【 Cool & Nice 】 |
オビ=ワンとアナキンはカウンシル・チェンバーの中央に立っていた。 円形のホールには中央の床の模様を取り囲むように、ぐるりと椅子が12席並んでいる。そこにはマスター・ジェダイたちが座っていた。居並ぶマスター達は実体だったり、ホロだったり様々だ。だか全員がいる。 一種異様な光景にオビ=ワンは圧倒されていた。 それも仕方ないだろう。クローン大戦が始まってから、マスター達が全員揃うことは稀で、しかも戦況が危うくなっている今、微笑をたたえてとは…。 オビ=ワンの横に立つ彼のパートナー、もとパダワンのアナキンはこの状況にも動じずにいた。 老ヨーダが口を開いた。 「近年、このコルサントでエネルギー不足が問題になっているのは知っておろうな」 「はい、知っています」オビ=ワンが答えた。 「一般市民が生活するためのエネルギーは、大戦が始まってからというもの常に足りずにおる」 「オビ=ワン、アナキン、君たちはクール・ビズと言うのを聞いた事があるか?」 メイスが静かに言った。 アナキンとオビ=ワンは互いに顔を見合わせた。 聞きなれない言葉だ。 「くーるびず…ですか」 「服を軽装にして、冷房の設定温度を上げ、エネルギーの無駄遣いをやめようと言う政府キャンペーンだ」 「なるほど。とてもよい案だと思います。ですが、それと私たちが呼ばれたことに関係があるのですか?」 「大ありだ」 最近カウンシルに迎えられたキット・フィストーが、オビ=ワンに向かってきっぱりと言った。 「君にモデルとなってほしい」 「モデル?わたしが?」 オビ=ワンがびっくりして目を見開いた。 「正確には君とスカイウォーカーがだ」 キットの言葉をメイスが訂正した。 「僕たちが…」 オビ=ワンはアナキンの短い言葉に喜びが含まれているのに気がついた。 軽く睨むと、アナキンは肩をすくめ、メイスに視線を戻した。 「元老院から要請があったのだ。交渉人、ジェネラル・ケノービと恐れを知らぬヒーロー、スカイウォーカーが広告塔になってくれれば、世の中への浸透も早いだろうということだ。やってくれるか」 「もちろんです。僕たちが努めさせていただきます」 「アナキン、何を勝手に!」 「でもオビ=ワン、人々の生活を守るためですよ。エネルギー不足で星の半分でも停電になったらどうするんです。人々はパニックに陥り、暴動が怒るかも」 パートナーの言葉に内心『そんなことあるわけないだろ』と思いつつ、だが自分よりフォースの強い彼が言うことを完全に否定することはオビ=ワンにはできなかった。 「そのクール・ビズの…なんというか、決まった衣装というのはあるのですか?」 「いや、ジェダイの服装でいい。ジェダイもこのキャンペーンに協力していることを強調するためだからな。君たちの顔は充分に知れ渡っているが、誰が見てもジェダイであると分かる必要がある」 「でもジェダイのチュニックは暑さにも寒さにも対応できるようにできているので、相応しくないと思いますが」 「質素な服装な我々がやるからこその効果があると元老院の高官たちは思っているようだ」 「そうですか…」 オビ=ワンの口からはそんな言葉しか出なかった。 ここでカウンシルのメンバーが集まって、自分たちが呼ばれ、更に断る口実が気が乗らないというだけの場合、これは決定された任務なのだ。 メンバーたちにわからないよう、オビ=ワンは小さな溜め息をついた。 「撮影する前の衣装合わせがある。まずそちらへ行って欲しい」 「わかりました」 アナキンが答えた。 「楽しみじゃ。楽しみじゃ」 かん高く、深みのあるヨーダの声が嬉しそうに部屋に響いた。 戦いではないところでジェダイが活躍する。久々の明るい任務が、カウンシルにとっても嬉しいのだろう。 みなが微笑んでいる。 カウンシル・メンバーたちの顔を見たオビ=ワンは、気が乗らなかった自分を恥じ、一礼をした。 そしてメイスが終了を告げる。 「では、フォースと共にあらんことを」 「こんな格好がクール・ビズなのか?」 用意されていた衣装に着替えたオビ=ワンは不満顔だ。 いつものチュニックと素材も形もほとんど変わらない・・・・・・が、袖がない。 