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私が見たKanon -舞シナリオ編-

著・雪駄/Loveone1999・12・26


Kanonの中では比較的分かりづらいという舞シナリオを雪駄視点から時間軸順に並べ替えて解説してみた物です。
舞の心情や『力』の解釈等は好き勝手に創作してますし、飽くまで雪駄にはこう見えたというだけで、多分、麻枝さんが見たら噴飯ものでしょうが、まぁ、一つの捉え方として面白がっていただければ幸いです。
なお、このコンテンツは、Keyオフィシャルホームページにかつて存在した「ネタばれ掲示板」の名スレッド「舞の切腹」シリーズに捧げます。あの時あの場所で意見を交換した全ての方々に敬意と感謝を込めて。 ※ 例によって文中の青字の部分はKanon本編のテキストの引用です。著作権はKeyに帰属します。

 あるところに仲の良い母子がいました。
 しかし母親は病気にかかり、その命を終えようとしていました。
 その時、少女は祈りました。病気のお母さんが治りますように。

 元気になりますように。
 また、あたしに笑いかけてくれますように。
 また、一緒に動物園にいけますように。

 …願いは叶いました。
 少女の願いに、誰かが答えてくれたのです。

 つよくつよくがんばって信じれば、叶う。

 そんな『力』を、少女に与えたのです。
 少女のお母さんは、元気になりました。
 めでたし、めでたし…


 ……。

 しかし、物語は終わりませんでした。
 少しの時が経ち、少女の『力』が世間に知れると、人々は少女を親子共々忌み嫌うようになりました。
 「あくまの親子」だと。
 何故、皆がそんな事を言うのか少女には分かりませんでした。
 皆と違うのがいけないらしいということだけは、分かりましたが…。
 皆にいじめられ、少女は一人ぼっちでした。
 でも、そんな中、彼女の前に一人の男の子が現われます。
 彼はちょっと特別な男の子で、少女も『力』のことも怖がりませんでした。

「あたし…自分の力、好きになれるかもしれない」
「そう。それは良かった。自分を好きになることはいいことだよ」


 少年の名は、相沢祐一。
 少女と祐一は仲良くなりますが、やがて別れの時が訪れます。
 彼は避暑に一夏だけ少女の住む土地にやってきただけだったから。
 お別れを言う祐一に、少女も哀しい思いでさようならを伝えます。
 次の日、本当に祐一は来ませんでした。
 でも『力』は、彼がまだこの街にいることを彼女に教えます。
 少女の胸に小さな刺が突き刺さります。
 やっぱり、私が普通じゃないから、『力』を持っているから、会いに来てくれなくなっちゃったの?
 ううん、ちがう、あの子は違う…。
 それを確かめる為、『力』の助けを借りて少女は祐一に電話をかけ、小さな嘘を尽きました。

「ねぇ、助けてほしいのっ」
「…魔物がくるのっ」


 彼は来てくれるはずだと思いました。
 だって、二人は仲良しだもの。
 困っていたら、助けに来てくれるはずだもの。
 でも、彼は来てはくれませんでした。
 その日、彼は実家に帰る事になっていたのです。
 彼女の嘘につきあってなんかいられなかったのです。

「ウソじゃないよっ…ほんとだよっ」
「ほんとうにくるんだよっ…あたしひとりじゃ守れないよっ…」
「一緒に守ってよっ…ふたりの遊び場所だよっ…」
「待ってるからっ…ひとりで戦ってるからっ…」


 彼は少女の言葉を信じず、再会を約束して帰っていきました。
 少女には、こんなに必至になって来てくれと頼んだのに、どうして彼が来てくれなかったのかを自分に問いました。
 やっぱり彼も皆と同じで、私を…『力』を恐れて逃げたの?
 …違うよね?
 私が嘘をついたから、嫌いになったの?
 魔物が嘘だったから…
 ……。

 …嘘じゃなかったら来てくれたのかな?
 嘘じゃなかったら、来てくれるのかな?

