11月23日、4歳ダート交流3冠競走最後の1冠「ダービーグランプリ」が行われる予定でした。当日日帰りで応援に行くことになり、意気揚々と出発した、のですが、その日、盛岡はこの時期にしてはとんでもない大雪に見舞われていたのでした。
さあ、出発。掲示板の書き込み等を確認し、自宅を7時30分に出発。気温は確かにやや肌寒いが、今日朝天気予報で確認した盛岡の最高気温5度を思えば、まだましなのかもと思いつつ堺市駅までの道を急いだ。駅で今日発売の週間競馬ブックを買う。ダービーグランプリの記事はと探してみたが、先週に掲載されていたこともあり、それらしい記事は見つからない。そのかわり、昨日のセフティーフェロー、騎手のコメント等をチェック。昨日の2着のおかげで今日の往復運賃、プラス小遣い分の臨時収入、本当に有り難かった。
あべの橋から空港行きリムジンバスに。バス乗り場の前でタクシーの運ちゃんに、道混んでるで、タクシーでいかんかと誘われたが、できるだけ出費を押さえようと、リムジンバスが到着するのを待つ。リムジンバスの所要時間は約30分。混雑らしい混雑もなく、無事に伊丹に到着できた。
搭乗手続きを終え、搭乗口に。向こうで、もし掲示版等でお世話になっている方に会えればと思い大阪土産を途中で購入する。搭乗口前のソファーを見ると工藤先生達がすでに来て搭乗を待っていた。「おはようございます。昨日は(セフティーフェローで)お世話になりました。」と挨拶すると、工藤先生、「やっぱりあの馬は12がいいんだね。」としみじみおっしゃっていた。工藤先生の奥さんによると、工藤先生、寝言でも15−15がどうとかと、あそこで何やってんだとか言うらしい。「昨日は菊沢さん上手でしたね。」と続けると、一緒に行く知人の方に「この間(ムゲンの新馬2戦目の事)はあんだけけなしていたのに。」と笑われてしまった。そして「騎手って、成績出してなんぼのもんやからな。よう覚えときや。」と工藤先生の隣に座っていた高校生くらいの男の子に話を続けると、「彼、南井騎手の息子さんや。」と私の方を向き直って紹介していただいた。身長175cm位の長身だったので、ちょっと驚いてしまう。みると南井騎手も小さな鞄と鞭が入った袋を持って立っていた。いろいろ聞きたいことはあったが、レース前だけに今日はおとなしくしておこうと思う。工藤先生も緊張してなかなか眠られないと言っていたが、南井騎手もプレッシャーとか大変だろう。今日は無事に走り、そして見事優勝できれば、またゆっくり話も聞けるだろうと、何の不安もなくそう思った。いよいよ飛行機の中に入る。熊沢騎手も同じ便に乗っていた。飛行機は定時に伊丹を出発。ここまでは本当に順調で、まさかこれからスリリングな展開が待ち受けているとは夢にも思わなかった。
飛行機は花巻に向かって順調に飛んでいた。FAXで送ってもらった出馬表を確認する。体調さえ問題なければまず勝てるだろう。きっとどきどきするんだろうななんて、出馬表を眺めているだけで、もうレースが始まる前のように興奮してきた。ところがあと少しで到着という時間になって、突然機長からの放送が機内に入った。「只今、花巻空港は除雪作業をしております。除雪作業が終了するまでしばらく・・。」えっ、そんな雪。寒いとは聞いていたが、まさかそんな除雪作業が必要なほどの大雪とは。今日は馬場もかなり悪いのではと心配になる。飛行機はしばらく花巻の上空を旋回していたが、しばらくしていよいよ降下体制に入った。雲が途切れ、町の景色が見えてきた。一面の雪。日本って広いよなあと思う。と、機首がまた上を向いた。そのまま再び上昇を始める。どうしたんだろう。まだ除雪作業が終わらないのか?と心配する。暫しの時間、放送を待つ。機長からの放送は「花巻空港の天候不良のため、着陸を断念しました。当機はこれより仙台空港に向かいます。仙台空港到着予定時刻は11時40分です。」機内には一瞬どよめきが走った。あららら、まさかこんな事になるとは。ベルト着用サインが消えて、飛行機は仙台へと向かう。工藤先生、南井騎手の席の方をうかがうと「しょうがないよね。」と内心はともかくも割と気軽な返事。私の方が今日中に帰られるのかとかえって心配になっていた。
