初心者のためのマージャン講座 ルールと役の解説

TOP > 禁断の世界 「領域」> 熱くなるギャンブル「深夜特急」沢木耕太郎
結局はギャンブルを好きになるかどうかなんて性格の問題じゃねーのか? 少し確率のことを勉強したりすれば、ギャンブルで勝つことの難しさなんてわかるだろ?
おぬしの言うことももっともなんじゃが、そうは簡単にはいかんのじゃよ。

そこで今回はギャンブラーの心理を見るという意味で、沢木耕太郎氏の名著「深夜特急」をご紹介しよう。この本は著者が20代の時に香港から始まり、ユーラシア大陸をバスで移動しながらロンドンを目指すというものじゃ。

旅の文学を扱う時に必ずといっていいほど取り上げられる名著、全6巻じゃ!本人の人柄が出た文章、整った文体、どこをとってもスキがない。はっきりいって、めちゃくちゃ面白いぞぃ。

面白いのはいいが、なんでユーラシア大陸の旅がギャンブルと関係あるんだよ?

それは、沢木氏は香港に滞在中、「マカオ」に赴くからじゃよ。ここでの体験が「賽の踊り」という形で1つの章にまとめられておる。ラスベガスとかカジノで有名な街はあるんじゃが、アジアでカジノをしようと思えば、マカオの「ホテル・リスボア」か韓国ソウルの「ホテル・ウォーカーヒル」なんかが有名なんじゃよ。

ここに書かれていることは、如実にギャンブルをする人間の心理を描いておる。
でも、その沢木ってやつもギャンブルが好きだったとか、そんなんじゃねえのか?
それが、そうともいいきれん。まず前提として、沢木氏はものすごく論理的に物事を考えておると思う。もちろん、旅にあこがれる若者として、あるいは文章を書く人として、豊かな感性をもっていたのも事実じゃろう。

まず、マカオのカジノを訪れたシーンからじゃ。サイコロを3つ振って数字の「大小」を当てる、文字どおり「大小(ダイサイ)」というゲームを何気なく見学しておったんじゃ。別にギャンブルをするためにカジノに行ったのではなく、たまたまマカオに来たからという程度の理由のようじゃ。

記録を見るとここ最近は「小」が10連続で出ていた。そこで沢木氏は考える。

どっちだろうと私も考えた。10回も続けばさすがにもう小は出てこないかもしれない。常識的には大だろう。しかし、いくら10回続いたからといっても、この1回に限ってみれば、大と小が出る確率は五分五分なのだ。むしろ、小に賭けるほうが博奕の本道のような気もする。さて、大か小か……。
いわゆる、ギャンブラーの誤信ってやつを踏まえた考えだな。
そうじゃよ。ルーレットで赤が10回続いたから次は「そろそろ黒」という考えは、統計的にはありえん。1つ1つが独立した事象である以上は、次に赤が来るか黒が来るか、大が出るか小がでるかは、やはり50%50%でしかないんじゃな。そのぐらいのことは沢木氏もわかっておる。

ここで、沢木氏のギャンブルに対する考え方も紹介しておこう。

元来博奕には興味がなかった。競馬、競輪、競艇はおろか、花札、カード、麻雀もやらない。賭け事ともいえないが、好きでやるのはパチンコくらいである。丁か半かの博奕的な生き方には強い憧れを持ち続けてきたが、博奕そのものへの関心が向かなかった。
いちおう、パチンコはやるみてーだな。
といっても、この本が書かれたのは何十年も前の話じゃから、今のパチンコと同列に見るのはだめじゃろう。CRとかパチスロとかではなく、もっとギャンブル性の低い、夜店の露店とかで見る、バーインバイーンと手動で玉をはじくようなイメージかもしれん。

さて、沢木氏はポケットから取り出した5$をかけるわけじゃ。それが運良くあたって10$になる。この10$が100$ 1000$となることを一瞬だけ夢みるんじゃが、そうはいかんもんじゃよ。しばらく遊んでいたが結局は、元手の5$を失ってしまうわけじゃ。

