過去のリサイタルの記録5
セカンドソロCD発売記念 2005

前田りり子/バロックフルートリサイタル
華麗なるロココの饗宴

2005年9月16日(金)19:00〜 東京 ハクジュホール
2005年9月17日(土)18:30〜 日本キリスト教団宇部緑橋教会
2005年9月18日(日)14:00〜 福岡市 九州キリスト教会館

フルート:前田りり子
チェンバロ:ロベール・コーネン
ヴィオラ・ダ・ガンバ:福沢 宏

プログラム(共通)
J.B.ボワモルティエ:
フルートとオブリガードチェンバロのためのソナタ ニ長調Op.91-1
M.ブラヴェ:ソナタ イ短調 Op2-6
J.M.ルクレール:ソナタ ト長調 Op9-7
J.P.ラモー:コンセール 第5番 ニ短調
M.ブラヴェ:ソナタ ロ短調 Op3-2
J.D.ブラウン:無伴奏組曲 ホ短調

 
東京公演チラシ(クリックすると拡大します)

9月18日、九州キリスト教会館での公演(クリックすると拡大します)
ロベール観察日記
・・・ 一流になるにはまず体を鍛えなくっちゃ!

■2005年9月13日
 ロベールが東京にやってきました。成田から成田エクスプレスの8号車に乗ると連絡があったので、新宿駅に迎えに行くと、なんと新宿着の成田エクスプレスは6両編成。駅員さんにきいたら、8号車は品川で切り離されて横浜に行くとのこと。これは大変なことになったとおろおろしていたら、向こうの方からにこにこ歩いてくるロベールの姿が・・・。2号車8番という指定席の読み方がわからず、8号車と勘違いしていたとのこと。無事に会えて本当にほっとしました。
 この日の日中の気温は34度。「熱帯の国に来たようだ。こんな暑い日本は初めてだ!」とちょっとばて気味に見えたロベール。ところが、リハーサル場兼宿泊先として使わせていただいたA氏のお宅につくないなや、スーツケースは玄関に置きっぱなしで、チェンバロのイスへと直行し、「さあ、リハーサルを始めよう!」というのです。びっくりして、「ちょっと休んでからにしましょう。お茶でもいかが?」と言ったのですが「僕がなんのために日本に来たと思うんだい?僕は君たちと演奏するために来たんだよ。さぁ、早くはじめようよ」というので、そのまま2時間みっちりリハーサルをしました。
 その後は、歓迎会を兼ねて小さなパーティーを行い、夜の10時まで楽しく飲んで、食べて、おしゃべりをしました。本当にタフなお爺さんです!

■9月14日
 初めて経験する日本の熱帯夜は相当堪えたらしく、あまり眠れなかったと言いつつも、いつもと変わらず元気なロベール。午前中は昔のお弟子さんと会っておしゃべり、午後から数時間私たちとリハーサルをして、夜は別の場所で、福岡古楽音楽祭のためのリハーサルを楽々とこなしていました。

■9月15日
 午前中は、一人で東急ハンズでお買い物。工具と木材が大好きなロベールは、日本の優秀な工具がそろっている東急ハンズが大のお気に入りで、日本に来ると必ず行くので、店員さんに顔を覚えられているそうです。工具に詳しくない私には、ヨーロッパのものと一体何が違うのか、さっぱりよく分からないのですが、メジャーや小刀、ハンマーなどを、自慢げに見せてくれました。ハンマーは近所の人へのおみやげだそうです。
 そして、午後はまた私たちとリハーサル、夜は音楽祭のリハーサル。

■9月16日
 この日は東京のハクジュホールでコンサートでした。ロベールは今回のリサイタルでヴィオラ・ダ・ガンバを弾いて下さった福沢宏さんとは初共演でしたが、3日間のリハーサルをへて3人の息もぴったり合うようになり、演奏者側としても、とても楽しいコンサートとなりました。特にラモーは、まるでサロンでの楽しい会話の様に、3人の気持ちがぴったりはまって、私としては最高の出来だった様な気がします。
 本番前、ロベールがずっと自分の控え室にこもりっきりで出てこないので、どうしたのかなとちょっと様子を見に行くと、名古屋場所の相撲中継を夢中で見ていました。「おもしろい?」と訊くと「すごくやせた力士が、でぶっちょの力士をあっという間になげちゃったよ。すごいよ!」と興奮気味に話してくれました。