仙台空港着陸後の手続きについて説明を受ける。払戻金を受け取り、リムジンバスに乗って仙台駅へ行ってくださいとのこと。飛行機は無事に仙台に到着。確かに大阪より寒いような気はしたが花巻の雪景色が嘘のような天気に驚いてしまった。払戻金をもらいに急いで2階のフロアーに行き、戻ってみると一行が見あたらない。先方を走っていくタクシーをふと見ると助手席に南井騎手が!しまった。みんなリムジンバスに乗っていたら間に合わないのでタクシーで直行したんだ。朝とは反対に躊躇せずタクシー乗り場に急いだ。タクシーに1人で乗り込むのは少し財布が痛かったががまんする。「前のタクシー追っかけてください。仙台駅に行きます!」とお願いすると、これから客を乗せようかというリムジンバスの横を抜け、タクシーは仙台駅へと向かった。
「仙台駅までどれくらいですか。」「そうですね。高速使って30分くらい。」「えっ!?」そう言えば、仙台空港がどこにあるのか全く知らなかった。気軽にタクシーに乗り込んでしまったことを少し後悔したが、やむ得ない。車中で運転手に無線で次の盛岡行きの新幹線の時間を確認してもらう。12時42分。これだとノンストップで盛岡に着くので13時半には盛岡駅に到着できる。それなら前のレースくらいは買えるかなと、ちょっと気分が落ち着いた。
道路は市内に入ってやや混雑していたが、12時20分過ぎに仙台駅に着くことができた。3階にある新幹線口にのぼり、急いで切符を買う。一緒に来ていた知人に携帯電話で連絡を取ると、リムジンバスに乗ったが、まだ駅に着かない、先に行ってくれとの返事。その新幹線を逃すとあと30分後までなく、タクシーで来て良かったと思う。ホームにあがると、熊沢騎手もタクシーで仙台駅まで来ていたようで、同じ新幹線に乗り込んでいた。
新幹線では隣の車両に乗車したので、工藤先生たちとは別々になった。暇だったので、デッキで車窓を眺めていると、さっきまで大阪と何一つ変わらない天気模様だったのが、トンネルを抜けるたびに、空はどんより曇り、地面は雪化粧。それもだんだん厚化粧に変わってくる。レースはちゃんと行われているのか、その時になって初めて不安になった。そういえば、今日飛行機が花巻に着かないとしたら、どうやって大阪に戻ればいいんだろう。頭の中にまた一つ不安がもたげてくる。デッキにある東北新幹線時刻表を見ると、18時10分の新幹線に乗れば、なんとか新大阪まで戻れそう、最悪の場合はこの方法でと思いを巡らした。そうしていると、デッキのゴミ箱に南井騎手の息子さんがお弁当のゴミをほかしに出てきた。いい機会だと思い、少し話を聞く。彼自身の話、競馬学校の試験を受け、一次は通り、今二次試験の合格待ちとのこと。今日の競馬の話、先生たちが携帯電話で連絡を取っているのを聞いている限りレースは行われているとのこと。こんな雪でもできるのかと、つくづく感心してしまった。
盛岡には定時に到着した。急いでホームを降りると、熊沢騎手と同行されている方に会う。「これは中止にしないと。」と言う話。聞くと、前のレースを中止にしてもハローがけをしてレースをする予定だとのこと。ホームから見える駅前はもう真っ白。そして降り続ける雪の量も大阪ではまず見られない多さだ。タクシー乗り場に向かう途中に、南井騎手にこんな状態でレースができるのかと聞いてみた。たっているだけならいいけど、とても走れる状態じゃないね。という返事。ゴーグルの前が全く見えないと言っていたが、考えてみれば時速60kmでこの雪の中を走るのだから当然といえば当然。盛岡駅に降りた時点で、先生も南井騎手も、熊沢騎手も、中止にせねばという意見だった。タクシー乗り場もなかなかタクシーが来ないのか、結構行列ができていた。前の方で工藤先生たちと待っていると、(南井騎手と)写真を撮って下さいとファンの人がカメラを持ってこられた。ちょっと、緊張して写真を撮る。「がんばってください。」とファンの方が戻っていった。でもレースは本当に行われるの?
