「誰だってそうなんだよ」
「すべてが現実なんだよ」
「物語はフィクションじゃない。現実なんだよ」
主人公と同じ目をした少年。
彼は病に侵され、出歩ける状態でないにも関わらず学校に来て主人公と会っていました。
浩平「どうして」
氷上「絆というものを実感してる気がするから」
「絆」とはなんでしょう?
クリスマス、最期の話の中でのこの台詞の意味とは、主人公の妄想と現実の選択への影響を与えないようにしてきたそれを、覆すものです。
この言葉の意味は普通に考えれば二通りに取れます。
氷上「僕に残された時間は、キミのために、キミのことを思って過ごすよ」
浩平「………」
氷上「思いが届くといいけどね」
氷上「僕の求めた、最初で最後の絆だから」
浩平「…ああ。頼むよ」
氷上「僕の思いは届いたかい」
1、君はもう妄想を求めてしまったから。
2、君はもう現実を求めたしまったから。
しかし答えはどちらでもありません。
解答:
3、君はどちらも選べなかったから。
この主人公は、ゲームのプレイ期間となる4ヶ月、結局のところ妄想と現実のどちらも選べていないのです。
妄想を選んでいれば、みずかでない誰かともう一度「永遠の盟約」を結べば、消えることなく、現実を遮断しつつも生きてはいけたのです。
そして現実を選べていれば、主人公は消える事は無かったのです。
ゲーム中、消えずに済むエンディングが一つも存在しないのはそういうわけです。
氷上には主人公がこの世界から消えてしまうのが確定したのが分かったのでしょう。それ故もう影響力を持ってもいいと言ったのです。
さて、氷上が与えた影響とは現実との接点を示す事、でした。
つまりそれは、妄想から抜け出し、現実で生きてくれ、エヴァのカヲル君のパロディでいえば「君は死すべき存在ではない」という、そういうことです。
氷上「だから、その責任はできる限りとりたい」
#ちなみにそれに対する主人公の沈黙は、現実と妄想=永遠を篩(ふるい)にかけた時間です。
それを頼む、というのは主人公がそれに応え、現実を受け入れるという宣言です。
氷上「じゃあ、僕は戻るとするよ。最後の時間を過ごす場所に」
病気である現実の自分に向き合う事を。
結果、氷上は病室へと戻り余生を(或いは成功の見込みの無い手術にチャレンジしたのかもしれません)送り、現実の中で死亡します。
一月。
主人公は訃報を、氷上が現実に帰って決着をつけた事を知り、同じように現実から逃げ、そして向き直って挑むことを教えてくれた氷上を親友だと呼びました。
やがて主人公は現実から消え「永遠の世界」という妄想の中、かつて氷上と約束したように現実に向き合うべく奮闘します。
そして現実へ帰ってくるそのとき、主人公は氷上と再会するのです。
氷上「やぁ」
現実へと帰る主人公を見送っての氷上の言葉だったと思われます。
8/14 追記
氷上が行った死後の世界(?)と主人公が行った永遠の世界が単純にイコールで結ばれるのかどうかは未だ私にも分かりません。
主人公は「氷上が先に行った世界」だと言っていますのでそういう風に取ることもできるのですが、そうであるならば氷上や死者である「みさお」と再会できても良さそうなものですが、「永遠の世界」には主人公と少女しかいない。
現実ではない別の世界が一体どのようなものなのか、それは複数あるのか、一つしかないのか? 何一つ明らかにはなっていませんが、二人が旅立った世界は確かに「別の世界」で、そういう意味で同じなのかもしれません。
我々の世界は「中」で、その外は「おそと」でしかない。そこに放り出される事が分かっていても、一度も外に出た事のない我々人間には「おそと」がどんな世界なのかは分からないのです。
「死」という出口から出て行く氷上シュンとそれ以外の出口から出ていく主人公。
辿り着く先は「世界の外」。
主人公はそれぞれが別の世界に通じている可能性など考えていなかったのであの発言が出てきたのでしょう。
さて、二人が行った世界は同じ世界だったのか、同じ世界の別々の場所だったのか、それともそれぞれ別の世界だったのか。作中では示されていませんね。
小説ワンダフルライフ(著・是枝裕和)を読んで色々と考えていることもあるので、なにか思い付いたらまた追記したいと思います。
<補足電波:隠しシナリオであることへの理由付け>
以上で氷上シナリオ単体としての考察は終わりです。
しかし、バッドエンド、繰り返しプレイという、ゲーム部分の全てにシナリオ的意味を見出せるこのゲーム、氷上シナリオが隠しシナリオであることにも何か意味があるんじゃないかと勘ぐってしまいます。
まず隠しシナリオとはどういうことなのかから考察していきましょう。
誰か一人をクリアしないと出現しない。シナリオどころか氷上自身も。
基本的にONEのゲーム部分は回想シーンです。
ということは、氷上の記憶は恋人との記憶よりも奥深いところにあるということになります。
それを思い出すのは何時でしょう?
現実に帰還するときです。
現実 > 永遠の世界 > 氷上の記憶 > 現実
というわけですね。
このゲーム、各ヒロインのシナリオはパラレルワールドで、選んでクリアしたヒロインとのシナリオこそが現実の記憶であるという扱いになります。
しかし上の図からいくと氷上シナリオは選択したヒロインのシナリオと関係なく、どのシナリオでも必ず現実であることが伺えます。
つまり、「ONE〜輝く季節へ〜」というゲームの封印されている本当の現実というのは「選んだヒロインのシナリオ+氷上シナリオ」ということで、氷上シナリオは独立したシナリオではなく、メインシナリオを補完するインサイドストーリーなシナリオということになります。
ひょっとしたらこのシナリオ、永遠の世界で氷上が主人公に抜け出すためのアドバイスを与えているという、回想シーンではなくリアルタイムな物語なのではないか、という説もありますが、訃報を知るあの一瞬は紛れも無く現実(或いはその回想)と見る事が出来ますので、それは否定されます。もっとも、永遠の世界に先に来ていた彼がアドバイスを与えていた可能性は否定できないのですが。