自然派ワインの自然って  にしかたゆうじ 2006/08/09
 最近、自然派ワインという言い方に、少し違和感を覚えている。自然派ワインとは、vin natureの訳語として認識しているが、その定義は意外にあいまいで、しかしそれは商業ベースにはきっちり乗れそうで、ワイン販売の営業とトークに結びつきやすく、ここは一度、再確認しておきたいと思う。

 一般的に自然派ワインとは、有機農法によって栽培された葡萄を亜硫酸を極力使わずに醸造されたワインを指すが、有機農法にも、コスモクルチュールやビオディナミ、ビオロジー、リュット・レゾネ(必要最小限の減農薬農法)、オーガニック、自称有機農法などがいろいろあり、その差はわかりやすいとはいえないようだ。認証制度もあるがその認証を取るか否かは生産者の意思にゆだねられているようである。また、自然派ワインを特徴付ける亜硫酸の添加にもその量的な定義はなく、極力とか最小限に、あるいは必要なときに、という表現でもって、表示されているようである。また農薬であるところのボルドー液の使用が許可されていることなど、不思議な項目もあるからややこしい。いったい、どこからどこまでを自然派ワインと呼ぶかは、見識の深さを伴いつつ、人によってその見解も異なり、それはつまり自然派ワインをわかりにくくしているように思えてならない。栽培系自然派や醸造系自然派、商業的自然派など、いろいろな立場の自然派ワインがあるから、ややこしいのだ。

 そもそもワイン醸造用の葡萄は、天然に植わっているものではなく、農業によって作られる。その農業は、見方を変えれば自然破壊(少し大げさな表現かも)に通じており、日本語で言うところの自然とは大きく乖離している作業だ。油断すると、自然または自然との共存のようなイメージにもなりやすいが農業は、よくよく考えても、限りなく人為的な作業なのだ。

 ところで、日本語に言う自然とは、二つの意味があることで知られている。ひとつは大自然や天然をイメージする言葉で、もうひとつは、自然な振る舞いのようなイメージ。いわゆる自然派ワインは、前者の天然というイメージでもって語られることが多いが、実は後者のほうの意味合いのほうが強いのではなかろうか個人的に思うようになってきた。

 「あの駅に用事があると、自然に、あのお饅頭屋さんにもいっちゃうんだよね」

 「うまみ調味料が苦手で、自然と、それを多用する店は敬遠しちゃうんだよね」

 いわゆる自然派ワインと形容されるワインは、工業生産的ではなく、農民が造るワインのこと。彼らは、ワイン作りが大好きで、彼らのワインはとてもおいしい(ものが多い)。彼らは、あくまで農民であり、造られるワインは農作物の延長線に必ずあるものだ。ワインは葡萄と酵母さえあれば、天然にワイン作りが開始されるが、それが嗜好しうるかは別の問題になる。自分が造った分を自分だけが飲む分には何の問題もないが、製品としてリリースする以上、品質管理は絶対的に必要で、そこには人間の管理が必要となってくる。そのキーワードが抗菌作用・抗酸化作用に効果をもたらす亜硫酸ということになるかもしれない。天然に造られたワインではなく、ワインにできるだけ加工を施したくないという造り手の意思が自然に反映されるワインを自然派ワインと呼ぶならば、ずいぶんとその名のイメージが通りやすくなってくる。


 硫黄(=亜硫酸)が体に合わないので、自然とそれを回避しながらワインを造る。

 農薬が嫌いなので、自然とそれを使わない農業を実践している。

 ルドルフ・シュタイナーの理論に賛同するので、自然とビオディナミ農法を実践する。

 ビオディナミには一部で受け入れ難い要素もあるので、自分なりの有機農法を自然と実践している。

 畑と蔵の微生物層を尊重しているので、自然と亜硫酸を回避している。


 ワインを造るとき、畑や蔵の微生物層を尊重し、そのために亜硫酸をできるだけ使わずに、人工的な要素を極力排除した自然なワインを、自然に造っていく。そう、それこそがvin natureなのではなかろうか。自然派ワインではなく、「自然にワイン」。そんなことを思いつつ、このテーマは少し掘り下げてみようかと思ったりする。

 ちなみにフランス語では、café natureは、ブラックコーヒーを意味し、thé natureは(ミルクなど)何も加えない紅茶を意味しているので、(クラウン仏和辞典参照)、vin natureは、加工の少ないワインと訳すことができるかもしれない。いずれにしても定義のあいまいさは脇に置くとして、いわゆる自然派ワインというのは、派手さやインパクトの強さはないものの、しみじみうまいから、今後も付き合って生きたいと思うのだった。


おしまい


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