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〜乙女革命ナナセ〜

…それは昔々のお話です。
あるところに、深い悲しみに暮れる若いお姫さまがいました。

そんなお姫さまの前に、自転車に乗った喪服姿の王子さまがあらわれます。

りりしい姿(?)、やさしい微笑み(?)、王子さまはお姫さまを「キムチ(謎)」 のかおりで包み込むと、そっと涙を拭ってくれたのでした。

「たった一人で深い悲しみに耐える小さな君。
その強さと乙女心をどうかしばらくたっても失わないで」

「今日の思い出にこれを」
「私達、また会えるわよね?」
「そのドレスが君を僕のところへ導くだろう。
そうそう。それから『髪を伸ばすんだ。リボンをつけるといい…』

王子さまがくれたドレスは、本当にダンス用のやつだったんでしょうか?

…それはいいとして、お姫さまは王子さまに憧れるあまり、学校にもそのドレスを着ていくようになってしまったのです!

でもいいの?ほんとにそれで

第一話 「永遠の花嫁」

「んあー七瀬ェ!お前は新学期になってもそのへんてこな格好を続けるつもりなのか?!」

一部の間で噂の絶えない謎の教師、あだ名『髭』は、自分の受け持っている問題児 の一人と戦っていた。

「あ、担任の髭…いや、えーと『へんてこ』だなんてひどいですよ。これはきち んとしたドレスなんですから」

七瀬と呼ばれた生徒は、相手の剣幕を無視してポーズを取ってみたりする。
今までの戦績は29勝無敗、チャンピオンとしての風格さえ漂う七瀬であった。

「生徒の服装に関して決まりがあると、生徒手帳にも書いてあるだろうがっ!」

しかし、髭もいつもいつも負けてばかりではいられない。これには彼の生活がかかっ ているのだからっ!(涙)

「(ペラペラ)…生徒手帳には『公の場でも恥ずかしくない格好をするよう に』としか書いてません」
「んあー、たしかにそうだが…」
「あたしはこの姿で深夜のコンビニにも行けますから、問題無しですね?」

『だから、服装もそうだけど、ドレス姿でコンビニに行ける君の心に問題があるんだ よ
という髭の呟きは、新たな勝利を得て意気揚揚と歩く七瀬の耳にはけして届くことは ありませんでした(号泣)。

「七瀬さん」
「あ、瑞佳」

七瀬は、彼女の友人である瑞佳に呼び止められて、ようやく勝利の余韻から冷めた。

「また、ひ…担任の先生とやりあったんだって?」
「フッ、ちょろいもんだったわよ」

胸をはって威張る七瀬に少々たじろぎながら、瑞佳はなんとか言葉をひねり出した。

「えーと、あの…そう、そのドレスかわいいもんね」
「やっぱり瑞佳もそう思うよね!!」
「…ひ、ひぐぅ」

言葉の選択肢を誤ったな、瑞佳。

「えーと、あの、その、んーと…で、でもなんでいつもドレスを着ているの?」

なんとか七瀬を元の世界に戻そうと、瑞佳は頑張った。

「王子さまにもらったの」
「…」

遠い目をして語り出す七瀬。また選択肢を間違えたな、瑞佳。

「『そのドレスが君を僕のところへ導くだろう』『髪を伸ばせ!リボンをつけろ!!』 っていう言葉は覚えてるんだけど、もうその人の顔忘れちゃったんだ。」
「ず、ずいぶん変わってるねえ。そういえば私も、昔お母さんに『あんたはダヨモン 星からきたダヨモン星人なのよ』って言われたことはあったけど…」

結局、今日も瑞佳は負けた。だけど瑞佳はくじけない、泣くのは嫌だ、笑っちゃおう …

「ところで、今日は始業式だけだから帰りにどっかよってかない?
 対髭戦30連勝記念にキムチラーメンとか」

必死で自分を勇気づけていた瑞佳の心を知ってか知らずか、七瀬は尋ねた。

「ごめん、キムチはちょっと…」

説明しなくても…わかるよね?