南井騎手は熊沢騎手と同じにタクシーに乗り込み競馬場に。私は工藤先生夫妻と南井くん(南井騎手の息子さん)と一緒に乗り込んだ。「とりあえず、競馬場の馬房に行って下さい。」と、運転手の方に言うと、今日はダービーグランプリだから混んでるよといいつつタクシーは出発した。みんなスタッドレスタイヤ或いはチェーンを履いていて、のろのろとしか車は進まない。時計を見ると、14時を少し過ぎようとしていた。なんとか間に合いそう。そう思うと、また今日は果たして帰れるのかということが心配になってきた。工藤先生に話をすると、レースの時間も30分遅らせると言っているし、無理だろうとのこと。ここまで来てレースを見ずに帰るというわけにもいかず、またこの分では帰りの渋滞はとんでもないものになると思うと、もう半分帰るのをあきらめざる得なかった。
坂で止まると危ないからということで、ダム回りの遠回りをして、タクシーは競馬場に向かった。すると、競馬場の方から戻ってくる車がちらほら。もしかして中止?とりあえず、関係者入り口の方に向かってもらう。入り口に立っている人がこちらに向かってきた。
「今、今日のレースの中止が決まりました。」予想通りの台詞。ほっとしたような、残念のようなよくわからない気持ちになった。工藤先生が「今日のレースで出走させる国営の(って、今はJRAですよとつっこみを入れそうになってしまった。)ものです。馬房に行きたいんですが。」と尋ねる。「出張馬房は3つめの厩舎を左に曲がって・・」言われたとおりに行くと、そこにはかなり立派な建物が。それが盛岡競馬場の出張馬房だった。
盛岡競馬場の厩舎。そこは一面雪景色の中に、とてもきれいな建物がきれいに並んでいた。厩舎の並びから一棟だけ離れて出張馬房はあった。その前でタクシーを止める。馬房のかなり重たい大きな扉を開けると、各地から集まった4歳馬たちが、左右に分かれて、レースに向けてスタンバイしていた。ウイングアローもちょっときょろきょろしていたが、入れ込んでいる様子でもなかった。久しぶりに見るアローはとても元気そうに見え、ここに来てよかったと、ちょっと嬉しくなる。となりにはナナヨーウォリアーが、これもおとなしくレースを待っていた。
関係者がちょうど協議中でこれからどうなるかわからない。とりあえず、岩手県の人が説明に来られたので、邪魔をせぬように厩舎の周りを見学することにした。競馬場についてからはほとんど雪はやんだが、空模様は相変わらずどんよりしている。まわり一面が雪野原でまるでその上に厩舎の建物が並んでいるようだ。出張馬房だけでなく、周りの建物すべてが真新しく、さすが最新の競馬場だと感心する。ところで、競馬場はどこだろう。ふと疑問に感じて、周りを見渡してみた。そう言えば、競馬場の正門をくぐることなく、こちらに来てしまったので、どちらに馬場があるのか、最初は見当も付かなかった。ようやく、厩舎と反対側に見える大きな建物がスタンドだとわかる。ということは、その手前に見える照明は、馬場を照らすためのものか。馬運車が数台止まっているところを抜けて、柵に登ってスタンドを覗く。すると真っ白なレースコースが目に入り、今登っている柵の向こうがちょうど1コーナーから2コーナーにかけての部分であることがわかった。ちらちら降っている雪の彼方に、ライトでぼんやり浮かんで見えるスタンドはとても静かな感じがした。
馬房の方に戻ってみると南井くんが「レースは12月上旬開催だそうです。」と教えてくれた。決定ではないようだが、レースはとりあえず行われるようだ。一応せっかく盛岡に来たんだからと厩舎の周りの写真を撮っているとしばらくして工藤先生と、フジワラファーム(ウイングアローの生産牧場)の方が戻ってきた。みんな今日は花巻温泉に宿泊するらしい。一緒に来るはずで遅れてしまった人たちも競馬場には来ずに直接花巻温泉に向かうとのこと。私ももう半分あきらめ一緒に泊めていただこうかと思ったが、万が一と思い、花巻空港に連絡を取ってみた。すると、今日の18時55分発は今のところ予定通りフライトするとのこと。「よかったわね。」工藤先生の奥さんも一緒に喜んでくださった。タクシーの運転手さんに聞くと空港は温泉ともそう遠くないとのこと。無事に帰れると思うと少し嬉しくなってきた。携帯電話でオーナーの池田さんに連絡を取ってみた。すると、もう盛岡競馬場を後にして、盛岡市内に向かっているとのこと。また、明日仕事があるので、同じ便で大阪に戻るということなので、花巻空港でお会いしましょうと約束した。
南井騎手と調教助手、そして南井くんはあとの車で花巻温泉に向かうことになり、工藤先生ご夫妻、フジワラファームの方と一緒にタクシーに乗り込んだ。工藤先生にウイングアローの話を伺うと、今日、とりあえず馬運車に乗せて栗東に戻すとのこと。調子も最高で、これからいかに体調を維持するかが難しいそうだ。今回の遠征も厩務員だけでなく、調教助手の方も同行して、かなり気を使って調教もこなしているらしい。フジワラファームの方と、これだけの馬を最後に(後一年で定年)管理できて本当に良かった等と話がはずむ。ラムタラの子(当歳)の話、そして母馬サンヨウアローのおなかの中にあるナリタブライアンの子の話。値が高くなるねと笑って話していたが、予定では池田さん、親父たちが共同で買うというらしい。一体いくらになるのか想像できないが、ナリタブライアンの産駒。是非活躍してほしいと思った。
