自然派の逆襲 その6  にしかたゆうじ 2005/08/11

 先日の静岡駅近くのおいしいレストランで開催した自然派ワインセミナーが、我ながらいい感じで、自然派ワインの実力に新たなる驚きを覚えたりした。白ワインは、シャブリの自然派、アリス・エ・オリビエ・ド・ムールの2003年を4種類ほど飲み比べ、その個性に迫ってみた。その模様はどこから譲るとして、同時に飲んだ赤ワインについて少しばかり触れてみたい。

 今回の驚きは、何と言ってもジュブレ・シャンベルタンのビオディナミスト ドメーヌ・トラペの特級シャンベルタンとジュブレ・シャンベルタンだ。トラペは1998年からビオディナミ(ルドルフ・シュタイナーとは違い理論を尊重しているが・・・)で、醸造段階においては、微生物を尊重し、パストゥグランで亜硫酸無添加ワインを造っているが、基本的には少量だけ亜硫酸は使用している造り手である。

 もちろん比較すると、特級シャンベルタンのほうが、その酒質もミネラルも厚みもうまみも余韻も、全てにわたって格段の違いを見せ付けてくるのだが、個人的には村名ジュブレ・シャンベルタンの優しい味わいが、なんとも心に響いてくるのだった。最近流行のジュブレ・シャンベルタンにありがちな過度の樽香はなく、色合いもピノノワール的にもミニマム系の薄い色合いで、お味は、薄口カツオ系一番出汁。

 薄くて、うまくて、酸っぱくなく、喉越しがきれいで、余韻が長い

 大地のミネラルが、ピュアな果実味とともに、表現され、それこそ大地の静かな唄が聞こえてくるようであった。この唄の、都会の騒音にかき消されがちな小鳥のさえずりのような儚い音が、グラスの中から聞こえてくると、なんとも幸せなのである。すばらしい。トラペはこの音を表現したくて、ビオディナミに行き着いたのだろう。この繊細な味わいは、釜で炊いた御飯のおこげを、お出汁のお茶付けで味わう時のような感覚にも似て、微かな香ばしさも加わって、なんとも上品なのであった。

 自然派というと、とかく臭い系のワインを想像しがちだが、トラペの2002ジュブレ・シャンベルタンのように、きっちりと適量の亜硫酸を用いて造られるのなら、かくも素朴なワインが出来上がるのだから、自然の力はすばらしく、ますます虜になっていくのであった。奇跡の大地ブルゴーニュにおいて、自然派ワインが成功すると、多分泣きながら笑うワインがたくさん出来るような気もしつつ、とりあえずそのうれしさを文章にしてみたのだった。


おしまい


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