「マスター、意外に似合ってますよ」 「意外は余計だ」 横に並ぶアナキンを鏡越しに見れば、肌着もチュニックもなく、今ではアナキンの個性のひとつとなっている合成皮革のサーコートのみ。 アナキンは鏡を見ながら自分のサーコートをピンと張ってみたり、少し緩めて肌を出してみたり、忙しない。 だが自分とと比べると、ワイルドで似合っている気がするとオビ=ワンは思った。 「私はさしていつもとかわらないと思うが・・・。それに袖がないだけで、あまり涼しく感じないな」 「だったらもうちょっと軽装にしてしまえばいいんですよ」 「それは用意してくれた人に悪いんじゃないのか?」 「いいじゃないですか。脱いだらもっといい感じに見えるかもしれませんし。そうなったらみんながこのキャンペーンに協力するかもしれませんよ」 「そんなものか?」 オビ=ワンは疑わしげに鏡に映った自分を見ている。 「そんなものですよ」 アナキンはオビ=ワンの後ろに立って、オビ=ワンのサーコートに手を掛けた。 「ほらマスター、二人きりなんだから恥ずかしがらずに思い切って脱いでください」 オビ=ワンが身につけている柔らかなサーコートをアナキンがぐいっと引っ張ると、サッシュからするりと抜け落ちた。次にチュニック、そして肌着と、オビ=ワンが上に身につけているものを取り去った。 「・・・・・・これは軽装とは言わないぞ」 確かに。 鏡に映った姿はどう見ても上半身が裸なだけだ。 アナキンは上着を取り去ったオビ=ワンを一歩下がったところで見つめた。 「うーん。これじゃちょっと平凡すぎるな」 そう言って、アナキンはやおらオビ=ワンのズボンに手を掛けて引き降ろした。 「な、なにするんだ!」 「正しく、尚且つ格好いいクール・ビズのあり方を探っているだけです」 アナキンは真剣な顔でオビ=ワンの姿をためつすがめつしている。 「これが正しいあり方の訳がないだろ。下着だけでは人前に出られないぞ!」 オビ=ワンの抗議の言葉など耳に入っていないようだ。 アナキンはオビ=ワンを見てはぶつぶつと独り言を言っている。 不意にアナキンが何かに気付いてハッと瞳を輝かせた。 「そうかっ、もういっそのこと!」 何のことかと問う前に、アナキンの指がオビ=ワンの下着にかかり、ずるりと引きずり降ろした。 「・・・・・・・っ!」 これではサッシュとユニットベルトのみではないか。 「こうやって・・・・・・失礼、マスター」 アナキンが固まっているオビ=ワンのユーティリティーベルトに手を添えて回し、ライトセーバーをくるりと体の真正面にもってきた。 オビ=ワンのブツのど真ん前にライトセーバーのグリップが…。 「ほら、これで前が隠れますよ」 今まで真剣な表情だったアナキンが、今にも笑い出しそうになるのを口を押さえて必死で堪えている。 一方、オビ=ワンはあまりのことに口がパクパクさせていた。 オビ=ワンの姿を正面から捉えた瞬間、ついに堪えきれなくなってアナキンは床にうずくまって笑い出した。 「ラ・・・ライトセーバーが二本…ッ!」 「なっ…なんてことをするんだ!」 我に返り、真っ赤になって下着を引き上げようとするのだが、ブーツにズボンと下着が絡まり、なかなか上手く上がらない。必死に直そうとするオビ=ワンの横で、アナキンはまだひーひーと笑い転げている。 「くそっ」 悪態をついたところで、絡まった服は解けない。 「なんでズボンと下着だけでこんなに絡まってるんだ…っ」 絡まりの原因であるブーツのベルトに引っかかっていた布をベルトの留め具から外していると、急に、横で笑い転げていたはずのアナキンが、何かに気付いたように静かになった。 先程とは打って変わって、真剣な目つきだ。 今まで自分たちの姿を映していた鏡を眉をひそめて睨んでいる。 「どうしたんだ」 しぃっとアナキンが指を唇に当てて、静かにしろとサインを送ってきた。 オビ=ワンはそれに従い、口を閉じ、ぴたりと動作を止めた。 ・・・かなり情けない格好ではあるが・・・。 アナキンは鏡を睨んだまま、オビ=ワンにも聞こえるか聞こえないか、ほんの小さな声で囁いた。 