『日野・八王子アマチュアボクシング教室開催』 2007.6.2

 

 “いじめない、いじめられない

 強い精神力と強い身体 培った余裕で

 人にも 優しくなれる

 高い目標 ともなう努力

  強くなっていく実感”



強く優しき、

立山トレーナーの、

この言葉は、

私たちの教室の、

スローガンでもあります。


         ↑(現役時代の立山コーチ)

ボクササイズの最大の効果は、

“自分を知る”

すべを、

もたらすこと。



身体の強さ、

こころの強さ、

それらと対話を促すボクササイズを通し、

自分の姿を発見する。



そして、

継続するうちに、

少しずつ成長する自分に気付く。

すると、

在りたい自分の姿が見えてきて、

それに向かって今の自分を、

デザインし始める…



爽快感や実感を通じ、

発見した自分の姿。

それがさらに成長する体感はかならず、

“自信”

を育みます。

そしてそれが、

人へのやさしさやいたわりにつながる。



私も含めトレーナー達は、

そんな想いを持って、

教室を運営しております。



我が子に

“自信”

をつけさせたい。

 

我が子が、

“しなやかに、たくましく”

育って欲しい。

 

我が子が人の、

“痛みを知る”

人になって欲しい。



我々は、

そんなご父兄の願いを、

ボクササイズを通して、

実現します。

 

当然、

大人の遊びとしても、

ボクササイズはもってこい。

ストレス発散といえば、

サンドバックやミットを叩く快感に、

勝るものはありません!



その後に飲むビールの、

なんと、美味しいこと。

 

仕事帰りに気軽に、

汗を流しに、

お越しください。



特に、

人間関係のストレス発散に限って言えば、

ボクササイズにかなうものは、

ありません。

もちろん、男女共、更衣室・シャワー室完備。



また、

ボクシングで

“日本の頂点を極めたい”

“オリンピックに出たい”

という中・高生には、

田高システムで、

高率な成果・実績を持つ、

田高チーフトレーナーが、

手ほどきしますので、

夢の実現も正に、

夢ではありませんよ。
 


↑田高直人チーフトレーナー(右)と萬田竜也選手(現東京農大)

なにより、

教室のウリは、

広く豊富な設備が整う教室に、

週何回、

月何回通っても、

定額なこと。



さて、

日野・八王子アマチュアボクシング教室の

ポスターが出来ました。



現在、

八王子市教育委員会の後援と、

NPO法人 八王子市体育協会の後援を取得し、

掲載許可を申請中。

6日は、

田高チーフトレーナーと渡辺で、

八王子市内の小・中学校、児童館に、

ポスター掲示を依頼に周ります。

今のところ、

会員は11名。

今なら日野自動車 健保プラザの、

贅沢な環境を、

我が物に出来ます。



サンドバックやトレーナーのミットを打って、

ストレスを洗い流し、

生まれ変わった自分を、

実感ください!

 名 称 日野・八王子アマチュアボクシング教室 

 場 所 JR日野駅より 徒歩10分 日野自動車 日野健保プラザ4階

 時 間 月から金曜日 午後5時から午後8時まで

      土曜日     午前10時から午後3時まで

 費用 小学3年生〜高校生 月3000円

     一 般          月5000円

     ※月に何回通っても、この金額です♪

申し込みは、

renmei_8yahoo.co.jp

へ、メールをいただければ、


折り返し、連絡先、教室の募集要項と規則を添付します。


 


 

(右はチョッピング・ライトを放ったマクラーレン、左はジュリアン・ジャクソン)

 

『ジェラルド・マクラーレンに捧ぐ』

 

1993年5月8日

47戦46勝43KO

無類のパンチ力を誇り、

最も華のある階級で、

伝説を築きつつあった、

WBC世界ミドル級チャンピオン

ジュリアン“ザ・ホーク”ジャクソンはこの日、

5度目の世界タイトルマッチ防衛戦を向かえた。

 

ロングレンジと低い重心。

あらゆる角度から発射されるバネの効いたパンチは、

ことごとく挑戦者達を屠り、

対戦相手探しもままならない程、

怖れられたジャクソン。



今宵その強振と、

ゴリゴリ押し込むジャクソンのボクシングを、

どこまでチャレンジャーが凌ぐか?

熱狂した観衆の興味は、

おおかたそこに注がれた。



両者リングイン、

軽薄とも思えるアピールと挑発を繰り返す、

ジャクソン。

対する挑戦者は、

静かななかにも、

その表情と視線は、

空気をゆがめるほどの気合を、

発散させ、

ただならぬオーラが、

ボクサーとしての純度の高さを

感じさせる。



開始直前、

リング中央でのレフェリー注意。

チャレンジャーは、

挑発するジャクソンの視線から逃れるどころか、

そらさず受け止め、押し返す。



嵐の予見。

二人のこの、

ヒートアップが衆目を緊張のとりこにし、

会場のボルテージは沸騰した。



試合開始のゴング
 

さっそくリング中央で、

フルスイングの打ち合いが始まった。

すさまじいパンチが交錯する中、

なんとジュリアンジャクソンが、

糸が切れた操り人形のように倒れ、

リングにバウンドしている。



たたらを踏んでようやく立ち上がったところで、

1ラウンド終了。



その後アウトボックスで、

決定打から逃れるも、

ラウンドを重ねるごとに、

驚愕と疲弊が、

ジャクソンを包む。

 

そして5ラウンド。

再び大の字にリングに転がされたジャクソンは、

ピクリとも動かず、

ついにレフェリーストップされる。

 

この圧巻のKO劇は、

ニューセンセーションの誕生として、

世界に配信された。

かたわらにニューチャンプの、

類まれなレコードを添えて。



28勝26KO

26KOの内、

1ラウンドのKOが17回。

2ラウンドのKOが5回。

2敗はいずれも判定負け。

“超短期速攻型”

生粋怒濤のアタッカーが、

そのまま世界の頂点に昇り詰めた、

劇的な瞬間であり、

ニューヒーローの誕生であった。



相手のタイプを予測し、

パンチをよける相手に、

パンチを当てる。

これは、あらゆるボクサーにとっても、

難しい事だ。

しかも、動き逃げる相手のピンポイントに、

パンチを当ててKOする。

これはさらに、至難の業だ。

それを早いラウンドに繰り返す。

いわゆる無類の“当て感”で

それをなし得た選手は、

歴代のキラ星のごとき数ある世界チャンプの中でも、

数人しかいない。



彼のレコードは、

彼が生粋のパンチャーであるとともに、

“当て感”

という天賦の才を、

その身に宿していることの証明であった。



三ヶ月後の8月6日。

対ジェイ・ベル

この初防衛戦で彼は、

ミドル級防衛戦における、

最短防衛記録を樹立。

試合開始30秒でKO勝利。

 

翌年の3月6日

対ギルバート・パプティスト

2度目の防衛戦、

1ラウンドTKO勝利。



そして3度目の防衛戦では、

雪辱を期す、

前王者ジャクソンのチャレンジを受ける。



前回、ジャクソンには明らかに過信が見て取れた。

リングイン後のパフォーマンスやレフェリー注意時、

軽率な挑発行為は、心理的な油断の表出であったが、

この日の、汗、寡黙さ、眼光は、綿密な準備を吐露

している。



ボクシング至上、

名選手同士のリマッチは、

多い。

彼とジャクソンも、

対峙するライバルとなるか?

会場は興奮の坩堝と化す。



ゴング

リング中央にダッシュする二人、

交錯するフル・スイング

そして、

再びリングに叩きつけられた、

操り人形と化したジャクソンは、

1ラウンド終了のゴングに辿り着けぬまま、

10カウントを聞くこととなった。



わずか一年前。

彗星のごとく、

世界戦線に踊りだしたニューヒーローが、

三度の防衛戦を経る過程で見せた、

圧倒的なハイ・パフォーマンスは、

傑出した実力に見合う評価と栄光をおしみなく彼にもたらした。

ついに彼はその試合で、

“G-man"
(グレイトな奴)

という称号を不動のものとした。



ロングレンジから相手のウィークポイントにむかって繰り出される、

オーバーハンド・ライト。

返しの左フック。

全盛期の彼が繰り出した、

オーバーハンド・ライト〜打ち下ろしの右〜の軌跡と、

そのファイトを、

YouTubeで見ることが出来る。

http://www.youtube.com/watch?v=dP0H1pHRmGc&mode=related&search=

 
チョッピング・ライトとも呼ばれる、

彼の打ち下ろしの右は、

世界ボクシング史上に君臨した名チャンピオン、

カルロス“ライフル”モンソン

トーマス“ヒットマン”ハーンズ

と共に語られ、

その比類なき当て感は、

ウィルフレッド“バズーガ”ゴメス

あるいは、

“ロシアン・ロケット”コンスタンチン・チュー

そして現WBAスーパーフェザー級王者

エドウィンバレロ

らの名声と並び賞され、

現在に至るまで、

燦然と輝いている。

 

彼の出現をきに、

ボクシング界に、大きなうねりが広がった。

彼の1階級上、スーパーミドル級には、

歴代のパウンド・フォー・パウンド(同一階級と仮定した評価)

でNO1と謳われた名チャンピオン、

ロイ・ジョーンズが不動の長期安定政権を築いていた。

運動神経の塊のロイは、

午前バスケの試合に出て、

午後ボクシングの試合で軽く相手を料理し、

夜、ライブハウスでドラムを叩く傑出した才人である。

その万能型チャンピオンと、

類まれなワンパンチ・フィニッシャーである彼が対峙したら、

どちらが勝つか?

業界とファンはおろか、スポーツ界を超えた期待の声が、

巷に溢れ始める。

彼はすぐ、

呼応した。



テストマッチと称し、

翌年、イギリスに渡った彼は敵地で、

ロイと同階級で別団体のチャンピオン、

ナイジェル“ダークデストロィヤー”ベンの持つ、

WBC世界スーパーミドル級のタイトルに挑戦する。



いよいよロイ対彼の前哨戦、

衆目の関心の中、

彼にとってのテストマッチは、

火蓋を切って落とされた。



試合開始早々テンプルにめがけ打ち下ろされた、

彼のオーバーハンドライトは、

ベンの意識を断ち切り、

ダウンしたベンは、

リングロープの外の、

エプロンサイドに落ちた。



ここで不可解な事態が起こる。

記者席にいたものが、ベンを支え、

リングに押す。

そして、

レフェリーは、

10カウントアウトしても、

試合を終えず、

カウントは14カウントを数え、

ベンのリングインを待った。

そして、

奇妙なざわめきの中、

1ラウンドが終了する。



TV解説ジョー小泉氏


「いかに、1ラウンドで試合を終わらせたくないという、

配慮があるとはいえ、これは明らかに故意のミスジャッジですね」

そして2ラウンドからは正に、

“ダークデストロイヤー”

がその名の通りの行為を働き出した。



彼にクリンチし、

彼の腕を抑え、

クリンチしたまま、

彼の後頭部にパンチを浴びせるのである。



TV解説のジョー小泉氏、

「これは非常に悪質かつ、危険な反則である。レフェリーは注意させ

やめさせるとともに、減点すべきだ」



この愚行は実に、

7ラウンドまで続いた。

彼はその後頭部に避けようのない、反則パンチを、

実に7ラウンドの間受けつづけたのである。

7ラウンド、

彼はベンのクリンチ時の後頭部への打撃を受けて、

顔をしかめる。

この段になってようやく、

僅かに二度、レフェリーはベンの反則に注意を与える。



そして8ラウンド、

彼は再びベンからダウンを取るがKOに至らず。

9ラウンド、

彼の身体は明らかに変調をきたす。

彼の足が、パンチをもらってないにもかかわらず、もつれだす。

そして10ランウンド、

パンチをまとめられた彼は倒れ、試合終了。

彼はそのままエプロンサイドに戻り座るが、

すぐ椅子から落ち、意識を消失する。

カメラは、

リングに横たわり、

眠りにつく彼の姿を、

世界に配信した。



こうして力強く動き出した時計の針は、

突然歩みを止め、

その後、

決して動き出すことはなかった。



短命な軌跡ゆえに、

輝くボクサー。

その中でも彼が日向で躍動した軌跡は、

わずかに、2年。

 

試合後搬送された病院で、

急性硬膜下血腫による緊急手術を受けた彼は、

現在、

盲目の余生を介護施設で送っている。



再三再四彼の後頭部に見舞われた

反則行為“ラビットパンチ”

は、彼からあらゆる光を奪い、

記憶の欠損をもたらした。



偶然昨夜、

YouTubeで、

介護施設で車椅子の余生を送る彼への

インタビュー配信を見つけた。

http://www.youtube.com/watch?v=_5v7ZkaLA60&mode=related&search=


私もいずれ、

彼に会いにいこうと思う。

そして彼に伝えたい。

彼のその、

見事な軌跡に、

力を与えられたものとして。

ことばを獲得し、

おそれと悩みと、憂いを抱えた弱き人が、

眠れぬ夜の果てに見せた、

あまりにまばゆい、彩りと輝きを。

 

素敵だったぜ!

かっこよかったよ!

見事だった!

 

彼、

ジェラルド“G-Man”マクラーレン

に。


 

 

『亀田 興毅

 〜それでも私はボクシングを愛す』

 

“殴り合い”

という原始的なスポーツを、

“言葉”

という機能を獲得したヒトが行うが故に、

深いメンタリティーを底に秘め、

競技者はもとより、

見る者をも、

虜にする・・・。



そんなボクシングという競技に魅せられ、

ボクシングを始めて、

25年になる。



今は、

彫刻家の顔を持ち、

“ボクシングを文化に昇華させたい”

と語る、

中屋廣隆会長の人柄に魅せられて、

人を生かすジムの空気に惚れ込んで、

ボクシングジムの、

アマチュア部門をお手伝いしている。

 

ボクシングは例えるなら、

禅の修行に似ている。

欲を制御し、

肉体を研磨し、

リングに上がる恐怖と対峙し、

ともすれば自己の能力に懐疑を抱きながら、

自分を信じたくとも信じられない脆弱な自己との葛藤と、

飢えで眠れぬ夜を過ごし、

まだ見ぬ相手を畏れながら、

それらに打ち勝ち、

スポットライトを浴びるのである。



長い時間を土の中で過ごす蝉のように、

リングで輝くかれらの後ろには、

膨大な自己との戦いの、

ひたむきな時間が存在しているのだ。



日本チャンプが、

誰もいないジムの片隅で、

汗の池をつくりながら、

一心不乱にサンドバックを叩く。

その姿の、

なんと美しいことか。



そんな日々の、

膨大な積み重ねの果ての、

一瞬の日向を見ていただきたく、

私は会う人にボクシングの魅力を語り、

ジムの興業には必ず、

毎回新しいお客様を二人、

ポケットマネーで招待し、

こうしてブログやサイトのコラムにも、

ボクシングのすばらしさを紹介し続けてきた。

お陰様で、

長い時間をかけて私を通して、

ボクシングを信頼してくださり、

自らポケットマネーを払って、

ボクシングに足を運んでくださる、

ありがたいお客様が増えた。



今日の朝。

急いで職場に行くと、

まだ電気も付けていない職場で、

何人かの同僚や上司が、

私を待っていた。

彼等の全てと話し終えるのに、

30分は要した。

その間にも、

私の携帯に、電話やメールが入る。

彼等は一様に、

沈痛な面持ちで、こう言った。

「昨日は、楽しみに試合を観戦しました。

確かに、頑張った。

良い試合でした。

でも判定の結果には正直言って、

深く失望しました」

その内の何人かは

「もう二度と、

ボクシングは見たくない」

私は、心を尽くして詫びました。



長い時間をかけて獲得した信頼も、

崩すのは簡単だ。

亀田選手は悪くない。

技術的な反省は、

無意味なダブルを多様したこと。

得意なミドルレンジの差し合いと回転の速さを捨て、

肝心な舞台で不慣れなショートレンジを選択したこと。

相手に見えない位置に身を置いた結果、

相手も見えなくなってしまったこと。

一言で言えば、自分を信じ切れなかったところに、

敗因がある。

悪い者は、

ジャッジに不正を働きかけた者だ。

貴方は、

全ボクサーと私の顔に、

苛烈な明日に身を投じる為に、

今日を研磨するすべてのボクサーに、

彼等を支えてきた心あるファンに、

泥を塗った。

 

ボクシングに携わる者として、

声を大にしたい。

日本だけでなく、

タイランドや韓国、メキシコでも、

ホームタウンデシジョンは横行している現実は私も、

理解している。

だがその上で、

言いたい。

いつまでもそんなことをやっているから、

他の競技に遅れを取るのだ、と。

もう、過去の遺物として、

古い因習は打破する時だ。

 

全てのプロスポーツの頂点にボクシングを、

“キング・オブ・スポーツ”

として君臨させるアメリカは、

それを実践したからこそ、

ボクシングを文化として華開かせたのだ。

日本でも、

ボクシングを文化に昇華させるために。



ボクシング界は、

心ある多くのファンを裏切り、

多くのファンの信頼を失った事を、

真摯に受け止めて欲しい。



学歴を捨て、

仕事を捨て、

不安定な仕事を渡り歩きながら、

まだ見ぬ自己と対面するために、

自己を高みに押し上げるために、

苛烈な生活に身を投じる、

全プロボクサーに対する、

背信行為であることを。

真摯に受け止めて欲しい。

それが、

ボクシングを愛し、

彼等を守りたい私からの、

切なる願いです。

× 亀田興毅 110 対 117 ファン・ランダエタ ○

 


 

「亀田興毅の成長」

 

平成15年5月のゴールデンウィーク、

姫路ドームでおこなわれた

「全日本実業団選手権大会」

に、八王子中屋アマチュアボクシングクラブは、

荒川仁人を引っさげ、遠征した。

荒川仁人はLウェルター級で優勝したわけだが、

フライ級では、

亀田興毅選手が優勝した。

私の彼の印象は、

その時の印象が強い。

3年程前のことだ。



強引なファイタースタイル。

試合に不釣合いな、

金のネックレスが目立つチンピラセコンドが親父と聞いて、

複雑な心境になったものだ。

メディアの取材も解せなかった。

早い話、

”実力”に“扱い”が見合わない。

そう感じた。



元来、

辰吉系は肌に合わない。

日本のボクシングに欠落してきて、

かつ、

今後必要かつ重要なエレメントは、

“クレバーさ”

だと、

常々思ってきた。



過去において、

世界タイトルを取った日本人には必ず、

ある種スタイルとしての、

典型があった。

「ショートレンジの攻撃屋」

打ちつ、

打たれつ、

の試合があたりまえとなり、

その結果、

靴の紐結びもままならない、

引退後の姿に、

昇華の必要性を痛切に感じていた・・・が、



アランブレットと亀田の試合をTVで見て、

自分の了見が狭かったことに、

気づかされた。



強引なファイターは、

見事な切れ味を誇る、

ソリッドな、

アタッカーに研磨され、

この日結実し、

その輝きを放ったのである。



三年弱の時を彼が、

いかに濃密に、

豊潤に過ごしたか。

アランブレットに対した彼を見れば、

手に取るように解かった。

 

まずは練習への関わり方だろう。

この試合、

アタッカーとしての非凡さは、

相手のデフェンスの殺し方に、

顕著に表れた。

サークリングを阻む、

距離の殺し方。

フェイントで相手のリードを誘い、

カウンターを見せて、

次でハードヒットする老獪さ。

そして、

無駄のない、

早い、

シフトウェイト。

なにより、

振りの良さ。

これら全ては、

アタッカーにおける最上のディフェンスとなる。

これだけ高次元の戦闘能力を誇るアタッカーは、

相手をディフェンシブに戦わせる結果、

相手に戦闘能力を出させない。

つまり、

相手に攻撃を出させない効果を、

この日の彼の攻撃は、発揮したのである。

レンジも伸びた。

最短距離で、

かつ、

しっかり肩が入っている。

ただし、バランスは崩さない。

目もいい。

防御意識が高い。

ディフェンスを、

しっかり練習してきている成果が、

随所に見て取れた。

“打たれずに打つ”

目からウロコの、

変容振り。

辰吉は、

とっくに追い越したと思う。

にくいほどクレバーな、

そんな試合であった。

 

だが・・・、

最も瞠目すべきは、彼のタレントではない、

彼のフィジカルでもない。

彼のメンタリティにこそ、ある。

 

如何に才能豊かな原石であろうと、

研磨の結果無二の輝きを手中に収められるか否かは、

磨き手に、それ相応の力量が求められる。

この場合原石は、潜在能力。

磨き手が、メンタリティ、

自信、もしくは自分を信じられる力の量と言ってもよい。

ここが亀田は、卓越しているのだ。

そしてこれこそが、チャンピオンになれるか、なれないかの

瀬戸際を分かつ、重要な要素だと私は考える。

 

「自分は世界チャンプの器である」

という自信。

「しかし、現状の自分はまだまだである」

という貪欲さ。

これがあって初めて、

豊富なポテンシャルを、最大限に、余すところなく、引き出せるのだ。

これがなければ悲しいかな、

宝の持ち腐れで、終わってしまう。

 

我らが天才、荒川仁人に今年最も必要な要素は、

ここだと、私は思う。

荒川仁人が天賦の才の持ち主であること。

豊富なポテンシャルをその身に宿していること。

これは周知の事実である。

だが、

彼がその全てを引き出すには、

もっと過信と欲が、必要になる。

いや、

「自分は天才である」

と確信し、

「秘めた力を全部出せるようになりたい」

と強く望み、トレーニングに励めなければ、

まず世界のベルトに手は届くまい。

なぜなら、

彼より潜在能力が低くても、

彼より多く引き出せれば、到達点では負けてしまうからだ。

昨今、世界ランカーは皆、メンタリティに優れている。

 

仁人よ、

亀田のメンタリティに着目せよ。

君に必要なのは、

自信と、強烈な欲求だ。

ポテンシャルは誰にも負けない。

君を馬車に例えれば、

誰より有能な馬を、君は持っている。

あとは、馬を操る御者が、

手綱を操り、

馬の能力の全てを、もれなく引き出せるか?に

粉骨砕身しなければならない。

同期の亀田はもう、

世界にあと“一歩”だ。

今年は君も、

さらに化けてみようか!

