おすすめの順番

 

作家安部公房について。

“前衛作家”という風評と、「壁 Sカルマ氏の犯罪」

のみの読書体験しか持ち合わせていない若い人は、

多数に登る。

芥川賞は日本において、もっとも知名度の高い文学

賞であり、壁は受賞作品として知名度が高いから、

そういうことになる。

おそらく10代中頃から後半。

日本における国語教育の欠陥に浸っている文学青

年は、このパターンで先に進めず、不幸にして安部

公房先入観を形成するに至る。

幸いにして、このパターンをのがれた若人は、良質

な安部作品の理解者となるケースが多く、今だ繰り

返し若年層に支持を得続けているのも、一重にこの

パターンのお陰といえる。

まずは、書下ろしから。

安部という偉大な作家と、良質な出会いを持つ意味

でも、おすすめである。

 

 

T方舟さくら丸

 

作品紹介

卓越した、自然に対する情報処理能力と引き換えに、

絶望的な人間関係に対する情報処理能力しか与えられなかった、人間。

破滅への断崖に、身を置いているという自覚なき世界に

決別すべく、僕は、あらたな世界の創造主となる・・・。

 

広大なシェルターを占有する‘もぐら’は‘その日’の為に、

こぎだす方舟のメンバーを組織し始める。

組織化のKEYは、なわばりゼロの昆虫‘ユープケッチャ’。

選別を重ねたメンバーによる組織は、しかし独自の意志をもち、

やがて…。

ラストのイメージの斬新さ、かかる人間関係の処理の限界と

カタストロフ。

人間であることの‘原罪’を‘普遍’に問う、現代文学の『金字塔』

 

作品の性質

1.構造としての特殊性をわざと設けていない。

2.「副詞を削る」レトリックを最低限に抑えている。

3.平易な文体を意識して心がけている。

1〜3の意図を実施することで作品全体を通して、

現代の人間社会が陥ったアナロジィーの特殊性を、

現実以上にリアルに創造することに成功している。

いわば、それがこの小説のねらいの一つ。

結果、全作品を通じもっとも「読み」やすく「わかり」

やすい作品となっている。