おもえばあの時・・・・・私は一緒に行った方が良かったのかも知れません



  NADESICO the MOVIE evolution turbo type R   
〜funeral service〜

Author RYUICHI OOTSUKA (1999)




1.2199年6月10日



アキトさんとユリカさんの結婚式を1週間後に控えた2199年6月3日
あと1週間で、2人は結婚します

何はともあれ・・・おめでとうございます


3人で暮らすようになって、随分たちました
こう見えても私結構アキトさんとユリカさんの役に立ってると思います
屋台の仕込みも、忙しいユリカさんに変わって手伝ってますし、チャルメラ吹くのもうまくなりました
アキトさんが過労で倒れたときも、私一人で屋台を出しましたし♪
なんか、ナデシコに乗っていたときの自分は過去のような気もしてきてます

平凡だけど、楽しい我が家

これが今の私たちのキーワードです


ほんの1年前まで宇宙で戦っていたなんて、嘘のよう
地球と木蓮もすっかり和解して(というか戦争の目的があの遺跡だったんですから戦う理由が無くなってしまったんですね)

そう、平和です

この前、私のチチ「プレミア国王」がお忍びで会いに来ました
お忍びといっても・・・・あれだけ物々しいSPを連れて来るんだからちっともお忍びではないですけどね

用件は・・・・やはりというかなんというか・・・・


「ルリ、お願いじゃ・・・・国へ戻って私たちと暮らしてくれないか?」


チチはやはり私と暮らしたいようです
でも・・・わたしは・・・・・


今度も私はチチの期待にそえることはありませんでした
代わりに、月に1度ぐらいはピースランドに帰るように強引に約束を取り付けられてしまいました
旅費は全てチチが出してくれるそうです
良いんですか?チチ、税金の無駄遣いをして・・・・・



しかし、ユリカさん・・・・遅いですね
「え?なんかあるのか」って?
今日はアキトさんとユリカさんと私の3人はホウメイさんのお店で結婚式の予行演習です

「ごめぇ〜〜〜〜ん」

遠くからも聞こえるユリカさんの声(^^;
あたりの人が一斉にこっちを振り返ります
思わず、私とアキトさんは赤くなってうつむいてしまいます

「ば、馬鹿そんな大きな声出して恥ずかしいだろ」
とアキトさん

「あははは、ごめん、うれしくって♪」
頭をかきながらユリカさんはアキトさんに謝ります
にっこりと天使の微笑み
男の人ってこれで何も言え無くなるんですよね、女の武器ってやつですか?

「いいから、行くぞ・・ホウメイさんとか待ってるんだから」
そういうと、アキトさんはユリカさんの手を引き歩き出しました

「仕事、大変なんですね」
最近すっかりディスクワークが板に付いてきたユリカさん
残業とかも多いらしいです
アキトさんの屋台がそれほど繁盛してないためその分ユリカさんが頑張ってます

「え?私はどうしてるか」って?ちなみに、私は学校へ通っています
学費はユリカさんが出してくれてます
ただし・・・・・ユリカさんの好みで学校を選んでいるものですから・・・・・・
「この制服がかわいい♪」の一言でもう5回ほど転校しました(^^;

でも・・・・褒められて悪い気はしません♪
今は白いセーラー服の学校です
「この制服着てるルリちゃんが今まででいっちばんかわいい♪」
私が初めてこの制服を着たときのユリカさんの一言です

・・・・・高校に通ってもこんな調子なのかな(^^;

そう思うとちょっと考えてしまいますが・・・・
とにかく今はそんな日常がなんか幸せです










「・・・綺麗だユリカ」
立ちつくして、ユリカさんをじっと見つめるアキトさん

「わぁー綺麗です」
ほんとに綺麗です
白いウエディングドレスに身を包んだユリカさん
まるで、女神様のようです


「きれいだねぇ、テンカワは幸せもんだよ・・・・・・・・。ほんとうに、大切にしろよ!」
腕を組んでユリカさんの姿をじっと見てホウメイさんがつぶやきました
すごく・・・・男らしいんですけど(^^;


「ちょ・・・ちょっときつかったかなぁ・・・・・・・(^^;」
みんなの視線を感じてか、ユリカさんが照れながらそういいます


「ユリカは食べこぼすから、ドレス汚すなよ・・・・高いんだから」
ちょっとイタズラっぽい顔してアキトさんが言いました

「あははは(^^;」
ユリカさん、ひきつった顔してごまかしてます

でも大丈夫ですよ
オモイカネによれば
だいたいの花嫁さんは結婚式の最中は緊張と感動で何も食べられないという統計がでています
あ、でも・・・・ユリカさんだったら・・・・・(^^;
とりあえず、考えるのはやめましょう



・・・・・・・すごいありさまを想像してしまいました(^^;