「待ってるからっ…ひとりで戦ってるからっ…」

 少女は、最後に自分が祐一に伝えた約束を嘘にしない為に『力』に願いをかけます。

 私を祐一が嫌いな嘘吐きにしないで。

 そして魔物が生まれ、彼女は一人で戦い続ける事になりました。
 彼が助けに来てくれるまでの間、ひとりで戦ってるって、待ってるって、その約束を守るために。

 …しかし、何時までたっても彼は少女を助けには来ませんでした。
 そして数年。
 守りたかった彼との遊び場所は、無くなってしまいました。
 その場所には学校が建っていたのです。
 彼は間に合いませんでした。
 それとも、やっぱり、少女を見捨ててしまったのでしょうか?
 少女には分かりません。
 でも、約束は守らなくちゃ。
 ひとりで戦って、待ってなきゃ…
 でも、『力』があったら、約束を守ってても、祐一は来てくれないかもしれない…。来てくれなかった…
 じゃあ、『力』が無くなったら、祐一は来てくれる…?
 でも、祐一は『力』を好きになるのをいいことだって言ってたのに…。
 お母さんを助けてくれた大切な、だけど、皆が私を嫌う理由の、大っ嫌いな『力』…

 彼女の名は川澄舞。
 嘘と約束と『力』に囚われた少女でした。


まだ知らない悲しみがあると言って
少女は泣き続けた
そんな悲しみ、どこにもないのに

『少女の檻』


 10年という長い時が経ち、舞は未だ『力』をもった普通でない女の子のまま、祐一との約束を守り続けていました。
 幸いなことに、10年も約束を守っていた舞への贈り物のように、佐祐理という一人の少女が舞の友達になってくれ、舞は一人ぼっちではなくなっていました。
 それは舞に幸せと、喪失への恐怖をもたらします。
 祐一のときのように佐祐理が居なくなっちゃいやだ。
 だから『力』を見せびらかしません。
 嘘もつきません。
 嘘吐きにならないよう、祐一との約束を守ってひとりで魔物と戦い続けます。祐一が来るまでひとりで戦って、待ってる。
 祐一が来るまでははいつまでも終わらない、約束。
 そしてそう、その舞の10年の努力に答えるように、ようやく、祐一も舞の元へ帰ってきました。
 本当に幸せでした。
 でも、幸せだからこそ、またどこかに彼らが行ってしまうのではないかと少女は無意識に恐怖していました。
 だって、自分はやっぱり普通じゃないから。『力』を持っているから。
 そんな中、佐祐理さんが魔物に傷つけられてしまいました。
 魔物を生み出したのは自分の『力』です。
 ここにきて、舞は何故『力』を皆が嫌ったのかを悟ります。
 なんで皆が自分を悪魔だといったかに気付きます。

 大好きな人を『力』で傷つけちゃうんだ…。
 本当、悪魔なんだ、舞は…
 だから皆、離れていっちゃうんだ。
 傍にいる人も、自分で殺しちゃうんだ…

 舞は事故を必然と思い込み、自分の力を、忌まわしき力を拒絶することを求めます。
 『力』は魔物であり、そして自分でした。
 それを、自分を殺していきます。
 大好きな祐一や佐祐理とずっと一緒にいる為に。
 祐一は魔物を討つたびに傷ついていく舞を見て、魔物が舞の『力』である事に気付き、舞を止めようとします。
 そのままでいいんだ、『力』を、自分を殺すなんてしなくていいんだと。

「違う。舞、違うんだ」
「おまえの力を恐れてなんかじゃない。俺はおまえから逃げたんじゃない」

 舞は10年経って、ようやく祐一が逃げたのでは無かったことを知りました。
 良かった。
 本当に、祐一が好きになりました。
 今までずっと「嫌いじゃなかった」祐一を「好き」だと素直に言えるようになりました。
 …でも、駄目です。
 同じように自分が大好きだった佐祐理ですら、舞の『力』は傷つけたのです。

