水槽の水汚くないんですか?

唯   いいえ、ありません。

環   えっ?

唯   水はありません。

数明  水がないのに泳いだの?  

唯   水がないから泳げるんです。私海水の塩分とか、プールの塩素とかだめなんです。だから泳げるのは水のないところだけ。

数明  そうなんだ。

唯、カミアワズを見つける。

唯   あ、かわいい。

唯かごに手を入れてカミアワズをなでる。

飛鳥  それ、危ない。

唯   えっ何がですか?(なで続ける。)

数明  それ、凶暴だから。毒液発射するから。

唯   そんなことないですよ、こんなにおとなしいじゃないですか。(なで続ける。)

環   カミアワズって結構人見知りするらしいんです。本能的に敵と味方を見分けるんです。

飛鳥  あいつは敵だったってことね。

数明  まあわからなくはないね。九〇パーセントの人は彼をうざいと思うだろうから。

飛鳥  確かに。

唯   かわいい。(なで続ける)ねえ、この子飼いましょうよ。

飛鳥  どうやって?

環   カミアワズって何でもたべるらしいですよ。ゴミとかも平気で食べちゃうみたいで。

数明  それがまた不人気の原因なんだよね。ユーカリしか食べなかったりすると可愛げあるんだけど。

環   しかも量はそんなに食べない。環境に優しい動物なんですよ。

飛鳥  ふーん。

唯   ねえ、飼いましょうよ。こんなに可愛いんだし。

環   飼ってみましょうよ。

飛鳥  飼ってみましょうか。

  研究員1が現れる。

研究員1 その動物は飼えません。

唯   なんでですか?

研究員1 特別天然記念物は飼えません。法律で決まっています。

唯   でも飼いたいんです。

研究員1  無理です。

唯   どうしても無理ですか。

飛鳥  法律で決まってるんじゃ無理かもね。

研究員1 すぐにそのカゴから出してください。本当は捕獲するだけでも犯罪なんです。

飛鳥  わかりました。(唯に)しょうがないよ。

飛鳥カゴを開ける。

数明  出ようとしないね。

環   ホントだ。じっとしてる。

唯   出たくないんですよ。

研究員1 いや、そんなことはないはずです。(カゴに近づく)さ、早く出なさい。(カゴから出そうとする。)あっ。

数明  毒液発射した。

飛鳥  大丈夫ですか。

研究員1 大丈夫です。

環   早く洗ったほうがいいんじゃないですか。

研究員1 そうね。

唯   すぐに洗わないと、毒が回りますよ。

数明  統計によるとカミアワズの毒液を浴びて六〇分以内に洗わなかった場合…

研究員1 わかってる。じゃ、洗ってくるわ。あなたたちも気をつけなさい。

研究員1立ち去る。

唯   (カミアワズをなでる)もう大丈夫よ。

悠太戻ってくる。

悠太  なかなか落ちなくて困ったよ。(カゴから出ているカミアワズを見て驚く。)あれ、なんでカゴから出てるの?

環   捕まえちゃいけないんです。天然記念物だから。

悠太  そうなの?でも危なくない?

唯   全然大丈夫ですよ。

数明  攻撃する相手を選ぶらしいんだ。

悠太  じゃ、俺選ばれたわけ?ひどくないそれって。

数明  多分うざかったんじゃない?捕まえるときなんかギャグ言わなかった?

悠太  言ったかも。

環   それが原因ですね。きっと。

唯   あの人のこともきっとうざかったんですね。

飛鳥  えっ?

唯   あのガイドみたいな人。あの人のこともきっとうざかったんですよ。

飛鳥  なんでそう思うの?

唯   この島なんだか電磁波みたいなものが強いって言ったじゃないですか。あの人が来るとそれが余計強くなるんです。あの人何かあるんです。だからカミアワズもそれを感じたんです。

環   それどういうこと?

唯   よくわかりません。でも、はっきり感じたんです。あの人には何かあります。そしてこの島にも。

数明  俺もこの島には何かあると思う。釣りをしているときに気がついたんだけど、この島この2、3日で急に沈んだみたいなんだ。岸壁に残った波のあとを見るとわかる。

  チャイムが鳴る。

飛鳥  夕食の合図ね。

悠太  どんな食事なんだろう。

飛鳥  とりあえず行きましょうか。

環   カミアワズはどうします?

唯   大丈夫だと思います。この子は逃げないと思います。

数明  行こうか。

  若者たち立ち去る。入れ替わりに研究員1と所長が現れる。

所長  感づかれないようにしないとね。

研究員1 予想以上に鋭い連中ですね。

所長  少し甘く見過ぎだったんじゃないの?

