過去のコラム
コラム7 2014年8月1日

■民族舞踏「サルダーナ」
 パリの後はリヨン、トゥールズを経て、スペインのヴィックという町に行きました。「地球の歩き方」にも載っていないような街で、行くまで全く何の情報もなかったのですが、行ってみるとローマ遺跡から、中世、ルネサンス、バロック、19、20世紀初頭の建物が小さな城壁内に混在する大変魅力的な町でした。
 どんな街だろうと到着早々、中心部の広場に行ってみると、生演奏をしている管楽器の楽隊がいて、その前でたくさんの人たちが輪になって踊っていました。その楽団の楽器を見てみるとどれも不思議な楽器ばかり。リーダー的な役割をしているのは片手フルートとタンブーランを演奏している男性。ルネサンスまでの片手フルートというと、指孔は3つが定番ですが、沢山のキーがつけられていました。片手であれを全部操作するとはすごいです。オーボエはチェルメラのようにピルエットがついており、リードは完全に口の中に入れて吹くあたり、とてもルネサンス的なのですが、沢山のキーがつけられ、管もラッパ部分は金属です。トロンボーンのように見える楽器には、3つのピストンがつけられていました。どれも、ルネサンス時代の楽器が19世紀以降の技術を取り入れて、独自の発展を遂げたような不思議な楽器たちでした。その前で踊る人たちも三々五々な感じで8~10人程度の小さな輪がいくつもできて、皆さんそれぞれのペースで踊っているようでした。
 その後観光案内所に行ってきくと、サルダーナというカタルーニャ特有の民族舞踏だそうで、毎週土曜日の午後に町が楽団を雇っており、誰でもが広場で踊りに参加できるのだそうです。カタルーニャ地方は今でも激しい独立運動が続くぐらい民族意識が強いところで、町のいたるところには独立を望むことを示す旗カタルーニャの旗が窓から垂れ下がっていました。みんなで毎週踊ることで、カタルーニャ人としての意識を高めているのかもしれませんね。

曲の初めやテンポ決めるのは一番手間の片手フルート吹き

半分金属のオーボエ。リードは口の中

広場で踊る人たち。バルコニーにかかっている旗は独立賛成の表明。

カタルーニャ地方のタイル。ヴィックの教区美術館。

コラム6 2014年8月1日

■パリの美術館
 パリにはこれまでに覚えていないぐらい何度も行っているのですが、今回は一人の時間がたくさんあったので、すごく久しぶりに、ルーブル美術館、オルセー美術館、グスタフ・モロー美術館、クリュニー中世美術館などすごくベタな美術館巡りをしてみました。やはり年の功といいますか、昔はあまりよく分からなかったロマン派・近代の美術がすごくおもしろくて、ダイレクトに心に響いて涙ぐみそうにある絵にも出会え、本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。特にグスタフ・モロー美術館はホテルから近かったこともあり、2回も行ってしまいました。一人の人物の絵を若いころから晩年にいたるまで、デッサンの習作から傑作までたくさん見ると、なぜ画家がその絵を描きたかったのかという心理がだんだん見えてきて、大変興味深かったです。
 学生時代、美術館巡りをしていたころは、誰の作か、時代は、スタイルは、作品の内容は、音楽との関連はなど頭で体系づけながら見ているところがあり、実際の絵画より横に貼ってあるネームプレートばかり眺めたりしてしまっていました。でも年を経て、絵を見ればネームプレートをいちいち見なくても、大体のことが分かるようになってくると、誰の絵であるか、有名な絵であるかなどということはもうどうでもよくなり、ただ、ただ純粋に絵と向き合い、絵が語りかけてくる言葉に耳を傾け、かき乱される感情の起伏を楽しむことができました。年を取るのも悪くないものですね。

