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自転車事故の損害賠償請求




自転車事故の悲劇

自転車は、免許が要らない最も身近な乗り物ですが、歩行者に衝突すれば相手を死亡させてしまうこともあります。このような場合、自動車と同様、刑事的に重過失致死傷罪などに問われ、民事的にも損害賠償請求をされる可能性があります。自動車のように損害賠償責任保険に加入義務のない自転車の運転者は、損害賠償請求をされると多額の支払を自己負担することになります。

自転車事故の発生状況(平成22年)

警察庁によると、自転車が(第1・2)当事者となった交通事故件数(自転車関連死亡事故件数)は、6年連続で前年より減少し、15万1,626件と10年前(平成12年)の0.87倍となっています。しかし、近年は交通事故全体の件数が減少している中で、自転車事故は交通事故全体の20.9%を占めており、これは10年前の1.12倍となっています。

自転車が(第1・2)当事者となった死亡事故(自転車関連死亡事故)件数は、10年前の0.67倍と減少傾向にはありますが、死亡事故全体に占める割合は10年前の1.23倍となっています。原因は、自転車の普及台数の増加だけでなく、携帯電話の普及、運転者の交通マナーの悪化もあると言われています。中高校生の自転車対高齢の歩行者の事例が典型です。

自転車事故の被害者になったときは

自賠法にいう自動車とは、農耕作業用の小型特殊自動車を除き、原動機付自転車(バイク)を含みますが、自転車は除かれています。自賠法が適用される場合と異なり、被害者は、加害者である自転車の運転手の過失を主張、立証しなければなりません。したがって、被害者は加害者の過失の証明ができないときは、加害者に対し、不法行為責任を追及できず、損害賠償請求が認められないことになります。

損害賠償額の計算方法は、自転車事故と言えども、自動車事故や単車事故と原則的に同じで、違いはありません。交通事故証明書、診断書、診療報酬明細書、休業損害証明書などを根拠に口頭ではなく、損害額計算書を作成し、請求することをおすすめします。なお、後遺障害については、自転車事故の場合は後遺障害等級認定申請はできませんので、医師と相談して自賠責保険の後遺障害別等級表に当てはめ、損害額を算定することになります。

自転車事故の加害者になったときは

交通事故と言えば、自動車事故ばかりイメージしますが、自転車も軽車両に該当し、自動車との事故は車両相互事故として、また歩行者との事故は人対車両事故として扱われます。自転車事故でも交通事故であり、警察への届出は必要です。

加害者である運転者は、自転車事故を起こすと民法第709条の不法行為責任を負います。加害者である運転者以外の者は、民法715条の使用者責任または第714条の監督者責任の適用がある場合を除き、たとえ加害自転車の保有者であっても責任を負うことはありません。

近年、自転車事故が多発していますが、収入のない中高校生が加害者のときは、損害賠償金の支払いが大きな問題となります。

自転車事故による損害賠償例

  • 小学5年の少年が、帰宅中に時速20〜30キロで下り坂を走行中、知人と散歩していた女性に正面衝突、女性は転倒して現在も意識不明。(損害賠償命令 9,500万円(現在、控訴中))
  • 高校2年の男子が、登校時に猛スピードで下り坂を走行中、高齢者と接触し、高齢者は転倒して死亡。(損害賠償額 1,054万円)
  • 高校1年の女子が、傘をさしながら走行中にT字路で自転車と出会い頭に衝突し、相手方の左大腿部を骨折させた。(損害賠償額 505万円)
  • 高校1年の女子が、道路の右側を走行中に対向してきた主婦の自転車と接触し、主婦は転倒、後日死亡。(損害賠償額 2,650万円)

中高校生も責任を負うの?

