2010年3月

2日(火)
 いつの間にやら3月に入ってしまいましたねぇ。先日、太宰治好きの嫁さんに誘われて、生田斗真が主演している〈人間失格〉を見てきました。映画の内容云々の前に、生田ファンとおぼしき50代くらいのおばちゃん集団の近くに座ってしまい、映画が始まってもペチャクチャと喋りまくっていました。

 しかし、映画の始まる前の注意事項で、ペチャクチャ喋るなというCMをわざわざ流しているのに、それを見た後に映画の開始直後に無駄話を始める神経っていうのはどうなっているのか全く理解ができませんね。夜だったのであまり人数が多くない中、その集団だけしゃべり始めれば否が応でも目立つわけですし、普段は映画館に立ち寄らない人なのか、それとも映画館に入るたびにそのような醜態を晒しているのか分かりませんが、どちらにしても偶々そのような集団に遭遇してしまったのは不運でした。

 映画の内容としては、生田斗真の演技もなかなか良くて、彼がなぜにイマイチ売れないのかっていうのが前々から分からないのですが、三田佳子、室井滋、寺島しのぶ、石原さとみ、小池栄子、大楠道代、坂井真紀というそうそうたる女優陣との絡み合いもそつ無くこなしていまして高評価です。ただ、森田剛がいけなかった。同じジャニーズ事務所ということで出させて貰ったのでしょうが、キーパーソン的な役割に森田剛を置いてしまったことによって、映画の雰囲気が全体的に駄々壊しという結果になってしまいました。あんなに流れをぶった切るセリフ読みって、ここ最近ではあまり見たことがありませんでしたが、日本にラズベリー賞があれば最有力の助演男優賞候補となることでしょう。生田斗真が上手かった分、森田剛の酷さが目に付いてしまったのでした。

 ストーリーとしては(ネタバレを少々含みます)、太宰の人間失格の映画化というよりは、太宰治伝的な内容でして、太宰治好きの嫁さんは不満タラタラですが、別に太宰に何の思い入れもない宮地としましては、女癖と酒癖の悪いダメ人間の話として楽しく見させてもらいました。監督は〈赤目四十八瀧心中未遂〉の荒戸源次郎でして、寺島、大楠などはその関係でキャスティングされたのでしょう。寺島に心中シーンをさせたり、三田佳子に薬物中毒の子と絡ませたり、なかなかな監督さんなのか角川歴彦なのか知りませんが、イタズラ心が随所に溢れていたりします。というわけで、作品自体としてはなかなかなのですが、森田剛が全てを壊してしまった。そういう出来上がりになっています。

 ところで話は全く変わりますが、経済史みたいなジャンルの研究っていうのは、先行研究との対話と、実証という、2つが出来てこそ、はじめて研究として成立すると思うのですが、なかなかこの両者を共にバランス良くやるっていうのは難しいんですよね。現在の大学院っていうのは、まさにこの2つをトレーニングする場だと個人的には思っています。ただ、すでに職に就いている人たちでも、先行研究との対話が十分でないとか往々にしてありますから、それで何とかなってしまっている状況を目にしてしまうと、なかなか院生とかにアドバイスするにしても難しこともあります。

 でもまぁ、言えることは、そういう牧歌的な状況でも就職できた人たちとは時代は違ってきているんだから、ちゃんと先行研究と対話して、実証もして、そして全国的な査読誌に通して、そこではじめて就職戦線に名乗りを上げることができますよ、っていうことです。大学業界の変化っていうのはここ10年、20年でかなり激しいので、上の世代の「常識」が下の世代には当てはまらないこともかなり多いです。そういうのを踏まえた上で、自分を律しながら研究を黙々と続けるのが、一番求められていることだと思います。そのためのサポートを惜しみなくする用意と義務が、多くの教員にはあるはずですしね。

7日(日)
 同じく陶磁器業の研究をしている大森一宏先生からひょっとメールが届いて、阿部武司さんや粕谷誠さんが陶磁器業研究者がそれなりに揃っていると気付いたみたいで、山田雄久先生を含めて3人で秋の経営史の大会で何かパネルをということでした。まだ大学院生の頃から、いつかは大森先生や山田先生と一緒にパネルとかをやる日が来るのかなぁっと、学会などに顔を出した時に漠然とイメージしていたこともありましたが、そういうお話が実際に来てみるとなかなか感慨深いものがあります。僕の一番得意とするフィールドは地元の東濃ですが、山田先生が有田、大森先生が瀬戸や常滑あたりを得意としているので、その辺の得意分野の違いが生かせたパネルが出来ればいいんですけどねぇ。

