Back
過去の恥。
雪駄の勘違い考察文シリーズ その1

「MOON.」「ONE」「Kanon」「鈴がうたう日」
4作品の比較から見えてくるもの 〜ファンタジーの弊害〜


「MOON.」「ONE」、そして「Kanon」「鈴がうたう日」。
この4作品のシナリオに共通した点に「自分を見詰め直す」という点があります。

ゲーム開始時、これらの作品の主人公達は自分の思い出したくない過去や現在の自分の問題点から目を逸らしています。
シナリオが展開すると、それが原因でさまざまな不具合が発生します。
物語の最期では、その自分が目を逸らしていた嫌な部分を認め、自分を受け入れる事で不具合を乗り越え、主人公が何らかのステップアップを果たしたことを示して幕を閉じます。

とまぁ、これら4作品は同じようなテーマを扱っているのですが、前記2作品と後記の2作品ではその語り方に大きな違いが見られます。
前記2作品が決定的にファンタジー物語であるのに対し、後記の2作品はファンタジーガジェットを用いていても、現実世界を舞台にした物語なのです。
ここでいうファンタジーとは、魔法が成立していることを示します。
ここでいう魔法とは「意志の力で世界に変化をもたらすモノ」という意味で、MOON.では超能力、ONEでは「永遠の世界」にあたりますね。
魔法は現実には存在しません。現実では「意志」「想い」というものは、人が何かをする為の行動原理に過ぎないず、行動を起こす理由ではあっても、決してそれだけで世界に影響を与える事はできないのです。
現実では「想いが世界を変える」というフレーズは、想いから人が起こした行動が世界を変えるという意味ですが、ファンタジー世界ではそのフレーズは、そのものずばりの直接表現となっているのです。
現実では困難を前に祈ったところで何も起きませんが、ファンタジーでは必死に祈ればMPを消費して神様、或いは魔力や法力、超能力といった「魔法」が発動して奇蹟が起こってしまいます。

4作品とも「目を逸らしていた自分の嫌な部分を見詰め直そう」「精神的に大人になろう」というプロバガンダ的な物語ですが、そのプロバガンダを正当化させる理由付けとして2つのファンタジー作品は、精神的に成長する事でこんなにいいことがあるんだ、と精神的に成長する事で発動する白魔法、或いは精神的に成長する事で今まで自分に害を与えていた黒魔法を消去する事ができるというファンタジーでもって、精神革命を賛歌するおとぎ話作品としています。
これはしかし、精神の持ちようさえ変えれば、現実では何もしなくても世界は僕を受け入れてくれる、自分は悪人でもなんでも、それを受け入れれば(開き直れば)無条件に幸せになれるんだ、という誤った認識を与えかねないものでした。
これは意志の力で世界に影響を与える「魔法」を扱った多くの作品に言える「ファンタジーの弊害」です
(※)

対して「鈴がうたう日」はより現実的に、精神が成長しただけではなにも起こらず、今まで無為に生きてきた主人公が精神的に成長し、それ故に生活を改善し、目的に向かって努力することで幸せになった、という結末を持った精神革命を賛歌する教訓話となっています。
これは、新生Tacticsのスタッフなりに「ファンタジーの弊害」について考え、それから脱却しようとした結果なのでしょう。そしてその試みは成功したと思われます。

もう一つの「Kanon」は超能力者はいるわ、魔法を使う動物はいるわと、一見するとMOON.やONEと同じファンタジー世界のように見えますが、それはガジェットであって、本質ではないのです。
Kanonの主人行は「鈴」の主人公のように、精神的に成長した後に何らかの行動を取るという事はあまりありません(例外:名雪シナリオ)。
物語の終わり。主人公は精神の成長を成し遂げ、目を逸らしていた残酷な現実を受け入れます。あゆは事故にあって自分の前から姿を消した。栞は死んでしまうかもしれない。真琴は消えてしまう…。それら、目を逸らしたい現実を完全に受け入れたときがゲームのクリアで、受け入れないとクリアできません。
さて、クリア条件を満たしても世界は何も良い方には変わりません(※2)が、主人公の精神の成長物語としてはこれで完成です。そしてこの物語は他の3作品とは違い別に精神革命の賛歌はしていない。事例を示すだけでその是非をこの作品では主張していないのです。その是非はプレイヤーに委ねられています。
ここでKanonという物語は終わっているのです。
だからこの後、彼がどういう未来を迎えるかはもう、全然重要じゃ有りません。
このあと、いわゆるハッピーエンドで締められるエピローグが存在しますが、それはもうエンタテイメント作品としての物語の後味調整の問題でしかない。
或いはシナリオライターから辛い現実を受け入れるという道を選んだ主人公、そしてプレイヤーへの御褒美という意味合い、そして「現実は辛いけど、受け入れたらその中にはこういう良い事があるかもよ」、というシナリオからの応援歌に過ぎない。これは「逃げずに辛い道を選んだから幸せになったよ」という前記3作品のような精神革命の賛歌の様にも見えますが、主人公の行動が結果に結びついたわけではないという事に注目すれば、そうでない事に気づくはずです。
Kanonは主人公の想いや行動とは関係なく、そのハッピーエンドが起こっています。
いわゆるバッドエンドでも、主人公が何かしなかった事で何かが起こらなかったりして主人公や他の誰かが不幸になったということは全然ありません(対するONEやMOON.の場合は主人公が死んでしまい、成長する事をゲーム的に強要している)。栞にしても真琴にしても、だからどうなったとは直接的には書いてませんから。
このゲームのバッドとは、何が起ったか、起こっていたかを主人公やプレイヤーが知る事が出来ないだけです。
何事も無く、日常は過ぎていく。これっていいことなんでしょうか、悪い事なんでしょうか? 別にどっちでもないですね。便宜上バッドエンドとは呼びましたが、全然バッドじゃない。それがバッドかどうかを決めるのはプレイヤーです。

