ある中学入試より−文字列の整序問題

(2002.9.24記)

ここでは,聖光学院中学校(神奈川県)という私立中の2002年度の入試問題から ふと目についた問題を取りあげる。

それは国語の第2問である。この問題は,日能研という中学受験のための塾が, 電車の車内広告に掲載したので,見た人も多いだろう。

(広告の画像はこちら。出ないときは,トップから入り,バックナンバーの「2002年9月版」を選ぶ。 それでも出ないときはこちら。)

[二] 次の文章を読んで,あとの問に答えなさい。

ある国語辞典では,次のようなきまりにしたがって見出し語をならべています。

  1. 見出し語をかな書きにして,あいうえお順(五十音順)にならべる。
  2. 一字めが同じ発音の場合は二字目で,二字めも同じ場合は三字目で決める というふうに,五十音順にならべる。
  3. 濁音の「ば」「ぶ」「ぼ」などは清音の「は」「ふ」「ほ」のあとに, 半濁音の「ぱ」「ぷ」「ぽ」などは濁音のあとにならべる。
  4. 拗音の「ゃ」「ゅ」「ょ」や促音の「っ」などのような小さい文字で 書くかなは,ふつうの「や」「ゆ」「よ」や「つ」などのあとにならべる。
  5. のばす音(長音)を含む言葉は,たとえば「コーヒー」を「コオヒイ」 と考えるように,その上の母音を繰り返した形におきかえてならべる。
  6. 見出し語が同じ発音の場合は,ひらがなを先に,カタカナをあとに ならべる。
  7. 見出し語の読みが全く同じ場合は,あてはまる漢字の一字めの画数が 少ない方から順にならべる。漢字の一字めの画数が同じ場合は二字めで, 二字めも同じ場合は三字めで決めるというふうに,画数の少ない順に並べる。
問 次の1〜5の語群の言葉を,右のきまりにしたがって,それぞれならべかえて 記号で答えなさい。
1 不安ファンファーレ ファミコン
2表(ひょう) 美容費用
3しょっぱい食器しょっちゅう
4ヒントびんづめピンセット
5成果正価生花(せいか) 
(注 本文中のルビは省略。表中のルビはカッコ書きに直す。また箇条書きの 項目番号は原文では丸つき数字)

これに対する日能研の解答は次のとおりである。(問題解説と解答<日能研から> −−聖光学院中2002年 国語[二]について

 解 答  
1  ア 不安  イ ファンファーレ  ウ ファミコン
答え  ア(不安) → ウ(ファミコン) → イ(ファンファーレ)

2  ア 表   イ 美容   ウ 費用
答え  ウ(費用) → ア(表) → イ(美容)

3  ア しょっぱい  イ 食器  ウ しょっちゅう
答え  イ(食器) → ウ(しょっちゅう) → ア(しょっぱい)

4  ア ヒント  イ びんづめ  ウ ピンセット
答え  ア(ヒント) → イ(びんづめ) → ウ(ピンセット)

5  ア 成果  イ 正価  ウ 生花
答え  ウ(生花) → イ(正価) → ア(成果)

ところが,声の教育社から発売されている入試問題集では,解答がこれと 異なっているのだ。比較しやすいように,日能研のフォーマットに改め, さらに解説も各小問のところに織り交ぜて紹介しよう。
1  ア 不安  イ ファンファーレ  ウ ファミコン
答え  ウ(ファミコン) → ア(不安) → イ(ファンファーレ)
 きまりの2.にもとづけば,三字めが「ミ」であるウが最初にくる。

2  ア 表   イ 美容   ウ 費用
答え  ウ(費用) → ア(表) → イ(美容)
 きまりの3.,4.に注目する。いちばん初めにくるのは清音だけの ウ「費用(ヒヨウ)」,次に,一字めが清音で,二字めが拗音の 「表(ヒョウ)」,最後に一字めが濁音の「美容(ビヨウ)」 になる。

3  ア しょっぱい  イ 食器  ウ しょっちゅう
答え  イ(食器) → ウ(しょっちゅう) → ア(しょっぱい)
 「しよっ」[原文のママ。正しくは「しょっ」]までは同一なので, 四字めで決める。

4  ア ヒント  イ びんづめ  ウ ピンセット
答え  ウ(ピンセット) →  イ(びんづめ) → ア(ヒント)
 3.のきまりにまどわされないように注意する。三字めがすべて ちがうので,こちらの五十音順がここでは優先する。