「ああ、そうだったわね。じゃあしかたない、一人で行くわ」



演劇部部室にて、かりかり…となにかを書く音が重々しく響いていた。

「召集をかけたのは他でもない。詩子さん、最近のあなたの『花嫁』に対する態度は 目に余るものがあるわ」

演劇部部長である深山はそう切り出した。

<ひどいとおもうの>

部の話し合いのときは、いつも書記をしている一年の上月澪はそう発言した。

「たしかに今『花嫁』とエンゲージしているのは詩子ちゃんだけど、だからって好き 放題していいってことではないんだよ?」

三年の川名みさきも、前の二人に同調する。

<すきほうだい、なの?>

変な想像をしてしまう澪であった。

「あのねえ、これは他人にとやかくいわれることじゃないと思うんだけど?」

他校の生徒なのに、ここにちょくちょく出入りしている『毎日創立記念日』があだ名 の詩子はそう反論した。

「それに私と茜はラブラブなの。そうよね、茜?」

詩子は自分の隣にいる長い三つ編みの女子に尋ねた。

「…はい。私と、詩子は、ラブラブ、です」

らぶらぶ、なの?>

…また変な想像をする澪。

「さあ、わかっただろうから、私達はもう帰るわよ。…悔しかったら、『決闘』 で私に勝つことね」

そう言って、詩子と茜の二人は部室から出ていった。

「…全く、このことを『永遠』が知ったらどうなるのかしら?」

部長としての責任からか、深山はそう呟いた…

らぶらぶって、なんなの?>

のではなくて、どうもこの澪の質問に答えたくないせいらしい。

らぶらぶって、なんなの?>

答えてくれない深山を諦めて、みさき先輩に質問する澪であったが、

「ごめんね、私には澪ちゃんの字は読めないんだよ」

みさき先輩は目が見えなかった。



「いつからだろう?キムチのかおりを懐かしいって思うようになったのは」

なんつーか、ドレス姿で「キムチラーメン」ってのはどうかと思うが…

まあきっと、人それぞれの意見があるのだろう、てことで、七瀬はキムチラーメンを 食べにきていたりする。

「……!」

注文して、やっと届いたラーメンを食べようとした七瀬の耳に、なにか人が言い争う 声が聞こえたような気がした。

「親父っ、代金ここにおいとくわよ!」

その声が気になった七瀬はそう言うなり、店の外に飛び出した。

「茜っ!私はこんな駄々甘いワッフルなんて頼んだ覚えがないわよ?!」
「…ごめんなさい、詩子」
「全く、いつになったら覚えるのよ!」

外には、一方的に茜をいじめている詩子の姿があった。

「待ちなさいよあんたっ!!」

持ち前の性格からか、七瀬は詩子にむかってそう叫んでいた。

「事情はよく知らないけど、たかがワッフルひとつでそこまで言う必要はないんじゃ ないの!」

「…だったらあんた、これ食べてみなさいよ。」

突然現れたドレス姿の七瀬に臆せず、詩子は七瀬にワッフルを差し出した。

「食べてやろうじゃないの!なによ、たかがワッフルくらい…」

差し出されたワッフルにかぶりつく七瀬。しかし、その動きが途中で止まってしまっ た。

「どう?」
「…うげぇ、あ、甘すぎる」

仮にも「乙女」を目指しているのに、「うげぇ」はないよなあ?それはともかく、七 瀬の表情を見て、詩子は勝ち誇った。

「わかったでしょう。この子はこんなものを私に食べさせようといたのよ?そんな子 を叱って何が悪いのよ?」
「…でも、あんたのは言い過ぎよ。彼女に謝りなさいよ!」

ワッフルのせいで少々顔が青ざめていたが、七瀬は負けずに言い返した。

「謝る?どうして私の『モノ』に私が謝る必要があるっていうのかしら?」
「な…なんてこと言うのよ?!人間を『モノ』扱いだなんて」

詩子は茜の肩に手を掛けながら言った。

「この子は『決闘』の賞品なのよ。で、私が勝ったから今は私の『モノ』ってわけ。 …そうよね、茜?」
「…はい、私は詩子の『モノ』です」

戦隊ものの、女幹部のノリか、詩子?

「…許せないわ、そんなこと」

七瀬の怒りは頂点に達した。
晴れていた空にいきなり黒雲が立ち上り、雷が響き渡る…!
怒る!!
七瀬留美の怒りが頂点に達したとき、ナナセの人工心臓は乙女回路に切り替わる。
そして彼女は超人機オトメダーに瞬転…!
茜「…しません」

…。
……。
……瞬転…しません。雷も鳴りません。黒雲も嘘です。

「「?」」

ナレーターのボケに茜がツッコミを入れたなどという事実を、七瀬と詩子は知らない。
気を取り直して続きどうぞ。ちぇ。茜「なに?」 な、なんでもないです、はい…。

「じゃあ、あたしと『決闘』しなさいよ!それで勝てば、その子はあんたの『モノ』 じゃなくなるんでしょう?!」
「…あなた、面白いわね。では明日の放課後、学校の屋上、通称『決闘広場』で !」