余談ですが、他のシナリオに比べ真琴シナリオが完成しているように見えるのは、余計なオマケを描かずに本来のエンディング、現実を受け入れ、成長した主人公の姿を見せることで物語を締めくくっている点につきます。かつて現実を受け入れられなかった天野というキャラクターを主人公と対比させ、プレイヤーにその是非を考えやすくしているのも大きいですね。

ついでにいうと、あゆの「夢」の書き方が非常に思わせぶりな所為で、ファンタジー的な魔法、奇蹟が起こっているようにKanonは誤解されていますが、確実に魔法があったのは「舞」だけで、他のシナリオのラストでは奇蹟なんて実は一つも起きていない可能性だってあります。あゆが生きていた、栞や秋子さんは助かった…。

これらはそういう奇蹟的な事実が明らかになっただけで、「ファンタジー的な奇蹟」があったとはどこにも書いていないのですから。

(8/19追記)
勿論、ファンタジー的な奇蹟が起こっていないとも書いていませんので、奇蹟をあゆが起こしたと考えても、それはそれぞれの自由です。真琴シナリオで真琴が帰ってきた、来ないと同様にそれはプレイヤーに委ねられています。
だから奇蹟が起こった、起こっていないを論じるのは感想の交換に過ぎません。

Kanonは「ファンタジーの弊害」に挑んだ作品でありながらファンタジーガジェットを用い、やっぱり側面だけ見れば主人公が何もしないでも幸せになった、という誤解されやすいファンタジー的な展開のインパクトが強すぎた為にさまざまな誤解、誤読を生み、評価が迷走しているのでしょう。
あれをあゆの奇蹟だと読んだ人の中には「ファンタジーの弊害」に毒され、ONEと同様、「何もしないでも心の持ちようで幸せがやってくる」という大きな勘違いをしていた人もいたのではないでしょうか。
もう一度いいます。
Kanonはイベントにファンタジーガジェットを用いてはいますが、主人公の心の持ちようが理由での奇蹟は起こっていません。ハッピーエンドと主人公の行動、意志、成長は全くもって無関係です。


彼らが何度も同じシナリオテーマを繰り返すのは、何度やっても多くのユーザーに本当のテーマが伝わらなかった、それどころか正反対に解釈されたという理由もあるのではないでしょうか。
物語るものとしてのプライドなのかもしれないし、誤解させてしまった事への責任感かもしれません。
或いは、誤解させるのはわざとで、プレイヤーがシナリオの真の意味に気づくかどうかを試している製作者からの挑戦なのかもしれません。
この挑戦にクリアできなければ、俺等が次に用意しているテーマはとてもじゃないが理解できないぞ、早く気づけお前等とか思って同じ事を繰り返しているのかもしれません。
これらの予想のどれかが正しいとすれば、今回のKanonへのユーザーの反応からすると、彼らはまた同じようなテーマを試してくるかもしれません。
もしそうならば、個人的には一切のファンタジー無しで同テーマを描くのを期待しています。
対する新生Tacticsは一足早くMOON.、ONEのファンタジーの弊害を乗り越えました。
TacticsとKey。彼らが示すであろう新しいテーマ、模索する新しい表現方法に期待したいと思います。


(※)アニメでいうとガンダムのニュータイプもそうだし、TVのエヴァ最終回だってそう。そしてそれらは作者の意図とは思いっきり正反対に誤解されてしまった。そりゃ作者もキレるし落ち込むわ。

(※2)唯一、舞シナリオのもう一人の主人公「舞」だけはMOON.、ONEと同じく、自身の精神的成長で黒魔法を白魔法に転化させて御伽話を完成させていますが、これは主人公「祐一」のストーリーではないので今回は考えない事にします。

Back