【レコード芸術特選盤】

J.M.オトテール フルート組曲集

 

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発売元:ムジカ・リリカ

販売元:キング・インターナショナル [CD] ML-001

 

演奏 フラウト・トラヴェルソ 前田 りり子

   ヴィオラ・ダ・ガンバ  市瀬 礼子

   チェンバロ ロベール・コーネン Robert Kohnen

 

2008年5月11日~13日 ベルギー、ブラ・シュール・リエンヌ教会での録音

レコーディング・エンジニア  リコー・イェンテマ Rico Yntema

レコーディング・ディレクター  濱瀬 祥

 

J.M.オトテール [ル・ロマン]

第1巻 組曲 第3番 ト長調 作品2-3

第1巻 組曲 第4番 ホ短調 作品2-4

第1巻 組曲 第1番 ニ長調 作品2-1

第2巻 組曲 第1番 ト短調 作品5-1

第1巻 無伴奏フルートのためのエコー 作品2

第2巻 組曲(ソナタ) 第4番 ロ短調 作品5-4

Total time 80'41"

「レコード芸術」2009年6月号 新譜月評 特選盤

皆川達夫●Tatsuo Minagawa

[ 推薦 ] 18世紀のフランスに、オトテールの名をもつ音楽家一族が活躍していた。その中で今回登場したのは、「ル・ロマン」のニックネームのジャック・マルタン・オトテール(1674~1763)である。木管楽器の名手として知られ、最初の横吹フルート教則本(1707年刊行)の著者でもあった。

 フラウト・トラヴェルソの前田りり子さんは、その「ル・ロマン」による1708年刊行の「曲集第1巻」(作品2)から3つの〈組曲〉と〈無伴奏エコー〉、1715年刊行の「曲集第2巻」(作品5)から〈組曲〉2曲を選び出して、意欲はふれる演奏を披露されている。使用するのは、オトテール一族作製と思われる3分割フルートをモデルにした復元楽器。

 のっけから溌剌とした音たちを鳴り響かせ、強靱な意志を秘めつつ、一貫してつよい流れで前へ前へと押してゆく。"踊り心"と言ってよいだろうか。〈アルマンド〉やら〈ガヴォット〉など、それぞれの舞曲特有のリズム感を的確に生かして、颯爽かつ自在きわまる音楽づくりである。早めの楽曲の出来がよく、〈無伴奏エコー〉における対比も見事なもの。

 その前田さんを支える市瀬礼子さんのヴィオラ・ダ・ガンバ、とくに名手ロベール・コーネンのクラヴサンの動きも注目される。コーネンが弾く17世紀中頃作製の楽器の響きも冴え、3人の思いが完全に合致した公演によって、ヴェルサイユ期の音楽作品が生命感ゆたかに流れ出してくる。

 前田さんご自身執筆の解説も一読にあたいする。もしそれ以上に注文めいたことを書き添えるとしたら、あまりにも真つ直すぎる前田さんの演奏に、自分を一旦はなれて外から見つめる視線が望ましかったという点であろう。

 

美山良夫●Yoshio Miyama

[ 推薦 ] 楽器制作。作曲、演奏、教育など多面的に活躍したオトテール一族のなかで、ル・ロマンという渾名を付け加えて呼ばていたジャック・マルタン・オトテール(1674~1763)。長生きした彼が、最も精力的に曲集や教則本を出版していたのは1710年前後であり、その時期のフルートと通奏低音のための組曲が5曲選ばれている。

 ロンドンの市瀬礼子、ベルギーのロベール・コーネンという強力なコンティヌオに支えられ、音楽的な求心力を持った演奏だ。自在なアンサンブルの戯れや即興に傾斜するのではなく、ギャラントな表現をことさら演奏で表現しようとするものでもなく、オトテールの音楽を端正に再現しようと努め、それに成功している。とりわけテクニック面の安定が要求される低音部でのこまかな動きなど、細部も念入りに仕上げられた真摯な演奏であり、その魅力は格別だ。全体としても凜とした雰囲気がはりつめた美しい音楽に満ちている。組曲の他、一本の笛でエコーの効果を楽しませる〈無伴奏フルートのためのエコー〉も収録。

 演奏者みずから執筆した聡明で明解な解説は、オトテールへの的確な案内であるとともに、ひとつの録音にかけた思いを素直に伝えている。

 

神崎一雄●Kazuo Kanzaki

[ 録音評] わりとオンで演奏に迫った収録のイメージだが、石造りの壁面が多い空間だろうか、響きの豊かな空間での演奏を思わせる長めの残響がオン収録の生々しさ一方でないアンサンブル・サウンドを眼前に展開させている。豊かな響きは艶やかさと古楽器らしい柔らかさをも演出して、定位は中央集中的だが、独自の快さを醸し出している。ベルギー、ブラ・シュール・リエンの教会で濱瀬 祥による2008年6月の収録。(90~93点)

 

 

古楽情報誌「アントレ」2009年6月号 CDの玉手箱 No.75 新譜試聴記

 

神倉 健

J.M.オトテール:フルート組曲集  前田りり子(Fl) 市瀬礼子(Vg)  R.コーネン(Cm) ムジカ・リリカML-001

・・・ 前田りり子という音楽家の長所と特質を、余すところなく汲み尽くした彼女の最高傑作であると同時に、聴けば聴くほどに味の出る滋味深いディスク

 