「それから・・・・・これ」
急にまじめな顔をしたアキトさんはポケットから小さな箱を2つ取り出してユリカさんに渡しました



「あっ・・・・・・・」
その箱を受け取ったユリカさんは一瞬驚いた顔をして、そしてその瞳には徐々に涙が浮かんできました


「安物でごめんな・・・俺にはこれが精一杯なんだ」

箱の中身は銀色に輝く結婚指輪


「アキト・・・・・屋台苦しいのに・・・・・・ありがとう・・」
ユリカさんはたまった涙を手で拭い嬉しそうに微笑みました


「はめて見ろよ」
アキトさんがせかしてみます


「うん♪」
そう答えると、ユリカさんは箱から指輪を取り出し指にはめてみました


「ちょっと・・・ぶかぶか(^^;」
そう、ユリカさんの指には大きかったようです


「・・・・・・(^^;」
あせるアキトさん


「もう・・アキトったら、チャンとサイズ間違えないで頼まなきゃ・・・・・プンプン!」
サイズが違ってることを怒りながらもユリカさんは嬉しそうです


「あははは・・・・(^^;」
笑ってごまかすアキトさん


「まあ、大は小を兼ねるって言うし、大目に見てやんな」
ホウメイさんも、笑いながら言います



「くすくす・・・」



私も思わず笑ってしまいました















そして・・・・結婚式の日がやってきました




2199年6月10日
晴れ渡った空のもと

小さな教会でアキトさんとユリカさんは結ばれました
小さな教会に納まりきれないほどの人に祝福されて





「素敵な結婚式だった」

「そうですね」


夜、アパートの窓際で私とユリカさん
ユリカさんは湯上がりで少し濡れた髪を乾かしながら今日の結婚式を振り返ります
いやはや、披露宴の4次会が終わったのはついさっきですから
今、午前3時半
今頃は5次会が新郎新婦をすでに忘れ、どこかで繰り広げられていることでしょう

「ユキナさんはちゃんと帰れたのでしょうか?」
私はふいにユキナさんが気になりました
もうべろべろに酔ったミナトさん、確か5次会にも行かれたようです
ミナトさんがあんなに酒癖悪いとは知りませんでした
私も、危うく飲まされそうになりましたもの(^^;

「だ、だいじょうぶかなぁ(^^;」
ユリカさんもちょっと心配しています


ユキナさん、未成年の飲酒は法律で禁止されてますよ

あ、ただの独り言です・・ごめんなさい


ぐぅ〜〜〜


「あははは・・・・・・・・・(^^;」
妙な音はユリカさんのおなかから聞こえてきました

「だって、だって・・・朝食べたきり何も食べてなかったんだもん、ドレスはきついし、緊張してのどを通らないし・・・・・・」
必死に言い訳するユリカさん

「ホウメイさんのお料理とっても美味しかったですよ♪」
私はちょっとイタズラっぽく言ってみました

「えーん、ルリちゃんったらいじわるぅ」
そんなことを言いながらユリカさんは私にじゃれついてきました
「やめてくださいよぉ」
一応言ってみますが別にいやではありません
なんか、ユリカさんの体温を感じていることがなんか幸せで



「ほら、冷蔵庫たいした物入ってなかったからこれしかできなかったけど」
アキトさんが湯気の立ったチャーハンを2つもってきてくれました
ほんのりとただようチャーハンのいい香り
お醤油の焦げたにおいが食欲を誘います

「わぁ、アキトありがとう♪」
ほんとに嬉しそうなユリカさん

「美味しそうですね♪」
アキトさんご自慢のチャーハンです
屋台では出すことが出来ないから、これを食べられるのは私とユリカさんだけ

「いっただきます♪」

「いただきます」

よほどおなかがすいていたのか、ユリカさんはすごい食べっぷり
でも、ほんとに美味しいです

「いっぱいあるからルリちゃんも食べてね」
アキトさんが顔にご飯粒を付けながら言います

「あ〜、アキトおべんとついてる♪」
ユリカさんはアキトさんの顔についたご飯粒をひょいととり食べちゃいました

「うん、ご飯粒一粒まで美味しいよ、アキト♪」
ニコニコしながらユリカさんが言うと、アキトさんは照れくさそうにしてます



こうして、大きな中華鍋一杯のチャーハンを3人で平らげ・・・といっても半分以上はユリカさんが食べてしまいましたが(^^;

「ああ、うまかった♪」

「ほんと美味しかったね♪」

「美味しかったです、なんかさっきの結婚式のお料理よりも美味しかったです」

「あ〜、ルリちゃんホウメイさんに怒られるぞぉ〜♪」
ユリカさんがおどけて言います

「あはは、ホウメイさんにはかなわないよ、でもありがとルリちゃん♪」

照れながら、いうアキトさん
でも、私にはこの時のチャーハンが今までで一番美味しいと感じたのは本当です




そして、一生忘れられないチャーハンとなりました







2.夢の終わりと、終わらない悪夢






「じゃ、ルリちゃんお留守番よろしくね♪」
「ごめん、おみやげ買ってくるから楽しみにしててね」

出発ゲート
エスカレータを進む2人
なにやらする胸騒ぎ





そして・・・・






2人の乗ったシャトルは飛び立ってまもなく爆発しました







懸命に行われる捜索活動





事故の原因はテロでした
直接犯行に手を下した人間はシャトル共々爆発に巻き込まれてこの世を去りました
自らの命を投げ出してまでこのテロを行う若き命
私はこの時まで忘れていたことがありました




戦争




私たちがナデシコに乗って行ってきたことの報いなのでしょうか?
多くの木蓮人を相手に私たちは戦争をしていました
相手が人間だと知りながらも、私は相転移砲のトリガーを引きました
その・・・・報いなのでしょうか?
多くの木蓮人を殺して、それでいて何喰わぬ顔をして普通の生活を送っていた報いなのでしょうか?
今となっては爆発したシャトルの映像だけが私の頭の中にこびりついています

アキトさんとユリカさんの笑顔と共に・・・・・・








空港周辺の学校の体育館にゾクゾクと運び込まれる無惨な遺体
黒こげで見る影もなくなり、体の全てのパーツがそろっている遺体はめずらしい状況
爆発の熱で溶けてしまった遺品
焦げ臭い臭いそして・・・・死臭
私たちは祈るような気持ちで体育館の中を駆け回りました




