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 ウジガワ・トピックス



 イスカンダルの法則。
2012・05・18(金)  8:00



小学校6年の時、地域の小学校から数名ずつ集められて「科学センター」という理科の講座が毎週土曜の午後に開かれました。
毎回面白い理科の授業が行なわれて楽しみでした。
が、心に重かったのはそれぞれ一人で何か自由研究をやって年度末に提出せよというものでした。
さっそくパワーを込めて図書館に行き、いろいろ眺めて「よし、カビの研究だ」と決め、本を借りてきました。
僕が考えた「研究」とは、本に書いてあることを調べるだけのことで、2日で終わりました。
何か「実験」でもすれば良かったのでしょうが、そこまで頭が回ったのかどうかちょっと思い出せません。
で、「こんなテーマはちょっと違うな」と感じて、今度は気象観測のテーマを設定し、毎日2回家の庭にセットした温度計などのデータを集めました。
5月から11月ぐらいまでだったでしょうか、毎日のデータがやっと揃っても、特に「こんな発見があった」というものはありませんでした。
無いものは無いですから、データをグラフに清書して、「特に発見は無かった」という結論でレポートにまとめて提出しました。
「何か発見できるだろう」と思って長い期間をかけてデータ集めをして、それで何も生まれなかったわけですから、残念というか屈辱のようなものがありました。

提出の段階で他の人の研究を見せてもらうことができて、「なるほど」というテーマにいくつも出会いました。
そして、みんなは数日で終わる研究をしていたのです。
長い間、毎日同じ時間に家に戻って温度計をのぞいていた苦労の日々がバカらしくなりました。
家族をみんな巻き込んで協力してもらったのに、申し訳ない感じもありました。

結局、僕の提出したものが何かの賞をいただきました。
明らかに手間がかかっていたので、それを評価されたのかもしれないと今では思います。
でも、僕の中では「失敗した」という気持ちが残りました。
世の中には「上手く行けば短期で終わるもの」と「膨大な労力が必要なもの」があるのだと学び、これからは「短期で」を選ぼうと思いました。
要領の悪いやり方は、もうこりごりだったのです。



それ以降ずっと、気がつくと僕は「長い期間がかかること」ができない人になっていました。
納期が迫るまで動けないのです。
やる気が起きないし、明日やれば済むことは今日はやらない。
中学・高校・大学と来て、サラリーマン時代も強制されるか、特別ワクワクするもの以外は動かない。
ソフト屋で独立してからは、誰も強制してくれないので、自分が動かないことにかなり自己嫌悪を感じる日々が続きました。


それが一気に変わったのは、30歳の誕生日からでした。
中小企業診断士の受験を決めたときです。
まず、通販で有名な会社の通信教育を申し込みました。
届いた教材を眺めたとき、こりゃクオリティが低すぎてダメだと思い、すぐに返品しました。
そして、その受験指導で有名なところの通信教育を申し込みました。
また「ダメだ」と感じました。
今度は難しすぎたのです。
難しすぎて、わからないからつまらない。
好奇心のようなエネルギーが出るレベルをはるかに超えていました。
ただ、自営業程度とはいえ経営者を3年やってきて、経営者としてのスキルが全くないことで壁にぶち当たっていた時期でもあったので、「これはクリアしないとダメなレベルなのだ」とも思いました。
経営者としての勉強をするには、この受験勉強が最も短期でできるはずです。

受験まで6カ月。
納期としてはだいぶ先ですが、届いた8冊のテキストを眺めてみても、いまから毎日やって「合格レベル」どころか「勝負できるレベル」に間に合うかどうかというイメージ。
焦りを感じました。
で、同じ会社の通学講座がちょうどあったので、そこに通うことにしました。

週1回、25回の通学講座の初日、ビックリすることばかりでした。
推薦図書が40冊以上あったのです。
そして授業も難しすぎる。
それでも1000時間勉強するかどうかが合格の境目という言葉にわずかの希望を持ちました。
そして「2000時間勉強してやる」と燃えました。

敵が遠大すぎるので、「要領の良い方法」を考えている時間がもったいない。
講座のカリキュラムで勉強のペースは示されているので、ひとつひとつクリアしていくだけです。
受験は8科目で、スクールの講座の構成は午後に新しい科目の授業が始まって、翌週は1日まるまるその授業、その翌週の午前中にテストと解説など。
ですから中2週間で1科目を完全にマスターして問題集もできるだけやっておくという感じでした。