「・・・・・・マスターのライトセーバーをちょっとお借りします」 そう言ってアナキンはオビ=ワンのライトセーバーに手を伸ばした。 『何で自分のを使わないんだ』オビ=ワンが言おうと思った言葉は、口から零れ出ることはなかった。 替わりに出た言葉は… 「ぎゃーっ!」 オビ=ワンのブツが、アナキンの手に握られていた。 「おっと、こっちは自前のライトセーバーですね」 くるりとオビ=ワンの方へ振り返ったアナキンがニヤリと笑った。 そしてにぎにぎと手を動かした。 「ばっ!ばかものー!!」 真っ赤になって叫んだオビ=ワンを尻目に、アナキンはオビ=ワンの『自前』を離し、『本物』のライトセーバーを起動させて、姿見をずっぱりと斜めに断ち切った。 ゴトンと大きな音を立てて、床に落ちた鏡面と背面の間に、機械の一部と思われる部品が見えた。 「ホロカメラです」 「一体なんでそんなものがこんなところにあるんだ」 「なんでって、盗撮に決まってるじゃないですか」 オビ=ワンはようやく下着とズボンを引き上げ、ライトセーバーで焼き切られた記憶装置を不審気に調べはじめた。 「映像の転送装置はついていませんね」 オビ=ワンの背後から壊れた機械を覗き込んでいたアナキンが言った。 「つまり?」 「つまり、あなたの裸は中継されてはいないってことです。そこまでの根性はなかったみたいですよ」 よかったですねと言いながら、今度は顔を近づけて機械を調べ始めた。 「確かにそれはよかったが、誰がこんなものを」 「誰が何のためにやったのか、当たりはついていますよ、マスター。でも・・・・・・よっと」 鏡の中からホロカメラを取り出した。 「たまには知らない方が良いこともあるんですよ」 そう言って、アナキンは眉をひそめるオビ=ワンにウインクを投げた。 オビ=ワンは納得いかない様子だ。 オビ=ワンには知られていないが、ジェダイ・テンプル内にはオビ=ワンのファンクラブなるものがある。 日々オビ=ワンの行動を追跡し、愛でる会。 カウンシルがその総本山になっていることを、アナキンは知っていた。 今回の任務を預かった時にピンときたのだった。 オビ=ワンの裸を見られるというめったにないチャンスを彼らが逃すはずはないと。 そしたら、案の定だ。 当のオビ=ワンは「なぜ男の裸なんて盗撮するんだ」とぶつぶつ文句を言っている。 そんなオビ=ワンの様子を余所に、アナキンは手の中にある機械を弄っている。 すると、チカチカと赤いランプが光った。 どうやら録画装置は壊滅したようだが、録音装置が生きていたらしい。 アナキンは機械に口を近づけた。 「みなさん、無駄な努力です。簡単にはオビ=ワンの裸は見せませんよ」 そう機械へ言い放ってから、再び手の中のホロカメラ弄ると赤いランプが消えた。 「何のことだ」 「こっちの話です」 壊れたカメラを床に置いて、アナキンが満足そうにオビ=ワンへ向かってにっこりと笑った。 「さてと。これで盗聴される恐れもなくなりましたよ。せっかくあなたが脱いだことだし、このまましちゃいましょうか」 「なんだって?」 あまりに唐突な展開にオビ=ワンはぽかんとしている。 「・・・・・・クール・ビズは何処へ行ったんだ」 「そんなの、セックスして汗をかけば、自然と涼しく感じますよ」 にやっと笑ったアナキンが、上半身裸のオビ=ワンを抱き竦めた。 そこから後は二人だけのひみつ。 伝説のジェダイ・ナイトも応援するクール・ビズ!みなさんもご協力を! Fin |
2005.07.16up |
たまにはこんなお話はいかがでしょ?^^; 初「自前のライトセーバー」ネタです。 あくまでも舞台はコルサントです。地球の、ましてや日本という国のお話ではありません。 因みに、キット・フィストーもオビ=ワンファンクラブの一員です。会長はメイス。名誉会長はヨーダ。会計は…バリスで。(何となくバリスって細かそうかなぁって) 先日、友人が私が着ていた服を見て、「ジェダイ衣装のクールビズ…」と言ったのがきっかけでした。そこから二人で悪乗りして、こんなんだったりしてー!と仕事の休憩中に爆笑してたのです。夏の新刊を書く前に、こんなのを書いてみました。あやちゃん、これで満足? |