不安げに体育館の中をさまよう人々
無惨に変わり果てた家族を前に泣き、立ちつくす人々
不安げに、いまだ運び込まれて来る遺体に駆け寄る人々


そんな独特の雰囲気に包まれた体育館の隅で
私たちは2つの遺体を見つけてしまいました




「テンカワアキト」「テンカワユリカ」




2人の遺体は体育館の隅で寄り添うように並んで置かれていました
ミナトさんのすすり泣く声
そして、ユキナさんが私を優しく包んでくれました

「ルリ・・・・」

ユキナさんが発した言葉はそれだけです
ただじっと、私の目からあふれ出てくる涙が止まるまで
ユキナさんは私を抱きしめてくれました


アキトさん・・・・・ユリカさん・・・・・・・約束したじゃないですか・・・・・
すぐに帰って来るって・・・・
ずっと一緒だって・・

なのに・・・・・・・・なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






その翌日
2人のお通夜が行われました
午後からやってきた葬儀社の方が手際よく組み立てた大きな祭壇の中央にはいつか3人で行った遊園地で撮った写真から作られたにっこりと笑った2人の遺影が飾られています
その笑顔を見つめる度、楽しかった3人の思い出がこみ上げてきて涙があふれてきます

その下に並んで2つの棺
中の遺体は事故の悲惨さを物語るには十分です
アキトさんの遺体は右下部分が吹き飛んでしまっていて
2つの遺体とも、それがあの2人とは思えないほどの状況でした
真っ黒に焼けこげ、皮膚はほとんどが熱で溶けて・・・・・・


これ以上は・・・・説明出来ません・・・・



「ルリ・・・・」
ユキナさんが私の肩に手を置いて辛そうに話しかけてきました

「ユキナさん・・・・・指輪です・・・・・・」

そう、指輪なんです・・・・・あの時、なけなしのお金でアキトさんがユリカさんにプレゼントした結婚指輪
2人の指には確かに「それ」がはまっていました
ものすごい熱で変形してしまった2つの指輪
それが、紛れもなくこの遺体がアキトさんとユリカさんであることを物語っていました

あの時、アキトさんにもらった指輪を嬉しそうに眺めてはしゃいでいたユリカさんの顔が浮かんできます


『ねえ、ルリちゃん見てみて♪綺麗でしょ♪・・・ほら♪』
指輪を付けたりはずしたり・・・子供のように喜んでいたユリカの姿


徐々にあふれ出る涙でぼやけてきた風景にそんな1シーンが蘇ってきました



「指輪がこんなに溶けて・・・・・・・・・・ユリカさん・・・熱かったでしょう・・・・・・?」
私はユリカさんの棺を撫でながらつぶやきました
そんな私を無言で後ろから抱きしめるユキナさん




胸の奥が締め付けられるよう・・・・・・・




心が壊れてしまいそうです




ただ、ユキナさんのぬくもりだけが、2人を失った今でも私はひとりぼっちじゃないんだってそう語っているようでした



翌日、2人のお葬式

お坊さんのお経を聞きながらのお焼香
お通夜・葬儀に参加された方の多いこと・・・・・
アキトさんとユリカさんの死を悲しむ人の多さに、二人がこれだけ愛されていたんだと感じさせられました
会場のあちこちから聞こえてくるすすり泣きの声、嗚咽
そして、昨日のお通夜の途中から、泣きっきりだったユリカさんのお父様が喪主の挨拶の途中やはりというか倒れてしまいました
ジュンさんとウリバタケさんにもたれかかりながら、喪主としてのつとめを最後まで果たしそのまま救急車で運ばれていきました

そして、喪主のユリカさんのお父様を除いたメンバーで
出棺、火葬と続きました



小さな箱の中に収まった2人はあまりに小さく・・・・・
そして・・・・・そして・・・・・・・・・・




信じたくないんです・・・・・これがあの2人だなんて・・・・・・・・




こんな小さな箱の中に2人が入っているなんて・・・・



アキトさんの大きな背中、優しくあったかかったユリカさんが・・・こんな小さな冷たい箱の中に入っているなんて・・・・・




信じたくないんです・・・・・・・・・・・




これはきっと悪い夢・・・・・・




明日の朝にはきっといつものように脳天気なユリカさんが・・・・「わぁ・・・・こんな時間!!!、ルリちゃぁ〜ん何で起こしてくれなかったのよぉぉぉ〜〜〜〜」なんて・・・・・・・・・・・・・・・



それで、それをみたアキトさんが・・・・「そんな事してる間に、どんどん時間遅くなっちまうぞ」なんて・・・・・



そう、これは・・・きっと悪い夢なんです




悪い・・・「夢」なんです・・・・・・・・・・・・・・



















がらんとした部屋




にぎやかだった家はシーンと静まり返っています




かすかに残る、ユリカさんの香水の香りが私に2人の姿を思い出させます




2人の所へ・・・・・行きたい




私は・・・もう一度会いたい・・・・・・・





気がつくと私は病院のベットの上に寝ていました






「気がついたのね・・・・ルリ」





ぼんやりと写るユキナさんの顔

「馬鹿・・・・馬鹿馬鹿馬鹿・・・ルリの馬鹿・・・・・何で死のうとなんてするのよ・・・・・・ミナトさんや私がどんなに心配したか・・・・そう、私たちだけじゃない・・・ナデシコのみんなもみんな心配したんだから!」

そういって、私の体にしがみついてユキナさんは泣いています
気がつくと私の手には包帯が巻かれています

「ごめんなさい・・・・ユキナさん、ただ・・・・・もう一度、会いたかったんです」












夏の日差しもきつくなりかけた7月の初め
私は、小さな丘に立っています

「アキトさん・・・ユリカさん・・・・・また、戦争が始まりました・・小さな国同士の小競り合い、原因はアキトさん達の事故の原因となったテロ事件・・・私はもう一度ナデシコに乗ります、そして・・・・お二人がが果たせなかった世界平和のために働きます」
私は2つ寄り添うように並んだ墓標に手を合わせると、そう報告しました