君の心の在り方が、

君のポテンシャルを引き出す鍵を握っているぜ。

自信と欲が、君の明日を高みに、押し上げるだろう。

 


 

 

「ボクシング〜亡き伊礼選手と共に」

 

サンドバックが奏でる、

そのあまりに力強く、

美しい音色に、

思わず足を止めた。

音の先に、

彼がいた。

あれからもう、

4、5年になるだろうか。

純白のグローブ。

シフトウェイトと、

飛び散る汗、

高く弾ける打撃音。

見るともなく、

見ているうち、彼の姿に、

ぐんぐん引き込まれていく、

彼はまぎれもなく、

語っていた。

対話していた、

と言ってもいい。

魂を拳に込め、

叩き続ける、

あまりに、ひたむきな姿。

声高な、

饒舌な彼の、

拳の唄が、

聞こえてきた。



沖縄生まれ、

伊礼 善洋

大学入学と共に彼は八王子で、ボクシングを始め、

すぐに、のめり込む。

 

寡黙な彼は、

八王子中屋ジムと、

中屋会長と、

ボクシングを、

こよなく愛した。

彼には、

特別なパンチ力や、

誰にも勝る早い足が、

備わっていたわけではなかった。

だが、

彼は、

それらに勝るとも劣らない、

もって余りある、

卓越した武器を、

その小さな身体に併せ持っていた。

どんなに被弾してもひるまず、

パンチのアメアラレの中でも、

前に、

前に、

進み続ける

“Fighting spirit”

という名の武器。



彼の“Fighting spirit”は、

すぐさま見る人の心を捉え、

熱狂させる。

だが、

皮肉にも、

彼自身の身体をも、

蝕む結果となった。

今、

試合前の彼の心中に、

改めて想いを馳せると、

手を合わせ祈らずにはいられない。

デビュー以後8連勝。

全日本新人王獲得と、

日本ランクイン。

そして、

自分との戦いに見事打ち勝ち、

リングに上がった次戦後、

深い眠りについた彼は、

多くの人々の熱い願いもおよばず、

帰らぬ人と、

なったのである。



ボクシングの魅力を問われた時

それは、

“言葉にはできない”

魅力なのだと、

言う事にしている。

競技を具体的に言葉にすれば、

なんのことはない。

ボクシングは相手の脳に、

いかにダメージを効果的に与えるか、

競う競技である。

なんと野蛮な、

なにを好んで、

そう言うだろう。

特に女性は。

ぼくも、そう思う。

だが、一度でも手を染めると、

麻薬のように、

いや、麻薬以上に足を洗えない魅力。

そんな魅力に、

捉えられてしまった、

自分に気付かされる。

言うなればこれは、

理屈ではない。

たとえば、

レースに似ている。

オーバースピードで、

コーナーに突っ込み、

さらにアクセルを踏むと、

後輪が流れだす、

あのドリフト感覚。

言葉を吹き飛ばし、

ハンドルを通して神経がクランクシャフトに侵入し、

タイヤの接地面に到達。

肌でトラクションをコントロールし、

モンスターを自在に操る時、

めくるめく爽快感が、

脳を駆け巡る…

あの、感覚。

そう、

どんなに澱が心に積もっていても、

どんなに仕事で疲れていても、

身体をリングに横たえほぐし、

なわとびを鳴らし、

シャドーでパンチを繰り出し、

ボールを叩き、

バックを打つと、

いつの間にか、立ち登り、

ほとばしる湯気の中で、

一切の全てが洗い流され、

必ずいつも、生まれ変わった爽快感の只中にいる事を実感する…。

それが、ボクシングだ。



だが、一旦リングにあがり、

相手とまみえると、

景色は一転し、

凶悪なキバを剥く。

飛んでくるパンチは、

容赦なく肉を潰し、

骨をきしませ、

脳を揺らす。

再び言葉が吹き飛ぶと、

身体が反応し、

守り、

よけ、

勝手に拳を出し始める。

痛みが、緊張を強い、

あらゆる細胞が、

覚醒する。

だが、

すぐに、腕は棒になり、

膝の力が抜け、

足がたたらを踏む。

ゴングに救われ、

ぶざまに、

エプロンにしがみつき、

よだれを流し、

グローブは、はずされるままに。

やがて…、

痛みや弛緩とともに、

強烈な爽快感が、やはり、

足元から立ち昇って来るのだ。

これも、ボクシングだ。

そんなボクシングにどっぷりとつかり、慣れたころ、

話しは向こうからやってくる。

そうして始めて、

観衆が見守るリングに、

上がる日が決まった時、

まったくこれまでと異なる、

新たな次元の戦いが、

静かに自分の中で、

幕を開けた事にいやおうなく、

気付かされる。

試合が近づくにつれて、

比例して成長し、

過酷に、

巨大になる、

それ。

減量や、検診・計量への不安、

物理的な苦痛、

そんなものを忘れさせるほど、

強大に成長する、

それ。

囚われの身となり、

死刑台に向うがごとき、

壮絶な葛藤。

後悔でもない、

苦悩でもない、

むしろ、

やるべき事は、

非常にシンプルで解りきっている。

ただ、

“結果を気にせず、自分を出し切れ”

ばいいだけ。

それが出来るか?

対話が始まるのだ。

自己との対話。

誰とこれから戦うか?

それは、紛れも無い

対戦相手である。

では、

今、

誰と戦っているのだろう?

誰に、こんなに、

脅かされているのだろう?

それはもちろん、

対戦相手では、ない。

そう、

自分である。

“試合までの間の戦い”

それは、まぎれもなく、

自分との戦いのステージなのだ。

不安、

不信、

おそれ、

それらは、どこからくるか?

相手ではない。

それらは、全て、

なにを隠そう、

自分自身の中から、

くる。

ある晩、

孤独の中で、

ひっそりと、

そう、

気付く。

当初、

これらに太刀打ちできる道具が、

あまりに少ない事に絶望する。

だが、

ないことは、

ない。

有効な道具が、

あることに、

これも、

気付かされるのだ。

壮絶な葛藤のなかで。

自分との心理戦を制す、

わずかだが、

無二の、いくつかの道具。

“練習に関わった記憶”

“練習し尽した記憶”

そこから沸き出る、

“自信”

“希望”


そしてなにより、

伊礼選手が体現してくれた、

““Fighting spirit”

という名の、

道具を。

これこそ、

ボクシングだ。

ボクシングは、

原始的ではない。

なぜなら、

人間が、

行うからである。

拳闘という原始的な行為を、

人間が演じる故に、

必然的に、

非常に、

メンタリティあふれる競技にならざるをえない。

人間が行う故に!

多くのリスクが存在するが故に!

そこが、

おそらく最大の、

麻薬的な魅力と、

言えよう。



モンソン対バルデス

サラテ対ゴメス

グスマン対具志堅

レナード対ハーンズ

ジョーンズ対ホプキンス

才能と研磨の果ての、

異次元の攻防は、

芸術や文化にまで昇華されるのだ。

選手達よ、

そして、

すべてのボクサーに。

今日まで、

長きに渡った、

自分自身との戦い、

本当に、おつかれさまでした。

リングに上がった瞬間の君たちは、

偽らざる勝者です。

ボクシングという競技は、

選手生命が短い。

リスクも高い。

けれども、

乗り越え耐えてきた孤独の多さだけ、

必ずや、君たちは成長する。

なにより孤独な者の、

弱き者の、

痛んだ者の、

痛みが解る。

これは、

金にはならないけれど、

すばらしい宝に勝るとも劣らない、

武器になる。

この武器を、

“やさしさ”

というのだから。

僕もそうだった。

 

さあ、

見事己との勝負に打ち勝ち、

リングに上がってくれ。

孤独におびえ、

自分の無力さにおびえ、

弱さにおびえ、

否定される自分自身におびえ、

眠れぬ夜を過ごし、

そんな偽らざる、

逃げようのない、

見えない戦いの弾幕をくぐりぬけ、

生のままの姿で、

リングに上がる君は、

間違いなく誰よりも、

まぶしい程、輝いているのだから。

NO PAIN NO GAIN!

(痛みなきところに、前進はない)


 

「荒川仁人優勝!!

第52回全日本新人王決勝戦」

 

 

思えば息子と二人、

後楽園ホールに観戦に来て、

後楽園飯店で、

長嶋茂雄考案のフカヒレそばをいただく時は、

大きな節目の試合であることが、多い。





 

Baby faced Assassin!

この呼称がこれほど似合う選手もいない。

やさしく、

クレバーなタレントにそぐわない、

そのバンチ力は、天分だ。

ところがこの一年、

彼は、

ボクシングに専念できない、

数々の試練に見舞われた。

だが、

人を頼らない。

仕事に心血を注ぎ、

八時にジムに入り、

わずかな時間しかジムワークが出来ない日々も

珍しくなかった。
 


本気で考えたよ。

我が家の二階の八畳。

開いてるから、

寝食は確保するから、

ボクシングに専念させたい。

でもきっと君は感謝しながらも、

断ることを、

知っていた。

そういう男だよな、

君は。



どんな犠牲をはらっても、

新人王獲得を優先させたい。

それほど、

価値のある、

二度とないチャンス。

トーナメントはそれでも、

順調だった。

一撃で意識を刈り取るパンチと、

被弾しないディフェンスワークが、

花開いたかに見えた。



ところが、

準々決勝。

彼は無類のパンチ力であるが故に、

KO勝利と引き替えに、

拳を痛める。

 

スパーリングなし、

環境も変えず、

向かえた東日本決勝、

なんとか、

僅差の判定で、

勝利をものにする。



それから今日まで、

やはり、

スパーリングできず、

過労で、

マスボクシングで足がつるしまつ。



試合開始のゴングを聞く頃には、

勝敗より、

納得のいく試合が出来るよう、

祈るばかりであった。



一ラウンド、

差し合いから、

パンチの交錯時、

右フックをハードヒット!

相手は、

もんどうりをうって、

ダウン。

これで試合は決まったかに、

見えた。

だが、

後でわかった事であるが、

このワン・ヒットで、

彼は右拳をも、

痛めた。



四ラウンドまでは、

いつ仁人がKOするか、

期待が高まるラウンドだった。

だが、

五・六ラウンドの、

スタミナ切れ。

いや〜、

よくぞ、

過呼吸で、

失神しなかったよ。

そしてゴング!

おめでとう、仁人!!

本当に、

取ったね!!



有言実行の君のことだから、

これでスポンサーも受け入れ、

仕事も変え、

幸い骨折しなかった拳を、

完治できるね。

 

自分にきびしい道を選択し、

よくぞ勝利をその手にしました。

 

仁人よ。

攻撃が、

ディフェンスの選択肢として、

有効である理由は、

なにより、

相手のアタックを抑止する効果があるからだ。



相手を下がらせ、

フェイントに反射させ、

スタミナを奪う。

だからこそ君は、

そのパンチ力と、

パンチの当て勘という、持って生まれた天賦の才に、

もっと自信を持ち、

依存すべきだ。



そうなった時こそ君に、

世界への道が、

開かれる!



いけ〜っ、仁人!

おめでとう〜!!


 

 

荒川仁人優勝!第62回東日本新人王決勝」

追 記

 

6日ジムのマネージャー筒井さんからメールをいただいた。

感動!感謝!

 

しいて言うなら、

仁人よ。

君がいかに大量に、その身に、

ボクサーとしての資質、

いわゆる“天賦の才”を宿しているか、

君自身がまだ、

気付いていない。

 

君こそ過信してほしい、

君の慎重な自己分析と、謙虚な姿勢が、

君のまだ見ぬ才能を、自ら封印している。

 

ボクサーファイターという称号は本来、

一握りの天才に与えられるべき称号だ。

パンチを当てようとすると、

つまりオフェンシブに戦うと、

動きが止まり、的になるので、

自分もパンチを被弾する確率が、上がる。


パンチを避けようとすると、

つまりディフェンシブに戦うと、

精度の高いパンチを、

相手のピンポイントに、

当てる確率が減る。


ボクサーファイターという称号は、

この矛盾するエレメントを、

高次元で融合させる、

そんな天才の為の称号だ。

 

パンチを出す時、

意識して強く、速く打つこと。

強く、速いパンチを高い確率で、

アタックに織り交ぜれば、

全日本新人王、

日本チャンピオン、

東洋太平洋チャンピオンはおろか、

世界のウィナーズベルトまでが、

君の手の中にある。

 


 

荒川仁人優勝!! 第62回東日本新人王決勝戦

 

 

勝者

赤コーナー

あらかわにひと!


爆発した大歓声の中で、

その時、

君の周りだけ、

一瞬時が、

止まったように見えた・・・

 

 
試合終了のゴングが鳴った時、

君は意識を失いかけ、

中屋トレーナーに抱きかかえられ、

自立できない状態で、

コーナーに帰る。

一方加藤選手は、

足取りもしっかりし、

すたすたと、

自陣に帰る。
 


 
それはまるで、

世界統一戦、

勝ったモラレスが、

セコンドに抱きかかえられ、

病院に直行し、

ピンピンしている負けたバレラが、

判定の不満をぶちまける・・・

そんな象徴的なシーンの、

再現でもあった。
 


 
だが、その姿こそが・・・

 

勝者が気を失いかけ、

敗者が余力を残した姿こそが、

勝敗を分けたのだと、

今日始めて、

ぼくは知ったよ。
 


 
試合は、

苦しい展開の連続だった。

完治していないまま、

試合への突入。
 


 
スパーリングは一ラウンドもせず、

君の切り札である武器をあえて封印し、

望んだ大一番。

さらに、

スタミナの枯渇。
 


 
そして向えた最終第6ラウンド。

君は、

スタミナが空っぽの状態で、

打ち合いに応じる。
 


 
呼吸はとまり、

チアノーゼに意識が遠のく。
 


 
ラスト三十秒、

天才の必死の形相と、

なりふりかまわぬパンチの応酬。
 


 
エプロンサイドに試合終了と同時に、

崩れるように座った君を見て、

負けてもいいと、ぼくは思った。

でも、そう思ったぼくが、

バカだったよ。
 


 
君は相手に、

己に、

なにより勝負に、

勝つために、

限界に挑んだんだよね。
 


 
相手にはそれが、

出来なかった。

そしてそれこそが、

勝敗を分けた・・・
 



 
時が止まった様に見えた、

その中で、

涙が、

君の瞳から溢れた。

 

次から次へ、と。

そして赤子のような、

手放しの号泣。
 


 
よかったな、仁人。

見事だよ、仁人。

胸を張れ、仁人。

その号泣こそ、

己の存在を賭け、

己の全てを出し尽くし、

己の全てを燃焼し尽した、

証であり、ご褒美だ。
 


 
類稀な天賦の才と、

稀有なパンチ力を兼ね備えた、

きれいなボクサーだった君は、

この試合を経て、

さらにその、

魅力ある光沢に、

力強い鮮やかさが加わった宝石へと、

見事に研磨された。

まぎれもなく君自身の力で。
 


 
おつかれさまでした。
 

 
ロングランのトーナメントを勝ち抜き、

とうとう最後のハードル、

全日本新人王決定戦が、

君を待つだけとなりました。

あと一月、

今日の君の姿を見て、

もうぼくに賭ける言葉はありません。

おそらく、万全な状態であがれることでしょう。

思い切り拳を、振れるでしょう。

あとはただ、無事を祈るだけです。
 


 
そして今日の君の、

クレバーでクールな若き天才の、

赤子の様な号泣を、

ぼくは一生忘れない。
 


 
東日本新人王トーナメント

優勝、おめでとう!