5  ア 成果  イ 正価  ウ 生花
答え  ウ(生花) → イ(正価) → ア(成果)
 三つとも読みが同じなので,7.のきまりにしたがう。アは一字めの 「成」が六画,イは一字めの「正」が五画,「価」が八画, ウは一字めの「生」が五画,「花」が七画。

このように,5問ある設問のうち1と4で両者が食い違っている。
なお,日能研のサイトでは個々の設問に対する解説はなく,出題の意図などに関する 解説がなされている(こちら)。

では,両者で食い違いが生じたのはなぜか,考えてみよう。

まず1番を見てみる。

である。

また,日能研の解説には,

重要な条件から順番に挙げられています(たとえば「五十音順に並べる」という条件よりも前に、「長音を先に並べる」という条件が来ることはありません)。ですから、条件に言わば軽重があります。
というくだりがある。このことから,次のように推測できる。

日能研の考え方:

  1. きまり2.により,1文字ずつ比較する。1文字めは全て「フ」で同一。 2文字めは「ア」と「ァ」で異なっている。
  2. きまり3.により,小文字は大文字の後なので,フアンが最初。
  3. ファミコンとファンファーレとは,3文字めが異なる。
  4. 「ミ」と「ン」を比較して出来上がり。

一方,声の教育社の考え方だが,解説の中に「きまりの2.にもとづけば, 三字めが「ミ」であるウが最初にくる。」と書かれている。したがって, ここでは上記の日能研で考慮された2文字めの違い(ア/ァ)は 無視され,同一として扱った上で,3文字目の比較に移っている ことがわかる。したがって,次のようになる。

  1. きまり2.により,1文字ずつ比較する。1文字めは全て「フ」で同一。 2文字めは「ア」と「ァ」だが,これは同じと みなす。
  2. 3文字目の比較に移る。ファミコンの「ミ」が残り2つの「ン」より先に来る。
  3. 残りのフアンとファンファーレを比較する。きまり2.により, 3文字目まで全く同一。
  4. 4文字以降があるファンファーレが後になる。

となると,問題は「ア」と「ァ」は同じか違うか,という問題に帰着する。

両者を取り出して単独で発音すれば,たとえ「ァ」と書いてあっても「ア」 と同じ読み方をするしかない。しかし,本当に「同じ発音」といって いいのだろうか。微妙である。

まして促音の場合,「てっき(鉄器)」の「っ」と「てつき(手付き)」の 「つ」が同じ発音とはちょっと言えまい。

そう考えると,日能研の解答のほうが論理的といえよう。

いっぽう,声の教育社の解答にも一理ある。

つまり,もし日能研方式で見出し語を排列したら,「ふあ」で始まる語が 全部終わってから「ふぁ」で始まる語に移ることになるし,「か」で始まる 単語が全部終わってから「が」で始まる単語が並ぶことになるが,実際の国語 辞典でそんな並べ方をしているものはないではないか,「ふあ」と「ふぁ」, 「か」と「が」は混在しているぞ,ということだ。

しかし,混在しているとしたら,きまり4.はどこで生きてくるのだろうか。

実は,一般の国語辞典の排列にはここに上がっていないルールがあるのである。 たとえば,この問題にあるようなルールであれば,次の 色刷りの部分が実際には補われる。 (「この問題にあるようなルール」といったのは,辞典によっては 「コーヒー」を「コヒ」と同一視したりする例があるからである。場合に よっては,拗音・促音などを清音より先においたりすることも可能だ。)

