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20.The FLUTE (No.77) のインタビュー記事

The FLUTE という雑誌の最新号(No.77,Sept/Oct, 2005) に、私のインタビュー記事が出ましたのでご紹介します。

・・・今回のCDはどういったコンセプトで録音されたのですか?

前田 前回はドイツの曲が中心だったので、今回はフランスものでいこうと思っていました。ロココ時代はブラヴェなど、ヴィルトゥオーゾと呼ばれる名手が誕生し、バロックフルートが花開いた時期です。曲もよいものが多く、ぜひこの時代をやってみたかったんです。
 バッハやテレマンなどドイツの曲はかっちりしているので、テンションの高いモダンフルートでも表現できますが、ロココ時代の曲はモダンフルートだと表現しにくいものが多いですね。今回選んだ曲はフランスらしく軽やかで装飾も美しく、とてもバロックフルートに合っているんです。

・・・ベルギーの田舎の教会を借り切って録音されたそうですね。

前田 はい。録音した教会の手配をはじめ、食事や泊まるところまですべてチェンバロのロベール・コーネンさんがお膳立てをしてくれました。・・・・

 と、いった調子で3ページほどのインタビューが続きますが、あとは The FLUTE を買って読んでください。この号には「私のウォーミングアップ法」というコラムにも書かせていただきました。また、有田正広先生のインタビュー記事も掲載されていて、10月にライプチッヒの新バッハ協会のワークショップに招かれた話をしておられますから、トラベルソのファンの方にも面白いでしょう。
 その上、この本の51ページには、なんとこのホームページ「りりこの部屋」のご紹介までしていただいてますよ!

 The FLUTE No.77 の詳しい内容はこちらをごらんください。このページから注文もできるようです。

19.ロベール観察日記
・・・ 一流になるにはまず体を鍛えなくっちゃ!

■2005年9月13日
 ロベールが東京にやってきました。成田から成田エクスプレスの8号車に乗ると連絡があったので、新宿駅に迎えに行くと、なんと新宿着の成田エクスプレスは6両編成。駅員さんにきいたら、8号車は品川で切り離されて横浜に行くとのこと。これは大変なことになったとおろおろしていたら、向こうの方からにこにこ歩いてくるロベールの姿が・・・。2号車8番という指定席の読み方がわからず、8号車と勘違いしていたとのこと。無事に会えて本当にほっとしました。
 この日の日中の気温は34度。「熱帯の国に来たようだ。こんな暑い日本は初めてだ!」とちょっとばて気味に見えたロベール。ところが、リハーサル場兼宿泊先として使わせていただいたA氏のお宅につくないなや、スーツケースは玄関に置きっぱなしで、チェンバロのイスへと直行し、「さあ、リハーサルを始めよう!」というのです。びっくりして、「ちょっと休んでからにしましょう。お茶でもいかが?」と言ったのですが「僕がなんのために日本に来たと思うんだい?僕は君たちと演奏するために来たんだよ。さぁ、早くはじめようよ」というので、そのまま2時間みっちりリハーサルをしました。
 その後は、歓迎会を兼ねて小さなパーティーを行い、夜の10時まで楽しく飲んで、食べて、おしゃべりをしました。本当にタフなお爺さんです!

■9月14日
 初めて経験する日本の熱帯夜は相当堪えたらしく、あまり眠れなかったと言いつつも、いつもと変わらず元気なロベール。午前中は昔のお弟子さんと会っておしゃべり、午後から数時間私たちとリハーサルをして、夜は別の場所で、福岡古楽音楽祭のためのリハーサルを楽々とこなしていました。

■9月15日
 午前中は、一人で東急ハンズでお買い物。工具と木材が大好きなロベールは、日本の優秀な工具がそろっている東急ハンズが大のお気に入りで、日本に来ると必ず行くので、店員さんに顔を覚えられているそうです。工具に詳しくない私には、ヨーロッパのものと一体何が違うのか、さっぱりよく分からないのですが、メジャーや小刀、ハンマーなどを、自慢げに見せてくれました。ハンマーは近所の人へのおみやげだそうです。
 そして、午後はまた私たちとリハーサル、夜は音楽祭のリハーサル。

■9月16日
 この日は東京のハクジュホールでコンサートでした。ロベールは今回のリサイタルでヴィオラ・ダ・ガンバを弾いて下さった福沢宏さんとは初共演でしたが、3日間のリハーサルをへて3人の息もぴったり合うようになり、演奏者側としても、とても楽しいコンサートとなりました。特にラモーは、まるでサロンでの楽しい会話の様に、3人の気持ちがぴったりはまって、私としては最高の出来だった様な気がします。
 本番前、ロベールがずっと自分の控え室にこもりっきりで出てこないので、どうしたのかなとちょっと様子を見に行くと、名古屋場所の相撲中継を夢中で見ていました。「おもしろい?」と訊くと「すごくやせた力士が、でぶっちょの力士をあっという間になげちゃったよ。すごいよ!」と興奮気味に話してくれました。