3.希望





それはクリスマスも近い雪の日でした




地球連合宇宙軍第四艦隊所属
試験戦艦ナデシコBが就役しました
艦長は私、ホシノルリ

そのほかは・・・・・・・


基本的に、数名のオペレータを乗せただけのほとんど誰もいない船です

この艦、ワンマンオペレーション計画の実験艦ということで基本的にIFS強化体質の人間一人で動かせるように設計されています
実験艦ということで、武装はあまりなく戦闘は厳しいです


「艦長、お茶が入りました」

「あ、ありがとう・・・・」
彼女は、オペレーターのスズコさん
ショートカットにどことなくボーイッシュな感じのする16歳
3サイズは・・・・・って、読者サービスしてどうするんですか? >作者さん(w

それはおいといて
この艦に乗っている中では私の次に歳が若いのが彼女です
その上になるとほとんどが20代半ばから後半って所でしょうか
だから、必然的に彼女とよく話をします

彼女を見ていると、ちょっとだけユキナさんを思い出したりします
しゃべり方、性格などまるで違いますが、なんと言っていいのか・・・・・オーラが似てる・・・んです

「艦長、私の顔に何かついてますか?」
じっと見つめていたので少し不思議そうな顔をしてスズコさんが見ています

「いえ、なんでもないです・・少し考え事、それから・・・ルリでいいですよ、艦長といわれると・・・・なんか恥ずかしいですし」

そうなんです、まだ慣れていないせいか
艦長という言葉を聞いても自分のような気がしません


「ル、ルリ・・・・さん」
スズコさんは遠慮がちにそう呼びました

「はい」
私は笑顔でそれに答えました
このナデシコBへ来て、初めて笑ったような気がします


それから、私たちはお互いの仕事が暇なときには行動を共にしました
食事、休憩、ときどきはお互いの部屋に泊まったりもしました
考えてみると、私は同年代の友達というものを今まで持ったことがなかったんです
IFS強化体質、遺伝子操作された人間、そして人とは違った優れた学力を強制的に植え付けられた特別な人間・・選ばれた人間
学校に通っていたときも、どこかまわりの生徒達との間に固い壁が存在して
一人、いつもとけ込めずにいたような気がします

スズコさんはそんな誰とも違い、私に自然に接してくれます


「ねえ、ルリちゃん♪、今までつきあった男の子いないの?」
今日はスズコさんのお部屋にお泊まりです
布団に入ってからも、スズコさんは私にあれこれと話しかけてきます

「そんなの・・・・いないです」

「え〜?、好きになった男の子とか、全然いないの?」
スズコさんはちょっと意外そうな顔をして私を見ています

「好きな、女の子はいます・・・・」

「ええっ〜〜〜〜!!!」
驚くスズコさん
そんなに大きな声をあげなくても・・・・・・


「へ、変な意味じゃ・・無いですよ」
変な意味じゃないんです
ほんとです
信じてませんね・・・・・って(^^;



「ルリちゃんがああなって・・・こうなって・・・・・ヤダ・・・あ・・・・・・そんな・・・・・・・・・・(ぶつぶつ)」


思いっ切り、勘違いで一人の世界に入っちゃわないでください!!!



「ルリちゃんが・・・・・ぶつぶつ・・・」



「私と・・・ユキナさんは・・・そんなんじゃないです・・・・・・・・・」
そんなんじゃないんです
私とユキナさんは・・・
同じ痛みを知ってる人
大切な人を、失う悲しみ



「ルリちゃん・・・・・・・どうしたの?」



「いえ・・・」
私は話しました
アキトさんのこと、ユリカさんのこと・・・・そして、ユキナさんのこと
スズコさんはじっと真剣な顔をして聞いてくれました


「大変だったんだね・・・・私何も知らなかったから・・・・・」
スズコさんはちょっと気まずそうな顔をしています


「気にしないで下さい・・・・あの時ユキナさんが言った一言がすごく心に残ってるんです・・・・・・」



ルリの病室
ルリの手をぎゅっと握って真剣な面もちで話すユキナ


『「私ね、自分の大切な人が突然、いなくなっちゃうなんて思っても見なかったんだ・・・・・私の隣にはいつもお兄ちゃんがいてくれるって信じて疑わなかったんだ・・・・・でもね、こうして今私が生きていることだって偶然なのかも知れない・・・そう思うとね、大切な人と過ごす一瞬一瞬を大切にしておかなくてはいけないんだって思うんだ」』
普段の彼女からは想像もつかないほどの真剣な表情


「ユキナさん・・・・」

すごくさみしそうな顔をしているユキナ
ルリは彼女のこんな表情は見たことが無かった
ルリはかける言葉も見つからず、ただじっとユキナの顔を見つめている
そして、ユキナ表情からその想いを知る


「だからね、ルリ・・・・・」

そう・・・私は一人ではない
アキトさんとユリカさんの死は悲しいけれど
私はまだ二人のところへ行くわけには行かない
私のことを想ってくれる人がいる・・・・・・




「だから、今はスズコさんと一緒にいます」
そう、言って私はスズコさんに微笑みかけました
スズコさんは黙ってうなずき微笑みかえしてくれました









4.悪夢の終わりと再会






「こんにちは・・・・ルリです」




近頃、この宇宙規模で大きな事件が起きています


この宇宙をボソンジャンプでつなぐ壮大な計画
ヒサゴプランを襲う数々の事件
ヒサゴプランの中枢のコロニーが片っ端から襲われ破壊されています
元々このヒサゴプランにはいろいろな裏があり、政治的な面でも反対派は多い様です