 

 

 


 

THE ROAD TO CHAMPION62回東日本新人王予選


28日の土曜夕刻、

ボクシングの殿堂、

後楽園ホールに足を運んだ。

私がアマチュア部門の代表を勤める

八王子中屋ボクシングジムから、

出場するプロ選手の応援のためだ。

ライト級では、荒川仁人選手が見事1R、

ワンパンチKO劇を演じ、勝ち進んだ。

プロボクシングの世界のライセンスは、

C級、B級、A級に分かれる。

Cは4回戦、Bは6回戦、Aは8回戦以上と、

出場出来る試合がライセンスによって、

制限される。

どこの世界にもエリートはいて、

例えばアマチュア全日本選手権などの

タイトルを総なめし、

オリンピック選考会などの経験があるアマ・トップ

アスリートは、

いきなりB級6回戦からライセンスが交付される。

だがその他の、ほとんどのボクサーは、

まずはプロテストに合格し、

C級4回戦からデビューする。

 

新人王戦は、

いわば雑草がエリートを超える、

唯一無二の超エリート・コースだ。

なぜなら、全日本新人王の栄冠を手にすると、

A級&日本10位のランキングをも、

同時に手にすることができるからだ。

これが大きい。

今をときめく日本スーパーフェザー級8位、

スピードスター村上潤二も、

東日本新人王戦決勝で、まさかの敗退を喫してから、

日本ランキングを手にするまで、

実に3年3ヶ月を要している。

どんなに頑張っても、

ボクシングの試合消化は、

順調にいって年4戦が頭打ちだ。

拳や眼下底骨折などに見舞われれば、

一年はすぐ棒に振ってしまう。

それでなくとも、選手寿命が極端に短く、

リスクが大きいボクシングという競技において、

このショートカットは正にBIGなチャンスである。

これこそが、エリートの証だ。

だから皆目指す。



かつて八王子中屋ジムから、

二人の選手が、時を同じくして全日本新人王を獲得した。

1998年。

一人は、新人王獲得後1ラウンド連続KOの日本記録を打ち立て、

世界へ後一歩まで駒を進めた、

元フェザー級日本チャンプの雄二ゴメス。

そしてもう一人は、新人王獲得後の日本タイトル挑戦で、

偉大なチャンプの前田を後一歩まで追い詰めた、

スーパーライト級の小暮フェイフォン。

二人共、10戦とちょっとで、

日本タイトル挑戦を実現させている。

この年のセンセイションも、記憶に新しいが、今年は、

さらなる大ブレイクを予見させる二人が現在、勝ち残っている。

そんな魅力ある二人のスター候補生を、今日は紹介したい。

一人は月下正幸。

学芸大付属高校時代、

アマチュアで全日本実業団、

国体関東を制す。

学校の理解を得れず部が作れなかった為、

インターハイ、選抜に出場する機会は逸したが、

伊礼選手の死去を目の当たりにした彼は、

慈恵会医科大学に進学。

脳外科医を目指しながら、

ボクシングのプロテストに合格し、

目下3戦3勝2KO。

圧倒的な戦闘能力で勝ちあがっている。

そんな彼だから、

朝日新聞に写真入で紹介され、

既にTVの取材の申し込みも入る程の、

話題性を持つ。

こう言うと、えてしてボクシングの実力に、

疑問符を持つ向きもあろう。

が、彼は、えげつない程、強い。

言うなれば、正に攻防兼備万能型のボクサーファイターだ。

見切り、パンチ力とキレ、足の速さ。

全てに傑出した高い完成度を誇る。

おそらく新人王に手が届く頃には、

マスメディアが彼を、

メディアの日向に、引きずり出すことだろう。

そしてもう一人、

この日1RKO勝利を飾った、

荒川仁人選手であるが

試しに、ちょっと彼の顔をご覧になって見ていただきたい。

http://www.8nakaya-box.co.jp/player/arakawa_link.htm

(一番下にスクロールし、GALLERYの右のポストカードが、普段の彼っぽい)

マルコメ味噌ばりの丸刈り頭に、柔和な笑顔。

どこから見ても、殴り合いには結びつかない、

超平和タイプな面持ち。

一見ヤンキーな兄ちゃん達のカモネギにすら見える。

だが、服を脱ぐと、誰でも息を飲む。

マーベラスな筋肉の鎧。

ジムで始めて見たときには、思わず

「プロ?何戦?」

と声をかけた程だ。

(ソッチの気はありません。あしからず)

なんと彼は

「いや、試合は、したことないです」

と答えるではないか。

だが、ものが違う。

(才能の話しです)

その体躯から繰り出されるパンチは、

みてくれの数十倍は、さらにエゲツない。

彼のアマチュアデビュー戦から、

私はセコンドについて彼のボクシングを見てきた。

デビュー戦の大田区大会でRSC勝利で優勝。

翌年全日本実業団優勝。

だが短いアマ時代、

彼はディフェンシブに戦い、

それ程攻撃力を見せなかった。

というか、見せる必要がなかった、

というのが正確なところだろう。

プロに入り、

薄いグローブを手にして、

はじめて、

その天性のパンチ力が、

ベールを脱いだのである。

不動のミドルウェイト、

ライフル

という異名を持ち14度タイトルを防衛、

チャンプのまま引退したカルロス・モンソンや、

ジェラルド・マクラレン。

八王子中屋の至宝、

日本ミドル級チャンプ鈴木 悟のような、

伝家の宝刀「右ストレート」

またはスーパーウェルター級帝拳の松橋拓二や

八王子中屋の次世代のスター村上潤二のような

ソリッド

なパンチ。

一言にハード・パンチャーと言っても、

様々なタイプがある。

だが荒川仁人のパンチの質は、

広く世界を探しても、

類型化出来ない。

唯一、

世界チャンプの16連続KO防衛記録を持っている、

プエルトリコの英雄、

ウィルフレッド・バズーカ・ゴメスが、

僅かに、似ているか。

荒川仁人選手の場合、

ストレートが相手のオデコの上をかすめただけで、

足がもつれ、たたらを踏ませる。

ジャブ一発で相手の意識を刈り取り、

横を向かせてしまう。

昨夜などは、

クロスレンジのフック気味のワンパンチで、

失神KO勝ち。

つまり、ロングレンジでもショートレンジでも、

関係ない。ワンパンチでOK。

ストレートでも、

フックでも、

ジャブでも、

一発で終わらせる。

こんなボクシングを実現させた選手は、

見たことがない。

大事なトーナメント中であることだし、

騒ぎたくないが、

ここだけの話し、報告する。

そのすさまじい、

日本人離れしたパンチ力は、

世界にも類を見ない、

マルコメ味噌のくせに!

瞬発力、速筋配分、動体視力、

手首の強さ、リーチの長さといった、

ハード面と、

シフトウェイト、ナックルの入れ方、

肘の角度、手首のスナップといった、ソフト面。

KOに必要な全てのタレントが、

彼にはもれなく凝縮されている。

そのクセ、彼と遠征に行って判ったが、

彼は非常にクールで、

月下ばりにクレバーな理論派なのだ。

これだけパンチ力があれば、

十中八九強引にパンチで試合を決めようと、

一発を狙い出す。

事実ハードパンチャーと呼ばれる選手ほど、

KO負けもまた、多い傾向にある。

これは、荒川仁人選手と出会うまで、

男という戦闘遺伝子の、

回避できない性だと私は認識していたのだが

驚くべきことは、彼自身は、パンチ力やKO勝より、

ボクシングの魅力を

ディフェンス

に見出していると、私に語った。

彼の言う「うまくいった」とは、

「まったく被弾しなかった」こと、

「思い通り相手の攻撃をかわせた」こと、

であり、

それが無類な喜びを、彼にもたらす、と。

だから、こちらが

「相変わらず、壮絶なパンチだね〜」

と言っても本人は

「??たまたまです」

程度だ。

無類のパンチ力と、

高いディフェンス意識という、

水と油の融合。

この状態は正に、

金棒

どころの騒ぎではない。

超人

ライト・セーバー

と騒ぎ立てたい気持ちもご納得いただけよう。

彼のボクシングスタイルは、

彼の言葉とおりエレガントだ。

足もはやく、

力任せに、

ブンブン振り回す、

無骨なパンチャースタイルとは対極にいる。

で、マルコメ味噌の童顔笑顔。

今日の時点で彼の戦績は5戦5勝4KO。

一つKOを取り逃がし、

判定勝ちした時も、

プロのスタッフに

「なんでしとめない」

とギューギュー怒られていた彼ではあるが、

私は思う。

どうか、このまま、

KO勝ちなんぞには、

色気を出さないで、行ってくれ〜。

君の言うとおり、

オフェンスはディフェンスの選択肢の一つで、

充分だ。

KO勝ちになんか色気を見せると、

君のボクシングにほころびが生じてしまう。

敗北の可能性があり得るとしたら、

唯一そこだと、私は感じる。

ぜひ、これまでどおり、

ストイックな練習で自分の可能性を引き出し

一戦一戦キャリアを積み重ねていって欲しい。

原石は研磨の時を経て、

急速に、見たことも無い輝きを放ち出した。

今年この二人

万能型

超絶パンチャー

が新人王を取れば、

当然マスメディアの日向にでるであろう。

だが、私の楽しみはすでに、

そんなところはとっくに通り越している。

「取りました〜」

と、まるで釣った鯛でもぶら下げて見せにくる様に、

嬉々として世界のベルトを見せに来る姿が、

私にははっきり見えるのだから。

 


  

§My son, Kimifusa&HATIOUJ 日本Sライト級3位 小暮フェイフォン選手

I NAKAYA Boxing Jym§    より頂きました!

  

  八王子中屋 利トレーナー、公房、八王子中屋会長 2002.9.21後楽園ホールにて

2003.1.25ジムにて、左から公房、中屋利隆トレーナー、渡辺

No pain No gain  

§注目のボクサー§  
松橋 拓二(帝拳) ワンパンチ・フィニッシャー。これぞボクシングの醍醐味!現在4戦3KO日本9位
村上 潤二(八王子中屋) ミスター・アンタッチャブル。距離感の天才。ぜひ一度、この芸術を!

 

Mrアンタッチャブル そろいぶみ

八王子中屋の☆ 村上潤二 中村尚平太


 

2004.4.18「メールのやりとりから」

 

 

いただいたメール

> はじめまして。

> 僕は中学○年生からボクシングジムに通っている、中学○年生の○○

>という者です。

> 管理人さんの書いたボクシング・コラムを拝見させていただきました。

> 何度も繰り返し見て、勉強になりました。

> 僕はどうしても強くなりたいです。

> そこでこれからどのようなトレーニングをして、

> どのような部分を伸ばしていけば、プロ又はアマチュアに通用するで

> しょうか?

> 無理な点はあるでしょうが、どうかアドバイスをお願いします。

 

返信

こんにちは、はじめまして。

メールありがとう♪

さっそくだけど、ボクシングにおける強さとは、人によって

さまざまです。

KOすることだ!という人もいるし、打ち勝つことだ!とい

う人もいる。

ぼくも現役のアマボクサーの時には、KOすることに、

ボクシングの強さを見出していました。

けれども、25年ボクシングに関わって、大分変わりました。

今ぼくにとって、ボクシングという競技における

強さとは、ただ一つ、

「打たれずに打つこと」

です。

究極の体現者は、現Lヘビー級のスーパーチャンプロイ

ジョーンズ。

彼はボクシングのタイトルマッチを終わらせた後、バスケット

の試合をしたり、音楽ライブに出て演奏したりする。

おそろしいほど、パンチを被弾しないんですよ。

ではロイ・ジョーンズのように、どうしたら強くなれる(打たれ

ずに打てるようになる)か?

日本のジムでは、“打つ”ことは教えますが、“打たれない”

ことを、なかなか教えません。

ここからは、打たれないで打つトレーニングの一旦を紹介

しますが、ぼく個人の経験や考えによるものですので、ぼく

が所属しているジムや代表を勤めるクラブの考えではあり

ませんので、参考程度に聞いてくださいね。

打つことにおいては、まず、自分のタイプを知ることです。

パンチが、「はやい」か「おそい」か、パンチ力が「ある」

か「ない」か、パンチの質はソリッド(切れる:効く)かヘビー

(重い:一撃で倒せる)かライト(軽い)か。

自分で判らなければ、トレーナーに感想を求めればいい。

次に自分のタイプを知ったら、日本は苦手を克服するトレ

ーニングを薦めますが、ぼくは得意な面を伸ばすことを薦

めます。

速さを極めたければ、丸椅子に座ったまま一つのパンチを

出し続ける(ジャブなら一ラウンドジャブのみ)シャドーを

すれば良いし、パンチ力を極めたければ、サンドバックと

シングルを重点的にやればよい。ソリッドなパンチャーに

なりたければ、手をしっかり握り、腕をしっかりのばし早く

打つシャドーを繰り返す・・・そんな感じです。

打たれないことですが、

マスボクシングを多くやることです。

ただ無目的にマスをやっても上達しません。

ですから、次のように工夫すると、打たれないという目的

に早く到達する。

ジムでやらせてくれなければ、友達と家や公園でやること

で充分です。

やりかたは、交代で2ラウンドずつ、

フットワークは極力入れずに

 @1R

  一方はジャブだけ打ち、一方がそれをブロックだけ打

  ち落とす。

  2R

  一方はジャブだけ打ち、一方がスウェーでよける。

 A1R

  一方はフックだけ打ち、一方がそれをダッキングだけ

  でよける。

  2R

  一方はフックだけ打ち、一方はそれをブロックだけで

  受ける。

等、あらゆる組み合わせを一月程度つづける。

もちろん最後には、一方がフェイクも含め自由に攻撃し、

一方はすべてをさばけるようになることを目指します。

(メキシコでは素手で、マッピーやギアも付けず、フットワーク

は入れず、一方がゆっくりパンチをあたるように繰り出し、

一方がよける練習を遊びのように、長く続けています)

このトレーニングの目的は、パンチの出所を、身体に覚え

させることにあります。

身体(小脳)記憶は長期で、なかなか忘れないという利点が

ありますから。

さてこれらのステップを卒業したら、一から繰り返しましょう。

ただし、受け手は、相手のパンチの引き際に連打を必ず入

れてください。とれたら、カウンターもとってみよう。

例えば

一方はジャブだけ打つ。一方はその引き際にワンツー・

フックのコンビを入れる(もちろん当てない)という感じ。

それら組み合わせを全て卒業し今度は、あらゆるパンチ

をステップワークで回避する練習を経て、始めてマスor

 スパーが意味を成し、効果が期待できることとなるの

です。

 

また、高校に入ったら、ウェイトトレーニングをお勧めし

ます。

ダンベルによるコンセントレーションカールと懸垂で充分

でしょう。

それから、フットワーク等ストップ&ゴーの競技は、ヒザ

とくにじん帯を痛めやすいので、ロードワークも始める

と良いです。

八王子中屋ジムでは、プロになってベルトを巻くことを

目的にする子が多いので、アマもプロの為のアマという

位置付けです。

したがって、会長に「プロテスト受けるか?」と聞かれた

場合、ほぼ確実に合格します。

最後に、ボクシングは頭の良さを求められる競技です。

中学や高校の勉強はクイズのようなもので、運動が

身体の成長に不可欠であるのと同じように、君の脳

の成長には不可欠なものです。

運動と同じだと思って、関わってみてください。

それでは、

お互い頑張りましょう。





 

 

2004.1.28「New潤二、降臨!」

 

この選手は必ずや世界を征す。

私がずっと声を大に主張し続けてきた選手がいる。

一年三ヶ月のブランクを経て、天才、村上潤二が

後楽園ホールに戻ってきた。

彼は国内A級昇格後、ランクイン前哨戦と銘打った

浅見戦を征し、次戦の遠征試合で、相手選手の負傷

による引き分けと、自身の拳の、ボクサー骨折という

不遇に見舞われた。

さらに練習中、2度目の骨折、そして手術。

いかに天賦の才に恵まれようとも、日本チャンプです

ら、専業が困難な世界での、ことである。

具志堅用高のように、100年に一人の“原石”である

彼だからこそ、避けられない運命の罠の無情さに、

私は慄然とした。

 

「がんばれ〜」「まけるな〜」

命を賭け、闘いに身を投じる選手に、ファンは激を飛ばす。

では飛ばした激の代償としてファンは、選手に何をしてあ

げているであろうか?

ファンの声援は、確かに選手を後押しする。

ファンの声援を背に、激戦を征した選手は、星の数

ほどいるし、選手自身声援の絶大な効果を認めている。

だが、彼等の覚悟に想いを馳せ、彼等の生活に想い

を馳せ、ファン自らがそのポケット・マネーから、積極的

に出来る範囲で支援をしているだろうか?

日本で、その習慣が根付けば、もう少し選手が闘いに

専念できるのだが。

アメリカやイギリス、西側のボクシング先進国では、まだ

陽の当たらない無名の、才能豊かなボクサーに、無形だ

けでなく有形の援助をし陽のあたる舞台に押上げること

が、ファンの先見の明を示すStatusだという風潮が根

付いている。

それがプロへの、礼儀であろう。

元Sライト級チャンプ佐々木選手に

「応援してくださるのなら、わずかでも良いから、形にしてく

れると大変ありがたい」と言わせてしまう日本のファンは、

まだ肥えてない。

競技年齢の短さで、ボクシングは他のプロ・スポーツから

突出している。

その中での、実に長き、1年3ヶ月。

誰かが、彼の生活を保証し、治療に専念させるわけ

でもない。

再び練習を再開し、再びアクシデントが彼を見舞う可

能性は、いくらでもある。

なんとか無事再起にこぎつけたとしても、また折らない

とも限らない。

くいぶちを自分で稼ぎ、ハイ・リスクな闘いに、身を投

じる彼を捉えた1年3ヶ月という、保証なき無情なる時。

それら全てを本人が、一身に背負うわけである。

私は彼の心情に想いを馳せ、暗澹とした。

祈ることしか出来ない、無力な自分が、情けなかった。

だが、彼は手術に勝ち、環境に勝ち、運命に勝ち、

見事再び、後楽園ホールに降臨したのだった。

私は満を持して、応援体制を組んだ。

 

しかし11月、北海道の安部公房展が叔父の葬儀と

重なった時と同様、不思議な予感に私は見舞われ

ていた。それは

「危篤の父の葬儀と重なって、絶対試合に立合えない」

という予感であった。

チケットの手配をしようかと逡巡していると、医師より経

過報告の電話の回数が増えていく。

そして、ついに15日父は永眠した。

さて、斎場に電話をすると、21日通夜の22日告別式

が最短だと、言うではないか。

彼の再起は21日。

やはりそうかと、ひとり、ごちた。

彼にお詫びのメールを打つも、気持ちは沈んだ。

慌しく葬儀の準備が進むが、彼の心情を想像する

と、こちらまで睡眠が浅くなる程の緊迫感に見舞われた。

通夜が無事終了。

緊張が、喉につっかかった茹卵のように、心臓を圧迫

した。さりげなく「村上選手をよろしくお願いします」と会

長にメールすると、即座に「村上見事KO勝ちしました」

というメールが返信されてきた。

久しぶりに心の底から、喜びが爆発した。

よかったね〜と、家族中がこの吉報に沸き、しばらく

余韻は消えなかった。

翌日見た彼の顔には、傷ひとつなかった。

そして今日、ジムから息子が試合のビデオを借りてきた。

さっそく皆で観戦する。

・・・

想像を超えた衝撃であった。

村上選手はさらに、驚くべき変貌を遂げていたのである。

 

ボクシングは非常にメンタリティな“スポーツ+α”だ。

どんなにディフェンスが上手い選手でも、たとえば相手

をダウン寸前まで追い込み、一旦意識がオフェンスに

囚われると、とたんに強固なディフェンスが崩れるものだ。

だが進化した村上選手は、鉄壁のディフェンスを成立さ

せる大きな要素のひとつに、“攻撃”を組み込んだので

ある。まるで見切りや距離感、スピードと同様に。

まさに攻防兼備の理想系と言える。

強弱すべてに、肩のスナップが十二分に効いたジャブ、

右ストレート。バネ仕掛のナイフさながらだ。

なにより、闘う姿勢が、アグレッシブである。

そして、まっすぐ、ためらわず、打ち抜く左ストレート。

見事にLong Rangeを成立させる、打点。

ダウンしても襲いかかる、具志堅用高のごとく熱く冷徹

な闘志。

なお磨きをかけた、足と距離感。

とどめは、日本では浜田剛史だけであろうか、

世界でもウィルフレッド・ゴメス、チュー等数少ない

名選手のみが試合において実践した、リードパ

ンチによる、ワン・インチ・フック一閃のKO劇。

線の細さは消え、エレガントな戦慄を感じさせるまで

に、その戦闘能力は昇華されていた。

“素晴らしい”の、一言につきる。

彼にKO狙いは不用となった。

狙わなくとも、いや狙わないからこそ、KOが可能と

なる。

今日のポテンシャルを今後も試合で引き出せれば、

KOの量産は必至であろう。

 

彼には怒られると思うが、彼は結果として、この1年

3ヶ月という時間と引き替えに、『世界の舞台に立つ

資格』をまぎれもなく手にした。

それこそ、彼が1年と3ヶ月という限りなく長い時間に

真摯に立ち向い、プロボクサーとして質の高い、濃密

な時間を過ごした証である。

培われたメンタリティは、必ずや彼に将来、大いなる

プレゼントをもたらす。

八王子中屋ジムの村上潤二選手は間違いなく、世界

に誇る日本の至宝となる。

世界タイトルマッチだけは見るという、人口は多い。

過去の名チャンピオンはそこで、多くのファンを獲得

した。

センセイショナルなデビューを果たし、ボクサーといえ

ば畠山か辰吉という世代が、常識を覆すロング・

レンジのUntouchable、 Speed Star潤二に魅了される

日を、今から私は、楽しみにしている。

 

伊礼選手。

今日、息子のバンテージを巻いている妻が

「バンテージを巻くたび、伊礼選手を思い出す」

としみじみと、そう言った。

私も同じだ、古いバンテージを見るたび、君の、

サンドバックに向うその姿、その音色を思い出す。

ボクシングに対する情熱、中屋会長と八王子中屋

ボクシングジムに対する愛情。

それこそが、君と私との接点だ。

私も君と同じく、終生それを失わない。

彗星の、強烈な輝きを放ち、爆発的な攻撃力を誇っ

た君とは対照的に、長い紆余曲折を経て、遅咲きの

同期、村上潤二が今、ようやく大輪の華を咲かそうと

している。君の志を継いで。

彼は世界のベルトを巻く。

どうか見守っていてください。

 

 

追伸

2月10日(火)、全日本実業団優勝 荒川仁人選手が、

3月6日(土)、華麗な華のある柴田基光選手が、それ

ぞれデビューする。

八王子中屋ボクシングジム所属。

いずれ劣らぬ将来を嘱望される原石達だ。

 

