去る十一月十五〜十六日に北海道札幌市において、第8回全国付添人経験交流集会が公開で開催されました。そこにおいてA少年の付添人団長(弁護団長)をつとめた野口善國弁護士が、神戸事件にかんする特別報告をおこないました(十一月十五日)。私たちは、この野口弁護士の報告を傍聴し、愕然としました。驚くべき事実があきらかにされたからです。
A少年が「(警察に)だまされた。そういうのが非常につらかった」「それはもう自分としては許せんのだ」などと必死に訴えていたにもかかわらず、付添人団は「大人の場合であれば迷うことなく、本人が被告人がそう訴えておって当然無罪であるという、そういう主張で頑張ったと思うんですけども……」「淳君事件については非行事実なしなんていう、この件は不処分であるなんていう、そういう意見を求めるのは、ちょっとそこまでやるのはいき過ぎではないか」などと、このA少年の訴えをおし潰し、少年の処分として医療少年院送りがふさわしいとしてしまった−−これまではヴェールにおおわれていたこのようなA少年弁護団の弁護活動の内実が、他ならぬ弁護団長自身の口からきわめてリアルに報告されたのです。
私たちは激しい怒りのこみあげるのをおさえることができません。A少年の訴えの中に警察の偽計・脅迫・誘導尋問をみてとり、彼を救うのではなく、弁護団が逆にこの彼の訴えをおし潰し、権力による医療少年院送りの陰謀に加担してしまったことを、私たちは怒りをこめて弾劾するものです。
1 「少年が、『実は自分が最初に自白した時に、警察官から「お前の筆跡の鑑定の結果が出とるんだ。お前に間違いないということで出とるんだ」と、そういうことを言われて自白したんだ。それでだまされた。そういうのが非常につらかった。それはもう自分としては許せんのだ』、そういうようなことを言い出しました。/『(警察が少年を)だましたようなことはいかんから、自白調書の任意性を争おうじゃないか』という話が弁護団から出ました。しかし、これについてもいろいろ中で議論が何べんかありまして、まあいろんな関係から少年がこういう非行を犯していることは事実としてどうもあるんじゃないか、……少年にとって自分のやったことを静かに考えるというようなことではなくて、いたずらに警察官を攻撃して、そこだけに自分の関心が行ってしまうというようなことも教育上どうかな、そういうこともあって、非常に悩んだんですが……/結局ですね、少年はもうなんかそのうち疲れてきたのか、『もうそんなんいいんだ。早くやってくれ。全部自分は事実を認めます』というようなことを言い出したもんですから、少年がそうゆっとるのに弁護団だけが……淳君事件については非行
事実なしなんていう、この件は不処分であるなんていう、そういうまあ意見を求めるのは、ちょっとそこまでやるのはいき過ぎではないかというんで、結局その証拠排除だけを求めて、非行事実については最終的には少年の言うとおり非行事実は争わない。/最終的な処分としてはやはりこの少年には医療少年院送致がいいのではないかというのが付添人の一致した意見となりまして、結局審判の結果も医療少年院送致ということになりました。これがこの大体のあらましでございます。」
このような野口付添人団長の報告は、A少年の弁護活動なるものがあまりにもでたらめな恥知らずなものでしかなかったことを、自ら暴露したものといわざるをえません。
2 まず第一に、A少年は「だまされた。そういうのが非常につらかった」「自分としては許せんのだ」と必死になって訴えていました。事実、A少年は八月四日の第一回審判の段階では、非行事実を留保していたといわれています。それにもかかわらず付添人団は、この訴えに全く耳を貸しませんでした。
彼らは、ただ「自白調書の任意性」をめぐって議論したにすぎず、当然問題とすべきこの調書の信用性について、すなわちA少年の「自白」なるものがはたして真実なのかどうか、それは警察が偽計や脅迫や誘導尋問によって少年に強要したものではないのか、という核心については、少しもまともに検討しようとはしなかったのです。
そもそも、警察に逮捕された少年が本当に非行事実を犯したのかどうかを、まずもって問うことこそが、少年犯罪事件にのぞむ弁護人の大前提であり、それは過去のあらゆる少年冤罪事件の教訓であるはずです。ところがA少年の連行が物証の裏づけのないまったく不当なものであり、また彼の逮捕の理由となった「自白」なるものが偽計を用いた警察によって強要されたものにすぎないことを熟知していたにもかかわらず、そしてさらにその後もA少年と面接して、「全く感情の動きというのがなにも無くて、動機においてもうひとつなんかようわからんな」「あまり表情の動きもないし……この子は夢でもみとるんちがうか、そういう感じで、親に会いたくないという状態が続きまして……」という少年の様子をまのあたりにしていたにもかかわらず、弁護団は、A少年が長期にわたり代用監獄に閉じこめられて権力から自白を強いられていたことを見ぬくこともできないままに、「(少年の非行は)事実としてどうもあるんじゃないか」などときわめてムード的に彼を犯人扱いしてしまったのです。これを弁護士失格といわずしてなんというべきでしょうか。