「艦長〜」
あ、紹介しますね
彼はマキビハリ少尉
通称、ハーリー君
今11歳で私と同じIFS強化体質
生い立ちは私と同じですが、明るく元気な良い子です


「はい、どうかしましたか?」

彼の様子からして、なんかあるみたいですね

「この間のシラヒメ襲撃事件、ものすごい噂になってるのご存じですか?」

彼の様子からしてこのことだとは想像がついていました
謎の黒い物体
幽霊ロボット
今、ネットワークでは大騒ぎ
毎晩のように行われるチャット
にわかに出来る関連ホームページ
そして、この頃世間話が好きになったオモイカネからの情報です

彼の情報網は・・・・とうてい私には及びませんね(ニヤリ)

「知ってますよ、幽霊ロボットですね」

こういうとかれは少し残念そうな顔をします

「そのロボットのお話が何か?」
少し言葉に詰まってしまった彼に少し助け船です


「はい、その幽霊ロボットの件について、アマリリスの・・・・・・・・・」
彼の話はだいたいこんなところです
幽霊ロボットを偶然目撃したジュンさんは事故調査委員会に招集されたそうです
その場での扱いはさんざんで、誰も聞く耳持たない状態だったとか・・・・・
・・・・事故調査委員会かぁ
あの時も・・・・そうだったのかなぁ・・・・・



なんでもありません




その時、空中に一枚のウインドウが開きました
「ホシノ少佐・・・・・・」
それは新しい任務の通信でした
例の事件の調査の為、アマテラスに飛んで欲しいと言うことでした


「じゃんぷ」


チューリップを使ったボソンジャンプ
私も一応、B級ジャンパーの能力を持っているので
一応、これくらいは出来ます・・


あっという間にアマテラス
これが実用化されたら、ほんとに便利になることでしょうね
でも、このプラン悪いうわさが絶えません
こんなに素晴らしいプランなのに・・・・・・・・・



「何だ貴様らは!!!」

この頭に髪の毛というものを持たないまるでタコのような頭をした人は
統合軍アズマ准将
元々タコのような頭が見る見る赤くなって、まるでゆでダコの様です


はっきり言って、統合軍に私たち宇宙軍は滅茶苦茶嫌われてます
後ろにNERGALがついている私たち宇宙軍に対し、彼ら統合軍は反NERGAL企業であるクリムゾングループがついています
だからといって、ここまで嫌いますか?
・・・・しかも、私のような少女に向かってここまで・・・・、なんて大人げない人なんでしょう

結局私は子供達と一緒に施設内を見学することになりました
本当はこう言うのはハーリー君に任せた方が良いのですが、あの准将の目をくらませるには良いと思いますし、たまにはハーリー君にも頑張ってもらいましょう
そう、この施設のハッキングです


しかし、たまにはこういう息抜きも良いですね
ぶらぶらと施設内を子供達と共に回って・・・
何となく、昔3人で行った遊園地を思い出してます
それはあのヒサゴンというマスコットとお姉さん
ちょうど、遊園地にもあんな感じのぬいぐるみがいますよね




[OTIKA]


それは、そのウインドウは突然あらわれました

この施設内のコンピュータの暴走
考えられる原因は・・・・・・・・・・・・ハーリー君ですね(−−;

「・・・・・・ハーリーくん、ドジった?」

「ぼ、ボクじゃないです!アマテラスのコンピューター同士の喧嘩です!」

彼はあわてて否定します
半分泣きそう?
それはそうと、『コンピュータ同士の喧嘩』!?

「ケンカ?」


彼の話によれば、このアマテラスには非公式なシステムが存在して
そのシステムが、自分の存在をみんなに教えようとしているらしいと言うこと・・・・・・



OTIKA・・・・・・・OTIKA・・・・・・・・・・OTIKA・・・・・・・・・・・・・!?


OTIKA・・・・・・・・AKITO・・・・・・・・・アキトさん!?



まさか・・・・・そんなことが・・・・・・

なぜ!?

どうして・・・・・・


アキトさんとユリカさんは・・・・死んだはず


でも、このキーワードは・・・・・・・


黒い機体・・・・・・・・・ボソンジャンプ・・・・・・・・・・・・・・・


まさか・・・・あの幽霊ロボットの正体は・・・・・・・・・・・・



「ハーリー君、ナデシコに戻ります」




来る、そんな予感がしました






5.それぞれの2年




あの人は生きていました
アマテラスでの一件
あの時であった黒い機体は・・・・・・多分そうだと想います
アマテラスの非公開ブロック
その中に解体され、保管されていたナデシコ
あの時私たちが火星の裏側まで飛ばしたナデシコは・・・・・こんなところに

そこには・・・「あの」遺跡も・・・・

私たちがやったことはいったい何だったのでしょう


さらに・・・・見てしまいました


遺跡の中央にいた・・・・・もう一人のあの人の姿


この2年もの間に私の知らないところであの人達の間に一体何があったのでしょう・・・・・





それは・・・・あまりに辛すぎる『現実』でした



「早く気づくべきでした・・・・・・・」


イネスさんの墓前
あの人とミナトさんと私・・・・・

「あの頃、死んだり行方不明になったのは、アキトさんやユリカさん、イネスさんだけではなかった。ボソンジャンプのA級ランク・・・・・目的地のイメージを遺跡に伝えることのできる人、ナビゲーター・・・・。みんなみんな「火星の後継者」に誘拐されていたんですね・・・・・」


「気づいてしまったんだね・・・・・・」
ぼそりとあの人がつぶやきました

「あの時、アキトさんとユリカさんの指輪を見て気がつけばよかった・・・・・ユリカさんはサイズが合わなくて中指に指輪をしていた・・・・・でも、あの死体はちゃんと薬指にはめていたんです・・・・あの時はただ悲しくて、気づきませんでした」
私の脳裏にあの無惨な2人の死体の記憶が蘇ってきました