 やっぱり遠路はるばる札幌まで行くのですから、何か報告も1つくらいやらないと勿体無いですかね。しばらく北海道には行っていませんので、札幌は福岡とはまた違った魚介類を食べに行くのをもともと楽しみにしていました。大森先生に誘われたので、パネル報告に秋の味覚にと、充実した北海道になりそうです。それにしても、秋の札幌は何がシーズンなのでしょうか。秋刀魚、鮭などがすぐに思い付きますけど、北海道でしか食べられないような美味なものを探したいところです。

12日(金)
 そういえばしばらく前のことになるのですが、深川でドジョウとナマズを食べて来ました。川魚っていうのは泳いでいた水の良し悪しっていうのが如実に味に出てきますから、清流で養殖したものの方がお味が良くなってしまうという逆転現象をみせているとか。何でも自然が良いっていう訳ではなく、人間に合うように技術を洗練させていく営みのスマートさをも味わった気分です。自然のままのドジョウとかナマズだと、泥吐きとかさせるのもかなり大変でしょうからねぇ。

 とはいうものの、ドジョウ丸鍋っていうことで姿がくっきり分かる感じで食べたドジョウは、流石に癖のある食べ物でして、柳川鍋として卵でとじてゴボウと一緒に食べる方がスッキリしています。丸鍋だと小骨の多さも少々気になるのですが、ガッツリ食べているとそれもまた離れ難くなってくるから不思議なものです。ナマズの方は、思っていたよりも骨が頑丈な生き物でして、アンコウのイメージがあったので漠然と骨は柔らかいという先入観があったのですが、似て非なる生き物でした。ナマズの旬は冬みたいでして、もうすぐ食べられなくなってしまいますが、ご関心のある向きは是非ともナマズにも挑戦して貰いたいところです。淡泊でふっくらしています。

15日(月)
 福岡では、例年よりもかなり早く桜の開花宣言が出まして、今年の見ごろは3月中になってしまいそうですが、4月上旬には落下盛んな中でのお花見になってしまうのでしょうか。毎年この時期は、冬物をいつクリーニングに出して収納するのかというのが頭を悩ますところなのですが、そろそろ半分くらいはクリーニングに出してしまおうかと思案中です。ここで冬物を全部片付けてしまうと、パット寒さが戻った時に身震いすることになるんだと、そろそろ学習してたわけです。毎年、大変なことになっていますからねぇ。

 ところで、3月15日ということで、延ばし延ばしになっていました確定申告に行ってきました。西南学院大学で非常勤講師をしている関係で、どうしても追徴で納税しなければならないものでして、その手続きが必要になってしまうわけです。総理大臣が数億円の脱税をしても、逮捕されないどころか、重加算税さえ取られないような国ですから、今年は確定申告へ行くのが嫌で嫌でたまらずにここまで延ばし延ばしになっていた訳ですが、脱税犯が首相をやっているからといって自分まで脱税をするのは、やはり道義的にどうかとも思いますから確定申告に行ってきました。

 手続きしながら、税務署の受付をやっている担当者に嫌みの一つでも言ってやろうかというのも、頭の片隅をよぎっていきましたが、どうせ大量の申告者から嫌みを沢山言われているでしょうから、それもグッと我慢をしてやめておきました。窓口の担当官に不満をぶつけても詮方無いことは理性では理解できますが、脱税し放題だった総理が納税しろという呼びかけるこの国で、こちらは確定申告で追加で税金を取られるんですからハラワタが煮え繰り返るばかりです。

23日(火)
 行きつけの焼鳥屋さんのご家族がお花見だということで、嫁さんとともに誘われて今年1回目のお花見に行ってきました。3分咲きといったところでしたが、昨日はとってもうららかな陽気で、さらに黄砂に吹かれることもなく、絶好のお花見日和でした。25年来の常連さんご夫婦もご一緒で、酔いが深まるにつれて箱崎弁が何を意味しているか次第に聞き取れなくなっていきましたが、博多弁と福岡弁が違うだけではなく、博多弁と箱崎弁も違うんだということを力説されながらまどろんでいきました。

 大将は佐賀県出身らしいのですが、風呂がすずるっていうのが通じないってボヤイテいましたが、すずる、っていうのが水などが溢れるっていう時に使う方言らしく、それは分からないよなぁって言う話になっていました。僕の言葉なんかは語尾やイントネーションで方言が出るくらいで、単語でそういう分からないっていうことは少ないと思いますが、九州とかだとけっこう単語レベルで分からないものがあって面白いものです。ちなみに、大将のすずるは、五島出身のおかみさんでも分からなかったみたいですが。