最後に、3月2日(火)は、私が追っかけているもう一人、

ミドル級 高橋 隆介選手が7戦目を迎える。

彼はさしずめ、狙って刈取るヒッターだ。

医者と弁護士の兄をもつ、心やさしき理論家は、しかし

恐るべき傑出した“身体能力”を併せ持つ。

なかでも2つの大きな武器。

それが瞬発力、そしてパンチ力だ。

遠い距離から一瞬にして相手の懐に飛び込み、パン

チを振るうたびに、相手の膝を揺する様は圧巻だ。

その様を確認し俯瞰するため、最近後楽園ホールでの

私の席は、南1の18席あたりに落ち付いた。

偉大なるボクサー達とそのスタイルを比較してみると、

タイソンとロイジョーンズのちょうど中間辺り。

まさに贅沢で、理想的なアタッカーである。

このまま進化し続ければ、当然そのスタイルは間違いなく

多くのファンを獲得する。

もうひとつの、大きなボクシングの醍醐味を体現する

高橋 隆介選手。

彼が、180cmを越える外人が繰出すジャブやオバー

ハンドライトを強固なブロックやパリーで打ち落とし、

または、ダッグしてかわしながら、引き際と同速で飛び

込んでは、バッタバッタと相手を倒す将来は、そう遠くない。

身体能力を存分に生かしたスタイルが完成されつつ

あるし、ミドル級であるだけに、今既にブレイク前夜で

ある。

この日は、後楽園ホールの南、その辺りを探してくだ

さい。間違いなく私は、おりますから。

 

魅力ある彼等の明日に。

共に応援しましょう。

 


 

 

2003.8.10「トレーニング昨今」

 

能を見る時、スポットライトを背にリングに立つボクサーの、

ある理想的な姿・・・典型を、だぶらせることがある。

動きのムダを完全に排除し、自立神経系を統率下に置く。

静止状態において、シテは自身の心拍を200以上にコントロール

する。

シテはこの時、自身の身体を交換神経優位の状態に置きながら

完全にフィジカルコントロールを成功させている。

聴衆に与えるそのインパクトは、正に芸術に昇華された、

ハイ・パフォーマーと呼ぶに相応しい。

そこが現代ボクシングに相通じる。

交感神経のスイッチを入れ、心拍と血圧を上げ、消化管の働きを

抑え、体を戦闘体制に突入させながら且つ、脳の酸素供給を十二

分に確保し、身体の反射を研ぎ澄ますために、クールな視点を失

わず、身体をイメージのコントロール下に置く。

要は、猛り狂った猛獣の身体を、Main CPUが冷徹に、すみずみ

までを支配し統率している状態だ。

現代ボクシングの突出した体現者、ロイ・ジョーンズ・Jrの価値を、

私はそこに見出す。

彼の試合を構成するエレメントは、上等な能楽や演劇、オペラと

いった芸術と同質のパフォーマンスなのだ。

 

ここでチョット視点を変えて考えてみよう。

北島康介は、独力で世界新記録が出せたか?

勿論“否”である。

勿論体現した北島選手の功績が、決め手ではあるが、

北島選手の素材に惚れ込み結成された、“チーム康介”。

平井伯昌コーチと、中でも河合正治・日本水連競泳委員の科

学力のバックアップをもってしなければ、世界新の実現化は不可

能であった。

 

トレーナーとトレーニングの是非は、ここにある。

ここからはボクシングの話し。

先日、大手のジムのトレーナーと話しをする機会に恵まれた。

話してみるとこのトレーナー、名が非常に売れている方だが、どうも・・・

というか、非常に口ベタである。

だが、きっと選手が納得するまで、粘り強くディベートするのだろうなぁ

と好意的に解釈して、話を進めていたのだが、知識・・・特に運動

生理学の裏付けがはなはだ心もとないことが、露呈されていくではない

か・・・。

挙句、効率よいトレーニング法、特にミット打ちの目的に話がさしかか

ったところ、トレーナー氏は

「ぼくには日本チャンプを育てた実績があるから・・・」

と言って、話の矛先を変えてしまった。

話の脈絡からすると、

「だから自分の指導方法の正しさは証明されており、だいたい

選手が指導者に疑問をはさむ余地など、始めからない・・・」

ということになる。

開いた口が塞がらなかった。

中南米やアメリカでそんな事を言っていたら即トレーナー廃業だ。

「貴方がトレーナーだったから、選手は日本チャンプ止まりだったのだ

と、考えた事はないのか?」

口元まで出かかったこの言葉を私は、飲み込んだ。

 

叩かずとも、近い将来こんなトレーナーは淘汰されること請け合いで

ある。

だが、選手はどうなる。

トレーナーの不勉強のせいで、命が削られ、寿命が失われていくでは

ないか。

これが日本ボクシング界のスタンダードならば、日本ボクシング界に、

明日はないと断言できる。

そもそも選手とディベートし、選手を納得させることが、なぜ、なんの為

に必要か?

選手のポテンシャルを練習や試合に引き出す為にだ、当然である。

幸い私がアマ・ボクシングのお手伝いをさせていただいている事を彼は

知らない。

専門外の、ただのもの書きだとしか、見ていなかったのでかえって、彼の

本音を引き出すことが出来たのであろう。

きっと彼はこのサイトを見ないと思うので、今日は勝手な事を書こうと思う。

特に、海外で見た為になるトレーニング法を書いておきたい。

なにせ、年のせいか最近物忘れがひどい。

ネタは、もっとたくさんあったはずだが、当時のメモを紛失し、おまけに

記憶が定かでなくなってきた。

覚えているなかで、実績があるものを幾つか。

リングをひもで4つに分割し、一箇所に二人一組入ってマス・ボクシングを

行う。最大4組、8人が入れることになる。

一人は攻撃のみ、一方は防御のみ。

大切且つ重要な約束ごとは、

“攻撃側は間合い以上間隔を詰めない”

“フェイントを織り交ぜ、軽く触れるパンチを打つ”

最初のラウンド、攻撃側はジャブとストレートをフェイントをおり

まぜる。

防御はパリー、ブロックのみでそれらをはじきおとす。

次のラウンド、攻撃側はフックとアッパーにフェイントをおりまぜ

る。

防御は変らず。

次のラウンドは、攻撃側はジャブ、ストレート、フェイントをおりま

ぜて。

防御はステップ・バック、スェー、ダック、ヘッドスリップ。

次のラウンドは、攻撃側はフック、アッパー、フェイントをおりま

ぜて。

防御はステップ・バック、スェー、ダック、ヘッドスリップ。

最終ラウンド、攻撃側、自由な攻撃。ただし間合い以上間隔は

決して詰めず、防御側も、自由に防御。

肝心な事は、攻防の役割を、おおむね1週間程度、成果が

出るまで変えないところにある。

なお、例えば、防御をステップ・バック、サイド・ステップに徹底

させたのが、カニザレス。

彼はこれだけで、IBFバンタムを16度防衛したと、後日自身で

供述している。

チャベスは苦手な防御に関して、このトレーニングで“テッツイ

(空手の)ブロック”を体得し、全てのパンチに対応できる矛を

手にした。

また、ディフェンスの旨い選手は、フェイントにひっかかった時の

防御のムダな稼動範囲を狭める利点がある。

別にリングを四つに区切らなくても、何処でも相手がいればできる。

くれぐれもラッシュ=距離を間合い以上詰めることは厳禁。

防御の練習にならないからだ。

又印象的な説明は、動きのないブロックは、防御としての機能が低い

とし、練習に取り入れてなかった事である。

パンチの出所が見えるようになり、慣れると肩の揺れや蹴り足の角度

だけで、相手から繰出されるパンチの予測が付くようになる。

特にリング等設備の無い、弱小ボクシング部になればなるほど、非常に

役立つ実践的なトレーニングで、且つ短期間に効果が挙る。

次にミット打ち。

当然だが試合において、自身の攻撃がすべてさばかれた時、パンチの

打ち終わりが格好の標的となる。

単発の、例えばジャブであったらジャブの引き際、ワンツーであった

らストレートの引き際、これも格好の的だ。

そこでまずストレート・ジャブ・ストレートのミット打ちで身体をほぐさせ

てから、

・間合いを遠く取る。

・受けてがジャブを打ち、パンチの引き際にステップイン。

・連打(三つ、四つ、二つステップイン二つ、二つステップバック二つ等)

・打ち終わりに必ずステップバック(受け手はフックorストレートを打つ)

これがワン・クール

次に、打ち終わりステップバックの後さらにステップイン連打を

30秒繰り返す。

(30秒以上続けると、乳酸がたまりすぎになり、速筋の機能収縮に

つながる)

30秒たったら、フットワークを続け、ジャブ、ストレート、ワンツー、

の後、またワンクール&30秒。

これで2ラウンド。

上記のステップバックをサイドステップに代えてまたワン・クール。

このミット打ちだけを習慣づけると、選手にも打ち終わり、バックス

テップorサイドステップがすり込まれる。

これはファイターにもボクサーにも重要かつ貴重な、ディフェンスの

引き出しを一つ増やすことになる。

次もミット打ち。

これは古くて恐縮だが、デラホーヤ以降のアメリカで定着した、シス

テム。

例えば

ワン=相手の利き手ストレートをヘッドスリップ、逆三つ、ステップバック

ツー=ステップバック、ステップイン二つ、ステップイン、二つ、ステップ

    バック

スリー=・・・・・・・・・・・

というように、10ぐらいのバリエーションを作る。

トレーナーの掛け声(例)「ワン」を聞いて、出せるよう刷込む。

この10ぐらいのバリエーションが、試合で出るよう刷込むのである。

これは世界のアマでも、今だカザフあたりが上手く取り入れ、成果を挙げ

ている。

・試合中トレーナーが相手の選手の攻撃パターンから、カギとなるワンパ

 ンチに絞って、選手に『ワン』と指令をだす。

・選手は他のパンチをさばきながら相手の利き手ストレートに合わせ

 上記のワンを展開する。

という具合だ。

なぜか、日本ではまだ、プロもアマも取り入れているところは少ないため、

これを取り入れただけで、非常な成果を挙げている事を私は知っている。

(企業秘密です!)

そして、パンチのスピードを速くする練習。

例えばジャブ。

イスに座って、ジャブ=30秒。これを疲労回復を待って何回か。

立って止まったまま、ツージャブを連打=1ラウンド。

ステップバック&ジャブ1ラウンド。

これだけ。

無酸素状態で速く力強く動く筋肉繊維(Fast Glycolytic)は、

最大筋力の80%以上を出力する運動で使われる繊維なので、

例えば、繰り返し10回程度で限界をむかえる反復運動と併用する。

(ただし休息は不可欠。毎日は厳禁。3〜4日に一日休息をとると

休息前より休息後の方が、筋力は向上している)

ダンベルのコンセントレーション・カールと上記を組み合せると

スピードとパワーを兼ね備えたジャブが打てるようになる。

本日の最後はメンタル・トレーニングを一つ。

意識下のイメージは運動をデザインする。

簡単に解説すると、直感的な負のイメージが現在の選手の実力

を表すので、そのイメージにそってトレーニングでイメージを創りかえる

トレーニング。

例えば、ロイ・ジョーンズ・Jrの試合のビデオをありったけ見る。

(中途半端に見ない)

次に自分がロイ・ジョーンズ・Jrと対決するイメージを思い浮かべる。

もし開始10秒でロイの得意パターン、ステップイン右フックで倒されたら、

それが今の貴方の適性な実力。

今度はそのイメージを出来るだけ言葉に表し記述する。

そして右フック対策のトレーニングを組み立て、実践する。

次にまたビデオを見、イメージの中で試合をする。

すると、右フックはスウェーでかわしたが、アッパーを被弾した。

また、言葉に記述しトレーニングを組み立て実践する・・・

この課程を繰り返す。

ほぼ、世界の一線級は、例外なくこのトレーニングを取り入れて

いる。

おもしろいことに、実力が拮抗していると、イメージの中での試合

は、30分以上に及ぶ場合があるとのこと。

またトレーニングが上手くいき出すと、イメージが鮮明になっていく

・・・イメージ上の映像がカラーになり、音が聞こえるようになる。

攻略の糸口を見つけトレーニングにフィードバックするには、最短

の道だ。

 

いずれも、「科学的効果に裏打ちされていて」「選手にその効果が

伝わりやすく」「トレーナーが選手に納得させやすい点で」印象の

高いトレーニングであった。

なにが言いたいか?

日本ボクシング界が、選手を生かす科学的裏付けの必要性に、

もっと目を向けて欲しい。

「目的意識を持たないトレーニングは意味がない」ことを前提に

「なんの為のトレーニングか」を選手が十分理解し、「トレーニング

の結果どう克服したか」選手とトレーナーがディベートし、「ではどう

練習を効果・効率よく変えていくか」修正することで、トレーニングの

質を高める。

その行為は例えるなら、まだ登ったことのない頂きに登り、見た事

のない光景に出会う事とよく似ている。

あらたな自分に出会う為に、練習の精度を研ぎ澄ます。

さらに出会った自分を当たり前な自分とし、次の自分を目指す。

その新たな自分と出会えるトレーニング方法を提示することで、

両者に信頼関係が生まれる。

後は目的をどこに置くか、だけであろう。

目的は選手が決め、目的に応じた研磨の方法をトレーナが提示

することで、一人では到底到達しえない領域に選手を押し上げる。

こんなあたりまえな姿が、日常のジムや部活であたりまえに在れ

ば、きっとその果てに世界と互し、世界のベルトを奪取する可能性

も、これまでより高い割合で、見えてくるはずだと、私は信じている。

 


 

「鈴木悟の今後」

 

息子が八王子中屋ジムでボクシングを始めて、3年目に入った。

それ以前は、八王子中屋戦士の闘いを知らないかというと、

そうではない。

最初に出会った、八王子中屋戦士の闘い。

それが、ミドルウェイト日本チャンプ、鈴木悟の初防衛戦で

あった。

間違いなくミドルで、世界を狙える。

私は文字通り震撼した。

同じ街から生まれたなどという陳腐な理由ではない。

おおげさでもない。

それなりの歴史と理由が、私にはあった。

 

それまで私は、日本のボクシングに興味を失っていた。

日本でのみの防衛戦、繰り返される疑惑の判定。負ける時

に共通した倒されっぷり。

その点、世界は広い。

純粋培養でない、本物の強さが、ごろごろそこらにころが

っている。

私が育まれた70年以降、世界のボクシング界は熾烈なスター

合戦の様相を呈していた。

28戦全KOのサモラ、474746KOのサラテ、17連続KO

防衛のウィルフレッド・ゴメス、サンチェス、アリュゲリョ、

デュラン、レナード、ハグラー、ハーンズ。

いずれも自身のスタイルを特化した、強烈に強く、個性的で

魅力的なボクサーばかりであった。

“自身のスタイルを特化した”

今後世界と、本気で日本ボクシング界が肩を並べたいつもり

ならば、この言葉は正に key word になると、私は考えていた。

いや、ボクシングだけに留まらず経済、政治、芸術他全てに

共通する、日本が抱えている構造的な問題に対する光明とでも、

言えばよいか。

なかんずく日本は、端的に言えば、『短所是正』の文化である。

公費投入や債券放棄がそれを象徴している。

業績が悪ければ、なんとか悪い部門を良くしようとまず、考える。

それに対し、構造改革で日本経済を打ち破った世界の手法に共通

する要素は、赤字部門は躊躇なく切り捨て、その会社で好業績を

挙げている部門に増資し、それを組織の切り札に特化させる手法だ。

その手法から日本ボクシング界を見てみよう。

すると世界を打破するいくつかの道が、見えてくる。

中でも、中重量級で世界を制し、長期安定政権を日本人が築く

には?

という命題に対し、日本人に体型が酷似している、アルゼンチンが

生んだ不動の王者、カルロス・モンソンのスタイルに、回答の典型

私は、見出していた。

ライフルと呼ばれたカルロス・モンソンはミドル級を14度防衛し、

チャンピオンのまま引退した。

決してロイ・ジョーンズのような万能型特有の反射神経をもちあわ

せている訳ではない。

どちらかというと不器用。

武器は、ロングレンジから繰出す、右カウンターのストレートのみ。

だがそれが、実に突出し、研ぎ澄まされているのだ。

構えた所から、相手のアゴに向って最短の距離を走るストレートは、

繰出される事がわかっていても、極めてかわし難いという事実を

彼の戦績が証明している。

事実、再チャレンジを受けても、彼は負けた事がない。

また、来ると解っていて且つ“ライフル”の餌食になった選手達、

グリフィス、ナポレス、ブーシェ、ブリスコ、等々誰一人とっても

稀代の天才ボクサーであった。

自分の射程に入った獲物は逃さない、右カウンター一閃で、ロドリ

ゴ・バルデスからダウンを奪い、ミドルを統一。

再試合をも判定で退けた2戦は、彼のキャリアの頂点と言えよう。

13年間負け知らず、実に73連勝。大変息の長いボクサーで、且つギャ

ンブルが滅法好きな好男子。

引退後は芸能界入りをした、アルゼンチンの英雄・・・。

つまりは、その方向に、素材を発掘し長所を特化する。

不器用で良い。

ただし、欧米化にもう一歩手前の骨格が放つパンチの軌道は、

ストレートでなくてはならない。

距離はロングレンジ。

スタイルはボクサー寄りのカウンターパンチャー。

条件はスムースにショートストレートの連打が出る才能を持ち合

わしている事。

 

だから文字通り震えたのだ。

鈴木悟が山口郁夫から痛烈なダウンを奪った、オバーハンドラ

イトの軌道一閃。

その後、仕留めた連打全てが緩急付けたストレートであった衝撃

が、今も鮮明に残っている。

スムーズなストレートの連打なぞ、具志堅以来だ。

しかもショートレンジではない!