  1. 見出し語をかな書きにして,あいうえお順(五十音順)にならべる。
  2. 濁音・半濁音はいったん,清音に置き換え,また拗音・促音などの 小さい文字は大きい文字に置き換えて,仮に並べる。
  3. のばす音(長音)を含む言葉は,たとえば「コーヒー」を「コオヒイ」 と考えるように,その上の母音を繰り返した形におきかえてならべる。 (この項,順位繰上げ)
  4. 仮置換えをした結果,一字めが 同じ発音の場合は二字目で,二字めも同じ場合は三字目で決める というふうに,五十音順にならべる。
  5. 以上の並べ方を行なったうえで, 同順位の語があれば,仮置換えの解除を行ない(それぞれ, もとの濁音・半濁音・拗音・促音などの形に戻す),以下のルールを 順次適用する。
  6. 濁音の「ば」「ぶ」「ぼ」などは清音の「は」「ふ」「ほ」のあとに, 半濁音の「ぱ」「ぷ」「ぽ」などは濁音のあとにならべる。
  7. 拗音の「ゃ」「ゅ」「ょ」や促音の「っ」などのような小さい文字で 書くかなは,ふつうの「や」「ゆ」「よ」や「つ」などのあとにならべる。
  8. 見出し語が同じ発音の場合は,ひらがなを先に,カタカナをあとに ならべる。
  9. 見出し語の読みが全く同じ場合は,あてはまる漢字の一字めの画数が 少ない方から順にならべる。漢字の一字めの画数が同じ場合は二字めで, 二字めも同じ場合は三字めで決めるというふうに,画数の少ない順に並べる。
ただ,実際の辞典の凡例などにここまで書かれていることはふつうない。 いわば「五十音順といったら,こういう風に扱う」という「暗黙の了解」で ある。(さすがに,JIS規格のX 4061「日本語文字列照合順番」では ここまで明記してあるが。)

さらに,問題の4になると,この暗黙の了解に従うかどうかの違いがはっきりと あらわれる。

日能研の考え方:

  1. きまり2.により,1文字ずつ比較する。1文字めは 「ヒ」「ビ」「ピ」で全て異なる。
  2. きまり3.により,ひ→び→ぴ,であるから,ヒント→びんづめ→ピンセット, が答え。

声の教育社の考え方:

  1. きまり2.により,1文字ずつ比較する。1文字めは 「ヒ」「ビ」「ピ」であるが,「暗黙の了解」により,これらは全て 同じ文字とみなす。
  2. 2文字目も全て「ン」で同じ。
  3. 3文字目を比較する。せ→つ(「づ」を仮置き換えした文字)→と, であるから,ピンセット→びんづめ→ヒント,が答え。
こうなってくると,声の教育社の解説にある「3.の きまりにまどわされないように注意する。三字めがすべてちがうので, こちらの五十音順がここでは優先する。」という説明だけでは 納得しない子もいるだろう。きまり2.を適用した際,どうみても 「一字めが同じ発音の場合」とはいえない。一字めはそれぞれ「ひ」 「び」「ぴ」と三者三様に異なっているので,きまり2.は適用されず (というかまず1文字目を比較するという解釈になり),きまり3.の 適用に移る,と考えるのは当然の成り行きである。

となると,つまるところ,きまり1.にある「あいうえお順(五十音順)」には この「暗黙の了解」も含まれるかどうか,という問題になる。

おそらく,日ごろ国語辞典を引きなれている人は,声の教育社の 解答を自然なものと考えるであろう。

一方,この問題はあくまでも「ある国語辞典」のルールであって,国語辞典 一般のルールではないのだから,示されたルールをいかに的確に判断できる か,を問うているものだ,という考え方もできる。その場合は,日能研の 考え方に軍配が上がるといえよう。

さて,どちらの解答が適切だろうか。

出題した側である,同学院国語科の内田先生の発言 によると,

これは決して「辞書の引き方を知っていますか?」という問題ではなくて、あくまでも、ここに書いてある条件が理解できますか、日本語として使えますか、という問題で、必ずしも辞書をよく引いている子が有利といったことはないと思います。
とのことである。とすると,日能研の解答を正解と考えている,という ことか。

しかし,国語の先生であれば日常的に国語辞典をひいているだろうから, 五十音順といったらこういうふうに並べるのだ,ということが当たり前過ぎて, 「暗黙の了解」という意識すらなく,ここに挙げられたルールだけで排列すると 日能研のような答えになる,という発想はないかもしれない。

学校側がどのような扱いをしたのか,気になるところである。


(補足)日本目録規則における排列ルール

(本稿2002.9.30追加)

図書館の目録等では,国語辞典とまた異なったルールで排列がなされる。 日本目録規則(NCR)1987年版改訂2版の第31章「排列総則」から, 要点だけごく簡単にまとめると,