「この2年あまり、アキトさん達に何が起こっていたのか、私は知りません」


「知らない方が良い・・・・」


「私も知りたくありません。でも・・・・、どうして・・・・・・どうして教えてくれなかったんですか?生きてるって」
私の心の叫び


「君の知っているテンカワアキトは死んだ、あの時君が見た死体は確かにテンカワアキトだったんだ・・・・俺達の代わりに、あの若いカップルは殺されたんだ・・・・・俺達の目の前で・・・・・・・・・」
そこまで言うとアキトさんは辛そうにうつむきました

そして、一瞬の沈黙のあと



「彼の生きた証、受け取って欲しい」




火星の後継者によって行われた実験により喪失してしまった五感
衝撃の事実
私はかける言葉も浮かびませんでした・・・・





「馬鹿いってんじゃないわ!!!」
いきなりアキトさんの元へ駆け寄ってつかみかかるミナトさん、その表情は怒りに満ちています

「こんなのって、酷すぎるじゃない・・・・・この娘・・・ルリルリがどんな想いで今まで生きてきたと思ってるのよ!!・・・・あなた達を失って、どんなに悲しかったか・・・何故、生きているなら居るって連絡の1つも・・・・この娘はね・・・この娘はね・・・・・・・・・・見なさい!アキト君!!!」


そういったミナトさんは私の手をつかみ持ち上げます
その私の手首を見たアキトさんの顔

「ルリちゃん・・・・・」
アキトさんはそう一言言っただけでうつむいてしまいました
一瞬の沈黙
ミナトさんに捕まれた手首が少し痛いです


「アキトさん・・・・・」
私はミナトさんに捕まれている手首をふりほどきアキトさんにしがみつきました
このままにしていたら、またアキトさんが消えてしまいそうで・・・・


「ダメだ・・・ルリちゃん・・・・俺の手は血で染まっている・・・・・・そんな手で君を抱きしめることは出来ない・・・」
グッとかみ殺したような声で私に告げるアキトさん
その言葉からも、自らの行為に対する後悔が伝わってきます


「これは・・・戦争なんです・・・・だから・・・」


「いや、戦争なんて関係ないんだ・・・俺は確かに人を殺してしまった・・・・・・俺のはなった攻撃で、たくさんの罪もない人が消えていった・・・・俺は自分の復讐のために多くの人間を犠牲にしてしまったんだ・・・・・・」
アキトさんは・・とても辛そうにそう言いました


アキトさんの肌を伝わってアキトさんの想いが伝わってきます

「私だって・・・・人殺しです」
私の口から、自然にこんなセリフがでてきました

「ルリちゃん!?」
驚くアキトさん


「私も多くの人を殺しました、相手が人間だと知りながらも・・・・相転移砲のトリガーを引きました・・・・・・」
ずっと、思っていました
あの時、自分が放った相転移砲で消えていった人たちの家族も私がアキトさんとユリカさんを失ったときに感じた気持ちだったんだろうかって・・・・・







宇宙軍サセボ秘密ドックの通路


「あら、久しぶりね」
ナデシコCの資料を渡しに軍へやってきたエリナ
すれ違うルリ


「お久しぶりです」

「はい、これが今回の新しいナデシコ♪、まだ最終パーツが終わってないけどこれは最高の戦艦になるわよ♪」

渡された資料に目を通しながらエリナの話を聞くルリ

「今回は、統合軍の奴ら・・・見返してやるわよ!こっちには最終兵器の相転移砲があるんだから♪」
自信満々なエリナの態度からも、ナデシコCの性能の高さが感じられる
手渡された資料も見るだけでその性能は現時点で最強とも言えるであろう


「相転移砲・・・・相転移砲は必要ありません!」
ルリは少し声を荒げてそう言う



「へっ?」
エリナは驚いて間の抜けた返事を返す

「私には・・・・・もう相転移砲のトリガーを引くことは出来ません・・・・・・・・・・・・・・・・・・大切な人を失う悲しみを知ってしまった私には・・・・もう・・・・撃てません・・・・・

ルリは思い詰めた顔で廊下を駆けだしていく、その姿をエリナは心配げに見送っていた



「もう、誰も・・・・・誰も傷つけたくないんです・・・・・・」








そんなことを思い出しているとアキトさんがゆっくりと話し始めました


「ルリちゃん・・・・君は・・・・・軍を辞めて、元の生活に帰るんだ・・・・・・・・君みたいな娘がこんなところにいちゃいけない・・・・・・・・・・」


アキトさんは私の体をふりほどき、くるりと後ろを向いて立ち去ろうとしています


「待ちなさい!アキト君!!」
ミナトさんが叫びました


「待って下さい・・・・」


行かせてはいけない
今行かせてしまったら、きっともう会えないかも知れない


「一人で・・・・行くつもりなんですか!かなう相手ではありません・・・・・・今、またナデシコのみんなが集まってきます・・・・アキトさん・・・・一緒に戦って下さい」


それが・・・・そう言うのが精一杯でした


でも、アキトさんは何も告げず去っていきました






6.闘いの果て、醒める悪夢





地球上で火星の後継者による地球圏占拠作戦がアカツキナガレを初めとするものたちに鎮圧されたとほぼ同じ時、火星極冠遺跡にあるヒサゴプランセントラルポイント「イワト」に、私たちのナデシコCがあらわれます