盛岡競馬場から花巻まで、そんなに遠くないと思っていたが、ふと標識を見ると38kmとあった。その上、雪で大渋滞。運転手さんもどれくらいで着くかわかりませんと言う。競馬場を出発したのが15時すぎだったので、フライト予定時刻の18時55分をまさか過ぎることはないと思うが、ふと不安になる。しばらく走ると日がかげってきた。前方を見ると、空積みのトラックが後輪をスリップさせて、うまく走れていないようだ。夜になると気温が下がって凍結しますからねと、運転手さんの話。スタッドレスタイヤでは凍結路は走れませんと、心配なお話。花巻空港に着くまでに何台か、うまく走らない車を見かけた。飛行機が無事に飛ぶのか心配になり、万が一の時は一緒に泊めてくださいねと、工藤先生にお願いした。
結局2時間近くかかって、飛行場にたどり着いた。送っていただいた工藤先生にお礼を言い、タクシーを出た。寒い。確かに気温が下がっているのが、よくわかる。風邪を引いてはと思い、すぐに建物内に入った。案内を見ると搭乗手続き受付中とあり、ホッとする。池田さんにもう一度連絡すると、まだ盛岡市内でこれからリムジンバスで空港に向かうとのこと。仕方がないのでしばらく土産屋と2階にある食堂で暇つぶしをすることにした。
17時45分になって、もう一度受付のあるロビーに戻ってみた。伊丹行きの前に出発予定の札幌行き2便がまだ出発していないようだ。館内放送を聞くと、滑走路の除雪作業中で、まだその便に使う飛行機が、空港に降りてきていないようだ。何となく不安になってきて、案内板を確認に行く。すると、さっきまで搭乗手続き中とあった備考欄に天候調査中との表示。どきっとする。しばらくすると放送が入る。飛行機が降りられない場合は欠航になるおそれもあるとのこと。館内にどよめきが起こった。受付の人に話を聞いてみると、雪は降っていないのですが、凍結してきているので、今のところわかりませんとのこと。また不安になってくる。しかも今からでは18時10分盛岡発の新幹線に乗ることもできないし・・。大阪からの便が18時20分に降りてくる予定らしい。もし無事に降りて来れれば、出発できる。それがわかるまでの20分、時が経つのがとたんに遅くなったような気がした。まあ今更何もできないとわかっているがどうしても落ち着かす、土産物屋に戻ってみた。同じ便で大阪に戻るらしく熊沢騎手、それに佐藤騎手の姿が土産物屋にあった。「大変でしたね。」と熊沢騎手に声をかけ、またロビーへ。なかなか到着しない池田さんのことも心配になり、外に出て、気を紛らわすことにした。
外に出てみると、日が暮れてぐっと気温が下がってきているようだった。凍結するというのも充分あり得る。観光バスが次々に止まり、観光客を降ろしていく。盛岡からのリムジンバスは遅れているようで、まだ到着しない。道路ももしかすると凍結しているのかなと、それも心配になった。その時、滑走路の方で飛行機の音がした。今朝、実際に降りかけて、また上がってしまったので、滑走路の方を注意して見る。飛行機のライトが見えた。無事に到着したとわかり、これでおそらく大丈夫とホッと一息をついた。
気分も落ち着き、ロビーに戻ると、案内板には搭乗口にお入りくださいとの表示。よかった。と思っていると、間もなく遅れていたリムジンバスも到着し、池田さんも降りてきた。さっきまで危なかったんですよと話すと、よかったな、まあその時は花巻温泉やと、軽く言われる。待合室で飛行機への搭乗を待つ間、今日の話を手短にする。池田さんも、「今日の馬場なら、中止で当然。もし、あれで走ったらげたをはかせて走っているのと同じで、足いわしてしまうで。」と言っていた。確かにここまで来てというのは残念だったが、無理にレースが行われず、延期になったことには誰も異論がなかった。
飛行機に搭乗。機上ではぐっすり眠ってしまい、あっけないほど速く大阪に戻ってきた。リムジンバスで大阪駅まで、池田さんから持ち馬の情報をいただく。次回阪神開催で4頭の3歳を新馬に降ろすとのこと。特にセフティーアローは出たとこ買いですと、推奨してくれた。池田さんと大阪駅で別れ、家路に。大変な一日だったが、終わってみれば結構いろいろあっておもしろかったと思えてきた。12月に延期されるダービーグランプリは見に行けないが、今年のダービーグランプリディは一生忘れんなと、しみじみ思った。
追記:盛岡駅でお会いしたファンの方が、実はきくたけさんだと後日知り、その時お話しできなかったことが、少し悔やまれる。
(’98年11月25日)
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