中高校生が自転車事故の加害者になった場合、損害賠償責任について、判例で中学生にも責任能力を認めていることから、当然に高校生にも責任能力はあるとされます。したがって、中高校生でも損害賠償金は就職して給料が貰えるようになってから支払うことになります。また、民法第714条では「責任弁識能力のない者の責任は、監督義務者がその責任を負う」としていますので、被害者は、加害者の親等に対して損害賠償請求をすることができます。

自転車事故の過失相殺

過失相殺については、自転車には運転免許制度がないため、自転車のすべての運転者につき、一定の安全運転能力を確保することができないことを考慮に入れる必要があります。

自転車対自動車の交通事故

自転車対自動車の交通事故については、弱者である自転車を保護するため、過失割合を自動車同士の交通事故の場合より、自転車の過失を2割程度軽減するのが一般的です。

自転車対自転車の交通事故

自動車同士の交通事故と原則的には同じです。

自転車対歩行者の交通事故

自転車対歩行者の交通事故では歩道上の事故が多く発生しています。自転車は、道交法上は車両ですから、歩道または路側帯と車道の区別のある道路では車道を通らなくてはなりません。一定の条件のもと、自転車も歩道を通行できますが、その場合、注意しなくてはならないのは、歩行者は特別な事由がない限り、原則として過失はなく、自転車側に全面的な過失があるということです。

自転車事故の示談交渉

自転車事故の場合、原則として加害者自身が被害者と交渉しなくてはなりません。自転車の運転者が未成年の場合、親権者である父母が法定代理人として示談交渉を行い、示談を締結することになります。

自転車事故の紛争解決

加害者が不誠実な態度を取る場合、「受取っていない」あるいは「そんな内容ではなかった」と言い逃れをする恐れがありますので、損害賠償請求書は内容証明郵便で出されることをおすすめします。自転車事故の場合、多くは損害額が少額であるため、示談交渉が困難なときは、簡易裁判所の少額訴訟手続きを利用するのもよいでしょう。

損害賠償に備えるTSマークとは

損害賠償の自己負担を回避、あるいは軽減する方法として、1枚のシールをご紹介します。シールは、警察庁の外郭団体・財団法人日本交通管理技術協会(東京都新宿区)が発行しているもので、交通安全(Traffic Safety)を意味する英語の頭文字を取ってTSマークと呼ばれています。

TSマークは1979年、それまで車道を走っていた自転車を、標識のある歩道に限り通行できるよう道路交通法を改正した際に、歩行者保護の観点から安全整備制度として導入されました。その後、自転車事故の被害者救済になる保険が加わり、現在に至っています。

全国に約1,500店(平成23年2月現在)ある整備士のいる店(自転車安全整備店)で自転車を購入したり、点検整備を受けると、このマークが付いてきます。協会の技能検定に合格した自転車安全整備士が点検整備をし、安全だと認定した印ですが、それだけではありません。下表のように自分が怪我をした場合の傷害保険と、相手に対する賠償責任保険まで付いています。

点検整備済みTSマーク

傷害保険
対象者は、TSマークが貼られている自転車に搭乗中の者または同乗者です。

第一種(青色)
第一種(青色)
第二種(赤色)
第二種(赤色)
事故の日から180日以内に死亡または重度後遺障害を被った場合 一律 30万円 一律 100万円
事故によって、入院加療15日以上の障害を被った場合 一律  1万円 一律  10万円
賠償責任保険
第一種(青色) 第二種(赤色)
TSマークが貼られている自転車に搭乗中の者が、第三者を死亡させたり、重度後遺障害を負わせたことにより、法律上の損害賠償責任を負担した場合 一律 1,000万円 一律 2,000万円
有効期限
TSマークに記載された点検日から1年間(記載された日の1年後に当たる日の午後12時まで)です。保険の有効期間は1年なので、せっかくマークが貼ってあっても期限が切れていることがありますので、再度、整備士に点検してもらい、更新しておくことが必要です。
TSマーク貼付料金
TSマークを貼付するための点検整備料金(部品交換は別途) 1,000円〜2,000円程度
(点検・整備をする料金により、異なります。)

保険請求にあたっての注意点
  • 搭乗者は、自転車の持ち主である必要はありません。保険は自転車自体に掛けられていますので、家族、友人などに貸して交通事故が起きた場合、借り手も補償されます。
  • 搭乗中とは、自転車から降りて押している場合も含まれます。
  • 交通事故は、道路で起きたものに限らず、マンション等の廊下や階段などで起きたものも含まれます。
  • TSマークは、黄色シールの防犯登録とは異なります。防犯登録は盗難などの被害にあったときに自転車が所有者に戻り易くするためのもので、保険は付いていません。
  • TSマークに点検年月日と自転車安全整備士の登録番号が記載されていない場合は無効となります。

