空想科学短編劇場
            作:はめつまもる

 其の壱  
「変態した体」

 幾千世代に相当する季節を、わずか、一週間で経験した。
 嵐のあと、海岸に打ち上げられた。
 私は鯨ほどの巨体となっていた。
 砂浜へ、見学にくるひとだかりが、
 昆虫のように見えている。
 近くの村から、駆けつける蟻の行進ほどのうごめきを、
 凝視する。
 もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ 
   もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
     もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ 
       もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
         もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
           もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ 
             もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
      小さな人の顔が、もぞもぞもぞもぞ
      たくさん、もぞもぞもぞもぞもぞも
      ぞもぞもぞひしめき合っていた。
 その中に、もぞもぞもぞもぞもぞも
 かつての私を知る者がいたとしても、
 この巨大な姿の正体を、
 私とは認識できないであろう。
 家族や恋人すら、もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
 そうとは、私がすでに
 もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
 判別出来なくなっているように。
           もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
        もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ 
    もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ
    模型よりも小さい空母やジェト機に、
     ぶつからないようにして
      もぞもぞもぞもぞもぞも
        ぞもぞもぞ海の方へ歩いた。
                    南半球まで、
                    泳ぐと、
                    数時間だった。
      何処かに、誰も居ない島は、ないのだろうか。

       (もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ)

 其の弐
「アンドロイドの魂は昇天するか」

 今年の夏も、長い日々だった。
 少年の夏休みは、特別な時間がつづく。

 
 蝉の幼虫が八回目の夏を迎えると、
 地上に這上がって、
 背中に隠していた羽根を突き出して、
 成虫へと変態する。

 
 それから一週間以に、
 自分とは違う性別の成虫を探して、
 交尾しなければならない。
 子孫を残し、魂を昇天させるのだ。

 
 ぼくも夏を八度過ごしているけど、変態しない。
 今年は、あまりの暑さで、小学校の夏休みは三か月になった。
 アンドロイドの弟とふたりで、谷間の涼しい午後を過ごす。
 夏と冬との間にあった季節を知っている、お婆ちゃんへ会いに行くんだ。
 
 湖畔のほとりで、
 もう誰もが忘れてしまった
 「季節」のお話を聞く。
 
此の世界の上空には、放射大気オゾンの層が、
 皮膚のように包んでいたこともあったと秋子お婆ちゃんはいう。

 ぽっかり開いた穴が、どんどんめくれていったそうだ。
 その空間から、外宇宙の光や波動をうけいれる。
 そいつが「春」と「秋」という
 ふしぎなゆとりある季節をなくしたらしい。
 森の生態の変調や新しい病気をふやしたんだ。
 人間だったころのぼくの弟みたいに、
 太陽がこわい病も。

 
 この惑星の大気に不足している気体を再生させる
 植物が、この谷間にあったという。
 お婆ちゃんが少女のころ、
 かんれんぼしていて
 行方不明になったひとがいたんだ。
 お婆ちゃんのおねえさんにあたる「
春子さん」だ。
 その樹に辿り着く道のりを
 知っていたという。

  
 いつの日か、この森が大気の穴を戻してくれるのだろうか。
 「アキちやんはかくれんぼすると、
 迷子のオニになるほど、方向音痴じゃけん」

 というのが、春子さんのくちぐせだったという。
 「ハルちゃんはアキちゃんの代わりに、
 神隠しの役を受けててくどうさったのかもな」

 美しい少女の写真しかないんで、
 春子お婆ちゃんとはみんな呼ばない。
 アキちゃんより、
 ハルちゃんのほうが年上なのに。

 死んだ弟とおなじ記憶をもつアンドロイドは、
 変態はできないが、

 紅葉の林の中に走る夢を見るのだろうか。

            

                 (つづく)

                                   (永遠つづく)

もぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞもぞ