●神星記ヴァグランツ 1〜2(完結) /ヴォクソール・プロ&麻宮騎亜/角川書店/A5版/各880E(税別)
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21世紀半ば。 平凡に暮らしていた14歳の少年ライは、さまざまな世界を渡り歩く能力を持った(その能力を持った人間をヴァグランツという)少女、テレスに会ったことでその運命を大きく変えてしまう。 全ての存在がシステムネットワーク登録されているライの世界では、存在しない筈のテレスはシステムパトロールに追われ、逃げる為にシフト(異世界へ移動)するのだが、その際にライが巻き込まれてしまったのである。 テレスはライを元の世界に帰すことを約束するが、謎のヴァグランツの襲撃でさらに別の世界へとシフトしてしまう。 そこは剣と魔法、魔物と戦乱のファンタジー世界であり、ライ一行は魔導師の力で召喚させられたらしい。ライはさまざまなトラブルに巻き込まれテレスとはぐれ、再会し、元の世界に帰る為にさらに戦いを繰り広げる。 #ここら辺、異世界召喚型ファンタジーの王道ですネ 結局、その世界に魔法や魔物が存在する理由、過去にそこで殺された一人のヴァグランツ・アレスがその世界を呪って異世界から魔を呼び寄せていたことが明らかになる(ここまでが一巻)。 ライはアレスとの決着の際、突如として異世界へとシフトしてしまう。 それはライのヴァグランツとしての資質の目覚めであった。 文明が廃れ荒廃しきった世界で一人きりのライは自分の目の前でシフトした同じような異世界の迷子、ペレイラに出会う。 なりそこないのヴァグランツであるペレイラやライは、その不完全な力により至高存在=死を引き寄せるとしてヴァグランツ達に命を狙われることとなる。 ヴァグランツから逃げ回ること、自分の意志と関わりなく異世界にシフトする孤独に疲れ果てていたペレイラはライを「やっと見つけた仲間」だと呼び、二人は共に行動をするようになる。 しかし二人を殺そうとその前にテレスが立ち塞がる。それはライに責任を感じているゆえの行動。 別のヴァグランツ、ランキンが二人を庇おうとするがテレスは立ち止まらない。 ライはテレスに対し必死に抵抗するが、ペレイラは自分を庇って倒れたランキンの姿を見て抵抗を止め、テレスに甘んじて殺される道を選ぶ。 「ねぇ…私……もうシフトしなかったでしょ? もう…逃げ回るのは…いや…」 ペレイラ、そしてランキンまで殺したテレスにライはついに殺意を覚える。 殺し合いを始める二人。 そしてテレスに追いつめられたライは生き延びる為に自らの力でシフトを行う。 死の極限でライは真のヴァグランツへと目覚めた。 ヴァグランツとなった者を殺す理由はテレスには無い。涙を流すテレス。 七日後。 ライは故郷を目指してテレスと行動を共にしている。 さまざまな世界の知識やその世界固有の超能力などといった資質を集め“賢者の道”を見つけ汎世界の原形を知ることがヴァグランツ達の目的である事をライは知る。 しかし、ライはただ元の世界へ帰る事を望む。しかし無理矢理ヴァグランツの居留地へと二人は連れてこられ、そこの主はライが元の世界に帰る事を引き止めようとする。 ライ野世界では巨大なコンピュータネットワークシステム「フォーヴ」が隣接世界への知覚を持ちはじめ、シフトしてきたヴァグランツを異分子として排除してしまうのだと。 そしてそのネットワーク故にライの世界に“賢者の道”への入り口があり、功を焦ったテレスはライを巻き込み、今は利用してそこを目指しているのだということが明らかになる。 やがてテレスは居留地を脱出してライの世界を目指し、ライは居留地の主の命令でそれを追い、引き止める役目を負わされる。 テレスを追うライは元の世界、そしてそこにかなり近い並行世界へと降り立つ。 テレスというネットワークの矛盾とその補正から始まったネットワーク「フォーヴ」の外世界への知覚(一巻の冒頭はここに帰結する!)は再び現れたテレスを捕らえさせ、ヴァグランツの力の解析によって「フォーヴ」は無限に続く並行世界の自分の連結を実現させ、全ての世界を知覚したフォーヴは至高存在「神」へと目覚め、テレスを追ってきたライは、人間は「神」と対峙する―― 以上があらすじ。 はい、98DOSの遺した大作と誉れ高い「YU-NO」を思い出した人は手を上げてー。 そう。これはADMSシステムに乗せられるもう一つの物語です(ああ、ゲームでやってみたい!)。 粗削りな部分は多いです。内容もややこしいです。 ですが良く纏まった汎世界とそのシフトの設定、それを活かした細かいエピソードの上手さに、10年以上たった今でも私は魅力を感じています。 主人公が並行世界で元の世界の親友に相当する人物(名前がちょっと違うだけで基本的に同一人物)を探し出してTV電話で話しかけるシーンは何度読んでも泣けます。その世界の自分は事故死していて、親友は悪い冗談だと憤り… 他にもライに好意を寄せたサイバー(機械化人間)のファーニアとのエピソードとか、未だに心揺れますね。 乗ってるパワードスーツのAIが乗り手の危険回避を最優先して自分を庇って倒れたフィーニアを見捨てて離脱を始める。 AI「ライ様、退却致します」 ライ「バカ!! 戻れっ! この機械野郎!!」 フィーニア「“機械野郎”だなんてひどいわね…」 このやり取りが、状況が、台詞が、クゥぅぅ いまだにここは別離のシーンとして私的オールタイムベスト1、2を争ってますね。 絵柄的にもこの頃の麻宮騎亜は好き。 個人的に二巻は捨てられない一冊です。 1980年代のコンプティーク連載作品。 ちなみに同時期にコンプではD&Dのリプレイ「ロードス島」が連載され、ベーマガではワープスのリプレイが…。この頃のPCゲーム雑誌ってなんかPC雑誌としてはどこか間違ってるような気がする(笑)けど妙な勢いありましたよね。 客観評価:C+ 主観評価:A |
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