研究員1 気をつけます。

所長  で、今後の計画は?

研究員1 今日の夕食で第1回の投薬を行います。量は変えますが、最初は全員に化学物質を投与します。

所長  大丈夫なの?

研究員1 少量ですから。

所長  無理せずゆっくりやりなさい。時間は十分にあるんだから。

研究員1 所長、ひとつ気になることがあるんですが。

所長  なに。

研究員1 さっき若者の一人が言ってたじゃないですか。この島がこの二、三日で急に沈んだって。あれ本当ですか?

所長  いや、そんなことはないはず。多分勘違いでしょう。

研究員1 そうならいいんですけど、何か引っかかるんです。

所長  つまらないことを気にせず実験に専念しなさい。あなたの仮説がもし立証されれば、この国ももう少しがんばれるかも知れない。多分大樹くんもそれを願ってると思う。

研究員1 立証できる自信はあります。ウィルスに対するワクチンが働けば、若者たちの特異な行動は寛解していくはずです。

所長  とりあえずやってみなさい。くれぐれも先入観にとらわれないで。

研究員1 わかりました。

所長、研究員立ち去る。入れ替わって若者たちが現れる。

悠太  いやあ、うまかった。特にあの七本足の軟体動物の酢の物が一番うまかった。

環   え?そんなのあった?

悠太  いや、ウソウソ。やーい引っかかった。

環   まともに聞いてしまった自分がはずかしい。

飛鳥  ねえ、どうしてそういう面白くないこと言って平気でいられるの?

数明  まあある種の精神的傾向あるいは性癖、つまり病気だね。

悠太  ひどいなあ。病気はないだろ病気は。

数明  いや病気以外の可能性は低いと思う。

環   でもある種の才能かも知れないですね。普通の人はどうしてももう少し面白いこと言っちゃいますよね。

悠太  なんかあんまほめられてるような気がしないな。

環   いやほめてないし。

どこからか染が現れる。染は五人の方をずっと見ている。飛鳥が染に気付く。

飛鳥  こんばんは。

染   ……

飛鳥  ねえ、あなたもやっぱり今日の船で来たの?

染  船。

環   私たちは十日間ここで過ごすの。あなたは?

染   十日間。

飛鳥  あなたも十日間過ごすんだ。

環   あなた名前は?

染   染 

悠太  染 ?

染   名前は染 

数明  何でここに来たの?

染   忘れる。

数明  え?

染   忘れる。

唯   忘れるために来たの?

染   忘れる。遠い。嘘。

悠太  遠い嘘を忘れる?

染   机が並んでる。一、二、三、四、五、六列。そこで同じ言葉を唱える。他の人の声がとても大きくて、自分の声が自分にさえ聞こえない。そこで僕が立ち上がろうとすると体が重くて動かない。

唯   ねえ、あなたも高校生?

染   僕は高校生?

悠太  こっちが聞いてるのに。

唯   ちょっと黙ってて。

染   同じところを通っても同じ道は一度もなかった。でもそれではいけなかった?同じ道を通らなければいけない?でも僕にはできない。同じ道は通れない。

飛鳥  同じ道は通れない…

染   道の先には何がある?わからないのに歩く?歩くのをやめたらどうなる?だからあの場所にもう一度戻ってみる。

環   この子の言うこと、わかる気がする。私もたぶんそうだった。

染   戻ってみるともといた場所はなくなっている。僕はそこにあったものを探してみる。でもそこには次の新しいものが居座っていて、もとあったもののことはもう誰も知らない。

環   この子詩をしゃべってる。

飛鳥  詩をしゃべってる?

環   この子の言葉詩になってるんだよ。

染   歩くのは誰かに会いたいから?でももし三日後にその場所が沈んでしまうとしたら、誰かに会うことにどんな意味があるの?でも会いたい。会ってその人のことを知りたい。歩く。だから僕は歩く。

染 歩いて立ち去ろうとする。

環   ねえ、この子について行かない?

唯   うん。

悠太  俺も行く。

環   じゃちょっと行ってきます。

飛鳥  気をつけて。

環 、悠太、唯、染 立ち去る。
  
飛鳥  なんで行かなかったの?

数明  俺、詩とか好きじゃないんだ。

飛鳥  なんで?

数明  俺、基本的に数字にできないものは信用しないんだ。

飛鳥  数字にできないもの?

数明  世の中のものって基本的にすべて数字で説明できるんだよ。ものの成り立ちとか、経済の動きとか。

飛鳥  でもすべては数字にできないでしょ?

数明  九九パーセントはできるよ。

飛鳥  残りの一パーセントは?

数明  多分それが詩だと思う。

飛鳥  恋は?