「ハーリー君、ナデシコCのシステム全てあなたに任せます」



【イワト】のシステムに強制リンク・・・そして掌握
思ったよりも敵のシステムはいとも簡単に堕ちました


「艦長ぉ、どうせだから・・・ドーンと派手にやってしまいましょうよ♪」
私が火星のシステムを掌握したのを確認したハーリー君が私に向かって楽しそうに言います

「グラビティーブラストでも打ち込んじゃいましょうか?」


「ダメです・・・・」

そう、無駄な血を流す必要なんてありません
血を流さない戦いだって、こうして存在します
これが・・・・・私のやり方


「ボソンジャンプ反応・・・・7つ!!」
レーダーを見ていたユキナさんが叫びます


「あの人に・・・・まかせます」
そう言うと・・ユキナさんは気づき頷きました




極秘に月ドックへ向かうシャトル内

「久しぶり♪」
「この娘ったら・・・・ついてきちゃったのよぉ」
ぶいっサインをきめるユキナとあきれ顔のミナト

「どう、元気だった?」

「はい」

何気ない会話
でも、ルリにはすごく嬉しかった

「聞いたよ・・・ミナトさんから・・・・・・」
ちょっと真剣な顔でユキナが言う

「そうですか・・・・・・」
少し辛そうな顔をするルリ

「この戦いのあと・・・・どうするつもり?」

「わかりません・・・・私どうして良いのか・・・・・・・」

不安で胸がいっぱいになるルリ
この戦いが終わって、アキトははたして帰ってくるだろうか?
全てを失ったアキトを救うには・・・・どうしたらよいのか?
ルリの脳裏にはそんな想いがこみ上げる


「あなたは・・どうしたいの?」
じっと、ルリの顔をのぞき込みユキナが言う

「私は・・・・・アキトさんとユリカさんともう一度・・・・・・・・・」


「その気持ち忘れなければ・・・・きっと大丈夫」
優しくユキナがルリを包む


「大丈夫・・・だから」



壮絶な闘い
あの人と北辰の闘いはお互いの機体の限界を超える壮絶さで
そばにいるものには手出しできない状態でした



そして・・・・・




モニターに映る、北辰の最後
そして・・・・ブラックサレナの装甲が・・・


あれは・・・・・・・・・


そう、真っ黒な装甲の中に隠れていたのは紛れもない
あのアキトさんの・・・・・・・エステバリスでした


黒い鎧を脱ぎ捨て、瞳の部分からオイルの涙を流す・・・その姿はまるで・・・アキトさんが背負っていた苦しみの鎧を脱ぎ捨てたかのようでした






火星の後継者達が続々と宇宙軍により連行されていくイワトの中央部
私達はみんなで遺跡に融合されているユリカさんの前にいます
そこには当然・・・・・あの人も・・


「ユリカ・・・・・・・」

今・・・ゆっくりと遺跡に融合されていたユリカさんの体を元に戻します
じっと見つめるアキトさん・・・・・・


しかし



「どこへ行く気なんですか!」

あと少しでユリカさんが目覚めると言うところでアキトさんはくるりと背を向け立ち去ろうとします

「やはり・・・俺には・・・・ユリカに会う資格なんて・・・・・・無いんだ、俺は・・・・もうユリカの愛してくれたテンカワアキトではない・・・・」
後ろ向きで話すその姿、背中から伝わる悲しみ

「逃げるんですか!!」

気がつくと私は大声を張り上げていました
アキトさんの苦しみがわからないわけでもないのに・・・・

「ごめん・・・ルリちゃん・・・・・・・・・」

そして、アキトさんが立ち去ろうとしたその時・・・


「待って、アキト・・・・・・・」

!!!
ユリカさんの声・・・
その声を聞いたアキトさんは立ち止まり肩をふるわせています

「アキト・・・・私・・・ずっと夢見てた・・・・いろんなアキト・・・でも、どこか違ってて・・・・・・・・」

「ユリカ・・・・」
つぶやき立ちつくすアキトさん

「逃げるんですか、アキトさん・・・・・ユリカさんから・・・・・そして私から」
その背中をじっと見つめていると、自然に私は口走っていました



「あなたの愛した女性はそんな女性(ひと)だったのですか?
 あなたの愛した家族(私)はそんな人間だったのですか?

 どんな苦しい坂も、3人(家族)ならきっと登っていける
 そう・・・じゃなかったんですか?

 あなたの愛した女性(ひと)を信じて下さい、アキトさん!」

気がつくと私の頬には涙の跡がついていました


「ユリカ・・・・・ユリカァ〜〜〜〜〜〜〜」
くるりとこちらを向いたアキトさんはユリカさんの元へ駆け寄っていきます
まるで、母親にすがりつく子供のようにアキトさんはユリカさんに抱きついていました

「どんなときでも・・・・って、誓ったよね・・アキト♪」
そう言って、アキトさんを優しく包むユリカさん
次第に、アキトさんの表情がおだやかになっていきます

「ずっと、ずっと・・・会いたかった・・・ユリカ・・・・・・・・・・・」

その場に居合わせた人全てが、2人の姿に涙していました




「あれぇ?そう言えば・・・・・みんな老けたね」





7.エピローグ





もうすぐ、春がやってきようとしています
あの事件から1ヶ月あまりユリカさんは検査やらなにやらで病院に缶詰になっていました
結果は・・・異常なし
次の月には退院し、私と共に暮らしています


そして、アキトさんは脳へのダメージが予想以上にひどく、全てが元通りになるのは現代の医学では不可能ということです
ラピスちゃんに今まで補ってもらっていた視覚、聴覚を擬似的な装置で補助して、一般的な生活を送れるように現在病院に入院してリハビリを行っています



「ルリ、ジカンダヨ」

この娘はラピスちゃん
アキトさんの体のサポートをしながらアキトさんと共に闘っていた女の子
アキトさんとの接続を解除して普通の女の子に戻り
今は私とユリカさんと共に一緒に暮らしています