私にはその姿が、この上ない、魅力的な光を放つ、原石に映った。

最終課題は、ロングレンジを安定して打ちぬけるかだと感じてい

た。

中屋ジムの門を叩き、指導を仰いで、予感は確信に変った。

日本人には極めて困難な、この最終課題を見事にクリアしている。

正に鬼に金棒だ。

だが詳細は企業秘密に触れるので、今しばし明かさない。

 

10度目の防衛戦を、対ジョッピー攻略の前哨戦という一点から振

りかえると、結果として判定負けに終わってなんら問題はないと、

私は考える。

むしろあの試合で、判定が反対に下りていたらと考えた方が、

私的にはゾッとする。

荒木選手はgood fighterだ。

今までの防衛戦の中で最強の相手だと感じた。

だが、彼では間違いなく、ジョッピーには勝てない。

ジョッピーを攻略するツールを持ち合わせていない。

だが、鈴木選手はそれを持っている。

あとはそれを磨く方向を選択するか否かに、かかっている。

私から、彼の世界ベルト獲得の道を見据えた時、方向は二つある。

ひとつは彼のひきだしを増やす方向。

もうひとつは、彼の得手に磨きをかける方向。

そして私だったら、迷わず後者を選ぶ。

最短軌道を走るカウンター・ストレートで、毎度KOを期待出来

るボクサーは実は、世界でも数える程現存していない。

又、フック、アッパーは広角周辺視野と、距離感の才を持って対処

すればさばくのはたやすく、さばきはジョッピーの得意技でもある。

なにより最大の理由は両者のポテンシャルの違いで、これは比較す

れば、明らかだ。

初防衛戦、3度目、4度目、5度目、7度目の防衛戦において鈴木

選手が実践した勝ちパターンをより特化すれば、間違いなくその果

てに、ジョッピーのダウンシーンが、私には見える。

いや、やめよう。

選択するのは鈴木選手自身である。

誰がなんと言おうが、たとえセコンドやコーチが何を口すっぱく言い

続けようが、選手の意識の反映が、試合結果にダイレクトに表出さ

れるのがまた、“ボクシング”でもある。

鈴木選手の意識がストレートという無二の武器の、更なる特化に向

っていなかった。

敗戦という試合結果が、なによりそれを雄弁に物語っている。

さあ、鈴木選手本人がどんな戦略を選択し、なにを磨き、なにを信

じるか。

次戦に、期待したい。

 


 

 

 

「ロイ・ジョーンズ4階級制覇」

 

「ボクオタって言葉があるんだよ」

と聞いて驚いた。

なんでもオタッキーなボクシングマニアの事を指す言葉らしい。

友人はこの“ボクオタ”の発言がいちいち癇に障るようで、

“むかついて”しょうがないと熱弁を振るう。

でもなぁ〜、はたと我が身を振り帰ってうろたえる。

私なんかはさしずめ、筋金入りのボクオタと言われても返す言葉

は見当たらない。

だいたいもの心ついた時から兄の影響もあってボクシングが

日常のなかで大きなウェイトを占め今に至る。

25年、ボクシングを続けているのだ。

ジムに通っていない時も、トレーニングというと、ロードワークして

ロープ、シャドウ。

減量は今でもちょっと落としたい時は、朝お茶&バナナ、

昼野菜ジュース塩入り&プロティン、夜定食とロードでまあ、週に

4キロぐらいは軽い。

ようは身に付いてしまっているのだ。

私正直言ってボクオタの存在は、ありがたいと思った。

それでなくとも先進国の中では、もっともボクシングの認知度が低

い国であるからして、日常的にボクシングを語ってくれる存在は稀有

なのだ。

カンにさわったとして、くれぐれもイジメないよう、友人には忠告して

おいた。

私は空手と合気道も一通り習得している。

合気道では有段者に近くなると、短刀や長刀のさばきを実際に練習

で行うので、対武器の慣れという点においては自明の利がある。

空手の蹴りは確かに強烈である。

だが、アゴに拳を当てるor顔に飛んでくる拳をよける為のトレーニン

グを恒常的に行うのはボクシングだけである。

そして人間から等しく戦闘能力を一定期間奪うには、それが最も

有効な手段となる。

ここが他の武道と圧倒的に違うところ。

ようはシロウトと差が歴然と出るのだ。

だからスーパーライトの新チャンプ、佐々木のコラムにあるように、

相当ケンカなれした腕におぼえのあるニィーチャンでも、まじめな

練習生といきなりスパーをすると一方的にぼこられること必至だ。

ついでにチョット理屈、こねさせてください。

なにしろ、どうもこのサイトについての反応を聞いていると、安部

公房関係者及び研究者とボクシング関係者とが入り混じったりす

る為、時に痛く過剰反応に遭遇するからだ。

まず最初に聞いて欲しいこと。

ボクシングをトレーニングとしてたしなむことと、ボクシングの試合

に出ることは、似て非なるものだということだ。

心肺機能を向上させる目的として、ボクシングのトレーニングは

非常に効率的かつ合理的である。

3分に1分のインターバル。柔軟、ロープ、シャドウ、ミット、ダブル、

サンドバック、組み打ち、マス・ボクシング、シングル、ロープ、

柔軟のジムワークサイクルとロードワーク。

たとえサンドバック等の器具を使用しなくとも、目的に対して充分な

効果が期待できるし、なにより、一人もしくは小人数で実践が可能

である点で有効である。

ところが、ここにスパーリングが加わると、状況は一変する。

例えウィニングスの16オンスソフトグローブに、ノウズガード付きの

ヘッドギアを利用したとしても、非常なリスク度の向上は拭えない。

ではなんのリスクが向上したのか?

それは脳・脊髄神経系へのダメージのリスクである。

なぜか?

目的がそこにあるからだ。

ボクシングを競技として追究すると、その目的はただ一つ。

相手の脳・精髄神経系に、いかにダメージを与えるかを競うスポーツ

だからである。

ボディー攻撃があるだろうなんて、チャチャを入れないで欲しい。

ボディー攻撃は内臓損傷を目的としている訳では決して無い。

鍛えたボディを叩くのは、脳の出力機能の低下を目的とした、遠隔攻撃

なのだ。

そしてこの、競技としての前提が、心身に大きく負荷をかけることで、

さらにリスク度を増すという相乗効果が図られるのだ。

要素が増える。

心身の葛藤、肉体と精神の昇華。己を超えようとする試み。

そこがスポーツですまされないパフォーマンスを生む。

相手を攻略するというエレメントがさらに昇華をうながす。

ボクシングという競技は、競技自体が限りなくリスキーな状況を

前提としてなりたっている。

(断筆)

 


 

 

写真『日本ミドル級タイトルマッチ鈴木 悟8度目防衛戦』

2002.9.21(sat)ファイティングスピリッツ 

↑日本ミドル級タイトルマッチ 王者鈴木ホール到着

↑Sライト4位小暮フェイフォン ウェルター10位戸田に快勝

↑フェザー5位雄二・ゴメス フィリピン8位ダリサイを左ボディ

 ワンパンチKO 1ラウンド。

↑鈴木チャンプのオーバーハンドライト

↑3ラウンド終了TKO完勝!18勝12KO

↑チャンプ試合後、ダメージ皆無、ボクサー・パンチャーの

 誕生。

↑八王子中屋全勝! 左から、フェイ、会長、シュート、鈴木

の各選手

 


 

 

「明と暗:健吾、そしてチューを手掛かりとして」

 

結果にかかわらず応援し続けようと思っている選手がいる。

一人は帝拳の松橋 拓二選手。

そして八王子中屋、村上潤二選手だ。

この二人のボクシングスタイルは180°異なる。

松橋はご存知 “北海の豪腕”。

高校から名門、拓大時代を通じアマ日本のタイトルを総なめに

している選手である。

文字通り、特筆すべきはそのパンチ力だ。

アマのフカフカなグローブで、なんと勝ちは全てRSC。

すさまじいまでのパンチ力はかすっただけでも相手を倒す。

ただし、負けも全てRSC。

このハイリスク、ハイリターンのボクシングは、いつの時代にも

変らずファンを熱狂させるエレメントの一つだ。

そこには劇的なドラマが生まれやすい。

だが、ぼくは、まったく違った所に強く惹かれる。

どこか?

彼がまだ原石というにはありあまるほど、未完の大器で、

可能性の宝庫という点に、だ。

「誰が一押しか」

と聞かれ

松橋の名前を出すと、だいたい相手は戸惑う。

彼は完成されている・・・こう指摘する人は実は多い。

だが、ぼくにはそう思ってはいない。

それなりの理由がある。

もし結果として彼が伸びなかったら、それは彼のせいではない。

トレーナーとチームのせいだと考えている。

長くなるので言わなかったことを、今日は書こう。

 

当然デフェンスの練習はさせていると思う。

だが、彼の資質にあった練習をさせているかというと、

はなはだ心もとない。

このままの練習では、彼はパーリングもスェーもヘッドスリップも

ダックも習得出来ない。

なぜなら彼の試合でのボクシングスタイルが、進歩してい

ないことが、その証明だ。

確かに彼のようなタイプにデフェンスを教えるのは困難だ。

だが出来なくはない。

そこには細いが、確かな、道筋がある。

 

固い身体は打たれモロさを露呈する。

この場合の固さは、柔軟性や筋肉の固さとは異なる。

堅さと書いた方が的確かもしれない。

いわゆる力み、すくみからくる堅さだ。

そこでガードを固めさせているが、ボクサータイプから見れば、

二本に立てた棒を持った的が近付いてくるだけの話で、非常

に攻略は簡単である。

日本人の対戦相手には、キャリアとネームで萎縮させ、下がら

せるることができても、外人にはそれが通じない。

だから8月24日の両国国技館、松橋4戦目は、マッチメークの失敗

だと考える。

あのダブルタイトルマッチの興行は、帝拳が松橋のお披露目の為に

開いた興行だ。

そういった思惑と裏腹に展開は急であった。

1ラウンド開始早々、打とう、打とうと棒立ちのまま近付く松橋に

韓国4位の呉は、平行して立つガードの真ん中にアッパーを通し、

跳ね上がった顎をきれいにフックで薙いだ。

松橋がゴトンと肩から落ちた時点で、試合は終わっていた。

結果的に帝拳は高い授業料を払ったと言える。

だが、せっかく授業料を払ったのだから、それを生かして欲しい。

では、どう生かすか。

払いついでに、1年。

いや半年でも良い。

ぜひ、彼をチーム・チャベスの元に修行に出して欲しい、彼の

試合のビデオを添えて。

彼のビデオを見れば、メキシコでは彼にまず、パンチを“取る”コツ

を一番最初に習得させる練習をするからだ。

ひたすらパンチを取る。キャッチボールの感覚で大きめのグローブ

をはめて、ひたすらマスで打たせ、取り続ける。

パンチを取り続けることで、唯一打たれ慣れた代償行為ともいえる

身体のすくみをほぐすことが出来るようになる。

このほぐれた腕が、ガードをでくの棒から、鍵に変える。

まさにこれはチャベスが化けた手法である。

取れれば、パンチが見え、自ずと身体が反応できるようになる。

この小脳への刷り込みの結果、ダッキングやヘッドスリップは出

来なくとも、パーリングやスェーは必ずや出る。

誰かが教えなければ、今の練習を続けるだけで、彼の身体は蝕

まれる。

彼は練習にしろ、打たれてはいけない(危険という意味で)選手の

部類である。

事は急を要するのだ。

オフェンスはもう教える必要などない。

なぜって?

彼のパンチ力は天分以外のなにものでもない。

ついでにナックルを入れる角度、タイミング、当て方、すべてに

天賦の才がそろっている。

あとは細いディフェンスの可能性をこじ開けるだけだ。

それさえこじ開ければ、東洋に松橋ありとうたわれる日は、そう

遠くない。

彼のジェラルドマクラレンを凌駕するパンチ力は、日本のワン

パンチフィニッツシャーとして、長く世界にその名を残す事に

必ずやなる。

 

さて、八王子中屋、村上潤二選手。

「田中VSサマン」

でも触れたので、繰り返しは避けたいが正にこちらは

 Untouchable

そのテクニックは、松橋と対極の“高み”を創りあげる。

田中対サマン戦の前座に登場した試合は、今までの彼の

ベスト・バウドでTVでもオンエアされた為、日本のうるさ型の

関係者への華々しいお披露目となった。

特筆すべきはその距離感。

本番の舞台で、殴りのスペシャリストに触らせない芸当は、

それを実現させると芸術の域に昇華される。

そして天はニ物を彼に与えた。

彼はまぎれもなく、ハードヒッターなのだ。

彼は白状するとぼくの大学の後輩である。

先輩風を吹かすつもりで言っている訳ではない。

コンクリートの中庭で、車座でストレッチをする大学の

弱小ボクシング部出身なのだ。

彼がどのような環境に己を置いて明日を想っていたか

ぼくには痛い程分かる。

だからこそ、この天賦の才をもつ華麗なハードヒッター

に、ふさわしい舞台を与えてくださった中屋会長には、

人ごとでなく、本当に足を向けて眠れない。

 

さて、本題が最後になってしまった。

実は国技館に息子と足を運んだ目的は、二つあった。

松橋をライブで見ること。

そして健吾を仮想村上としたてて、シリモンコンとの

対戦を観戦することである。

同じスーパーフェザー級。

村上にとってもレベルとしては、ここが最後のハードル

だ。

結果は、国技館中に響き渡った、後頭部を痛打したダウン

までは、Untouchableボクシングは成功したかに見えた。

だが、追い足が速度を増し、パンチを振り切りにきたシリ

モンコンの出足を、パンチで止めなかった戦略に、唯一の

敗因があった。

穴だらけの松橋に比べ、“ミスターパーフェクト”もって生ま

れた才能では他に比類を見ない村上敗れる可能性があ

るとしたら、このパターンしかない。

 

この観戦に締めくくりを与えてくれたもう一つの試合。

それは時を同じくしてぼくの手元に届けられた、数少ない

ウィルフレッド・ゴメス スタイルの継承者、スーパーチャンプ

コンスタンティン・チューの防衛戦のビデオであった。

チューのキャリアに関しては、これまで書いてきたので、割愛する。

相手はあのタッキー、突進の化け物である。

タッキーの試合たるや、常にすさまじいの一言。

パンチを受けて尚突進し、その為に効いても、自分の射程距離

まで強引に詰めることをやめず、最後にはパンチを当てて、勝ち

をもぎとるのだ。

その打たれ強さは、他に比肩しようがない。

パンチをもってしても容易には止まらない相手。

さてさて、これはどうなるものかと興味深々の内に試合が始まった。

そして・・・。

結果には慄然とさせられた。

厳しいまでの現実。

ボクシングがなんたるか、再び叩き込まれた気がする。

ボクシングに必要なスタミナは、瞬発力の持続力だとぼくは考える。

同様にボクシングに必要なメンタリティは、集中力の持続力と言えよう。

それらを熱い闘争心と覚めた視点が駆使し、試合を組み立てる。

負荷がかかる空間に身を置いて、限られた時間維持させることは

人間の限界へのチャレンジとも言える。

チューはそれをこの試合でやってのけた。

突進は打ってとめた。さらに出てきたら、触らせず、パンチで廻す。

さらに突進するところにカウンターを入れる。止まったら、パンチで

こじ開ける。再び突進してきたら、触らせず、パンチで廻す。いなす。

目の横をブンブンと、もらえば昏倒するパンチがかすめ続ける。

そして・・・。

チューの集中力は、最後までまったく途切れなかった。

思えば、これが健吾とチューを分けた、明暗であった。

そう。

集中力が途切れず、熱い闘争心と覚めた視点がフルラウンド機能

し続けた結果、触らせず、一方的に殴りつづけ、試合は終わった。

圧巻であった。

「ファイタータイプ寄りのチューらしくない、ボクシングに終始した

試合」

という評価がこの試合に関しては聞こえてくる。

だが、驚くべきは、全ラウンドを通じあのタッキー相手に

ボクシングをやりきった、チューのクレバーさと非凡さにある。

チューという選手の魅力を、ぼくはそこに見る。

タッキーは完全に壊された。

高いリスクを覚悟して臨んだ試合は、チューの準備の前に攻略す

る糸口が封じられた結果に終わった点に、プロの意識としての崇高

さすら感じさせられる試合であった。

 

最後に松橋選手、そして村上選手。

明確に目標をここに置いて、己のスタイルを貫いて欲しい。

方やワンパンチ・フィニッシャー。

方やボクサー・ヒッター。

ジェラルド・マクラレンやアレクシス・アリュゲリョが到達した

高み(=指定席)は、暗を教訓に明を実現させ続けるその先に、

君たちを必ずや待っているのだから。


 

 

「伊礼選手追悼試合」 

 

又一つ、大きな成長を披露したタイトルマッチ

となった。

鈴木 悟 日本ミドルウェイト、7度目の防衛戦。

ボクシング程メンタリティーを求められるものはない。

特に、感情に支配された時、

ボクサーは多大なリスクを自分に課す事になる。

その間、繰り返し身に付いているものだけで、相手と

対峙しなければならない。

 

1ラウンド 2分30秒過ぎ。

玉置の常套手段、意図的なローブローが

もろに鈴木にヒット。

ズバリ玉置の筋書きに乗り、鈴木は激高する。

足を止めて打合いに出た。

玉置の狙いは、右フックによるお得意の1ラウンド

KOだ。

玉置のリードが浅く鈴木のアゴを捕らえる。

鬼の形相のままの鈴木。

そしてもう一つ、まったく同じ軌道のリード。

スウェーした鈴木はジャブの引き際に合わせ、

右ストレートをど真ん中に打ち込んだ。

玉置のギャンブルの、あっけない幕切れがおと

ずれた。

斜め前にゴトンと倒れた玉置。

ファイティングポーズを認めないレフェリーの判断

のお陰で玉置は、文字通り、命拾いしたと言える。

だが、まだ鈴木の表情から目を離すことができなかった。

カウントアウト後、リングを一周し終わるまで、不快なもの

を見るような、憎憎しげなその表情が和らぐ事はなかった。

(鈴木のオフィシャルウェブサイトに写真がある。59のこの

表情だ)

この上なくRiskyな状況下で最大限の結果が出せることを

証明した鈴木は、名実ともに日本ミドル級至上名チャンプ

の称号を勝ち取ったと言える。

やはりハイリスクである“狙って取るKO勝ち”よりも

“狙わず取れるKO勝ち”は世界の仲間入りには必須条件

であり、それが早い回で実現可能となれば頂点に立てる

可能性の証しにもなる。

こうなれば自然と“東洋・太平洋”“世界”の飛躍への足がかりは、

周りが勝手に始めるはずだ。

もうひとつ。

八王子中屋ジム仕込みのストレートは、卓越している。

企業秘密になるので、詳細は臥すが空手の正拳突きより

稼働範囲が倍は広い。

これは正に目からウロコである。

鈴木はどんなに体制が崩れた状態でも、これが打てる。

そして本番でも、会長とのミット打ちと同じパンチが打て

る。

さらに左を返そうとすると、その稼働範囲のお陰で、

強力な左ストレートになる。

返しの左フックの威力は当たり前だが、返しの左ストレート

の比類無き強さは、ここに秘密がある。

さあ、満を持して、東洋・太平洋チャンプに、鈴木を送り

ださなければならない。

鈴木 悟 ○ 対  玉置健治 1R2分52秒

 

Mrアンタッチャブル、村上潤二が見事A級マッチを制した。

相手は7勝6KOの朝見選手。

8回戦、時間にして30分強。

息がつまるハイレベルな攻防であった。

時に被弾しても、最後まで自分のボクシングを貫いた

この勝利は、明日につながる大きなものだ。

そしてすごいというか、恐ろしいことに、リード一本で勝利

をものにしたあたり、非凡さが顕著に表れた。

勝因は実はファイティングスピリットだったと思う。

もっとも似合わない消耗戦で、それを我々に身をもって見

せてくれた村上選手にぼくは、いつまでも拍手を贈り続けた。

本人が思っている以上に、実は左も強力である。

右をアゴに戻し、稼働範囲の広い中屋仕込みの初弾左

カウンターが多用できれば、この天賦の才は一気に世界で

ブレイク必至である。

私の先見の明を、ぜひMrアンタッチャブルに証明して欲しい。

(激闘の果て)

 

対大嶋(イレズミボクサーで話題になった人です)戦でひきつけ

た足をひきずり、見事打ち勝ったフェイ選手。

そして今日の5選手、各人が内なる伊礼喜洋選手に、見事に

答えた、もって余りある6勝であった。

フェイ選手、おめでとう。

前に出、手を出し続けた大谷唯門選手、おめでとう。

KOの勝ち名乗りを涙で迎えた御船シュート選手、おめでとう。

豪腕完全復活、ゴメス選手、おめでとう。

村上選手、鈴木選手、おめでとう。

魂のこもった、すばらしい試合でした。

(御船シュート選手 切味するどいパワーヒッター)

 


 

 

「伊礼選手の魂」

 

死こそ唯一、

あらゆる垣根を超えて

誰にも等しく訪れる。

 

見送り悲しみにくれる側も

やがて必ずや棺の主となる。

 

私が病弱だった頃、私は何度となく死の足音を

ハッキリと耳にした。

幼かったからその時は怯えたが、聞こえたこと

が、私の生に、ある変化をもたらした。

 

私は以来、生きることを吟味するようになった。

少なくとも、何時訪れるやもしれぬ、決して逃れられない

死を享受するために、常に自分の在り様を見つめ直した。

ゴールを前にして、自分が遣り残した事、今出来る事

を見つめ、邁進する。

どんどん死の垣根が低くなっていくのが、自分でもわかった。

 

一週間裳に服す意味で運動を封印し、伊礼選手のことを考

えていた。

 

死は誰にでも平等に訪れるゴールである。

そこだけから凝視すると、感情が削げ落ち、普遍が見えてくる。

そこでは、人生は長短ではない。

いかに生きたか、だけが問題になる。

すくなくとも己を燃焼させたか否かが、重要な要素になる。

例えば、伊礼選手のように、彼を知るもの全てが納得したよう

な強烈な燃焼を、己もさせたか、が問われる。

 