数明  それも詩の一部なんじゃないの?

飛鳥  そうかな。

数明  そうだと思う。

飛鳥  じゃあこの島は?

数明  周囲十八キロメートル、最高地点の高さ二五〇メートル。人口ゼロ人。年間降水量…

飛鳥  そういうことじゃなくて。

数明  どういうこと?

飛鳥  たとえばなぜ色んなことがやり残したままになってるのか。

数明  それは赤字を増やしたくないという経済の論理で説明できる。

飛鳥  でも経済の論理だけだったらもっと早く建設を中断してたんじゃない?

数明  もっと早くって?

飛鳥  うまく言えないけど、この島って変に作り込まれたところがあるんだよ。使われないことがわかってからもしばらく作り続けてたんじゃないかな。

数明  たとえば?

飛鳥  たとえば唯が泳いだ水槽とか。ああいうのって経済では説明できないんじゃないの?

数明  多分何か理由があるんだよ。

飛鳥  そうなのかな?私理由なんてないと思う。人間って変なところに頑張ってしまう生き物なんだよ。私そんな人間って好きだな。

地面が揺れた気がした。

飛鳥  今の地震?

数明  揺れた?

飛鳥  うん。揺れたと思う。

数明  揺れたとすれば震度1ってとこだな。

  四人が戻ってくる。

環   ただいま。

飛鳥  おかえり。

悠太  ただいマントヒヒ。

飛鳥  (悠太をかるく無視)どこまで行ったの?

環   あれ、どこまでなのかな。

唯   すごかった。とにかくすごかったです。

染 は笑っている。

飛鳥  そんなにすごかったの?

環   それが、私ちゃんと見てないんです。

悠太  その時ちょうど俺が秀抜なギャグを一発かましてさ。

環   不覚にもこの人の方を見て見逃してしまったんです。

数明  最悪だね。

環   取り返しがつかないよ。

唯   あんなのってあるんだね。ホント綺麗だった。

飛鳥  どんな感じだったの?

唯   一見普通なんだけど、でも違うんです。本当の美しさってこんなところにあるんだなって。

染   美しいものからなくなっていく。どうでも良いものばかりが残って美しいものからなくなっていく。生きていくために何かを失うのは仕方のないことだけど、絶対に失いたくないものさえも奪われてしまう。

唯   あたしあの美しいものだけは奪われたくない。

環   そんなに綺麗だったの?

唯   あたし思いました。この島には何かが隠されているんです。

環   何かって。

唯   わかりません。でも何かがあるんです。

飛鳥  私この島が美しく思えてきた。

数明  この作りかけの島が?

環   もし美しいとしたら、作りかけだからなんじゃないかと思います。

数明  作りかけだから?

環   リサイクルやってて時々思うんです。本当は最初から使わなければいいのになって。使うことは少しずつ壊していくことなんです。完成したら使うしかない。だから永久に作りかけだったらきっとずっと美しいんですよ。

数明  でも完璧に完成させたらその方が美しいんじゃないの?

環   なんで完成させなきゃいけないんですか?

数明  なんでって、それを目指すんじゃないの?普通。

飛鳥  あたし、環さんのいうこと、なんとなくわかる気がする。完成させようと思うとそのために多分余計なことをしちゃうんだよね。

悠太  そうか、俺のギャグは完璧をめざしすぎてるのか?

飛鳥・環 それは違う。

唯   あたし、この島美しいと思います。でもそれをわかっていない人がいてそれがこの電波のようなものなんだと思います。

染   本当の悪を行う人はそれが悪だとわからない。わからないからその結果にも気付かない。

唯   だから美しいものは守らなければいけないんです。

  沈黙が流れる。
チャイムの音。

飛鳥  そろそろ寝ようか。

環   そうですね。

悠太  あっ。

数明  どうしたの?

悠太  今日ずっと見てた深夜アニメ「(適当な題名)」の最終回だ。どこかで見れるかな?

数明  まあ無理だろうね。

唯   この島にはテレビの電波はありません。

悠太  録画予約しておけばよかった。人生最大の損失だ。俺はいったいこれからどうやって生きていけばいいんだ。(などともだえながら悩む)

一同悠太を無視していなくなる。

悠太  あれ?どうして?なんで誰もいないの?

悠太あわてて立ち去る。入れ替わりで研究員1と所長が現れる。

所長  若者たちに特に変化はない?

研究員1 特に変化はありません。というか彼らはこの島で妙になごんでいます。

所長  なごんでいる?

研究員1 いやあの若者たちはもともとああなんでしょうか?

所長  彼らをセレクトしたのはあなたでしょ?

