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都市の条件


目次

  1. 都市の概念
  2. 弥生時代の例
  3. 都市の条件

1.都市の概念

都市の条件を考えるために、まず「都市」という語について検討する。『世界歴史事典』の説明が示唆に富んでいると思われる。長文だが引用すると、

「都市という名で呼ばれるものは各時代によって甚だ差異があり、西洋史上の諸地域、時代を通じる都市概念を求めることは困難である。現代では、わが国でも西洋諸国でも、人口数をもって都市と村落を区分する基準としており、都市が比較的多数の人口の集住状態であることは歴史的にもいえることであるが、もちろん人口数のみを基準とすることは不可能である。都市はそのほか市場の所在地、商工業の中心、教会、官衙の所在地、軍事上の拠点ないし軍隊の駐屯地などの諸性質を単独で、あるいは組合わせて具えている。右の諸性質がいずれも農村的でないことは注意を要することで、都市という存在は非農民の集住地である」(『世界歴史事典』第14巻、平凡社、1953年。引用部分は今来陸郎による)

次に、『日本考古学事典』によると、「政治・経済・軍事・宗教などの機能が集中して著しく発達し、集住の程度が高い居住地を農村と区別して一般に都市と呼ぶ」「都市がすべてこれらの機能を備えているとは限らない。また、これら各種の都市の区分や都市と農村の区別の基準は世界の各地域各時代によって異なる。その区分の可否はその社会を理解するうえでの有効度によって判断されるべきであろう」とし、V.G.チャイルドによる都市の特性の例やイギリス考古学会による歴史的都市の判定基準を挙げている(田中琢・佐原真編『日本考古学事典』三省堂、2002年。引用部分は前川要による)。一般的にも都市という語の対義語は、「農村」「村落」である。都市は概念的に農村と区別されるのであり、「農村」「村落」との比較において、都市の概念は規定されると考えるのが妥当であろう。

ここで、注意しておくべきなのは、「都市」の条件を予め決めておいて、それに合う/合わないと言うことによって弥生時代に「都市」があるか否かを問うことは、順序が逆であるということだ。例えばチャイルドによる都市の特性を「条件」として、無批判に弥生時代に適用することは、チャイルドの抽出した「西アジアを中心とした成立期の都市」が弥生時代にあったか否かを知る意味では無意味ではないが、弥生時代に「都市」と呼ぶべきものがあったか否かを問う意味では、意味を成さない。なぜなら、チャイルドの抽出した「都市の特性」そのものが、あらゆる「都市」に適用し得るものであるか、それとも「西アジア」という地域に留まるものなのか、という点が検証されるべきものであり、その逆では無いからである。つまり「弥生の都市らしきもの」に適用できないのであれば、まずは「特性」のほうを再検証すべきなのであって、「特性」に当てはまらないから「弥生に都市は無い」と言うことは順序が逆なのである。(もちろん、大いに参考にすべきであろうことは言うまでもない)

そうしたことを考えれば、弥生時代における「都市」を考えるためには、まず、多数の集落の中から区別されるべきような集落を見出すことから始めなければならないだろう。その後でその集落に見出すことの出来る、周辺と明らかに異なる特徴、諸性質を弥生時代における「都市」の条件である、と言うべきであろう。その上で、その「都市の条件」の有効度によって、「都市の条件」は検証される必要があると考える。

2.弥生時代の例

「都市」に当たる集落を考えるに際して、集落の規模に目を向けるとするなら、大規模の集落について見ておくのがよいだろう。ただし、一つの大集落だけを見るよりは周辺集落との関係を見るべきであると考える。大集落が「都市」であるか否かは、周辺の他の集落を「農村」と見、それと区別するということによって示されなければならないからである。都出比呂志によると大阪府の安満遺跡では平野部の中心集落から分村した人々が丘陵上に数個の小集落を構え、中心集落と有機的な関係を結んでおり、このような関係は弥生時代中期の近畿地方の各地において普遍的に認められると言う(都出比呂志「農耕社会の形成」『講座日本歴史1 原始・古代1』歴史学研究会・日本史研究会編、東京大学出版会、1984年)。また、都出はこのような集落の大規模化は、高地性集落の発達とともに弥生時代の政治的緊張と関連付けて理解すべきであり、大阪府の池上曽根遺跡のような、大規模集落についてもこの点から理解すべきであるとする。ただ、この場合、小集落が「農村」であると見ることには問題が無いが、敢えて大集落を「農村」ではないと見るほどの差異があるか、それとも単なる大きな「農村」であるかが問題となる。

池上曽根遺跡では、大型の堀立柱建物や井戸が見つかっており、その周りに「工房」と見られる建物が見つかっている。それらから専業工人の存在が指摘され、こういった点で「農村」と異なるが故にこれを「都市」と見るべきであると言う意見がある一方、石器の使用状況が他の中規模の集落と比較してもそれほど差は無いとして、質的には「農村」と違いがないと見る意見もある。

3.都市の条件

弥生時代の都市の条件を見るには、大集落と周辺集落における関係を見る必要がある。大集落が規模においても、物資の流通の面においても、周辺小集落との違いを有していることは間違いのないことなので、質的な差異を見出すことによって都市の条件を見出すこととなると思われる。



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This is Historical. Japanese only.
Author: KAWANISHI Yoshihiro
Created: June 23, 2006
Revision: $Id: toshi-no-joken.htm,v 1.1 2006/11/26 11:26:57 yokawa Exp $

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