私はある一点で彼とシンクロしていた。

ボクシングに対する“動機”が純粋な点だ。

八王子中屋ジムをこよなく愛し、中屋会長をこよなく

慕い、ボクシングを心底愛していることであった。

彼は一挙手一投足で、それを語っていた。

練習時の集中力、澄んだ眼差し、サンドバックの音色、

生のままの闘志。

ああ、そうか。

彼は己の生をまっとうしたんだな。

私はそう感じた。

おそかれはやかれ、いずれ間違いなく彼と同じように、

私は“死”という宿命を享受する。

私もその時彼のように、これ以上ほかにない形で、

私自身の生をまっとうしたいと、そう感じた。

願わくば、彼のような鮮やかな光りの幾ばくかを私も、

放ちたいものである。

そのような規範として、彼は私の中に生き続ける。

彼との出会いを、私は感謝している。

 

昨日久しぶりにジムに顔を出した。

もくもくと若い練習生たちがジム・ワークをこなしている。

私も久しぶりにここでしか流せない、心地好い汗を

たっぷりと流した。

彼の志は、ジムの関係者全ての者の中に生き、それを継ぐ。

私も、師や内なる伊礼選手に恥じぬよう、負けぬよう

1度限りのオリジナルな生を、まっとうしたい。

 

追記

 

八王子中屋ジムがおくる未来のチャンプが今月いよいよ

始動を開始する。

タツヤ選手の名前を頭の片隅に置いておいて欲しい。

彼は近い将来、必ずやWBCバンタムウエイトのベルトを、

日本にもたらすこととなる。

彼に関しては、私はオーバーワークしか心配していない。

誰かを担いで、後援会だけは作っておこうと、今から大変

楽しみにしている。


 

「追 記 2」

 

八王子中屋のファイター伊礼喜洋選手は本日

平成14年4月9日午前7時すぎ、22年の生涯に

幕を降ろした。

君のジム・ワークや、試合におけるボクサー魂を

ぼくは生涯忘れません。

本当に、長い長い、苛酷な闘い、お疲れ様でした。

 

「追 記」

 

平成14年3月31日現在、伊礼選手に課せられた、非

常に困難な闘いは継続中である。

八王子中屋ジムのホームページにもうけられた掲示板

への書き込みをご家族が読み聞かせたところ、涙をに

じませ続けた伊礼選手のために儲けられたコーナー

頑張れ!!伊礼選手には森川ジョージ氏(マンガ:はじめ

の一歩著者)を始め全国から応援の言葉が届けられ

ている。

今は、無事社会復帰を果たせるよう、祈り続けたい。

 

教訓を明日につなげるために、ファイターのリスク回避

の対策を徹底したい。

速いステップ・イン、ウィービング、ダッキング等ディフェ

ンス・テクニックを磨かなければ、的・・・サンドバックが

歩いてくるようなものであるからだ。

私自身、練習及び試合中モロにパンチを“恒常的”

に被弾するファイターを見るにつけ、鬱々としてしまう。

日本も欧米に習い、練習によって改善されないのであれ

ば、なにより本人のその後の長い人生の為にも、周りから

本人に、引退を勧告することを徹底した方が良い。

本人には己の姿は、とかく見え難いものである。

被弾する確率が高いボクサーは、ジム・ワークにおいて

も、リング禍に見舞われる高い可能性が存在する。

 

後段「一瞬の、あまりに眩しすぎた、輝き」で紹介した、リン

グ禍の後遺症と現在も闘いつづけている、元ミドル級世界

チャンプ、ジェラルド・マクラレンの介護費用に対する寄付

を呼びかけるサイトがある。

http://www.kronkgym.com/news/mcclellan0712.html

ボクシングという文化の火を絶やさぬために、彼を忘れた

くない。

あらゆるスポーツは、それぞれ事故につながる可能性を内

に内包しているが、ボクシングという競技に至っては、常に

事故発生と背中合わせの関係にあり、特段のリスク管理シ

ステムが求められる。

そういった側面から考えるにつけ、ボクシングをスポーツと

くくることは、私には出来ない。

又格闘技や武道の中でも、試合における危険度は突出し

ていると言わざるを得ない。

 

ボクシングには、人間の生におけるあらゆるElementが凝

縮されている。

1度囚われたら離れられないと評されるボクシングの魅力

の主因はここにある。

文化たらしめる為には、単なる殴り合いと呼ばせない昇華

が必要だ。

日本のボクシング界には、まだまだ発展する余地がある。

 

推奨

http://members.tripod.co.jp/salvador_ray/index-old.html

 


 

 

 

「日本ミドル級タイトルマッチ」

 

 

「八王子から世界へ」

と銘打れた八王子中屋ジム主催の興行、ファイティング

スピリッツシリーズは9回を迎え、地元八王子市民会館

で24日、開催された。

まずは、一押し!

次世代の世界チャンプ、サウスポーの天才ボクサー

村上潤二。

今回はライトウエイトでの登場だ。

左を痛めたと聞き心配していたが、キレ、速度共申し分

なかった。

そして天性の距離感、ガードワーク、ディフェンス。

見事の一言である。

目立ってもらったのは、バッティングであった。

おそらく調子は良くなかったのではあるまいか。

それだけに課題も浮き彫りになったように思えるので、触れてみる。

例えば似ているタイプの鈴木悟がファイターに強い理由。

それは、自他ともに認める、『右』という揺るぎ無い伝家の宝刀を

もっているからだ。

これがファイターに対する抑止力として働く。

安定感をさらに増すために、村上にもこれが欲しい。

いわゆる決めパンチだ。

人に評価される必要は、まったくない。

自分で得意パンチを決め、利用するのである。

意外と簡単で効果的な方法がある。

まず最初のラウンド、これをハードヒットする。

一発、思いきりだ。

もちろんガードの上からでよい。

以後ファイターの飛び込みザマに2〜3度このパンチを合わせる。

これで充分相手には“決めパンチ”としてすり込まれる。

次に相手がこのパンチに対処してきた段階で、これをフェイント

として利用し、返しやコンビネーションの起点とする。

以後はバリエーションでよい。

今のようにファイターは飛び込めなくなるはずだ。

さて、この方法で世界をとった強打者は誰でしょう?

 

6回戦 ○村上 潤二 × 村田 稔

 

次に登場した中屋ジムの次世代を担うホープ、中村尚平太

は一ラウンドKO負けを喫してしまった。

あがり、固くなり、なにも出来ずに被弾した結果である。

ボクシングにおいてよく言われることだが、練習時のスパー

と同様のポテンシャルを試合において引き出せることが、

一流選手の条件となる。

これには練習時のメンタル・コントロールの意識化が不可欠

であるし、それが試合におけるプレッシャー、気負いを開放

することに、ひいてはつながるのだ。

次にこの敗戦を生かせれば、有り余るお釣りを手にできる。

ようは日頃のジム・ワークの関わり方であろう。

 

6回戦 中村 尚平太 × ○春山 正太

 

今日は仕事中も気が気ではなかった。

伊礼選手が、5ラウンドから、明らかに変調をきたしていた。

6ラウンド終盤、私は思わず「タオル、セコンドタオル」と叫んだ。

ところが本人は手を出し、レフリィーはスタンディングダウンはとれない、

セコンドはタオルも入れられない、非常に難しい局面のまま、

最終ラウンドは終了してしまった。

8戦8勝2KO、昨年度新人王、伊礼選手がリング禍に見舞われた。

判定負け後意識を消失。

急性硬膜下血腫による緊急開頭手術後、未だ意識不明である。

意識の早期回復、そして後遺症もなく、無事社会復帰できるよう、

一家で祈り続けている。

新人王トーナメントを勝ちぬいた君だ、頑張れ!

 

6回戦 伊礼喜洋 × ○内藤 佳紀

 

セミファイナル

雄二・ゴメスの登場だ。

1ラウンドKO、見事で、強烈な右であった。

その、ファイティング・スピリットこそ、世界に通じる。

まずは、日本タイトル。

洲鎌へのリベンジである。

 

10回戦 ○雄二・ゴメス × スクサワディ・キャットチャイヨン

 

メイン

Sniper from oriental 鈴木 悟の登場だ。

フル・マークに近い、完封の判定勝であった。

距離感、パンチ力、ディフェンス、全てにおいてランキング1位、

稲澤を寄せ付けなかった圧勝である。

挑戦者の両目はつぶれ、痛々しい程。

ぼくは中屋ジムで今もっとも世界に近いのは、この男

だと思っている。

鈴木はかつて、現在WBC世界ミドルウェイトの6位、

東洋太平洋王者保住のアゴを砕き、日本チャンプのベルト

をもぎ取っている。

当然保住陣営は逃げるが、鈴木は1位、逃げきれる訳がない。

それに保住がいつまでもタイトルを保持しているとは思えない。

だからこそ手段を問わず、早期に再度ぶつけたい。

統一王者、ホプキンスであれ鈴木の右カウンターは通用する。

だがあの攻撃をしのぎきり、右を当てる為には、今日のディフェ

ンスではだめだ、一ラウンドもたないであろう。

国内はおろか東洋・太平洋圏内敵無しは、解りきっている。

目標を世界に置いて研磨した方が良い。

イヤでも雑なボクシングはできなくなる。

それにしてもコンディションは万全とは言えない状態で、フル

マークに近い完封劇は、すばらしいの一言であった。

 

日本ミドル級タイトルマッチ

○チャンピオン 鈴木 悟 × 同級1位 稲澤 俊之


 

 

「田中VSサマン」

 

 

短い報告をお許し頂きたい。

2月2日土曜日。

風邪をおして十何年か振り、後楽園ホールに足を運んだ。

時は流れても、ここにはいつも変らぬ空気がある。

 

はじめに、

素敵な原石を見付けた!

いや、原石というには余りに鮮烈である。

研磨も既に7割程度の仕上がりを見せていると言って良い。

エレガントな宝石に化けつつある原石だ。

そこから見たこともない、新しい色の輝きが

鮮やかに解き放たれている。

まさにUntouchable!!

中屋会長も人が悪い。

こんな至宝を隠し持っていたなんて。

それも国内レベルの器ではない。

求めて精進すれば、間違いなく世界の器である。

『村上 潤二』

八王子中屋ジム所属、サウスポー。

フェザーウェイト。

試合を見たのはこの日が始めてだ。

ロングレンジからの初弾右フックの軌道と、左アッパー

の打撃角度。

本番で、彼のように打てる日本人は、27年間、世界の

ボクシングから、日本を見てきたぼくの記憶を繰ってみても、

他にいない。

また、フルラウンドにおいてクリーンヒットを許さなかった

距離感。

もちろん左ストレートの良さは、言うまでもない。

世界では、デビュー当時のアリュゲリョ、リカルド・ロペス。

彼等に比肩する正に“天賦の才”の持ち主だ。

そう、ニカラグアの貴公子も、身長177、サウスポー、出身

はフェザーだったっけ。

だが、才能があるにも関わらず埋もれていく者が多いのも又、

ボクシング特有の怖さである。

なぜならばその本質は、非常にシンプルである、

“殴り合いの優劣を決める競技”

だからだ。

強烈なハートを持って関わる必要性が、ここにある。

間隔を空けず少し高めのハードルをこなし続ければ、

間違いなく彼の名は、すぐに大きなものになる。

質の高い精進が、今後必ずや運を彼に呼び込むであろう。

 

6回戦 ○村上 潤二 × チャロエムチャット・キャット

                 プラサンチャイ(タイ)

 

セミ・ファイナル

『小暮 飛鴻』

その強烈なハートの持ち主である。

見事な右ストレートワンパンチKOであった。

伏線となった上下の打ち分け、特にボディ攻撃と、集中力

が素晴らしかった、痺れる試合だ。

もともと気持ちが勝っている選手だ。

あとは、常に節制し、どこまで身体を“いじめられるか”に

かかっている。

普通に“いじめて”いれば彼の戦闘力をもってすれば

普通の山に登るのは容易であろう。

ただ目標を、富士山、果てはエベレストに見据えるのなら、

普通にやっていてもダメである。

“死ぬほど”やるしかない。

死ぬほど“いじめ続けれ”ば、さらなる大化けができる。

20〜30キロダンベル 10×5セット コンセントレーションカール

の速筋トレーニングなんかでパンチ力を飛躍的にUPさせるのも

いいし、毎週1回高尾〜神馬往復ランニングもいい。

パンチ発射台のバネが飛躍的に向上する。

腹筋あたりもまだいじめる余地がありそうだ。

ぜひ『世界』に目標を置いて欲しい。

それだけの器だと、ぼくは睨んでいる。

 

8回戦 ○小暮 飛鴻 × ナンナム・キャットプラサンチャイ

                (タイ)

      2R 3分6秒KO

 

メイン・イベント

八王子中屋のリード・オフマン 

『田中 光輝』

の登場である。

じつはボードを打つ手が重い。

このホームページをご覧の方々は芸術系の方が多く

ボクシングをあまりご存知ない向きが多いと思うので

紹介をすると、彼は15戦無敗のまま日本タイトルを

飛び越えOPBF(東洋太平洋)タイトルを奪取した才人である。

速い足とキレるパンチ、そしてクレバーな試合運び。

まさに“ボクシングの中のボクシング”

玄人をも魅了する、この人にしか現せない独特な華がある

数少ない選手である。

だが何故か、OPBFタイトル奪取の後、モチベーションの

下降が見て取れ不思議な気がしていた。

2連敗の後の再起戦。

本人は引退も考えていたとのことで背水の陣でもある。

両選手、リング入場。

田中のフットワーク、パンチのキレ。

一目で最高の状態であることが、見て取れる。

そして一方のサマン、この世界タイトルを10度防衛した

ハードパンチャーはタイの国民的英雄でもある。

そのシャドーの右。

しっかり速筋を仕上げてきた“うなり”があった。

まるでメキシカン、ルーベン・オリバレスの全盛期を彷彿

とさせる。

「打合わないで、ボクシングをする」

ぼくは心の中で呪文のように繰り返した。

相手がルーベン・オリバレスなら、田中はIBFJバンタム

を16度防衛したオーランド・カニザレスになれば良い。

フットワーク、追ってきた相手に踏み込んで、ワン・ツー

次の瞬間にはサイドステップで、敵の正面から離脱して

いる、初代Untouchable、名ボクサーだ。

田中にはそんな試合運びを可能ならしめる武器がある。

ステップ、そしてパンチのキレ。

ゴングが鳴った。

オープニング・ヒットは、田中の鋭い左ストレート。

サマンは思ったより速い追い足でフックを振りまわしてくる。

発射台が鍛えてある。パンチもぶれない。

1ラウンドは田中のフットワークとパンチの精度がサマンを

凌駕する。

10−9田中のラウンド。

2ラウンドに入ると、ガードを固めたサマンが出てきて、田中

のパンチの出鼻と引き際に合わせた右が効果的にヒットす

る。田中の右アッパー、ストレートもあたる。

パンチ精度勝負の様相を呈してくる。

10−9サマンのラウンド。

3ラウンド、サマンの突進が早くなる。

田中もスピードを挙げる。

そこで突然アクシデントが起きてしまった。

バッティングだ。

田中は左瞼上をバックリと切ってしまった。

サマンは頭を切る。

ドクターチェックの後、試合再開。

そして、

いきなりサマンが勝負にでた。

すべて右、右、右。

全部強打を正確に当ててくる。

田中は足と目でかわし、カウンターで応戦する。

がラウンド終了直前、右が田中のテンプルを

直撃した。

フォローもまた、右である。

田中はそのままロープに倒れ込んだ。

からくも立ち上がるが深刻なダメージと見て取った

レフリーは、ここで試合を止めた。

 

田中光輝 × サマン・ソーチャトロン(タイ)○

        3R2分28秒

 

今は沸き上がる言葉はポンポンゴミ箱に捨てて、

ゆっくり心行くまで、休息を取って欲しい。

今後ボクサー田中の将来は無論本人が決める。

ただ、この試合で、田中スタイルが十分世界

に通用することを証明できたとぼくは感じている。

そして最後に一言。

一ファンのわがままな発言をお許しいただきたい。

リングの上で勝ち名乗りを一身に受ける光輝選手

をいつの日かもう一度、見てみたいと、そう願っている。


 

 

2002.1.12「ボクシング新年・・・チューをチュー心として」

                  (ジョーさんパクッてゴメン)

 

 

“プエルトリカン・バズーガ” ウィルフレッド・ゴメスの

ボクシング・スタイルの正当な継承者、“ロシアン・ロケット”

コンスタンティン・チューがスーパーライトを統一した。

(IBFの呼称はジュニア・ウエルター)

この珍しいアップライト・スタイルのパンチャーは、驚異的な

瞬発力と動体視力を駆使し、今もKOを量産中だ。

ベタのスリ足、いっさいの振りかぶりや予備動作がなく、その

くせ繰出されるミドルレンジのパンチは、力、キレともに逸品

である。

元々ほとんどノーガード、目でパンチを見切れる、もしくは

同時にカウンターを取れる選手だ。

デビュー当時は、今のように無理をして強打の選手を追いかけ

まわすスタイルではなかった。

スピードももっと速く、決して被弾せず、キレと連打で倒していた。

その卓越したパンチ力とKOの山が警戒され、相手が出てこなく

なった結果、自分から相手を追い詰めるスタイルが定着し、パ

ンチを被弾する確率が増え、それが又新たなスリルと、ノック

アウトシーンを演出している。

スェーバックを中心とした“見きり”でグイグイ前に出て、“打

ちぬく”パンチを存分に振るうハイリスク・ハイリターンのチュー

のボクシングは、正に金になるボクシング・スタイルと言える。

個人的に、チューは一押しだ。

アグレッシブでハートが強く、かつ一面常に冷静に試合をコン

トロールするクレバーなボクサーが展開する試合には、芸術性

すら感じてしまう。

ただ、もう少しスピードとディフェンスを意識化して試合に望んで

欲しい気もする。

理由は彼の今後の方向性にある。

平成13年の世界ボクシング界はザブ・ジュダー(元IBFチャン

プ:この試合まで26戦26勝20KO)との、統一戦で幕を降ろ

した感があるが、チューも含めスーパーチャンプ達の共通した

思惑により、平成14年はさらに波瀾を呼ぶ年となりそうだ。

その原因は、昨今ステイタスになりつつある、多階級制覇と

いう流行りにある。

チューにしても、取り巻きを含め、統一チャンプの防衛より、

多階級制覇に焦点をおきそうなのだ。

ウェイト制の最たるスポーツであるボクシングは、その利点を

生かし、落とせる限度の階級に所属し試合をはじめる訳である

が、最近は統一したチャンプが、統一ベルトの保持のスケジュ

ール的な困難さと、更なる名声とビッグ・マネーを求める故に

階級を挙げて、チャンプに挑戦するパターンが定着してきた。

だが、これを急いで行うと、リスクは余りに大きくなる。

ぎりぎりの減量によるリスクを回避する為に階級を上げる場合

にのみ、成功する可能性が増すといっても、過言ではない。

ミドル級で初のKO負けを喫したフェニックス・トリニダードが良い

例だ。

絞りこんだ185センチの体格のホプキンスと、腹の周りのたるみ

が、階級に見合った身体を造りきれていない結果を露呈している

180センチのトリニダードでは、自然3階級程度の差が生じる。

お互いの戦闘能力が拮抗している場合、これが勝負の明暗を

分けること必至だ。

チューの身長は170センチ(以前は168とうたわれていた)

フェザー級でも平均的な身長である。

元来アマチュアではライト級の選手だった。

そのチューがウエルターをも視野に入れいているという事だが

ウエルターとなれば、やはり3階級余りのハンディを背負ってしまう。

だいたい同程度の身長の相手はキャリアの中で、数える程である。

だがその全ては、すさまじいまでの圧倒的勝利であった。

(ジェイク・ロドリゲス、ゴンザレス、チャベス)

ライト級であれば彼の能力におそらく、もっと世界は目を見張るこ

とに、間違いなくなることを私は知っている。

だからせめて、統一したベルトの上にどっしりとあぐらをかき、防

衛回数を重ねた方が結果的に名と金を残す早道のように思える

のだ。

一方、ザブ・ジュダーの敗因は、試合中のメンタルコントロールの

失敗が指摘される。

試合後の乱心を見ると、モチベーションの維持は評価に値するが

冷静な視点にかけていた。

だが、これはチームとしての戦略の失敗で、本人の失敗ではない

だけに、今も本人は負けたと思ってないだろう。

対ミッチェルにしてもジュダーにしても、再戦した場合チューが勝つ

確率は五分五分だ。

二人との再選、WBOコーリーとの決着による階級完全制覇、ライ

トの無敗チャンプ、グレゴリアン他ビックマッチを求めてくる相手を

迎え撃つ等、現在の階級のままでもビック・マッチ・パターンは多く

考えられるのだが・・・。

また、チャンプになると取り巻きが増える。

それが世界ともなるとすさまじいものがある。

というか、まさに砂糖に群がる蟻状態。

ナショナル〜大陸〜世界〜世界統一とグレイドアップしていくごとに

増えた数を数えれば自ずと判る。

取り巻きは、当然見入りを求めて擦り寄ってくるわけであるが、当人

にはなかなかそれが見えにくい。

特にスタッフに見えないところからくる、甘い誘いには本当に気を付

けて欲しい。

長い長いチームワークと協力の果ての成果だ。

祝うべきメンバーは、自ずと始めから決まっているものである。

チヤホヤされ続ければ無理からぬことではあるが、だからこそ意識

して近寄ってくるものを選別すべきだ。

当然だが、落ち目と思われたら、間違いなく離れていく者達だから

遠慮などいらない。

 

どの競技についても言えることだが、今は選手こそ最初に、自分自身

の将来の為と自覚し、指導者をじっくり、多角的に検証し選ぶ必要性

を痛感する。

始めてしまうとなかなか身軽に変えられない環境にある場合、尚のこと、

最初が肝心だ。

そうでないとせっかくの将来の可能性を指導者のお陰で潰されかねない。

特に急に人口が増えた競技については、要注意だ。

聞きかじり程度の知識・技術を持つ者が、トレーナーの中に紛れ込む

可能性があるからだ。

また、少年サッカーとか少年野球、少年バスケ等々『少年』が付くクラブ

や、中学校での部活動に関しては要チェックである。

えてして、大声だして恐怖政治ひきたがるオヤジに、その手の輩が紛れ

込んでいるものだ。

よくよく確認してみると本人はキャリアもない、運動生理学のせの字も

知らない、たんなる観戦フリークオヤジだったりする場合が多い。

また、『キャリア』=『トレーナーとしての資質』でもない。

ここも指導者を選ぶ上で、重要な要素になる。

もし貴方が心配になったら試しに、以下のようにチェックしてみて

欲しい。

トレーニングの根拠を問いただす。

答えられなかったら、即失格。

そいつをクビにするか、やめてしまいましょう。

次に説明が出来ても、それが充分かつ解りやすく、納得できたか?