■9月17日
 この日は山口県の宇部市でコンサートでした。前日は打ち上げ後、宿泊先に帰ったのは12時近かったはずですが、この日の待ち合わせは飛行機の都合で朝の8時。敬老の日の連休初日だったため、羽田空港は大混雑していました。出発の1時間以上も前に飛行場についたのですが、ガンバのための席をチェックインさせるのに手間取り、手荷物検査場も長蛇の列だったため、検査を受けられた時はもう出発時間直前になってしまいました。
 先に私が検査を受け、中で待っていたのですが、いつまでロベールが出てきません。のぞいてみると、靴もベルトも取らさせられ、荷物を開けて徹底的に調べられている様子。これはまずいと、福沢さんに先に行って飛行機を止めておいてもらい、なんとか飛行機に乗り込むことができました。検査に引っかかった原因は、ちいさな爪切りでした。最近の検査は本当に厳しいです。
 宇部のコンサートは100人程度の小さな教会で行いました。客席との距離が近いこともあり、前日の東京とはまたちょっと違って、アット・ホームで和やかな雰囲気の中、音楽をゆったりと楽しむことができたような気がします。
 コンサート後は主催者のお宅のお庭で、中秋の名月を眺めながら野外パーティーが行われました。松茸や霜降り和牛のバーベキューを、ロベールも大喜びで食べていました。(写真は宇部緑橋教会でのリサイタル)

■9月18日
 この日は福岡市で、昼間のコンサートでした。朝、新幹線で移動して、お昼のコンサートというのは、私にとってもなかなか大変なことなのですが、御年73才のロベールはこの日も元気いっぱいでした。
 この日も非常に暑い日で、会場内の気温はエアコンを使っても高くなって行くばかり。フルートは気温が上がるとピッチも上がりますが、チェンバロは、逆に下がって行く傾向があるため、気温が変わると、お互いのピッチがどんどん離れていってしまいます。曲ごとに精一杯フルートの管を抜いて、何とか調整しようとしたのですが、それぐらいでは全然足りず、休憩中になんと4Hzもチェンバロ全体のピッチを下げて調律し直してもらいました。でも、その分演奏も、会場の雰囲気も熱気のこもったものになったと思います。
 翌日朝から福岡音楽祭のリハーサルが東京であるため、私たちはコンサート後すぐに、飛行機で東京へと戻りました。この日は私の誕生日だったため、羽田空港の居酒屋風焼鳥屋さんでロベールが、ツアー終了とお誕生日のお祝いをしてくれました。
 
 この後、ロベールは2日間、東京でリハーサルをして、福岡にまた戻り、4日間の間に3つの違ったプログラムのコンサートと、9人のレッスンを行い、元気にベルギーへと戻っていきました。
 ヨーロッパの第一線で活躍している人達をみていつも思うのは、音楽家として成功するためには音楽的資質があることがもちろん第一ですが、健康的な肉体と体力もなければ、一流として生き残ってはいけないのだなということです。演奏家の仕事は、今の自分の中で最高の演奏を、お客さんに提供することだと思っています。いい演奏をするためには、いいコンディションの体が必要です。お客さんには、「長旅で疲れている」などといったいいわけは、通用しません。
 弱音をけっしてはかず、どのコンサートにも誠実に向き合っているロベールを見ていて、私も一生かけてこんな懐の深い、暖かな音楽家になりたいと思いました。まだまだ駆け出しで、失敗ばかりしていますが、心持ちだけでも、ロベールのような芸術家を目指したいものです。


第7回福岡古楽音楽祭でのロベール・コーネンさんの演奏

ベルギー、アルデンヌ地方の教会での2回目のCD録音

 2枚目のCD録音のため、ベルギーのアルデンヌ地方に録音に行って来ました。今回の録音は、チェンバロのローベール・コーネンさんとガンバの市瀬礼子さん、録音技師や録音会場、宿泊などのすべてが、3年前の「バッハとその同時代の人々」の録音と全く同じでしたので、気心も知れていて終始リラックスしたムードがただよう、大変楽しいものとなりました。(前回の録音の時の様子はこちら
 今年のヨーロッパは異常気象で、6月にも関わらず毎日からっとよく晴れた、30度を超えるほどの暑い日々が続きました。かなり深刻な水不足らしく、牧草地が茶色く枯れ気味だったのが気になりましたが、日本の夏と違って湿気が少ないため、教会の内部はいつでもひんやりしていて、過ごしやすかったです。ちょうど野生のブルーベリーやストロベリーの季節で、リハーサルの合間に森へブルーベリー摘みに出かけたりもしました。ちょっと小振りでしたが、甘酸っぱくて、手が真っ青になるまで摘んでしまいました。