 前号で紹介した川原千真の例を出すまでもなく、我が国には弦楽器の名奏者が多い。一方、管楽器の世界に目を転じると、こと古楽界に関して言えば弦楽器ほど豊富な人材に恵まれているとは言い難いのではないだろうか。今回登場する前田りり子は、そうした中で数少ない名手の一人と言えよう。N響で活躍した小出信也にモダン・フルートを学び、その後、有田正広、B.クイケン、W.ハーツェルツェットといった名だたる先達にトラヴェルソの薫陶を受けた。その間、国内外の古楽コンクールで最高位を獲得し、ソロ及び室内楽のコンサートを積極的に開催している。

 のみならずフルートとその音楽に関する造形も深く、数年に亘って雑誌に連載した原稿をまとめ、2006年フルートとそのレパートリーの歴史を解り易く説いた大部な著書も上梓した。そんな彼女がフルートとその音楽の歴史を、巧みな解説を交えて披露する演奏会シリーズも好評だ。文才にも長け、先月号の「ぱうぜ」のコーナーでその一端に触れた読者諸兄も少なくないだろう(前田の見識と筆達者ぶりは、本盤に添えられた自身のライナー・ノートにも示されている)。

 そこに語られる「天国にいるよう」な雰囲気の中で録音が進められたと、という彼女の3枚目のソロ・アルバムが、このディスクである。収録されているのは前田自身が、とりわけ私淑するJ.M.オトテールの作品だ。言うまでもなく、この作曲家の一族は現代まで続く近代フルートの原形を造り上げた楽器製作家であり、フルートという楽器をそれまでの素朴な横笛から芸術音楽に相応しい表現の器へと変貌させた功労者である。それだけに、その作品は楽器(特に17世紀から18世紀への変わり目にフランスで大流行した、いわゆる「オトテール・フルート」)の特性と密接に結びついており、その長所を最大限に活かすべく書かれている。つまり、クープランやラモーのクラヴサン作品をピアノで演奏することが困難なように、オトテールの音楽を現代のフルートで説得力をもって提示することは至難の業なのだ。このことは裏を返せばトラヴェルソの、それも独特な響きと構造を備えたオトテール式の楽器の個性的な美点を最も理想的な形で堪能できるのが、これらの作品だということになる。本盤に収められたのは1708年出版の第1巻(作品2)から3曲、1715年の第2巻(作品5)から2曲、それに第1巻の巻末に掲載された無伴奏小品を加えた6曲で、オトテールの作品の中でも殊に前田が気に入っている曲をカップリングした、という。

 これまで彼女はバッハを中心としたドイツもの、フルートの黄金時代を築いたロココ趣味によるフランスもの、と2枚のアルバムをリリースしてきた。しかし、この度のオトテールは、それら2枚を凌駕する出色の出来といっていいだろう。まろやかな陰影に富むトラヴェルソの低音の魅力を活かし、仄かな哀愁を帯びた楚々とした音楽に、彼女は殊のほか優れた適性を示す奏者であり(自身も、そうした作品に最も親近感を覚える、と語っている)、この時代のフランス舞曲がもつ独特なビート感、フレーズや音形の微妙なニュアンスなど、理屈では割り切れないファジーな味わいを実に適切に描き出して見事である。

 また、後の時代の音楽に顕著となるメカニカルな技巧が抑えられ、シンプルな音の連なりで織り上げられたこうした作品では、チェンバロによるリアリゼーションが必然的に重要な役割を担うことになる。共演者のコーネンも前田同様、この種の作品を最も特異とする演奏家であり、それ故これまた前作に優る名サポートぶりが聴かれるのは言うまでもあるまい。前田りり子という音楽家の長所と特質を、余すところなく汲み尽くした彼女の最高傑作であると同時に、聴けば聴くほどに味の出る滋味深いディスクである。

(「アントレ」誌の了解を得て、全文引用)

前田りり子の注釈

 昨年6月にベルギーでチェン バロのロベール・コーネン氏とガンバの市瀬礼子さんとともに行った録音です。前回までと同様アルケミスタ・レコードからリリースの予定でしたが、なんと録音を終えて帰国したらアルケミスタが廃業しており、CDをリリースする場所がなくなっていました。さあ大変とそれから二転三転いろいろありましたが、結局ムジカ・リリカという自主レーベルを立ち上げることになりました。販売は引き続きキング・インターナショナルが行ってくれます。ついでに絶版となっていた1枚目のソロCD「J.S.バッハと同時代の作曲家達によるフルート音楽」もこのレーベルで再盤することになりました。 このホームページからも直接購入することができます。(下は、新しく立ち上げたムジカ・リリカのロゴマークです。ごひいきに)

  今回の録音は前回までと同様、ロベール氏の素敵な別荘に滞在しながら、響きのよい小さな田舎の教会で行いました。今までと違うのは、a'≒390Hzの低いピッチのフルートと、修復が完成したばかりの17世紀のオリジナルチェンバロを使用したことです。1枚目の録音をした2003年の少し前にロベールがフ ランスの田舎で眠っていたのをみつけ、手に入れたチェンバロで、その時のすごい楽器が見つかったんだとロベール氏が興奮していたのを私もよく覚えています。修復が終わったらぜひ一緒にオトテールを録音をしようと言ってはや5年。外側の絵は間に合いませんでしたが、今回の録音の直前にようやく修復が終わり、この録音がこのオリジナルチェンバロのお披露目となります。輝かしいながらも品があるすばらしい楽器ですので是非聞いてみてください。フルートも今回の録音の為に杉原広一さんと有田正広先生が共同でオトテールタイプの楽器を作ってくださいました。a'≒415Hzの楽器にはない、太く豊かで憂いを帯びた音色をお楽しみいただけると思います。(下は録音で使った杉原/有田製作オトテールタイプのフルート)