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■ 今回の選抜高校野球は凄かった ■

春の選抜で長崎県の清峰高校が投手戦の末、1対0で岩手県の花巻東高校を降して優勝しました。
 私が人生の半分近くを過ごした岩手県。その代表となった花巻東高校が準優勝して報告会の会場となった花巻市総合体育館には約1,600人の市民が駆けつけ、甲子園でのナインの健闘を讃えたそうです。
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 我が母校の高松商業高校は久しく甲子園の土を踏んでいません。なぜなら香川県では尽誠学園高校が大阪を中心に「スポーツ特待生」として優秀な選手を集めて格段に力をつけたため、いつも県内予選で負けてしまうからとのこと。実力差が大きく開いてしまったため、応援するにしてもいま一つ盛り上がりに欠けて、どうも面白くなくなってしまったという話を耳にしました。
 そう言えばいま大リーグで活躍している松坂投手は北海道の出身ですが、横浜高校にすすみました。
 高校の野球部に地元以外から優秀な選手をスカウトする… このようなことが全国の多くの高校で行われ、高校野球本来の「各県対抗試合」の性格はすっかり薄れてしまいました。
 そして今では、春の選抜にしても夏の甲子園にしても、決まってプロ注目の選手がスポーツ紙などに取り上げられるようになり、なにやら新人発掘の「見本市」でもあるかのようになってしまいました。
優勝を争った清峰、花巻東の両校には共通点があります。奨学金を支給したり授業料を一部免除するなどして、野球が上手い中学生を県内外からスカウトする「スポーツ特待生制度」を設けていないことです。
 今回の選抜では、このような学校の野球部員が、様々な形でクラブ活動に力を入れている高校を打ち破り、それぞれ決勝にまで駒を進めました。
 また春夏を通じて甲子園初出場の宮城県の利府高校が「二十一世紀枠」で出場して名門早稲田実業に五対四で勝ってベスト4に進出したことがちょっとしたニュースとなりました。
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 高校野球が終わった後、花巻東高校の地元岩手県の会員から「岩手日報」が送られてきました。そこには同校の佐々木洋監督(33歳)の談話を交えて、概ね次のような旨の記事が載せられていました。
「監督のモットーは『野球選手ではなく、野球もできる立派な社会人を育てる』で、生活態度重視の人間教育に力点を置く。野球技術を教える前に礼儀や人生観を指導している。また試合もただ勝てばいいというのではなく立派に戦うこと。それが『美しく勝つ』というチームの合い言葉につながる。野球部員は全員、県内出身者。この指導理念に共鳴して入学し、練習を重ね、そして優秀なピッチャーをはじめ強い選手が育ってきた。はじめから優秀な選手を集めたわけではない」(岩手日報)。
 高校野球が始まったとき、同校は下馬評にも上がっていませんでした。ところが、そのナインがこのような考えの若い監督に鍛えられて甲子園に出場し、並みいる強豪と戦い準優勝。まさに快挙と言えましょう。
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 10年ほど前になるでしょうか、私が懇意にしていた、花巻東高校の小田島前理事長(小田島薬品社長)がこんなことを話してくれたことがあります。「私は企業経営者だから教育については門外漢です。しかし校門の前に立ち、登校して来る生徒達全員に「おはよう!」と声をかけ続けています。そして日本人として立派にあらねばならないと、機会あるたび語り続けています」。
 当時の花巻東高校の進学実績を見れば決して学力値が高いとは言えません。しかしこの前、同校の理事で我が経営者漁火会の又川副幹事長がこのようなことを語ってくれました。「今では『教育の基本は心の豊かな立派な人物を育てること。知力や体力はこれをもとに初めて正しく伸びて広がっていく』という教育理念に賛同して、花巻東高校を志望する生徒や、進学をすすめる父兄が増えてきました」とのこと。ちなみに昨年度の同校生徒の進路をみると、東北大学や岩手大学あるいは津田塾大学や防衛大学校にまで進学するようになっていました。
甲子園などで有名になれば生徒は多く集まるようになります。そして、これが全てとは言いませんが有名スポーツ校になるにつれ、学校は人間教育よりスポーツに力を入れるようになります。
 清峰高校について詳しく知っているわけではありませんが、長崎の県立高校ですし開校以来春夏を通じての初優勝ですから、おそらくスポーツ特待生などいないはず。いわゆる「野球高校」ではないと思います。そんな公立高校が甲子園で優勝旗を手にしました。清峰高校と花巻東高校… 今回の春の選抜は「素晴らしい高校がそれぞれ優勝、準優勝した」という思いがしてなりません。
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 近年、高校野球の時期ともなれば、出場が決まった野球部員の飲酒や喫煙、暴行事件が紙面を賑わすようになりました。ただ野球が強ければいいと、立派な人間を育てる教育を蔑ろにしてきた結果です。遠く他県から子供達が進んでやってきたのか、高校が掻き集めたのかは分かりませんが「スポーツ特待生制度」にも責任があります。良識ある野球ファンや地元県民はこのように考えている筈です。
 プロ野球とは異なり高校野球は「学校の行事」ですから野球部員こそ高校生の模範であると監督はじめ関係者は教育すべきと私は思います。立派な高校生がスポーツマンシップに則り正々堂々と戦って予選を通過し、甲子園で若者らしくフェアプレーする。これが「本来の姿」であると考えます。そしてその「お手本」とも言うべき高校が、アマチュアリズムを失ってしまった現在の高校野球界にあって、それぞれ見事な成績をおさめた… 素晴らしいことです。この点をマスコミはもっと大きく取り上げるべきです。
 しかし、ニュースや記事をつぶさに調べたわけではありませんが、新聞を広げれば「この選手はプロとして将来有望」などといった打算的な記事が目につくばかりで、このような観点からの論調、報道は先ず見当たりません。
 繰り返します。マスコミはこの点を大きく取り上げるべきです。そうすれば健全な野球少年も育つようになるでしょうし、何より多くの高校生には夢と希望を与え、必ずや多くの国民の共感を呼ぶことと思います。
 今回はたまたま高校野球を取り上げましたが、これは野球に限らず、どんな場面にも当てはまることだと思います。


漁火新聞 2009年5月号