研究員1 それはそうなんですが、私は書類上のことしかわからないんですよ。つまりあの若者たちは例のウィルスのに感染していると言うこと。それからエキセントリックで特異な行動パターンを持っているということ。

所長  つまり普通じゃないということ。

研究員1 でも普通って何ですか?

所長  あなた普通が何かを知りたくてこの研究をしているの?

研究員1 そうじゃありません。

所長  あなたこう思ってるんじゃないの?あの若者たちはあなたの弟を殺した通り魔と同じでいつ人を殺してもおかしくない残忍な性格の持ち主であるはずだ。

研究員1 そこまでは思っていません。

所長  でもそれに近いことは考えていた。だから言ったでしょ?科学者は感情に流されてはいけないの。

研究員1 それはわかっています。でもあの子たちを見ているとむしろあの子たちの方がまともなんじゃないかと思うときがあるんです。

所長  だから言ってるでしょ?感情に流されてはいけないの。どちらの方向であれ感情に流されちゃダメなの。

研究員1 わかりました。あと9日間しっかりデータを取って分析します。

所長  ……

研究員1 どうかしましたか?

所長  隠してもしょうがないわね。どうせ明日の夕方にはわかることだから。

研究員1 どうかしたんですか?

所長  この島はあさって沈められるの。

研究員1 沈められる?

所長  そう、沈められるの。

研究員1 じゃあ、あの若者たちは?

所長  ……

研究員1 彼らも一緒に沈められるんですか?

所長  むしろ彼らを沈めるために島を沈めると言った方がいいかもしれないわね。

研究員1 なんでですか?なんで彼らが沈められなきゃいけないんですか?

所長  この島では他にもいくつかのチームが同じウィルスについて研究している。それは知ってるわよね。

研究員1 はい。

所長  あるチームの研究者が若者たちに殺されたの。原因は投与した化学物質の分量のミスじゃないかって言われてるけど、そんなのは上にとっては関係ない。危険な存在は根こそぎ断つ、これが上の決定なの。

研究員1 そんなのひどすぎます。

所長  私だって反対したわ。でも幹部の一人は何て言ったと思う?「どうせ十年後には沈む島なんだ。沈むのがちょっと早くなっただけじゃないか。」

研究員1 なんとかならないんですか?

所長  私にはどうにもできない。すでに計画は密かに進行しているし。

研究員1 ひょっとしてこの二、三日で島が急に沈んだって言うのは本当なんですか。

所長  私にはどうにもできないの。

研究員1 私はあと一日何をすればいいんですか?

所長  もとの計画通り実験を進めなさい。それから一つ上から指示が来てる。

研究員1 何ですか?

所長  さっきあなたのグループのところに一人来たでしょう?

研究員1 染と言う子のことですか?

所長  そう。あの子研究者を殺した若者と同じグループにいたの。直接手を下した訳じゃないんだけど、犯人たちに精神的な意味で影響を与えたのではないかという推測があるの。

研究員1 精神的な意味ってどういうことですか?

所長  あの子の発する言葉はイメージが強すぎるの。あまりにイメージが強すぎて論理を押し殺してしまうらしいの。

研究員1 イメージが強すぎる?

所長  社会って論理が先行しないと成り立たないでしょ?論理が先行するから秩序が保たれる。でももしイメージが先行したら秩序は崩壊してしまう。

研究員1 あの子の発する言葉のイメージが犯人たちを行動に駆り立てた、そういうことですか?

所長  そういう推測をする人もいるってこと。それであの子の一挙一動を観察して記録するよう指示が来てるの。

研究員1 あさってには沈められてしまうあの子をですか?

所長  「今後同じような若者が現れないと限らないから」ある幹部はそう言ってたわ。

研究員1 同じような若者?同じようなってどういうことですか?

所長  わたしだってわからないわ。でも幹部にとって若者は二種類しかないの。害のある若者と害のない若者。

研究員1 納得できません。

所長  何度も言っているでしょ。感情的になってはいけないの。

研究員1 でも……

所長  (遮って)私は部下の状況を逐一上に報告する義務を負っているの。これ以上あなたが何か言ったら私は報告しなければならなくなる。わかる?

研究員1 ……

所長  わかってくれるわね。

研究員1 …わかりました。

  所長、研究員退場。
  音楽が流れる。それは夜。若者たちは蠢きながら夢を見ている。

染   私たちは夢を見る、夢は現実の繰り返しなのに。どうせならもっと遠い遠い夢を見たいのに。そして私たちが目覚めた時、私の中にかすかな痛みが残っている。

環   夢の中で私はリサイクルしている。私がリサイクルした品物を誰かに使ってもらいたくて。

数明  夢の中で俺はすべてを表現できる公式を見つける。でもその公式が証明できない。

唯   夢の中で私は薄い皮膜を脱ぎ捨てて生まれ変わる。メタモルフォーゼした私は眩しい日の光にさらされる。

飛鳥  夢の中で私は私の本当の役割を果たしている。でもその役割にマニュアルがないことにとまどう。

環   リサイクルするのは捨てたくないから?