 次は、嫁さんの通っている美容室の美容師さん達と一緒に、院生や学生なども交えて、お花見をするとかいう話になっていますので、その頃にはもう一歩桜の開きも進んでいそうで楽しみなところです。でもその前に、昨年だかに行った香椎宮の桜をまた見に行きたいなぁって言う気もしますので、ブラっとそちらに足を延ばして堪能するっていうのも一興です。この季節っていうのは桜に行動が規定される日々が続きますので、なかなか忙しいものがありますねぇ。

26日(金)
 社会経済史学会へ投稿していた軍艦島の論文の審査が終わって帰ってきました。いわゆるC判定で返って来たのですが、政治経済学・経済史学会の編集委員会などに出ている関係で、審査報告書の読み方というのが身に付いているのでだいたい相手側の言いたいことが分かってしまいまして、意訳すると、実証部分はそれなりに面白いので研究ノートになら簡単な手直しで掲載してやるけど、論文にするなら腰を据えて頭を捻りながらもう少し時間をかけて手直せ、っていう感じの審査結果が送られてきました。

 史料的に充実させていく部分は、簡単に得られる史料での分析は終わってしまって、査読の要求を満たすためには膨大な史料からの金脈発掘というところへ入っていきます。溢れる時間があれば既にやっていたのですが、ここから先は史料発掘の労力がグッと上がりますから躊躇していたところでもあります。研究史整理の部分は石炭産業史上だけではなく日本経済史上の意義をもっと明確化しろという、まぁ確かにそうなんですが大変な枠組み整理を迫られてしまいました。大学院時代にでも戻ったような気持で、もう一回いろいろと文献もひっくり返してみようかなぁなどと思っています。

 他人へのアドバイスとしては好き勝手に話していても、いざ自分が論文を書いている時には、無自覚に易きに流れてしまっていた部分を、改めて久しぶりの査読される側の立場で指摘されて目からウロコが落ちる思いです。自分のスタンスを反省して、もう一度論文改訂に精を出すこととしましょうか。

30日(火)
 先週末は2回目のお花見ということで、香椎宮にふらふらと行ってきたのですが、箱崎よりも香椎の方がやはり少々気温が低いようでして、香椎の方が桜の開きは遅くつぼみもまだ目立っていました。2年前に行った不老水に是非とも辿り着かなければと、桜もほどほどにして不老水探索にふらついていたのですが、今回は無事に不老水まで行き着くことができまして、どれだけ長生きしたいんだって言うくらいたっぷりと飲んできました。買ったばかりのお茶のペットを持っていたのですが、お茶を全部捨てて不老水で満たしたのでした。

 そこの不老水でご近所のお婆さんがお散歩していまして、何歳に見えるかって聞かれたんですね。お世辞じゃなく70代だろと思って73歳とか答えたのですが、88歳とのことでビックリ。さらに、近所のお爺さんは90歳まで元気にしていたんだけれど、自転車でこの前こけて怪我したっていう話で、更に驚いたわけです。不老水の近所はみんな同じ水だっていう話だったんですが、不老水の裏には広大な山が広がっていまして、そこで濾過された水が井戸水として用いられているのでしょう。

 飲んでみますと硬水のような感じでして、コントレックスの湧き出る村が長寿の村だといいますが、不老水も多分同じようなメカニズムで長寿となるのでしょう。となると、硬水を飲むということはかなり健康に良いのでしょうねぇ。同じ衛生環境で同じ食生活だとしたら、硬水中心の生活が理想なのかなと思いつつ、でもコントレックスを中心的な飲料にするには価格的なぁなどと思うわけです。でもそれを突き詰めていくと、ミネラルを多く採るのが健康に良いっていう当たり前の話になってしまいまして、まぁそういう事なんでしょう。

 ところで、嫁さんと一緒に歩いていたところ、彼女の頭に鳥のフンが降ってきました。人の頭に鳥のフンが降りかかるところというのを見たのは初めてだったのですが、それが自分の嫁さんだと思うとなかなかです。運が向いてきたねぇなどと牧歌的なコメントしかできませんでしたが、彼女はここ8年で4回目の鳥のフンだと言って割と冷静にウェットティッシュで拭きとって家に帰って行きました。しかし、8年間で4回、2年に1回のペースで鳥のフンをかけられるっていうのは、かなりの運の持ち主なんでしょう。まるで鳥がウンを付けに来るために追いかけているようじゃありませんか。ちなみに彼女は、風呂に入った後、鳥に復讐をしてやると昼はチキン南蛮を食べたのでした。