2007年麻疹流行に思う

 3月から少しずつ発生していた麻疹(医師は殆ど「ましん」と言いますが放送では殆ど「はしか」と統一されています。同一疾患です。ちなみに「三日はしか」とは風疹の事ですが、全く別の疾患です。紛らわしいので三日はしかの呼び名は忘れて下さい。)が4月からどんどん増加し、5月末には患者数1000人を超すかも知れません。2001年に約28.6万人が発生したのに次ぐ流行です。同年の米国での患者数116人と比較すると気が遠くなるような人数です。私も多くの患者さんを診察しましたが全員小児でした。今回大きな騒動になっているのは皆さん御承知のように学生、成人に流行したからだと認識しています。先ず始めに私なりの結論を書いておきます。
  1.今回の流行は偶発的なものではない。
  2.1番危険なのはワクチンを1度も受けておらず、罹っていない人!、成人も子供もワクチンをすぐに受けた方が安全。
  3.ワクチンを受けている人は余り心配しない方が良い。ただし受けてから10〜15年経っている人は追加接種した方が安全。1度ワクチンを受けた人が麻疹に罹った場合さほど重くならないというデータもある。
  4.既に罹った事のある人は安全。ただし絶対に2回目に罹らないという保証は無し。

 以下は私の私見ですから、興味のない方はとばして下さい。日本は麻疹に関しては後進国であり、麻疹輸出国である、という有難くない汚名を頂戴しているのはとても恥ずかしい事です。WHOは2012年までに麻疹を排除する事を目標にしているそうですが、到底不可能ですね。麻疹は水痘、おたふくかぜ、風疹等と比べて圧倒的に感染力が高く、以前読んだ論文には、麻疹患者が30分前にいた部屋に入った別の人(勿論麻疹に罹っておらず、ワクチンも受けていない)にも麻疹は感染し得る、と書かれていました。それほど感染力が強く、しかもとても恐ろしい病気です。どんな体力剛健なプロレスラーのような人でも、免疫がなければひとたまりもありません。手元の本には死亡率約2%と記載されており(現在そんなに高くないと思われますが)、治っても約1ヶ月間は全身の免疫力が低下する、ただ熱と発疹だけの病気ではないのです。しかも特効薬のないこの病気を防ぐ唯一の方法はワクチンです。ただし、ワクチンの効果は10年程度との事です。私が医者になったころは、生ワクチンの効果は一生続く、と習ったのですがそのような話は遥か過去のものになっています。米国などではずっと以前から麻疹ワクチンの複数回接種(しかもかなり強制的)が行われていましたが、日本ではやっと2006年4月から麻疹風疹ワクチンとして2回接種可能になりました。しかも当初は麻疹、風疹を単独ワクチンで接種した人は2回目のワクチンが受けられずにいました。更に、小学生以上の人は2回目接種の権利が与えられませんでした。この通達があったとき唖然とした小児科医は大勢いたと信じています。私は外来で機会がある度にご両親にこの事を話していましたが、さすがに高価なワクチンを自費で受けるように勧めるまでは出来ませんでした。その意味では反省しています。
 伊勢原市は麻疹ワクチンの接種率は高いと感じていますが、今回は多少の流行は免れないと思います。しばらく0歳児は東京には行かない方が安全ではないかと考えます。ただ、これと反する考えのようですが、相次ぐ大学の閉鎖は妥当のようではありますが、ある程度免疫のある方は、ウィルスと接触する事でブーストがかかり、抗体価が高まり、より罹りにくくなる訳で、閉鎖がベストの手段とは言いきれないと思います。
 今回の流行は、一般市民に麻疹を強く意識させた、という点では意義のある事と感じています(流行を喜んでいる訳では決してありません。誤解無きようお願いします。)。厚生労働省は今回の「事件」を他人事とせず、責任のある対応をするべきです。又、日本小児科学会はワクチンスケジュールの見直しを厚生労働省に強く呼びかけて欲しいと思います。
 
 最後に、5月25日現在、私はまだ外来にて1人の麻疹患者も診断していない事を申し添えます。このまま伊勢原で麻疹が流行しなければ良いと思います。
                                          (2007年5月26日記す)
 
 その直後高部屋小学校と伊勢原高校で流行が始まりました。私は2人診察しております。高部屋小学校は10日まで学校閉鎖になりました。