悠太  それとも捨てられたくないから?

数明  公式を発見すれば真実が見える。

悠太  でも真実は心を満たさない。

飛鳥  いす取りゲームの鬼になりたくない。

唯   自分のいすが欲しい。

悠太  でもどのイスも座り心地が悪い。

染   そして最後に残るのは携帯電話。それがせめて線でつながっていれば、この小さな物体を信じることができるのに。

悠太  もしもしお母さん、新しいギャグを思いついたんだけど聞いてくれる?「駄洒落を言っているのはダジャレンジャー」「長いものにはマカレナ」「石の上にも三年生」「二階からメグちゃん」「後悔あとを絶たず」…(ギャグを言い続ける)

次第に悠太が取り残されていく。染だけが残っている。

悠太  誰からもつっこまれることなく俺はギャグを言い続けた。早く誰かつっこんでくれ、俺はボケてるのに、こんなに一生懸命ボケているのに。…でも誰もつっこんでくれない。俺は死にたくなった。何一つ受けなかったギャグとともにどこかに埋めてもらいたかった。でも、死ぬ勇気すらない俺は、いっそカミアワズの毒液にまみれて頭の芯までしびれてしまいたいと思い、おそるおそるカミアワズに手を伸ばした。

  悠太カミアワズにさわる。

染   なんでやねん。

悠太  えっ?

染   なんでやねん。

悠太  お前俺につっこんでくれてるのか?

染   なんでやねん。お前はアホか。

飛鳥、環 、数明、唯が口々に「なんでやねん」と言いながら現れる。「なんでやねん」の声が盛り上がっていく。
それをさえぎるように研究員1が現れる。

研究員1 おはようございます。

一同あまりやる気のない挨拶を返す。

研究員1 今日の午前中は特にすることはありません。午後は指定された場所でアクティビティを行います。

飛鳥   アクティビティって何やるんですか?

研究員1 その場所に行けばわかります。

数明   教えてくれたっていいんじゃない?

研究員1 教えるとアクティビティに影響かあるので教えることはできません。

環    すいません。

研究員1 なんですか?

環    これは何かの実験なんですか?

研究員1 そんなことはありません。

環    でも何だか観察されているような気がするんです。

唯    いつも見られているような気がします。

研究員1 そんなことはありません。気のせいでしょう。(カミアワズに気がつく)あれ、カミアワズまだいるの?天然記念物は飼えないって…

唯   飼ってるんじゃありません。ただここにいるだけです。

研究員1 ホントに?エサとかあげてない?

環   あげるエサとかないですし。

研究員1 でも大きくなってない?

悠太  気のせいですよ。(カミアワズをなでる。)

  その時、確かに地面が揺れた。

飛鳥  揺れた。

環   いま確かに揺れましたよね。

研究員1 気のせいじゃない?

数明  揺れました。震度3です。    

研究員1 気のせいです。

唯   昨日と違う何かを感じます。

染   不自然な力が美しい均衡を破る。美しいものに暴力を止める力はない。

数明  やはり何かが起こっている。そうなんじゃないですか?

環   教えてください。この島で何が起こっているんですか。

研究員1 ……

唯   あなたから何かが出ています。あなたは何をしているんですか?

飛鳥  教えてください。あなたは何をしているんですか?

  研究員1リモコンのようなものを取り出してスイッチを押す。

悠太  今何をしたんですか?

研究員1 盗聴器を切りました。

数明  盗聴器?

唯   この人から出ていたものがなくなりました。

研究員1 ごめんなさい。私たち実験をしていたの。

環   実験?

飛鳥  どんな実験ですか?

研究員1 それは言えない、というよりそれは知らない方がいい。

数明  知らない方がいいかどうかは俺たちが決めるよ。

悠太  教えてくれよ。いったい何の実験をやっていたんだよ。

唯   私知りたくない。

悠太  えっ?

唯   私知りたくない。知ってしまったら戻れなくなる。

染   毒の入った果実が人間を幸福にした。それとも不幸にした。どちらが出るか、さあお楽しみ。

研究員1 今すぐこの島から逃げて。

環   えっ?

研究員1 何も言わずに、今日中にこの島から逃げて。

数明  やっぱり沈んでるんだ、この島。

環   ねえ、そうなの?この島沈んでるの?

研究員1 早く逃げて。何も聞かないで。

悠太  沈む?沈むってどういうこと?