これが二点目。

ここでは、相手が納得できるよう噛み砕く力をもっているかに、特に

注意を払って欲しい。

トレーナーは知識もさることながら、より教える技術が求められる。

裏付けがあっても、それを選手に合わせ指導できる、または選手の

適性に合わせて方法の引出をたくさんもっていなければ、トレーナー

としては、失格に等しい。

したがってここをクリアすれば、合格点をあげて良い。

最後にそこに科学的裏付けが存在しているか?

これが今後肝心な視点。

出きれば身体に関する科学的知識や裏付けだけでなく、言語機能

(=精神)に関しての素養もあればベストである。

経験至上主義など過去の遺物で、経験だけでは素材の多様性を

生かしきれるわけがない。

ここもクリアしたら貴方は抜群に恵まれている。

あらゆる犠牲を払ってでも、ご子息なりご令嬢を託しましょう。

あっ、忘れてた。

一番肝心な所が残っていた。

トレーナーのレベルは保証されたも同然であるが、

保護者のレベルはチェックしてなかった。

というわけで締めとして、

『親は指導に関し、口を出さない』

これで万事オッケーだ。

どうしても口を出したいあなた。

失礼だがあなたがカウンセリングを受けましょう。

お子さんは、いずれ『化ける』可能性がある。

 

今年は、トレーニングにおける言語機能もしくは言語的な訓練を

システム化・標準化してみたいと、今考えている。

たとえばボクシングのような対戦競技も、新たな情報化の時代に

突入した。

対戦相手をあらゆる角度から分析し情報を収集し、システム化して

トレーニングに役立たせるのは従来の通りであるが、メンタル・コン

トロールのカリキュラムに合わせて、相手の情報を取り入れる時代

が、もうそこまできている。

この際、選手のカウンセリングは不可欠になる。

例えば動機として『強くなりたい』と口にする選手。

この手の選手は、価値判断に“強弱”という尺度が優先された結果

として、それに依存し左右される傾向が潜在化される。

したがって試合中、対戦相手を“強い”と誤解もしくは理解した場合

攻略する思考が損なわれ、反射が疎外される可能性が高くなる。

そこを標準化するメンタル・トレーニングを組み込む・・・、といった

具合だ。

必然的に練習メニューは個々によって異なる。

練習の量に依存傾向にある選手には、言語療法によって量から質

へ展開し肉体の負荷を減らす等々。

この時必ずメンタル・コントロールをフィジカル・コントロールの上位

に位置付け、意識化する。

ボクシングで言えば、システム・ブローなど、条件反射機能を純化

させるトレーニングでは、言葉の介入を極力排除しなければならな

いのは常識である。

だが『意識して言葉を疎外すること』を選手に常に意識させて、トレー

ニングさせるのと、させないのとでは、達成度が異なってくる。

それがなかなかトレーニングとして、取り入れられていない現状

がある。

そうして時間の中味を濃くし、トレーニングの質を高める。

試合中修正し組み立てる能力を獲得する為のイメージ・トレーニ

ングにおいても、選手に対し徹底してメンタル・コントロールを上

位に置かせる。

つまり肉体的負荷のみならず、精神的負荷も、試合にむけて耐性

をつけるのだ。

よくダグ・アウトチャンプといわれる野球のピッチャーや、スパーリン

グ・チャンプと言われるボクサーなどには、効果が期待される。

スパーリングにスポットライトやカメラを導入し、さくらを大挙してリン

グ周りに連れてくるといった、ハード的な支援。

本人には絶えずタイトルマッチを想定して練習に関わらせるクセを

つけさせるよう、はじめはトレーナーが言葉ですり込み選手に暗示

をかけ続ける。

ちなみにもう何年も前のこと、マービン“マーベラス”ハグラーは、

ビッグマッチの前日暗室にこもり、心拍を最高で200近くまで挙げ

下げしながら、KOシーンへの道のりを完璧にイメージし、それを

寸分たがわぬかたちで、試合において実践した。

たとえばチューとの試合において、ザブ・ジュダーがこれを徹底す

れば、あれ程いれ込まずニュートラルな体制を試合中も維持でき

たと思っている。

 

去年数々の統一マッチが、興行として大成功してしまったからには、

今年はより、階級間闘争が目白押しの年になろう。

チューがウエルター級のスーパーチャンプ、シェーン・モズリーへの

挑戦を実現させると、勝てる可能性はさらに低いものになる。

今のモズリーはデラホーヤとやった頃とは別人だ。

かつてライトから一気にウエルターにあがった不安要素が嘘のよ

うに、モズリーにおいては完全に払拭された。

モズリーこそ上の階級に移り、より完成された数少ない例と言えよう。

その強さは正に化け物のごときである。

とは言ったものの、もし本当にこの対戦が実現されれば、この上なく

スリリングでタフなビックマッチになること請け合いだ。

 

さて、今日は土曜日。

正月気分もすっかり抜けた、さわやかな朝である。

午後からこちらも、ジムに出かけよう。

ジムでは、日本最高のトレーナーと会長が待っているので、安心して

老骨にムチを入れられる。

2月2日、エレガントなボクシングスタイルを貫く、中屋ジムのリードオフ

マン、田中光輝の集大成の時、世界5位 サマンとの一戦。

ゴメスも始動を開始し、3月下旬には、和製ジェラルド・マクラーレン、

大砲 鈴木 悟の登場だ。

内外ともに、新たな、熱い、闘いが静かにもう、始まっている。


 

2001.11.25「八王子中屋ボクシングジム」

 

 

「猛獣の心に計算器の手を」

というエッセイがある。

この中で安部公房は創作を成功させる絶対条件を

下記の通り結論づけている。

『…作家は、衝動(読者的なもの)と同時に、それをつきは

なして見る技師でなければならないのです。

…運転が合理的で正確であればあるだけ、スピードが増す

ように、描写の正確と冷静さが、高い情熱をつたえうるので

す。…』

この文章は、どのジャンルにも応用できる極意、いわば作品化

の成功の是非を左右する“コツ”を表したものだと、私は思う。

たとえば、ボクシング。

ボクシングの試合(作品化)においても、同じことが言える。

試合という極めて特殊な、緊張を強いる非日常のリングに望む上で

不可欠な、強い闘争本能と勝利への餓え。

だが、これらが強ければ強いほど、せっかくつちかったトレ

ーニングの成果を、本番で出し切れないことがままある。

かかわった誰もが納得する結果を得るためには、もうひとつの

視点。

つまり全てを、クリアで、かつ冷静な視点で俯瞰する“目”を失わず、

常に状況を把握し、修正し、コントロールすることが最も重要に

なるのだ。

モンソン、サラテ、ゴメス、アリュゲリョ、レナード、ハグラー、

近いところでは、ロイ・ジョーンズ、バレラ、チュー。

さしずめ

“猛獣のハートと身体に、計算器の頭”

といえようか。

このコツと、その必要性は、日々スパーリングの練習などで

トレーナーが常に選手に反復させてやらなければ、いつまでたって

も、本番で満足いく結果はひきだすことができない。

次のステップで今度は選手が、その為の練習を、日々意識化しなけ

れば、良い結果を望むべくもない。

アメリカではいつの時代でも“クレバーなボクサー”が最大限

の賛辞である。

かのバーナード・ホプキンス、仮面男も今やカルロス・モンソンばりの

“クレバー”なボクサーと評されている。

なぜか?

彼はどんなにエキサイトした状況においても、常にクリアな視点で、

相手を自分のペースにコントロールするからだ。

日本では、クレバーなボクサーはセンスで決まると思い違いをして

いるようだが、決してそうではない。

クレバーなボクサーは本来トレーナーがつくりあげるものなのだが・・・。

かのアンジェロ・ダンディ、そしてカス・ダマトがそうであったように。

特に日本におけるボクシングのフィジカルコントロールが向う方

向性は常々私には“逆”に思えていた。

 

閑話休題。

今年4月、息子に促されて八王子中屋ジムの門を叩き、20年

振りこの世界の空気に触れてまず

“おやっ”

と感じた。

以前慣れ親しんだ、独特の負の雰囲気が払拭されている。

前にも書いたが、ボクシングは常に興行がからむ。

必然的に扱う金額の単位も大きく、どうしてもそのスジのヒトが入り

やすいのだ。

あるところでは、当然のようにそのスジのヒトが出入りしたり、

引退したボクサーがそのスジの紹介で仕事にありついたりと

いったことが当時、頻繁におこなわれたりしていた。

当然ジムの運営者も利害関係には非常に敏感になる。

時にはジムの関係者に飲みに連れていかれる。

そこで余興にケンカをさせられたりする。

いきなりグラスを投げ、“さあおまえ行け”である。

相手は向こう岸のスジ者だったりして・・・。

当時は入門する子も、フィジカルエリートとは縁のない、チンピ

ラ崩れな子が多かった。

最初は営業方針として時代にマッチしたフィットネスクラブ的

な雰囲気づくりを、オブラートにして包んでいるのかとも、思った。

だが、そんなことをしても拭えない雰囲気があるものだが、

なぜ中屋ジムでは、その気配すら、微塵も感じられないのか?

会長に自己紹介される。

その人のまなこの色、そして空気。

私は全幅の信頼もって、息子を預けることにした。

 

それから毎週土曜日、ジムに子どもを連れて行きがてら中を

覗いてみた。

さらにジムの練習風景に驚かされる。

ここには以前日本のボクシングジムには、なかなか見られなかった、

フィジカルエリートが、ゴロゴロ出入りしているのだ。

中には中学生で、一目見て将来のチャンプを予見する身体

能力とハートをもった子が交じっているではないか。

まったく従来のジムと、かけ離れている。

夜職場の宴会にいく道すがら、プロの練習を覗き、さらに驚く。

彼等のポテンシャル、身体機能、練習に対しての関わり方。

まるでブルックリンのジムにみまがう、その、発散するオーラ。

私が理想とするジムのイメージとピッタリフィットするのだ。

何故だろう。

時代やジムを取り巻くシステムが変ったのであろうか。

いや、今日久しぶり会長にお目にかかって話しを聞き、

かねてから疑問に思っていた、その理由を私は理解した。

会長は日大芸術学部を出た、造形芸術作家であった。

たとえば、入り口左に置いてある、サクラの木で組まれた、

釘をつかっていない傘立て。

事務室の机。

これらは全て、会長の手によるものである。

求めれば、丹精こめた、龍安寺の石庭にみまがう普遍

性と永遠性を兼ね備えた、オブジェなど会長の造形芸術の

粋を写真で見る事ができる。

そしてそれらを見れば、一目瞭然である。

会長の口をついて出る話も、そんな方にしか聞けないイン

パクトのある内容ばかりであった。

例えば石を彫る時、石の意思は造り手に伝わるという話。

石がどう彫って欲しいのか、作家はそれを石の意思として受け

取る、そうでなければ作品化は放棄するとまで言う。

これは例えば安部公房のいう“作品の方から作家という媒体を

鞭打ってきて、それに奉仕して始めて作品が完成する”ことと同

じではないか。

又、創作活動とボクシングとの類似性の血脈の発見の話。

さらには同じトレーニングをしても、まったくスタイルの異なった

ボクサーが育ってしまう、というヒトという素材の生かし方の話・・・。

そうか、なるほど。

この会長だからこそ、であったのだ。

ボクシングを楽しみ、それに打ち込む空気。

個々のスタイルを生かし伸ばす空気。

この会長であればこそ、この空気の音色が出せるのだ。

ならば、私は!

私はそのことがいかにこの業界で価値あることか

知っているものとして、声を大にして言いたい。

解って欲しい。

場合によっては選手を闘犬の犬としか思わぬ世界で、である。

八王子中屋の選手たちは、真にこの上なく恵まれている。

今度は選手たちが、甘えず、それに答えなくてはならない。

 

チャンプは日本人離れしたジェラルド・マクラーレンばりの大砲

を持つ、可能性の宝庫、鈴木 悟一人である。

だが今、このジムには、

実は多くのチャンプを擁した、今まで以上に

革命前夜の喧騒、芸術文化が爆発する直前のフランスの

モンマルトルのような飽和状態の空気が、確かに強くある。

世界の高みに登る、上昇気流。

あとは、この空気の栄養に乗じて誰が、己の身体をその

高みに運び、昇華し得るのかだけである。

最後の一歩を超える方法。

それは、作家沢木耕太郎が言うところの

“超越的なものへの飢餓感”

を持ち続けられるか、だけなのだ。

いつの間に“メジャーになった自分を感じる瞬間”が日本チャンプ

や東洋・太平洋経験者には、必ずやあるし、逆にそれは実感

しなければならない。

そして実はそれ以降の僅か一年足らずの時の過ごし方が、ボクサー

にとっては最も肝心な、勝負の行方を決定することになるのだ。

世界の頂点に君臨するWBA・WBC・IBFのトップ約40人の内、

フロックでないチャンプと取り巻きは、ほとんど例外なくそれを

『やりきってきた』者達だ。

この恵まれた環境と到達点に甘んじず、満たされてしまった若者が

さらにもっているものを高みに押し上げられるか。

これを何と言うか。

『正念場』

という。

この最後の一線を越え得る力を勝ち得る栄養をも、今このジムは

兼ね備えている。

さあ、飛べ。

もうすぐだ。

たった“一年”である。

たった“一年”をどう過ごすか。

その関わり方。

それが君たちの今後長きにわたる未来を決定づける。

素晴らしい、エキサイティングな八王子中屋ジムの明日に期待しよう。

 


 

2001.5.13

「一瞬の、あまりに眩しすぎた、輝き」

 

こころがいかに、

深い山間の、

冬の、

早朝の、

晴天の、

湖面にうつる梢のように

凛とたち、清とある時でも、

私は彼の名前を思い出すたび、

ガラスのような湖面に投げこまれた握りこぶし大の石が起す波紋を、

感じずにはいられない。

そして次に決まってこの世のどこかで、深い闇に包まれているで

あろう彼の“今”に、思いを馳せる。

悲しみ、怒りといった直線的な感情でもない。

近親者の訃報がむつぎ出す色合いとも違う。

強いて言えば、限りなく薄く鋭利な悲哀と、人の世のはかなさ、

かえらぬ時の無常さ。

 

それは、

あまりに短く、

鮮やかに、

劇的に席捲し、

突然あっけなく、

舞台から消え去った、

一人のボクサーの

刹那的な、まばゆいばかりのキラメキの残照である・・・。

 

’93年5月8日

私は呼吸を忘れテレビ画面に食い入った。

WBA世界Jミドルを3度連続KO防衛。

都合9連続KOで1階級上にのしあがり

3ラウンドKOでWBC世界ミドルウエイトを奪取。

47戦46勝43KO1敗の驚くべき戦績。

5度目の防衛戦を迎え無敵のタイトルホルダー、

ワンパンチ・フィニッシャーとして

対戦相手に逃げまくられていた

ジュリアン“THE HAWK”ジャクソンが試合開始早々

真正面から打合い、打ち負けて、あっけなく

転がされているのだ。

ようやく大物の試合を見れた期待が、怒涛のアタックに

凍りつく。

だが、あのジャクソンだ、逆転に期待しよう・・・。

立つには立った。

だが再びメッタ打ちである。

寸でのところで、ジャクソンはゴングに救われる。

その後、ジャクソンも文字通り“捨て身”の反撃を試みる。

だが、相手のジャブのスピード、ストレートのフォロースルー、

返しの左ストレートの切れ味、それらのすべてはジャクソンを

凌駕するのだ。

明らかに戦闘能力に差がある。

ジャクソンはよく戦った。

いや、よくもった、驚異的ともいえる粘りをみせ、

46勝43KOのワンパンチ・フェニッシャーのプライドに

かけて真正面から打合った。

だが、ラウンドを重ねるごとに相手を見るその眼が、

深い絶望的で、うつろな恐怖を表出させる。

たとえば相手の右ストレート・・・いっぽんの右ストレートを

見るだけで太い戦慄の痺れが脊髄を駆け上がり脳を直撃

するのだ。

矢を十二分に引き絞った弓のしなりの、充分すぎるタメ。

ピッチャーのような広いスタンス。

シフトウエイトと共に全体重が乗った拳が最短距離を走り、

的を一直線に打ちぬく

ピンポイント・オーバーハンドライト。

そして、顎の下に右肩が入り込む、完璧なフォロースルー。

ダイレクトにその威力、破壊力が、見ているこちらの脳に

警戒信号の反射反応を隆起させるのだ。

 

5ラウンド、糸の切れたジャクソン人形が再度メッタ打ち

になったところでレフリーストップ。

あまりに戦慄的で、衝撃的なヒローの交代劇であった。

そのストレートの残像は、ゴージャスなヌードのように

脳裏に焼きつき、離れない。

改めて新チャンプの戦績をチェックして驚いた。

ボクシング・マガジンによると彼の戦績は、

28勝26KO2敗、2敗は判定負け、26KOのうちなんと、

1ラウンドKOを17も記録しているのである。

次いで2ラウンドKOは5。

まさに怒涛のアタッカーである。

それはジャクソンを上回る、超短期速効型の

ハードパンチャーが、劇的に世界の頂点に駈け上がった

瞬間で、あったのだ。

 

3ヶ月後、8月6日

初防衛戦、対ジェイ・ベル

1ラウンド、開始30秒、ワンパンチKO

(世界ミドル級史上最短KO記録)

 

翌年3月4日

2度目の防衛戦、対ギルバート・パプティスト

1ラウンド、TKO

 

そして3度目の防衛戦は、

KO負け後3勝2KO(KOはすべて1ラウンド)で

リベンジに向け、周到にコンディションを整えてきた

前チャンプのジュリアン・ジャクソン。

前回の対戦時には、試合前の軽薄な挑発行為等

明らかに油断がジャクソン側にあった。

が、今回は打って変わったように

相手を警戒しボクシングに集中しているのがわかる。

油断は微塵も見当たらない。

アタッカーはカウンターパンチャーに弱い。

それ以上にアタッカーにも、弱いのだ。

ボクシングにおいては、

敗者には、思った以上に敗北感は少ないものだ。

特に切って落とすようなパンチャーにワン・パンチでKOされても、

記憶そのものも切って落とされるため、負けた気がしないことが

ままある。

敗北感はなく、残っているのは、激しい頭痛だけ。

ジャクソンはせわしなく身体をゆらせながら

対角線を精一杯睨む。

彼は…。

すさまじい静寂。

烈破の気合。

音が消滅させられる。

「これだ!」

この感じ。

盛り場の夜、目が合った瞬間スタートしたジェットコースター

のように吸い込まれる殴り合い直前の一瞬。

メンチ、メンタン、視殺・・・。

堅くピンと張られた、タイトロープ。

リングを包む熱気!

