「きみは何を待っているの?」 彼女が言った。 泣きながら、初めてぼくは質問に答えた。 「お手紙の、お返事」 「誰から?」 「知らない。 ガラス瓶に込めて海へ流したお手紙の返事だから」 「届くといいね」 彼女は言って、僕のとなりに座った。 「…きみは何を待っているの」 初めて、僕は話しかけた。 「キミが泣きやむの。いっしょに遊びたいから」 「ぼくは泣きやまない。 ずっと泣き続けて、生きるんだ」 「どうして…?」 「悲しいことがあったんだ… …ずっと続くと思ってたんだ。楽しい日々が。 でも、永遠なんてなかったんだ」 そんな思いが、言葉で伝わるとは思わなかった。 だけど彼女は言った。 「えいえんはあるよ。 ここにあるよ」 そしてぼくの両頬は、その女の子の手の中にあった。 「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」 言って、ちょこんとぼくの口に、その女の子は口をあてた。 永遠の盟約。 永遠の盟約だ。 |
消えてなくなるまでの4ヶ月。 それに抗うようにして、ぼくはいろんな出会いをした。 乙女を夢見ては、失敗ばかりの女の子。 光を失っても笑顔を失わなかった先輩。 言葉なんか喋れなくても精一杯の気持ちを伝える後輩。 大人になろうと頑張りはじめた泣き虫の子。 ずっと、何かを待ち続けていたクラスメイト。 里村 茜。 本当に、心から好きになった人。 駆け抜けるような4ヶ月だった。 そしてぼくは、幸せだった。 でも、だからこそ、 ぼくは幸せに溺れて一番大切なことを忘れる。 気づいたときはいつだって遅い。 間に合わない。 今回も、そうだった。 だからぼくは言った。 「さようなら茜。本当に好きだった人」 だけど。 だけど茜は言った。 「私のことが嫌い? この世界が嫌い? この日常は、貴方にとって意味の無い物なんですか?」 ぼくは首を振った。そんなことない… 茜は目を伏せた後、哀しそうに微笑んだ。 そしてぼくをその小さな細い腕で縛った。 「永遠はあります。ここにもあります。 私が、ずっといっしょに居ます」 決して離れないという約束。 |
「たとえ世界の全てが貴方を忘れてしまっても、私は貴方を絶対に忘れない」 空の向こう。 あの空の向こうから、ぼくを護ってくれるという約束。 彼女ならば、ひょっとしたら。 淡い希望と少しの寂しさ、一片の誇りを胸に、ぼくは、 …俺は、折原浩平は初めて抗うことを決意した。
適えられない筈だった夢。 届かない筈だった思い。 あの空の向こう。 あの日、ガラス瓶に込めた希望が流れ着いた空。 自分が生み出した永遠の青空。 |