■9月17日
 この日は山口県の宇部市でコンサートでした。前日は打ち上げ後、宿泊先に帰ったのは12時近かったはずですが、この日の待ち合わせは飛行機の都合で朝の8時。敬老の日の連休初日だったため、羽田空港は大混雑していました。出発の1時間以上も前に飛行場についたのですが、ガンバのための席をチェックインさせるのに手間取り、手荷物検査場も長蛇の列だったため、検査を受けられた時はもう出発時間直前になってしまいました。
 先に私が検査を受け、中で待っていたのですが、いつまでロベールが出てきません。のぞいてみると、靴もベルトも取らさせられ、荷物を開けて徹底的に調べられている様子。これはまずいと、福沢さんに先に行って飛行機を止めておいてもらい、なんとか飛行機に乗り込むことができました。検査に引っかかった原因は、ちいさな爪切りでした。最近の検査は本当に厳しいです。
 宇部のコンサートは100人程度の小さな教会で行いました。客席との距離が近いこともあり、前日の東京とはまたちょっと違って、アット・ホームで和やかな雰囲気の中、音楽をゆったりと楽しむことができたような気がします。
 コンサート後は主催者のお宅のお庭で、中秋の名月を眺めながら野外パーティーが行われました。松茸や霜降り和牛のバーベキューを、ロベールも大喜びで食べていました。(写真は宇部緑橋教会でのリサイタル)

■9月18日
 この日は福岡市で、昼間のコンサートでした。朝、新幹線で移動して、お昼のコンサートというのは、私にとってもなかなか大変なことなのですが、御年73才のロベールはこの日も元気いっぱいでした。
 この日も非常に暑い日で、会場内の気温はエアコンを使っても高くなって行くばかり。フルートは気温が上がるとピッチも上がりますが、チェンバロは、逆に下がって行く傾向があるため、気温が変わると、お互いのピッチがどんどん離れていってしまいます。曲ごとに精一杯フルートの管を抜いて、何とか調整しようとしたのですが、それぐらいでは全然足りず、休憩中になんと4Hzもチェンバロ全体のピッチを下げて調律し直してもらいました。でも、その分演奏も、会場の雰囲気も熱気のこもったものになったと思います。
 翌日朝から福岡音楽祭のリハーサルが東京であるため、私たちはコンサート後すぐに、飛行機で東京へと戻りました。この日は私の誕生日だったため、羽田空港の居酒屋風焼鳥屋さんでロベールが、ツアー終了とお誕生日のお祝いをしてくれました。
 
 この後、ロベールは2日間、東京でリハーサルをして、福岡にまた戻り、4日間の間に3つの違ったプログラムのコンサートと、9人のレッスンを行い、元気にベルギーへと戻っていきました。
 ヨーロッパの第一線で活躍している人達をみていつも思うのは、音楽家として成功するためには音楽的資質があることがもちろん第一ですが、健康的な肉体と体力もなければ、一流として生き残ってはいけないのだなということです。演奏家の仕事は、今の自分の中で最高の演奏を、お客さんに提供することだと思っています。いい演奏をするためには、いいコンディションの体が必要です。お客さんには、「長旅で疲れている」などといったいいわけは、通用しません。
 弱音をけっしてはかず、どのコンサートにも誠実に向き合っているロベールを見ていて、私も一生かけてこんな懐の深い、暖かな音楽家になりたいと思いました。まだまだ駆け出しで、失敗ばかりしていますが、心持ちだけでも、ロベールのような芸術家を目指したいものです。


第7回福岡古楽音楽祭でのロベール・コーネンさんの演奏