本当に難題だった1科目目「経営基本管理」の勉強をスタートして、その科目に関する推薦図書を八重洲ブックセンターに買いに行ったとき、「速読」の本を見つけました。
そうだ、これを先に読めば効率が上がるはず。
一応、速読の方法だけは頭に入れて、速読の訓練をしながら勉強を進めるというカタチで進めました。
一通り読み終わって問題集をやると、全然ダメでした。
間違いなく勉強したところだというのはわかるのに答えが出てきません。
答えを出すというアウトプット前提のインプットではなかったことに気付きました。
何とか読むことに必死だったのです。
そして、ものすごく嫌で苦痛でしたが、一度読んだテキストを全部読み直し、ポイントをノートに整理しました。
2週間で10冊以上の本を2回ずつ読みました。
寝ている時間以外は、本業のプログラミングを一気に終わらせてあとは勉強です。
こんなに勉強したのは間違いなくはじめてです。

そして2週間たってスクールで最初の試験。
結果は散々でした。

僕はそんなに頭が悪い方ではないはずです。
でも、学校で勉強してきたのは理科系だし、社会に出てから工場労働者とソフト制作者の仕事で、いわゆる「ビジネスっぽいこと」をやってきていないし、日本経済新聞も読んできていない。
だから最初は最下位からスタートなのだと考えることにしました。

それでもその日の午後からは次の科目です。
最初の科目で「十分に勉強したつもりなのに足りない」のがわかっていて、そのまま次の科目に進むのは不安です。
ですから、最初の科目の勉強と2科目目の勉強を同時にやることになるなと考えました。
ところが午後の授業、2科目目の勉強も難しかった。
科目が変わると、違う脳みそを使うイメージです。
しっかりと切り替えないとダメなのです。
ですから、1科目目の勉強は受験直前まで先送りすることにして、2科目目に集中しました。

2週間たって2科目目のテスト、また散々でした。
75人のクラスの中で、下から10番ぐらい。
僕が通った講座は短期なので、合格するのは1割ぐらいだろうと他の受講生が言っていました。
道は険しい。
そして3科目目に突入しました。
またまた知らないことばかり。
このままだと間違いなく落ちこぼれます。

そんなとき、「あれ?」と思って1科目目の推薦図書を開きました。
以前は間違いなく覚えていたことが、思い出せなくなっていたのです。
覚えている段階のテストで散々だったのに、さらにもう忘れているわけです。
「くじけたい。」
理屈では説明できないような心境。
でも、そんな気持ちになるのは「くじけることが許されない状況」だったから。
結論は「やり遂げる」と決まっているのです。

頭ではわかっているのに心がエネルギーを失って身体が動かない状況の時、ある一つのことを思いつきました。
毎日の勉強前にこれまでのノートを全部読み直して復習することです。
さっそくノートを読み直しました。
「あ、ダメだ。」
ノートに書いてあるのはポイントだけで、流れが記されてはいませんでした。
覚えるために書いたのであって、読むことを考えて作ったものではありません。
日本史の勉強で、年表なしに「起きたこと」だけを覚えても脳の中で整理できません。
そこで年表入りの日本史のようなイメージで、ノート2科目分、パソコンで整理しました。
たしか30時間ぐらいぶっ通しで。

当時のパソコン用紙はミシン目でつながった連続用紙で、僕が入力したのも今のワープロソフトではなくプログラムを入力するソフトです。
2科目でワープロだと100ページに相当するようなノートを入力し終えて連続用紙に印刷し、勉強部屋の壁にぶら下げました。
10ページぐらいつながったものを何枚も。
それを毎日読んでから、今日の勉強をする。
そんな日課が始りました。
毎日10時間から15時間は勉強しました。
7科目目、「店舗施設管理」のテストではクラストップになりました。
以前のような普通の勉強では、時間がすぎるほど忘れていたのに、読んでから勉強という方法だと、時間がたつほど熟成・消化され脳にしっかりと刻まれていくようなのです。

この方法、その十数年後にコンサル先との間で「イスカンダルの法則」という名前がついています。
宇宙戦艦ヤマトは時間的に絶対に間に合わないのに地球を出発して、イスカンダルに向かいました。
そしてその途中で「ワープ航法」を開発、光の速さで三十万年かかる距離を1年で往復しているのです。
まあ、「法則」ではないですが、リズムが良いので、こんな呼び名になりました。