影絵少年O「だよもん、だよもん、ご存知だよもん?」
影絵少年S「今日の放課後、決闘があるんでだよもん」

O「麗しの姫ぎみを狙う二人の勇者様が表れたんだよ」
S「お姫様を手に入れることが出来るのは一人だもん」

姫(影絵少年H)
「ああ、私のためになんてことだよ
 どうかお二人とも、そんな愚かなことはおやめになって下さいだもん」

O「いいえ姫様、コイツとはいずれ白黒つける運命だったのです、てりゃー」
S「ああ姫様、必ず勝利して貴女を迎えに行きますから、おりゃー、てい!」

斬撃の音が響き渡る。

姫(H)「ああ、全て悪いのはこの私の美貌なんだよ。美しいって罪だもん」

そして二人の悲鳴が響き渡る。

O&S「「うぎゃー、相打ちだよ〜!!」」

姫(H)「なぁんだ、二人とも死んじゃったの? 期待外れだもん」

後には静寂。

……。

少女N「……」
O「……どうした?」
N「…浩平、今の誰…」
O「どうだ似てただろ?」
N「ぜんっぜん似てないよっ!」
O「そんなことないぞ、テレビの物まね番組で長森瑞佳を披露すれば大賞間違いなしだ」
N「わたしの物まねしたって誰も分からないよっ」
O「うーむ、確かにな…」
N「そうだよっ」
O「だったら、その前に長森には有名になって貰わないとな。よし、これからもこのだよもん星人の寸劇は続けてお前のメジャー化に協力してやる」
N「どうしてそうなるんだよっ」
S「そうだなぁ折原、だよもん星人国民的アイドル化計画か。まずは合い言葉を決めないとな。B『ぴ〜』とかみたく。ファンの目印も決めないと…ブツブツ…」
H「アイドルはいいねぇ…」



次の日の放課後、七瀬は昔使っていた竹刀を持って、まっすぐ屋上へ向かった。
すると、その場所には、普通では考えられない物が存在していた。

「な、何よこれ?なんで空中にお城が浮いているのよ?」
「…『永遠の城』と呼ばれているけど、まあ『決闘』のときだけ現れる手品か蜃気楼み たいなものね。」

七瀬の疑問に、先に来ていた詩子が答えた。

「そんなことはどうでもいいけど、あなた『決闘』は初めてよね?ルールは胸に差し たワッフルを散らされたほうが負けよ
「なんでワッフルやねん?!」

思わずツッコミをいれる七瀬であった…

「じゃあそろそろ始めましょうか。茜、剣を!」

詩子がそう言うと、すっと茜は顔から笑顔を消し…いや、茜は元々無表情だった…、仰け反らんばかりに背を逸らした。
詩子はその茜の身体をそっと抱き留めると、茜の胸から一振りの立派な剣を取り出す。

「また手品かいな?!」

何故かツッコミ癖のついてしまった七瀬を無視して、詩子はその剣を構えた。

「行くわよ!」

カン、カン、チャン、チャン…

「…驚いたわ。まさか何も仕掛けの無いただの竹刀で、この『永遠の剣』に本気で勝とうだなんて思っているなんてね」
「っ!まさか、その手品の剣、本物なの?!」
「その通り、よっ!!」

詩子の一撃で、七瀬は弾き飛ばされた。

「…くそっ!」

起き上がった七瀬は、自分の竹刀があっさりと切られていることに気づいた。

「さあ、そんな竹刀で立ち向かってくるというのなら、その胸のワッフル、あなたので 染めてあげてもいいけど?」

胸に差したワッフルのせいか、全然カッコ良くないなあ、この二人。

「うるさい!あたしはあんたなんかに絶対負けたくないのよっ!!」

もう柄まで切られている竹刀を構えて、七瀬は詩子に向かって何も考えずにつっこん だ。

「何ぃ?馬鹿めっ!」

『たった一人で深い悲しみに耐える小さな君。
その強さと乙女心をどうかしばらくたっても失わないで』
 by王子さま

「でぇぇりゃぁぁぁっ!!」

…二人が交差すると、七瀬のワッフルは残り、そして詩子のは、散っていた。

「そんな、馬鹿なことが、あるわけないじゃない…」

敗北のショックで呆然とする詩子に、茜はゆっくりと近寄った。

「あ、茜…」
「…ごきげんよう、詩子、さん」

ガラーン、ゴローン、ガラーン、ゴローン…

「あー、昨日といい今日といい、変な日だったなあ」

たしかにその通りではある。

「…七瀬さん」

物陰から、誰かが帰ろうとする七瀬を呼び止めた。

「あれ、あんたは、里村、だよね。どうしてこんなところに?」
「…今日から私は七瀬さんの『花嫁』になりましたから」


次回予告!(大嘘)

七瀬「また決闘だって!しかもこれを断るとこの学校にいられなくなるって本当かな あ?」
茜「…七瀬さんは、決闘が嫌なんじゃないんですか?」
七瀬「いいっていいって、どうせ適当にやって負ければ済むだけの話だし」
茜「…ええ、七瀬さんの思うがままに」
七瀬「次回乙女革命ナナセ、『誰が為に茜は微笑む?』」
茜「…えいえんは、あるよ」



といわけで、jesさんから頂いた投稿作品です。
この夏、映画化の「少女革命ウテナ」のテレビシリーズが下敷きとなっています。
実はウテナという作品、「永遠」だの「世界の果て」だの、ONEとの共通項がものすごく多いんですね。ラストのオチもかなり近いですし、笑いとシリアスの混在具合も優るとも劣りません。
というわけで、ONEが気に入った方はウテナも見ましょう。
ウテナを理解するとこの「乙女革命ナナセ」もより一層楽しめます。

jesさんへの感想はこちらへ。勿論、掲示板の方でもOKです。
次回もお楽しみに。

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