「ずっと一緒に暮らしてゆく」

 その祐一の想いは本物だと信じられます。
 信じています。
 でも、駄目なんです。
 舞の『力』は悪魔の力だから。
 佐祐理も、祐一も、勝てないから。
 …勝てなかったから。
 だから、駄目です。
 このままでは、一緒にいられません。
 でも、舞だってずっと祐一と一緒にいたいのです。
 じゃあ、どうしよう?
 やっぱり、『力』を消すしかない…
 でも、『力』は舞自身。
 消したら、舞は死んじゃう?
 でも、そうしなきゃ…
 そして、祐一とずっと一緒にいるんだ…
 その方法は…

「祐一のことは好きだから…」
「いつまでもずっと好きだから…」
「春の日も…」
「夏の日も…」
「秋の日も…」
「冬の日も…」
「ずっと私の思い出が…」
「佐祐理や…祐一と共にありますように」
 

 祐一や佐祐理の思い出になること、でした。
 思い出の中で、祐一や佐祐理とずっと一緒にいることでした。
 幸せな思い出の中なら、ずっと一緒にいられる。
 ありがとう。好きだから…
 「Thank you」と「I love you」が思い出の中に旅立つ舞から祐一への別れの言葉でした。
 祐一は泣きました。
 舞が思い出という檻の中に閉じこもって、自分の前から消えてしまったから。
 そして祐一もまた、舞の喪失に耐えられず、同じように思い出の中で舞に会おうとします。

もう目は開けたくない。
自分の描く未来の中で、笑っている舞や佐祐理さんに囲まれて暮らしていたい。
そうしていれば幸せだ。
もう胸を引き裂かれるような現実も見ないで済む。
そう…。
春の日も、夏の日も、秋の日も、冬の日も、舞の思い出と暮らそう。
楽しかった思い出だけを連れて、いこう。
そうすれば、何も辛くない。
すべてはここで終わってしまったけど…
充分幸せな夢を見られるだけのものを築いてきたのだから、俺は。

 その時、『力』の声が祐一の元に届きます。
 舞が願ったのは、祐一とずっと一緒にいたいということ。
「ずっと私の思い出が…」
「佐祐理や…祐一と共にありますように」
 だから、祐一の思い出の中に舞はいたのです。
 『力』は舞の純粋な力。じぶんには『この人だ』って信じられる力。
 『力』は祐一を思い出の檻の中の舞の元へと連れて行きます。

…だからよろしく。未来のまいを。
………。
…また会えれば、そのときも同じことを思うから。
…やっぱりこの人だ、って。
………。
…いい?
ああ…
…じゃあ…
…始まりには挨拶を。
誰に…
…そして約束を。
………。

 思い出の世界の中、舞と祐一は出会います。
 その場所は、舞と祐一の思い出の「始まり」のシーン。
 二人が出会い、二人の思い出が始まろうとしたその瞬間、「実際の過去=思い出」には存在しない「挨拶」をすることで祐一は思い出の展開を止めました。
 戸惑う舞に祐一は呼びかけます。

「じゃ、取り戻しにいこうか」
「………」
「…今度はどこにもいかない?」
「ああ、いかない」
「俺たちはすでに出会っていて、そして、約束をしたんだからな」
「ずっと、舞のそばに居るよ」
「…うん」


 思い出という名の、少女の檻。
 その中に飛び込んで祐一は、ずっと一緒にいるという約束を、言葉だけでなく、行動で示したのでした。

 死が二人を分かつとも…

 それどころか、死によって分かたれたはずなのに、それなのに祐一は舞に会いに来ました。

「舞は、俺のずっとそばにいさせる」

 舞は祐一の想いだけでなく、口にしたその言葉もまた本当の盟約なのだと、ずっと一緒にいてくれるのだと信じていいことに気付きました。
 信じました。
 だから、その言葉に答えます。
 そして舞が『力』にかけた願いは「思い出」という過去の檻ではなく、不確実だけど信じられる未来、信じたい「希望」へと変わり、少女は少年に手を引かれて檻の中から帰ってきたのでした。