パリの悦楽
18世紀フランスの室内楽
Les plaisirs de Paris
ラ・フェート・ギャラント
La fete galante

テレマン パリ四重奏曲 第2番 
ボワモルティエ フルートとガンバのためのトリオ ホ短調
ギユマン カルテットによるソナタ、あるいは優雅で楽しい会話 第4番 イ長調 作品12の4
ルベル ヴァイオリン・ソナタ 第4番 ホ短調
モンテクレール カンタータ「ディドンの死」
ランベール あなたの蔑みはいつも

朝岡聡的新譜試聴記(「アントレ」CDの玉手箱47)

 時代の移り変わりを説明するのは意外に難しい。例えばCDや携帯電話やパソコンなんかなかった僕の学生時代の感覚を今の若者に話したって、理解してもらうのは至難の業でしょう。生活習慣の異なる外国の今を説明するよりも、過ぎ去った時代を理解させるほうが難しいかもしれない。それは現代に限らず、私の愛する古楽の時代も同じこと。ひとくちに18世紀といったって地域や時代は現代以上に複雑。だからこそ、この時代はおもしろいのを納得させてくれるアルバムが「ラ・フェート・ギャラント」による「パリの悦楽」だ。

 ひとくちにフレンチ・バロックといってもルイ14世と15世の時代では大違い。ではルイ14世と15世の関係をご承知ですか?次の中から正解を選ぶべし。(1)子供 (2)孫 (3)曾孫(ひまご)

 14の次が15だから(1)と思う人が多いのだがこれは×。では、孫かというとこれも違う。正解は(3)。なんとルイ14世と15世の世代はたいへんな世代格差があるのですよ。おじいちゃんとひ孫とを比べたら好みや流行に大きな差があるのは今の時代も一緒でしょう。ラ・フェート・ギャラントの演奏で18世紀前半の音楽文化がいかに変わったのかを実感できるのはとても興味深い。

 アルバムの全範囲はルイ15世時代の作品が3曲収められている。まずはテレマンの「パリ四重奏曲」。いわゆる「フランス趣味」の代表的名作だ。歌うフルートに語るヴァイオリン、支えるガンバとチェンバロの織りなす世界はまさに洗練されたロココの美。結成10年を迎えるラ・フェート・ギャラント(Fl 前田りり子、Vn 桐山建志、Vg 市瀬礼子、Cm 平井み帆)のアンサンブルには、何か濃密な香りを感じる。優れたソロ奏者であるここのメンバーが一段と熟して深く華やかな印象を与えてくれる。この響きはまことに贅沢。聴きものですよ。

 続くボワモルティエのようにアマチュア音楽家のための作品が広く流布するのもこの時代ならではであろう。そのトリオソナタでもギャラントな空気を楽しんだ後に響いてくるのがギユマンのクァルテット。今回の録音でひときわ印象的なのがこの曲。「雅で楽しい会話」という副題が付いているのだが、これがまたなんとも愉しい。宮廷やサロンにおける貴族淑女の交わりとは、まことにこのようなものではないかと想像させる風景が広がる。それまでの2曲が短調ということもあって、この曲のもつ開放的で明るい空気は格別。ロココ絵画に描かれた貴族の優美なる世界に自分が入り込んだ感覚に浸らせてくれる。気持ちの良いことこの上なし。

 こうしてロココを存分に楽しんだ後のアルバム後半は、ルイ14世時代の音楽家による作品が3曲。ルベルのヴァイオリン・ソナタが流れ始めると、やはり時代をさかのぼるのを実感しないわけにはいかない。出だしの緩徐楽章の荘重な趣は、ひいおじいちゃんであるルイ14世にかぶっていたムクムクとしたカツラを彷彿とさせる重々しさ。

 様式感をたっぷり漂わせつつフランス独自の風景を描くヴァイオリンに酔った後は、フランス・カンタータの黄金時代を築いたモンテクレールの「ディドンの死」が続く。このカンタータでは歌と楽器の絶妙のコンビネーションを楽しもう。情感あふれるフルートと激情を巧みに描くヴァイオリンが、ロココの軽やかさとは対極の奥深い音楽を演出している。同じ雅でもルイ15世は別の世界を実感する。そして最後はリュリの義父でもあったランベールのエール「あなたのつれないあしらいに」。シンプルな中に片思いの心情が浮かび上がる名曲。終わった後の余韻がいい。

