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私が見た「ONE～輝く季節へ～」　浩平編

-浩平の自責とその解放-

著・雪駄/Loveone2000･5･15

※　例によって文中の青字の部分はONE本編のテキストの引用です。著作権はTacticsに帰属します。

　浩平は、妹みさおの死を前にして、一番離れた場所で滑稽な仮装をして、ただ立って見ていることしかできなかった。
　それでも自分は自分に出来る精一杯をやったつもりで、彼女も「ありがとう」と言ってくれた。
　けれど恐らく、浩平はみさおが本当に自分に感謝して逝ったという自信は持てなかったと思われる。
　根拠は以下の部分だ。

ぼくはみさおには絶対に、苦しいか、とか、辛いか、とか聞かないことにしていた。
聞けば、みさおは絶対に、ううん、と首を横に振るに違いなかったからだ。
気を使わせたくなかった。
だから、聞かなかった。
ほんとうに苦しかったり、辛かったりしたら、自分から言いだすだろう。
そのとき、なぐさめてやればいい。
元気づけてやればいい。
そう思っていた。

ぼくは、みさおにとっていい兄であり続けたと思っていた。
そう思いたかった。
そして最後の感謝の言葉は、そのことに対してのものだと、思いたかった。

　「思いたかった」
　それは、そう思っていたことへの疑念だ。
　参観日の用意をしたのは自分だが、それを病室でやろうといったのも結局、みさおが浩平を思いやって言い出した事だ。
　最後の最後まで気を使わせてしまったのではないかという負い目があり、あの感謝の言葉も、本当は自分を傷つけない為の嘘だったのではないかと浩平は考え、そうさせてしまった自分を責めていたのではなかろうか。
　本論考では、浩平がそういった自責の念を抱いていたと仮定してその後の彼の行動を追っている。

　さて、みさおの死の哀しみに泣き続ける中、浩平は傍にいた長森に対して、伝わるとも思えない「永遠のなかった悲しみ」を叫ぶ。
　長森はその悲しみが分かっていたのか分からなかったのか、「永遠はあるよ」と慰め、無責任な口約束を結ぶ。
　この幼い長森の行為は、浩平が死に行くみさおに見せた、滑稽な愛情表現「参観日ごっこ」に通じる。
　その後の長森への極端なイジメ。
　あれは、長森のその言葉を本気では信じていない自分が、けれど、それでもその慰めの言葉で泣き止んだという事実からも来ていたのではないだろうか。
　みさおに自分自身がしたことと本質的に同じ事をした長森。彼女を代理で傷つけることで自責を果たそうとしていたとは考えられないだろうか。

　時が経ち、浩平は過去の記憶を忘れ、「永遠はあるよ」というその無根拠な言葉と、その言葉を発した少女の姿で目の前に来る終わりへの恐怖から目を逸らし、無為に日々を生きている。
　そこにはきっと、終末への恐怖だけでなく、すでに終わってしまったみさおに対する負い目という物も存在していたのではないだろうか。
　長森とみさおの無意識的な混同。それは表向きでも楽しく日々を過ごす為に必要なことだったのではないだろうか。
　長森をみさおと重ねることで、みさおのいない世界が楽しいと感じる矛盾をやり過ごしているとも見ることができる。
　失われた本当に幸せだった日々。それと同等に幸せな日々を大切な者を失ったまま甘受することが出来ず、また、そういう幸せの存在を認められなかったのではないだろうか。
　唯一無二であった筈の幸せ。それを喪っているのに、同じような日々を送るという矛盾の解消の為、長森はみさおと混同されたのではないだろうか。
　しかしやがて、かつてのみさおと同様、本当に大事な人、幸せな日常が出来たとき、かつてのそれと同様、それを永遠にしたいという気持ちが沸き上がってくる。
　それは同時に、今まで慰めと支えにしてきた「永遠の盟約」の無根拠さを逆にプレッシャーと感じさせる。
　本当に永遠はあるのか？　そんないい加減な口約束を信じて大丈夫なのか？
　長森への永遠の盟約への疑念、その不安や恐怖が永遠の世界を作り出す。
　そうして作られた「永遠の世界」は、他人と歩む中、訪れるかもしれない終末の恐怖から逃れる為に未来を閉じ、すでに終わらせた世界だった。
　浩平はその中に閉じこもるが、やがて「こんな永遠」はいらないと叫び帰ってくる。

　「こんな永遠」はいらない。
　それは永遠そのものがいらないと言ったわけではない。
　つまり、この時点で浩平はようやく一番始めの「永遠はあるよ」というその無根拠な言葉に慰められたという事実を本当の意味で納得できたのだ。
　信じることが出来たのだ。
　永遠はあるよ。
　それは無根拠な慰めの言葉だ。
　いつかは永遠にしたかった大切な物は無くなってしまうかもしれない。
　みさおのように。
　人は誰だって、いつだって、そうした不安や恐怖を抱えて生きている。
　いつか人は死ぬ。例外なく。
　でも、大事なのはその不安や恐怖から逃げる事ではなく、立ち向かい、克服していくこと。
　浩平は「永遠はあるよ」という根拠の無い嘘に、優しい嘘に慰められ、涙を止めた。
　そんな嘘が不安や恐怖に対する助けとなり、勇気に変えられるということを実感し、認めることが出来た時――。
　浩平は長森のその言葉に感じた自分の気持ち、みさおが「ありがとう」と言った時のその気持ちを理解し、自分を許すことも出来ただろう。

　みさおは、本当に感謝していたんだと。
　あの日々が、みさおにとっても本当に幸せだったんだと。
　自分は、いい兄であったのだと。

　「ONE～輝く季節へ～」という物語の中には、こういった浩平の自責と、そこからの解放という要素も含まれていたように感じられる。

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私が見た「ONE～輝く季節へ～」 浩平編 -浩平の自責とその解放-

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