基準適合TSマーク

基準適合TSマークは、道路交通法令などに定められている基準を満たし、国家公安委員会の型式認定を受けた場合に貼り付けることができます。

付帯保険・基準適合TSマーク(緑色)
付帯保険・基準適合TSマーク(緑色)
駆動補助機付自転車及び普通自転車の型式認定を受けた自転車に貼付されます。このTSマークには、傷害保険(入院15日以上のケガ、死亡・重度障害)及び賠償責任保険(限度額1,000万円)が付いています。
保険の内容は、点検整備済みTSマーク(赤色)と同じです。

基準適合TSマーク
基準適合TSマーク
電動車いす、駆動補助機付自転車、けん引用具、停止表示板(灯)、運転シミュレーター等に貼り付けられます。

自転車事故で利用できる保険

自転車の場合、自動車と異なり、強制保険(自賠責保険)はありませんので、損害賠償に備えるには任意保険に加入する必要があります。

自転車事故 自動車事故
強制保険 × 自賠責保険
任意保険 TSマーク、個人賠償責任保険など 任意の自動車保険

個人が第三者に損害を与えた場合(過失で他人に怪我をさせた場合や他人の物を壊した場合など)、加害者が被害者に対する損害を補てんする保険として、個人賠償責任保険や自転車事故によって被害者になってしまった場合、または加害者自身も怪我をしてしまった場合に利用できる保険として傷害保険があります。

傷害保険は、自転車に限らず、さまざまな事故に対する備えとなります。交通事故、旅行、仕事等における急激かつ偶然な外来の事故による怪我を補償する「普通傷害保険・家族傷害保険」や交通事故、建物・乗物の火災等による怪我を補償する「交通事故傷害保険・ファミリー交通傷害保険」などがあります。

個人賠償責任保険は、傷害保険、自動車保険、火災保険などに付加されている場合がありますので、自転車事故を起こしてしまった場合、加入している保険すべてを確認する必要があります。また、日本サイクルスポーツ協会や日本サイクリング協会、日本マウンテンバイク協会などに入会すると、自転車総合保険のような補償を受けることもできます。

事故の相手 自分 備考
身体 財産 身体
TSマーク付帯保険 × 自転車安全整備店で購入または点検整備を行い基準に合格した自転車に貼付。
個人賠償責任保険 × 損害保険各社で取り扱い。
傷害保険 × × 損害保険各社で取り扱い。
賠償責任(オプション)あり。

自転車に関する罰則

道交法では、自転車は軽車両に分類され、自動車のように行政処分となる反則金制度(青切符)はありませんので、摘発を受けると刑事罰対象の赤切符が交付されます。最近では、競輪用「ピスト」などブレーキの無い自転車(ペダルを逆回転させて速度を落とす自転車)の取り締まりも始められ摘発されています。

飲酒運転の禁止 酒酔い運転は自動車同様に、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
安全運転義務違反 手放し走行やスピードの出しすぎは安全運転義務違反で、3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金
二人乗りの禁止
(乗車積載方法違反)
16歳以上の人が、6歳未満の幼児を、幼児用座席に乗せるかひも等で背負った場合を除き、2万円以下の罰金、または科料
(前後に付けた幼児用座席に子供を一人ずつ乗せる三人乗りも車体の強度やブレーキが十分、発進時・走行時・押し歩き時・停止時の操縦性・操作性・安定性が確保されている等一定の条件を満たした場合も除く。)
夜間ライト点灯義務 5万円以下の罰金
ブレーキ不良自転車の運転禁止 5万円以下の罰金
重大な過失で人を死傷させたときは重過失傷害や重過失致死が適用 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
車道の右側走行 3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金
歩道の走行 「自転車通行可」の標識がある場所と、13歳未満の子供、70歳以上の高齢者、身体障害者及び交通状況から見てやむを得ない場合を除き、3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金
歩行者の安全を考えず、歩道内(自転車通行可の歩道)を自由に走行 2万円以下の罰金、または科料
並進走行 「並進可」の標識がある場所を除き、2万円以下の罰金、または科料
信号無視 3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金
交差点での一時停止違反 3ヶ月以下の懲役、または5万円以下の罰金
傘差し、犬を走らせたりしながらの運転、携帯電話で通話・メール操作をしながらの運転、ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴きながらの運転 5万円以下の罰金等(地域によって異なる)





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