Tenture a L'oiseau "Intermede musical" クリュニュ中世美術館のタピストリー

M.Rosselli "Le Triomphe de David" ルーブル美術館

A.Vallayer - Coster "Instruments de musique ルーブル美術館

コラム5 2014年8月1日

■パリの楽器屋
 3月のBCJのフランス・スペインツアーが終わって、続きを書かねば・・・と思っているうちに4ヶ月が経ってしまいました。この数か月は「協奏曲の夕べ」などもあり、本当に怒涛の日々でした。ちょっと日が経ってしまいましたが、ツアーの話の続きをちょこっとだけ。
 ビルバオ公演の後、私の出番がないカンタータプログラムが数日続いたため、数日間のオフ日となりました。バーゼルのフルートメーカー、タルディーノの工房に行くことを楽しみにしていたのですが、なんと予定していた格安航空が急なフライトキャンセルになり、ビルバオで一日足止めとなってしまいました。何の保証もない格安航空・・・。安いけれども、やっぱりリスクを伴いますね。すったもんだの末、結局バーゼル行きは断念。次公演がパリのため、みんなより一足早くパリに行って遊ぶことにしました。
 そして、そのパリで出会ったのが、この美しい象牙のフルート!昔コンセルバトワールがあったため、今でもサン・ラザール駅前のローマ通りには、沢山の楽器屋や楽譜屋が集まっています。そこをぶらぶらしている時にショーウィンドウから目に入ったのがこの多鍵式フルートです。私が愛用しているサックス作多鍵式は6鍵式で、ピッチがA=420~438hzぐらいです。BCJでメンデルスゾーン版のマタイ受難曲や、メンデルスゾーンのパウルスをした時など、オペラシティの大オルガンを使うためにA=442hzでしたいといわれることがあり、現代ピッチで演奏できる多鍵式フルートをちょうど探しているところでした。
 お店に入ると7,8本の多鍵式フルートが壁にかけられており、さっそく試し吹きをさせてもらいました。約半分の楽器は非常に良い状態で、残りは修復しないと吹けないようなボロボロの状態でした。店員さんは壊れた楽器を修復して販売するのが好きとのことで、私が吹いている間も、ずっと熱心に楽器を磨き続けていました。
 私が購入した楽器はスタンプがついていませんが、おそらくBuffet Crampon系列の楽器だろうということです。象牙の頭部管なのに、なんと全く割れのない完品!当時の象牙の頭部管はスライディングヘッドジョイントために、中に金属が入っているおり、現存するほとんど楽器には割れがあります。それが全くなく、すぐにでも吹ける状態でお値段なんと10万円ぽっきり!!!惚れ込んだというほど素晴らしい楽器ではありませんが、実用的には音程も問題なく、あとは愛情を注いであげれば私好みに育ってくれそうな予感。ということで、買いを即決してしまいました。
 ただ問題はクレジットカードが使えないお店だということ。その晩、そして翌日と金策に奔走して現金をかき集め、何とか無事手に入れることができました。
さてはて、お披露目はいつになるやら・・・・。
パリのお店はLa Cave Ventsというところで、ホームページもあります。
http://www.lacaveavents.com/index.php
古いクラリネットやサックス、オーボエもたくさん置いてありました。

コラム4 2014年3月24日
■ BCJヨーロッパ公演(スペイン ビルバオ)
 ニュージーランド公演に続いて、ヨーロッパ公演に来ています。今回は18日間の予定でスペイン、フランスを回ります。まず最初はスペインのビルバオでした。ビルバオはバスク地方の中心地で、現代美術で有名なグッケンハイムなどを誘致し、美術があふれる街として観光にも力を入れています。19世紀から20世紀にかけて鉄鋼業を中心とした工業がとても盛んだったそうで、当時の立派な建物と現代建築とが絶妙なバランスを取りながら共存してます。高さ50メートルもあるビスカヤ橋は世界遺産にも登録されており、渡し船代わりに橋から吊られて動くゴンドラは、今も市民の足として健在で、車や人を運んでいました。
 私たちが演奏した会場(Sociedad Filarminica de Bilbao)は、1816年に建てられた歴史的な劇場でした。街中の通りに面した小さな入口から入ると、一体どこにこんな建物が隠れていたのだろうと、びっくりするほど立派な500名ほどのボックス型劇場が出現します。楽屋には、これまで劇場で演奏した数々の有名な演奏家たちの写真がところせましと飾られており、中にはなんとラベルの写真までありました!
 舞台は劇場の伝統に則って奥から客席に向かって傾斜がつけられており、オーケストラの椅子も楽譜もすべてが斜めになっているため、舞台に出ると最初10分くらいはめまいがしました。演劇でのすべてのささやきまでがよく聞こえるように作られているため、残響はほぼゼロ。教会音楽を演奏するのは非常に難しい会場でしたが、ヨハネ受難曲を劇ととらえるなら、いつもとはひと味違ったドラマティックな演奏になったのではないでしょうか?お客様たちにもとても楽しんでいただけたようで、コンサート後には大きなブラボーがたくさん飛び交っていました。
 コンサート後、近くのバールでオケのメンバーたちと打ち上げをしていると、同じお店にコンサートにいらしていた方も来ており、何人もの方から最高だったよと喜びの声をかけて頂けたのもうれしかったです。