この「イスカンダルの法則」、要するに「知識は蓄積できると強い」ということです。
放っておいたら記憶は30分で50%、16日間で98%消えるのです。
これは、同じクラスのみんなには内緒でやり続けました。
1・2科目目のころ、テスト結果を見せ合って、「こいつはアホだ」と僕のことを見ていた連中が、クラストップになったときにビックリしていました。
そして「店舗だけは強いんだな」と言われました。
「へへへ」とごまかしましたが、他のスクールでの模擬試験で僕だけ合格圏内の評価が出たとき、もう何も言われることはなくなりました。

家の中は、プリントアウトしたノートだらけです。
自分の勉強部屋の壁や窓がすぐにいっぱいになって、ロープを張ってぶら下げ、廊下や階段もプリンタの連続用紙がぶら下がっていて、ついにはそれが2枚重ねになりました。
まだ子供が生まれる前で、奥さんは黙って応援してくれているのでやりたい放題です。
それを毎日読みました。
読む時間はどんどん短縮されました。
毎日「新しいことが書いてある」と感じました。
勉強時間以外で、1階のリビングから2階に用事で行くときも途中で読み始めて、2階に着くころには用事を忘れているというのも何度あったかわかりません。
4月が終わるころには勉強時間も累計で1000時間を超え、本番まで2000時間ペースに乗りました。
読んだ本は120センチ幅の本棚2段になりました。
紹介された推薦図書だけでは足りないと感じて、八重洲ブックセンターと書泉グランデの中で「読んでない本はないか」と探し回りました。
毎日読む壁面のノートはマーカーでどんどん色が入り、問題集をやるたびに3色ペンでポイントが書き足されていきました。

合格したころ、もうあの時一緒に勉強した仲間と会うチャンスはなくなっていました。
スクールの合格祝賀会があって参加したら、75名から最終的に合格したのは3名だったそうです。
でも、その段階ではもう次の課題がありました。
診断協会の集まりで先輩から「使える診断士は100人に1人だ」と言われたのです。

僕の武器は「イスカンダルの法則」です。
セミナーもコンサルもとにかく数。
毎週5冊の本を読む。
記録を残して全部読んでから次の準備をする。
そんなやり方です。


本当なら、「膨大なエネルギーが必要な方法」はやらないはずでした。
最近になって頭で整理できたことですが、ビジネスには「膨大な…」ともう一つ、「良い素材を組み合わせる」というカタチがあります。
コンサルタントになって4・5年目のころ、あるビジネス雑誌で僕と同じ資格を取った人が「自分は経営者に徹して優秀な人を集める」カタチでコンサルサービスを提供していることを知りました。
そうです。
そんなやり方もあるのです。
でも、僕にはそのカタチが思いついてもできる自信が全くありません。
自力でコツコツの方が、結果を出す計算ができるのです。
職人型経営者と経営者型経営者の違いということもできます。

で、ビジネスのカタチが決まって、そこから売上高を作りだして行きます。
と言いつつ、ポイントは粗利の額です。
小売業とか飲食業であれば「売上高―仕入高」、建設業・製造業であれば「売上高−(材料費+外注費)」を大雑把に粗利と考えています。
業種によって粗利益率が違うのは、たくさん働けば粗利率が高くなるからです。、
が、この金額は計算式のように引き算で残るものとは考えてはいません。
粗利の金額というのは、お客様が「あなたに」と、「私」に払って下さった金額です。
「私」のこれまでの蓄積で作ってきた能力や準備してきたことがベースにあって、それをいまそこで発揮した仕事っぷりに対してです。
仕事に対して、受け手であるお客様が価値を感じ、価格より価値が大きければリピートに値すると感じていただけるという理屈です。

こうやって考えると、「膨大なエネルギーを必要とする仕事」というのは、蓄積ができれば足腰の強い事業ができます。
人間の中に蓄積できるのは知識・経験・感覚があります。
また、面白いもので、同じことをやっても残るものは変わってきます。
わかりやすいのは筋トレで、「10回」と強制されていかに楽に10回やるかと考えてやったときと、10回でいかに自分が強くなるかを考えて「しんどくしよう」と取り組んだ時では効果が違うそうです。
ある人は「3倍ぐらい違う」と言い、別の人は「やったかやらなかったかの違い」だと言います。

「膨大なエネルギーが必要…」。
燃えます。







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