数明  今はそれを考えてる場合じゃないと思う。一刻も早く行動を起こさないと。

飛鳥  あたしもそう思う。

環   そうね、行きましょう。

  一同立ち去ろうとする。唯はカミアワズを連れて行こうとする。

飛鳥  カミアワズは置いていった方がいいんじゃない。

唯   いやです。連れて行きます。

飛鳥  でも、どうせあの国には連れて行けない。

唯   きっとこの子は私たちを助けてくれます。

染   特別な存在は特別なときに必要とされる。

飛鳥  わかったわ。連れて行きましょう。

  若者たち立ち去る。所長が現れる。

所長  あの若者たちはどこへいったの?

研究員1 わかりません。

所長  ふざけないで。あなた何をしたの?あの若者たちに何を言ったの?

研究員1 何も言っていません。

所長  あなた盗聴装置を切ったでしょ。

研究員1 知りません。

所長  その否定の答えがすべての答えになっている。あなた話したのね、あの若者たちに。

研究員1 ……

所長  話したんでしょ?この島が沈むって。

研究員1 ……

所長  なんでそんなことをしたの?

研究員1 弟がそうするように言ったんです。

所長  えっ?

研究員1 私、弟の声を聞いたんです。「姉さん、間違ってるよ。あの子たちは悪くない。」

所長  あなた何言ってるの?気は確か?

研究員1 「姉さんがしていることは、僕を殺した犯人がしていることと同じだよ。お願い、僕、誰かが何かを奪い取られるのは見たくないよ。姉さん、お願いやめて。」

所長  …あなた、最後まで感情に流され続けたわね。結局科学者になれなかった。

研究員1 なれなくても構いません。

所長  違う。そうじゃない。あなたはそれでいいかも知れない。でも、これはあなただけの問題じゃない。

研究員1 いいえ私の問題です。

所長  そうじゃない、あなたは何もわかってない。…さっき全国各地から研究データがあがってきたの、最近犯罪や暴力的行為をおこなった若者を調べたら、その八〇パーセントがあのウィルスの感染者だった。あなたの仮説は正しかったのよ。

研究員1 ……

所長  あなたが考えた通りだった。あのウィルスが原因だったの。

研究員1 でも悪いのはウィルスじゃないと思います。

所長  えっ?

研究員1 私気がついたんです。たとえ感染者でも何もなければウィルスはそのまま体内に潜んでいる。簡単には発症しないようなんです。

所長  何を言いたいの?

研究員1 感染者が発症するにはおそらく特定の外的要因が必要なんです。だから問題はその外的要因であって若者ではない。そして多分その外的要因とはこの右肩下がりの国なんですよ。

所長  …新たな仮説ね。「思います」「多分」「ようです」あなたの言うことはいつまでたっても推測ね。

研究員1 でもこの推測には自信があります。

所長  だったらその推測を実証しなさい。あなたの推測ではこの右肩下がりの国は動かない。

研究員1 必ず実証して見せます。

所長  「必ず実証して見せます」?よく言うわ。私はあなたを拘束して処分しなければいけない立場なのよ。それなのにどうして「必ず」なんて言えるの?

研究員1 ……

所長  でも残念ながら私も科学者にはなれないみたい。感情に動かされるようじゃまだまだね。…さ、早く行きなさい。

研究員1 えっ?

所長  早く行きなさい。拘束されたらあなたの命はない。でもこの右肩下がりの国にはたまにはあなたみたいなウィルスがいた方がいいと思う。さ、早く。

研究員1 所長。

所長  何?

研究員1 色々ありがとうございました。

研究員1立ち去る。所長それを見送って立ち去る。入れ替わって若者たちが現れる。

数明  ちきしょう。あちこちに張り込んでやがる。四〇人はいるな。

唯   あちこち電波だらけです。

悠太  こんな時にポケモンがいれば……

染   なんでやねん。

飛鳥  とりあえず様子を見ましょう。どうせ相手はマニュアル通りにしか動かないわ。こちらが動かない限りやたらな動きは取らないと思う。

数明  でもどうやって逃げる?船はあの施設の中。入り込めたとしても船を奪うのは不可能。

飛鳥  なんとかならないかな。

悠太  ねえ、船作れない?

数明  ここにある材料では無理だと思う。

環   リサイクルの船とかあればいいのに。

悠太  あった。

環   えっ?

悠太  釣りに行ったときあったじゃん。壊れたモーターボート。

環   でも壊れてるんでしょ?

数明  俺、モーターなら直せると思う。

飛鳥  ホントに?

数明  モーターの構造は簡単さ。理屈はわかるからなんとか直せると思う。

悠太  運転は?