過去の出演者の写真がはられた楽屋

 
楽屋にあったラベルの写真     ビルバオ美術館にあるPieter Fransz Gerebberの絵


シューボックス型の会場


雰囲気のある劇場のロビー

コラム3 2014年3月5日
■ BCJ ニュージーランド公演
 3月1日から7日までバッハ・コレギウム・ジャパンのツアーでニュージーランドの首都ウェリントンに来ています。日本と4時間の時差があるニュージランドは夏の終わりでまだ暖かいという噂でしたが意外に寒く、セーターやジャケットが手放せません。強い海風が絶えず吹くウェリントンでは、風があるところとないところの体感温度が著しく違うせいか、町ではノースリーブで短パンの人とダウンジャケットを羽織っている人が同時にいる状態で、不思議な光景です。


左の丸い建物がコンサートホールMichael Fowler Centreです。

 ニュージーランドの人口は400万人、羊の数は600万匹だそうですが、町は比較的のんびりしている様子で、首都と言ってもこじんまりしています。空き時間に動物園にキウィなど見に行ったのですが、こんもりとした山の中の自然あふれる広い檻の中で、動物たちも思い思いにとても幸せそうにのんびり過ごしており、見ている方もなんだかほっこり幸せ〜になってきました。国民性は動物にもうつるのですね。でも、うっそうとした木々の間に動物を探し出すのはなかなか大変でしたが・・・。
 コンサートが行われるMichael Fowler Centreは2000人以上入る大ホールですが、すり鉢型のせいかそれほど大きくは見えません。舞台上の響きは少し悲しくなるほどドライですが、客席で聞くと意外に響きがあります。舞台上に全く音が残らず、すべて客席に運ばれていくタイプの会場のようです。演奏する立場からすると、少しやりにくいのですが、お客様によく聞こえるためでしたら、仕方ないですよね。プログラムは2公演あり、2月に録音したばかりのミサ曲イ長調BWV234(コラム2を参照)と、帰国後川崎でも演奏があるヨハネ受難曲を演奏します。リハーサルでは、ミサ曲のフルート付きアリアQuitolisは「オペラシティの公演の時以上にホールに朗々と響き渡たっているよ」とのことで一安心。明日からの本番が楽しみです。


BCJのリハーサル風景              ニュージーランド公演のポスター

コラム2 2014年2月23日

■ J.S.バッハ:ミサ曲イ長調の中のフルートパート
 2月22日には神戸の松陰女子大学チャペルで、23日は東京オペラシティのタケミツホールで、バッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートがありました。私が演奏したミサ曲イ長調BWV234は全部で6曲から成り立っていますが、そのうちの4曲はフルートがソリストのように大活躍しました。特に4曲目のソプラノと2本のフルートのためのアリア “Qui tollis peccata mundi”は、バッハのフルート付きアリアの中でも5本の指に入ると思うほどとても美しい曲でした。チェロやオルガンの通奏低音がなく、ヴァイオリンとヴィオラが通奏低音を担当するという珍しい編成で、各小節にたくさんの不協和な音が使われ、静かに神の罪の許しを請う雰囲気が涙をそそりました。松陰女子大学ではCDの録音もしましたので、きっと1年以内には発売されると思います。乞うご期待!

 
松陰女子大学チャペルでのリハーサルとチャペルのオルガン

コラム1 2014年2月20日
■ 私は「横笛吹き」
 最近自分のプロフィールなどで肩書を書かなければならない時、ちょっと困ることがあります。フラウト・トラヴェルソ奏者というのが一般的なのかもしれませんが、ではそもそもフラウト・トラベルソとは何かといえばイタリア語で「フラウト=笛、トラベルソ=横の」という意味なので、つまりは横笛ということです。フラウト・トラベルソという言葉自体に古い笛とか木製のフルートという意味は全くなく、今でもイタリアのモダン・フルート吹きはみんなフラウト・トラヴェルソ奏者です。
 そんなわけで、長い間「ベーム式じゃないよ」という意味を込めて、「バロック・フルート奏者」を肩書にしていたのですが、バロックだけでなく、中世、ルネサンス、クラシック、ロマン派など様々な時代の楽器を吹くようになってくると、コンサートのたびに「ルネサンス・フルート奏者」など肩書を変える必要が出てきます。さらにいくつもの楽器を一つのコンサートで使う時にはもうどうしようもなくなって、結局「フラウト・トラヴェルソ奏者」にしてしまうのですが、だったらもう単に「フルート奏者」でもいい気がしてくるけど、それではベーム式フルートのコンサートと勘違いされてしまいそうだし、だったら「古楽フルート奏者」とか「時代別フルート奏者」とか「木管フルート奏者」の方がいいかなぁなど悩みはつきません。自分で一番しっくりくるのは「横笛吹き」。邦楽奏者と間違えられそうだし、「フラウト・トラヴェルソ」の単なる邦訳だけれど、とにかく何であれ自分が吹きたい笛を吹き続けられたらいいなという願いを込めて。