私たちの前に住んでいたアパートは老朽化が進みすでに取り壊されていました
仕方がないので、新しい所に住むことになったのですが・・・・・


今日、アキトさんが・・・帰ってきます



「ほぉら、ルリなにやってんのよぉ〜」

この声・・・・誰だかわかります?
そう・・・ユキナさんです

この春から、ユキナさんと同じ学校へ通うことになりました
なにせ・・・ご近所になってしまったものですから・・・

私たちの新しい家は、オオイソシティにほど近い田舎町にある2階建ての少し古ぼけた一軒家



「ルリちゃん♪ただいまぁ〜」


ユリカさんの明るくて大きな声が響きます


「お帰りなさい、ユリカさん♪」


「さあ・・・・アキト♪」
ユリカさんに腕をひかれ・・・・


「ただいま」


「お帰りなさい、アキトさん♪」
2年前、私が言いたかったこのセリフ
やっと・・・・言うことが出来ました


「ル、ルリちゃん・・・・・・これは・・・・・・・・・・・・・」

アキトさんは感覚補助用のゴーグル越しに見える我が家に驚いているようです


『テンカワ食堂』とかかれた大きな看板がついている我が家

「アカツキさんからのプレゼントです「テンカワくんにはずいぶんと世話になったからねぇ、その恩返しってところかな」だそうです」

その私の言葉を聞いて、アキトさんの表情が少し曇りました

「だけど・・・・・俺は・・・・・もう」


「パンパカパーン♪、このテンカワ食堂のシェフことテンカワユリカでぇ〜す♪ぶいっ」
昨日遅くまで練習したとおりユリカさんがポーズを決めました

「同じく、テンカワ食堂のウェイトレスことルリです、・・・・ぶいっ(ちょっと恥ずかしい・・・)」

「ルリちゃん、声がちいさーい♪」

「オナジク、アジミヤク・・・・ラピスデス」


「・・・・・これは・・・・」
驚き、私たちを見つめるアキトさん


「じゃじゃ〜ん♪これなぁ〜んだ♪」
ユリカさんはポケットから小さなメモを取り出しました

「・・・」

「アキトが病院にいるあいだ、ルリちゃんの厳しい特訓に耐え見事このユリカマスターいたしました(^^)V」
えっへん♪っといったユリカさんのポーズ



「・・・ユリカ・・・お前・・・」
ゴーグル越しに映るアキトさんの涙


「聞いて下さいよ、ラピスちゃん58回ほど救急車で運ばれたんですよ・・・・」
私は少しイタズラっぽく言います


「あールリちゃん、38回だもん、ぶーぶー」
ユリカさんが膨れてこたえます


「アノトキハシヌカト・・・オモッタ」


「くすくす」
「あはは」
「ふふふふふ〜」
「クスクス」


そう、私たちは・・これからです

きっと4人なら、どんな壁も乗り越えていけるはずです




だって、私たちはみんな大切な家族だから♪





(Fin)



(後書き)

               (省略)

今回は空白の3年間から劇場版アフターまでを描いてみました


一応、この作品は劇場版再構成、という形です
それ故に、にてるんだけど違うという部分も数多くあります
ユリカとアキトの遺影とか(実は本当はナデシコ時代?の写真)
墓場のエピソードなど、大塚的に随分アレンジしております


                (省略)


この小説に関するご感想並びにアドバイス等はこちらまで(ryuichi@bx.sakura.ne.jp

1999/11月某日
大塚りゅういち
ryuichi@bx.sakura.ne.jp




大塚のHP
大塚りゅういちの隠れ家
大塚りゅういちの隠れ家






(おまけ)


<某日某所のチャット>

> サーバに接続中...
> サーバに接続完了。
> チャットルームにログイン中...
----- ログの表示開始 -----
(ルリ) 今日は来ないのかなぁ〜
### 入室 ### "スズコ" 2202/07/12 00:22:42 [Windows 2200 User] (ns955c.nergal.ne.jp)
(スズコ)こんばんわ♪
(ルリ)こんばんは、にゃお♪
(スズコ)あはは、ルリちゃん今日はノリがいいね♪
(ルリ)はい、今日は楽しいお知らせがあります
(スズコ)どんな?
(ルリ)ユリカさんに子供が出来たんです♪
(スズコ)え!?
(ルリ)3ヶ月だそうです
(スズコ)うわぁ、おめでとぉ(*^^*)
(ルリ)ありがとうございます
(スズコ)あれから、随分たつねぇ >しみじみ
(ルリ)そうですね
(スズコ)私は仲間外れだったもんねぇ >あの戦い
(ルリ)あの時は正規の軍人さんには内緒でしたから(^^;
(スズコ)いいもん、どーせスズコは仲間外れだもんφ(.. ) イジイジ
(ルリ)スズコさん・・・・・(^^;
(スズコ)ところで、ハーリー君とはどうなのよぉ >ルリ
(ルリ)な、なんのことです・・・・
(スズコ)知ってるんだからぁ(☆_☆)キラリーン
(ルリ)し、しりません・・・・
(スズコ)いいのかなぁ、今私はハーリー君のお部屋に居るんだから♪
(ルリ)う、嘘です・・・・そんなの!!!!
(スズコ)あっ♪あわててるあわててる(^^)V
(ルリ)もう・・スズコさんの意地悪(−−;
(スズコ)いいじゃないの、今度の任務が終わったら地球に帰るからその時は・・・ね♪
(ルリ)もう・・ばか
### 退室(切断) ### "ルリ" 2202/07/12 00:27:41 [SVC2027 User] (ns955b.ppp.nergal.ne.jp)
(スズコ)あ、ちょっとぉ〜待ってよぉ〜ルリぃ〜
### 退室(切断) ### "スズコ" 2202/07/12 00:28:18 [Windows 2200 User] (ns955c.nergal.ne.jp)



終わり