ロベール・コーネンさんが奏でる最高の通奏低音に支えられて

 今回の録音で一番印象的だったのは、なんといってもロベールの暖かな人柄とやさしさについてです。前回同様、今回の録音もロベールの全面的な協力なしには、全く実現不可能でした。録音会場の手配、チェンバロの搬送や調律、会場や駅などへの車での送迎、彼の別荘への宿泊、3度の食事やおやつから夜食のワインとおつまみにいたるすべてを、ロベールが奥様とともに準備してくれました。
 私はロベールの通奏低音で演奏するとき、最高の自由を感じます。何を好き勝手やっても暖かく包み込んでくれる包容力と、行き過ぎたら私自身が気がつかないほど自然に軌道修正してくれるという信頼感があるからです。チェンバロの上手な人はたくさんいますが、通奏低音が上手な人はなかなかいません。それは通奏低音の演奏には、チェンバロの技術だけでなく、コミュニケーション能力の高さと「縁の下の力持ち」に喜びを感じる気質が必要だからです。
 ロベールは人と接することが大好きです。駅員やカフェの店員など初めて出会った人にも、気さくに話かけます。そして二人は楽しそうにおしゃべりをはじめます。また彼は、あたたかな家族や友人に囲まれながら「彼らのためにできること」をいつも考えています。「だって友達だったら当然でしょう?」というたった一言ですんでしまう彼の他人に対する無償の愛は、留学してきた日本人の世話から、自分のデュリュケンのオリジナル・チェンバロの貸し出しまで、とどまるところを知りません。彼の心遣いはけっして出しゃばらず、しかも的確です。必要な時に、必要なことを、必要な人に行う・・・なかなか出来ることではありません。そして彼の行動はあまりにも自然で、相手が好意に重荷を感じないための気遣いにもあふれています。

ショートケーキの上のさくらんぼ

 ロベールの演奏には、そんな彼のあたたかな心遣いがいっぱいです。録音終了後にロベールに「あなたと演奏すると、私はショートケーキの上の苺のようにあなたの演奏の上に乗っかっているだけですんじゃうの。だって私が一番美しく輝くおいしいケーキをあなたが作ってくれるから」といったら、「ベルギーではそういうのを、苺じゃなくて、ケーキの上のサクランボって言うんだよ」と教えてくれました。
 ロベールの目下のところの最大の野心は、別荘の近くの一軒しかないパン屋兼何でも屋のおばさんに「ムッシュ」ではなく親しみをこめて「ロベール」と呼んでもらうことです。「こういうことは無理矢理頼んでもだめなんだ。友達だと思ってもらえるように、ゆっくりと時間をかけて頼んでみるつもりなんだ。でも今年中には、ロベールと呼んでもらえるようになるからね」と実に楽しそうに決意の程を話してくれました。

幸せと躍動感あふれるCDをお届けします

 前回の録音では、初めてのソロ録音に緊張していましたし、まだまだ演奏する事に精一杯で、なかなか録音やアンサンブルを楽しむ余裕がありませんでした。でも3年の間に、BCJや他の様々なアンサンブルと一緒にコンサートや録音の経験を積んだことにより、前回と比べると今回は心にずいぶん余裕があったような気がします。
 録音では、一つの曲を何度も何度も繰り返し演奏するため、だんだん集中力がなくなって、コンサートのような躍動感が失われてしまうことがよくあります。でも今回は、3日間の録音の間、一つ一つの演奏すべてが、新鮮で楽しくて、ああいつまでもこうして吹いていたいと思いました。
 ベルギーの美しい自然と豊かな教会の響き、ロベール達との優雅で粋なおしゃべり、奥様のシンプルだけどセンスの効いた手料理の数々や飲み頃のワインに囲まれて、幸せと躍動感あふれる1枚のCDができあがるに違いない、と確信できる録音だったと思います。

追 記
 心配していた小鳥たちは、どうもお引っ越しをしてしまったようで、全然問題なくほっとしました。近所の犬が吠えて、録音が時々中断しましたが・・・

 レコーディングの後、ロベールから私の実家の方に次のようなメールが入ったそうです。
   The recording session was wonderful, everything worked 'a la perfection...' in Japanese style. We were lucky , because the wheather was very nice, at the present moment it's raining and raining all the time,.
   I prepare Fukuoka now, with much pleasure. Robert