これで元手の5ドルをようやくすったことになる。5ドルで十分に遊ばせてもらったのだから、そろそろ切り上げて帰ろう。そうは思うのだが、意志とは反対に体が言うことをきかない。推理し、賭け、結果を待つ。そんな単純なことがこれほど面白いとは思ってもいなかった。灯りがつく瞬間のゾクッとするような快感が、これ以上やると博奕の魔力にからめ取られてしまうかもしれないという危惧を抑え込んでしまった。カラン、カランとサイコロのはねまわる音が聞こえてきた。私はポケットから10ドル札を引き出し、大に賭けた。
まあ、この心理はわからねーもんじゃねーな。特に旅先だったりしたら、うかれるのもわかるよ。
さて、ここから沢木氏はギャンブルに没頭することになるんじゃ。ここで気になったんじゃが、沢木氏はディーラーがサイコロの目を操っていて、そのディーラーとの出目のだましあいのようなスタンスで、ギャンブルの「よみ」を行っておる。実際、こういったことがあるのはわからん。
感覚としては、パチンコ屋であの台は出てるから、隣は出ないだろうとか、そんな感じじゃねーのか?
まあ、そんな感じかもしれんな。ともかく、沢木氏は出目を推理しながら、ギャンブルを楽しんでいたんじゃ。そして、自分が負け、目の前で勝っている男を見ながらこう思うぞぃ。

男は息を吹き返し、倍に膨れ上がった紙幣を前にして、大声を出しはじめた。
どうしてだろう。私はどこをどう間違えてしまったのだろう。考えているうちに、自分がいつの間にか100ドルを賭けてしまっていたことに気がつき愕然とした。100ドルといえば、香港で要した半月分の費用に相当する。しかし、愕然とはしたがもうこれでやめようという気にはならなかった。
<どうしても取り返すのだ…>
へえ、5ドルからスタートして、100ドルか…。
この文章、いろいろな面でギャンブラーの心理を表しておる。

まず勝っている人をうらやむような状態じゃな。パチンコなどをやったことがある人はわかるじゃろうが、箱を積んでいる人などを見ると、ついつい自分もむきになってしまいがちじゃ。「自分もああいう風に箱をつめる可能性がある」と思ってしまう。ギャンブルである以上、次の瞬間に勝っている可能性はもちろんあるんじゃが、そう簡単なものでもない。
半月分の生活費の100ドルを使ったのも痛い部分だな。
ここで重要なのは、生活費とギャンブルでは「金銭感覚」がぜんぜん変わっていることじゃよ。

昼飯代がもったいなくて、1000円の定食をがまんして600円の定食を食べている人間が、パチンコ店ではおしげもなくコインを1000円で買う。ギャンブルと日常では金銭感覚にものすごいズレが生じるときがあるんじゃな。

そして、ギャンブルの負けをギャンブルで取り返すという考えは危険じゃよ。ギャンブルによって失った金や借金、それから開放されたいと願う。今ギャンブルをやめても借金はなくならない。取り戻すためにギャンブルをして、新たな借金を背負う。結局、この二重の拘束が存在してるわけじゃな。

そういった意味でも、この文章は興味深い。

さて、長くなったので次回に続くぞ!沢木氏はどうなってしまうのか?!
深夜特急〈第一便〉黄金宮殿】 沢木耕太郎 著
ハードカバー版で全3冊 文庫版で全6冊からなる、著者による香港、東南アジア、インド、ヨーロッパ、そしてロンドンまでの壮大な旅の文学。読むものを引き込む著者の文章力が、臨場感抜群に旅を疑似体験させてくれます。このページで取り扱った「賽の踊り」はハードカバー版第1便 もしくは文庫版の「深夜特急1」に収録されています。めちゃめちゃ面白いですよ。ギャンブルに興味がない人でも、面白い読み物を探している人はぜひ!
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