酔客の怒号!

渦巻く悲鳴のような歓声!

ぶつからんと迫るTVキャメラ。

なにひとつ彼には入っていない。

彼の周りには音が姿を消している。

あるのは、びりびりと震える空気と

ほとばしる視殺だけ。

見事なまでに昇華された生のままの闘志。

見ているこちらの鼓動も早くなり、息苦しいほどである。

フロックでなくとも、当たれば倒れるには充分すぎるパンチは

お互いが持っている。

だが、この、あまりに傑出したアタッカー同志の試合を

私は少しでも長く、この眼に焼き付けたかった。

ゴングがなった。

両者があっという間に被弾する射程距離に入ると、

真っ向から、相手を倒しに行く。

すぐにジャクソンの顔面に、ロングレンジから放たれた矢が

直撃した。

身体が、まざまざと負の記憶を呼び起こしたのが見て取れる。

意志は戦おうとするが、身体がすくみ、ダメージと、それが呼び

さました記憶は、戦闘能力を完全に奪い去る。

そこに再び解き放たれた、すさまじい打ち降ろしの右。

返しの左・・・。

1ラウンド。

またもやジャクソンはテンカウントを、

リングの上で聞いたのだった。

次の瞬間、静寂の風船ははちきれ、取り戻した呼吸が歓喜の

太い渦となって爆発し、会場に溢れた。

WBC世界ミドルウエイト、3連続1ラウンドKO防衛の

誕生の時である。

これはまったく新しい、センセイショナルなボクシングスタイル

の完成披露宴でもあった。

高等技術を使用せず、フェイントも捨てパンチもない。

連打ではない。

光速のステップインと遠くから最短距離を通って

くりだされる、スコープ付きのライフルの狙い撃ち。

拳の一点に凝縮されたシフト・ウエイト。

そこには、私が望む、理想のボクシングの姿があった。

言葉に拘束されていては、辿り着けない“境地”。

そして生のままに純化された“闘志”。

正に居合の様に昇華された、一瞬で終わる立会いを可能

にするボクシングの誕生であった。

 

翌2月、長身の彼は減量苦を理由に、階級を上げWBC

世界Sミドルウエイトに挑戦した。

敵地イギリスにのりこみ、今度のターゲット、チャンプ、ナイジ

ェルベンの前に立ちはだかったのである。

当初世界奪取の時点ではフロックともみられた彼の評価は今や、

三つの防衛戦を経て、不動のチャンプ、ロイ・ジョーンズJrを打ち

破る候補の筆頭にまであがり、オッズにもそれらは反映された。

称賛と尊敬、期待、そして注目の日々、薔薇色の未来。

眩いフラッシュとライトのなかで、追い詰められてヘビににらまれた

カエルのような焦点の定まらないベンの視線が宙を泳ぐ。

この試合を更なるステップとして、それはロイ・ジョーンズへ続く

ゴールデンロードへの布石と、誰もが理解した。

試合開始。

ゴングがなった直後、いきなりジャブでベンをロープ際においつめ、

左右のストレートをガードの上から連打した。

低く丸まり、顔をガードでふさいだ上からなお、パンチが叩きつけ

られる。

脳震盪をおこしたベンは、ダウン。

そのままベンの身体は、ロープ外に叩き出され、転落は免れた

もののエプロンに倒れこんだ。

会場は異様な興奮のるつぼとかした。

カウントが始まる。

だがそこで信じられない光景を誰もが目にした。

2回に1回しか、レフェリーがカウントを取らないのである。

そしてカウントの間になんと、レフェリーがベンの腕をとって、

エプロンからロープの中に引っ張りあげたのだ。

カウントは14秒まで続いた。

その後、レフェリーはベンを立たせ、眼を覗きこみ、試合を

再開する。

そしてすぐ、1ラウンド終了を告げるゴングがなった。

 

ボクシングは興行がからむ。

そこに様々な利害が発生し、巨額の利益の分配を求めて、

様々な人種の暗躍の場を提供することとなる。

だから今は隣国にすむ私の恩師の友人である某国の

ボクシングコミッショナーもさる名のある組織の、大幹部で

あったりする。

元世界Jバンタムのチャンプのジムは、レフェリーに毎回

一千万単位の保険料を払っていた。

もちろん、判定の時は敵にベルトを渡さない為の投資だ。

確かに、そんなことが当たり前の、この世界である。

そういう手口には慣れてはいる。

だが、この試合のあからさまで、異様な手口にはさすがに、

驚かされ、開いた口が塞がらなかった。

解説のジョー小泉氏も憤慨して語っている。

「1ラウンドで終わらせたくない主催者の気持ちは、理解できる。

だが、こういうあからさまな行為を審判であるレフェリーが

とるのは、あまりに問題である・・・」

さらにベンは、以後信じられない行動に出る。

そして2ラウンドから7ラウンドまで、奇怪なボクシングが展開

した。

彼がアタックに入ると、ベンが跳び込みクリンチする。

そしてクリンチしたままスマッシュのように彼の後頭部を、

おもいきり殴るのである。

怒りに震えた。

これはこの上なく卑怯でかつ、危険極まりない反則行為だ。

いくら“Dark Destroyer”のニックネームも持つベンで

あっても、とうてい許される行為では、ない。

私は座る事ができなかった。

小泉氏も再三この行為の危険度とダメージを指摘した。

終盤になってようやく、彼はこの反則を一度だけ、レフェリ

ーに訴えた。

レフェリーはその時以降2回だけベンをいさめた。

8ラウンド。

間隙をぬって放たれた矢が、ベンを打ちぬく。

ダウンをとるが、詰めきれない。

そこにまた、後頭部打ち。

彼の目が濁っている・・・。

どうしようもない憤りは、やがて深い絶望に変った。

勝負などどうでもいい、私はこの時点ではっきりこの試合

の果てにあるものを予感してしまっていた。

そして10ラウンド、彼の身体は明らかに変調をきたし

ていた。

そこにベンがパンチをまとめる。

レフェリーストップ。

その後、185センチを超える長身の彼は

イスからずり落ち、その身を長々と、延々と、リングに横

たえた。

しばし後、天井からつるされたカメラが

意識を消失していく彼の姿を映し出していた。

とうとう彼は、深く長い眠りについたように見えた・・・。

世界が彼をリングで見た、最後の姿である。

彼もまたこの時、目に映る生涯最後の光景に別れ

を告げていた。

世界の桧舞台に突然飛び出し、圧倒的な存在感

でボクシング界を席捲した彼は、あまりに鮮烈な

印象を残したまま、このようにしてリングを去ったの

であった。

 

残念だが私達は、彼の勇姿を再びリングに見る希望を

諦めなくてはならない。

彼は、大変深刻で、かつ不幸な結果に見舞われた。

意識不明に陥った彼は、搬送された病院で脳内出血が

発見され緊急開頭手術を受け、一命だけは取りとめた。

私よりいくつも若い、彼は今、車椅子にのり、この空の

下のどこかで、盲目の余生を送っている。

 

彼は、あまりに大きな代償を払った。

だが、多くのボクシングファンに

熱狂と、高揚と、感動と、希望を

与えてくれた。

いやすくなくとも、この私には・・・。

だからせめて彼の今後の無事と、あらたな栄光の到来

を祈り、彼のエレガントなボクシングスタイルを語り

続けたい。

彼、ジェラルド“G−MAN”マクラーレンのために・・・。

(生涯レコード:34戦31勝29KO3敗

WBOミドル級4回WBAミドル級3回防衛

都合7回の防衛の内、1ラウンドKOは6回、2ラウンド

KOが1回を数える)

ジェラルド・マクラーレン全戦績


 

 

2001.1.13

「世紀末のボクシング界」

 

2000年12月4日。

プロボクシングWBA、IBF統一世界Sウエルター級タイトルマッチ12回戦。

前世紀最後のスーパーファイト、無敗のKOキング対決は、WBA王者フェ

リックス・トリニダード(27)が、最終回IBF王者フェルナンド・バルガス

(22)を3度マットに這わせTKO、統一王者に輝いた。

1ラウンド、ロングレンジのカウンター左フックワンパンチで続けざまに2度

のダウンを奪い、4ラウンドにはやはり返しの左フックでバルガスに一矢を

報われるも、稀に見る天才アタッカーの前では、終始バルガスの馬力は影

を潜めた。

都合6度のダウンの応酬。

そのうち5度は、バルガスが喫したものだ。

あの一試合で暴れん坊バルガスは完全に“壊され”た。

12ラウンドまで決着が長引いた要因は、バルガスの左フックで右目をこす

られ距離感を失ったトリニダードのパンチ精度の低下と、バルガスの驚異

的で凄絶な“粘り”に尽きる。

トリニダードの全体重の乗ったスナッピーな強打を、“勝利を信じて”12ラウ

ンドまで“こらえにこらえ”“我慢に我慢を重ね”たのだ。

当然だがその代償は、あまりに大きい。

1ラウンド、2度のダウンの時点でストップしていれば、彼のボクシング人生

は倍延びていただろうに・・・。

そのダメージの記憶は脳はおろか全身を蝕む。

パンチはもらってはいけない。

特に痛いボディと異なり、深い“酔い”にも似た脳震盪をともなう顎・テンプ

ルへのパンチは、貰えば貰うほど、貰いグセがつくものだ。

貰いグセをつけるには、1試合もあれば充分、お釣りがくる。

華麗なディフェンダーが、見るも無残なドランカーにはや代わり、である。

それにしても、ボクシング程、身を斬る、苛酷で、華麗で、魅惑的なスポー

ツをほかに知らない。

ボクシングをやったものにしか想像しえない、恐怖的な現実感。

研ぎ澄ました拳が届く位置に身を晒し、拳で迎え撃つ、その緊迫感。

ことばを捨てれば捨てるほど、鋭利に反応する肉体感。

パンチを相手の顔面にめりこませるたびに、徐々に失われゆく生気と目に

見えて衰えゆく反射機能。

白目をむき昏倒する相手を見下ろす自分。

生のままの闘争。

闘争の後の勝利と歓喜の爆発。

そして、必ずその後に訪れる、ことばなき、白色の、このうえなく静寂な、

充実感をとおりこし実体となって押し寄せてくる“充実”。

数々のリスクを十分承知の上でなおかつ、病といわれる“恋”のように、

1度踏み入れると2度と逃れえない・・・、それほど魅了されるElementが

ボクシングにはある。

なにを隠そう、師 安部 公房もボクシングマニアであった。

 

これで戦績を39戦全勝(32KO)としたトリニダードは、

21世紀早々、3階級制覇を狙ってまず、竹原を破り長期安定政権を築く、

ジョッピーの持つ、ミドル級のベルトを狙い階級をアップする予定。

まだ身体が大きくなっており、当日も減量に失敗したと聞いた。

最終目標は、ミドル、スーパーミドル、ライトヘビーの覇者ロイジョーンズ。

さて、トリニダードは“化け物”を凌ぐ“怪物”に進化できるか。

ジャブ、左ストレート、オーバーハンドライト、フック、アッパー、スマッシュ

どれをとってもどんな角度からもぴか一のセンスをもち、ブロック、見切り

といったディフェンステクニックも充実してきたトリニダードが今後、アリの

ような、

「たえず今の己に満足できず、より高みに向い続けてやまない飢餓感」

を持ちつづけられるならば、彼はロッキーマルシアノやカルロス・モンソン

といったボクシング史にのこる“伝説”になる素養を、十分兼ね備えてい

ると言わなければならないであろう。

 


 

 

2000.11.24

「マイボクシング」

 

King of Sportsといえば、ボクシングである。

世界の超一流どころの1試合のファイトマネー二人分が、

昨年末来日した大リーグ選抜の全員の年俸の約半分

と言えば、ファンでなくともその規模は、実感できよう。

放映権料を入れれば、言わずもがなである。

USAでは、Golden Boyの呼称があるとおり、

オリンピック・ゴールドメダルをお土産にプロ転向、

無敗のまま世界チャンプを取らせるのが、最高のドル箱

Starへの近道でありStatusとなっている。

だから、日本では滅多にTV放映のないオリンピック・ボクシング

会場では、次期Golden Boy候補探しに、海外マスコミ

は躍起なのだ。

現在、日本人が弱いのは、無理からぬ道理がはたらいている。

なぜなら、日本のボクサーの前進はせいぜいチンピラくずれ、

よくて部活をやめ、喧嘩で鳴らしたタイプしかプロに残らない。

つまり土壌と素材の問題。

ボクシングの先進国、USAやプエルトリコ、メキシコなどでは、

バスケやサッカー、野球のプロの誘いと契約金をあえて断って

ボクシングを選ぶ、いわばフィジカルエリート達による“しのげる”

スポーツの代表格のひとつである。

一方後進国のおいても、いまだにボクシングは明日の一攫千金

を夢見、それに全霊をかけて存在をぶつけるHungryな“しのぎ”

の場だからだ。

今の日本は、確かに中途半端だ。

まず素材の違いをどうにかすることが、今の日本ボクシング界の

急務といえよう。

もっぱらそれは、今にはじまったことではないが・・・。

 

ベルトは、アメリカの独壇場と思われがちだが、そうでもない。

軽・中量級では、相変わらず、プエルトリカン対メキシカンの

構図はここ50年続いている。

1978年1月19日WBCJフェザー級タイトルマッチ

「ウィルフレッド・ゴメス(プエルトリコ)対ロイヤル・小林(日本)」

実に今から22年前のこの試合は、真の世界の実力を日本の

ボクシングファンに知らしめる、数少ない試合の一つであった。

つまり、日本に落ち目でなく、全盛期の超一流が、お目見えした、,

珍しい試合のひとつに、数えられるのだ。

その思い出を少し・・・。

 

2ラウンドまで、会場は押せ押せの盛り上がりをみせる。

7割のKO率をほこるハードパンチャーの小林は、ぐいぐい前

に出て得意の強打を振り回し続けた。

だがぼくは、完全に血の気がひいたままであった。

当たってないのである。

一発も。

確かに、ボディは、叩けてる。

しかし、ガードで全て、完封しているのだ。

深追いすると、パンチで引っ掛けて体をまわす。

当の小林は相当焦っていたに違いない。

3ラウンド早々、スイング気味のパンチに全体重を

乗せて振り回し、勝負に出た。

身体で押し、ロープに詰める。

そして身体ごと右フックで突っ込んだ瞬間、

二人は超至近距離で交錯し、二人の体は入れ替わった。

次の瞬間、小林は棒のようにロープに突っ込み、

跳ね返ってうつぶせに倒れたのである。

「スリップ」

マイクを通してアナウンスが会場に響く。

が、小林は立たない。

それどころか、痙攣し突っ伏したままである。

実況も混乱し、

「おっ、どうした小林、パンチがあたったのか?

あたったのか」

「いや、スリップでしょう」

「いや、カウントがはじまったようですよ」

「あっ、ダウンですかね・・・ダウンですね」

そして・・・。

あっというまに、10カウント、試合終了。

ゴメスはつまんなそうに、セコンドに担がれても、

表情一つ変えずにいる。

リング上、小林はまだ立てないでいる。

スローモーションのKO箇所の放映により、

解説者を含めた会場全体が水を打ったように

凍りつく。

小林が右のスイングを打つため、右腕を後ろに

引き絞った瞬間、ゴメスは横目で小林の顎を捕らえる

と、30センチ程、小さく左拳をフック気味に移動させ

顎の先端をきれいに横にはらったのである。

それだけだった。

フィニッシュブローと言うには、あまりに稼働距離の短い、

30センチだけの、狙いスマしたスマッシュ気味のフック!

顎を起点として、首はきれいに捻れ、頭蓋をゆすられて

いる。

騒然とした中、勝利者インタビューが始まる。

インタビュアーは、しきりに“小林のパンチは強かったか?”

繰り返し聞く。

“強かった”と答える。

“効いたか”

通訳によると

“まったく効かなかった”

とのこと。

 

日本には、一流どころは滅多にこない。

ランキング1位の指名挑戦を受けざるをえない時だけは、

多少は期待できる。

がそれ以外は、弱い、下り坂のチャンピオンばかりがくる。

当時高校に入り、兄にボクシングの手ほどきをうけだした

ばかりのぼくは、しかたなく深夜、テレビ東京の

エキサイトマッチを欠かさず兄と、見る様になった。

メイン・イベントの試合が早い回で決着がついた時、

海外の対戦を流していたからである。

ロイヤル・小林を倒したゴメスはその後、17連続KO防衛の

前人未到の大記録を打ち立てる。

が、彼のCareerにおける頂点は、バンタム級のKOArtist

カルロス・サラテとの無敗同志の対戦であろう。

メキシコ人のサラテは、同国のアルフォンソ・サモラ(全勝全KO)

とのバンタム級王者同志の統一戦を、KOで飾り、階級を上げゴメスに挑ん

だのだ。

54戦54勝53KOのサラテ・・・メキシコ、

23戦22勝22KO1分のゴメス・・・プエルトリコ。

ある晩のこと、兄はタバコ、ぼくはビールを片手に女の子の話しで

もり上がっていると、突然画面に、見覚えのある顔が大きく写し

だされた。

ボリゥームを上げる。

ウィルフレッド・ゴメス!

そして試合は

サラテ対ゴメスだ。

二人とも文字通り、“息を呑んで”TVに釘付になった。

 

オーソドックスのサラテを、すり足のゴメスが追う。

なにしろお互いパンチがあまりに早い、あたらない。

ボクシングにも見切りがあることを、この試合で始めて見せつけ

られた。

お互い大砲(利き腕のこと)並のストレートまがいのリードを突き

あうが、それを同時に放ち、同時によけ、被弾しないのだ!

紙一重で目で、かわしあっているのである。

やはり、勝負は一瞬で決まった。

減量苦のサラテが打ちいそいだところに、ゴメスが

カウンターをとった。

よろめくき、後退するサラテ。

つぎの瞬間、連打のアラレである。

ダウン、またダウン。

 

レフリーが止めて、歴史的な試合の幕は、閉じた。

この後、やはり減量苦のゴメスは、フェザーに階級を上げ

メキシコの名チャンピオン、サルバドール・サンチェスに

挑戦する。

この時は、勝負をいそいだゴメスがカウンターの返り討ち

に遭い、初のKO負け。

再起後KO勝ちの山を再び築くが、サンチェスは後の名王者

アズマーネルソンを15回KOで退けた後交通事故によって、

チャンプのまま帰らぬ人となった・・・。

(ウィルフレッド・ゴメス全戦績

 

時代は巡り現在、時の人は、スーパーウエルター世界

チャンプのプエルトリカン、フェニックス・トリニダードだろう。

38戦全勝31KO

階級を上げ、パンチの切れ破壊力ともに超一流の仲間入り

を果たした。

デラホーヤは、もう過去の人になりそうだ。

もう一人、ロシアからオーストラリアに渡りドン・キングが

プロモートする、Jウェルターチャンプの

コンスタンティン・チュー。

彼は一押しである。

見切り、パンチ力、ハート。

どれをとっても全盛期のゴメスと見まがう、強打者である。

世界は広く、強い。

ディフェンス・ロングレンジの後進国、日本。

ときどき傑出したアタッカーを輩出する奇妙な国。

一皮むけた日本の今後にも、少しは期待しようか・・・。

 


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