モノセントリック・アイピースについて
最近、モノセントリックが見直されていますが、モノセントリック・アイピースはなじみの薄いアイ
ピースかもしれません。これまで調べたことを簡単に纏めてみました。
モノセントリックとは、mono-centricという言葉の意味からして同心曲率の3つのレンズの貼合わ
せですが、トリプレットもモノセントリックという商品名で出ているのでややこしいと思われます。
(1)モノセントリック・アイピースの分類
  モノセントリック・アイピースの分類を下記の図に示します。(分類図のトリプレットの
 Zeiss系、Steinhil系の絵はあくまで参考です。)


(補足)http://www.panix.com/~zone/photo/czlens.htmより
    ABBE-RUDOLPH APOCHROMATIC TRIPLET(1890 E.Abbe & P.Rudolph zeiss)
    A lens consisting of a thick cemented triplet between two symmetrical
    periscopic lens. While well corrected for axial distortion, it suffered
    from severe astigmatism, and never sold.
    (*)Periscopic lens: Two simple meniscus lenses arraned symmetrically on
      either side of the aperture stop, providing reduced coma,lateral color
     and distortion.
    →ABBE-RUDOLPH APOCHROMATIC TRIPLETは写真レンズとしては世に出なかったが、
     Zeiss monocentric eyepieceの原型となったようです。
(余談1)アッベ、シュタインハイル、ルドルフ*
   「コンタックスとツァイス・イコンの肖像」という本を見ていたら、上記三者について
   「写真レンズ事業を始めようとしたアッベは、レンズ設計は自分でやり実際の作業は
    シュタインハイルに頼む予定だったが、シュタインハイルが断って来たので自分の
    助手のパウル・ルドルフに計算をやらせることにした」ということが書いてありました。
   *パウル・ルドルフは、プラナー、ウナー、テッサー等の写真レンズの設計者として有名。

2003年5月25日の雑記帳に
惑星観測用として狭視野色消し接眼レンズにシュタインハイルの作ったモノセントリックがあります
 が、その構造を調べてみるとレンズの肉厚が非常に厚い奇妙な形をしています。シュタインハイルの
 3枚合わせのトリプレットとは全然違った形です。モノセントリックのもともとの意味は同心曲率の
 レンズのはり合わせです。これは、小森幸正著の天体望遠鏡ガイドブックによれば、見かけ視界は狭
 いがゴーストがなく映像が鮮明だということです。また、旧東独ツアイスの6cm屈折の特別注文アク
 セサリーとして用意されていたそうです。」
ということを書きましたが、この時はZeiss monocentricは本来のモノセントリックと思っていました
(天体望遠鏡ガイドブックの書き方だとそう理解するような文章なので)。
ところがZeissもトリプレットのようです。Zeissの戦前のアイピースカタログを見たことがありますが
当時のZeiss monocentricのレンズ構成はやはりトリプレットでした。INTES-MICROもTMBのSuper
monocentricもトリプレットですね。肉厚の本来のモノセントリックは、奇妙な形ですがこの形に
よりゴーストが発生しないそうです。

 ゴーストについてはZeiss monocentricもわずかですが発生します。TMBのSuper monocentric
はゴーストが発生しないと設計者は云っていますが、コーティングがいいのでしょう。コーティ
ング技術の進歩が肉厚のタイプのモノセントリックを必要としなくなったとも考えられます。
その意味では、肉厚の形式のモノセントリックは、入手できれば光学技術の歴史的証人として非常に貴重
なものになるでしょう。

<参考>トリプレットタイプのモノセントリックでゴーストが発生する理由

<Zeiss monocentricについて>
現在、私が持っているモノセントリックを紹介します。

↑(Carl Zeiss)JENA Mon. Okular f=10mm
  最近、モノセントリックが見直されていますが、これはその元祖のようなものです。
  約40〜50年前のもの。(ドイツのAPM-telescopesのsecond-hand shopから購入)
  (残念ながら肉厚の本来のモノセントリックではありませんでした。)

<Zeiss monocentricのゴーストの程度>
火星像を視野の中心からずらすと中央付近に軽いゴーストが発生。星の場合はゴーストは見えない。


<APQとモノセントリックの組合せ>
APQ対物レンズは3枚のレンズがオイル充填されているため空気境界面は2面です。
従ってAPQとmonocentricを組合せると空気境界面4面という最少空気境界面の望遠鏡になります。
(実際は、天頂プリズムやバーローが間に入ることになりますが)
実にシンプルな構成となります。ケプラーの望遠鏡(対物、接眼ともに凸レンズ)を色消しにしたもの。

    
 ↑APQとモノセントリックの組合せ:コントラストに期待したいところです。
 <Zeiss monocentricの印象>
  ・コントラストが良く淡い対象に向いています。ゴーストは火星で少しありましたが、星については
   リゲルを見ても全くありませんでした。木星の場合、ゴーストは火星の時よりも淡く殆ど気になら
   ない程度でした。オルソスコピックとの比較では、A-4mmと比べた場合、月などモノセントリック
   の方がコントラストが良く背景も暗い印象でした(モノセントリック10mm+2倍バーローとA-4mm
   という近い倍率で比較した場合)。Zeiss monocentricが40〜50年前の製品であるのに対し、
   A-4mmは最新の光学ガラス(高屈折ランタンガラス)とコーティング技術で作られていることを
   考えるとモノセントリック侮り難しというのが実感です。

(余談2)いろいろ調べた中で参考となる本や面白い表現を紹介します。
(1)A closer look at High magnificationsより
    My best oculars have only two or four air/glass surfaces. Even today the now
    discontinued(and much lamented)Zeiss monocentric is still the "sine'qua non"
    of luner and planetary oculars,but top quality four element-four air/glass
    surface oculars such as the Plossl or Abbe orthoscopics are excellent substitues
    when maximum contrast and definition are required.
   ここで、"sine'qua non"とは、必須条件というラテン語起源の言葉です。
(2)Gerald North 著「Observing the Moon (The modern astronomer's guide)」Cambridgeより
   The best type of eyepiece for lunar and planetary observation,the Monocentric ,seems
   to be incredibly rare these days. This cemented triplet gives crisp and false-colour-free
   images even with f/5 telescopes,the disadvantage being a smallish field of view.
   I wish they were still available.
(3)小森幸正著「天体望遠鏡ガイドブック」昭和40年 誠文堂新光社
   日本語の本としてはモノセントリックの説明が詳しい。
(4)木辺成麿著「天体望遠鏡の作り方と観測法」昭和11年 誠文堂新光社
   アイピースの説明図にモノセントリックが載っていますが、シュタインハイルのトリプレットです。
   説明は、視野が狭いとしか書いてありません。

以上いろいろモノセントリックについて書きましたが、調べてみると興味のある話しが出て来て奥が
深いです。(モノセントリックが写真レンズの研究に端を発している等)
(余談)
コーティング技術のなかった時代、究極の単レンズ接眼鏡にTOLLESがあり、英国の惑星観測家の中には
今でも使っている人がいるとか、英国らしい話です。→TOLLESについてのレポート参照。