  1. 見出し(図書館用語で言うと標目)となる対象の言葉(たとえば タイトル,著者名など)を カタカナ書きにして,あいうえお順(五十音順)に並べる。
  2. その際,まず以下のような置き換えをすべて行なったうえで 並べる。
  3. 置換えをした結果,一字めが 同じ発音の場合は二字目で,二字めも同じ場合は三字目で決める というふうに,五十音順にならべる。
  4. 以上の並べ方を行なったうえで, 同順位の語があっても,置換えを解除して(元に戻して) 比較することはしない。その場合は,以下の各ルールを適用する。
  5. 見出しとなる対象の言葉を比較し,カタカナ→ひらがな→ 漢字→ローマ字の順に並べる。
  6. (その先は,対象となった言葉がタイトルか,著者名か…など によって違うので,ここでは省略する。)
となる。

また,百科辞典類では,基本的に国語辞典と同じルール,ただし 長音の扱いだけ図書館方式(つまり無視する)というものが多い。


(補足)ある質問(教えて!goo)より

(本稿2003.6.27追加)

「教えて!goo」という疑問系のサイトに次のような質問が投稿された。

質問:国語辞典での並び方

国語辞典での言葉の並び方は,まず一文字目を見て,その字の五十音順→同じ場合は 清音→濁音と国語の教科書で習いました。
そうすると「しぼう」「しほうはっぽう」「じほう」の順に出ていると思ったの ですが実際には「しぼう」「じほう」「しほうはっぽう」の順に出ています。
どうしてなのでしょうか。子どもに訊かれて困っています。教えてください。

これに対し3件の回答が寄せられているが,1番目と2番めの回答は外している。 3番目は的確で丁寧であり,「無は有に先行する」というルールも 「空白(最優先)」という言い回しではっきり書いてある。「五十音順といった場合, 濁音・半濁音はいったん清音とみなして排列する」と明記してあれば なお分かりやすかったろう(説明を読めば分かるが)。

参考1:日能研の「解説」

 解 説  
 聖光学院中の[二]は、「ある辞書のいくつかの特徴を設定し、その辞書では言葉がどのような順番で並ぶのか」ということを問うものでした。

 辞書の特徴を設定した時点で、これまでの受験生が持っている辞書の言葉の配列に関する知識はいったんクリアされます。

 そして受験生は、各設問について、その場で考え、答えていくことになります。ここから次のようなことが言えるのではないかと考えます。

A 単なる暗記では対応できない→現場で思考する力

 新しく条件がその場で設定されるわけですから、それまで覚えていた辞書の言葉の配列に関する知識は使えません(注:ここでの条件とは、たとえば「五十音順に並ぶ」というような、辞書として重要な部分までの条件を変えてしまうものではありません。拗音・促音、あるいは長音の扱いなど、言わば「それぞれの辞書にある程度任されている部分」の条件です。)。また、設問で挙げられている言葉もどちらかと言えば平易なものですし、またこの設問の性質から考えても、言葉の意味を知っていることが、解答をする上での必要な条件ではありません。そこから、言葉を知っている・暗記していることは重要ではなく、その場で与えられて条件を元に考える力を見ているものと思われます。


B 条件が多い(7つ)、また条件が複雑である→条件を整理する力

 辞書の言葉の配列について、条件が,らГ泙韮靴諜鵑欧蕕譴討い泙后またこの条件は辞書として重要な条件から順番に挙げられています(たとえば「五十音順に並べる」という条件よりも前に、「長音を先に並べる」という条件が来ることはありません)。ですから、条件に言わば軽重があります。その条件をきちんと整理する力を求めているものと思われます。


C 条件を具体的事例に当てはめていく力

 これは先に挙げたBとも関連していますが、必要な条件の軽重を考えながら、具体的に当てはめていく力を見ていると思われます。

これらのことから、聖光学院中の国語の先生方は、知識のみに頼るのではなく現場でしっかりと思考して答えを出していくという臨機応変さを見ているものと思われます。

参考2:出題社側はどう考えているか

日能研のページには,本文を出題した先生への貴重なインタビューがある。ただ, それを読んでもこの設問の正答は分からない。ただ言えることは,(私の予想に 反して)「日ごろから辞書を引いているかどうかを問うたものではない」という ことだ。
出題校にインタビュー!−−聖光学院の国語におけるアドミッション・ポリシーを聞いてみました (回答:聖光学院国語科・内田洋先生)