 ルイ王朝50年で音楽の趣味がずいぶん変化したのに気づくとともに、それを見事に演奏で納得させてくれるラ・フェート・ギャラントのメンバーと歌の表現力が素晴らしい。

(古楽情報誌「アントレ」2006年9月号より許可を得て全文転載)

レコード芸術新譜月評

皆川達夫(Tatsuo Minagawa)

【準推薦】バロック・フルートの前田りり子さん、バロック・ヴァイオリンの桐山建志さん、ヴィオラ・ダ・ガンバの市瀬礼子さん、チェンバロの平井み帆さんの4人のアンサンブル「ラ・デート・ギャラント」、訳せば「雅なる宴」演奏による「18世紀フランス室内楽作品集」である。ジャン=フェリ・ルベル(1666〜1747)の「ホ短調ヴァイオリン・ソナタ」第4番、ジョゼフ・ボダン・ド・ボワモルティエ(1689〜1755)のホ短調トリオ・ソナタ」(作品12-4)、ルイ=ガブリエル・ギユマン(1705〜70)の「イ長調ソナタあるいは雅びで楽しい会話」(作品12-4)といった小粋な作品を集めて、しっとりと聴かせてくれる。1曲だけ、ドイツ人ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767)の「イ短調クアテュオール」第2番が収められているのは、作曲者のパリ滞在中にこの地で出版されたという縁(えにし)による。

 誠実で律儀、やさしい心づかいにみちた演奏である。適度の抑制の中に自分たちの歌を素直につつましく奏しているのが好ましい。今から10年ほど前にフランスやイギリスに滞在していた仲間同士のアンサンブルというが、たしかに通いあった友情がそのまま音楽になって流れ出ている。

 なおゲストとしてソプラノの原雅巳(まさみ)さんががミシェル・ランベール(1610〜96)のシャコンヌ形式による「あなたのつれないあしらいに」、とミシェル・ピニョレ・ド・モンテクレール(1667〜1737)のカンタータ「ディドン(カルタゴの女王ダイドー)の死」を歌っておられる。

 作品を完全に自分のものとした、輝きのある歌いぶりである。


美山良夫(Yoshio Miyama)

【準推薦】ラ・フェート・ギャラント(「雅なる宴」)は、10年前、当時オランダやイギリスに在住していた音楽家たちによって結成されたアンサンブルが、2000年の東京での公演を機に、自らに与えた名称である。この改名は「古楽器のもつ軽やかで優雅な音色、こまやかなニュアンスなどを最大限にいかしながら、奏者間の音による洒脱な会話、そして聞き手を巻き込んでの『雅なる音楽の宴』を描きだす」ためであったいう。ラ・フェート・ギャラントの画家ワトーの生きた時代とそのすぐ後に生まれた音楽ばかりを集めたこの演奏は、アンサンブルの真骨頂を示そうとしてものである。

 ギユマンの「ソナタ、あるいは雅で楽しい会話」は、この意図が最も見事に実現した、優美な演奏となっている。前田りり子のフルートは、ここでもふくよかな音色と自然なふくらみをもったフレージングが美しい。ギユマンに限らずヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ガンバとのアンサンブルの巧みさも大書しなくてはならない。

 むろん18世紀のラ・フェート・ギャラントは奥深い世界だ。コケトリー、演劇性、イロニーなどなどが背後にあっての洒脱な会話を、音で実現するのは容易でない。それにもかかわらず、ボワモルティエの演奏の端々に、その世界に繋がる瞬間を感じることができるであろう。一方テレマンが、パリの名手たちとの合奏をもとにまとめた「パリ四重奏曲」第2番では、演奏者たちの腕前が存分に発揮されたのびのびとした音楽的感興があふれた仕上がりとなっている。


三井 啓(Akira Mitsui)

【録音評】2004年8月、神奈川県立相模湖交流センターでの録音。4つの楽器が適度な距離感をおいて、左右に適度な間隔をおいて並び、チェンバロ、バロック・フルート、バロック・ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバのいずれも位置感が鮮やかで、いずれの音色も透明。つややかで美しく、それらの溶け合いも自然に収録されている。2曲で登場するソプラノも歌唱が艶っぽく、美しい。 (90〜93)

(レコード芸術 2006年10月号より全文転載)

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