飛鳥  あたし、マニュアルなら読んだことある。

環   ホントですか?

飛鳥  親戚のモーターボートに乗せてもらったとき見せてもらったんだ、マニュアル。

数明  じゃきっとなんとかなるよ。

悠太  でも燃料は?

環   そうか、燃料か。

数明  ガソリンの分子構造ならわかるんだけどな。

飛鳥  ガソリンの精製法のマニュアルは読んだことあるけど。

唯   電波じゃ動かないよね。

  一同悩む

環   あ、あれ使えるかも。

悠太  何?

環   あの施設の外のところにリサイクル用の倉庫があったの。あそこは公共の施設だから使用済みの植物油を捨てないでためてるんじゃないかな。

悠太  でも動くの?植物油で。

環   バイオ燃料だよ。今、バスとか結構使用済みの植物油を使って動いてるんだよ。

数明  でもあれはエンジンの構造が違うんだ。

飛鳥  じゃ、無理ってこと?

数明  確率は低いけど、ゼロじゃない。直すときエンジンの構造を変えてみるよ。

悠太  よし、じゃ行ってみるか、リサイクル倉庫。

飛鳥  警護がマニュアル通りなら、リサイクル倉庫は意外と無警戒かも知れない。

唯   そういえばあそこの横通ったとき、電波感じなかった。

数明  よしそれじゃあモーターボート修理班とリサイクル倉庫潜入班に分かれよう。俺、修理ならできると思う。

以下順に二つのグループに分かれていく。

環   私リサイクル倉庫の場所わかる。

飛鳥  私モーターボートの修理を手伝う。

唯   私倉庫に潜入するとき見張りに立つわ。危ない電波を感じたらすぐ知らせるから。

悠太  俺も倉庫に潜入する。虎穴に入らずんば小島よしお。

環   なんでやねん。

数明  よし、決まった。また後で。

環   よし。それじゃ行きましょう。

染、動こうとしない。

悠太  どうした?染。

染   失ってもいいですか?失うのは怖いですか?何かを手に入れるために失うのは仕方のないことですか?

唯   染、何かが怖いの?

染   怖くない。美しいままなら何も怖くない。

唯   じゃ行きましょ。

  若者たち二手に分かれる。潜入班がリサイクル倉庫近くにたどり着く。

環   あれがリサイクル倉庫だ。

悠太  見張りは?

環   誰もいない。

唯   電波もない。

染   なんでやねん。

悠太  染、そこはつっこまなくていい。

染   なんでやねん。

環   だからつっこまなくていって。さ、いきましょう。

四人移動する。

悠太  よし、鍵もかかってない。

環   あった。使い古しの植物油のタンク。

唯   何に入れる?

環   あたし、牛乳パックとペットボトル持ってる。リサイクルに出そうと思って入れてたの。

染   なんでやねん。

悠太  だからそこ突っこむところじゃないって。

環   よし、これだけあればなんとかなるでしょう。早く行きましょう。

悠太  よし、善は急げ、餅は磯辺焼き。

四人リサイクル倉庫を出ようとする。

唯   あ、何か来る。危ない、何か来る。

一斉に銃声。四人リサイクル倉庫に戻る。

環   どうしよう?

唯   七個の電波に囲まれています。

悠太  畜生、罠だったのか?

染   不自然な力、暴力のための暴力。

環   やっぱダメなのかな。

悠太  よし、降伏しよう。

三人  えっ?

悠太  違う。そこは「なんでやねん」だろ?俺が降伏する振りをして敵を引きつけるからその間に逃げて。

環   そんなのむりだよ。

悠太  いや大丈夫、俺、秀抜なギャグで相手を引きつけるから。

環   何馬鹿なこと言ってんの?あいつら絶対笑わないよ。

悠太  そんなのわからないよ。環さんあの時笑ってくれたじゃん。

環   えっ?

悠太  美しいものを見逃したとき。あの時俺が秀抜なギャグを言って笑ってくれたじゃん。俺、嬉しかった。

環   あの時は…

悠太  じゃ、俺行ってくる。

  悠太手を挙げながら外へ出る。

悠太  アルミ缶の上にあるミカン…に似た物体。アミノ酸の好きな網野さん?あ、お墓だ、ぼちぼち行こか…あ、笑ってる。あいつら笑ってるよ。今がチャンス…

  一斉に銃声。悠太撃たれる。

悠太  わかってねえな、そこは突っこむところ…

  再び銃声。

悠太  だからそこはつっこむところだって……あれ、何だ?何か見える。俺、あんな綺麗なもの初めて見た。あれか?綺麗なものってあれのことだったのか…。そうか、俺わかったよ。俺今なら世界一のギャグが言える気がする…

  悠太、息絶える。

染   なんでやねん。なんでやねん。

環   悠太。

  その時カミアワズが外へ出る。

唯   あ、カミアワズが…

環   何あの素早い動き。

染   毒液発射

唯   あ、すごい。

環   あんな小さい体なのに。

唯   ねらいも正確だ。

環   どんどん敵が倒れてく。

唯   あと一人。

環   よし。

環・唯 やったあ!