内田先生――話は入試問題に戻りますが、こういった知識の問題を出したときに、子どもたちの知識そのものの基盤が違ってきていたという実感があって、それではもっと違う形で「日本語を使う力」を見てみようと思ったわけです。
 そこで今回の[二]は、濁音(だくおん)とか半濁音とか、拗音(ようおん)、促音(そくおん)という例もすべてこちらが用意したんですね。例を出さないというやり方もあると思うんですが、あえて今回は出してしまおうと…。
 そして、(1)から(7)までの説明を読んだうえで、純粋にその7つの説明で構成される国語の論理にしたがって、問いの5つの選択肢をきちんと分析できるかを見ようとしたわけです。つまり言葉の意味に該当するものは、すべてこちらから提示したうえで、文脈を読めますか、言葉を使えますか、という問いかけだったんですね。
 また、問いの選択肢にしても、簡単なものもあれば、なかには「あれっ」と思うようなものも混ぜて、すべての正答率が一定になるよりも、その差が開くようにしたほうが、受験生の力を見るうえではよいと考えました。
 この問題では明確に見えにくいかもしれませんが、うちの学校では、常に「日本語を使える力を問うている」ということを、わかりやすい形で示したつもりもありました。

――この[二]の問題と「日本語を使えるかどうか」ということが、どうつながるのか、もう少しくわしく説明していただけますか。

内田先生――この[二]の問題の場合、知識を「覚えているかどうか」に頼る度合いが少ないんですね。いってみれば、種明かしをぜんぶしてしまったようなもので、たとえば大学の英語の試験にある、辞書持ち込みOKというのと近い形で、辞書はここに載せてしまったわけです。
 で、その辞書は日本語で書いてありますから、その日本語を理解できますか、という投げかけですね。その日本語を理解したうえで、別の文脈である選択肢を読んで、その文脈を読み取ることができますか、という形で「日本語を使う力」を試そうとしています。
 辞書にあることばの意味,あるいは本で読んだ表現,それを実際に自分が使う経験って言うのは、結局、別の文脈のなかでするわけですね。ある文脈で得たもの、あるいは知った知識を別の文脈のなかで使うことができますかという…。
 別の言い方をすれば、自分の知っているものと相手の知っているものがあって、相手の考え方、相手の文脈に合わせて、自分の言葉を使えますか…、それと同様に、相手の使っている言葉の意味を、自分の文脈に置き換えて使えますか…、という、それがあって初めて、お互いの意思の疎通が本当の意味で成り立つんですね。単なる辞書的な意味のつき合わせではなく…。
 知識が前面に出ている印象の強い問題よりは、こういった形のほうが、聖光学院の姿勢をよくわかってもらえるのではないかと考えたわけです。

――なるほど。ところで、子どもはこれをどうやって解くのかというと、なかには条件の(1)から(3)は問題なく、(4)も大丈夫だったけれども、(5)以降は自分で問題の余白に例を書いてみたりして、条件を整理したら理解できたと…。4つめまでは、この子の常識の範囲にあったということだと思います。

内田先生――小学生の場合、辞書の引き方は教えているのですか。

――日能研ではあまり教えていません。小学校でやる基本の範囲内ですね。わからない言葉にぶつかっても、むしろ文脈で理解して、あとで必要であれば辞書を引くっていう学習スタイルを大切にしようという考え方です。

内田先生――そのあとは家庭で辞書を引くようにということですか。

――より正確な知識を獲得する必要があれば、ということですね。まず文脈の理解から入っていこうと…。

内田先生――すると、ここでやった作業というのは、多くの子どもにとっては初めての作業だったということですね。

――特別に辞書を引かせるのが好きな塾があったとしたら、やったことがあるかもしれませんが…。昔はよくあったかもしれません。

内田先生――こういう問題は、英語でよく議論されると思うのですが、英語の先生のなかでも分かれると思うんですね。
すぐ辞書を引きなさいという考え方と、まず文脈で理解しなさいという方と…。最初のうちは必ず引きなさいということになると思いますが。

――いずれにしても、大人でもここまで考えて辞書を引くとか、そういう引き方は、あまりしませんよね。

内田先生――そうですね。ですからこれは決して「辞書の引き方を知っていますか?」という問題ではなくて、あくまでも、ここに書いてある条件が理解できますか、日本語として使えますか、という問題で、必ずしも辞書をよく引いている子が有利といったことはないと思います。

――それは、確かにそう思います。

内田先生――漢和辞典なんかは、出てくる順番が出版社によって少しずつ違うんですね。
 でも、ふつうは全体を見ることで慣れて、だいたいのところを理解して使いますね。

――こういう並びの辞書が現実にあるんですか。

内田先生――モデルはありますが、そのままではなく、少しだけ変えたものです。



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