3 第二に、じつにこのような弁護団の態度のせいで、A少年は疲れはてて、「もうそんなんいいんだ。早くやってくれ。全部自分は事実を認めます」と言い出しました。A少年を救うべき弁護団みずからが、彼を絶望に追いやったのだといわねばなりません。ところが弁護団は「少年がそうゆっとるのに弁護団だけが……」などと、この少年の言葉をタテにして、「非行事実は争わない」「最終的な処分としてはやはり医療少年院送致がいい」などという}方針~をきめてしまったのです。
「……多分大人の場合であれば迷うことなく、本人が被告人がそう訴えておって当然無罪であるという、そういう主張で頑張ったと思うんですけども、少年の場合には機械的にそれをそのまま適用するのがいいのかどうかという、かなり思慮を要する」「少年にとって自分のやったことを静かに考えるというようなことではなくて、いたずらに警察官を攻撃して、そこだけに自分の関心が行ってしまうというようなことは教育上どうかな……」−−このように野口弁護士は言っています。
要するに弁護団じしんが、警察の情報操作に踊らされたマスコミのたれ流す虚報に毒されて、あらかじめA少年を犯人視してしまっていたのです。そしてそのうえで、「非行」に走ったA少年の「心の病い」を治すということをア・プリオリな前提として、そのために「医療少年院送り」が「教育上の最善の措置」だなどという方針をあらかじめたてていたのです。いやこのような方針をはじめにまずたててしまったからこそ、少年の訴えの背後にあるものを見ぬくこともできなかったのです。
4 第三に、こうして弁護団はA少年の審判の最初から最後まで、一貫して非行事実そのものを争うという姿勢を投げすててしまいました。
A少年が淳君事件の犯人ではないということは、科学捜査研究所でさえ「一致しない」と言わざるをえなかった筆跡の問題のみならず、そもそもあの高い論理性をもった「犯行声明」が「ものごとに集中しない」中学三年生のA少年に書けるのか、ましてや人間実存の深みを見事に表現したあの「懲役十三年」という作文が書けるのか、というこの一点だけをみても明らかというものでしょう。にもかかわらず、弁護団は、このような一度は自らじしんも抱いたはずの疑問さえも無視してしまったのです。
いやそもそも彼らは、A少年の非行事実の有無を裏づける調査さえも、ろくに行わなかったのです。野口弁護士の報告のあとの質疑応答で司会が、「物証をめぐってはですね、疑問が色々あると。で、自白を、彼の自白を裏付けるような物証として主なものは何であったんだろうか」と質問しました。これに対して野口弁護士は、「犯行の経路を辿って……現場に行ったり、南京錠売っているところに買いに行ったり……(南京錠を)買ってきて……ノコギリでギーコギーコ切ったり、ま、大体のことはやっておる」などと説明しました。しかしこんな程度の調査なら、半日もあれば終ってしまうにちがいありません。
また司会は、「検面調書については排除を求めたのか、それにたいして……家裁は排除をなぜしなかったのか、もしくは求めなかったとすればなぜ求めなかったのか」と質問しました。これに対して野口弁護士は、「裁判所の判断としては、まあ検察官のところでは、ちゃんと黙秘権の告知もあらためてされたし、別な人でまあ別な雰囲気でやったんだからそこまで……」「(裁判所は)検察官には自発的に喋ったんだろう、こういうような受けとりかたをした……」などと発言して、家裁の「ェ・ユ決定」に完全に同調してみせたのです。
周知のように、私たち真相を究明する会や多くの心ある人々の度重なる要求にもかかわらず、彼ら弁護団は、「A少年がのぞんでいないから」として「家裁決定」に抗告することをまったく検討しさえしませんでした。まさにこれは、弁護団が、A少年を医療少年院に送り込むことこそ「最善の措置」であるという態度をとっていたからにほかならないのです。
5 A少年の非行事実なるものをまともに検証することもその自白の「信用性」を疑うこともなく、彼が非行を犯したことを大前提にして、彼の「更生」のために自らすすんで「医療少年院送り」を要求したのが、わが弁護団なのです。医療少年院においては、たとえ少年が今後真実にめざめそれを話す勇気を奮い起こしたとしても、それは彼に厳罰をもたらすだけでなく、さまざまの薬物を用いての「保安処分」や「自殺」という形をとっての}決着~さえもがたくらまれかねません。それにもかかわらず、彼ら弁護団はこのことを全く意に介することもなく、少年を医療少年院の塀の中に閉じこめることに自ら手を貸したのです。これほど許しがたいことがまたとあるでしょうか。
だが野口弁護団長みずからが語った、獄中のA少年の訴えと彼の様子とは、それじしん彼の自白が権力により強要されたものでしかないことを雄弁に物語っているといわねばなりません。
私たち神戸事件の真相を究明する会は、A少年の訴えを圧殺し医療少年院送りにした弁護団の許しがたい裏切りを怒りをこめて弾劾するとともに、真実を白日の下にひきずり出すその時まで決意も新たにたたかいつづける覚悟です。
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