  三人喜び合う。
  三人カミアワズのところへ。唯、カミアワズを抱きしめる

唯   カミアワズ、ありがとう。

環   ありがとう、助けてくれたんだね。。

  染、悠太の方へ行く。

環   悠太は?

染   戻らない。死者は戻らない。美しいものがまた一つ消える。

唯   ……なんでやねん。

環   なんでやねん。

沈黙。

環   行こうか?

唯   うん。

三人立ち去る。
数明と飛鳥が現れる。そこに他の三人がやってくる。

環   ボートは?

数明  OK。

飛鳥  マニュアル通りは行かなかったけど。

数明  燃料は。

環   持ってきた。

飛鳥  あれ?悠太は?

染   死んだ。

数明  嘘だろ?

染   死者は戻らない。

環   今なら世界一のギャグが言えるって言ってた。あたし聞きたかったのに。思い切り突っこみたかったのに。

飛鳥  なんでやねん。

数明  なんでやねん。

一同  なんでやねん。

短い沈黙

唯   敵が来る。

飛鳥  急がないと。

環   燃料いれるね。

飛鳥  動くかな。

数明  科学的に考えて動く確率はゼロに近い。

飛鳥  そんな。

数明  でも確率なんてくそ食らえさ。

唯   あぶない。

  銃声。

数明  畜生

飛鳥  なんで?なんでなの?

唯   行けカミアワズ。

数明  あ、すごい。

飛鳥  何、あの毒液。

数明  敵がどんどん倒れていく。

環   がんばれカミアワズ。

全員  よし、やったあ。

染   美しいものは戦う。そして力尽きる。

  カミアワズが倒れる。

唯   カミアワズ!

  唯カミアワズを抱きしめる。

飛鳥  カミアワズが小さくなってる。

唯   こんなになるまで…

染   美しいから。美しいから滅んでいく。

その時島が大きく揺れた。

飛鳥  揺れた。

唯   揺れた。大きく揺れた。

数明  急ごう。

環   よし、燃料OK。

飛鳥  さあマニュアルが正しければこれで動くはず。

数明  よしスイッチをいれるぞ。

  数明スイッチを入れる。動かない。何度か入れようとするが動かない。

環   動かないよ。

数明  本当にマニュアルあってんのか?

  飛鳥、エンジンを蹴飛ばす。モーターの音。

飛鳥  マニュアルなんてくそ食らえよ。

環   さ、行こう。

数明  よし出発だ。

唯   私残る。

飛鳥  えっ?

唯   私この島を沈めたくない。

環   気持ちはわかるけど、今は逃げないと。

唯   私、あの時、あの綺麗なもの見たとき思ったんです。もう戻れないって。

染   戻れない。右肩下がりの国。欲望、刺激、争い、不自然な力。

唯   だからいいんです。それに…

飛鳥  それに?

唯   カミアワズもいるし。

染   守る。最後まで守る。

飛鳥  でも…

環   あたし、わかる。

飛鳥  えっ?

環   美しいものはリサイクルなんてできないんだよ。

飛鳥  リサイクルできない?

環   美しいものは汚れても壊れても中途半端でも、そのままでいい。美しいものに無理な力を加えてもいいことなんて何もない。美しいものはリサイクルなんてできないんだよ。

染   それでも美しい。どんな姿でも美しいものは美しい。

唯   だから私残る。

染   染も残る。最後まで守る。

数明  …わかった。じゃ俺たちは行くよ。

唯   うん。

数明  じゃ、行こうか?

飛鳥  うん。

環   うん、行こう。

数明  よし、出発だ。

染   美しい。どんなときでも未来は美しい。   

エンジンの音が高まる。

飛鳥  ありがとう。

環   会えてよかった。

数明  じゃ、またな。

エンジンの音が響く。飛鳥と環は後ろに向かって手を振る。数明は前を見据えている。音楽がなる。

数明  これからどうする?

飛鳥  えっ聞こえない。

数明  これからどうする?

環   あの国へ戻ろうか。

飛鳥  …うん、戻ろうあの国へ。

数明  よし戻るか。どうせ燃料は片道分しかないしな。

飛鳥  よし。

三人  行こう。

三人はじっと前を見据え続ける。