堕天使の鼻歌
「小森 愛とは何か」B

 カラミなど全くない。ヘアー露出も自慰場面も当然ない。これで18禁であり、 しかも30分で13,500円。小森愛のデビュー・ビデオ『 愛が降ってきたよ』は、 現在から見れば、充分クイズの“あるなし問題”になり得るアダルト作品であ った。受け手は余程多くの想像力を要求される訳で、しかもその広い懐の中で ファンはアンビヴァレンツな心情に揺れながら疑似恋愛に没入する構造になっ ていた。
 高井麻夫や吉野文鳥あたりを後継筋のディレクターとするさいとうまことの 世界観はこの時点で既に完成の形を見ており、以後この手法は廉価版書店売り イメージ・ビデオに受け継がれ定着してゆく。現在では題材としても喰い尽く されてしまった感もある程乱造されてしまったイメージ・シーンも、今観ると 独特の空気感がある。虚像と実像がこれ程曖昧な表現ジャンルもないであろう 映像の中で、ファンは新たな視点を開拓していた筈なのだ。
 この作風は続く『Hallelujah』でさらに深化されてゆく。イメクラ的七変化 とカップルの小旅行という二点で作品内に於ける虚実の幅を持たせ、インタビ ューの度合いによってのみファンは本人の思考を窺い知る事ができる作風は、 この手のパイオニアとも言える。それにしても史上唯一と思われる16mmカメラ 使用による映像美の素晴らしさはどうだろう。制作のモデルに対する意気込み の程が窺えるというものだ。小動物的愛くるしさを持った小森愛の、自覚と無 自覚の間の季節を捉えた瞬間であったと言えるだろう。
 幾つものマガジン・ビデオに於いてもこの路線は拡大再生産され、ミニドラ マ&インタビューしかないと知りつつも、ファンは小森愛の僅かな情報と映像 を求めて収集に走った。その先には掴み所のない霧がかった世界が広がってい た。(つづく)

荒牧 満治

※本稿はミニコミ誌『 急進派 』'99.4に掲載されたものです。
(岸君による、荒牧さんの代理投稿です。)

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